[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第6幕― 第39章

「上陸しおった・・・か・・。」
 爆音がすぐ近くまで迫っていた。
「奴らを止めるのが先じゃないのか?」
 俺は、混乱した雰囲気をかき消そうと叫んでいた・・・。
「・・・焦るんじゃない。・・・何のためにわしたちがここにおるのか・・・」
 サニータの言葉を遮るかのように、俺は立ちあがった。
「何かあったら俺を呼べ。こいつであんな奴ら止めてみせる!!」
「ま、待て!!何をするんじゃ?!」
 俺の手をつかんだ男は、・・・それでもまだ、俺はそいつを、信用できてなかったが、
―――その場で一番混乱していた、俺の行動を制した上で、こう言った。
「―――奴は言ってた。・・・その時ももう近い。討つなら、・・・その時しかない。」
 そう言って、ネーペンティも立ちあがった。
「・・・今、こうして奴から解放された・・。もう、・・・最期の機会かもしれない。」
 
 俺は、腕を振り払い、・・・王の間の階下へと下りていった・・・。



 何万という数の兵だった―――。一様に、高くそびえる山脈をうつろな目で見ていた。
俺は、そいつらの前に立ちふさがった・・・。
「そこで、・・・止まってもらおうか―――。」
 声が聞こえているとは、・・・思えなかった。
「何かに・・・、とりつかれている・・・。」
 次第に、俺の近くへと向かって来た。間合いにはもう入っている・・・。
そして、最初の一撃を与えた瞬間に、―――すべては始まる・・・。
 それは、突然起こった・・・。禍々しい光―――。何万もの兵が一斉に取り囲まれた。
邪悪な気配がその兵全体を取り囲む。闇の気配が満ち溢れる―――。
「・・・なんだ、・・・いったい?!」



「リサ!!まだ、・・・走れんのかァッ?!」
 リサの手を引いて、兵の連中から走り逃げた。右手には、不思議な光を放ってる
ランスを強く握ったまま・・・。
「まだ、・・・大丈夫・・・。」
「あいつらの事だ・・、自分は自分で守れるだろうぜ・・・。
 けど、リサ・・、リサは、・・・俺が護ってやらなきゃあならねぇんだ!!」

 俺は雄叫びを上げながら、目の前を塞いできやがる連中を切り払った!!
「何が何でも、海に出てやる!!そうすれば、いいんだろ?!」
「―――ホーリーランスを持ちし者、・・・・東の地に至り、幻を討て―――。」
「よく分かんねぇが、もうすぐだぞ、リサ!!港だぁぁっ!!」

 港に入った俺達は、・・・それでも、足を止めるしかなかった。
「最後まで、・・・最後まで邪魔しやがるんだなぁ?!!」
 ディシューマの研究者共が作り出した、隠し兵器・・・。殺戮マシーン―――。
「お袋・・・、親父―――。」
 俺は、右手の―――、親父とお袋が俺に遺した、ホーリーランスに力を込める。
「力を、・・・貸してくれ!!」
 どれだけの数だろうと、俺には関係のない話だった。そいつらの機能を止める事を
容赦する理由なんて、何もありはしなかった。
「よし、行ける!!!」



 ―――それは、俺の驕りだった。俺の護るべきもの、・・・親父たちが必死に
護ろうとしたもの・・・。この国に生まれた俺に、―――他に護るべきものなど、ない。

「あっ・・・」

 とても、とても小さな声だった。いっそのこと、叫んで欲しかった・・・。
そう、助けてと・・・、守って―――と。
 俺は、・・・左手にあったぬくもりが、―――消えてしまったことの意味を、
・・・すぐに理解することができるほど、冷静じゃあなかった・・・。
 それでも、―――理解できていなくとも、他に叫ぶべき言葉はなかった・・・。
「リサァァァッ!!」

 そいつらは、―――感情も自我も持ってない冷徹な殺戮マシーン共は、
ただ命令に忠実に従うように、それが当然のように、・・・リサを標的にした―――。
 振り返って、そっちを見るのに、時間は必要なかった・・・。
だが、俺は、―――それ以上、足を踏み出すことができなかった。
「な・・、何を?!」
 機械共は、―――リサを標的にすることと、何も変わらない絶対命令のもとに、
俺の腕と足の動きを封じた。そこに、何の感情もありはしない・・・。
冷徹だと思うのは、―――そう思ってる俺が、・・・なんでも守れる力を持ってる、
そう・・・驕り高ぶってた俺が、・・・1人の人間の本当の無力さを知らなかったせい。
「や・・、やめやがれ!!はなせ!!どきやがれえぇぇぇ!!!」

 それは、・・・聞きたくなかった声だった。助けて・・、守って・・・・、
そのどれでもない。―――ただ1人、苦痛に耐えていた、リサの悲鳴だった・・・。



「こ・・の・・・やろ・・う・・・!!」
 ホーリーランスが、ディッシュの感情を表すように、聖なる光を激しくまとってた。
「リサに届けやぁぁっ!!」
 ホーリーランスが貫き通すのと、ディッシュの体を高圧電流が貫くのは、同時だった。
ディッシュの声にならない叫びが、灰色の空に向かって突き抜けていった・・・

「グランド・・・クロス!!!」

 あたりの地面を、強烈な爆風とともに斬り裂いた・・・。

「―――バーニング・・・スラッシュ!!」

 巨大な火柱が、ディッシュにまとわりついてた外道共を、一瞬にして蒸発させた。
「・・・いったい、・・・何が?」
「何やってんのよ?!早く助けてやんのよ!!!」
「そ、そうだ!!リサ!!!」

 ふらふらする足取りでディッシュは、リサお姉ちゃん―――、その人の元に
駆け寄ったわ。しばらくの間、黙ってた。―――それから、地面を、激しく殴りつけた。

「・・・あんた―――。」
 私は、ディッシュの奴に掛ける言葉を・・・、見つけられなかった。

「リサ・・・、待ってろよ―――。」
 そうディッシュは静かに声を掛けてから、振り返って、私に向かって叫んだ・・・。
「俺とリサを・・・、トゥリトルへ連れて行け・・・、シーナ。」
「トゥリトル!?」
「どうなんだ!?出来るのか!?出来ねぇのか!?」

「・・・西方海域ね。」

 多分、その声を聞いて、初めて、ここにいる人間の中で、一番冷静に
なれていないのが、私だってことに気付けた・・・。
 船から、ジュネイルが下りてきて、そうディッシュに話しかけた・・・。
「いいわ。行きましょう・・・。さぁ、船に乗って―――。」

 ディッシュは、―――長い眠りについた、リサお姉ちゃんを抱えて、
私の後について、ジュネイル達の船に乗りこんだわ・・・。

 お姉ちゃんの顔は、・・・いつも私達に言ってたような、安らかな笑顔だった・・・。






「マルスディーノ・・・。奴が、復活する・・・。」
「お前・・・」
 俺は、ネーペンティに狙いを定めたまま、立ち尽くしていた。
「闇の住人の中でも、特に強い野心を持つ・・・。おおよそ、バルシドの奴から
 聞いて駆けつけたんだろう・・・。」

「お前、・・・その名を、どうして?」
「単なる人形―――。だが、放っておくわけにもいかない。
 ここで、処分するほかない。」

 俺は、その言葉で迷いを打ち消した。
「何をするつもりだ?・・・こいつらは、仮にも人間だ・・・。
 ―――闇と契約するような奴に、何の権利がある?」

 はっきりと意思を持って応えた。
「―――悲劇に関係するもの、全てを追い詰め、・・・別次元に封印する。
 マルスディーノ―――、奴の右腕であったバルシドは、そうして、兄―――、
 いや、多くの人間を封じた。」


 闇の支配下などには到底あると思えない・・・、しかし、この目で
はっきりと見た。目の前に居る人間は、闇の住人とともにある・・・。
「―――かつて、ラストルの力を持つものは、結集しマルスディーノを封じた・・。
 だが、奴は封印されたにもかかわらず、クリーシェナードの悲劇を起こした・・・。」

「クリーシェナードの・・・悲劇。」
「・・・だが、奴も力を使い果たしたらしい。封印される間際に、
 いつか俺達に復讐すると言い残した。―――この俺に残された、
 これが、最期の・・・チャンス。」


 兵たちは、その合間にも、ゆっくりとその歩を進めていた。
「・・・もう、他の奴にまかせてなどおけるか!!残された時間は、もうわずかだ。」
「バルシド―――、奴は、まだこの世に・・・居るのか?」
「―――その刻は、もうすぐ訪れる。時間は、止まりなどしない・・・。」

「・・・トルネード・・・、スラッシュ―――」
 放たれた真空波は、・・・無数の兵たちを切り刻んでいた・・・。
「アーシェルよ・・・、悲劇を演じる者に、・・・自由など認められてはいない。」
「そうよ、・・・これは、神の・・・いたずら。」

 シオンたちとともに一斉にアローを放った瞬間だった。再び、闇の波動が
山脈からふもとを雪崩のように埋め尽くし始めた。

「マルスディーノ・・・、復活だ―――」



「ついたわ!!」
「あんた・・、こんな所でいったい何を・・・?」
「リサを頼んだぜ。俺は、・・・一人で行く。」
「何の為に私がいると思ってんのよ?・・・リサお姉ちゃんにお世話になったのは、
 ・・・あんただけじゃないのよ!!!」

「これは・・・、シーナ、テメェの関わる問題じゃねぇ・・・。」
「まずいわ!!・・・モンスターが船を!!」
「な、なんですって!?」

 私は、ナイフを手に取って上甲板へと上った!!
「な、・・・な、何よ、これ!!」
「シーナさん!!急いで!!このままじゃ、船が!!」
「わかったわ。・・・ディッシュ、・・・あんた、私があいつらぶった斬ったら、
 ・・・上陸するのよ!!!・・・いい!?」

「お前一人で・・・こいつら何とかできんのか?」
「あんた、・・・やんなきゃならない事・・・あるんでしょ?
 ・・・だったら、早く行きな!!」

「ああ!!」



 1人で行くと言った理由は、はっきりしてた。これ以上、あいつの前に立ってると、
感情が爆発しちまいそうになっていたから。
 怒りなのか、悲しみなのか、焦りなのか・・・、そんな感情がぐるぐると
回ってやがる・・・。シーナ、あの船に乗っていた連中、そのどいつの表情を見ても、
そんな感情に支配されてる場合なんかじゃあねぇんだって、無言の圧力を
掛けられちまって、ここに着くまでの間、もやもやする感情を、無視しまくって・・・

 船を下りたときに、最後まで残ってやがったのは、―――ただの後悔だった。
あの手のぬくもりが消えた瞬間―――、それだけは、シーナには決して分からない。

 ・・・俺は、あの時、ただ無力な・・・ガキだった―――。

「テメェの手下が、・・・大切な人を―――、俺にとっても、かけがえのネェ人を、
 ・・・そうだな、・・・そうなんだなァァッ?!」


 最深部―――、まがまがしい闇の気配に支配されたその空間からその声は届いた。

「―――殺シタ人間・・・、勝手ニクタバッタ土人形マデ、知ッタコトデハナイ。」

 おおよそ、人間の発した声じゃあねぇことくらい、ブチ切れてた俺にも分かる。
闇の住人―――、そいつは、地に足を付ける者全てを支配する―――

 邪悪な波動とともに、突然、地面が不自然に盛り上がりやがった!!
「貴様は、俺が、―――殺し屋の、司祭の名の下に、ブチ殺す!!」
 ホーリーランスの刃が、俺の心に呼応するように激しく光り輝いた。
「貴様ナドニ、何ヲサレルト言ウ気ダ。オ前モ操ラレルガイイ。
 無力ナ土人形トナルマデ―――」




「ヴィスティス!!」
 目に飛び込んだのは、倒れていた1人の青年・・・
「リーク・・・、リークね?!」
 あたしは、リークに近寄る。
「自分の支配していた国が、別の人間に支配される・・・。この変わり果てた、
 かつての王国を見て、何を思った・・・、ティスターニア女王様。」

「や、やめてくれ・・・。こんなの、・・・間違ってる。」
 ヴィスティスから放たれる強烈な圧力が、全てを押しつぶす。
 あたしは、ふらつきながら、それでも、ヴィスティスを見定めた。
その先の壁・・・、強力な封印で張りつけられた、マティーヨの姿を見たまま・・・。
「・・・20年前、前王が崩御・・・、王妃も、お前をご出産なされて、その後を
 追うかのように息を引き取られた・・・。前王に仕えていたホイッタは、
 お前の後見人としての役を賜り、そして、私は、・・・追放されたのだ・・・。
 お前には分かるまい。だが、それは事実なのだ。私の人生は、それを境に・・・、
 前王の崩御とともに、崩壊したのだ・・・。20年、私は、ただ耐え続けた・・・。」

 口を挟む余裕など、なかった。同情など、掛ける余地は、あたしには一寸も
与えられない。同じだけの時の重みも、決して分かち合うことなど出来ない・・・。

「今、このときのために―――、お前を、倒し、・・・恨みを晴らすべく・・・、
 私は、闇の力と契約を交わしたのだから!!」


 あたしには、もう、この国のどこにも、居場所など、ない。そんなことは、
誰よりも分かっている。それでも、・・・きっと、それで済ませてはいけない。
 それが、国中の民の望みでも、・・・目の前にいる、もう、救うことの出来ない、
ほんの少し、気持ちを分かち合うだけで、きっと、救ってあげられたはずだったのにと
考える気持ちが芽生えてしまう時点で、あたしに、王としての資格などない・・・。

 この戦いは、・・・闇の住人との戦い。全てを崩壊させた、悲しい出来事に、
もう、誰も涙を流さなくてすむまで、決して終わることのない、あたしの戦い―――。






「ヤメロォッ!!」
 あたしをかばうように、リークは、立ちふさがった・・・。
「なぜだ!!なぜこの私に、最後の最後まで刃向かう?!我が息子、リークよ!!」
「・・・俺は、親父の息子だ・・・。親父が居なけりゃあ、生きてなんかこれなかった。
 その事実を曲げてまで、敵になろうなんて思ってない。」

「・・・この悔しさ、歯がゆさを忘れた日など、一度たりともない・・・。
 それを、お前に理解させられぬことともにだ―――。こう言うつもりなのだろう。
 そこの小娘どもを許してやってくれ。敵じゃあないから・・・と。」

「ああ・・・、だから、俺は、ここを動かない。」
 ヴィスティスはリークを張り飛ばした・・・。
「ホイッタは!!―――ホイッタは、いつもあたしに話してくれたわ!!
 わしは後悔しておる・・・、わしに、女王につく資格などない。
 ヴィスティスの方が適任だと・・・、より、王の近くに居た、ヴィスティスこそが。
 それを王も分かっておられたはず。なぜ、奴が追放されたのかと・・・。」

「ならば、なぜだ!!どうして、王国から追放された!!
 ―――分かっていることを言わせるな。私は、・・・私は、国王を、
 ・・・あの、戦乱から護れなかったのだ。あのとき、・・・あの時に、
 私に、―――誰よりも近くに居た、私に、力さえ、・・・あったのならば―――」

 ヴィスティスは、そういいながら、凄惨な笑みを浮かべ、あたしに攻撃を放つ・・・。
「そう、こうして、エルネス家の者の力を御し、ガルディック家のものを
 ひざまつかせられることが出来るのも、全ては、あの日、私が交わした、
 闇との契約があるから・・・。ティスターニアを、陥れてみせるという言葉の通りに。」

「あなたが、・・・氷河牢獄を・・・。」
 なすすべもなく、あたしは、壁まで押しやられた・・・。
「そうだとも、そして、これで、終わりだ―――」

 あたしは、ゆっくりと下を向いたわ・・・。
「人は、闇に心を支配された瞬間に・・・」
 視線を、ヴィスティスただ1人に向け、その一瞬にアークティクスを凝縮して放つ!!
「―――人でなくなるのよ!!」



 それでも、あたしは、目の前で繰り広げられる、その残虐の光景を・・・、
耳を塞ぎたくなるようなその絶叫を、―――言葉とは裏腹に、受け止められなかった。
「ぐわぁぁあっ。・・・つ、・・・つ、冷たい・・。腕・・腕があぁぁっ!!
 ・・・な、・・・な、何故だぁぁ!!・・・い、イタァァッ・・。
 ・・・この・・このォォ・・・程度でぇぇ・・。
 ・・・ぐ・・・ぐぉぉ・・・。お・・・、おっ・・、お、おのれえぇええぇぇ―――」

 それは、・・・紛れも無く、無力な人の姿だった。決して抗えぬ運命に、
なおも立ち向かおうとしている、・・・そして、それを、あたしは―――。

 全身を、鋭く黒い闇の波動が貫いた・・・。

「―――クククク・・。愚かなことだ。・・・あの時、・・・そう、あの時から、
 ・・・この、・・・俺が・・・取りこんでるとも、・・・・知らずによォォ・・・。」

 その力を放出しながら、ヴィスティスは、ゆっくりと背後へと戻っていく・・・。
「・・・どうやら、その女は触れることもできぬ・・・。光の加護だとか言う、
 くだらない力を操りやがる一族の血か・・・。」

 ふらつくあたしなど、もう、その闇の住人の視界にはなかった・・・。
「や・・、やめ、・・・・。」
 リークは、その向かう先に気付くより早く、その間に割って入っていた・・・。
「俺はなぁ・・・、闇の住人の四天王の中でもニンゲンの力を自分の力に
 取りこむ能力ってのに長けてるんだぜ。・・・この体は、
 言うことをなかなかきかねぇからなぁ・・・。」


 その闇の住人は、そうして目の前に現れたひとりの人間の目の前で、
自らの人としての体を、自らの破壊的な力で・・・崩壊させた―――。



 地面がうごめいていやがった。闇の気配に支配された地面が俺を押しつぶそうと
迫り狂う・・・。俺は、そいつの間をすばやくよけて、走り抜ける!!
「コノ空間ニ存在スル者に、逃ゲル場所ナドナイ!!」
 無数の闇の魔力を帯びた岩石が俺に激突する。だが、俺は、なおも走り続けた。
「こんなもん、耐えてやらぁっ!!」
「無駄ナ足掻キダト、マダ分カラヌカ?」

 俺の周囲の地面が盛り上がり、全ての動きを封じやがる。突然の攻撃に、
俺の手からホーリーランスが失われた・・・。
「くぅっ、・・・クソォッ!!」
 体が激しく投げつけられ、間をあけることなく地面に激突する。
「けっ、・・・なんのつもりだ、畜生!!この俺を、この場で殺せばいいだろうが!!」
 俺は跳ね起きる。何のつもりかは知らねぇが、俺はまだ支配されちゃあいない。
「逃がしたこと、後悔すんじゃねぇぞ!!」
「バカメ・・・。」

 ホーリーランスに向かい走る!!だが、気持ちとは裏腹に、ホーリーランスは、
俺から次第に離れていった・・・。立ち止まろうとして、初めて気付いた。

「体が、・・・言うことを、きいてねぇ!!あ、操られてやがるのか!!」

 突如、目の前の地面が盛り上がる。魔力を帯びた岩石が俺に向かって・・・
「―――そこかぁぁぁっ!!!」
 俺は、そいつをめがけて大爆発を引き起こした。だが、体は、別の力によって
地面にたたきつけられた。そのまま、押さえつけられて、動かせなくなる。



「モウ、終ワリダ。」
 俺は、ただ、その視線だけを、ホーリーランスに向けた。ホーリーランスの周りが
盛り上がり、その切っ先が、俺に向かって回転させられる。
 考えるまでもなく、俺の顔に恐怖を浮かばせやがった。
「くそぉ、やめやがれ!!」
 轟音が、魔力を帯びた岩石とともに、俺の首の横を貫く。もてあそばれてやがった。
「この・・・野郎!!」
 地面に突き刺さったホーリーランスに、なお、手を伸ばした。
だが、地面は再び形を変え、なすすべもなく、離される・・・。

「アノ日・・・、憎キ人間ガ、ワシヲ封ジタ・・・。オ前カラモ、ソレカラモ、
 憎キ者ノ姿ガ目ニ浮カブ・・・。」


 親父・・・、お袋・・。―――リサ・・・。

「憎キソレトトモニ、アノ人間共ノ気配ノスルオ前モマタ、闇ノ彼方ヘト、
 封印シテクレルワァァッ!!」


 ホーリーランスの周囲の土が、その刃先を、再び、・・・そして、確実に、
俺の心臓へと向けさせた。直感で分かる。貫かれたのならば・・・
「・・・ここまで・・か。」

 聖なる光をまとうその刃は、・・・死の刃となって、闇を切り裂き迫る。

「永久ニ消エ潰エヨ!!」
「コンチクショォォォッ!!」


 ―――ランスの先から、血が溢れる・・・。一瞬の事だった・・・。
俺の目は、見開いたまま、やがて、その血の流れも尽きた。







「トルネードスラッシュ・・・、みんな、早く中へ!!!」
 シオン達は、モンスターであふれかえる洞窟を抜け、急ぎ足で修行施設への
階段を上る。辺りには、既に邪悪ないいようのない圧力に満たされていた!!
「アーシェル!!・・・結界を張ります!!中へ!!」
 ティサートの呼びかけに、アーシェルは応じ急いで中へと急いだ!!
 混乱した場の雰囲気の中での、ラストルの四使徒の到着は短い安堵感をもたらした。
しかし、それも束の間、奥からは、男たちの叫び声が響く!!
「マルスディーノはもう、復活してしまうのか!?」
「時間がないことは確かだ。アーシェル、それに、みんな。力を・・・、貸してくれ。
 ・・・奴を、・・・弟の敵を討ちたい!!」

 俺は、もう、目の前に居る人間を、闇の住人としては見ていなかった。
その言葉に無言でうなずき、奥へと急ぐ!!

「アーシェル!!テメェ、・・・やっと来たんだな!!」
「ザヌレコフ!!!」

 そこには、不思議な赤い光沢を放つ巨大なロングソードを持つ男が居た。



「・・・もう、いらねぇなぁ・・・。・・・・俺はよぉ、悲劇のたびに、
 こうやってさぁ、・・・ニンゲンどもをもて遊ぶのが大好きでよぉ・・。
 ―――もう少しで、俺の住みやすい世界に変えれたんだがなぁ・・・クククク。」

 ヴィスティスの邪悪な闇の結界がマティーヨを取り囲む!!
「さ、・・・させないわ・・よ・・・。」
「くだらねぇマネは、よすんだなぁ!!」
 いくらあたしが、何をしようと、その闇の住人の能力に抗うことは出来なかった。
「その力に触れられぬのならば、支配すればよい、・・・か弱き人間の体ごと―――
 そのために邪魔くだらない人間の体など、塵と化したのだからな!!」

 まばゆい光―――、マティーヨに宿るその聖なる光が、その闇の住人に宿る・・・。
「これが、光の力か・・・、クク・・・、面白いとは思わないか?!
 この力を支配するものが、一体、何であるのか・・・。そう、闇より生まれし住人が、
 相反する力を支配する―――。実に滑稽な話だとは思わないか!!」

「!!」
 あたしに向かって放たれたフラッシュリングを、何の抵抗も出来ずに、
受け止めたリークが、その場に倒れ伏した。
 走り出したのは、それと同時だった。端から見たならば、きっと、激しく突こうとする
レイピアに、あたしが引きずられているかのように見えたかもしれない。
 それぐらい、ただ、その一点だけを、あたしは激しく突いた!!時が進むにつれ、
さらに凄惨に、自らよりも格下の存在に対して浮かべる、その笑みを壊したくて。
「壊レチマウノハ、俺以外ノ全テノ存在ダ!!」



「・・・ザヌレコフ・・・、大盗賊ザヌレコフ・・・。」
 シオンは、静かにアーチェリーを構える。
「シオン!!!やめろ!!」
「おい・・・、俺は外に行く。・・・テメェらは、中に行け。」
 ザヌレコフは、シオンを無視し無言で歩き出す。
「待ちなさい!!あんただけは、・・・・許せない・・。ティルシスは・・・」
「どういう意味かは知らねぇ。・・・だがよ、こいつを持った以上、こいつに従う。
 ―――10年、俺は何も出来なかったあん時より強くなった・・・、ずっとな。」

「どこへゆくつもりよ!!」
 ―――その空気を吹き飛ばすかのように、突然奥から猛烈な圧力が加わる!!
「来おったか・・・。」
「わしと、サニータはここで待機しておる。少しでも安全を確保できるようにのお・・。」
「了解!!ネーペンティ!!シオン!!」
 俺とネーペンティはティルシスの像のそばを通り過ぎる。その後からシオン・・・
シオンの悲鳴!!強烈な闇の波動が像の中心で巻き起こり、全てを吹き飛ばす!!
「シオン!!!」



 想像を遥かに上回る爆発が、その闇の住人の周辺の全てをなぎ倒す。
壁が音を立てて崩れ果てていった・・・。
「・・・なんだぁ、・・・ニンゲンの野郎―――。」
「―――セレナ=アド=エルネス様の・・血を受け継ぎし者・・・。
 マティーヨ=エルネス様を・・・、解放せん!!」

 その杖から放たれたのは、その紛い物の力で生み出された光よりも、ずっと、
まぶしく、白く輝く、聖なる光であった・・・。
「な、なんだ・・・、貴様は・・・!!」
「よもや、忘れられる日が来るなどとは思わなかった。共に戦ったというのに。
 残念なことだ、かつての戦友よ!!」

 それだけでは終わらなかった。光は、ますます、その輝きを増す。
それは、聖なるなどと表現できる類のものを超越していた。
 命の輝き・・・。燃え滾る生命の光そのものだった・・・。
「ヴィスティスよ!!さぞ無念であっただろう!!よもや救う術など思いつかぬ。
 ならば、共に往こうではないか。救えなかった未練ともに、
 この世界から、・・・この我とともに、朽ち、そして消え去ろうぞ!!!」

「くっ・・・、その身を滅ぼし、・・・我を封じようと言うのかぁぁ!!!」
 辺りの全ては、光に支配された・・・。
その場に居るものは、ただ、降り注ぐ光の中で、何もできず、立ち尽くしていた。
「ティスターニア様―――、あの方の力を継ぐ、マティーヨ様と共に・・・。」
 やがて、その光は輝きをゆるやかに失っていった・・・。

「・・・このまま、朽ちゆくのか・・・。この、ヴィスティスともあろう、
 闇の住人を束ねし・・・、四天王とあろう、この・・・この、俺が―――」

 ただ1つ、その神秘的な光をまとう、レイピアを掲げし1人の女が静かに宣告した。

「―――邪悪なる者を、・・・ここに絶つ。」

 ティスターニアは、ただ無言で闇の住人の体を、レイピアで突き通した・・・。
その場に残された者を、地の奥底から深い静寂が取り囲む・・・。



 ―――けっ、・・・乱暴な起こし方、・・・しやがってよ・・・。

『魂ガ闇ヘト消エテ行キオルワ・・・。イズレ、体トトモニ槍モ封ジラレヨウ・・・。』

 ―――もう、俺の・・心臓は動かネェ・・・。魂も闇に封印されちまった・・・。

『オ前ハ既ニ死ンダ。・・・モウ動ケマイ。・・・ソノママ朽チ果テヨ・・。』


 ―――ホントに・・・死んじまったんだな・・・・。


『ド、ドウイウ事ダ・・・。・・・オ前ハ、既ニ死ンデイルンダァァ!!』


 俺は、腕をランスに伸ばし、ゆっくりと体から引き抜く・・・。

『ソウダ、死ンダンダ・・・、今スグ、闇ニ・・・―――オチテシマエァァァッ!!』

 ホーリーランスがオグトを貫く・・・。

『グォォァァァアアッッ・・・。苦シイィィ・・、痛イィァァッ・・・、アアアァッ』

「俺のこの傷からはもう血は出ネェし、この傷が消えることもネェだろうよ・・・。
 ・・・お前が、殺してきた人間の、―――すべての人間の哀しみと傷が消えるまで、
 ・・・俺は、このホーリーランスと共に動きつづける!!
 ―――このホーリーランスがすべてを癒し、俺が消え果る、その時までなぁっ!!」


 オグトの脳天から、渾身の力を込めてホーリーランスが再び貫き通される・・・。






「ふん、これが最期さ。・・・一世一代の大博打よ。」
 私は、負けるつもりなんてない。こんなにすごい大魔導師に教えを受けて、
さようならなんて、するつもりなんてない。
「お前にだけは、弱音を吐くさ・・・。どうせ、言葉なんか分からないじゃろう?」
 あまねく闇魔導法を受け継がせてから、そんな事を話すセリューク様のお側に
居させてもらえる事。それだけで、私は、十分だった。きっと、セリューク様は、
私に、マーシャお姉ちゃんのそばにも、一緒に居てもいいって思ってくれてるのだから。
「いつだってそうさ。面倒ごとはみんな押し付けて来る。しかも、中途半端に
 厄介なことばかりさ。―――物事の一番、美味しいところは、みんな若い奴らが
 もってっちまう。アドのお嬢ちゃんだってそう。ルカの親娘だってそうさ・・・。」

「でも、頼られるのって、・・・嬉しいですよね?」
「耳が遠いんだ。小さい声しか出せないんなら、喋るんじゃあないよ。
 若い奴はみんなそうさ。ちっさい事でくよくよ悩んで、すぐに流される。
 わしの生き様を見習おうとする奴なんか誰もいやしない。
 ・・・そいつが、世界を滅ぼしたりしないって愚痴ってんなら、またくだらない冗談
 抜かしやがってって笑い飛ばしてやりゃあいい。それでも、手前の大事な奴が、
 間違ったことをしそうになってんなら、ぶっ飛ばしてやりゃあいい。
 ―――大人の好意に甘えて、ヌクヌクしやがるガキは、それでも、
 そばに居てやらなけりゃあ、大きくなれやしないのさ・・・。」



「そういうことさ、三下共・・・。くだらない真似したって、わしは、もう、
 これ以上、歳を食ってまで大きくしなきゃあならんもんは、ないんじゃからな――。」


 時空魔導士・・・。悲劇の少女に関わりし者達への『試練』という名の襲撃。



「私に対する意趣返しかしら。・・・よっぽど、悔しかったのね。」
「どうとでも取ってくれていい。」
 ガルド王国王城・・・、最上階に私とレイ=シャンティは対面していた。
「あなたのせいで、登場するタイミングを逸してしまったわ。これじゃあ、台無しよ?」
「マーシャに仇なすならば、容赦はしない。それだけだ。」
「そうすれば、世界は滅びるわ。闇の住人も、時空魔導士も、・・・あなたたちも。
 そして、あなたたちは選ぼうとしている。現状を永久に崩さぬようにするか、
 滅ぼそうとする者を、力づくで止めるか・・・。」

「無理矢理選択肢をでっち上げたの間違いだろう。」
「私は穏便にすませたかったの。間違っているもの、こんなの。そうでしょ?
 もう1人の彼、・・・いえ、闇の住人だったわね。もう、行動を起こしている。
 そして、そこまで見越して、次の行動に移ろうとする人が居る。―――せっかく
 崩せたと思ったあなたの自信は、みんな、その人に由来しているのよね・・・。」

「ああ。」
「あなたにはもう退路が出来ている。その人に続く道が。」
「不本意だが、認めるさ。」
「なら、もう分かってるのでしょう?もうすぐ、その退路は、崩れ去るわ。」

 退路は崩れ去る・・・。ならば、前に進むしかない。

「何もかもが分かっているのならば、気をつけるといい。
 私達は、前に進むしかないのだから・・・。」

「それが気をつけなければならないと分かっているのならば、もう、警戒をしているわ。
 それでも、あなたの言葉だから、有難く受け取っておくわ。
 ―――本当は、私が連れて行く役目だったのでしょうけど、あなたに譲るわ。
 もう、そろそろ、刻限でしょう・・・、間に合うといいわね―――。」


 レイ=シャンティは消えた。恐らく、今のタイミングで、依り代たる闇の住人が
屠られたのだろう。ならば、次に相対するとき、彼女は、本来の力を示すだろう。

 その時に、私は、―――私達は、全員で迎え撃つ。マーシャとともに・・・。



「マルスディーノ・・・。」
 俺は、その体に徐々に気味の悪い感覚が次々と染まり行くのを感じていた。
必死に、理性を保とうとするが、その感覚がしだいにすべてを麻痺させてゆく!!
 再び、シオンの悲鳴が上がる!!!
それとともに、刃の、空を猛烈な勢いで切り裂く音があたりに響き渡る!!!
「余計な事・・・かぁ・・。」
「なんで、あんたなんかが私を!!」
「ティルシスにはなれねぇ、・・・なりたくもネェ。俺は、俺だ!!
 くだらねぇこと言ってるヒマはねぇ!!言い争いはあとだぁ!!こっちに来い!!
 外は、コイツのせいで、バカみてぇに強くなっちまった雑魚どもだらけだぁっ!!!」

 ザヌレコフは、シオンをつれて一目散に外へと走っていった。

「早めに片付けよう・・・。意識が飛びそうだ・・・。」
 俺に宿る裁きの神、風雷の化身、ラストルを召還させる。コロシアムの中心に
巨大な真空の渦が巻き起こり、すべてを包み込む。・・・地の底から響くような
大音響があたりに鳴り響くと同時に、闇の力の奔流が全てを押し流しだす・・・。
「・・・・・やられる・・・もの・・・かぁぁぁ!!」
 ネーペンティが、俺の周囲に結界を張る・・・。
「・・・アーシェル・・・、・・・耐えて・・・くれ・・。」
「・・・・バーニングスラッシュ!!!」
 これだけの攻撃を加えるにも関わらず、その力の根源たる、マルスディーノは
衰えることはない・・、いや、それどころか、ますます増大し、
今にもその姿を地上にあらわさんとしていた・・・。
「ラストルの四使徒の名を持つものとして、・・・お前を封印する!!」
 俺は、ほぼ全魔力をふりしぼって、すべてをマジックガントレットから放つ!!!
・・・その俺の体は、邪悪な闇の力により形成された刃に貫かれる!!
 ―――マルスディーノはかつての『クリーシェナードの悲劇』と同様に、
再び、その力を今こそ、発散させようとしていた!!!!

「―――ラストルを、・・・解放してくれ―――。」

「・・・何?」
 ネーペンティは静かに、そう言った。
「どうする・・・・んだ・・・?」
「―――奴、・・・デスティ=ノームは俺を・・・はめようとしている。
 ・・・奴の力を俺は宿している。・・・奴の策略で俺は利用されている。
 ―――そして、奴は、機会をうかがっている・・・。それは、・・・わかっている。」


 俺は、一瞬戸惑った。だが、ラストルを解き放った・・・。

「・・・いいだろう、・・・俺の体。―――テメェにくれてやろうじゃないか。」
「ど、・・・どういう事」
「封神―――エターナル、護神―――ラミア、裁神―――ラストル!!!
 その力を我に宿し、我の言葉に従えよ!!」

「・・・何を始める気だ?!」
 アーシェルの周りが急に暖かくやわらかい空間に包み込まれる。

マルスディーノを中心に魔法陣が現れ、結界がすべてを包む。
「『悲劇の少女』に伝えてくれ・・・。―――『悲劇の地』に集え―――と・・。
 この行動が、・・・奴の策略であろうと、―――お前に会えて、よかった。
 ・・・こんな最期を迎えられたのは、お前らのおかげだ・・・。」


「ネーペンティ、お前・・・。」

「――――――召喚・・・・完了。」







「いい加減にしていただきたいものですわ。全てが終わってからもまだ仕事は
 ありますのに、・・・準備している内から計画に綻びをつくるわけにもいきませんの。」

「その三下な俺達は、こんなババァにいつまでも関わってる場合じゃあねぇんだ。
 俺達が、こうやって諦観してやってんのも、その方が都合がいいからさ。
 圧倒的な弱者を装ってやがろうと、そいつらが聖杖を持つ者に抗う術を持ってんなら
 話は別・・、聖杖を持つ者さえ居なけりゃあ、この関係は途端に瓦解する・・・。」

「手を組んでるように見せかけて、親玉は、いつだって、食い殺す気満々かい・・・。
 そうやって、何百年も何千年もよくもまぁ、その関係とやらを続けてるとはねぇ。
 ちょっとだけ、尊敬しちまうよ・・・。」

「もう終わらせますわ。その終幕の刻までに、どうしても間に合わせなくては
 ならないの。いつの時代だって、みんな裏切り者が終わらせる。
 許されないことよ。あなたも含めてね。」

「その裏切り者とやらには、もう手は打ち終わったさ。それに裏切り者ってのは、
 横の繋がりが強い奴らさ。気分次第で裏切った挙句、その裏まで寝返る連中よ。」

「あなたは殺すべきだった。前の連中もその前の連中も、・・・最初の連中からずっと
 みんなそう言って死んでいったわ。だから、死になさい。」


 セリューク様は、最期に、・・・それでも笑顔を浮かべて振り返ってくれました。

「死にゃあしないさ、・・・タダじゃあね。だから、お迎えに行ってきな・・・。」



 ディッシュの奴は、何も変わってるところはなかった。傷だらけなのはいつものこと。
流血していたって、別に珍しくもなんともない・・・。
 むしろ、今のこの状況の方がよっぽど可笑しいことになってる。
 私達の船は、西方海域をその国に向かって進んでいた。誰ともなしに、なし崩し的に
その針路は決まった。私達―――、ちょっと前じゃあ考えられなかった連中が、みんな、
ここには、つるんでた・・・。
「ディッシェムの奴、・・・頭でも打ちやがったのか?」
「知らないわよ。っていうか、馴れ馴れしく話し掛けられるような間柄?」
「一番よく見知っているのは、シーナしかいないだろう。」
「シーナさん。ナイフの様子はどうでした?」
「ここ一番って時に、間に合わなかったけどね。ま、しょうがないわね。」

 なんでこんな笑顔で居られるんだろう。笑顔になれない原因を作ってる本人の言葉が、
結局、最後まで私の心の中で生き続けてくれているからなんだろうな・・・。

「一番、文句を言いそうな奴が、黙ってんだからいいのよ。私は、私のやりたいように
 やるだけ。だいたい、引き返す気なんてないんでしょ?あんたたち。」


 イガー、アトル、ジュネイル。こいつらが何か言えば、盗賊、殺し屋、
兵士、研究員・・・、とにかく、どんな肩書きを持ってる取り巻き連中だろうと、
嫌でも付き従って来る。ご立派な事だと思うわ。

 けれど、こいつらは、きっと誰も、
―――マーシャの味方にはなってくれない。そんなこと分かってる。

「目的地は、ザヌレコフお兄ちゃんの居る場所です。それでいいのですよね?」

 こいつらを組ませた奴は、力関係を見誤ったようね。まさか、この中で、
一番ザコキャラっぽい奴の方が、力関係が上だったなんて思いもしなかったでしょうし。

「私みたく、可愛いのって、・・・ホント、罪よね・・・。」



「・・・・フィサート・・。」
「分かってる。・・・何かが、・・・近づく!!」
 全魔力をもって、コロシアムから流れる邪悪な気流を防ぐティサートとフィサートは
膨大な魔力を到底感知できないほどの微小な魔力に圧縮したような何かが、
猛烈な勢いで迫り来るのを感じていた。
「・・・何が・・、来る?」
 サニータがたずねた。ザヌレコフは、ソウルフランジャーをきつく握る。
「分からない。でも、・・・並の力じゃあない。」

 突然、中央に巨大な魔力の空間が浮かび上がり、膨大な魔力を帯びた
魔方陣が現れる。
「・・・・・何モンだ!?・・・この非常時に!!!」
「―――ティサート・・・、フィサート・・・だな?」
 ティサートとフィサートは、それが私の声だとすぐに気付いた。
どうやら、ザヌレコフも同じようだった。
 ドルカ、ティスターニア・・・、そして、私と共に、マーシャは魔方陣に転移した。



「・・・おいおい・・・、な、なんなんだ・・・、こいつぁぁ・・。」
「―――異空間移動魔法、トランスエリア・・・・。」
「―――大魔導師の力を受け継ぐ者にのみ扱うことのできる、・・・究極魔導法。」
 ドルカは、一瞬周りの邪気にやられて倒れそうになったが、セニフが支えた。
「・・・あの時に似ている・・・。あの、・・・悲劇の時と・・・。」

「ネーペンティ・・・、ネーペンティは?!」

 ヒメさんは、俺に向かって必死な形相でそう問い詰めてきた。
「どこなの!?・・・ネーペンティは、今どこに!!!」
 俺は、コロシアムの方向を指差した。この騒動で忘れてたが、そろそろ、
奴らのところに戻って加勢してやらねぇと・・・。
 ヒメさんは、ただ、何も考えずに、そっちの方向に走っていった・・・。



「俺はどうなろうと構わない!!!せめて、・・・せめて・・・貴様だけでも!!」
 ネーペンティの体は、いつかと同じく、半透明になっていく・・・。
「・・・間に・・・合わな―――」


「アレほど、・・・お前には、・・・よくしてやったのにヨォ・・・。」


 身も凍りつくような世にも恐ろしい声が、コロシアム中に轟いた。
「アンだけ、悲劇の少女の連中に近づくんじゃネェっつってたのによォ、
 ・・・裏切りやがってなァァ、・・・ヒヒヒヒヒヒ・・・。」

「―――デスティ=ノーム・・・、・・・貴様・・・。」

「悲劇の少女にすべてを・・・託すかァァ・・。―――もう、お前も終いだ。
 お前を生かしていた俺の力は、お前が持つモンじゃネェんだよ、ヒヒヒヒヒヒ!!」


 デスティ=ノームの声の方向からの波動がネーペンティを砕き尽くし、
ネーペンティに宿る魂は、次第に光を失い、禍々しい邪気に染まりゆく・・・。

 そのあまりに突然のことに、ただ見ているしかなかった俺の視線の先に―――、
これまでと比べ物にならないほどの邪気に対して、言葉を出すこともできないまま
対峙する、ザヌレコフ、そして、ドルカの姿。

 そして、もう1人、その惨禍を目の当たりにするティスターニアが居た。


 ―――発狂にも似た叫び声が、邪気とせめぎ合うかのように木霊し、
やがて、闇の波動に溶けていった・・・。




 デスティ=ノームの波動が、容赦なく襲い掛かってきやがった。
アーシェルの野郎は、直前にラストルの力を召喚し直すも、直撃!!
ヒメさんをかばう俺ごと、そのまま衝撃で突き飛ばされる・・・。

「お前ら・・・、その弱さを知らしめてやろう・・・、ヒヒヒヒ・・。」

 ドルカは、弱々しさを微塵も感じさせねぇ魔力を辺りにぶっ放してた。

「闇の住人!!・・・悲劇の少女―――、マーシャは未だ眠りに就いたまま・・・。
 ここでは、私達が相手になる!!」







 ディッシュを頭数に入れなければ、そこにいた4人全員の合意だったわ。
「こんなヤベェところに突っ込むのは、全員じゃあムリだ。」
「オグトの影響がなくなったからと言って、油断すべきではなかったようだな。
 むしろ、闇の住人の気配がより色濃くなっている・・・。」

「まだマシな方よ、体が乗っ取られるよりは。要は気さえ確かに持ったまま、
 出会い頭に全員ぶった斬ればいいんだから!!」

「何人かは、ロベルタクスストーンの力でも影響を受けない程度に抵抗力を
 持っています。少数で進むにしても、頭数だけは揃えましょう。
 ―――シーナさんを、ザヌレコフお兄ちゃんのところまで、無傷で送り届けるために。」


 理由は釈然としなかったけど、ありがたい言葉だったわ。

「悪いけど、その目的は果たせそうにないわね。全力で行くから、私。」
 それに、もし、こいつらが来なくても、私は、・・・1人じゃあない。
母さん、父さんも、―――炎の民の皆が、・・・私について来てくれるから。

 やっと、見つけられた、―――大切な私の使命だから・・・。



 私は、突如にして威力を増した邪悪な波動を前に、マーシャをかばいつつ、
その異変に気付いた・・・。
「ティサート、フィサート・・・、結界が―――」
「・・・無茶な力の行使をしていたのに、・・・無理矢理入ってくるから・・」
「冗談を言っているつもりなら、今すぐやめろ。お前たちの力の根源は―――」

 どんな状況であっても、召喚者の魔力に全て依存する。即ち、その威力の降下とは、
―――術の行使者による意思が介在する・・・。意図であろうと、そうでなかろうと。

 私は、ただ、拳を握り締めるのみだった・・・。この調子で行けば、
恐らく、この結界を放つ召喚魔法が解かれることは、二度と起こりえない。
 最期の一瞬までも、・・・この力を、自らの命を永らえるがために使おうなどとは
思いもしないだろう・・・。恐らく、余力があるのならば、それら全てを、
―――発散させつくすことしか、あの術者の頭には、あるはずが・・・ないから・・・。

「セニフ!!」
 聞き覚えのある声だ。あの勝負運の強い大魔導師の一世一代の賭けは、
どうやら、結局、何もかもを呼び寄せてしまった・・・。
 それは、あまりにも残酷な結末だった・・・。マーシャが目覚めぬことを良いことに、
世界中、好き放題にさせ、それでもなお、―――私達は、悲劇の少女の元に集った。

「セニフ!あんた、セニフね!!もう、後には戻れないわよ!!
 数え切れない数のたくさんの、・・・もう、とにかく、マーシャを狙う連中が、
 そこまでもう来てんのよ!!ねぇ、わかってんの!!セニフ!!!」


 きっと、これもまた、悲劇として後世まで、語られるのだろう、
その中心人物たる、1人の少女もまた、―――悲劇の少女として。
 それは、恐らく、どこまで行っても事実だ。それを宿命付けられたのが、
マーシャという、たった1人の、少女・・・。世界中を悲劇という舞台に巻き込み、
何の夢も希望ももたらすこともなく、絶望と闇に包まれた世界を、やがて、滅ぼす―――。

「―――消え果てる、・・・・・命の・・・・・・炎・・・・が―――」

 その言葉を最期に、ティサートとフィサートは虚空へと消え去り、
同時に結界が解き放たれた・・・。

 もし、後世に語られるのならば、出来るならば、記しておきたい事実がある。
その試みは、一度した事があるが、それは失敗に終わっている。
 だから、今回こそは、出来る限り、はっきりと示しておきたい。

 ―――この悲劇に大いに関わる者を、人々は、悲劇の少女と呼んだ。
だが、今、ここに居るマーシャは、―――深遠なる眠りの世界に居た。


 ずっと見ていたのだから、それだけは、決して間違えようのない、事実だ・・・。




 セニフは、無我夢中で、マーシャを背負って、他の人間のところまで、
私達を案内した。結界だかなんだかの力で一箇所に止まってた闇の波動ってのが、
修行施設中を駆け巡ってった。多分、ここはもう持たない。もともとボロだったし。
 サニータ、ゾークス、それと、あのシオンは、私達を見送ってから、
修行施設の連中の一緒に武器を持って、トンネルに向かってった。
 多分、途中で置いてきた連中と合流して、派手に奴らを蹴散らすと思う。
そういえば、結局、あれから、ディッシュの奴は、何にも話してくれない。

 別に話したいだなんて思ってないし、薄々気付いてもいた。もう、目の前に居る
こいつは、・・・私達が知ってるディッシュとは、違う奴になってるんだって・・・。



 闇の邪気が周囲に容赦なく放射されるようになって、ようやく分かった。
それは、かつての四使徒―――、ヘルクスとラグナによって封じられた扉だった。

 マルスディーノは、結局、地上へとその姿を現すことはできなかった。
それは、ラストルの四使徒と呼ばれる者達、全員の悲願だった・・・。

「―――もう、帰れネェぞォォッ!!!
 ・・・アーシェル!!ドルカ!!ヒメさん!!いいなぁぁぁ!!!」


 ザヌレコフは、闇への封印されし扉に対しその赤きロングソードをふりかぶる!!

「私たちもだっ!!!!!!」
「アーシェル!!!ザヌレコフ!!!行くわよ!!!!」
「セニフ!!!!マーシャもいるなぁぁ!!!!!」
「ああ!!!確かにここに!!!!!」
「ザヌレコフ!!!もう、先に進むしか道はない!!!」
「行きましょう!!!!」

「・・・・・・ぶッッタ斬るッッ!!!!」

 ザヌレコフは、デスティ=ノームの力の方向へと向かい、その封印を砕き散らす!!


 ――― 一瞬にしてすべての感覚を失い、異空間の地へとひきづりこまれ、
後には、静寂のみが辺りを支配した―――。







「・・・セリュークは、ここまでをマーシャに隠すようにと言い遺していた。」

「―――全部、知ってしまいました。・・・恐らく、本当なら、知るはずのない、
 皆さんの心の中まで、・・・全て。」


 あの大魔導師のやりそうなことだと思いながら、それでも、マーシャの表情が
記憶と変わりないことに、安堵する私がそこには居た・・・。
「マーシャが眠りについてから、目覚めるまで、・・・皆、何も変わりはない。
 ―――説得力はいささか欠如している気がするが、・・・それが、事実だ。」


「きっと、それは違うと思います。」
「・・・どういう意味だ?」

「たとえ、ディッシェムさんでさえ変わってないとセニフさんがおっしゃったとして、
 ―――誰よりも、一番変わったのは、・・・セニフさん自身だと思います。」


 まだ見てもいないディッシェムの変化に言及した上で、それは、あまりにも
不可解なマーシャの言動だった・・・。

「セニフさんが、・・・こんなに柔らかい笑顔を浮かべていることなんて、きっと、
 今まで、一度もありませんでした。ずっと、心配ばかり掛けて、ごめんなさい。」


 その微笑みによって、私は救われた―――そう言っても、いいのだろうか。
セリュークの思惑は、・・・決して外れていなかったと言えるのだろうか。
 マーシャの笑顔を守れた・・・。それは、ルシアに誇ってもいいのだろうか・・・。

「まだ、・・・続きがありますよね?」

 そうマーシャは続けた。ここから先は、私の物語だからと・・・。


2012/01/26 edited (2011/01/30 written) by yukki-ts next to