[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

聖杖を持つ者 ―第7幕― 第50章

 男が、この街に着いた時、街では盗賊達が暴れていた・・・。

「この女、俺達を誰だと思ってんだぁ・・・?」
「も、申し訳ございません・・・。」
「あぁぁ、謝ってますぜ、・・この女・・・。」
「一度、失敗を犯した人間はなぁ、もう、・・・許されネェのよ!」
「俺らがなぁ、歩いてる時はよぉ、邪魔しねぇように、道の隅っこで待ってんだよ、指でもくわえてよぉ!」
「さぁ、どうやって、お詫びしてもらうかなぁ・・・。」
「いっそのこと、殺しちまいます?このあばずれ。」
「ど、どうか・・・お許しください。」
「あぁぁ、怒らすなよ、俺らをよぉ・・・。」
「もういい、大人しく殺されちまえ!」
 女は、その時とっさに、ナイフに手をかけていた!
「おい、・・・まさかたぁ思うが、・・・この俺らに、抵抗でもしようって気かぁ?」

「お、おい・・・マズいんじゃないか、これ・・・。」
「は、はやく、戦士様達を呼んでこねぇと、やられちまうぞ!」
「いらないことはすまい・・・。そんなことしたら・・・私達まで、やられちまう・・・。」
「早く来てくだされ!戦士様達!」

「けっ、だいたい、いけすかねぇんだよ、さっきから顔隠しやがってよぉ・・・。ほらぁ、この布切れ、どけやがれよ!」

 盗賊が女に触れようとした瞬間、背後からその男は現れた。




「―――カスがこうも揃って、何を道の真ん中でやってんだ?」


「だ、誰だ?貴様!」
 男は、一瞬で数人の盗賊を殴り倒し、女の元へ割って入った。
「ケガ・・・ネェだろうな?」
「あ、ありがとうございます。」
「殺っちまえ、こいつを!!」
「死ねぁっっ!」
 盗賊らは、剣を抜き、その男に斬りかかりに来た!

「ここか?!・・・盗賊どもが騒いでるのは!」
 戦士団の人間が十数人、その現場へとやってきた。街の警備で巡回していた者達だった。
「くっ、・・・腕をはなしやがれっ!」
「こ、この野郎っ!」
 男は、たった一人で盗賊達の攻撃を受けていた。だが、戦士団は、横から傍観していた。
「武器も持ってねぇ野郎に、何ができんだ?!バカか、テメェ!ぶっちめちまえ!」
「たしかに・・・辛ぇかなぁ・・・。」
 男は、盗賊の攻撃を受けつつ、その者を殴り飛ばしていたが、数の面で不利だった。
「これじゃあラチがあかねぇ!誰か、俺に、剣を・・・剣を貸してくれねぇかぁっ!」
 男は、盗賊の攻撃を必死に腕で止めながら、周りの人間に叫んだ!
「け、剣・・・そんなもんあったって、この数じゃ、かなわねぇよ!」
「戦士様方がいる!ここは、一度ひくんだ!」
「おうおう、無能な奴ぁさっさと消えな。街の野郎共にまでバカにされてんじゃねぇかよ。戦士どもが来たってんなら、俺らは、さっさと退散しなけりゃ、ならんからなぁ!」 
「ちぃ、・・・剣さえありゃあ、・・・テメェらなんか、ぶっちめてやんのによ!」
「んだとぉ、貴様ぁ!せっかく、テメェのちっこい命ひろってやってんのによぉ!」



「隊長、行きましょう。奴等を、捕らえます!」
「これ以上、眺めていても、仕方がありません!」

「―――おい、お前。」

 一瞬で、ざわついていた戦士の面々はその声で、静かになった。

「・・・なんだ、俺か?」
「剣が、欲しいんだったな?」
「・・・ああ。どんな剣でもいいからよ・・・。こっちに投げてくれぇ・・・。」

「―――受け取れ。」
 その男は、鞘から一本の細身の剣を抜き、男に投げた。

「・・・ありがてぇ。」

 男は、一瞬、力を抜いた瞬間、支えていた盗賊達の足元にもぐりこみ、横へ飛び退く。
「そいつを、殺っちまえ!」
「ムダなあがき、してんじゃねぇよ!!」

 男は、・・・剣を手にした。

「―――女、・・・下がってろ。」



 その男の前にいた2人の盗賊には、もはや、その瞬間に何が起こったのかすら分からなかった。いや、普通の人間では、分からなかっただろう。
「な、何?!」
「へぇ、この剣・・・。」
 次の瞬間、3人が、斬り裂かれた!
「―――おもしれぇじゃねぇかよ。」
「つ、強すぎる・・・こ・・・こいつ・・・。」
「き・・・気をつけ・・・てくだせ・・・ぇ・・・。」
「な、なんて男だ・・・。剣を手にした瞬間・・・」
「メチャクチャ強ぇ!」
「なんだ、さっき俺を、・・・どうするって言ってやがった、テメェらよぉ。」
「くそぉ、いい気になってんじゃネェぞ、貴様ぁ!」
「ぶっちめてくれらぁ!!」
「久っしぶりに、暴れてみるか。」
「死ねぇぇっ!」
 男が剣をふるった次の瞬間、盗賊2人は、後方に吹き飛ばされた!
「ぐはぁぁっ、な、なんだぁ・・・こいつ!」
「―――この剣、・・・こんな細ぇのに、・・・俺の思うままに斬れる・・・。重さ、切れ味、まるで・・・手に吸い付くみてぇに、なじみやがる・・・。」
「このままでひきさがれるかぁぁっ!」

「おい、お前ら・・・もう、いい。―――俺が、殺る。」

「・・・首領?!」
 盗賊の頭が前へと出てきた。鞘から剣を抜いた瞬間、辺りにどよめきが起こった。
「お、・・・おい・・・あ、あれ・・・。」
「あの、剣についてる紋章・・・あいつ、・・・山の人間!」
「隊長!・・・彼奴の剣・・・あ、あれは!!」
「そんな細ぇ剣じゃ、・・・俺の剣技は、受けきれねぇな・・・。」
 盗賊の頭は、男をぶった斬る!男から大量の血が飛び散る!
「う、うわぁぁ、な、なんて・・・攻撃・・。」
「―――真空の刃・・・って奴か。・・・うざってぇな。」
「あぁ、だが、次で、・・・貴様は、切り刻まれるのよ、俺の技でなぁぁっ!!」
 盗賊の刀が、猛烈な竜巻を帯びながら、男にふりかざされる!

「―――終わったな。」

「・・・んな、バカな・・・。」

 男は、盗賊の首領の攻撃が出るまでもなく、決着をつけていた。






「よし、・・・捕らえろ。」
 戦士団は、その言葉を聞いた瞬間に、倒れていた者も含め、盗賊をすべて縛り上げた。
「さぁ、堪忍してもらおうかぁっ!!」
 盗賊達は、あっけなくすぐに捕われた。
「しばらく、牢につないでおくんだ。」

 街の人間の注目は、その男に集まった。
「・・・あ、あの・・・本当に、ありがとうございました。」
「礼なら、ここの、戦士って奴らに言うんだな。・・・ところでよ、よく、俺みてぇな、見ず知らずの流れもんに、こんな剣、よこしたな。」
「お前は、剣を持ってなかった。貸せというから、渡した。何か、問題があるか?」
「ねぇな。・・・ありがとよ。だが、こいつは返す。俺のじゃねぇ・・・、こいつは、あんたの―――ホールフィアガルドさんの、剣だろ?」
「・・・我が名を知るのか?」
「俺はあんたを探して歩いててなぁ。まさか、こんな所で会えるとは思ってなかったぜ。」
「その剣は、お前にとって、扱いやすいものであったか?」
「・・・こんな細身の剣にしちゃあ、よく出来た剣だと思うぜ。思うがままに斬れる。振った瞬間に、俺の体の一部になったみてぇになんだ。―――なんて名の剣だ?」
 ホールフィアガルドは、その場から立ち去り始めていたが、歩きながら質問に答えた。
「名か・・・。この剣を鍛えた者は、ただ、『漣』と名づけた。・・・その剣は、お前に預けておこう。我が名は、ホールフィアガルド。この国の戦士団の長を務める。」

 ホールフィアガルドらの姿は、消えていった。
「『漣』か・・・。」
 男は、『漣』を鞘へしまい、その場から立ち去ろうとした。
「お、お待ちください・・・。こ、これから、どちらへ?」
「さぁな。少し、外を出歩いてみてもいいだろうし、そのままどっか行っちまうのもいいかもしんねぇな・・・。」
「・・・もう、旅立たれるのですか?!」
 そう呼びかけた女と振り返った男の視線が一瞬だったが合った・・・。
「・・・決めるのは、・・・俺だ。」 
「せ、せめて・・・あなたの、・・・名を・・・!!」

「―――ザヌレコフ。」



 その日の夕方から、この地方には大雨が降り注いでいた。街を歩く者はいなくなり、また、早いうちからショップは店じまいとなった。日が沈み、夜になろうとも、雨の勢いがとどまることはなかった。
 男は、辺りがすっかり闇に包まれた頃、この街の中でも、ひときわ大きな宿屋を訪れた。
「ようこそ、おいでくださいました!!」
「こんな雨の中、夜遅くまで、お疲れ様です・・・。」
「・・・お客様は、3階へ―――」 
 男は、覚えていた。そして、女もまた、忘れるはずもなかった。
「あ、あなたは、ザヌレコフ様!!・・・どうして?」
「・・・言っただろ?俺は、・・・ホールフィアガルドを探して旅してんだ。まさか、こんなとこにいるたぁ、思ってなかったがな・・・。―――この雨だ、・・・外で寝るわけにはいかねぇからな・・・。」
「と、とにかく・・・3階です。・・・ご、ご案内しますわ。」
 女は、ザヌレコフを部屋へと案内した。
「・・・まさか、再び、こうしてお話できるとは、思ってもおりませんでした。まだ、・・・とても、お礼を言い尽くせていません。本当にありがとうございました。」 
「・・・お、おう。・・・ま、まぁ、そんぐらいでいいからよ。」
「そ、その・・・あ、お、お服が、こんなに濡れてしまって!!早く着替えなさってください!!風邪をひいてしまわれます!!」
「あ・・・ああ、そうだな。」
「―――す、すみません。・・部屋にいては、お着替えも何も・・・。今、出ます!!」
「おい・・・。」
「は、はい・・・、な、何か、お呼びしましたか?」
「・・・その、・・・なんて、・・・名だ?」

「わ、私でございますか?・・・私は、ケーナ。ケーナと申します。」

「そうか、・・・ケーナって名か。」
「そ、それでは・・・し、失礼します!!」
 ケーナは、かなり慌てて戸を閉め、階下へと下りていった。それから、ザヌレコフは部屋の中に何かが転がっているのを見た。
「―――落としてったみてぇだな・・・。」



「それじゃあケーナちゃん?!・・・まさか、あの男の人がうわさの?」
「・・・は、はい。」
「どう思う?・・・私は、あんまり、趣味じゃあないんだけど・・・。」
「ちょっとね、・・・もう、お兄さんって感じとは違ったしねぇ。」
「ケーナ・・・、あ、あなた・・・本当に・・顔、赤いわよ。」
「ルミナさん!!そ、そんなことありません!!!」
「あなたねぇ・・・、助けてもらっただけで、好きになっちゃうのは勝手だけどね、・・・あの男、―――流浪者でしょ?・・・ヤメといた方がいいって。」
「ほらほら、お前たち・・・雑談が過ぎてるぞ。・・・お客を待たすんじゃない。」
「あ、はい!!・・・た、大変お待たせしました。―――あ、はい、お2階へどうぞ!!・・・で、それで?!・・・どうなのよ?!ホントのところ!!」
「・・・まったく、・・ご案内そっちのけか?!―――お、お客様、こちらへどうぞ。」
「でもね、流浪者なんかと付き合ってもろくなことないわよ?!そうよね、ヘレナさん?」
「リリア!!嫌なこと思い出させないで!!」
「確か、この前の武術大会で3回戦あたりまで勝ち残ってた奴で、『私、もう、この人じゃないと、ダメ!!』とか言って、いきなり告ってさ、気付いた時にはいなくなって。」
「だから、言わないでよ!!」
「その程度の奴なんだって。どうせどっか行っちゃう奴なんか、ほっときなさいよ!!」
「・・・。」
「リリア、ちょっと言いすぎよ。・・・ケーナ、本気で落ち込んでるわよ。」
「いいの、これでね!!」
「そりゃあ、あんたはいいわよね!!」
「リリア、ちょっときてくれるか?」
「はぁい、ちょっと待っててね、リシェルト。ま、あなたたちも、もっと、『まともな』彼、見つけなさいよ。今、行くわ!!」
「何よ、・・・戦士だって、似たようなもんじゃない。」
「でも、彼の場合、ほとんど『宿屋専属』って感じの、戦士だものね。前のオーナーの息子ってのもあるんでしょうけど。―――剣握らせて戦わせるより、ナイフ握らせて料理やらせる方がよっぽど似合ってるわよね。」
「はいはい、そのくらいにしときましょ。怒られるわよ。」
「そういえば、なんで、こんな盛り上がってるんだっけ?」
「そうよ、ケーナの彼の話よ!!」
「か、彼だなんて・・・。」
「あ、待って・・・。うわさをすれば―――。」

 ザヌレコフは、ケーナの落とした髪飾りを持って、階下へと下りてきた。






「あ、あのよ・・・。」
「ほら、ケーナ!!呼んでるわよ!!」
「え、わ、私ですか?!」
「当たり前でしょ?!」
 ケーナがザヌレコフの前に出てきた。
「こいつを・・・落としてったみたいだからよ。・・・返しに。」
「あ、そ、その・・・ありがとうございます。」
 ザヌレコフは、ケーナにその髪飾りを手渡しする。
「あ・・・あっ・・・。」
「・・・どうした?体調でも・・・悪ぃのか・・・?」
「え、えっと。そ、そうです・・・、か、風邪でしょうか?」
「まぁ、調子悪いんなら、ゆっくり休んで・・・。それじゃ、用はこれだけだからよ。」
 ザヌレコフは、部屋へ戻ろうとした。
「ちょ、ちょっと・・・もう、ここまで来たら、言っちゃいなさいよ。」
「ヘレナさん!!」
「そうよ、ヘレナ。あなたの言い方じゃ、不安になるじゃない。ケーナ、あなたの本当の気持ちは・・・どうなの?」
「ルミナさん・・・、わ、私は・・・本当に・・・・。」
「私は、ケーナには、・・・もっと似合ってる人がいると思うけどなぁ。」
「ミント、もうちょっと応援してあげようよ!!」
「皆さん!!」
「そろそろ、持ち場に帰ってくれないか?お前ら・・・、ホントに・・・。」



 次の日の朝は、昨日の雨がうそのようにすっかり、晴れていた。
「ミント、あなたは私と、1階の食堂で朝食を準備するの。リリアとヘレナは今日出発される方のお世話を。アマンダとケーナは、部屋の清掃と、・・・あ、買出しに行ってきてくれる?」
「は、はい・・・。」
「えぇ、ヘレナさんとカウンターに入るの?」
「何よ、いやだっての?リリア?」
「仕方がないわね。あ、ミント?」
「何ですか?」
「リシェルトに、あとでカウンターのところ、来るように言っててくれるかしら?」
「私がですか?」
「そうよ、あなたに言ったの。よろしくね。じゃ、行くわよ。」



 ヘレナとリリアはカウンターの方へ行った。
「それじゃ、私達も行こっか!!」
「はい。」
「そういえば、どうしよっか?買出しと清掃。あ、でも、私が清掃に行ったらマズいよね?」
「え?どうしてですか?」
「だ、だって・・・、あの人の部屋も、私達、清掃しないといけないんですよ?!」
「わ、私には、・・・関係ないじゃないですか!!」
「い、いいんですか?じゃあ、私が行っちゃっても・・・?」
「ええ、ぜひ!!・・・私は、買出しに行きます!!」

 ケーナは、外へ出て行った。

「むきになっちゃって。でも、知ってるんだぁ、私。あの人、今朝早くに出かけたのよね。」



 ケーナは、一通りの買出しをすませ、再び宿屋へと戻ってきた。
「さぁ、今日もがんばるわよ―――あ。」
 ケーナは、ザヌレコフと宿屋の前ではちあわせた。
「お、・・・おう。」
「おはようございます!!・・・よ、よく眠られましたか?」
「あんなベッド、久しぶりだったからよ。朝、早く目ぇ覚めちまって。」
「そ、それでは、あまり、よく眠れなかったのですか?!」
「そういうわけじゃあ、・・・ねぇんだけどなぁ。・・・お、なんか、いろいろ持ってるみてぇだな。・・・俺が、代わりに持ってやらぁ。」
 ザヌレコフは、ケーナから荷物を受け取った。
「い、いいえ・・わ、私が、も、持ちます。」
「結構重いな、これ。・・・さ、中に行くか?」
 ザヌレコフは、先に宿屋に入ろうとした。
「ま、待ってください。わ、私も行きます!!」



 2人は、宿屋へと入った。
「ちょっとねぇ・・・、なんで呼んでくれなかったの?お願いしたよね、私、あなたに!!」
「わ、私は・・・。」
「もういいじゃない、それくらいで。」
「よくないわ!!」
「リシェルトさんは、もう、出かけられました!!そんなに、大事な用があるんでしたら、リリアさんが言えばよかったじゃないですか!!」
「何よ?私は、あなたを信じて待ってたの。それが!!」
「あぁ、もう、何騒いでやがるんだ、お前ら?」
「みなさん?どうなされたのですか?」
「何よ、あなた。―――どうして、2人が一緒にいるのよ?」
「あ、あれ?ケーナちゃん、やっぱり、一緒だったんだ!!あの男の人と!!」
 アマンダが1階へ下りてきた。
「お・・・俺のことか?」
「朝から、堂々といちゃついて。流浪者のくせに・・・。」
「ちょっと、リリア。言っていいことと悪いことがあるでしょう?」
「お、俺は・・・構わねぇですよ。そ、そこまで険悪になんねぇでも・・・。」
「ふん、まぁいいわ。勝手にしなさいよ。リシェルトとも話できないし、こんな流浪――」
「あんた、いい加減にしてくれない?!」
「あ、あの!!お手紙が届いています!!皆さん、どうぞ。」



 ケーナは、あわてて宿屋宛ての手紙をカウンターのテーブルにばらまいた。
「・・・あら、私宛の・・・。」
「え、こ、この手紙・・・。」
「あぁっ!!レグロフのおばさんのとこからだ!!」
「また?あの人・・・送りすぎじゃない?」
「いいんです!!あ、あの、読んできますね!!」
「・・・毎回同じ文面ですよね、確か・・・。」
「いいんじゃないの?・・・私宛のは・・・。」
「あら、ヘレナさん。お手紙ないようね。書いてくれる人なんていないでしょうけど。」
「そう言ってる、リリアも、一通もお知り合い様から送ってもらってないみたいじゃない。」
「・・・今日はたまたまよ。」

「あ、あの・・・この手紙・・・。」
「どうしたの?ケーナ宛てじゃないの?」

 ケーナは、その手紙をザヌレコフに手渡した。

「あ、あの・・・これ、王宮からの―――。」






「王宮ですって?!」
 ザヌレコフは、ケーナから手紙を受け取った。どうやら、ホールフィアガルド直筆の文書のようだった。
「―――話がある・・・だとよ。」
「まさか、戦士団の隊長様から直々に手紙を頂くとはねぇ・・・。」
「な、なんで・・・この男が・・・戦士団隊長様から・・・。」
「とにかく、王宮に行ってみるべきですよ。」
「王宮か・・・。どこに行きゃあいいんだ、俺は?」
「ケーナ、あなたが、連れて行ってさしあげれば?」
「わ、私がですか?」
「そうよそうよ。あなたの彼なんでしょ?あなたが連れてかなくて、誰が連れてくの?」
「か、彼だなんて!!」
「場所は分かってんだろ?なら、案内してくれねぇか?」
「ここは、私達に任せてくれればいいから。ご案内してあげて!!」



 ケーナとザヌレコフは、王宮へと歩いていった。
「・・・どうした?さっきから、黙りこんでよ?」
「え、い、・・いえ・・・な、なんでも。」
「どの辺りだ?王宮は・・・。」

 ケーナは、突然その場で立ち止まった。
「どうした?」
「―――あ、あの・・・、次の角を右に曲がれば、・・・王宮が・・・見えます。」
「なんだよ、それなら、そこまで案内してくれてもいいだろ?」
「い、いえ。そ、その・・・急に用事を思い出してしまったので。もう、近くまで来てるので、・・・この辺りで―――。」
「そうか、ありがとな。・・・またよ、ケーナんとこの宿にお世話なるからよ、そん時ゃ、よろしく頼むぜ。じゃ、用事、がんばってくれや。俺は行くからよ。」
「は、はい・・・。」



 ザヌレコフは、1人王宮を目指した。ケーナの言うとおり、角を曲がると王宮が見えた。
「こいつが・・・王宮か。」
 ザヌレコフは、城門をくぐり抜けた。この国の城は、長い激戦の歴史をくぐり抜けてきたからか、非常に堅固な作りになっていた。痛々しい戦闘の傷跡もいたるところで見受けられた。
「王城に何か用か?」
「ああ、この手紙を受け取った、ザヌレコフってんだ。」
「―――確かにこれは、ホールフィアガルド様が書いたもの・・・。よし、通れ。まっすぐいけば階段がある。そこを上がれ。」
「ああ・・・。」



 ザヌレコフは、王城の2階の戦士らの会議室の中でホールフィアガルドを見つけた。
「お、来たみたいだな。」
「ああ。その前に、こいつはやはり、返すぜ。やっぱり、俺が使うのは間違ってんだろ?こんな名剣は、・・・使う人間ってのを、選ぶんだろうからよ・・・、きっとなぁ。」
「ならば、お前は選ばれたんだ、『漣』に・・・。」
「選ばれた・・・、どういうことだ?」
「その剣は、持ち主の力量の限界を超えて引き出す力を持つ。この目で見る限り、そいつを一番活かせる奴ぁ、お前だ。」
「・・・なら、しばらく借りる。・・・剣が欲しかったのは、事実だしよ・・・。」
「ところで、・・・手紙は読んでくれたのだろう?」
「おう。・・で、話ってのはなんだ?」

「―――本当に読んだか?」
「ああ、この手紙だろ?」
 ザヌレコフは、手紙を取り出した。
「もう1通はどうした?読んでいないのか?」
「知らねぇなぁ・・・。面倒だし、ここまで来ちまったんだ。直接聞かせてくれるか?」
 ザヌレコフはホールフィアガルドからある提案をされた。それは、ある種の交換条件ともとれるものだった。『漣』を持つ代わりという・・・。
「―――そういうことかよ。・・・わかったぜ。なら、俺は、どうすればいい?」

「そうか・・、―――リシェルト、ここへ。」
「はっ。」
 そこに現れたのは、長剣を鞘におさめた、1人の好青年だった。
「この者を、国王の元へ案内せよ。」
「かしこまりました。行きましょう。あなたの名は?」
「ザヌレコフだ。よろしくな。」
「リシェルト=ラーディアスです。こちらこそ、よろしく。」



「ちょ、ちょっと待って・・・、こ、これ・・・あの男宛てじゃないの?」
「え、どうするんですか?もう、2人とも行ってしまわれましたよ?!」

「・・・読んでみない?」
「え?!」
「興味ないの?あの流浪者が、なんで王宮にお呼ばれなんてされるのか・・・。」
「―――で、でも・・・。」
「いいじゃないのよ、いないんだから。あけるわよ。」
「ちょ、ちょっと待ってみなさいよ!!」
「もう、あけたから。」



 リリアはその手紙の中身に目を通した。そして、目を疑った。
「―――戦士・・・仮採用・・・通知?」
「あ、あの男の人?!戦士様になるんですか!!」
「あら、あの流浪者、・・・どこかの誰かさんの彼と、・・・同じ仕事してるんですの?」
「う、うるさいわね!!・・・で、でも―――そ、そんな・・・。」
「いいじゃない、あの人。ケーナを盗賊から救ったんでしょ?それなりに、強いってことじゃない。・・・まさか、戦士団長様がお目にかかっていたとは思わなかったけれども。」
「ただいま、戻りました。」
「あ、帰ってきた。」
「ケーナちゃん!!すごいですよ!!!」
「え、どうしたんですか?」
「あなたの彼、・・・メラス王家直属の精鋭―――戦士団に入るそうじゃない。」

「・・・・・・。」
 ケーナは、しばらくの間、その事実を信じることができなかった。そして、―――出来る事なら、・・・信じたくなかった。






「アーシェル、・・・どうだろうか。・・・そろそろ、体力も戻ったと思うんだが。」
「ああ・・・。もう、心配するようなことはない・・・。―――ただ、あの飛竜だけは、・・・そうとも言えないが・・・。」
「アーシェル君・・・、あなたは、この辺りのことは、・・・詳しいの?」
「ホワイトラゴヌ湖・・・。グランドカロメラルの麓・・・。ここから東へ一日の距離を歩く先に、・・・メラスの国がある。」
「メラスか・・。」
「メラスは、・・・どんな国なのですか?」
「大きな街だ。・・・砂漠の南側にある国・・・」
「コロシアムがあると聞く。この国の戦士団の名と、その強さは遠くまで聞こえている。」
「ひとまず、・・・今は、メラスを目指すべきね。」
「ああ・・・、ところで、俺は明日、・・・メラス地方へ、薬草を補充しに行こうと思う。・・・どうだろうか。・・・その時に、一緒に行ってみるか?」
「そうさせて、・・・もらおうか。」
「私も、賛成です。」
「決まりのようね。」
「よし、・・・なら、これが、最後の薬だ。・・・これを飲んで、明日に備えてくれ・・・。」



 次の日、4人はマッキンベルの元を訪れた。
「もう、大丈夫なのか?」
「ええ。・・・俺達は、・・先へ進みます。」
「そうか・・・、まぁ、よかったじゃないか・・・。」
「あ、あの・・・マッキンベル様。」
「どうかしたか?」
「ありがとうございました。」
「言うな。・・・わしは、お前らに礼を言われる覚えなんかないわ。」
「なんと言われても、・・・私達は、あなたに礼をする必要がありますわ。・・・本当に、ありがとうございました。」
「もういいもういい!!・・・行くなら、とっとと行けばいいだろう!!」
「では、これから、行ってくる。・・・すぐに戻るから、様子を見ていてくれ。」
「いいから、行け!!」
 4人はマッキンベルから離れ、東を目指し歩き始めた。

「―――礼をわしに言うだと・・・?本当に、・・・感謝しているのは、・・・わしだ。お前らが、わしに・・・礼をいう理由など・・・ないだろうが・・・・。―――わしが失いかけていたものを、・・取り戻してくれた・・・、
 ・・・ありがとう、・・・お前ら―――。」




 メラスにたどりついたのは、夕方頃だった。

「ここが、メラスだ。・・・これから、俺は、薬草を調達しに、先へと向かう。」
「もう行ってしまうのですか?」
「ああ。なるべく早く、ホワイトラゴヌに戻らないといけないからな。」
「そうか。・・・それなら、俺達は、これからどうする?」
「そういえばまだ聞いてなかったが、どこへ向かおうと思ってるんだ?」
「ターニアレフだ。」

 アーシェルは、少し考えたあと答えた。
「俺も詳しくは知らないのだが、メラスとターニアレフは、隣り合った王家であるせいか、あまりその関係は良くないと聞いた事がある。」
「ええ。その話に関しては、私も聞いたことがあるわ。それで、ずっと、これからどうすればいいのか考えてたのだけど・・・。」
「まず、今の情勢をこの街で確認するのがいいと思う。」
「そうだな。よし、今日は、宿に行こう。ゆっくり、ここのことを調べよう。」

 アーシェルは、マーシャたちに別れを告げて、先へと進んでいった。一方、マーシャたちは、この街にある宿屋へと向かった。
「大きな宿屋ですね・・・。」
「ああ。きっと、さっきあったコロシアムの観客者だとかが、泊まるためだろう。」
「さあ、もう暗くなってきたわ。入りましょう・・・。」



 大きな宿屋だとは言っても、武術大会などの大きなイベントのないこの時期は、客はそれほど入ってはいなかった。
「いらっしゃいませ、お客様。」
「部屋は、空いているだろうか?」
「ええ。3階にございますわ。・・・さあ、こちらへ。ご案内いたしますわ。」

 案内された部屋で、しばらくくつろいでいた。
「さすが、これくらいの街になると、部屋もすごいな・・・。」
「ルシアさん!!ここからの風景、とてもキレイですよ!!」

 しばらくしてから、クロート達はこれからの動きを話し合い始めたが、結局、何の解決も出来ずに、終わりそうだった。
「ダメだな。やはり、街の人間に話を聞かないと、どうすればいいか、わからない。」
「おなか、・・・すきましたね。」
「そうね。そろそろ、夕飯を頂く時間だし、行きましょうか?」

 クロートは、部屋から出て、1階へと下りてきた。
「もう、じゃあ、あれからケーナ、まだ戻ってこないんですの?!」
「いいじゃない、あの子にだって、いろいろあるんでしょうし。」
「リリアさん?あなたが言える事かしら?何かあれば、リシェルト、リシェルトって。」
「この宿屋以外で何もすることがない、ヘレナさんに言われたくはないわ。」
「ほら、やめだやめ!!お客様だ!!」




 その頃、アーシェルは列車へと乗っていた。このメラスには、3つの街があり、それらをつなぐ鉄道が走っていた。
 列車は、やがて、メラスを出発し、スピードを上げていった。アーシェルは、座席にもたれ、駅につくのを待ちながら、少し眠りについた。
 やがて、次の駅に列車は止まった。そして、乗客のいくらかがここで下りて、そして、またいくらかが乗ってきた・・・。

「こちらの席、よろしいですか?」

 アーシェルは、その声で目を覚まし、声の主を見た。女性のようだった。

「ああ、構わない。」






 やがて、列車は再び走り出した。アーシェルは、結局眠りに戻れず、さりげなく女性の姿を見ていた。だが、それには気付かず、女性は、窓の外を眺めていた。身なりは平易なものだったが、どことなく、気品のある女性だと思っていた。
「そろそろだな・・・。」
 アーシェルは、少しずつ減速し始めたことに気付き、荷物をまとめ始めた。
「あなたも、こちらで下りられるのですか?」
「あ、ああ。・・・レグロフに用があるんだ。」
 レグロフの駅に着いて、女性とアーシェルはともに下りた。
「では、ここでお別れですね。」
「ああ。もう夜遅いが、気をつけてくれよ。」
「お気遣い、ありがとうございます。では。」
 アーシェルはそれから、レグロフの街のショップへと向かった。



 次の日の朝、クロートらは、朝食を食べていた。
「少し、この街の中を歩いてみよう。」
「そうね。食べ終わったら、行ってみましょうか・・・。」

「・・・ねぇ、リシェルト?」
 隣のテーブルでは、昨日部屋まで案内した女と、戦士の格好をする男が話をしていた。
「私ね、あの子にはホント困ってるのよ。」
「・・・グチ話か?食べてる時くらい、やめてくれよ。」
「ミントったら、また私の言う事聞いてくれなかったの。あなたに、カウンターに来てくれるように頼んでおいたっていうのに・・・。」
「もう、何度も聞いた。それに、むしろ俺は、ミントには感謝してるけどな。」
「か、感謝ってどういうことなのよ?!」
「毎日朝飯の時から、お前の話に付き合ってると、ろくに食べられないからな。」
「そんなこと言ったって、リシェルトと話せる時間なんて、朝くらいしかないじゃない。」
「だから、今日だって、聞いてやってるじゃないか。それとも、話は終わりなのか?」

「あ、忘れてた。聞いてもらいたいことがあったのよ。ねぇ、どう思う?あの子、ケーナのこと。」



 クロートも最初は、他愛のない会話だと思って、聞き流していた。

「あの子、昨日もまた、急にいなくなっちゃったのよ。」
「・・・それも、よく聞かされた話だけどな。」
「そうかもしれないけど、・・・私、最近思ってたのよ。別に私だけじゃないわ。何人か知ってるもの、同じこと考えてる人。・・・あのケーナって子、もしかして・・・。」

「あの子が、ケーナ=アレフだって言いたいの?」
 もう1人、女性がその話に入ってきた。
「ケーナ=アレフ、・・・ターニアレフ国第2皇女か。」
「同じ名前だからって、そう決め付けてどうするの?どうして、こんな宿屋に、お隣の国の皇女様が出稼ぎに来る必要なんてあるの?」
「でも!!あの子みたいに、勝手なことされたら、私!!」
「それじゃあ、俺は、王宮にもう行くからな。」
「え?・・・もう、行くの?」
「もう時間だからな。さ、リリアも、いつまでもグチばっかり言わずに働くんだぜ!!」
「リシェルト!!やっぱり、話、聞いてなかったのね!!」

「・・・リシェルト、さん。」
 クロートは、リシェルトに話しかけた。
「・・・俺に何か、用ですか?」
「いや、隣のテーブルで少し話が聞こえてきたものだから、話しかけたんだが・・・。」
「わ、私達は、別に盗み聞きしようなんて思ってたわけではないんですよ!!」
 マーシャがあわててその話に入ってきた。
「王宮に行かれると聞いたが、よければ、案内してもらえないだろうか?」
「それは、構わないですが・・・。」
「突然、私達のような旅の者が、このようなことをお願いして、きっと、
 ご迷惑でしょうけど、・・・少し、お聞きしたいことがありますの。」

「いえ、とんでもない。メラスの王宮は、どのような者に対しても開かれてますから。では、一緒に参りましょうか・・・。」



「・・・だから、まだ時期は早いわ。」
「時期・・・、もう、そんなもん選んでるヒマはねぇぜ!!」
「なら、どうして今頃、タニアログの街の警護が厳しくならなくてはならないの?この中の誰かが、メラスの王家に見られたか、それとも告げ口したからではないの?」
「ちっ、一体誰だよ。いつも、いつも、俺等がなんかやろうとしたとたん、こうだ!!」
「トートライさん。・・・落ち着いてくださいよ。」
「ふん、まあいい。見ていろ!!少しずつだが、計画は進んでんだ。」

 トートライと呼ばれた男は奥に消えていった。
「・・・トートライさんの言ってる、計画って、何なんでしょうか?」
「わからねぇけど、あのトートライさんが言ってるんだ。だが、その計画については、一切、俺達には何も言わない。トートライさんも、今回ばっかりは、相当神経質になってるからな。」
「あ、ケーナさん?どちらへ?」
「私の名は呼ばないでと言ったはずよ!!」

 ケーナと呼ばれたその女性は、厳しい声でそう答えてから、出て行った。
「・・・俺、なんとなくだけど、あの人、好きになれねぇんだよな。」 
「ケーナさん?・・・まぁな。確かに、俺等、反乱軍にとってみれば、貴重な情報をいろいろと提供してくれるいい人なのかもしれねぇけど、なんか、こう、・・・いまいち、俺達に心を許してないっていうか、冷たいしな。」
「さぁて、俺達も、そろそろ、仕事に戻るとすっか。」
「そうだな。こっちだって、生活していかなきゃなんねぇからな。」

 男たちも、また、その部屋から出て行った。そして、部屋には誰もいなくなり、その建物の入り口の鍵は、厳重に締められた。

2015/10/28 edited (2013/06/06 written) by yukki-ts next to