[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

聖杖を持つ者 ―第7幕― 第45章

 アークテラス内で、その姿を見かけたものが、いよいよ現れ始めた!!闇の波動を放つものが、ついにこの地にまで及んだのである!!
「とにかく、迎え撃つ準備をするんだ!!」
「まだ、今なら、敵の力もそれほど高まっていない。  先手必勝だ!!今なら、まだ奴を滅ぼせる!!」
「―――早くしろ!!・・・奴の力が、大きくなる前に打ち倒すんだ!!」



 クロート達が一段落ついた頃には、既に夜が明けようとしていた。
「おそらく、今のが第2陣ね。」
「少なくとも、ここまでは、犠牲者を出さず、全員を止めることに成功した・・・。」
「―――いい加減にしてくれよ・・・。あと何十人来るってんだよ?」
 クロートは、大きな音を聞いた!!
「アークテラスからだ!!」
「まさか?!・・・誰か、俺達の目を盗んで?」
「―――今まで、気付かなかったなんて!!」
「ど、どうしたんだよ?ジェシカ?」
「大変よ!!・・・とにかく、戻りましょう!!」
「な、何があったんだ?」
 ジェシカが、クロートの方を向き、早い口調で話した。
「闇の波動。・・・襲撃されてるのよ!!」
 闇の波動という言葉を聞いた瞬間、クロートは愕然とした。
「まさか・・・、そんな、もう来たのか?!」
「とにかくだ!!早いこと、戻って加勢しなけりゃ・・・。行くぜ!!」
 ラノールらがアークテラスへ向かい急いで帰還しはじめた。
「お、俺達が、・・・こんなことをしているうちに・・・。」
「私達は、任務をこなしていただけよ!!・・・それに、聖騎士団の力を
 クロート、あなたも知ってるでしょ?」

「とにかく、戻るんだ。」
 ジェシカらのあとから、クロートも追いかけていった。
「俺が、・・・俺がもっと早く、任務を終わらしてさえいれば!!
 ・・・頼む、・・・ローラ!!無事でいてくれ!!!」




 クロートが、アークテラスにたどりついた時、クロートは、ルシアの姿を目撃した。
「クロート!!・・・あの子は?今どこにいるのです?!」
「城内だ・・・。・・・信頼のおける仲間に任せてある・・・。」
「ならば、今すぐ向かうのです!!・・・一刻も早く、ここへ連れてきなさい。」
「分かった!!必ず!!」
 クロートは、一心不乱にローラの元へと急いだ!!
「クロート!!・・・気をつけろ!!こいつらの力は、半端じゃない!!」
 途中、クロートに襲い掛かろうとするいくらかのモンスターに遭遇したが、激しく
斬りつけながらも、その場にとどまることをせず、ただひたすら、走り続けていた!!



 ローラもまた、結界を張り続けていた・・・。
「強力な結界ですって?―――冗談じゃないわ。これが、私の扱える、最大の結界術。・・・でも、もう限界よ。・・・これ以上、力は抑えられない―――」
 ローラの全身全霊を込めた結界も、もはや、これ以上保つことは、不可能に近かった。 また、いくらかの闇の気配を放つものが、この結界の周りに集まってきていることにも、 ローラは、気付いていた。・・・もはや、結界を解けば、ローラも、無事にすまない状態に 追い込まれていたのだった・・・。
「クロート!!・・・お願いよ!!・・・早く、早くきてっ!!!」



「ちくしょう!!どけろっ!!・・・邪魔だっ!!」
 しかし、もはや数多くのモンスターが、クロートの行く先をふさいでいた・・・。
「おのれぇ・・・、許さねぇ!!」
 クロートは、剣で斬りかかった!!何人かの者も、それを見つけ加勢したが、 相手の数があまりにも多すぎた!!そして、・・・敵の力も、想像を絶するものだった。
「大丈夫か!!」
「くっ・・・、これしきの傷でうろたえるものか!!」
「ローラ!!・・・ちくしょう!!・・・このままじゃああ!!!」



 クロートは、その時、何か白いものが、敵全体を貫くのを目撃した・・・。 それらは、まるで自分自身が、敵を見つけようとする生き物であるかのように、 猛烈なスピードで、突き進んでいった!!
「こ、これは・・・、いったい、何だ?!」
 アークテラス全体で、その白いものは目撃されていた。 そして、それらは、溢れかえるモンスター達を次々と倒していった・・・。
「ローラっ!!」
 クロートは、ローラの部屋の扉を一気に開け放った!!
「クロート、・・・あなたの言うことは・・・守ったわよ・・・。―――最後まで、・・・結界を―――。」
 結界術を解き、すべての力を失ったローラはゆっくりと倒れこむ。
・・・クロートは、それをやさしく抱き止めた。
「すまない、俺が、・・・俺が・・・。」
 しかし、すぐにクロートは、我に帰った。
「―――行くぞ。・・・もう、ここもダメだ!!」
「分かりました!!行きます。」
 クロートは、ローラを抱きかかえ、少女の手を引き、急いでルシアの元へと戻った。



「無事に連れてきた!!・・・これから、どうすれば。」
「落ち着きなさい。・・・アートテルトへ向かいなさい。  ―――森の中にセレンディノスの管理している塔があることを知っていますね?  そこへ行くのです。・・・また、あの者達が来るまで、もう、時間がありません。」
「ああ・・・。」
「待ちなさい。その方を、ここへ。」
 クロートは、ローラをルシアの元にゆっくりと下ろした。
「このようになってまで、―――ご苦労様でした。ゆっくりとお休みなさい。」
 ルシアとローラを、優しい、そして激しく輝く聖なる光が包み込む・・・。
「行きなさい。私も、すぐに向かいます。」
「ルシア様、・・・先程のは、・・・やはりあなたが・・・?」
「―――私は召喚術士としての力を持ちます。あれは、私の中に宿るものの一つ。さぁ、行きなさい!!あなたのために、命をかけたあなたの信頼する仲間のためにも!!」

 クロートは、少女とともに、森へと入った。
「わ、私・・・、何も出来なかった・・・。」
 少女は、沈んだ声でそう言った。
「―――私のせいで、皆さんを・・・、クロートさんを、・・・それにローラさんを。私のせいなのに、・・・私は、何も出来なかった・・・。」
「自分をそんなに責めるんじゃない・・・。」
 クロートは静かな声でそう話し掛けた。
「きっと、これからも、私は、・・・多くの人を悲しませてしまうでしょう。そして、・・・いずれは、激しい戦いに皆さんを巻き込んでしまいます・・・。」
「なんで、そんなことを・・・?」
 少女は、静かに瞳を閉じて、クロートに告げた―――。
「これは、定めなのです。・・・私に運命付けられたこと。―――この杖を持つ者が、たどることになる末路―――。」
 クロートは、何も言えず、黙って歩いていた。






 第2陣のあとは、しばらくアートテルトからは何もなかった。しかし、どこかで、 このままでは終わりにはならないだろうという気もしていた。
「見つけた・・・、ここだ。」
 アートテルトから程近い森の中に、その荘厳な塔は存在していた。
「ここの中に入る・・・。」
「待ってください。封印がかかっています・・・。」
 少女は、扉に手をかけ、何かの魔法を唱えた。鍵穴が一瞬輝き、やがて、カギが外れた。
「ありがとう・・・。」
 塔の中は、聖なる力で満たされていた。足音だけが、塔内にこだましていた・・・。
「ここで、・・・一体、何が・・・あると言うんだ・・・?」



 クロートは、ある部屋へと足を踏み入れた。直後に部屋の中の存在に気が付いた!!
「モンスターか?―――いや、・・・あれは・・・。」
 それはクロートに対して襲い掛かってきた!!最初の一撃が、クロートに当たる!!
「下がるんだ。・・・これは、召喚獣・・・。」
 その召喚獣は、地面に降り立つと同時に激しい雷撃を放った!!
「雷獣か!!」
 クロートは剣を構え、攻撃に備える―――、その時、少女が一歩前へと出た。
「な、何を?!」
 その次の瞬間、猛烈な雷撃がクロート達に襲い掛かった・・・。



「―――な、何が起こったんだ?」
 その手に持つ杖は、少女の目の前に魔方陣を描き、それが、すべての雷撃から、 クロートらを守っていた・・・。
「俺を・・・守ってくれたのか?」
「またきます!!」
 召喚獣は、両腕に稲妻を宿らせ、一気に、クロートに近づく!!
「こちらからも行く!!」
 クロートも、その攻撃に応じ、反撃をしかける!!しかし、召喚獣の攻撃の方が、 一歩早かった!!猛烈な電流がクロートの体をかけめぐる!!!
「っっああ!!!」
 すぐさまクロートの体に小さな手が触れた。その瞬間、まばゆい青い光が輝き、 少しずつ、体を癒していった・・・。
「また、来る・・・。―――こうなれば、・・・やるしかない!!」
 完全に回復しきらないまま、クロートは、再び対峙した!!しっかりと、 剣を握りしめ、その召喚獣をにらみつける。召喚獣が再び、行動を起こした!!
 クロートらに、再度、雷撃を放とうとする!!
「手を出すな!!・・・俺に考えがある!!」
「はい!!」



 やがて、召喚獣が雷撃をクロートに対して放った!!クロートは、剣を握り締め、 その雷撃を目を見開いて見続けた!!
「―――召喚剣術、雷の構え―――サンドゥラルライナー!!」
 雷撃が直撃し、体中に再び電流が流れるのを、感じていた。しかし、目を見開いたまま、 クロートは、剣にほんのわずかでも雷が宿ったのを感じた・・・。
「くらえっ!!」
 クロートは、一気に駆け寄り、剣を振りかざした!!その攻撃が直撃し、召喚獣は、 背後の壁に激突した!!
「よし、・・・思った通りだ。・・・攻撃を跳ね返せる!!」
 しかし、リスクもまた大きいことは明白だった。体中から、雷撃のショックにより、 大量に出血をしていた・・・。
「クロートさん!!ダメです、それ以上戦えば!!!」
「いや、タイミングはわかった!!」
 怒り狂う雷獣は、猛烈なスピードでクロートに近づき、一気に切り裂いた!!
「もう一撃、・・・もう一撃くらわすことができれば!!」
 さらなる攻撃を、クロートは、剣で打ち払う。
「来い!!次で、決める!!」



 やがて召喚獣は、再び猛烈な雷撃を放とうと、全身から、力を集めていた。 当然、これを食らえば、ただではすまされないだろう・・・。 しかし、より強い雷撃をたくわえれば、・・・より威力は増す・・・。
「―――召喚剣術、雷の構え―――サンドゥラルライナー!!」
 雷撃が放たれると同時にクロートは剣を構えた―――、その視界の先に少女の姿が入る。
「な、・・・何を・・・。」
「クロートさん!!・・・私の後に、・・・攻撃してください!!」
 無数の光の輪―――。その杖から放たれる、その輝く青い光の輪が召喚獣を襲う。 その間にクロートは、雷撃を全て剣に宿らせた!!
「離れろ!!!」
 少女の姿が視界から消えたと同時に、クロートは剣を振りかざす!! ・・・猛烈な雷撃をともなう攻撃が、召喚獣にヒットする!!
 すべてが静寂に戻った時、その雷獣は、クロートの周りに宿っていた。
「召喚獣・・・。しかし、俺は、ローラがいないと、お前を使うことは出来ない。」



 クロートたちは、再び塔の上階を目指し、歩き始めた。螺旋階段をゆっくりと 上がっていくにつれ、だんだんと聖なる力が強まっていくのを感じた。
「最上階には、何があるんだ・・・?」
 クロートたちは最上階へとたどり着いた。聖なる光をたたえるさまざまな装飾品に 飾られた、祭殿のような場所だった・・・。
「―――あれ?・・・杖が・・・。」
 杖が突然、不思議な光を帯びた。やがてそれらは、少女を少しずつ取り囲み始めた。 その姿が、・・・少しずつ、この世に実体をあらわし始めた・・・。

「始まったわね。」

 クロートは、階段の方を振り返る。そこには、息を切らし・・・しかし、 そこで起ころうとすることを真剣に見ているルシアがいた。
「いったい、何が始まるんだ?」
「この子―――いえ、 聖杖を持つ者 の力が、解放されるのです。」
「聖杖・・・?」

「そうはさせないわよ。」
 突然の声に、ルシアとクロートはそちらの方を振り返る!!
「まさか、お前たち、人間が 聖杖を持つ者 を召喚するとはなぁ・・・。」
「お前たち・・・、 時 の者のようね?」
「正解よ。」
 羽を持つ方が、左腕をこちらへ向けた瞬間、少女の周りの光は消えてしまった・・・。

「我が名はセラフィム。愚かなことをしてくれたものだな。・・・人間の分際で、神の力を持つ我らに逆らおうとするとはな。」
「私は、ケルビム。・・・もっとも、 聖杖を持つ者 ならば、私達のことは、とっくに、ご承知のはずでしょうけどね。」

 聖杖を持つ者―――、そう呼ばれた少女は、明らかに2人に怯えていた。






「すぐに、みつかってしまったようね。」
「特に、あんたの方は許さないわよ。・・・あのあと、私達がどんな目を見せられたと思ってるの?なんとしても、 聖杖を持つ者 は返してもらわなくちゃならないの!」
「どういうことだ?」
「―――うるさい人間だな。」
 クロートは、近寄ってきた者の気配に気付く事すら出来ないまま、振り上げられたセラフィムの左手により、猛烈な切り傷を負ってしまった!
「くっ、・・・なんだってんだよ・・・。」
「あなたたちの要求はのめません。・・・あなた方に 聖杖を持つ者 を渡すことだけは決してするつもりはないわ!」
「ふん。」
 セラフィムは真空波を巻き起こす!床や天井、壁にまで深い亀裂が走るほどだった。
「その程度で、この私は倒せないわ。もちろん、 聖杖を持つ者 も。」
「おもしれぇ、・・・この俺らと戦うつもりか、人間?!」
 ルシアはレイピアを取り出す。
「覚悟の上よ!」
「殺ってやるよっ!」



 セラフィムは、猛烈な速さでルシアに迫り、攻撃を仕掛ける!ルシアは、レイピアを突き付ける!しかし、それをものともせず、セラフィムは攻撃を押し通した!
 ルシアは、それにも動じず、すぐさま反撃に転じた!レイピアを、セラフィムの心臓辺りをめがけて、一気に突き出した!だが、セラフィムは、さっと後方へ飛び、同時に前方に向かって、真空波を放つ!
「こいつは、効かないか・・・、なら、これはどうだ?!」
 セラフィムから鋭く尖らせた、無数の真空の刃が放たれる。ルシアは、それを結界で防ぐが、いくらかが、その結界をもつきぬけ、突き刺さる!
 さらに、その上空より、ケルビムは猛烈な炎を巻き起こし、ルシアを襲い掛かる!
「これで、しまいだっ!」
 セラフィムが、一気にルシアを真空の刃で切り裂いた!鋭い金属音が鳴り、ルシアの持つレイピアの刃が折れ、床に突き刺さる・・・。
「ちぃ、あたらねぇか。・・・しぶとい野郎だぜ。」
 セラフィムが相手にしているルシアの横から、ケルビムがクロートの方へと歩んできた。
「こちらの人間様は、動くことも出来ないのかしらねぇ。」
「くっ・・・。」
 しかし、実際、それは事実だった。あれほどの攻撃をもし、クロートがたった1人で受けたのならば、無事にすむはずはない。
 ―――クロートのすぐ隣に、寄り添うように、その影が現れた・・・。



「 聖杖を持つ者 に守ってもらうのね。・・・それも勝手よ。でもね、・・・今の 聖杖を持つ者 の力は、あなたが期待するほどのものではないのよ?」
「これは、私の問題。・・・クロートさんには、・・・関係ない。」
「そうよ、・・・クロート。・・・あなたを、この戦いに巻き込む理由はないわ。ここまで無事に連れてきてもらうこと、・・・それが、あなたへの依頼だったのだから。」
「他人の心配してるほど、余裕かよ!」
 セルフィムの攻撃は容赦なく続いていた!
「お、俺は・・・どうすればいいんだ・・・。」
「クロートさん!」
 ケルビムから、凍える吹雪が放たれた!同時に周囲に結界が現れるが、それは少しずつ、周りの空気をも凍りつけていった。
「あっ!」
 力の気配が一瞬弱まった途端に、結界が解け、一気に猛烈な寒気が襲い掛かる!
「ゆきなさいっ!!」
 セルフィムの攻撃を背に受けながらも、ルシアは右手をケルビムに向けた。そして、右手から、あの白い、生き物のような何かが現れ、一気にケルビムに襲い掛かった!
「な、なによ、これはぁぁぁっ!」
「体の中に、召還獣を仕込んでいるだと?!」
 しかし、再びのセルフィムの攻撃に、ルシアは、ひざをついてしまった。
「とんでもない野郎だ・・・。」



「ルシア様・・・。・・・俺の、・・・俺の声が聞こえるか・・・?」
 全身に凍傷を受けながらも、クロートが、ルシアに呼びかけた。
「あなたは、・・・・もう、・・・ここにいなくても―――。」
「ああ。このままじゃ、・・・全員、終わりだ!・・・だが、俺は、・・・動ける。」
「さっきまで、怖がってたじゃないのよ、情けないわねぇ。みんなが、死にそうにならないと、本気になれないなんてね。」
「けっ、・・・なんだ、人間?・・・何か、無駄なことをひらめいたか?―――やめておけ。そうだな、・・・時間をやろう、逃げろ。」
 クロートは、ゆっくりと立ち上がり歩き始める。
「そうだ、・・・そのまま消えろ・・・。」
 クロートはゆっくりと歩いた。・・・あれほどの攻撃を受ければ、確実に命はない。クロートは待っていた。この勝機のない戦いで、それが起こることを・・・。
「さぁて、とっとと、 聖杖を持つ者 だけをつれて帰ろうか。」

 クロートは、そこでまっすぐルシアを見た!ルシアは力なく、クロートを見た。―――そして、その瞬間にそれに気付いた!



 ゆっくりと、セルフィムとケルビムが共に歩き始めた・・・。
「さぁ、行こうか・・・。」
「私は、・・・まだ、・・・戦えます・・・。」
「そんなわけはないだろう。・・・あの人間をかばった時、必要以上の魔力と体力を消耗しただろうからなぁ・・・。」
「―――サンドゥラゴル、・・・召喚。」
 その声があがった瞬間、クロートの周りを、雷獣の力が取り囲んだ!その声を最後に、ルシアはぐったりとその場に倒れてしまった・・・。
「なんだ?・・・人間、まだ、いやがったのか?!」
「うるさい!ちょっと、出遅れたけどよ!・・・テメェらが、あんまりにも行動を早くしすぎるから、ついていけなかったんだよ・・・。」
「ふん、何、調子づいてやがる、人間が。」
「―――アークテラス聖騎士団をなめるんじゃねぇ!」
 その声と同時にケルビムの体を無数の光の輪が貫く。クロートのすぐそばには、再び光にその体を包み込まれた少女の姿があった・・・。
「―――召喚剣術、雷の構え―――サンドゥラルライナー!」
 雷の召喚獣が、クロートの剣に集い、一気に、それをセルフィムに振り落とした!一瞬にして、想像を絶する程の雷撃がセルフィムを襲い掛かる!
「人間め!・・・な、何をする?!」
「―――召喚剣術、雷の構え―――サンドゥラスパイラル!」
 剣から雷が迸る!それらが、セルフィムとケルビムを一気に襲い掛かる!
「くらぁえっ!」
 猛烈な電撃をともなう、強烈な一撃が、ケルビムを襲った!
「セラフィム・・・、この人間、・・・危険―――」






「よくも、・・・お前、・・・・覚悟しろよ!!」
 クロートは、剣からサンドゥラゴルの力が消えていることに気付いていた。ケルビムを攻撃するときに、一気に、サンドゥラゴルを放出したため、もはや、雷撃による攻撃はだせない・・・。
「くっ、テメェもな。」
「お前では、・・・この真空波から逃げられまい!!」
 セルフィムは、クロートに猛烈な真空波を巻き起こそうとした・・・。が、セルフィムは、攻撃を止めた・・・、いや、・・・すでに息すらも止まっていた。

「―――ただの、召喚術士じゃ、ないのよ。」
 ルシアがその脚で、強烈な蹴りをくらわせていた。
「2人とも同じ方向に注意してるなんて、何のために2人いるのかわからないわね?」
 クロートは、修道女・・・であるはずのルシアがそんな攻撃をしたことに驚いてた。
「あなたが、教えてくれなければ、危なかったわ。」
「―――俺としたことが、・・・最初、頭の中が真っ白になってた。だが、・・・急に聴こえてきたんだ。・・・サンドゥラゴルが俺を呼んでる声が・・・。」
「とにかく、あなたのおかげで流れが変わったわ。敵があなたに集中している間、この子が私に回復魔法をかけてくれた。完全に私のことを忘れてた敵の急所に、的確に攻撃できたのも、あなたのおかげ・・・。」
「あんな敵にも臆することなく、強力な魔法を使い、冷静な判断力を持ち、―――さらに、あの蹴り・・・。ルシア様、・・・あなたは・・・一体・・・?」

「私は、セレンディノスの修道女、―――ルシアですわ。・・・とにかく、よく、私の依頼を果たしてくださいました。あなたのような、聖騎士をもてたことを、私達は、誇りに思ってますわ。」

「あ、ああ・・・。」
 ルシアの慈愛に満ちた、修道女らしい微笑みにクロートは顔を背け、―――その視界の先に、その少女の姿が入った・・・。
「それに、―――」

「さぁ、おゆきなさい。あなたへの依頼はこれで終わりですから。」



 クロートは、ルシアの言葉を耳にしたまま、しばらくその場に立っていた。
「あなたは今までの生活に戻るのです。これ以上あなたが関わる必要はないのですから。」
 ルシアは、さらに厳しく言い放った。
「ここまで関わっていながら、・・・俺に放っておけと、そういうのですか?!」
「もう、あなたへの依頼は終わったと言いました。あなたの次になすべきことをしなさい。・・・他にも、あなたがなすべきことは、山のようにあるのですから・・・。」
「あれだけの敵に狙われているのを見ていながら、俺は―――」

 クロートは、ルシアの厳しい表情を見て、それ以上物を言うことをあきらめた。それでも、もう一度だけ少女の方を向いてみたが、笑顔を浮かべてはいなかった。
 その表情から、何を思っているのか、読み取るのは難しかった。
 ―――別れることを、惜しんでいるようにも見えただろう。だが、それは、背負う運命に、クロートを巻き込まずにすんだことを、安堵しているようにも見えた。
「わかった。俺は、元の生活に・・・戻る。また、・・・どこかで会ったときは、その時は―――。」
 きっと何も出来はしないだろう。クロートはそう悟り、何も言わず立ち去ろうとした。

「―――名前・・・。」
「えっ?」
「名前だけ、・・・教えてくれないか―――?」

 静かな塔―――、その場に居た人間の息遣いだけが聞こえる。ただ1人だけ、速く呼吸していたその少女は、・・・その静寂に溶けるような、小さな声を上げた。


「わ、私の、・・・名前は、・・・マーシャ、―――です。」


「マーシャ・・・。最初に会った時に、・・・聞けていれば、よかったな。そうすれば、もっと、・・・その名前で、呼ぶことが出来ただろうに―――。―――さよならだ。マーシャ・・・。」



「俺は、・・・今まで何をしていたんだ?」
 クロートはここ数日に起こったことを思い返していた。もともと、これはダーダネルに依頼しようとしていたことだった。
 それが、ふとしたきっかけで、クロートが請け負うこととなった。ルシアが襲われようとしているところを、助けたことによって、クロートは、護衛を依頼された。
 そして、スートレアスまで行き、少女―――マーシャを助けた。
 アークテラスへ連れ帰ったが、翌日には奴等はマーシャを襲撃した。ローラは、マーシャを守るために力を使い果たしてしまった。
 俺は、その後、すぐにマーシャをこの塔まで連れてきた。そこでも、敵により、マーシャは再び襲撃された。俺は、2人の助けで、その戦いには勝利した。
 ―――そして、・・・俺の役目は終わった・・・。
「結局、俺には、・・・マーシャの力に、なることは出来ないのか・・・。」
 クロートは、歩き始めた。今まで通り、ダーダネル、ローラといっしょに生きていけばいいじゃないか。マーシャと関わったがために、ローラを苦しめてしまった。
 もう、誰も苦しめたくない。また3人でいっしょに生きればいい。
 ―――バラバラになんか、ならなくてもいいだろう?
「俺には、・・・俺の生き方があるんだ・・。」



 森の中から突如、何十人という人間が団結し、声を上げているのを耳にした!!・・・クロートは、この緊迫している状況を、忘れていた。
「まさかっ!!これから、アークテラスを襲撃するつもりか?!・・・止めなくては!!」
 クロートは、剣を持ち、森からアートテルトの街へと抜けた!!そして、何十もの武器を手にもつアートテルトの人々の前に踊り出た!!
「待て!!まず、話を聞かせてくれ!!何が、・・・何が目的なんだ?!」
「誰だ、・・・お前?」
「はっ!!こいつ、アークテラスの聖騎士団の人間だぞ!!」
「何だと?!」
「ここまで来やがっただと?!」
「待て待て、・・・騒ぐな。邪魔が入ることも、予想は出来ていたことだ。」
 数人の者が前に出てきた。その風貌からして、明らかにこの街の者ではなく、盗賊だと判断できた。
「1人で来やがったのか?」
「ああ、そういうことになるな。」
「1人で十分ってことか?なめたことを・・・。」
「俺は、戦いを避けたい。戦いから何がうまれる?・・・よければ、話を聞かせてくれ。何が、目的なんだ?!」
「けっ、事情も知らない下っ端に、用なんかねぇんだよ?!さぁ、どいてもらおうか!!・・・こっちは、この大人数なんだぜ。」
「出来ない。・・・なぜ、盗賊が、・・・街の者と一緒に反乱をおこそうとする?!」
「邪魔だ。どけろ。これから、とにかくアークテラスを陥落させる!!」
「させるかぁっ!!!」
 1人目がクロートに向かって切りかかっていた!!それをかわし、その盗賊の腹を突いた!!同時に3人がクロートに向かってきた!!剣を構え、一気に受け止めた!!
「1人じゃ辛いなぁ、さすがによ。」






 剣を戻し、1人ずつ、すばやく斬りつける!!次第に、周りを取り囲まれてきた・・・。
「もう、終わりだよ。あきらめて降伏しな。もう、計画は滞りなく始まるんだからよ。」
 その時だった。クロートの周りを、青き光の輪が包み込んだ!!
「こ、これは・・・?」
「ちっ、別の奴が来やがったか?」
 そこには、杖を持っているマーシャがいた・・・。
「消えた?―――今、確かに魔法を唱えた奴がいるはず・・・。」
 マーシャの姿はまだ他の人間には見えないようだった。すぐマーシャの近くへ寄った。
「なぜ、ここにいるんだ?!」
「まだ、私は、・・・お別れを言っていません!!」
「殺っちまえ!!こいつ1人だけでも、見せしめだ!!」
 一斉に全員が、クロートに対して襲い掛かってきた!!クロートは、その中の1人に応戦した。しかし、他の者には、間に合わない!!
「ぐはぁっ・・・。」
「な、ど、どうした?!」
「よそ見してる場合かよ?!」
 クロートは、一気にそれを斬りつけた。盗賊たちは、クロートと、見えないもう一人の攻撃に恐怖した。そして、あっという間に取り囲んだすべての盗賊を倒した。



「くっ、・・・何を、・・・何をしやがった?!」
「何があったのか、教えてくれ。どうして、アークテラスを襲撃しようとするんだ?!」
「そうやって、先に行った連中も、お前らが・・・。」
「これ以上、けが人を増やしたくないんだ!!」
「わかった。」
 その盗賊は、突然剣を地面に落とした。
「ど、どういうことだよ?」
「なぜ降伏しちまうんだ?!」
「なんで、もっとやらねぇんだ!!」
「みんな、待ってくれ。―――こいつの話も・・・聞いてやろうじゃねぇか。」
「盗賊が・・・、寝返ったか?!」
「裏切る気だなぁ、せっかく信用していたというのに!!」
「何とでも言え、・・・こいつは、どれだけのことをあの聖騎士団の人間がやったのか、これっぽっちも知っちゃないんだよ。・・・なんで、俺らがここまで怒ってるのかもな。」
「そんなはずはない!!」
「知らないなどと言わすものか!!」
 クロートも剣をさやへとしまった。
「俺も、戦いたくはない。・・・お願いだ、教えてくれ。一体、聖騎士団の者が何を?」



 クロートは、民家へと案内された。盗賊の頭らしき人間と、何名かの街の者が家に入り、それ以外の者は、その一部始終を外から見ていた。もちろん、その手には、武器を手にしたままであった。
「俺はこの街出身じゃあねぇ。だが、ここの人間と同じ理由でお前らに恨みを持ってる。」
「同じ理由・・・。」

「お前ら、聖騎士団はなぁ、何もしてねぇ善良な奴を、虐殺したのよ。笑いながらな。」

「虐殺?・・・どういうことだ?」
「そいつらは突然やってきた。・・・自ら、アークテラス聖騎士団の名を名乗ってな。奴等は、まるで楽しんでいるかのように、数人の者を虐殺した。ある者は、その剣で全身をぶった斬られ、ある者は、魔法で爆殺された。」
「そんなはずは・・・、だれが、いったいそんなことを・・・何のためにだ?!」
 盗賊らは、一斉に机をたたいた!!
「ふざけるな?!訊いているのはこちらだ。・・・どういうつもりなんだよ。・・・この期に及んで、しらばっくれるか?!」
「盗み、恐喝・・・奴等の所業を数え上げれば、そこらのカス盗賊なんかより、よっぽど惨いことをしてんだ!!・・・俺らは、他にも犠牲者を見てんだ。この大陸中の人間だ。」
「誰がそんなことを・・・。」
「おい・・・。」
 盗賊の合図で、両隣にいた盗賊が、クロートを後ろで縛った。
「な、何をする気だ?」
「殺しはしねぇよ。―――手をだすなよ!!見えねぇ奴!!」
 クロートは、マーシャが、杖で攻撃しようとしていたことは横目で見ていた。
「丁度いい。・・・お前が、俺達をアークテラスに案内しろ。・・・騎士団長に会わせろ。」
「そうすれば、・・・お前らは、襲撃するのをやめるというのか?」
「―――答え次第だ。」
 クロートは、黙ったままうなずく。今の状況では、従わざるを得ない。それよりも、今言われたことが、どうしても信じられなかった。だが、もしこれが、真実だったなら。



 クロートは、盗賊たちに連れられ、アークテラスまで歩いていった。盗賊たちのあとからは、何十人というアートテルトの街の人達もついて来た・・。
「ここが、アークテラスだな。騎士団長はどこだ?連れて行け。」
 クロートは、言われた通り、ボルアスの元に連れて行った。この騒ぎに、すぐさま聖騎士団の面々は集結した。そして、盗賊の中にとらわれているクロートを見て、硬直していた・・・。
「クロート、・・・どういうつもりなんだよ?」
「盗賊を討伐したのか?それで、・・・ボルアス殿のところに連れて行くのか?」
「待て。・・・それなら、どうして、縛られているんだ?それに、街の者達までがここまで来ていることの理由にも説明がつかない・・・。」
「だが、・・・襲撃するのではなかったのか?」
「どうなっているんだ?!」
 その中に、ローラやダーダネルもいた。だが、クロートに話し掛けようとはしなかった。



「この中だ・・・。」
 盗賊の後ろからは、聖騎士団がある程度の距離をおいて近付いてきていた。当然、下手に動けば、クロートがどうなるかわからないということは、暗黙の了解の内だった。
 やがて、クロートはボルアスの御前へとやってきた。
「クロート、・・・これはいったい、どういうことだ?」
「ご報告いたします・・・。」
「―――テメェが騎士団長か?」
「いかにも。・・・その者は、うちの人間だ。どういうつもりか、話してもらおうか。」
「まず、周りの人間の武装を解除してもらおうか・・・。」
「それは無理な相談だ。・・貴様らが、暴れだしたら、とめなければならないからなぁ。」
「お前らの答え次第だ。・・・俺は、こいつの言うことを尊重してんだよ。―――こいつは、お前らのことを、・・・信用してるらしいんでな。」
「当然のことだ。・・・信用しないなどということがあろうか?」
「いいか?良く聞け!!アークテラス聖騎士団の暴挙に対して、俺らは、我慢の限界に達したのよ。貴様らは、突然現れて、自ら名を名乗り、何の罪もない奴らを次々と虐殺してったのよ。・・・お前らの国の隣のアートテルトにも、8人の犠牲者がいる。どういうつもりだ?説明してもらおうか?!」
 すべての視線が、ボルアスに移った。

「―――そうか、そんなことか・・・。」

2015/01/28 edited (2012/06/17 written) by yukki-ts next to