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eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
聖杖を持つ者 ―第7幕― 第46章
「そんなことだとぉ?!」
「盗賊、お前、立場を理解しているのか?―――貴様らは犯罪者。・・・殺されても仕方がないだろ?」
クロートは、一瞬耳を疑った。
「なら、アートテルトの人間は?!・・・それに、俺達は、他の街でもお前等の名で、虐殺した奴のうわさをたくさん聞いてんのよ!!」
「―――その者達は、任務を果たしたまでだ。・・・それがどうかしたか?見事、任務を果たしたということではないか?」
「ボルアス殿!!」
クロートは叫んだ!!
「お前は、知らなかったのか?この国がしていることを。・・・知らずに、聖騎士団として動いていたとでも言うのか・・・。」
「どういうことだ?!・・・いったい、これは?!」
「用件がそれだけであるのならば、帰ってもらおうか。今、重要な用件を話し合いしているのでな。」
「重要な用件だと?」
「そうだなぁ、お前たちに関係ないわけでもない。・・・話を聞いていくといい。」
それから、ボルアスに1人の女性が近づいてきた。
「報告に参りました。」
「ああ。」
「よろしいのですか?・・・この者達の面前で。」
「構わぬ。」
その女は、紙を取り出し、それを読み上げた。
「―――例の計画は順調に進んでいる。そちらはどうであろうか?今回もまた周囲の国の近況を報告しておく。メラスの奴らは、相変わらず強情な姿勢を貫いている。この国の者には、本当に手を焼いている。中立の立場をとったところで、どうなるというのだ・・・。ローズハイムも似たようなものだ。あの女の行動は分からない。こちらの陣営につくともそれでないとも決めようとはしないし、手を組むべきかどうかは、慎重にならざるを得ないところだ。そういえば、ローズのあの女が気になることを言っていたな。異世界よりこの世を乱す者が現る・・・とな。教皇国が近くにあるのならば、そのような話を、既に耳にいれておるかもしれぬ。あの女が、そのような者の動きに気付いた時には、間違いなく、討伐隊を出すだろう。これは、今の時期にやられては、非常に厄介だ。仮にそのような話があっても、ローズのあの女の耳にだけは入らないように気をつけていただきたい。今が重要なのだからな。最後に、いつものように、裏切りの可能性のある者をここにリストアップしている。その処置は任せよう。優秀なお前の聖騎士団の手にかかれば、造作もあるまい・・・。また、数人の者に返事を持たせ、ターニアレフまで来るよう頼んでおこう。よい返事を待っている。」
「よし、ご苦労だった。・・・下がっていろ。」
「はっ。」
その女性は、まるで闇の中に溶けるかのように消えていった。クロート達は、ひとこともしゃべらず、黙って聞いていた・・・。
「俺は、この手紙のもとに、すべての任務をお前たちに任せている。内容を聞いてわかったであろう。・・・今、このアークテラスはターニアレフの国とともに、ある大きな計画を進めている。クロートよ、・・・お前も直に関わったのだからな。聞いたことがあると言ったな、―――ルト=レアノスの名を。」
「何を・・・何の計画を進めているのですか?」
ボルアスは急に笑みを浮かべた。
「いずれ分かることだ。・・・よし、クロート。早速だ、・・・お前に召集をかけよう。ならば、ローラに、ダーダネルも一緒がいいな。・・・用件はもう、言わずとも分かろう。・・・このリストに載る裏切り者を―――。」
「やめろ!!!」
クロートは叫んでそれを制した。
「どうした?」
「今まで、何十の人を、・・・そうして・・・。」
「数百、いや、もう、千になるか・・・。」
「おい、・・・貴様、・・・どういうつもりだ?!」
「盗賊、・・・お前は、なぜここに来た。お前の名など、ここには載っていない。・・・それとも、何か?牢にでもぶちこまれたいか?まぁ、もっとも、うちの聖騎士団の者に手を出した時点で既に、・・・十分、牢にぶちこむ理由は出来ているのだがなぁ・・・。」
「それが、お前等の答えだというんだな。」
「話を聞いていたのだろう?・・・その通りだ。誤りは特にない。」
「俺は、・・・俺は・・・そんなこと、・・・しねぇからな。」
「こうとも、付け加えておこう。お前が良く知る者達。・・・皆、この計画のために、
よく働いてくれているのだよ。」
「何だと?」
「本人から、直に聞いてみるといい。さぁ、もうよいだろう。離してやれ。」
盗賊たちは一斉に武器を取り立ち上がった。その誰もが怒り狂っていた。
「許せるか!!貴様らの勝手な計画のせいで虐殺されただと?何の裏切りだというつもりだ?!・・・貴様っ!!許せるものか!!」
盗賊の頭は、怒り狂い立ち上がって、武器をボルアスに向けた!!
「よし、いいだろう。・・・お前たち、行け。」
ボルアスは、周りに控えていた十数の聖騎士団を呼び出し、命令した。やがて、その者達は、次々に盗賊たちを捕らえていった。
「貴様らのような、犯罪者などに、我がアークテラスを陥落させることが出来るとでも、本当に思っていたのか?愚かな奴どもよ。」
ボルアスは立ち上がった。
「外が騒がしいようだな。・・・よし、外へ連れ出せ。」
外では、十数人のアートテルトの人間が、大声を上げ、武器を振り回していた。ボルアスと、その周りの盗賊たちを見た瞬間、その声が一瞬にして収まった。
「アートテルトの住人よ。・・・私達は、あなたがたには何もしますまい。ただ、この愚かな犯罪者にたぶらかされていたのだからなぁ・・・。」
アートテルトの人々は皆、黙っていた・・・。
「おとなしく帰ってもらおう。・・・したくはないが、もし、まだ何かあるというのであれば、ここまで出てもらおう。・・・ここの盗賊どもと同じ場所へ送ろう。」
アートテルトの人々はざわついた。頼りにしていた盗賊たちは一瞬にして、捕らえられてしまった。ここで逆らっても、何が出来るだろう。
今、逆らって捕らえられるくらいなら、・・・自分だけでも生きてやる・・。
大抵の者はそうであった。中には例外もいた。そのいずれも一瞬にして捕らえられた。
やがて、アートテルトの者は残らず、帰っていった・・・。
「よし。・・・牢へ連れて行け。」
盗賊と反乱者たちはみな、聖騎士に連れられ、牢にとじこめられた。騒ぎが終わったことを知ると、ほとんどの聖騎士はそれぞれ、自らの持ち場へと戻っていった・・・。
あとには、数名の者と、クロートだけが残っていた。
「クロート?」
クロートに最初に話し掛けたのは、ローラだった。
「来て。・・・お願い。」
クロートとマーシャは、ローラの部屋に入った。
「嫌なことは、眠れば忘れることができるわ。・・・だからいいの。でも、その前に、・・・はっきりさせておきたいの。」
「ローラ・・。」
クロートはゆっくりと尋ねた・・・。
「ローラも、・・・ローラもなのか?」
ローラはしばらくうつむいていた。
「ごめんなさい。」
クロートには、信じることができなかった。
「なぜ、どうしてそんなことを?!」
「でも信じて!!・・・私は、・・・私は・・・殺してなんかないわ。」
「でも、行ったんだろ?!」
「―――ええ。・・・でも、私は、・・・任務の途中で深手を負ってしまったの。だから、私は、何もしてないわ。信じて、お願い!!」
「ダーダネルは?・・・ダーダネルも行ったのか?」
この質問には、ローラはただうなずくしかなかった。
「私は、・・・ダーダネルから、今のことを、聞いたの。」
クロートは愕然とした。
「ダーダネルは、今まで何度もその任務に関わってるわ。きっと、ダーダネルは・・・。」
「どうしてだよ?なんで、そんなことを!!」
ローラは、クロートをまっすぐに見た。
「聖騎士団だからよ。・・・聖騎士団として、任務を・・・遂行したのよ。」
「ローラ、・・・ローラもそんなことを・・・。」
「なら、どうするの?!任務を放棄して、逆らうというの?!」
クロートは立ち上がった。
「なぁ、ローラ。」
落ち着いた口調に戻して、クロートはローラに尋ねた。
「どうしたの?」
「―――ターニアレフって、・・・この世界の北の果てにある国だったな。」
「ええ・・・、何をするというの?」
クロートは、剣を持ち、戸の方へ歩いた。
「ターニアレフに行く。・・・俺には、・・・納得が出来ない。」
「ちょっと待って!!どうするの?聖騎士団としての任務は?」
「俺は、俺の満足がいくまで、徹底的に調べる。」
「やめるっていうの?」
「そうとも言うのかもな。」
「考え直して!!今やめて、どうするというの?!」
「言っただろ?・・・ターニアレフへ行き、真意を確かめる!!」
クロートは、扉に手をかけた。
「1人で行くと言うの?!」
ローラは最後にそう言った。クロートはしばらく、考えていた。
「いや、―――1人じゃねぇな。・・・じゃあな。」
「クロート!!」
クロートは、その日からアークテラスを去った。そして、クロートの横には、杖を持つ少女もまた、共に歩いていた・・・。
「やはり、既にこの世に 聖杖を持つ者 は現れていたのね、それなら?」
「はっ。先日より、南方のアークテラス周辺において、それらしき反応がいくつも確認されています。ケルビムら、時空の者達も、そのようなことを確かに申しておりましたし、闇の住人たちの行動も不可解なものがありました。」
「ケルビム・・・。あの、 悲劇 に関わるものを追撃するという、あの、時空の者達が言ったのね?」
「仰せの通りでございます。」
「アークテラス、・・・セレンディノスだったのね、やっぱり。いいこと?・・・ 聖杖を持つ者 はこの世に災いをもたらす邪悪な存在。この世が再び乱れてくるのも時間の問題・・・。盗賊―――ルト=レアノスらの動きもおそらく、それに同調するもの。このまま放っておいたならば、・・・いずれ、この世は、滅ぼされてしまう・・・。」
「それでは、いかに?」
「皆を集めるの。・・・早く手を打たなくてはならないの。これから、 聖杖を持つ者 は、北上し必ずや、このローズハイムへもやってくるわ。その時に、・・・討伐するの。その存在を打ち滅ぼすのよ!!大きな戦いになるわ。・・・アークテラスとの戦争となるかもしれない。そう皆に伝えに行くのよ。」
「御意。」
アークテラスを去ってから、2日。向かう先は、遥か北方の国―――ターニアレフ。
もちろん、間にはアートテルトの街があった。だが、夜の寝静まる時間を待ち、何も関わらないようにして、その場所を去った。
「まずは、・・・ルシア様に会わないと。」
「―――どうされるのですか?」
クロートは、そう尋ねたマーシャに振り返った。
「どうして、俺についてきたんだ?あの時に、別れただろう?」
「だから、その・・・私は・・・・お別れを言うために・・・。」
「そうだろ?・・・だから、今は、ルシア様を探さなくちゃならないんだ。・・・1人だけで、放っておくわけにはいかないからなぁ・・・。」
「でも、それなら、・・・どうしてこちらの方に・・・。」
言われてみればその通りだった。既に、アートテルトの遥か北までやってきていた。最もルシアが居そうな場所と言えば、セレンディノスである・・・。
「だが、・・・もう、引き返せない。」
「もう、皆様のところへ、・・・戻られないのですか?」
「誰もそんなことは言ってない。ターニアレフで真意を確かめて、―――それから。」
「私も、話をずっと聞いていました。何か、大きなことが始まろうとしている。そして、そのために、たくさんの人が、・・・殺されてしまったのですよね?・・・どうして、殺されなければならないのですか?その大きなことを始めるために、それはどうしても必要なことなのですか?」
「何も、・・・俺には分からない。」
「今のままだと、もっと多くの人が殺されてしまうのではないでしょうか?それに、・・・それをしなければならないのは、クロートさんの―――。本当に、・・・正しいことなのでしょうか?止めるべきではないのでしょうか?」
マーシャは、必死に思っていることを伝えた。
「俺も、そう思うんだよ。」
ゆっくり歩きながら話していた。
「だから、ターニアレフに行って、これから起こることが正しいのか、間違っているのか調べたい。アークテラスにいるままでは、・・・きっと、真実はわからない。」
「私にも、・・・その、・・・手伝わせてください。」
「何を言ってるんだよ?・・・忘れたのか?マーシャは、たくさんの敵に狙われてるんだ。」
「はい。・・・そうでした。ごめんなさい。・・・知らないうちに、・・・また、クロートさんを巻き込んでしまっていたのですね。」
「今回のは、マーシャの責任じゃあないだろ?俺が、北に向かうと決めたんだ。・・・そして、ルシア様と出会った時に、本当にお別れをする。・・・そのために、一緒にいるんだろ?」
「でも、・・・ルシアさんは・・・。」
「あぁぁ、どうすりゃあいいんだ?!」
「心配する必要はありません。」
クロートとマーシャはその声に振り返った。
「ルシア様!!何故ここに?」
「クロート、・・・あなたは、北に行くのですね。」
「ああ。ターニアレフの地へ行く。」
「なら、私も、あなたたちについて行きましょう。・・・あなたたちの力となるために。」
「ルシアさん・・・。」
「何故ですか?あれほど、俺がマーシャとともに行動することを拒んでおられたのに。」
「これが、あなた達が選んだ道なのです。クロート、・・・あなたにとって、その子と、―――マーシャとともに歩くことは、想像を越えた、苦難の道を歩むことになるのです。マーシャ、・・・クロートとともに歩めば、必ず、クロートを苦しめることになります。あなたの背負う運命に、クロートまでも巻き込ませることになるのです。―――それでも、あなたたちは、自分で自分の歩む道を選びました。」
「わ、私は、・・・そんな・・・、クロートさんにご迷惑をおかけしたくなんてない・・・。」
「俺も、マーシャを、ルシア様のところへ送ることを目的にいっしょに歩いていたんだ。そして、今、俺はルシア様の目の前にいる。」
「クロート。・・・あなたは、北へ行くと・・・そう言いましたね。」
「はい。」
「マーシャも、北へ向かわなければならないのです。目的は、共に同じ・・・。私は、2人が、共に歩くことが最善だと思っています。」
「しかし・・・。」
「私は・・・。」
「―――この北にあるものを知っているの?」
クロートとマーシャは顔を合わせた。
「いいえ。」
「何があるのですか?」
「ここから北へ行くと、アークテラスの領土からローズハイムの領土へと変わるのです。」
「ローズハイム・・・。」
「そこで、何があるというのですか?」
「ローズハイムの国の女王―――カローナのことはご存知ですか?」
「カローナ・・・女王?」
「今の状況から、先に伝えましょう。・・・ローズハイム義勇軍が、アークテラスの方向へ向かい、侵攻を開始したのです。」
「な、何?!」
「なぜ、そんなことをするのですか?」
ルシアは、マーシャのことを見た。
「あなたの討伐を目的としています。」
「どういうことだ?それは!!」
「女王カローナはかねてより、マーシャ――― 聖杖を持つ者 がこの世に現れることを、予言していました。そして、それと同時に 聖杖を持つ者 がこの世を滅ぼす存在である、そうとも予言しました。そして、今。マーシャがこの世に現れたことに気付いた。―――そして、滅ぼすならば今、・・・この時に・・・。」
「そんな・・・・。」
「なんで、マーシャが・・・こ、この世を滅ぼすなんてことに・・・・?」
「クロート、・・・あなたは、悲劇 というものを聞いたことがありますか?」
クロートはその言葉と、ある出来事を結びつけることが出来た。そして、急に、真剣で暗い表情になった・・・。
「ああ・・・、聞いたことがある。・・・どんなものかも、俺は知っている。」
「先に言いましょう。隠す必要などない・・・、いえ、正確に言いましょう。―――隠したところで、もう、意味を成さないのですから。・・・マーシャは、かつて 悲劇の少女 と呼ばれていました。」
クロートの表情に驚きが加わった・・・。
「マーシャに、記憶はありません。・・・いえ、むしろ、今ここにいるマーシャは、悲劇の少女 であったマーシャとは、別人である・・・そう言うべきかもしれません。」
「良く分からない、・・・けど、今は、そんなことはどっちでもいい・・・。北へ行くためには、どうしても、ローズハイム義勇軍にすれ違わないといけない。そういうことになるのですね?」
「あなたは、・・・自分の道を信じているのですね。あなたが歩んでいる道を・・・、・・・そして、共にその道を行く者を・・・。」
「ああ。・・・信じている。」
「マーシャ。あなたは、クロートを信じてあげなさい。クロートは、あなたを信じてくれている。今、信じられるものは、他にないのです。・・・行きましょう。北の地へ。あなたたちの選んだ道を、まっすぐ進んで・・・。」
こうして、クロート、マーシャ、ルシアの3人はアークテラスの地から、新たなる地―――ローズハイムの領土へとやってきたのだった。
「ここから、北へずっと平原が広がるわ。・・・そして、この平原のさらに北にローズハイムの街、そして城があるの。―――分かるわね、・・・ローズハイム義勇軍は、この平原にいることになるのです。」
「ここを超えればいいんだな。・・・それなら、早く行こう!!」
「落ち着いて考えてみなさい。」
ルシアは、クロートを制した。
「あの者達の目的は何ですか?」
「 聖杖を持つ者 を討伐すること・・・。それならば、マーシャさえ、奴等に見つからなければ、話は済むはず・・・。」
「そういうことになるわね。・・・そして、義勇軍には、マーシャの姿は、決して見つけることは出来ない。」
「決して?」
「忘れないで。・・・マーシャは、普通の者には見えないの。今、ここにいるのは、あなたと私・・・たった2人なの。」
「それなら、なおさら好都合なのでは・・・?」
「ええ、これ以上の好都合な条件は揃わないわね。マーシャが見つからないまま、私達は、ここを通り過ぎるわ。そうすると、・・・どうなるかわかる?」
ルシアは、クロートを試すかのように見つめていた・・・。
「―――目的は果たされてないのだから・・・、ん?」
「そう。・・・アークテラス全土が、・・・戦乱に巻き込まれることも十分、あり得るのよ。」
「そ、そんな?!」
「でも、もう、道は決めた。・・・そうよね?」
「お、・・・俺達は、・・・き、北に行く・・・。」
「戻ることは許されないの。・・・例え、自分たちの横を既に 聖杖を持つ者 が通り過ぎたことに気付かず、より南へと進んだとしても・・・。」
クロートは、黙り込んだ。
「もう、後戻りはできないの。」
「―――迷ってる場合じゃない。・・・マーシャと、・・・北に行くんだからな。」
「迷いはないのですね。・・・分かりました。では、行きますよ。」
3人は、その広大な平原の遥か北方を目指し、歩き続けた。そして、やがて、その先頭集団を見つけたのだった・・・。
「これから先は、何があろうと、動じないのです。無事、マーシャをこの平原より北の地へと連れて行くことだけを考えなさい。仮に、万が一、戦闘になったとしても、マーシャのことはバレないようにするの。―――マーシャ、あなたは、ここでは何もしないのです。今ここにいるのは、私と、クロートのみであると敵に思わせるのです・・・。」
「分かりました。」
「ああ、・・・行こう。」
クロートらは、やがて先頭集団とすれ違おうとしていた。
「ん?・・・旅の者か?」
「はい。」
「これから、北へ向かおうとしております。ところで、これから何をなさるのですか?」
「ああ、・・・女王様から、討伐命令が出たんだ。」
「討伐・・・?」
「この世を乱す、邪悪なる者らしい・・・。お前たち、南から来たのだったな。何か、気付いたことはあるか?」
「い、いえ、・・・そういうことはあまり・・・。」
「そうか。・・・わかった。・・・しかし、なるべく早く、ローズハイムまで行くんだ。戦いに巻き込まれたくなければな。」
「はい、わかりました。・・・がんばってください。」
「ああ、ご声援ありがとう。・・・じゃあな。」
「いいわよ、・・・今のような感じでやりすごすの。」
「ああ。・・・しかし、そう、うまくいくものなのか?」
「―――中には、疑り深い者もいるでしょう。マーシャの姿を見ることが出来る者が、いないとも言い切ることは出来ないわ。・・・その時には、もう、戦うしかない。」
「ああ・・・。そうだ、・・・サンドゥラゴルは・・・?」
「あの後、私の元へ来たわ。・・・この子を一番、活かすことが出来るのは、あなただけよ。・・・今から、召喚しましょうか?」
「そうだな、・・・よろしく頼む。―――なるべく長いこと一緒にいるのが、自由に操るための最善の方法だからな。」
「いいでしょう。・・・怒り狂う雷の化生、我等に力を貸したまえ!サンドゥラゴル!!」
3人は一斉に走り始めた!!
「だんだん、増えてきたわね。」
「とにかく、関わらなければ問題はないんだからなぁ。」
「おい、そこのお前等っ!!」
突然、クロート達は、数人の兵士に呼び止められた。あまりに急だったため、クロートはとっさに、剣にサンドゥラゴルを宿らせてしまった。
「ま、待て!!・・・何も、危害を加えようというわけでない!!」
「クロート、・・・そんなに焦らないで・・・。」
「す、すまない・・・。」
「ここで何をしているんだ?」
「私達は、ここから北・・・ローズハイムを目指して歩いています。」
「ローズハイムかぁ。俺は、一体いつになったら、またあの街に帰れるんだろうなぁ。おっと、これから討伐に出るってのに、そんなこと言ってる場合じゃないよな。まぁ、がんばれよ。何もないとは思うからさ・・・、急に、剣を構えないでくれよ。こっちだって、そんな急にやられると、びびっちまうからさ・・・。」
「はは、・・がんばってな。」
「お前たちもな。」
「ちょっと待った。」
「ん、どうした?」
「いや、気のせいか、・・・誰かが・・・見えたような気がしたんだ・・・・。」
「何言ってんだ?・・・男が1人と、女が1人だろ?」
「だよなぁ。」
「そういえばさぁ、俺達が討伐するのって、女なんだろ?」
「聖杖を持つ者 って奴だろ?・・・うわさじゃ、なかなかの女らしいぜ。」
「―――は、それで、うちのが嫉妬したかぁ?」
「おいおい、そんな恐ろしい事言うなよ。うちの女王より美しい奴がいるか?この世に。」
「けっ、よく言うぜ。」
「うわさじゃ、ホントに昔は、自分より美しい奴は消してたってくらいだしなぁ。」
「お前、さっきからうわさばっかりいいやがって・・・。」
「って、いつまでも雑談してる場合じゃないだろ?」
「ほーい。」
「まぁ、そういうことだ。・・・まぁ、がんばれよ。」
兵士達は去っていった。
「ルシアさん・・・?・・・私、見えていたのでしょうか?」
「言ったはずよ、見える人が全くいないなんて、言い切れないの。」
「しかし、・・・いちいちひやひやさせるんじゃねぇよ・・・ったく。・・・先に進もう。・・・いつまでも、こんなとこにいたくないからな。」
その次の瞬間、クロートは信じられないことに気付いた。
「居ない。ちょっと待ってくれ、・・・マーシャが、・・マーシャがいない!!」
あわてて、ルシアはクロートの口をふさいだ。
「大声を出さないで。気付かれるでしょ!!」
「どうした?・・・何かあったか?!」
ルシアとクロートははっとして、その方を振り返った。何人かの兵士が再びクロート達に近寄ってきた。
「い、いえ・・・。なんでもないわ・・・。き、気になさらないで・・・。」
「聞き違えただろうか、・・・今、・・俺達が討伐しにいく 聖杖を持つ者 の名前が聞こえたような気がしたんだ・・・。」
「ああ、・・たしか、マーシャ・・・という女らしいな。」
「何か知っているのか?・・・それなら、教えてくれないか。」
「居ないんだよ!!」
「クロート!!」
「居ない?・・・何を言ってるんだ?」
「で、・・・ですから、・・・本当になんでもないのです。」
「なんだよ、いないのかよ。・・・せっかく、いるのかと思って近づいてみたのによぉ。」
「けっ、せっかく喜んでたのに。」
「はぁ、早く見てみてぇよなぁ、・・・だって、信じられないくらい可愛い娘なんだろ?・・・討伐だなんて、・・・うちの女王ならではだよなぁ・・・。」
「とにかく、見かけたら、さっきのように大声で呼んでくれ。喜んで駆けつけてやる。」
「よし、先へ進むぞ。」
兵達は先へとすすんでいった。
「もう、落ち着くのよ。」
「し、しかし・・・。どうしたってんだろう。なぁ、マーシャ。・・・どこにいるんだ?」
クロートは小声で尋ねた。
「ちょっと、・・・本当に見えないと言うの?」
「どうなってるんだ?」
「マーシャは、クロート。・・・あなたの後ろよ。・・・ずっと呼びかけているじゃない。」
クロートは振り返った。・・・何も見えないどころか、声すら聴く事ができなかった。
「とにかく、今は先へ進むことを考えて。また見えるようになるかもしれないでしょう?」
「そ、そうだな・・・・。わかった、行こう・・。」
そういいながら、クロートの頭の中には、再びマーシャを見ることが出来なくなってしまったら、どうすればいいんだ・・、という不安ばかりがめぐっていた・・・。
「見えたわ。・・・最後尾。・・・あれさえ無事越えれば、少しは安全になるわ!!」
「ああ・・・、とにかく、急ぐぞ!!」
最後尾の者達に少しずつ近づいていった。クロート達は、とにかく、気付かれないよう気付かれないようにと願いながら、その場から立ち去ろうとしていた・・・、だが―――。
「待て・・・。」
「ど、どうなさいました?・・・アガサ殿?」
「お前と・・それにお前だ。・・・俺についてこい。他の者は先に行け。」
クロートとルシアは、その場で足を止めてしまっていた。・・・アガサという者の放った殺気に気付いたのだった。
「旅人のようだな?・・・俺は、ローズハイム義勇軍2番隊隊長・・・アガサという。―――これより、ローズハイムへ入るというのか?」
「ええ、・・・そのつもりです。」
ルシアは落ち着きはらって答えようと懸命に努力した。
「どうした?・・・何故、そこまで緊張している?」
この場面で緊張するなという方が無理があった。ルシアは少なくとも、これが危険の前触れであることに気付いていた。最悪、この者には、・・・マーシャの姿が見えているのではとさえ思っていた。
「ローズハイムへは、何の用で来た?」
「―――そ、それは・・・。」
「どうした?言えないのか?」
「俺は、北へ向かっているんだ。・・・ローズハイムよりも北の国に!!」
クロートは急いでそう答えた。
「ほう・・・、ローズハイムよりも北・・・。―――メラスか?ターニアレフか?」
「ターニアレフだ。」
クロートは躊躇することなくそう答えた。しかし、サンドゥラゴルの宿る剣を強く握り、いつでも構えがとれるようにしていた。
「それは残念だったな。ローズハイムから北へ逃亡―――いや、これは失礼というものか?・・・北へ抜けるのは、不可能だ。」
「ど、どういうことだ?」
「お前たちも、アークテラスの方から来たのであれば、悪いことは言わない。ローズハイムでしばらく、どれほどの間かは分からぬが、留まってもらわなくてはなぁ。」
兵士の1人が前に出てきた。
「女王陛下の命により、前々からメラスとの間の国境は封鎖されているのだ。あの門を通らぬ限り、ローズハイムより北に行くことはかなわぬ。最も、北のあの高山を越える自信があるのなら、関係はないだろうがな。」
「そういうことだ。・・・仮に、俺達がこの平原で見つけられなければ、そうだ。・・・お前たちの故郷である、アークテラスの地は戦火に包まれることになるだろうなぁ。・・・つまり、もはや、奴に逃げ場はないのだ。」
「それじゃあ、・・・北にいけないと・・・。」
「仮に、俺たちをかいくぐり逃げたとしよう。そうすれば、俺達がアークテラスの地を蹂躙した後、ローズハイムを隅から隅まで探しあげ、見つけ次第八つ裂きにするのよ。」
「袋のねずみって奴か。」
「確実に討伐するための手段だ。さて、長い間、話につきあわせてしまったようだな。」
「私達に、・・・どうしろと言うのです?」
「言いたいのは、それだけだ。・・・なんだったらもう一度繰り返してやろう。―――ここで、見つかってしまえば、そいつを八つ裂きにするだけですむ。もし、俺達が、そいつを見逃しちまえば、アークテラスを戦火に包んだのち、いずれにしても、ローズハイムの地で八つ裂きにする・・・。・・・お前たちは、・・・どちらの方が、賢いと思う?どうだ・・・。」
兵士達は、低い声で笑っていた。
「お前等、・・・アークテラスを蹂躙する・・・だと・・?お前らじゃあ、・・・マーシャは見つけられやしない・・・。このままじゃ、アークテラスは、―――戦火に包まれちまうのが、目に見えてるじゃねぇか。」
アガサは、クロートを蔑むかのような表情で笑いながらこう言い放った。
「それなら、運がよかったなぁ、お前。・・・聖杖を持つ者 1人のせいで、街中火の海になっちまうって時に、偶然、たまたま、・・・・逃げてこれたんだからなぁ。―――せいぜい、ローズハイムで、死んだ友達の墓でもつくってるんだな。」
「貴様らぁ、・・・許さない!!」
「クロート、待つのよ!!」
「どうした?・・・やるというのか?・・・俺達は、お前達を見逃すといっているのだ。」
「クロート、ここで戦うことに意味はないのよ!!」
「だが、・・・どうするんだ?これから!!・・・北に、・・・進めないだと?これじゃあ、もう、・・・どうしようもないじゃないか!!」
「さて、俺達も、・・・本隊に戻るか。」
「待て・・・。」
「クロート!!」
「お前等、・・・手を貸せ。・・・この命を粗末にする野郎を、後悔させてやるわ。」
「けっ、・・・せっかく、アガサ様がひろってくだすった命を捨てやがって!!」
「他人にひろわれる?!・・・ふざけるな!!自分の命は自分で守る!!捨てるかどうかは、・・・他人が決めることじゃねぇんだからな!!」
クロートは、剣を構えた。ルシアも、戦闘態勢をとった。
「―――もう1人、・・・いるんだろ?」
「気付いてんのか?」
「クロート!!」
「愚か者め。やはり、ここにいたのだな!!・・・姿を消しているか?・・・・まぁよい。・・・まとめて滅ぼしてくれるわ!!!」
アガサは剣を抜いた。
「・・・何も気にせず、とっとと行けば、聖杖を持つ者 と共に、生き長らえたものを。どうしたという?・・・国を捨てたんじゃないのか?お前。」
「国を・・・捨てるだと?」
「・・・お前、聖杖を持つ者 の方につくことの意味を・・・理解しているのか?」
「俺は・・・。」
「まぁよい。・・・地獄で、自分の冒した過ちを反省していろ。」
アガサは猛烈な勢いで斬りつけて来た!!クロートは、必死に剣でそれを受け止める。
「・・・お前、力負けしてるぜ・・・。剣、・・・もう、うごかせねぇだろ?」
クロートがいくら力をこめても、・・・剣はびくともしなくなっていた。
「行きなさい!!」
ルシアが、あの白い召喚獣を右手から放出する!!アガサは後ろに飛び、それをかわす。
「こちらから行くぞっ!!」
サンドゥラルライナーを放つ!!それを剣で受け止めるが、電撃が包み込む!!
「さあ、行くのよ!!」
今度は、ルシアが再び右手から白い召喚獣を放出する。しかし、それはひとすじのものではなかった。網状に広がり、敵3人全体を包み込んだ!!
「・・・ア、アガサ殿!!」
アガサは剣でなぎ払い、それらをかき消した。
「召喚魔術か・・・。それならば、いくぶん、対応をかえなくてはならないな。」
アガサは剣を持ち替えた・・・。クロートはそのまままっすぐ雷獣の宿る剣でアガサに攻撃する!!アガサは無言で、それを剣で受け止める。
「2度、同じことを繰り返すか!!」
瞬時に、力を抜き即座にサンドゥラルライナーを放つ!!
「―――何?」
剣はアガサにヒットしたが雷撃は攻撃に伴わなかった。
「どうした?!・・・さっきの攻撃は、一体なんだ?」
「行きなさい!!」
ルシアはまた白い召喚獣を前方に放つ!!最初は、1本のすじだったが、当たる直前に、無数に分裂する。それらは、確実にアガサの目の前まで到達した!!
「・・・消えた・・。」
アガサらは、不敵な笑みを浮かべた。
「・・・では、こちらから行かせてもらおう。」
3人が1度に剣を大きく振りかぶり斬りかかる!!クロートがそれを剣で受ける!!
「さて・・・、これからお前をどうしてやろうか―――」
その時、3人の中の1人が背後から何かに攻撃された!!
「な、誰だ?!」
その瞬間に、クロートはサンドゥラスパイラルを放つ!!直後に、その雷撃はかき消されるが、アガサは、クロートから1歩離れた!!
「覚悟しなさい!!」
その隙間から、ルシアの蹴りが炸裂した・・・。突然の攻撃は、アガサに直撃した!!
「くらえっ!!」
クロートが剣を真っ直ぐ突く!!直後にその背後からルシアの回し蹴りが決まる。
「グッ・・・。」
「・・・魔法だけじゃないって・・・わかったかよ?」
「―――アークテラスへ行けば、これ以上の者がいくらでもいるの。この程度なら、・・・行くのをやめることね。」
「おのれぇっ・・・、がはぁっ・・・。」
アガサはそのまま地面に倒れこんだ・・・。
「ア、・・・アガサ殿・・!!!よ、よくも・・・!!」
「まだやる気があるのか?」
2人は、さっと後ろに身をひいた。
「・・・何をすべきか、・・・あなたたちは、・・・わかっているわね。」
2人は、慌ててアガサを連れ、逃げていった・・・。
「・・・また、助けられたな。」
クロートはサンドゥラゴルを解放しながら、ルシアに話し掛けた。
「―――あの者、・・・時空魔導師の能力を、・・・なぜ持っていたのかしら。」
「・・・時空魔導師?」
クロートは、それをどこかで聞いたことがあった。
「・・・私達の魔法が、・・・あの者に当たった瞬間、消え去った・・・。―――時空魔導法の一つに、あの防御法があるわ。ありとあらゆる力を、干渉させる。」
「そんな奴が、・・・義勇軍隊長に・・・。」
「恐らく彼は、・・・この能力で生きてきたのでしょう。術士にとって、今の防御法をとられてしまったが最後。傷ひとつ、負わせることができなくなるのですから・・・。」
「・・・とにかく、・・・今は、先へ進もう。―――それしかない。」
クロートは、立ち上がった・・・。そして、そのまま動きを止めた・・・。
「―――見えた・・・。」
ルシアはクロートの向く方へ、顔を向けた。その瞬間、自分の目を疑い声を失った。
「あなた・・・。」
「どうなされたのですか?・・・わ、私に・・・何か・・・?」
「い、いや・・・。また、・・・マーシャのことが見えるようになって、よかったなぁって・・・俺は。・・・しかし、なんで見えなかったんだろうなぁ・・・。」
クロートは笑顔を取り戻した―――、・・・しかし。
「ルシア・・・さん?」
「あなた、・・・姿が―――。」
「ど、・・・どうなっているの・・・ですか?」
「・・・姿が、・・・隠されてないわ。」
マーシャとクロートは、言葉をなくした・・・。
「そ、・・それじゃあ・・・。」
「考えられることは2つ。・・・杖が力をなくしたか、・・・杖が隠せる以上の力が・・・、マーシャに戻りつつあるということ―――。いえ、そう考えるべきだわ・・・。」
「わ、・・・私は、・・・どうすれば・・・?」
「今まで、あなたは無意識の内に、・・・幻の力を借りその姿を隠していました。もはや、・・・幻のみに頼るわけには、・・・いかないのです。」
「・・・私は・・。」
「これを使うんだ。」
クロートは、大きな布のようなものをマーシャに手渡した。
「・・・少なくとも、ローズハイムにいる間は、・・・顔を隠さなきゃダメだ。」
「そうね、・・・こうなった以上、あなたであるということが分からなければいいのよ。今までも、幻に守られていたとはいえ、あなたの存在を見る者がいたのですから。」
「わかりました。」
マーシャは、その布で頭から顔全体を隠し、目のみが外から見えるようにした。
「必ず、私の背後から、離れないようにしなさい。いいわね?」
「はい、わかりました。」
こうして、3人はローズハイムへと入ったのだった・・・。
2015/01/28 edited (2014/06/17 written) by yukki-ts next to
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