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[stage] 長編小説・書き物系
eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
悲劇の少女―第6幕― 第41章
「―――ところで、・・・奴は、・・・何処にいるってんだ?」
ミストホープから出てしばらくしたところで、全員の動きが固まったわ。
「・・・おい!!肝心なこと聞きそびれてどうすんだ?!」
「ちょっと!!どういう事でして!?このままじゃ、あたし達、動けないじゃない!?」
「・・・あ、あれ・・・?」
思わずすっとんきょうな声を上げてしまうようなものを目にしてた。
「・・・何、気の抜ける声出してんだ?」
「ほら、・・・あれ、あれ!!」
私は、・・・その意外な組み合わせの2人の方向を指差した。
「・・・あ、・・・あれは・・・。」
「・・・エスティナ!?」
「それに、・・・ロギート―――だったかしら?なんで、あんたたちが、
こんなところに・・・こんな組み合わせで?」
「―――私、ずっと、ナイスガイを探し求めて世界中を旅してきたさすらいの美少女。」
「で、・・・そのたびにフラれ続けたと・・。」
「私の喋ってる途中で、口はさまない!!流れ流れてこの地にたどり着いたとき、
・・・私は、とうとう、ナイスガイを見つけることは出来なかった・・・。」
「・・・そりゃ、そうでしょうね。・・・こんなところに、ナイスガイどころか、
まともな人間がいるほうが、普通じゃないわよ・・・。」
「そんな時だったわ、・・・私が、・・・あの気持ち悪い怪物に襲われているところを、
・・・このむさくるしい男が、―――とっても嫌だったけど、助けてくれたのよ!!」
「あんな状況だ、・・・たすげねぇど、・・・いげねぇだろうが・・。」
「・・・よく考えれば、このむさくるしい男。いつもいつでも、私の近くにいた。
そうよ、・・・私が、逢ったあんな人、こんな人・・・、みんなフッテいったけど、
最後に、残っていたのは、・・・いつもこのむさくるしい男だったのよ・・・。」
「あんた、・・・ただ単に、男見る目がないだけじゃなかったの?」
「うるさいわねぇ!!・・・でも、・・・その時感じたの・・・。
・・・そうね、・・・こんなむさくるしい男だけど、・・・・・・コイツは、
今まであったどんな男とも違う。―――とっても嫌な意味でね!!」
「・・・だから、なんなのよ!?」
「―――もう、・・・こうなっちゃったら、・・・仕方がないわ。
・・・最後に残った、・・・この男を、・・・好きになるしかないじゃないのよ・・・。」
「あんた、・・・素敵な思考回路してるわね。尊敬するわ・・・。」
「・・・こうなっだのも、あんたがたのおかげだがぁ。・・・感謝してるだかぁ・・。」
「・・・だから、その訛りもいいかげん、治したら・・・?」
「なぁ、・・・元々は、仲間を探してるとか、そういう話じゃあなかったのか?」
「え、・・・そんな設定あったっけ?こいつらに。」
「そういえば、容姿、声や性格までも、他人になりかわることの出来る人って・・・。
あ、もしかして、その、・・・ロギートさんが、エスティナさんのおっしゃってた?」
「―――どうして、わかっただか」
「え?どうして、こんなむさくるしい男が・・・?面白くもない冗談ね。」
「・・・違うのですか・・・?」
「いいのよ。―――もう分かったから。きっと、もう、この世界には居ないのよ。
これだけ、この美少女様が世界中を歩き回っても見つけられないなんて、
・・・おかしいじゃない。向こうも、もう、私に見つけられるなんて思ってない。
それなら、いいの。私だって、今は美少女だけれど、―――これからもそうだけれど、
・・・忘れられたって、仕方がないもの。それなら、前を向いて歩かなくちゃ・・・。
で、・・・あんたたち。・・・なんか困ってるみたいじゃない・・。」
「―――あ、終わった?そうね、こんな緊張感の連続する中に、あんたたちの
のんきな話なんか聞いたら、・・・誰だって調子狂うわよ。」
「・・・あんだがた、・・・ここから北にある、塔に用があるんだか・・・?」
「北の塔・・・?」
「そうよ!!・・・あの気持ち悪いのはみんなそこから来てるのよ!!
・・・さっきだって、ヘンな黒い奴がそこに向かって飛んでいっていたわよ!!」
「・・・お母様に憑いていた、闇の住人?」
「おい、テメェら!!・・・その塔が何処にあんのか知ってんだなぁ!?」
「もちろんね・・。」
「・・・お願いします!!・・・そこに、私たちを案内してください!!」
「・・・どうしよっかなぁぁ?」
「―――お願いします、・・・さすらいの美少女、エスティナ様!!」
「・・・セ、・・セニフ・・、何、顔にあわねぇこと言ってんだ?」
「・・・仕方がないわね、・・・あんたも、まぁまぁかっこいいし。
でも、・・・一つだけいいかしら!?もう、私は、・・・さすらったりしなくても
いいのよ!!―――覚えておきなさいね!!」
何か大切なものを失ったような気がするが、こうして私達は、
最期の決戦の舞台へと、歩き始めたのであった・・・。
―――ディドゥルライナスの塔―――。
エリースタシア王家の管轄だった、 天高くそびえる荘厳な塔。霧の都と称される
エリースタシアの霧の発生元とも言われてた。
伝説に残っていた、あの荘厳な面影はもはやなくて、重苦しい雰囲気がたちこめていた。
その周囲の樹木は枯れ果て、時折天高く、塔の最上部からは、この世の者とは思えない、
身も凍え果てるような咆哮がこだましていた・・・。
「・・・これ以上は、俺達にまかせるんだな・・・。」
「・・・塔までの案内、すまなかった。・・・・助かった。」
「もう、行くんだか・・・?」
「エスティナ。・・・ロギート。・・・ありがとう。」
「・・・え、・・・い、・・・いいわよ。・・・別に、あんたに言われたって、
嬉しくもなんともないんだから!!―――早く、行きなさいよ!!!」
「・・・アンタたちも、こんなところで喰われるんじゃないわよ!!」
「・・・余計なお世話よ!!」
「行くか・・・。」
「マーシャ?」
マーシャはあたし達の方を振り返って、静かにうなずいた・・・。
それを合図に全員で、塔の中へと入っていった・・・。
「・・・来たのか。」
その低い声が辺りにこだます・・・。
「―――う・・・・うるさ・・・い・・・。・・・突然、・・・あのヤロウの・・・、
・・・意識が、・・・俺に・・・刃向かって―――。」
「・・・なんの為に、・・・テメェが、俺に召喚されたか、・・・わきまえてんのか?」
「―――あの時空魔導士の・・・女を取り込んで、・・・奴らを呼ぶんだったろ・・・。
・・・ここまで、・・やりゃあ、・・・十分・・・だろうが・・・。」
「―――もう、ここにいねぇ分際で、・・・大口叩いてんじゃねぇ・・・。
・・・ヴィスティス―――。・・・後は、俺がやる。・・・テメェがやり残した分までな。
―――俺に迷惑かけた分、・・・向こうで償うんだな。」
「―――や、・・・やめろ!!・・・た、・・・頼む。・・・・もう、・・・テ、テメェに、
・・・・め、・・・迷惑なんざ、・・・か、かけねぇからよ!!
・・・頼む!!!頼むから、・・・俺を―――」
「・・・マージグレムリン共か・・・。」
「・・・俺と、ディッシェムだけで十分だ。お前は手ぇ出すな。」
「あたしも行くわ!!」
「・・・ヒメさん?」
「マーシャ達に余力を持たせるよ?あたし達が何もしなくてどうしますの?」
「―――話はその程度でいいか・・・?」
「上等だ!!!かかってこいっ!!!」
俺は、ホーリーランスを構え、そいつらに攻撃を仕掛ける・・・。
その死人のモンスター共にデスショックを仕掛けた瞬間、俺の周りの空間が、
俺の命とホーリーランスをつなぎとめてるもの奪い始めるのを感じて、とっさに引いた。
「おい!!ディッシェム、ボサッとしてんじゃねぇ!!・・・なに、やってやがる?」
「・・・う・・・うるせぇ・・。」
気が遠くなる―――、その横からティスターニアがレイピアで奴を突き通しやがった。
「ヒメさん!!!」
そいつらが、冷気をまとってるティスターニアに対して、巨大な炎をぶっ放しやがる。
ザヌレコフの奴がとっさに、攻撃を仕掛けて、ティスターニアを救い出す。
「・・・なっ、―――なんだ、・・・力が、・・・抜け―――」
攻撃を仕掛ける奴に、的確にその力を封じるような対応をしてきやがった・・・。
「俺らの、・・・力を、知り尽くしてやがるってのかよ・・・?」
「・・・ヒメさん、・・・ケガ、ねぇか・・・?」
「あたしは、回復させられますわ。だから、大丈夫よ―――」
そんなわけねぇ。確実に直撃を受けていやがった。もう、雑魚どもだろうと、
余裕ぶっこいてられやしねぇ。ここは、奴らの本拠地―――。
死霊の魔導師たちが、ザヌレコフさんたちに迫り来ました。それまでの攻撃で
ダメージを受けていたザヌレコフさんたちは、突然の攻撃に対応できずにいました。
「・・・くぅっ!!!」
「幻属性魔法―――インバリドクリスタル!!」
私が、魔力障壁でディッシェムさんを覆った瞬間、膨大な魔力が襲い掛かってきました。
「ザヌレコフさん、お願いします・・・」
私は、ザヌレコフさんに軽く触れ、全魔力を込めました―――。
あらゆる能力を瞬間的に引き上げる・・・。今、この状況で、私が出来ること―――。
「最高位・・幻魔導法、―――ハピネス・・・ヒーリング!!」
インバリドクリスタルが打ち破られたと同時に、ザヌレコフさんが駆け出されました!
「覚悟しやがれ、畜生共が!!」
橙色に激しく光るソードで、モンスター達が斬り裂かれました・・・。
「・・・やったかぁ?!」
突然、空間がひどく冷たくなりました・・・。まるで、脳の中に直接声が伝わる、
そんな、感覚に襲われました―――。
「―――デスティ=ノーム様により召喚されし、地獄より来たる死霊の眷属―――。
・・・人間よ、―――己の非力さを思い知るがいい・・・。」
霧―――、あたしたちが、この霧の谷に来た時と同じものが、視界を全て奪った。
それなら、・・・また、同じものが、―――あの無数のモンスターが来る!!
「また、来やがった?!―――キリがねぇ!!!」
「ちぃ、ディッシェム!!何も見えねぇ―――、?!」
あたしは、ザヌレコフの腕を強くつかむ・・・。
「ヒメさん?!」
「何かが、・・・来ますわ―――」
おぼろげに見えたのは、巨大なモンスターの姿―――。
「ゴールデン、・・・ドラゴン―――」
「てめぇも、デスティ=ノームの回しもんか?!」
ザヌレコフが、ドラゴンに向かって斬りかかっていく。その瞬間、ドラゴンの巨大な
口から、濃厚な霧とともに、無数のモンスター達が噴き出される!!
「な、何?!!」
「ちぃっ!!テメェ、何してやがるんだよ!!」
無数のモンスターに押しつぶされていたザヌレコフを、ディッシェムが跳ね飛ばす。
「こんな野郎共に構ってる場合じゃねぇだろ!!目的は、カシラを潰すことだろ?!!
せっかく、マーシャらを温存してんだ。テメェは、先に行きやがれ!!!」
「マーシャ・・・。あたしとドルカがここに残りますわ。必ず後から追いかける。
だから、今は、ザヌレコフについていくの!!」
「ディッシェム、・・・テメェ―――。死ぬんじゃねぇぞ!!」
「・・・もう、死んでんだよ。ほざいてるヒマがあるんなら、さっさと行きやがれ。」
ザヌレコフは、そう言いながら前方にいたすべての敵をなぎ倒す。
「マーシャ、行くぞ!!」
「はい!!」
俺とシーナが先頭に、その後ろを、セニフ、アーシェルがマーシャを守りつつ、
塔の上部をめざして、階段を駆け上がっていた。
「・・・とにかく、体力使うんじゃねぇぞ!!テメェらは、まだ、
最期の戦いが残ってんだからなぁっ!!」
「先にアンタがくたばるんじゃないわよっ!!」
「今は、ザヌレコフだけが頼りだ!!」
「分かってらぁ!!!・・・次の階に入るぜっ!!」
その大広間に入った瞬間、ソードの激しい反応に気付く・・・。
とっさに、前方にソードを突き出した瞬間、その先端に強力な力が突き当たる!!
「何者だ?!」
そういいながら、俺は、―――そこにいた、人間の姿を捉えながら、
覚悟を決めていた・・・。この階に残るのは、俺一人―――。
・・・全員が残ったら、―――全員が、死ぬ―――。
「―――ホールフィア、・・・ガルド―――。バトルマスター・・・。」
その姿は、知っていた。・・・修行施設で、俺がこのソード―――、
ソウルフランジャーを受け継いだ時に聞いた、歴代の持ち主のことを・・・。
突然の攻撃を、・・・奴の魔剣による攻撃を受け止める・・・。
理解はしていた・・・。奴の力は、俺の力を、遥かに上回る!!!
「ま、間に合わねぇ!!」
ソウルフランジャーの声に気付く。時空剣の力が放たれた・・・
不思議な感覚が、俺を包むやがる・・・。もう動けない―――。
遠くから、・・・マーシャらの声が聞こえる・・・。
「―――マーシャ、・・・どうした?」
「デスティ=ノーム・・・、闇の住人。―――行く!!」
「ま、待て・・、マーシャ!!」
「どうしたっていうのよ!?・・・マーシャ!!」
「・・・マーシャが、階上に向かっている。・・・デスティ=ノームか!?」
俺は、無意識の中で、4人が、横を通り過ぎ、先に階段を進むのを見ていた・・・。
―――見逃された・・・。どういうつもりだ―――?
意識が、急激に戻ってきやがった・・・。
「ちっ、・・・奴らがここに居ちゃあ、邪魔かよ―――。サシが、望みだってんなら、
―――待たせたな・・、偉大なる、バトルマスターさんよ・・・。」
「アーシェル、シーナ・・・。マーシャのエレメンタルロッドを見たな?
・・・今までのエレメンタルロッドではない。かつて、ルシアが手にしていた
エレメンタルロッドでもない・・・。
・・・聖杖、その覚醒のときが来たという事なのか?
―――幾千の月日をかけ、数多の悲劇の少女たちが、その身を封印すると同時に、
その力を増していった、聖杖の力が・・・。もし、そうなら・・・。」
「―――ラストル、・・・アディション。」
「・・・フォール・・・ブレイズ―――。」
最期の戦い・・・、悲劇の始まり―――。
「・・・エルフ・・・リバイブ!!」
マーシャを中心に、アーシェル・シーナ、そして私はその一点に集中していた。
「―――悲劇の少女、・・・来やがったのか・・・。」
マーシャは、クロリスを召喚する・・・。
「―――ゴッド・・・トライフォア・・・。」
触れる度に硬く冷たい床に深い傷が入るほどの鋭い爪を持ち、
その口には、数多の命を奪い去ったであろう巨大な牙をもっていた。
その巨大な姿は、他のモンスターとは比べ物にならぬほどの
邪気と威圧感を放ち、時折静かに唸るその咆哮は周囲の壁をも震わせる。
鋭い眼光は、常にマーシャに向けられ、一分たりとも目をそらすことはない。
―――その場に張り詰める静寂に耐えるには、あまりにも俺達の力は微弱だった。
その差は、とても埋め合わせられるものとも思えなかった・・・。
「―――マーシャ、まだあなたが、自分の意志を持っている間に言っておくわ。
・・・聖杖が、あなたの声に耳を傾けたとき、・・・本当の戦いが始まる。
そして、・・・これが、・・・悲劇との最期の戦いになることを・・・。」
「―――アーシェル。・・・忠告しとくぜ・・・。
・・・コイツが殺したあのガキに、俺は操られちまっていた。
他でもネェ・・・、コイツの力でよ・・・。・・・・厄介なヤロウだぜ―――。」
「・・・あなたを、倒します―――!!」
「―――ククククク・・・。・・・悲劇の少女か―――。
『アイツら』は、・・・そいつを、望んでるらしいしなぁ・・・!!」
ラストルが真空の渦を巻き起こす。その強烈な渦は、デスティ=ノームが
唐突に放ったその猛毒の風をかき消す。
それを合図に、戦闘が開始された。最初に動いたのは、マーシャだった。
エレメンタルロッドをデスティ=ノームに振りかざす。
その次の瞬間、デスティ=ノームは強烈な波動をセニフに放つ。
「な・・・、何を・・?!」
デスティ=ノーム、その闇の住人の能力―――。セニフの持つエルフの力を奪い、
マーシャからの攻撃に対して、防御結界を張る・・・。
マーシャは、すぐさま身を翻し、魔力を凝縮したフラッシュリングを放つ。
「―――マルスディーノ、・・・来やがれ!」
マーシャの行動に対して、即座に結界を爪で砕き散らし、同時に、
マルスディーノの持つ、邪気を呼び起こす波動を対抗して放つ!!
セニフとマーシャは、すぐさま隣り合う。セニフの放つ結界と、マーシャの放つ
光の壁が全員を覆う。デスティ=ノームの波動がその直後に貫く!!
「アーシェル、・・・私と一緒に、地獄見る気、ある?」
目の前で繰り広げられてる、マーシャとセニフたちの戦いを、ぼんやり見てる
アーシェルに話し掛ける。無言でアーシェルは私の方を振り向く・・・。
「お、お前―――、あ、ああ。ラストル、・・・力を、貸せ!!」
私は、アーシェルの手をつかんで、一気に戦闘の中心に躍り出た。
炎の化身―――、フェアリードラゴンに乗って・・・。
―――セニフだけじゃない。アーシェルだけじゃない・・・。
私も、・・・マーシャに、力を貸してあげられる―――。
轟音とともに、フェアリードラゴンの炎をまとう2本のナイフが、
デスティ=ノームを斬り裂く!!
「シーナさん、危ない!!」
「マーシャ!?」
目の前の空間が歪む・・・、近付いてくるマーシャの姿が・・・、揺らぐ―――
「・・・アーシェル、引けっ!!・・・私が行く!!!!」
セニフさんが、バンダナを外しました・・・。
長い髪がほどかれて、光があふれ出していきました・・・。
「どうなって・・・いるんだ―――。」
「テメェ、いい加減理解しろよ。・・・1秒でも2秒でも、先を読んだ奴が勝つ。
ここは、そういう場所なんだぜ―――。読みきれねぇんなら、引っ込んでろ。」
私は、ぐったりしてしまったシーナさんを連れて、空高く舞い上がりました。
「・・・う、うう―――」
「シーナさん・・・、ありがとうございます。」
「―――なに・・、言って・・くれちゃってん、のよ―――、私、なんか・・・」
「ここまで来れたのは、・・・皆さんの、―――シーナさんのおかげです。
・・・最期まで、一緒に居てくれて、・・・ありがとうございました。」
「何よ・・、これからだって、・・・ずっと―――」
私は、セニフさんの方へと振り返りました。そして、全ての力を
握りしめる杖に込めました―――。
「クエーサー、―――フォースリング!!」
それは、デスティ=ノームの放つ歪んだ時空から召還され、私に向けられた
幻界からの霊魂たちに対して、マーシャが放った魔法だった・・・。
「・・・マーシャ―――」
「・・・シーナさん?」
「―――体が、・・・青く、光ってる。・・・ロッドも・・・・・・・。」
マーシャと、エレメンタルロッドに、淡く青い聖なる光が集う・・・。
唐突に空気が凍える感覚に襲われた―――
「―――ようやく、・・・その力を、出す気になったか・・・、待ってたぜ・・・。」
マーシャは、あの時のことを―――、悲劇の少女に覚醒した瞬間を覚えていない。
その姿は、あの時と―――、・・・覚醒のときと同じ―――。
今、覚醒したならば、・・・ここで始まる―――、悲劇が・・・。
「―――マーシャ!!まだ、終わってはいない!!
気を抜かないで!!!・・・まだ、しなければならないことは残ってる!!」
「ぐぅぅあっ!!・・な、なん、・・・だ?!」
アーシェルが、困惑と苦痛の入り混じる叫び声を上げる。
「アーシェルっ?!」
「―――バカやろう!?・・・何してやがる!!このままじゃ、テメェ、
バラバラになる!!分かっただろうが!?・・・テメェ人間に、何ができる!?
・・・並大抵の力しかもたねぇ奴は、アイツにみんな操られちまうんだ!!
―――俺かて、神の名前が与えられてる者だ!!・・・引きちぎられるだけだ!!」
デスティ=ノームの能力・・・、あの力に、抗おうとしていた―――
「・・・くっ・・、離す・・・わけ、・・・ないだろ―――」
俺は、手にした橙色の光を帯びる長剣―――ソウルフランジャーを手に駆け出す。
ホールフィアガルドもまた、魔剣を構える。二つの刃は交わり、鋭い音を上げた。
「どうして、テメェが、コイツらとつるんでんのかは、この際どうでもいい!!
だがよぉ、しばらくは、奴らに関わるんじゃねぇ。俺とタイマンしてくれるか?!
―――俺の力が、どんなもんかを、・・・試してみてぇんだ!!」
振りかざすソウルフランジャーを、落ち着いて受け止める。
「・・・見切ってやがる―――」
その次の瞬間、俺ですら凄むような雄叫びを上げ、頭上から強烈な打撃を食らわせた。
それは、とても受け切れられるものじゃあなかった。
「―――なんて、力だよ・・・。ちくしょう、―――こんなに、違うってのかよ?!」
認めたくねぇ。ただ、それだけで、俺は、もう一度立ち上がり、戦いを挑む。
だが、剣を振りかざしたその瞬間に、猛烈に素早く魔剣によって薙ぎ払われた。
―――剣を振るう度、橙の光が消えゆくことには気付いてた・・・。
あたしは、何も出来ない。マーシャの力になることも出来ず、今だって、
ディッシェムやドルカに守られて・・・。あたしには、何も―――。
「―――ティスターニアさん・・・?」
あたしは、そう、ドルカが話しかけてくれるまで何も聞こえなくなっていた。
「・・・なんでもない、ですわ―――。」
「何にも守れなかった。あたしには、何も出来ない―――。戦いの最中だってのに、
そんな事つぶやいてる奴のセリフかよ、それ・・・。」
口に出していたことさえ、もう、気付けなかった―――。
「セニフさんなら、きっと、分かってくれるはずです。ティスターニアさんの気持ち。
・・・セリューク様とセニフさん。お2人とも、一度、無力さを呪い、非力さを嘆き、
それでも、セリューク様は大魔導師として、セニフさんは、エルフの民の末裔として、
後に続く人たちと共に歩まれていました。・・・次は、ティスターニアさんの番です。
―――まだ、ティスターニアさんの物語は、・・・終わってなんていません!!」
あたしは、もう一度、レイピアに力を込めた。この戦いは、まだ、終わっていない。
そして、セニフは、今もマーシャと一緒に戦い続けている。それは、あたしたち全員で、
ここまで歩んできたから。1人でも欠けていたのなら、―――きっと。
「親玉の登場ってところか・・・。図体のデケェ野郎だなぁ、畜生!!」
「ティスターニアさん、お願いします!!」
「ええ、見せてさしあげますわ・・、―――全てを凍りつくす、あたしの力を!!」
共に戦うマーシャとセニフの姿。・・・燃え上がる紅蓮の炎をまとうドラゴンに
またがり、敢然と敵の中心に立ち向かうシーナ・・・。そんな3人を見ていながら、
俺に出来ることは、―――ただ、ラストルの力にすがり付くだけ・・・。
「・・・アゥァァァッ!!!」
体中から、血が吹き出るのを感じた―――。
「―――オグト、・・・テメェの力、・・・俺に貸せィ!!!」
足が鉛のように重くなり、やがて、地面と同化する・・・。
「―――ノームゥゥ・・・。・・・苦シィ・・・。・・・早ク、・・・解放シテクレェェ。」
「・・・そこにいるわね?!」
シーナは、残る全ての力を振り絞って、フェアリーベルジュを一点に投げつける!!
「グァァ・・・ウアアァ、・・・痛イ!!何ヲスルゥゥッ!!!グアハァァッッ!!」
シーナは、まるで、その体温を全て奪われたかのように力を失い、倒れた。
「―――エターナル、イモータル、アビュソルト・・・!!!」
かつて、マーシャの持つ杖―――、エレメンタルロッドの力を封じていた三神・・・。
「・・・どうなっちまおうと、・・・俺は、―――動か・・ない!!」
デスティ=ノーム自身の力よりも遥かに強力な封印結界が取り囲んだ・・。
「・・・このまま、・・・俺ごと、封印される・・・のか?!」
「―――悲劇を知らないお前が、・・・簡単に死ぬんじゃあない。
・・・封印されるのも、・・・歳の順番で行けばいい・・・。」
俺の前に、セニフが立ちふさがった。明確な敵意を感じ取ったエターナルらが、
その力をセニフに向け、息付く間もなく、セニフを封印結界が取り囲む。
「・・・セニフ―――」
「これで、動けるだろう?奴は、今 3 体召喚している。
―――叩くなら、今だ。―――私が、封印される間に、奴を!!」
俺に、今出来ること。―――俺でなくてはできないこと。それは―――
「―――人間・・・、テメェの根性、認めるぜ。・・・あの野郎を、
ぶちのめしてやるんだろ?・・・力貸してやるぜ?」
―――ラストルの四使徒として、・・・その力を顕現させること。
「ああ、・・・借りさせてもらう。」
「―――気ぃ抜くなよ・・・、もう、テメェは、もたねぇんだ。
あとは他の奴に任せて、くたばっていな―――」
最後の方で、俺は、もう、ラストルの声が聞こえなくなっていた。
ラストルは、俺の行為を止めようとしたのだろう。限界まで、力を送り続けることを。
ラストルにより具現化されたアーチェリー・・・。力をその一矢に込める。
全てを、その一点を目掛けて・・・。
「・・・アーシェル―――?!」
「―――俺の、・・・最期のあがき―――、これが、今の俺が出来る、全てだ!!」
渾身の力で振り絞られたトルネードスラッシュが放たれた。猛烈な真空の刃に
吸い込まれるかのように、アーチェリーは幻と消え、やがて、ラストルの力を
留めることも叶わなくなっていた。
だが、セニフを取り囲む、その封印の力をともに吸い込みながら、幻へと還る光景を
俺は、薄れゆく意識の中、静かに瞳を閉じながら、見ていた。
「・・・私を、・・・助けた・・・?!」
――――――突如、大地が激しく揺れ始めた・・・。
辺りが、急に闇に包み込まれたかのように、暗くなり、大地のあらゆるところから、
この世のものとはとても思えぬ、おぞましい唸り声が発せられ、次第にそれらの邪気は
地上に満ち始める。辺りを、突如暗黒の炎が包み込み、極寒の吹雪が吹き荒れる・・・。
「―――ククククク、・・・闇の住人よ。・・・一足先に、・・・この、
我らの仇となる者と、その者の持つ杖を根絶やしにしてくれん!!
―――俺の声に耳を傾けし、住人よ!!ここに集えやぁぁっ!!!!」
「・・・次第に、世界から力が失われていく・・・。
―――マーシャ!!・・・ダメだ、まだ、終わってはいない!!!
・・・奴はまだ生きている!!・・・『聖杖』を目覚めさせるんだ!!!」
「―――マーシャ、・・・あなたまで、・・・封印されてしまうというの?
あなたまで、・・・聖杖を持つ者ではなかったというの!?」
「―――『アイツら』に気付かれないうちに、たたみやがれぇぇっ!!」
突如、闇の住人たちの奇襲が始まった。一瞬の間に、マーシャを数千、数万という
闇の住人たちが取り囲み、その圧力で、マーシャを押し潰し始めた―――。
「・・・この光景、・・・10年前の、・・・あん時と、同じじゃねぇかよ・・。」
剣を支えていた、腕の力が、・・・急激に抜けていくのを感じた。
―――どうして、俺は、力を欲し続けていたのか、その理由を、思い出せなくなった。
「マーシャ・・・、お前、・・・やられちまったっていうのかよ―――?」
俺の体が真横に斬り裂かれた―――。高く哄笑しながら、闇の中へと消えていく
のを見た後になって、俺は、ようやく、その事実に気付かされていた・・・。
「・・・おい、・・・こいつは―――。」
俺たち3人は、壁際にまで追い詰められていた。
「まさか、・・・マーシャが!?」
「マーシャお姉ちゃん・・・。」
それでも、まだ、ティスターニアは、俺とドルカを守ろうとでもするかのように、
レイピアを奴らに向け続けてやがった。
「―――すまねぇ・・・。けど、もう、糸が、―――切れちまった・・・。」
覚悟はしていた。・・・だが、―――想像してたより、ずっと、あっけなかった。
「来ますわ―――、ちょっと、止まらないで!!・・・このままじゃ、直撃を―――」
ゴールデンドラゴンの放つ、無数のヴァイルスラグとマージグレムリンの攻撃が、
一瞬にして、俺たち3人のすべてを砕き散らした―――。
私は、薄れゆく意識の中、・・・その光景を遠くに見た。
夢であるのなら、・・・悪夢であるのなら、・・・覚めてほしかった―――。
「・・・・リズノ、・・・あんたの記憶に残るのは、・・・この光景なんでしょ・・?
―――マーシャは、・・・どうなるって・・・いうのよ・・・・。」
「―――マーシャ・・・。」
「ねぇ、・・・答えてよ。―――答えて!!マーシャ!!!」
優しくて、暖かな声・・・。
「―――シーナさん、・・・聞こえていますか―――?」
そのマーシャの声は、・・・何故かすごく優しくて、落ち着いていて、
―――いつも、私の心を安らかな気持ちにさせてくれてた、そんないつも通りの声・・。
「・・・覚えていますか?・・・私が、ディッシェムさんに、こう言ったのを。
魔導法を行使するものは、強い心を持たなければならないと・・・。」
殺し屋のディッシェムに、―――魔法の講釈?正直のところ、覚えてはいない。
マーシャがそう言うのなら、きっと話してた。でも、どうして、それを、今・・・?
「自らの発した魔力が術者から離れると、術式が暴走を起こしその身を滅ぼす。
それ故に、最後まで、恐れや迷いでその強大な力の行使を止めてしまうことのない、
―――強い心を持たなくてはならないと・・・。だから、その強い心を信じた人を、
・・・決して蔑むような事は言わないで下さいと―――。」
「―――あんたの村を滅ぼした外道を、ディッシュがぶっ倒した後の事言ってるの?」
それなら、忘れたりしない。でも、その前後にあった事なんて、普通覚えてない。
ただ、正直、少しだけ意外だったことだけは覚えてる。
確かに、マーシャは、間違ったことは言ってなかった気がする。
けど、その時、ほんの少しだけ感じた違和感。
ちょうど、今、この場で、私が感じてるものと、同じ・・・。
「・・・あの時には、もう、気付いていたんです。ディッシェムさんには、生き続けて
欲しいから・・・、だから、そんな事はしないで下さいだなんて、綺麗ごと
言っておきながら。・・・本当は、真実から、目を逸らしたかっただけだったんです。」
それは、・・・どこか、マーシャらしくない言葉だった。
「―――見たくなかった。・・・本当は、それだけだったんです。
―――強い心を持つという言葉の、本当の意味は―――違うんです。」
どこか、マーシャの声が、遠く離れてゆくような感覚に襲われた・・・。
「―――強き心にて、術式を最後まで行使し続けよ。さすれば、強き力をもって
助けとならん。ゆめゆめ忘るる事なかれ。逆らわば、その身を滅ぼさん・・・。
―――聖杖を持たざる者全てに固く禁ずる、―――悲劇の術式であるが故に・・・。」
その言葉の後、一言だけ、・・・マーシャの心からの声を聞いたような気がした。
「・・・ほかの誰でもない・・・。最後は、・・・私だから―――。」
――――――あなたは、まだ生きなければなりません・・・・・。
「・・・生き・・・なければ・・・ならない・・・。」
「・・・死人は、・・・1人で、・・・十分だろ・・・。」
「・・・あなた、・・・マーシャ・・・?」
「・・・あったけぇ・・・。まだ、・・俺は・・・動けるんだな・・・。」
マーシャの放つ聖なる力がゴールデンドラゴンを押しつぶす!!!
「・・・マーシャ、・・・まだ残ってんだろ!!・・・後は、・・俺がたたむ!!!」
ディッシェムは、光り輝く生命のきらめきをたたえるホーリーランスで、
ゴールデンドラゴンを貫き通す!!!
「―――て・・・・て・・・て、・・・てめぇ・・・。」
デスティ=ノームは、全ての動きをとめ、目の前のその光景をただ茫然と見ていた。
「―――マーシャ・・・。」
マーシャは、数多の邪悪な力を放つ闇の住人たちを、迎撃することはしなかった。
自らの体内へと取り込み、しかし、その表情にはやすらぎに満ちた微笑みがあった。
「―――耐えられるものか・・・、・・・苦しむこともなく、引き裂いてくれる!!」
デスティ=ノームの鋭い爪に対して、私は、クローを突き出す。
「・・・マーシャの、・・・・微笑みを、・・・奪うんじゃない・・・。」
「―――闇の住人が、体の内から喰らい尽くすだけよ!!」
木の葉のよう―――、攻撃を受けた私の様を、そうとしか形容できなかった・・・。
それは、同時に、―――私を支えていた何かを、・・・崩し去るには十分だった。
視線の先にデスティ=ノームの姿を捉えたまま、私はそれを悟った。
「―――闇の・・・雫の結晶よ・・・。―――その内に秘めたる、
闇の力を、・・・今ここに、・・・示さん!!!」
低く重々しい声だった・・・。マーシャがそう言い放った瞬間、
数多の闇の住人とともに、闇の雫の結晶に凝縮されていた力が放出される!!
「・・・闇の・・・住人に・・・そんな力が・・・・・・効く・・・か?!」
デスティ=ノームはその膨大なエネルギーを振り払う。視線の先にマーシャの姿はない。
「―――どこだぁっ!?」
「―――時の雫の結晶よ!!!力を示せ!!!
―――クエーサーフォース・・・・・・・リング!!!!!!」
「―――所詮・・・、その程度が・・・限界・・・・・。」
デスティ=ノームは、それを、右の拳で受け止める。だが、まだ、マーシャの姿を、
捉えることはできない―――。
「―――幻の雫の結晶よ!!我に力を!!―――ファントムフォース・・・リング!!」
受け止められることは、想定通りなのだろう。立て続けに放ったその2つの力は、
互いにスパークし、膨大なエネルギーが、デスティ=ノームに襲いかかった・・・。
「―――マーシャ、・・・残るのは、光の雫の結晶。
・・・・これを、解き放つ時、彼奴が倒れなければ、・・・その時が、最期となります。
―――もう、取り返しはつきません。3つの力が解放された今、
最後の力を解き放てば、「聖杖」がすべての道標となります。
・・・・しかし、その「聖杖」を使う者は、・・・・・あなたなのです・・・。
―――光を解き放つと同時に、・・・・私も力になりましょう・・・・。」
「―――光の・・・雫の・・・結晶よ・・・・。
・・・・我に、・・・闇の住人を封印し、・・・聖杖を覚醒させる力を・・・。
・・・「悲劇の少女」がこの世に現れなくなることを!!!!
―――フラッシュ・・・リング!!!」
「―――ククク、・・・アイツらの、・・・言うとおりになるか・・・。」
「―――クロリスさん、・・・「聖杖」とともに、
この地に満ちる、乱れし力を封印します。
―――「聖杖」よ、・・・・我の声に耳を傾けたまえ、
・・・・・覚醒しその力を示せ!!!!」
―――マーシャが、最後に聖杖を振りかざした瞬間、
この世から、『悲劇の少女』は永久に消え去った―――
2012/04/25 edited (2012/03/04 written) by yukki-ts next to
No.42