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[stage] 長編小説・書き物系
eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
聖杖を持つ者 ―第7幕― 第48章
天まで届こうとするほどの雄大なその山脈―――グランドカロメラル。その山道の入り口に、ある人物の姿をクロートらは見た。昼を過ぎ、だんだんと陽が傾き始めたころだった。その人物が抱える木箱を、3人に見られるのを、不快にでも思っているかのように、その老人は、見えない方へと持ち替えた。
「・・・何をする気かは知らん。そこを、どいてくれ。わしは、家へ帰る。」
「今まで、・・・山に?」
その問いに答えないまま、しばらく、マッキンベルは歩き続けていた。だが、やがて立ち止まり、―――あくまで、こちらの方を向く事はなかったが、話しかけてきた。
「何か、・・・このわしに、用があるのではなかったのか・・・?」
「いえ。・・・ただ、これから自分らは、この山に入ります。」
「・・・その3人でか?」
「はい。」
しばらく、マッキンベルは黙っていたが、やがて、何もなかったかのように、歩き始めた。去っていこうとするマッキンベルに、マーシャは話しかけた。
「おじいさん?・・・そんなに、たくさんの薬草で・・・何を?」
「・・・ふん、聞こえんわ。・・・わしは、何も聞かんし、何も見ておらん。」
それきり、マッキンベルは姿を消した・・・。
「・・・行くか?」
「はい。」
「あなたが決めたことなの。私達は、それについていく。ただ、これからしようとすることが、どういうことかは、分かってるのよね?」
「マーシャ、ルシア様・・・。・・・力を、貸して欲しい。俺にだって、これからやろうって事が、どんぐらいとんでもない事かくらい、分かってる。まさか、こんな風になっちまうなんて、・・・ま、考えてなかったわけでもないけどな。―――俺だけじゃ、きっと出来ない。」
「そんなこと決まってます!!みんなで、力を合わせれば、きっと出来ます!!」
「ロンベルクお墨付きの、・・・あなたならね。」
「・・・よし、行こう。」
3人は、グランドカロメラル山脈へと足を踏み入れていった。最初の道は、傾斜もきつくなく、道幅もそれほど狭くは感じなかった。
少しずつ、カシェコフの街並が小さく見えていくことで、3人はどれほどの高さにいるのかを測っていた。
「あと、どれぐらい登れば、いいのでしょうか?」
「分からない。検討もつかない・・・。」
「今日や明日で、越えられるものではないわね・・・。」
道は途中で洞窟へ続くものもあった。おそらくは自然にできていた洞窟に、人間の手を加え、完成されたものであろう。
だが、内部は灯りなしには、先に進む事も出来ない、太陽の陽の届かない暗闇に包み込まれていた。
「ちょっと待て。」
クロートは、物音に気付いた。
「向こうも気付いたようね。来るわ。」
そのモンスター達の攻撃を、クロートはソードで受けとめる!
「3、いや、4体いる!!」
「サンドゥラゴル、召喚!!」
クロートは剣にサンドゥラゴルが宿ると同時に、前方にサンドゥラルライナーを放つ。洞窟内に閃光が走り、一瞬、4体のモンスターをはっきりと照らした!!
「剣・・・それに、盾を持っている?!」
「油断しないで!!来るわよ!!」
モンスター達は、俊敏の動きをし、クロートに対し巧みな攻撃を仕掛ける。
「くっ、このままじゃあ・・・、反撃するしかないか!!」
モンスターらは決してクロートに攻撃を許さなかった。防御がゆるくなった瞬間に、猛烈な攻撃を仕掛けてくる!!
「行きなさい!!」
次の瞬間、ルシアの白い召喚獣がまっすぐ4匹を串刺しにした!!
「雷の構え、サンドゥラスパイラル!!」
クロートの攻撃が、モンスターを直撃し、それ以後動かなくなった・・・。
「すまない。」
「いいの。あなたのおかげで一度に攻撃できたわ。」
「・・・今のモンスターは?」
「高い知能を持つモンスターよ。野生のものではない、自らの行動の判断を行っていた。・・・この山には、私達の想像を超える、強力なモンスターがいるわ。」
「ああ・・・。」
それ以降何度もモンスターに足を止められたが、洞窟を抜け再び山道へと戻った。
「・・・少し、風が強いな。」
「端の方は崖になってるわ。崩れやすくなっているかもしれないから、気をつけて。」
吹き付ける風とともに、2体の翼を持つモンスターがこちらへ降下してきた。
「・・・俺が迎え討つ!!」
「クロートさん!!下がってください!!」
突然、マーシャが2人の前へ立ちふさがった!!
「な、何をするつもりなんだ?!」
「なるべく、私の後ろに隠れてください!!」
その直後、2体のモンスターは魔力を放った。その魔力の触れた風は、冷たく凍りつく吹雪となって、3人を襲い掛かった!!
「マーシャ・・・、大丈夫・・・か・・・?!」
マーシャの持つ聖杖が作り出す結界によって、吹雪の大部分がかき消されるが、一部が、クロートらを凍りつかせる!!
「・・・私だって、戦います!!」
「くっ、俺が・・・行く!!」
クロートは、結界から外へ抜けた!!その瞬間、猛吹雪がクロートを包み込む。その内から、サンドゥラスパイラルを放つ。
モンスターの高度には、わずかにしか雷撃が届かない!!モンスターの片方がクロートに対し、降下してきた!!
スピードを上げ、クロートに体当たりをし、壁へ激突させた!!
「がはぁっ・・・。」
「・・・ルシアさん・・・、ごめんなさい!!!」
マーシャの声と同時に、結界がとけ2人に猛吹雪が直撃する!!
その直後にマーシャからフラッシュリングの青い光の輪が放たれる!!
「モンスター達の動きが止まったわ!!マーシャ下がって!!あとは、私に任せて!!」
ルシアは、レイピアを抜き、モンスターを突く!!
「クロートさん・・・、大丈夫ですか・・・。」
クロートは、体力が限界に近いながら、モンスターと一定の距離を保っていた。
「マーシャ、・・・俺はいい。下がるんだ・・・狙われる!!」
モンスターは魔力を放ちながら降下する!!マーシャが立ちふさがり聖杖を構える!!
「私に出来ることは、これぐらいしか!!」
「―――いや、マーシャ!!・・・続けるんだ!!」
クロートは、マーシャの背後から剣を前にまわし、両手で握り、モンスターに向けた。
「召喚剣術、雷の構え、・・・サンドゥラルライナー!!」
攻撃の衝撃で、2人は壁に激突し、そのまま壁から背中が下へとずれ落ちていった。直撃をうけたモンスターは、背後まで吹き飛ばされ、それ以降動かなくなった。
「サンドゥラゴル・・・元のあるべき姿へ還れ。」
ルシアは、モンスターの攻撃をレイピアで受けるのが精一杯の状況だった。
「ルシア様!!サンドゥラゴルを!!」
ルシアは一瞬で判断し、再びサンドゥラゴルを召喚し、その力を直接激突させる!!さらに、右手から5つに分かれた白き召喚獣を放出しその全てがモンスターを突き通す。
3人には、山からの風が吹き付けていた・・・。
「ルシア様・・・、やはり、この山に棲むモンスターは・・・。」
「一度、・・・休憩をとりましょう。」
少しでも風の影響を受けないよう、少し先の洞窟の入り口付近にとどまることを決めた。
「クロートさん。キュア!!」
「マーシャ、無理はするな。今は、休んでおけ。」
「クロート、あなたは、一刻も早く回復しておかなければならないわ。マーシャのことは心配しなくてもいいわ。私が・・・」
ルシアも、マーシャに回復魔法を施す。
「モンスターがいつ襲い掛かりにくるか分からないわ。クロート、気を抜かないで。」
「ああ・・・。」
太陽はすっかり沈み、辺りは漆黒の闇に包まれ始めた。時折、モンスターが発したと思われる低いうめき声が外や洞窟から響く・・・。
「・・・やはり、一日待つべき・・・」
その時、クロートは何かが呼ぶ声を聞いたような気がした。
「クロート、どうかしたの?」
「気のせいか?・・・何かが俺を呼んだ、・・・・洞窟か?」
クロートは、灯りをともし、立ち上がった。
「どうするの?」
「まずここから外へ行くことは無理だ。・・・少し、洞窟の中へ入る。」
「待ちなさい。今は動かない方がいいわ!!」
クロートは、ルシアの制止を振り切り、少しずつ中へと入っていった。
「・・・洞窟の中から、何かが、・・・俺を呼んだ・・・。」
どれぐらい奥へ行った頃か、ふと冷たい風が通った瞬間、灯りが消え辺りは暗くなった。
「何かが、いる。・・・この奥に・・・。」
クロートは、壁伝いに歩き、その角を曲がった。その瞬間、クロートは、何かの流動するものにわき腹をえぐられる!!
激痛を感じ、思わず叫びそうになった瞬間、クロートは暗闇の中でその姿を、青白く淡い光を放つ何かを見た!!
「何だ・・・これは?」
ふと、その淡い光が消えたと思った瞬間、鋭く冷たい氷の刃で突き刺されていた!!
「ぐはぁっ・・。何だ、今のは・・・、何が起こっている?」
クロートは再び、ゆらめく淡い光を見た。
「何かは分からないが、戦わなくてはならないみたいだな!!」
クロートは剣を構え、その光へ向かった。その次の瞬間、光は消え、体全体に冷気を伴った強烈な攻撃が来た!!
「・・・あぁぁ、一体、何なんだ、これは・・・、く、このままだと、・・・。」
攻撃が終わり、クロートはその場でひざをついた。何が起こっているのか、クロートには全く理解できなかった。
そして、理解できないながらも、このまま何も出来なければ、命が危ないことだけは感じていた。
「・・・ルシア様のところへ、戻るしか・・・ないか・・・・。」
そう思ったクロートの頭に突然ある言葉が浮かび上がった。何も声が聞こえていないはずなのに、まるで頭の中に直接話しかけられたかのようだった。
「―――『トゥリューブ』・・・?」
次の瞬間、クロートに、再び、真正面から流動体のような何かが激突した!!体が宙に浮かびあがるのを感じながら、ソードから、何かに反応するかのような、力を感じた。
「ソードが反応する・・・、この攻撃、・・・鋭く尖った氷の刃、・・・冷気・・・。―――これは、・・・まさか。」
攻撃が終わり、地面に落下しようとする直前に、クロートは気付いた。
「水の構え、オンディナルウェーバー!!」
その言葉と同時に、クロートのソードの周りを淡い光が覆った!!
「・・・召喚獣・・・なのか?―――なぜ、姿を持たない?」
クロートは、再び、頭の中に直接何かを話しかけられた。
「―――『剣を持つ者』・・・、この、・・・ソードのことか?」
クロートは、しばらくオンディナイアスの言う言葉を聞いていた。
「・・・わからない、途切れ途切れの言葉はわかる。だが、それがどうつながるのか、
俺にはわからない・・・。―――俺は、どうすればいいんだ?」
だが、それを最後に頭の中へ響いていた声も、ソードを包み込んでいた青い光も消え、何も見えなくなった・・・。
「―――クロート?・・・大丈夫なの?クロート?!」
クロートはルシアの声で目を覚ました。
「・・・ルシア様、・・・ここは?」
「洞窟の一番奥よ。結局、朝まで戻って来なかったから、探しに来たのよ。」
「・・・俺、ずっと、ここに・・・?」
「そのようね。・・・ここには、・・・何もないようね。マーシャのところへ行きましょう。」
「・・・ああ。」
マーシャと合流し、再び洞窟から外へ出て、山道を歩き始めた。3人とも体力が回復していること以外は、特に昨日と変わりはないように思っていた。
「・・・相当高いところまで来たようね。」
「ここまで来た以上、もう引き返すことは出来ない。進むしかない。」
山道を進むにつれて、だんだんと、気候が不安定になってきた。時折、雪やひょうが降り、また、ますます激しい風が吹き荒れるようになってきた。
「あっ!!」
「どうした、マーシャ!!」
「気をつけて・・・、急に風がふきつけてくるから。この崖から落ちたらおしまいよ。」
足元はガタガタになっていて、崖は風が吹くたびに、少しずつ崩れ落ちているかのようだった。
「・・・ルシアさん、・・・なんだか、・・・息が・・・。」
「この高さだ・・・、それに、この山道・・・体力をすぐに削られる・・・。」
「―――この状況で、モンスターに遭遇・・・なんてことになると・・・」
ルシアは、突然がくっとひざを落とした。
「ルシア様!!!」
「クロート、・・・もうダメみたいね・・・」
「ルシアさん!!もうダメだなんて言わないでください!!」
「あなたたちには、北に行かなければならない、って何度も言ってるのに、そう言ってる自分が、・・・あなたたちの足手まといになってるなんてね・・・。―――思っていたより、壁は、高かったわね・・・。」
「・・・ここで諦めるわけにはいかない!!俺たちは北へ行く!!絶対に3人で、この山を越えて、先へ進むんだ!!」
「・・・もう・・・これで―――」
ルシアはふっと頭を上げる。クロートとマーシャは絶望の中でその光景を見た・・・。
「・・・もう、これ以上、俺達を進ませる気は、・・・ないみたいだな。」
「モンスター。単体なら、・・・万全な体制が整ってるなら、・・・でも、もう・・・。」
空を7、8体もの翼竜が覆い尽くしていた。
「俺は・・・戦う。ルシア様・・・、今は、・・・手を出さないでください。」
「ルシアさん!!私達が、・・・必ず、倒します!!」
2体が下降し、鋭い爪をクロートにつき落とした!!
「・・・ここで、殺られるわけには・・・いかないんだ!!」
クロートは、ソードで一気にそれを突き返すも、防ぎきれなかった攻撃により傷を受けた部分から、血が一気に噴き出した・・・。
「・・・これじゃ、・・・ちょっと・・・マズいな。」
「クロートさん!!」
「回復は・・・後だ・・・。攻撃・・・だ・・・。」
クロートはマーシャの攻撃―――フラッシュリングを待っていた。だが、マーシャは、すぐにはそれに応えなかった・・・。
「マーシャ・・・?」
マーシャは、まるで何かにとりつかれたかのような虚ろな表情を浮かべていた。
「―――クエーサー・・・フォースリング。」
クロートはマーシャに振り返り、その手に持つ聖杖が光を帯びていることに気付いた。
次の瞬間、聖杖から、巨大な高速回転をするリングが放たれた!!それに触れた、前の4、5体が、そのリングに消し去られた!!
「な・・・なんて、・・・攻撃・・・」
マーシャは、それ以降、聖杖を持ったまま、立ち尽くしていた・・。
「・・・残りを、俺が・・・」
「クロート・・・・・、今、・・・サンドゥラゴルを・・・」
ルシアが、立ち上がり、クロートにそう言った。
「いや、・・・必要ない・・・。」
残るワイバーンが皆、クロートに対し、急降下をし始めた!!召喚剣術なしに、この状況を打開する方法がないことはクロートにも分かっていた。
だが、もう、残された方法はすでに何もなかった・・・。
「・・・爪で抉られるか、牙で砕かれるか・・・。」
クロートは、ソードを構えた!!そして、攻撃を受ける、まさにその直前、叫んでいた。
「召喚剣術、水の構え・・・オンディナルウェーバー!!!」
何も召喚しているはずはなかった。それ以前に、クロート自身で、召喚は出来ないはずだった。だが、クロートの剣からは、流動する物質がまっすぐ放たれ、それらがモンスターを突き通した。
そのうち、一体が暴風とともにそのまま突っ込んできた!!
「水の構え・・・オンディナルシクル・・・」
クロートのソードは、鋭く凍りついた氷の刃となり、モンスターを貫いていた・・・。
クロートの目の前で起こった事が信じられなかった。だが、それは次の瞬間、マーシャの悲鳴で打ち壊された!!
「マーシャァァァッ!!!!!」
ワイバーンとともに吹いた暴風により、完全にバランスを崩したマーシャは、その風に流され、崩れる崖とともに、落下をし始めていた・・・
それと同時に、ルシアがボロボロの体のまま、右手をマーシャに向かい伸ばし、残った全魔力をこめて、白い召喚獣を放った!!!
クロートはそれを必死の形相で見ていた!!そして、白い召喚獣が、マーシャをとらえ、落下が止まるのを見た!!
「マーシャ!!!・・・ルシア様!!!」
「・・・ここまでが、・・・私の、・・・限界・・・・・・。」
その時、ルシアまでもがバランスを崩していた・・・。そして、白い召喚獣は、ゆっくりと周りの空間に溶けようとしていた・・・。崖がくずれるとともに、ルシアも落下し始める―――
「ダメだ・・・、行くな・・・行ってはダメだ!!頼む、待ってくれ!!!」
崖のすぐ近くまで寄って、クロートは、全てが終わってしまった事を悟った・・・。
「―――お、俺は・・・・・。」
クロートは現実に起こったことを、理解することをしばらく拒んでいた。信じたくはなかった。疑いようのない事実であると思うことが怖かった・・・。
今、何をなすべきなのか、クロートには、考える事が出来なかった・・・。
「・・・マーシャ・・・・、・・・ルシア様―――!!!」
「―――人の話を聞かぬからだ。」
クロートは突然の人の声に顔を上げた。そして、その声が聞き覚えのある声であることにも気付いた・・・。
「・・・あ、あなたは・・・。」
「仲間を失うこと―――それが、どういうことなのか、理解したか?」
巨大な影が現れた。それは、その影がもつ2つの巨大な翼によって、大空を飛ぶ、飛竜であることに、クロートは気付いた・・・。
「今のお前たちに、グランドカロメラルを越えることなど出来ない。思い知ったか?」
クロートはその飛竜の背に、1人の老人の姿を、・・・そして、2人の女性の姿を見た。
「―――マッキンベル様!!」
「我が名は、竜騎士・・・マッキンベル!!―――お前の名は?!」
「・・・召喚剣術士・・・クロート=トゥリューブ!!」
「クロート!!この飛竜の背に乗る事を許そう!!・・・さぁ来い!!」
「・・・ああ、今行く!!」
クロートは、崖から飛竜へと飛んだ!!飛竜は、クロートを背にのせ、息つく間もなく加速し、高度を上昇させていった!!
空に立ち込める、暗黒の雷雲をも切り裂くが如く、グランドカロメラルの遥か上空を目指し上昇し続ける!!
「・・・何故、助けてくださったのですか?」
「わしも、こいつも・・・まだ飛び足りんだけよ。竜騎士のわしが飛んで何が悪い?」
「いえ・・・その・・・ありがとうございます!!」
「礼でも言ってるつもりか?まぁ、勝手にしろ。お前らをこれからどうしようかなんてまだこれっぽっちも考えてないんでな。」
「―――あれ、・・・ここは?」
「・・・マーシャ?!気がついたか?」
「・・・クロートさん・・あ、・・え?!・・・こ、ここは・・・ど、どこですか?!!」
「空の上よ、お嬢ちゃん。」
「そ、空の上ですか?!!」
「ああ・・・、マーシャ・・・俺たち・・・今、・・・空、飛んでんだ!!」
「雲、突き抜けるぞ!!」
飛竜は、とうとう雷雲の上にまで達した。辺りには、一面雲海が広がっていた。上空は、全く光のない漆黒の闇が広がっていた。
そして、この高さになって初めて、クロートは、グランドカロメラルの頂を遥か斜め上に見た。
「なんて高さなんだ・・・。」
「グランドカロメラルには、未知の世界への入り口があると聞く。最も、真実かどうか、確かめる術などわしは持っておらんがな・・・。」
「・・・未知の・・・世界?」
「クロートよ、・・・お前は、・・・何のためにこの山を越えた?」
「―――真実を・・・知るため。」
「・・・それが、どんな絶望に満ちたものであろうともか?」
「・・・ああ。その絶望の中から、・・・希望を見出すために・・・。」
飛竜はグランドカロメラルの遥か上空を、暗黒に向かい突き進んでいた。一瞬、4人を暴風が襲い掛かった。
その直後、がくっと高度が下がるのを感じた。
「・・・何が起こったんだ?!」
「言ったはずだ・・・、わしは、お前たちをどうかしようなどと考えてないとな。」
「ど、どういうことですか?」
「・・・わしも、・・・この竜も、もはや、年を取り過ぎたというところだろう。こうなるかもしれないとは、最後に飛ぶことを決めたときに既にわかっていたからな。」
「わかっていた・・・、でも、このままでは?!」
「わしらは、これでいい。・・・だが、お前らは、・・・それじゃならないようだな。」
ますます、高度ががくっと落ちていった。
「マッキンベル様!!どうすれば?!」
「・・・どうすればいいだと?・・・生きるんだろ?・・・それだけだ。」
「それだけだと?!」
「クロートさん!!・・・がんばりましょう!!もし、助けてもらえなかったら、あの時、もう、これ以上進む事はできませんでした。・・・私達は、行かなければなりません。絶対に、あきらめないでください!!私は、最後まで、がんばります!!」
「・・・衝撃に備えろ・・・、行くぞ!!」
飛竜は、滑空しながら、さらに降下していった。
「この下には、何がある?!」
「グランドカロメラル山中・・・運がよければ、なんとか、越えられるか・・・。」
「クロートさん!!あれは!?」
マーシャが遥か向こうの地上に湖があるのを見つけ、指差した!!
「・・・よし、ホワイトラゴヌ湖!!あそこまで行けたならば、山を越えたことになる!!」
「頼む!!あの湖まで・・・なんとか!!」
「・・・わしに言うな、・・・神にでも、祈ってるんだな!!」
4人は、ますます下がる高度の中で、湖だけを見ていた!!
「行ける・・・、このままならば、なんとかなる!!さあ、・・・最後だ!!行くぞ!!」
湖が目の前になったその時、急激に高度が落ちた!!目の前に、低い山脈がたちふさがる!
「くっ、・・・目の前まで来て、もはや、これまでか!」
「クロートさん!」
「わしは・・・竜騎士だ・・。・・・これしきの山脈!」
そこで降下が終わった!!竜は、最後の力を出し、一瞬だけ上昇した!!
「頼む!あと、・・・あと・・・少しだっ!」
「―――あぁぁ、・・・もう、・・・限界かあっ?!」
山脈に乗り、越えたと思った瞬間、速度が落ち、それから、降下していった!!
「もはや、ここまでだ!!墜落する!衝撃に備えろ!」
地面が急速に近づいていった!!クロートは、剣を構え、地面に降りたつのを待った!!
轟音とともに、4人とその飛竜は山脈を背にして、地面へ激突した・・・。
「―――俺、・・・生きているのか・・・?」
クロートは、辛うじて動く事ができた。
「マーシャ・・・、ルシア様・・・、マッキンベル様?!」
「・・・クロート・・さん。」
マーシャから返事があった・・・。
「ここは・・・どこだ・・・・?」
全く見知らぬ場所だった。辺りは、山脈に囲まれていた・・・。だが、そのうちの一方に、上空から見えていた湖の一端があるのを見た。
「―――クロート、・・・マーシャ・・・。」
「よかった・・、ルシアさん・・・。」
「マッキンベル様!!」
マッキンベルや飛竜からは、返事がなかった・・・。クロートは、立ち上がろうとしたが、体が言う事をきかなかった・・・。
「クロートさん・・・、私達は、ここにいます。・・・だから、誰かに、・・・助けを・・・。」
マーシャはクロートにキュアを唱える。しばらくして、立ち上がれるにまで回復した。
「・・・マーシャ、ルシア様・・・。ここで、待っていてください。」
クロートは、立ち上がり、歩き出そうとした。辺りは、霧に包まれていた。そして、その霧に包まれる中で、クロートは、1人の男がこちらへ近づくのを見た。
「・・・誰かが、・・・来る・・・。」
その男は、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。そして、目の前で、歩みを止めた・・・。
「・・・飛竜、・・・落ちたのか?」
「ああ。すまない、手を貸してもらえないだろうか?あと3人歩けそうにない者がいる。」
「よし、わかった。・・・とにかく、まずは、応急処置を施す。」
その男は、荷物の中から、薬草の束と調合のための様々な道具を取り出した。
「俺は、薬草術士だ。・・・持ち合わせの薬草で、間に合うだろう。」
クロートは男の様子を黙って見ていた。男は、ある程度の調合が終わると、それを鍋にあけ、何かの液体とともに煮始めた。
「・・・この薬は、一瞬だけ体力を最大限に回復する。だが、半日もたたずに、元の状態にまで戻る。ここでは何もできない。せめて、ホワイトラゴヌ湖まで移動したい・・。」
「ああ・・・何か、俺に手伝えることはないか?」
「そうだな・・・、この鍋を見ていてくれ。・・・何か、変化があれば俺に教えてくれ。・・・俺は、・・・・次の薬草を調合する・・・。」
「わかった。」
クロートは、鍋を見ていた。赤い色の液体が、薬草特有のにおいを発しながら、ぐつぐつと煮え立っていた・・・。その男は、新しくいくつかの薬草を取り出し、再び調合を始めていた。それからしばらく経って、鍋の中身が赤から黄色に変わる・・。
「・・・色が変わった。赤から黄色になったが、どうすれば!!」
「よし、・・・出来たみたいだな。」
男は、鍋を火から移し、その中に、調合していた薬草をさらに鍋にあけた。
「・・・これをどうするんだ?・・・まさか、このまま飲むのか?」
「やけどするだろ?・・・まぁ、見ていろ。」
男は、鍋の前に座り、精神を集中させた。
「―――薬草魔術・・・第2式、エーテライズ!!」
男が魔力を放った瞬間、中の液体は、薄い青い液体へと変わった・・・。
「よし、仲間にこの薬草エキスを飲ませるんだ。・・・これを使え。」
クロートは、小瓶を渡された。
「・・・すまない。」
クロートは、小瓶にその液体を移し変えた。それを持ち、マーシャ達のところへ戻る。
「これを飲めば・・・、助かるらしい・・・。飲んでくれ・・・。」
「はい・・・。」
マーシャは、その小瓶の液を、少し口に含んだ・・・。
「・・・苦い・・、でも、・・・なんだか、・・・少し楽になったような気がします・・・。」
「そうか?!・・・よし、ルシア様・・・、これを・・・。」
「ありがとう・・・。」
ルシアは、その液を口にした・・・。
「―――この薬草エキスは・・・。」
「あの男が・・・調合してくれた。」
「・・・これだけの薬を・・・今、調合したと言うの・・・?」
「ああ、・・・俺は、薬草術士だからな。」
男は、マッキンベルにもその薬草エキスを飲ませていた・・・。
「薬草術・・・、でも、・・・この薬は・・・。」
「少しは、知っているみたいだな。・・・俺程度の力量じゃ、一瞬で完全に回復させるのは無理だ。ゆっくり回復させないとな。まず、湖のほとりに移動したい。それからだ。」
「見ず知らずの私達に、・・・なぜ、そこまで・・・?」
男は答えずに、飛竜の方を見た・・・。
「それに、・・・この飛竜には、・・・この薬程度じゃ、とても効かない・・・。」
「―――お前、・・・わしらを・・・・・。」
「気が付いたみたいだな。ああ、じきによくなる。・・・だが、この飛竜は―――」
「言わずともよいわ!!・・・もう、助からぬのだからな・・・。」
「なぜ、そんなこと言うんだ?!」
「あれだけ、あれだけわしがこの飛竜に、グランドカロメラルの霊草とまで謳われる薬草を与え続けて、ようやくあそこまで回復していたのだ・・・。もう、わしには・・・助けられぬ・・・。」
「霊草を持っているか?」
「・・・少しなら、持っているが・・。」
「俺に任せてくれ!!・・・俺なら、・・・救ってやれる!!」
「・・・なんだと・・?」
「どうだ?・・・歩けるか?!」
マーシャとルシアは、ゆっくりと立ち上がった・・・。
「はい・・・、とても楽になりました・・・。そ、その・・・ありがとうございます。」
「これからだ、大変なのは・・・。まだ、しばらく治療を続ける必要があるからな。まだ、礼を言ってもらうには早い・・・。」
「効き目が切れるのは・・・・長くて半日というところね。」
「ああ・・・、ホワイトラゴヌ湖の近くで一度テントを張る。・・・そこで本格的に治療を始める。この飛竜の乗り手の者は、飛竜のそばについていてくれ。―――ならば、そろそろ行くか・・・。」
その男は、ルシアを助けて歩き出そうとした。
「聞いてもいいか・・・?」
クロートは、その男に話しかけた。
「・・・お前の名と、―――その肩にいる者の正体を・・・。」
「―――お前には、・・・こいつが、見えるのか?」
「おもしれぇじゃねぇか。人間の奴ん中で、この俺が見える奴がいるたぁな・・・。」
その者は、姿を見せた・・・。
「しかし、・・・まずは、テメェから名乗るべきだろうよ?」
「お、・・・俺は、・・・クロート。・・・クロート=トゥリューブ。」
「私は、ルシア=ルカ=エディナと申します。あなたの名前は?」
ルシアからの問いに、その男と、―――その肩に居る何者かが答えた。
「―――薬草術士、アーシェル=ラストラル。そして、これは・・・」
「おう、・・・俺はラストル・・・。そうだな、・・・一応、『裁神』って神やってらぁ。どういうわけだか知らねぇが、今はこの人間が俺につるんでるらしぃがな・・・。」
「アーシェル・・・。」
「そ、その・・・わ、私は・・マ・・・マーシャです。その、助けていただいて、ありがとうございます・・・。・・アーシェルさん・・。」
「―――まぁ、いい。・・・しかし、なんで、見えたんだ?姿を消していたはずだが。」
「そういえば、―――そうか・・・。また、俺にも『幻』が見えるようになったのか。」
「その剣か・・・、そいつの力だろう・・・。」
「剣・・・このソードが・・?」
「しかし、俺はそんなことより、―――まさか、・・・こんなとこで出会うとはなぁ・・・。アーシェル、・・・その様子じゃ、気付いちゃねぇだろう。―――『悲劇の少女』。―――いや、『聖杖を持つ者』なんて奴が、こんなとこにいるってことになぁ・・・。」
「な・・・なぜ、・・・なぜそれを?!」
「お前は、・・・神ってのを知ってんだろ?お前が最初から俺に気付いてることも、知ってたのよ、修道女・・・。俺には、何でも分かるんだからなぁ・・・。」
「ラストル?―――聖杖を持つ者・・・、何のことだ?」
「・・わ、私の・・・ことです。」
マーシャが、そう答えた。
「マーシャ、・・・君が・・?」
「はい。」
「・・・・ラストルは、知っているんだな?」
「さぁな。・・・お前は、こいつらを助けんだろ?さっさとやってやりゃあいいだろう?」
「・・・あ、ああ・・。とにかく、行こう。話の続きは、後だ・・・。」
「はい・・・。」
4人は、ホワイトラゴヌの湖畔へと移動し、アーシェルの持つ、テントを設営した。3人は、それぞれ中で横になり、休息をとることにした。
「よし・・・。また苦しくなれば、ここに薬を調合しておいた。各自、飲んでおいてくれ。俺は、飛竜のところへ行って来るからな・・・。」
「本当に・・・すまない。」
アーシェルは、テントから外へと出て行った・・・。3人は、それからしばらくして、休息の眠りへとついた・・・。
アーシェルがテントに戻ったのは、辺りがすっかり暗闇に包まれる頃だった。だが、空は暗雲が晴れ、月明かりだけが湖を照らしていた・・・。
「・・・今、戻った。・・・変わりはないか?」
クロートとルシアは、静かに眠りについていた。
「いない・・・、もう1人は?」
アーシェルは、湖畔に出てみた。月明かりに照らされた湖は静かに、波ひとつ立つ事はなかった。そして、その情景の中で、1人の少女が湖のほとりにて、美しくも哀しく、祈るかの如く静かに舞う姿を見た・・・・。
アーシェルは、静かに座り、その姿を遠くから見ていた。
「はっ?!」
突然、マーシャはその姿に気付き、舞うのをやめた。
「どうして、やめるんだ?・・・続けていてくれ。」
「そ、その・・・。」
「思ってたよりも、・・・すぐ回復したみたいだな・・・。」
「・・・なんででしょうか?・・・急に、・・・懐かしいなぁって気持ちになって・・。・・あっ、・・・私、・・・どうしたのかな・・・。」
突然、マーシャの瞳から、一筋の涙が湖へと落ちた。
「こっちに来な・・・、隣に座れよ。」
マーシャとアーシェルは湖畔で二人、横にならんで座っていた。
「・・・俺もなんだ。・・・どうしてかは分からない。でも、君を見た瞬間・・・。―――今まで、俺達、出逢ってたはずは、・・・ないのにな・・・。」
「アーシェルさんは・・・・、どうして、・・・旅を?」
「―――目的はない。・・・ただ当所なく流離い続けている。・・・俺には、薬草術士の師に術を教わるまでの記憶がないんだ・・・。」
「記憶が・・・ない・・・?」
「忘れたのかもしれないし、そもそも、何もなかったのかもしれない・・・。・・・だが、俺は、俺の生きている、今のことだけで、十分なんだ・・・。」
「・・・。」
「『聖杖を持つ者』・・・っていうのは・・・、どういう意味なんだ・・?」
マーシャはしばらく、答えるのを戸惑っていた。
「・・・これが、聖杖です。私は、これを持ち、生きていかなければならないんです。」
「どうして?・・・あんな危険な目にあいながら、生きていく必要があるんだ?」
「―――私にも、・・・なんで、旅をしているのか、・・・どうして旅をしているのか、分かりません。でも、私は、クロートさんや、ルシアさんが、そばに居てくれるなら・・・。・・・たとえ、危険な目にあったとしても、・・・・大丈夫だと思っているんです。」
「そうか・・・・。」
マーシャは静かにその後を続けた。
「・・・ルシアさんに、言われました。・・・私が、クロートさんと旅を続けることは、―――私が抱える、過酷な運命を、クロートさんにも背負わせてしまうことだって。どんな運命が待っているのか・・・それは、教えてもらえませんでした。・・・でも、旅の中で、私は・・・・・、何度も、いろいろな敵に襲われました。それは・・・私が・・・・、・・・『聖杖を持つ者』・・だから・・・・。」
マーシャは、顔を伏せた。
「でも、クロートは、それが分かっていながら、一緒に旅をしてくれているんだろう?」
「・・・はい。」
「それなら、応えてやれよ。・・・クロートの気持ちに。」
「・・・クロートさんの・・・気持ち・・・。」
「マーシャ・・・。君が抱えているものを、・・・共に歩んでくれる人達は、一緒に、支えてくれているんだからな・・・。―――俺は、・・・おかしな質問をしたみたいだな。支えてくれる、仲間が・・・いるんだもんな・・・・。」
アーシェルは、湖畔に横になり、空を見上げていた。
「仲間か・・・、・・・俺には、・・・分からない。ずっと、・・・1人だったからな。」
「・・・。」
それから4日間、クロートらは、回復を待った・・・。
2015/06/10 edited (2013/06/05 written) by yukki-ts next to
No.49