[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第4幕― 第27章

 (90日目昼)
「どうだ・・・、変わった様子はないか?」
「ああ、・・・ずいぶん大人しくなったぜ・・・。この調子なら、明日までもつだろ?」
 その2人は、目の前を通り過ぎて行った。
「・・・あの人、私、見た事があります。」
「知っているのか?」
「ザヌレコフさんの、そばにいた人・・・。」
「それなら、間違いはないようね。」
「ザヌレコフ盗賊団・・・。前に俺達がここにいたときも、姿を見せていた・・・。」
「盗賊団は、最近、活動が頻繁になっていたわ。それでも・・・、
 今回は、今までと、・・・規模が違う。」

「どうして、こんなことを・・・。」
「あんたたちに、頼み事があるわ。聞いてくれる?」
 シオンは、そう俺達に言った。
「何だ・・?」
「あんたたち2人で、先に、ディメナ王国に行って。」
「ああ、わかった。だが、シオンは・・?」
「後から追いつくわ。ここで他の者と合流してから、すぐに・・・。」
「シオンさん、・・・私達、先に行って、待っています。」
「気をつけて・・・。」



 私達は急いで、街道を走って行きました。
「まず、サニータ王の所へ行こう。・・・まだ、盗賊達が何人もいるはずだ。
 見つからないように慎重に。」

「はい・・・。」
 煙のにおいがたちこめていたディメナの街は、静まり返っていました。
「―――静かすぎる・・・。」
「もう、この街は・・・。」
「王の所へ急ごう。」
 時々、2,3人の人が周りを警戒しながら、歩いているのを見かけるたび、
アーシェルさんは、私と物陰に隠れてやりすごしてから、城の方へと進んで行きました。

「おい、何をしてやがる?!お前等!!」

「しまった、気付かれたか?!」
 その声は、私達へではありませんでした。
「盗賊共・・・、いつまでも、俺達が・・・黙ってるとでも思っていやがる気か?!」
「ザヌレコフ盗賊団!!テメェら、全員、とっつかまえてやらぁ。」
 ディメナの街の人達が、武器を手にしていました。
「とっつかまえるか・・・、ずいぶんと威勢のいいことを言いやがる。」
「おい、人数をかき集めて来い。」
 何人かの人が、他の盗賊の方を呼びに行きました。
「もう、王家も落ちたって言うのによぉ、まだ、暢気なことを言ってやがるな。」
「まだ、これから何が起こるのか、気付いてねぇとはな。」
「お、お前等盗賊・・・、何が狙いなんだ?!この国をのっとってまで、
 何をしやがるって言う気だ?!」

「―――別に、この国に興味なんかねぇ。最初に、アサラさんが選んだ場所が、
 たまたま、ここだったってだけだ・・・。」

「あとな、もう1つだけ、冥土の土産に教えてやらぁ。」
 私は、アーシェルさんにとめられるまで、すぐにでも飛び出そうとしてしまいました。
突然、街の人の1人が、その盗賊の人にソードで斬られてしまったのです。

「ザヌレコフ盗賊団・・・、そんな呼び名は、もう過去のもんなんだぜ。」



「ど、どうして止めるのですか?!助けないと、このままでは!!」
「盗賊達が集まってきた。・・・俺達が加勢したところで、争いは止められない。」
「見殺しにするというのですか?!」
「・・・ひっかかることがある。」
「えっ?」
「これまで、ザヌレコフ盗賊団は、・・・雫の結晶を追っていた。
 この騒ぎの目的も、それで間違いないだろう。」

「そ、それは、・・・ザヌレコフさんが、他の雫の結晶のある場所に
 気付かれたということですか?」

「・・・あるいは、こうとも考えられる。
 そう考えるであろう俺達を、―――おびきよせる・・・。」

「私達がこの街に来るのを・・・、待っているのですか?」
「もう、気付いているかもしれない。だが、わざわざ、俺達からそれを、
 敵に教えなくてもいい。いずれ、シオン達、修行施設の人間と合流できる。
 ・・・俺だって、誰1人として、見過ごしたりなど、したくはない!!」

「・・・今、私達がやるべきことは・・・。」
「ディメナ王に、会う事だ・・・。」



 城門の近くまで来ると、その周りには、何人かの人が様子をうかがっていました。
「見張りが2人・・・。倒さなければ、入れそうにはないな・・・。」
「でも、戦いになれば、・・・騒ぎに気付いた人が・・・。」
「ここまで来た以上、もう、隠し通すのも限界だろう。
 ・・・俺が、1人しとめる。それと同時にダッシュして、一気にたたく。」

「はい。」
「準備はいいな?行くぞ!!」
 アーシェルさんは、アーチェリーを構え、アローを放ちました。
「う・・、な、なんだっ・・・?!」
「ど、どうした?!こ、こいつは、・・・何者だ?!」
「ごめんなさい!!」
 私は目をつぶって、もう1人の人を思い切りロッドで叩きました。
「何の騒ぎだ?!」
「まだ、4人もいるのか?!」
「アーシェルさん、離れてください。フラッシュリング!!」
 4人の人の足を止め、どうにか、他には誰も出てこられないようでした。
「・・・よし。・・・行くぞ。」



 階段を上り詰めた先にあるべき王の姿はなかった・・・。
「い、いない?!」
「だ、誰だ?!テメェら!!」
「王は何処だ?!」
「けっ、バカ言うんじゃねぇ。言えるわけねぇだろ?」
「たかが2人、俺らにかかりゃあ―――」
 俺は、盗賊の1人をアローで射抜いた・・・。
「マーシャ、走れ!!地下牢に行くんだ!!」
「ち、地下牢ですか?」
「ああ、そうだ。」
「て、テメェ―――、なぜ場所を知っていやがる?」

「・・・図星だな。ここは、俺1人に任せろ。急ぐんだ!!」
「は、はい!!」






 (90日目夕方)
「・・・逃がすかぁっ!!」
「トルネードスラッシュ!!」
 俺は、マーシャを追いかけようとする盗賊達を射抜いた。
「マーシャには、誰も近づかせない!!」
 もう一度アーチェリーを構えた。だが、その時、
俺は背後から2人がかりでつかまれた。
「な、・・何をする?!離せ!!」
 もう1人の盗賊が動けない俺の前まで来て、腹を蹴り上げた!!
「ちょっと、調子に乗りすぎたな・・。」
「ぐはぁぁぁっ・・・。」
「テメェら、こいつを殺れ。俺は、女を追う・・・。」
「や、やめろ・・・、い、行くんじゃ、な・・・。」



 暗い階段を下りて、牢屋のある場所に入りました。
「だ、・・・誰か、・・・いませんか?」
 誰の返事も聞こえませんでした。それでも、私はもう一度、
歩きながら聞いてみました。
「ほんとうに、・・・だれも、いないのですか?」
「―――誰だ・・?」
「誰ですか?!」
 私は、突然の返事に驚きました。
「・・・誰か、そこに、いるのだな・・・。
 わしは、・・・わしは、サニータ―――、国王のサニータ=ディメナ・・・。」

 声のした方へと私は近づいて行きました。
「サ、サニータ様!!」
「よかった、・・・もう、誰も来ぬと思っていた・・・。
 ―――マーシャ、・・・だな?」

「ど、どうしてこんなことに?!」
「ザヌレコフ盗賊団―――、かねてより、この国にもちょっかいをかけてきた。
 おおかた、この国の何か財宝の在り処でも嗅ぎつけたのだろう・・・。」

「そ、そのために、・・・国までも?」
「いや・・・。」
 王様は、そこで声を低くしました。
「奴等は、・・・ただの盗賊とは違う、・・・そう、わしは思っておった。
 なぜなら、―――奴が狙っておるものが・・・」

「雫の結晶・・・。」
「―――今宵は、日が落ちぬ。その度に、海流が止まる・・・。
 たとえ、どんなに荒れ狂っていようとも・・・。
 もし、知っておる者がいるのならば、必ずや、
 ・・・スフィーガル大陸に向かうだろう、奴等は・・・。」

「スフィーガル大陸・・・、もしかして?!」
「奴等の探し求めておったものがある場所なのだからな・・・。」
「それで、・・・誰にも邪魔をさせないために―――」
 王様の目が変わりました。
「ぬっ、後ろだ!!」



「えっ?!」
「きっ、貴様?!何をしてやがる!!」
 その人は私に向かって、かけよって来られました。
「こ、来ないで!!」
「!!」
 突然、その人はゆっくりと倒れこみました・・・。
「はぁ、はぁ・・・、危なかったわ・・・。
 もうちょっとで、やられちゃってたわよ。」

「―――シオン、・・・シオンなのか?!」
 王様がそう呼ばれたおかげで、私はその人がシオンさんであることに気付きました。
「えっ?そ、その声・・。まさか、お、おじさまなの?!」
「シオンさん!!」
「マーシャ、無事みたいね。ちょっと、離れてて。今、助けるわ。待ってて!!」
 シオンさんは、牢屋の鍵を壊して、サニータ様を助けられました。
「すまぬ・・・、助けられたな・・・。」
「よかった・・・。はっ、シオンさん?!
 あの、アーシェルさんを、見られませんでした?」

「アーシェル?あぁ、そこで、くたばってるわよ。」
「え、えぇっ?!」
 アーシェルさんは、シオンさんの後ろで少し離れた場所に、
傷だらけになって、倒れてました。
「・・・ど、どうされたのですか?!」
「さぁね・・。・・・階段で、こけたんじゃないの?」
「・・・そ、そうなのですか?」
「ま、・・・そのうち、起きるでしょ?」
「シオン。・・・奴らがもう、来る。
 ・・・アーシェルとマーシャをつれて、早く逃げてくれ!!」

「な・・・、何言ってるのよ!!おじさま!!」
 シオンさんは、そう言って、サニータ様の方にかけよられました。

「おじさまを置いていけるわけ、ないじゃない!!」



 シオンは、振り返ってマーシャに話しかけた。
「ごめん、マーシャ。アーシェルを連れて、見つからないように、ここから離れて。
 ここは、・・・私がなんとかするわ!!」

「で、でも・・・。」
「―――奴等を、・・・逃がして、・・・なるものか!」
 俺は、ゆっくりと起き上がった。
「アーシェルさん!!」
「誰かがおりてくるわ!!」
 俺の背後の階段から、いくつかの足音が聞こえてきた。
「アーシェル、マーシャ!!」
 サニータ様が俺達に呼びかけた。
「時間はない!!『白夜の静寂』が始まる頃には、奴等は海の上―――。
 ハーディンを探すのだ―――、ハーディンは、奴等に囚われた。」

「俺達をここに連れてきた、あの船長・・・、分かりました!!」
「ハーディンさんを探して、それから、追いかけるのですね?!」
「必ずや、頼むぞ・・・。」
「行くぞ、マーシャ!!」
「はい!!シオンさん、後の事は、頼みます!!」
「任せて。さぁ、早く行くのよ!!」
 俺達は、そのまま階段を駆け上がった。
「牢で何をしていた?!」

「邪魔だ、消えろ!!」






 (90日目夜)
「刻限は、・・・そろそろか。」
「アサラ様!!何者かが、侵入して来やがった!!」
「―――ザヌレコフ様の言う通り、・・・ってわけか。」
 アサラはゆっくりと立ち上がった。
「騒ぎを起こせば、必ず来る。・・・幻の雫の結晶を握る女、
 ―――マーシャの奴がなぁ。」

 アサラは、静かに声を殺して笑った・・・。
「ザヌレコフ様の考えは、そう、・・・正しかったわけだな。」
「何?入り口の連中じゃ、歯が立たねぇだと?!」
「もうすぐ、ここまで来やすぜ?」
「・・・おい、こいつらを、もっと奥に閉じ込めろ。」
「おう。」
 周りの盗賊によって、その捕虜たちは連れて行かれた。
「残る邪魔者は、・・・のこのことやって来やがる、幻の雫の結晶を持つ女か・・・。」



「邪魔だ。お前じゃあ相手にならない!!」
「こんなに探しているのに・・・、いったい、どこにいるのでしょうか?」
「だが、この建物は十分怪しい・・・。探す価値はある・・・。」
 途中で、修行施設の人達と合流して、私達は、ハーディンさんを探していました。
「迷っていられない。行こう!!」
 階段をかけ上がって、アーシェルさんは、目の前にあった扉を思いっきり開けました。
「・・・誰も、いませんね。」
「ここも、違うのか・・・。」
「いや―――、静かに。奥に・・・隠れている。」
「本当か・・・?」
「武器を構えろ、・・・先に行くといい。」
「・・・ああ。」
 アーシェルさんは、アーチェリーを構え、部屋の奥へと静かに歩いていきました。
私はその後から、ゆっくりと追いかけました。
「―――ここか?」



「ちっ、口が堅ぇ野郎だな?!」
「これだけ、お前らに俺達の船を潰されちまったんだ。
 もう、十分だろ?そろそろ、飽きてもいいんじゃないのか?」

「いいや、貴様。まだ、船、隠してやがるんだろ?!」
「さ、どうだろうな?」
「気にくわねぇ野郎だなぁ!!自分の立場わかってねぇだろ?貴様は―――」
「お前らのカシラに生かされてるんだろ?だから、お前ら下っ端は、手ぇ出せない。」
「くっ、この野郎・・・。もういい、テメェら!!こいつらを閉じ込めておけ!!」
 その男が扉から出た瞬間だった。きらめく一筋の光が
その男のそばの壁に突き刺さった。



 部屋の中に入った時には、もう、アーシェルさんが、部屋の中にいた人達に、
アーチェリーを向けていました。そして、その相手の中に、1人、
私が見た事のある人がいました。
「手を出すことなどない。俺達は、ただ、話合いをしたいだけだからなぁ。
 のこのこと足を運んできやがった、幻の雫の結晶の持ち主さんよ?」

「あなたはあの時、門番になりすましていた人。この幻の雫の結晶を盗んだ・・・。
 ・・・これは、・・・絶対にあなたたちには渡しません。」

「お嬢ちゃんよ、・・・俺の名はアサラだ、覚えてろ。
 ―――おい、・・・ぼんやり立ってんじゃねぇよ。そいつを呼べ。」

 ハーディンさんが、そう言われた手下の人に連れられてきました。
「・・・せ、船長!!」
「どうだ。・・・その幻の雫の結晶と、こいつ。
 ―――交換で、・・・手を打とうじゃないか・・、お嬢ちゃんよ・・・。
 ・・・こいつはいい、交換条件だと、思うんだがねぇ・・。」

「えっ・・・?」
「どうもなぁ、俺の手下にゃあ、血の気の多い奴ばっかりが集まってるようでな、
 ・・・この野郎を生かしておくにゃあ、もう、限界みてぇなんだ。」

「俺のことはどうでもいい。お前達は、王の、いや・・・この国の恩人・・・。
 こんなとこで、死なすわけにはいかないからな・・・。」

「黙りやがれ、この野郎!!」
「―――そっちの男にゃあ、ちっと礼をしなけりゃなんないようだが・・・。
 今なら、お前だけは、その命、奪ったりはしねぇぜ・・・。」

「・・・こんなの、卑怯です。・・・絶対に・・・。」
「本当の盗賊ってのは、そうだぜ、卑怯じゃねぇとならねぇんだよ。
 さ、おとなしく、渡しな?お嬢ちゃん・・・。」

「マーシャ、落ち着くんだ・・・。ここで渡しても、後で取り返すことは出来る。
 ・・・だが、どうする?万が一、ハーディンを返す気がないとでも言い出せば?
 ―――どちらにせよ、奴と戦うことに変わりはない・・・。」

「はい・・・。」

「そんなふざけた条件は、飲めない!!」



「・・・俺を、殺す気か?」
 その男の人は、少し低い声でそういいました。
「ああ、ちょっとだけな。・・・覚悟しろよ。」
 アーシェルさんは、そう言って、トルネードスラッシュを放ちました。
「ん?いない?!」
「何処見てんだ、クソガキが・・・。」
 頭上を舞ったその人は、突然、何かの粉をばらまきました。
「くっ、何を・・・。」
 それをすってしまったとたん、私達の体がまるで、糸にからめとられたように、
少しずつ動かなくなり、立っていられなくなりました。
「・・・ホントはよぉ、テメェらも、雫の結晶ってのもどうでもいいんだ。
 今じゃ、あの―――クズ野郎のこともな・・・。」

「・・・こ、この・・・や―――。」
「こうやって、弱い野郎は、ミジメに死んでくんだな。
 ・・・これから先の俺達に、ちょっかいを出してきやがるかもしれねぇからな。
 お前等は、ここで、始末しちまう方がいいのかもなぁ。」


 私達が動けなくなっているのを見て、その人が一歩、歩いた時でした。
突然、その人は、胸を押さえて、しゃがみこみました・・・。
「ア、アサラさん?!」
「ど、どうしちまったんですか?!」
「くっ、な、なんだ、・・・何が・・・?
 ・・麻痺の粉を吸ったわけじゃ、・・・ねぇはず。」


「ちょっと・・・だけ・・・、言ったけどよ・・、―――死んでも、うらむな・・よ。
 ・・・まだ、自信が、・・・なかったからよ・・・。」

「き、貴様?!何をしやがった!!」






 (90日目深夜)
 布で顔を覆ってる奴等が、俺に近づいてくる。けど、体中が硬くなっていた・・。
「・・・マジックアロー、・・・そいつで、心臓を、胸を貫いてやった・・・・。」
「・・いつだ?・・・いつ、俺を―――?!」
「・・・・・一か八かだったんだけどよ、・・・最初の攻撃のすぐ後に・・・。
 当たってたんだな。あの、女には、・・・1度も当たらなかったけどよ・・・。」

「―――あのアローをよけて、・・・この俺が・・、
 右を・・・向いた瞬間・・・・・だ・・・、と―――」

 アサラが倒れ込んだのを見た瞬間、手下達は、逆上してソードを手に俺達に
向かってきた・・・、だが、もう、俺の全身は動かなくなっていた。

 激しく、剣がぶつかりあう音が頭上からした・・・。
「俺達を、・・なめるんじゃねぇな。・・・盗賊どもよ・・・。」
「ちっ、お前も、・・・吸い込んでいやがった・・・はず。」
「この程度で、くたばる・・・か?!」
 修行施設のその男は、思いきり盗賊の顔を覆う布を剥ぎ取った。
すぐ盗賊は、口と鼻をふさぐが、間に合わずに、ゆっくりと倒れた・・・。
「・・・所詮、小物だな、・・・、お前等・・、ぐっ―――。」
 だが、修行施設の人間にも、さすがに限界があるようだった。
「おい、まだ、アサラ様に息がある!!」
「ほ、本当か?おい、そいつらの始末は後だ!!アサラさんを・・・。」
「そこまでね・・・。」



 気が付いた時には、私は、海岸沿いに座っていました。
「・・・気分は、どうだ?まだ、気持ち悪いか・・・?」
「い、いいえ。それより・・・。」
「シオンに礼をしなくちゃな。シオンのリフレッシュがなければ、今頃・・・。」
「あの後・・・一体、何が・・・?」
「今頃、まとめて、牢屋行きだろうな・・・。」
「・・・ハーディンさん、今、どうされているのですか?」
「ああ・・・。」
 アーシェルさんは、まだ、少し苦しそうにして、壁にもたれかかっていました。
その時、横の方からハーディンさんがゆっくりと歩いてこられました。
「よし、待たせたな。さて、・・・行こうか。」
 アーシェルさんに近づいて、肩をかして歩き出されました。
「だ、大丈夫だ・・・、俺は・・・。」
「心配しなきゃならないのは、そんなことじゃあないだろ?急ぐぞ・・。」

 しばらくたって、またハーディンさんが戻ってこられました。
「・・・立って歩けそうじゃ、ないな。」
 そう言って、私は、ハーディンさんに背負われました。
「だ、大丈夫ですか?」
「なぁに、女1人くらい背負えなくて、船乗りがやってけるかってな。」
「あなただって、あの時・・・。」
「・・・こんなことにはなっちまったが、―――王の命だからな・・・。
 お前達を、・・・連れてくまでは、・・・くたばれねぇな。」




 ハーディンは、マーシャをゆっくりと下ろした。
「どうだ?いい船だろ?俺の自慢の船、ハーディンスペシャルだからなぁ。」
「はい、名前はちょっと変だけど、とってもいい船ですね。」
「マーシャ、本人の目の前でそんなことを言うなって・・。」
「・・・でも、他の船は、みんな・・・。」
「惨いことをしやがる・・・、本当に沈められたらしいな・・・。」
「よく、隠していられたな?」
「まさか、あいつらも、この船が沈められてたなんて思いやしなかったろうからな?」
「え?!」
「海の底に沈めていた・・・、なんて、頑丈な船なんだ?」
「―――まぁな。さ、出すぜ・・・。今宵限りの『白夜の静寂』だ・・・。」

 サニータ王の言葉は真実だった。もう、本当ならば真夜中のはずだというのに、
海は、明るく照らされていた。そして、その海には、波はおろか、
風すらも吹いていなかった。ただ、静寂のみが支配するその海に、
その船は、静かに浮かんでいた・・・。
「・・・沈まないだろうな?」
「忘れちゃあないだろ?・・・命の保証は、ない。」



 俺達は、船の一室まで連れて行かれた。それから、しばらくの後、
船は、ゆっくりと動き出したようだった。
「・・・マーシャ、・・・スフィーガル大陸。・・・久しぶりに帰るんだな・・・。」
「はい。・・・でも、みんな、・・私達を覚えているでしょうか?」
「そりゃ、覚えてんだろ。・・・あぁ、見えて、
 旅人はみんな兄弟って考えの人たちだからな・・・。」

 体中疲れきっていたせいもあり、それから会話も途切れ、
俺は、壁にもたれて、座り込んでいた・・・。

 うとうとしかけていた俺を立ち上がらせたのは、部屋の隅にあったテーブルの上の
花瓶が落ちて割れる音だった。
「アーシェルさん?・・・やっぱり、おかしいですよ?」
「ああ、この揺れ方は―――、まさか?」
 俺は、部屋の外へと出た。廊下を抜け、海を眺めた。
「・・・海流が、戻っている・・・?」
「アーシェルさん?!」
 マーシャが指差した方をみた。その遠方に、はっきりと何艘かの船をみた。
「―――あれは、ザヌレコフか?・・・奴等も、スフィーガルに・・・。」
「きゃっ!!」
 揺れはますますひどくなってきていた。
「ひどい揺れだな・・・。」
「ええ・・・。」
「操舵室に行こう。ハーディンに話を聞いた方がいいかもしれない。」

 俺達は、そのまま階段を上がり、ハーディンのいる操舵室へと入った。
「海流が戻っているのか?!」
「ああ・・・。ずいぶん早かったな・・・。
 ―――航路をだいぶ外れた・・・。」

「ずいぶん、早かった・・・?」
「そんな1日中続くようなもんじゃない。
 まぁ、心配するな。全力で航路を修正する。
 ここは、俺にまかせて、下で待ってな・・・。」

「だが、しかし・・。」
「いいから、ここは任せろ!!」
 俺達は、操舵室から出た。すぐには下に降りる気にもなれず、
また遠くに見える船の様子を眺めていた。
「この距離じゃあ、詳しくはわからないが・・・、いくらかの船が、
 この様子じゃあ、流されているみたいだな・・・。」


 遥か遠方には、ぼんやりと薄暗い明かりで照らされたスフィーガル大陸が見えた。






 (91日目早朝)
「・・・どういうことだ?・・・奴等、スフィーガル大陸に着岸させる気がないのか?」
 スフィーガル岬からは、確実に離れていた。ますます、海流に流されていた。
「私達、・・・どうなってしまうのですか?」
 結局、また操舵室へと戻った。
「何だ?そんなに客室で待っているのが暇なのか?」
「追いかけているのか?」
「・・・まぁな。ホントの事を言っちまえば、一刻も早くどこかに着岸したい
 ところなんだけどな。・・・このままどこまでも流され続けりゃあ、
 恐らく、俺達の命はないだろう・・。」

「そ、そんな・・・。」
「一体、どこに向かう気なんだ?」
「・・・見ろ、針路を変え始めた。」
「何?」
 流されながらも確実にある場所を目指していた・・・。
「そこになにがある・・・?」
「島・・・か?どうする?」
「全速力で向かってくれるか?」



 ハーディンさんはすぐに舵をきりました。
「ああ。しばらく、揺れるぜ!!多少無理させるからな。下に降りてろ。」
「いいえ、ここにいます。」
「そうだな、こんな船の底で死ぬのはごめんだからな。」
「そうかよ。残念だが、俺も、もう、冗談が返せるほど余裕がないんでな。
 死んでも恨むんじゃないぜ!!」

 船は激しく横揺れをしていました。どこかに捕まっていないと、
すぐにでも倒れてしまいそうになりました。
「ちぃっ、負けてられねぇ!!もってくれ、俺のハーディンスペシャル!!」
「このまま真っ直ぐ行けば、島に着く!!」
「簡単に言うんじゃない。・・・この島の周りは特に海が荒れているんだ!!」
 いくつかの船が激しい海流に流されて、島から離れていくのを見ながら、
私には、無事につくことができるように祈ることしかできませんでした。
「そろそろ、外に出た方がいい。」
「・・・どういうことだ?」
「俺が合図した時に、飛び降りろ・・・。」
「え?飛び降りるのですか?」
「なるべく近づける・・・、だが、これ以上、スピードは落とせないからな。」
「ああ。マーシャ、行こう。」



 島が見えてきた。そして、その島に船が着岸しているのが見えた。
「あの島に、ザヌレコフが・・・。」
「こんなところに、雫の結晶があるのですか?」
「海流で守られているとでも言うのか?」
「・・・えっ?」
 マーシャが幻の雫の結晶を取り出した。それは、不思議な淡い光を放っていた。
「何かあることだけは、間違いなさそうだな・・・。」
「神よ。私達を、どうか、お守り下さい・・・。」
 俺は、操舵室を覗いた。そして、その時が来た。
ハーディンが俺の方を向き、合図をした・・・。
「マーシャ、行くぞ!!」
「はい!!」
 俺達は、荒れ狂う海へと身を投げた・・・。



 私達は、足が届くところまで流れ着きました・・・。
「・・・私達、・・・着いたのですね?」
「ああ・・・。」
 ゆっくりと海から上がり、砂浜にたどり着きました。
「雫の結晶が、とても暖かい・・・。」
「この島の何かと、呼応してるのかもな・・・。」
「・・・行きましょう。」
 海岸につけてあったその船の近くで、いくつかの足跡が見つかりました。
「これを辿るか・・。」
「どこに続いているのでしょうか・・・?」
 いくつかの足跡がそこからいろいろな方向に伸びていました。
私達はそのうちの1つを辿りました。
「・・・どうやら、正解みたいだな。」
 そして、それは、ある洞窟の入り口へと続いていました。
「入りましょう・・・。」
「ああ・・、行こう。」



 洞窟の中は薄暗く、床もぬれていて滑りやすかった。
「雫の結晶が、光ってます・・・。」
「ん?何か聞こえる・・・。」
 洞窟の奥から人の話し声が響いてきた。
「ザヌレコフさん達なのでしょうか?」
「出来れば、合流したくはないな・・・。」
 様子を見ながら進むと、その開けた場所へと出た。
道がいくつかに分かれている・・・。
「どれが正しいんだ?」
「―――こちらです。」
 マーシャの持つ雫の結晶の光がマーシャの向く方向へと導いていた。
「行こう。今は、それを頼りにするしかない・・・。」
 自然に出来た洞窟にしては広い洞窟だった。
「誰かいますね・・・。」
「ああ、少し、様子を見るか・・・。」
 物陰からその様子をうかがった。
「ザヌレコフの兄貴は、どこだ?」
「ザヌレコフさんが、消えるはずなんてねぇ。もっとよく探せ!!」
 盗賊が数人、あちこちを見渡しながら歩いていた。
「・・・ザヌレコフもここにいるのは間違いないな。」
「でも、あの人達、・・・消えたって言ってますよ?」
「ああ―――」

 俺とマーシャは今起こったことを呆然と見ていた。
俺達のすぐ真横を盗賊2人が通り過ぎて行ったのだ。
「ダメだ!!この洞窟中、どこにもいない!!」
「そんなバカなことを言うんじゃねぇ!!探せや!!」
「いや、でも、・・・確かに、消えたんだぜ。―――あんな近くにいて、
 気付かないわけがねぇだろうが・・・。」


「もしかして・・・、私達―――。」
「・・・こいつらから、見えていない・・・とでも言うのか?」






 (91日目夕方)
 私達は、そのまま雫の結晶の導くままに洞窟の奥へと行きました。
途中すれ違ったはずの、何人もの盗賊の人達は、まるで私達に気付かないようにして、
辺りを見渡しながら、ザヌレコフさんを探されていました。
「そっちか?」
「雫の結晶はこちらを指しています・・・。」
 その方向に進んでいくと、ゆっくりと道が下り坂になり、さらに奥へと
続いているようでした。
 そして、奥に進むほど、周りの様子が変わってきました。
「ずいぶん古い洞窟だな・・・。こんな忘れ去られた洞窟に、
 雫の結晶が隠されてるのか・・・。」

「・・・アーシェルさん?でも、これは・・・?」
 私は地面を雫の結晶で照らしました。そしてその照らされた先にあったのは、
私達のものではない、もう1つの足跡でした。
「これは?・・・気付かなかったが、これは、新しいぞ。」
「だ、誰の足跡なのですか?もしかして、・・・ザヌレコフさん?」
「・・・ふん。先客がいるってことか。」



「トルネードスラッシュ!!」
 だが、洞窟にいるのは、俺達だけではないようだった。
「どうして、こんなところにモンスターが?」
「・・それも分からないんだが、俺がもっとわからないのは・・・。」
 辺りには、俺達が倒したモンスターとは別の無惨に斬り裂かれたモンスターの
死骸が散乱していた・・・。
「・・・ここにいるのは、相当の剣の使い手・・・ということか?」
「ザヌレコフさん・・・、確か、とても大きなソードを使われていました。」
「・・・。」
 それから遭遇するモンスターというモンスターが、瀕死の重傷を負っていた。
「いくら味方ではないと言え、ここまでむごい事をするのか・・・?」
「アーシェルさん、・・・あれは?」
 マーシャの指差す先に見えたのは、不思議な紋章が描かれた壁だった。
「これは・・・?」
「あっ、雫の結晶が・・・。」
 その輝きは、紋章が描かれた壁を照らす。そして、その光は、
その壁が通り抜けられる幻の壁であることを俺達に教えた・・・。
「・・・行こう、この先にあるものを見に・・。」
「はい・・・。」

 その奥へと入り、角を曲がって、さらに進んだ時、俺達は、その闇に
包み込まれた、祭壇への階段を目にした。
周りの壁は、先ほど描かれていた壁の紋章と似た形の紋章が描かれている・・・。

「―――3度目だな、俺を邪魔しやがるのは・・・。」



 何も見えない暗闇の奥からその声は聞こえました。
「・・・ザヌレコフ・・・、さん。」
「ああ、そうだ。」
 階段を下りてくる音が聞こえました。
「ここに、・・・何をしに来たんだ?」
「―――盗賊に、盗ったもんが何かって訊くのか?テメェ・・・。」
 暗闇の中に、小さな光るものを見つけました。そして、それは、
足音と一緒に、私達の方へと近づいてきました。
「1度目に、殺しておくべき・・・だったな。
 2度目も、ただの警告のつもりだったんだぜ・・・。」

「答えろ!!ここで何を見つけたんだ?!」
「・・・3度目はない。―――マーシャとか言ったな、小娘・・・。」
 足から少しずつ、見え始め、やがて、少しずつザヌレコフさんの姿が
見え始めました・・・。
「最後の頼みだ―――。テメェの雫の結晶・・・。
 まだ、持っているだろ?それをゆずってくれやしねぇか?」

 私は、はっきりと答えた。
「いいえ!!あなたには、絶対に渡すことなど出来ません!!」
「―――ならば、力づくで、奪う・・・以外に方法はないか・・・。」
 はっきりとその姿を見ました。とても大きなソードを抜いて、
私達を見下ろすザヌレコフさんを・・・。

「テメェらは、俺のロングソード、―――ロベルタクスソードでたたっ斬る。」



 ザヌレコフは、俺の方へと猛烈な勢いで走りより、そのままの勢いで、
思い切りロングソードを振りかざす。
「なにっ?!」
 俺は、その剣圧で後ろへと突き飛ばされた・・・。
「・・・な、なんて力、・・・かすってもいないんだぞ・・・。」
「俺がこの剣を抜くことの意味・・・、ゆっくりと考えやがれ。」
 ザヌレコフは大きく剣を振り上げ、俺に斬りかかる!!
ものすごい衝撃が俺を押しつぶしてきた。
 とっさにアーチェリーを構える。すぐに、ザヌレコフは俺から離れた。
「な、なんだ・・・、衝撃で、・・・力が、力がぬける・・・?!」
「アーシェルさん!!」
「あの剣から逃げるんだ。・・・まともに渡り合える相手じゃない・・・。」
「いいえ、私は、このまま引き下がるわけにはいきません。」
「次はテメェを相手してやらぁ。シャドー・・・ブレード!!」
 ザヌレコフがこちらに向かってくる。しかし、その手にしているロングソードの
影をとらえることができない!!
「ちっ、どうせ動けそうにない。相打ちにしてやる!!」
「アーシェルさん?!」
「トルネードスラッシュ!!」
 だが、俺の攻撃にザヌレコフは勢いを落とすどころか、薄く笑いを浮かべていた。
「そんなヘタれてるような奴の攻撃なんざ、通用しねぇぜ。」
「お、お前・・・、狙いはマーシャか?!」
「死にな・・・。」



 私は、ソードが届く、ほんの少し前に、どうにか避けました。
そして、ザヌレコフさんの勢いが止まりきる前に、その背後に周りました。
「フラッシュリング!!」
「ちっ、・・・外しただと?!」
 ロッドから放たれたたくさんの光の輪がザヌレコフさんを包み込みました。
「・・・やったか?」

「―――その雫の結晶1つで、許すって言ってんのが、ここまで来ても、
 分からねぇ・・・ってことなのか・・・。」

「えっ?そ、そんな・・・。」
 まるで、ザヌレコフさんに私の攻撃は通じていませんでした。

「残念だな・・・。お前に、俺は倒せない。勝ち目がないんだっていうのによ・・。」






 (91日目夜)
「フラッシュリングが、・・・かき消された?!」
「テメェのアーチェリーも、マーシャ、お前の魔法も、・・・俺にゃあ効かねぇ。」
 ザヌレコフは、あえて俺達に見せるように、その手に持っていたものをかざした。
「・・・雫の・・・結晶?!」
「さてと、次の攻撃でどっちかが死ぬぜ。覚悟しな・・・。」
 ザヌレコフの持つそのソードと、雫の結晶が薄く輝く。
「どっちの命が取りてぇ?ロベルタクスソードよ・・・。
 さ、その答えを、俺に教えな・・・。いくぜぇっ!!」

「来るっ!!」
「フ・・・フラッシュ―――」
「な、何をしてんだ?効かないんだ!!よけろ!!」
 ザヌレコフの攻撃はマーシャに向いていた。俺は、ただ何も考えず、
ザヌレコフとマーシャの間へと割り込んだ!!



 私は、わけも分からず叫んでいました。
目の前で、アーシェルさんは、力尽きて倒れこんでいました・・・。
「おいおい、まだ、立てる余力があったのか?ぶった斬ってやったってのに・・・。」
「・・・くっ、震えが止まらない・・・だと?」
「あ、あ、アーシェルさん―――」
「慌てるな、・・・ほんの少しまともに食らっただけ・・・。
 俺に構うんじゃない・・・、大した事ない・・・。」

「そうだな。雑魚はすっこんでろ。」
 アーシェルさんは、ザヌレコフさんに蹴られ、しばらく転がされてしまったあと、
もう、動かなくなってしまいました・・・。
「・・・さてと。大ケガしないと分からねぇってんなら、望みどおりにしてやらぁ。」
 ザヌレコフさんは、持っているロングソードに力を込めて、私の方へ
走り寄って来ました。
「手加減なしだ!!エクセレントクラッシュ!!」



「フラッシュリング!!」
 俺は、必死に体を起こし、目の前で戦うマーシャとザヌレコフを見た。
「くそっ、また避けやがった上に、背後に居やがるだと?!」
 俺は、その事に、はたから見て初めて気付いた。
「バカな・・、確実に、ぶった斬ったはず―――」
「あなたに負けるわけにはいきません。だから、私は、・・・あなたを、倒します。」
「女のテメェが何をほざいてやがる?!
 3度目の偶然なんざ、テメェにゃ起こらねぇ!!」

 ザヌレコフが再び斬りかかりにいく。奴が言うような偶然なんかじゃない。
何度攻撃しようと、奴の攻撃がマーシャに当たる理由はなかった・・・。
「―――俺の攻撃を見切ってやがる・・・いや、俺は、確実にぶった斬った。
 それが、どうした?・・・手ごたえがまるでねぇ・・・。まるで、幻でも
 ぶった斬ったみてぇに―――。」

「本当のことを言えば、私は、あなたを攻撃なんてしたくない・・。
 でも、・・・私達は、雫の結晶を・・・、どうしても、雫の結晶を集めなくては
 ならないのです。どうして、・・・どうして分かってくれないのですか?」

「・・・ただの飾りもんにしか見ねぇような奴等が何をほざいていやがる・・・。」
 マーシャは、幻の雫の結晶を取り出し、かかげた。それは、ザヌレコフの持つ
時の雫の結晶と同調して光り輝いていた・・・。
「私がこれを持っている限り、あなたは、私に攻撃することは出来ません。
 それは、あなたに、私達の攻撃が効かないことと同じ・・・。」

「―――この洞窟に潜ってから、こいつの力が強くなったってことは、
 テメェのも強くなったってことか。」

「これ以上、戦いを続けても、意味なんてありません・・・。」
「・・・こいつと、お前の・・・。それに―――、」



 私は、ザヌレコフさんが持っているものを見て、一瞬、
ロッドを落としそうになりました。
「お、お前―――。」
「・・・ここで、一気に2つも手に入るんだがな・・・。」
「あ、あなたが持っているものは・・・。」
「もう1つも、手下が手に入れる・・・。これで4つ揃う・・・。」
「そりゃ、都合がいいな、大盗賊よ・・・。」
 アーシェルさんは起き上がりました。
「アーシェルさん・・・。」
「もう、ここには3つも集まってるんだ。残り1つの場所も分かってるみたいだしな。
 お前は、俺達に何故4つの雫の結晶を集めるかと聞いたな・・・。
 それなら、お前は、どうだって言うんだ?人を傷つけ、何もかも奪いやがる、
 盗賊のお前が、何を知っているんだ?」

「雑魚の分際で口を挟んでくるか・・・。
 いい度胸してんな・・・。俺は、俺のやりたいようにやる。
 その為にゃあ、お前の言うように、人を傷つけて、仲間を裏切ってでも・・・。
 甘っちょろい世界で生きてきた雑魚には、分からねぇだろうがな・・・。
 ・・・汚ぇやり方が嫌いか?何も傷つけずに、自分だけ得するのが、
 お前の言う理想か?その理想を追いかけた結果が、この様か?」

「ああ、笑えばいいさ。いつだって、俺は現実から目をそむけてたんだ。
 いくら、願ったって、現実は変わりなどしないんだからな・・・。
 今まで、俺は、自分の無力さを恨んでいた。いつでも、他人と比べて・・・。
 だが、そうじゃないんだ。―――弱い自分は、自分で認めるしかない。
 他人から教わることでも、他人で確かめることでもない・・・。
 ・・・今の俺が、それを認める方法は、・・・雫の結晶を集められない
 自分に気付くことだけ・・・。」




 俺は、アーチェリーを構え、魔力を込めた・・・。
「俺にとっては、集める理由はそんな自己満足でしかない。」
「お前には無理だな。・・・何度も言うがな、・・・お前達の攻撃は通用しない。」
「やってやるさ。ここでやらなきゃ、俺は、
 ・・・自分の弱さを認めることになるんだからな。」

「気にいらねぇ野郎だぜ。他人が弱いと言やあ、何と言おうが、お前は弱いんだ。」
「俺の持つ力、・・・全てをかける!!」
 俺は、走り出した。
「トルネードスラッシュ!!」
「ふん、何度やろうと同じだ。」
「なら、何度でもやるまでだ。トルネードスラッシュ、レインアロー!」
 何度攻撃しようと、ザヌレコフにわずかなダメージしか与えられない・・・。
「レインアロー・・・」
 俺は、目の前からザヌレコフが走ってくるのを見た。
マーシャが攻撃されなかったのは、幻の雫の結晶に守られていたから。
だが、この攻撃を受ければ、俺に耐えることなど、出来ない・・・。

「幻の雫よ、・・・結晶に秘めたる力を、今ここに―――」






 (91日目深夜)
 私は、アーシェルさんのそばにより、そう願いました。
「マーシャ・・。」
「誰も正解なんて知らないんです。今は、苦しいけど、
 それでも、私達が信じた道を、進みましょう・・・。だから・・・、恐れないで。」

「ラストルの四使徒―――。それが、俺の進む道・・・。」
「雫の結晶の力で、身を隠したところで、もう、遅せえ。まとめて、くたばれっ!!」
「トルネード・・・スラッシュ!!」
 アーシェルさんの放ったアローが、私達に迫って来ていた
ザヌレコフさんの足を止めました。
「この程度・・・」
 私が持つ雫の結晶と、ザヌレコフさんの持つ雫の結晶の輝きが、
まるで乱れたかのように、不規則になりました。
「雫の結晶が?!」
「―――押さえ切れない・・・だと?!」
「マーシャ、・・・決めるぞ。」
「はい。」
「はっきりとお前等の姿が見えらぁ。先に、倒れるのは、お前等の方だ!!」
「マジックアロー。」「フラッシュリング!!」



 俺は、ザヌレコフのソードからマーシャをかばい、その直撃を受けた。
一瞬、全ての音が聞こえなくなった直後に、全身を耐え難い激痛が襲ってきた・・・。
「!!」
 声も出せずに俺を見ているマーシャの顔を見た。
「ケガ・・・ないみたいだな・・・。」 
 マーシャは、必死に横に首を振って、俺にキュアを掛け始めた。
「そんな、心配そうな顔・・・すんなよ。」
「どうして、・・どうして、こんな時に、・・・わ、私に、
 微笑みかけてくれるのですか?こんな、こんなケガをしているのに!!」

「俺にも、・・・守れたからな。」
「わ、私は―――」
「ザヌレコフは・・・、どうしてる?」



 私は、ザヌレコフさんの方を向きました。
「た、・・・倒れて・・・います。それに、あれは・・・。」
 ザヌレコフさんの方から、ゆっくりとそれは転がってきました。
「雫の・・結晶・・・?!」
「俺はいい。・・・今のうちに。」

 私は、そう言ってくれたアーシェルさんに強くうなずいて、
アーシェルさんから離れました。
 ゆっくりと、その雫の結晶へ近づいて、手を伸ばしました。

「さ、・・・触るんじゃ、・・・ねぇ・・・。」

 その声に、私は、立ち止まりました。
「触ったら、・・・ゆるさ・・ねぇ。どんな手段を、使おうと、
 ・・・お、俺は、集めなきゃなんないんだ。どんな卑怯な方法だろうと・・・。
 ―――やっと、2つ、・・手に、入ったんだ。・・・俺に、それを・・・。
 お願いだ、・・・た、頼む・・・。」

「どうして・・・。」
「もう、隠すのはよせ。・・・本当の理由があるんだろ・・?
 大盗賊とまで謳われたお前が、そこまでして集める理由が―――。」

「・・・お前らに、・・・関係・・な―――?!」

 私は、そういったザヌレコフさんの前で雫の結晶を手に取りました。
「これ・・・は―――」
 それまで光を失っていた雫の結晶が、突然、また私の手の中で光り輝きました。
「光の雫の結晶・・・。」
「・・・なんで、・・お前が持てば、―――そんなに、輝いて・・やがるんだ?」
「―――暖かい・・・、とても。」
 その輝きは、少しずつ穏やかに、そして、力強く変わっていきました。
「なんて、優しい・・・光なんだ・・。」
「本当は、私にも分かりません。でも、・・・これは、きっと、
 ―――悲しみばかりを生むものでは、ないはずです・・・。」

「・・・悲しみを、生むものでは・・・ない・・。」

 ザヌレコフさんは、そう言って、少し間をおいた後、続けました。
「―――お前にとって、雫の結晶・・って、何なんだ?
 ・・・どうして、そんな風に思えるんだ・・・。
 俺には・・・、俺には、わからない・・・。
 これを、・・・集めれば、・・・最後に結局、何が、あるって、言いやがるんだ?
 ・・教えてくれ、頼む。・・・お前、何か、分かるんじゃないのか・・?」

「・・・いいえ、何も。」
「―――俺にとって、・・・雫の結晶なんて、もんは・・・。」



 ザヌレコフは、右手に握るソードをより強く握った。
かすかに震えているようだった・・・。
「俺から、・・・すべてを、・・・すべてを奪って、何もかも失った俺に、
 ・・・この、ロベルタクスソードと、雫の結晶だけを残して逝きやがった・・・、
 あの、男―――、ティルシスの奴・・・。どうして、そんな時の俺に、
 ・・・お前みたいに、・・思えたって言いやがる・・気だ?
 憎しみも、・・・怒りも、・・・感情を忘れちまったほどの俺に、どうやって・・・?」

 俺は、確かに見た。ザヌレコフが、まずで、何かにとりつかれたかのように、
悔し泣きを始めたのを・・・。
「ティルシス・・・さん?」
「・・・10年前。俺は、クリーシェナード大陸にいた・・。」
「クリーシェナード・・大陸。」
「・・・『悲劇』が起こったと言われる、・・・死の、大陸・・・。」
「ああ・・。」



 俺は、どうして、そこでこいつらに話し始めようと思ったか、
分からなかった。今まで、どんな奴にだって言ったことなんかねぇ。
それどころか、思い出したくもねぇ、永久に忘れ去りたい過去・・・。
 だが、結局、忘れることなど、・・・出来やしなかった―――。

「・・・そうだ。・・・俺は、あの日・・・。
 ―――すべてを失った・・・。」


 マーシャの持つ、光の雫の結晶の輝きを見てると、
必死に押さえ続けていた、俺の10年前のその記憶が、
次から次へと、鮮明に思い出せた・・・。

「・・・忌まわしい記憶と、・・・ロベルタクスソード、
 それに、・・・時の雫の結晶・・以外の、・・・すべてを。」


 俺は、その雫の結晶の輝きの中に、思い出したくもない、
記憶の中の光景を見た。






「・・・天気が急に、悪くなったな。・・・帰ろう。
 ・・・また、とうちゃんに大目玉食らっちまう・・。」

「ま、待って!お兄ちゃん!」
 俺は、家に向かうその帰り道、空を見上げた。不気味な厚い雲が、
太陽を遮ってやがった。
「嫌な、天気・・だよね?」
「・・・そうだな。」
 もう、何日も続いてた。集落の人間の中には、悪い事が起きる前触れだとか
本気で思ってる奴もいた。しかも、その数も少ないわけじゃなかった。
「・・また、揺れた・・。」
「地震―――、今日、これで何回目だ・・・?」
「家、・・崩れたり、しないよね?」
「今ので崩れるほど、柔かねえさ。」
「怖くないの?お兄ちゃん!」
「怖ぇのは、とうちゃんかあちゃんだけで十分だ・・。」
 異常だったのは、回数だけじゃねぇ。ほんの1週間前の奴は、
俺どころか、集落の大抵の大人連中ですら、しばらく呆然しちまう程のデカさだった。
いくつかの家はつぶれちまったし、つい2日前に、2軒隣の家がつぶれやがった・・・。
その家の人間の顔は、例えようがねぇくらい真っ青になってやがった。
「ま、こんなガケで歩いてるってのに、今更そりゃあねぇだろ?」
 俺は、ガケから海を見た。雲と同じような色をした濃い霧のせいで、
今まで見えてた、遠くの大陸や島は少しも見えやしなかった・・・。
「お兄ちゃん・・・?」



 集落の方からぞろぞろと見覚えのある連中が歩いて来やがった。
「・・何、してんだ?・・・とうちゃん?」
「―――まだ、こんなとこにいたのか?心配させやがってぇ!!」
「いきなり何しやがる?!顔見たとたんに殴りかかってんじゃねぇ!!」
「ザヌ、・・・ジュン・・。また、大地震が来る。
 この前みたいに崩れるかもしれん。とにかく、こんなガケから離れろ!」

「殴るか喋るかどっちかにしやがれ・・。」
「みんな、もう、ほら、そっちに向かってんだろ。今なら、追いつける。」
「・・・かあちゃんはどこだ?」
「17にもなって、『かあちゃん、どこ行ったんだよぉ?怖いよぉ・・・』かよ。
 とっくの昔に、先に逃げた。さ、行くぞ・・・。」

「ま、待ちやがれ!!どこに行こうってんだ?!」
「南の方さ。クリーシェナードの都の方にな。」



「ま、都に着いたら、まずは、酒でもひっかけて、楽しむか?」
「ははは、そりゃ、いいなっ!!」
「なんせ、都といやぁ、美女の宝庫だからよぉ、ぐっひひひ。」
「ザヌの坊主やジュンちゃんも、年頃だ。おやっさんもあんま、はしゃいでねぇでさ。」
「けっ、しけた事抜かしてやがる。ルストローノなんて片田舎で暮らしてたら、
 人間、腐っちまうぜ。おめぇみたいによぉ!!」

「おい、とうちゃん・・・?」
「ザヌ?!いいか、おめっ!男ってのはなぁ、飲む、打つ、買う!
 これに尽きるぜ。いいかぁ?」

「もう、母さんいないからって、調子に乗らないでよ!」
「なぁ、お前らよ・・。どうしたら、俺とあの腐れ女房の間に、こんな、くそマジメな
 ガキと可愛い子が生まれたんだかなぁ?なんだかよぉ、拍子抜けしちまってさ。」

「そりゃ分からないよ。あんたの子だよ?
 子ってのは、親の背中を見て育つもんさ。」

「そうか、そりゃあ、大物になるぜ。よかったなぁ、ザヌよ!!」

 とうちゃんだけじゃなく、恐らく、周りにいた連中は、酒でもひっかけてたんだろう。
かあちゃん達が先に行っちまってたのも、この酒飲み連中に
愛想尽かしちまってたんだろう。
「本当に、地震が来るんだろうな?」

「―――ああ、それは、確かさ。」

 とうちゃんは、マジメな声でそう言い切った。
「腐れ女房の言葉だ・・・、亭主の俺が信じねぇでどうする?」
 笑い顔だったけど、他の連中もその言葉を信じてやがった。
「ほら、辛気臭くなっちまって!!まだ、すぐ来るってわけじゃないでしょ?!」
「―――急ごう。心配になってきた・・。」

 もしかしたら、とうちゃんは知ってたのかもしれない。
けど、もう、俺には確かめようなんかありゃあしない。

 ただ1つ分かる事は、とうちゃんがそう思った時には、
もう時間切れだったってことくらいだ―――



「きゃあっ、な、なに?!」「き、来やがった、地震が来やがったっ!!」
「デカイぞ!おい、ザヌ、ジュン!離れるんじゃない!!」
「この前の地震よりデカいし、長い?!」
「こ、こいつは、ひょっとして、・・・地震なんかじゃ―――」

 時間が一瞬、止まっちまったと思った。周りの世界が一瞬、真っ白になった―――

「ぐぁぁぁっっっ!!」「な、なんだ、こ、こいつは?!」
「は、離れろ?!い、いますぐっっ・・・」
「えっ、な、何・・、何が、お、おこって―――」
 俺は、突然腕を引っ張られた。・・・とうちゃんの左手が俺をつかんでいた。
「な、何が、お、起こ、起こった?!」
「ザヌ。余計なおしゃべりはよせ。疲れちまう。」
「ジュン、・・ジュネイルは?!」
「お、お兄ちゃん?わ、私は、ここ・・。」
「くっ、こっちはダメだ!!」
 俺は見た。目の前に広がっていた、真っ黒な炎を―――。
「ギャァァッッ・・・」
「し、死にたくねぇ、俺は、死にたくないっ!!!」
 耳をふさぎたくなるような声がすぐ背後から聞こえる・・・。
「お前等、そっちにいけ!!」
 俺とジュネイルは、言われた方向に走った。だが、そのすぐ後に起こった地震で、
足元の石につまづいて、転倒しちまった。
「なにしてやがる?ザヌ!!」
 俺は、起き上がって、先に行ったジュネイルの方をみた。

「・・・お、にいちゃ・・ん、・・た、たす・・・け・・て?!」

 目の前で起こった事がすぐ理解できなかった。ジュネイルの足元のガケに地震の
衝撃で亀裂が入りやがった・・。そんな時、俺は、手を伸ばすしかできなかった・・・。
「ジュン、ザヌ?!動くな!!俺が!!!」

 次の瞬間―――ガケが崩れる轟音とともに、俺達3人はただ叫んでいた・・・。

「ジュネイル!!!!」
「ザヌ・・・、俺は、ダメ・・だ。お前も、・・飛び降りろ、まき・・こ―――」

 そう聞いた時にはもう、振り返った俺にとうちゃんの姿は、なかった。
ただ、真っ黒な炎に、押されるようにして、俺はそのガケから突き落とされた・・・






「―――起きろ、・・・ボーズ・・・。」
「・・・・・こ、ここは・・?・・・・海・・?」
 俺は、波の音とそいつの声でその悪夢から目を覚ました。
小さな小舟の上に寝てたみてぇだった・・。
「・・体が、・・・動かない・・。」
「―――ボーズ・・・。」
「・・・誰だよ?・・あんたは・・・?」
 まだ、頭がくらくらしてやがった。ぼんやりしちまってたが、俺の目は、
その男の姿を見つけた・・・。
「・・やっぱ、こんなボーズ、・・・ほっとくべきだったな・・・。」
「誰なんだよ!?・・それに、・・・ここは、どこなんだ?!」
「―――海だぜ・・。・・・夜明けは、まだ、遠そうだな・・・。」

 俺は、わけもわからず、そいつの言葉を聞いてた。俺の頭ん中に、
わからないことや聞きたいことが溢れて来やがった。
「ジュネイル・・、ジュネイルは、どこだ?・・・海におちたんだ!!」
「―――そいつは、ボーズの恋人か?」
「妹・・。お、おまえは、ジュネイルは助けて・・?」
「ボーズ、勘違いしてねぇか?俺は、救助隊でもボランティアでもねぇんだぜ?
 ―――ホントの事言っちまえば、ボーズのことだって、救っちゃならねぇんだ。」

「助けた・・、お、お前が?お、俺なんか、どうだっていい・・、
 ジュネイルを何で助けてやらなかったんだ?!」

「―――うぬぼれるんじゃねぇ、ボーズ。ボーズは、もう、この世の人間じゃねぇ
 はずだったんだからな・・・。あの大陸は、・・・もう死んでるんだぜ。」

「・・・どういう意味・・、何が、起こったのか、・・・知っているのか?」



「ほら、ボーズ・・、大陸が見えてきやがった・・・。」
「聞こえねぇのか・・、何が起こったんだ?分かるように説明しやがれ!!」
「・・・さぁな。そこで寝てろ。・・・無駄口たたいてると、引きずり落とすぜ。」
「・・どうして、・・俺を、助けたんだ?―――助けちゃいけないんだろ?
 それなら、俺を殺せばいいだろ?それとも、お前、みんな、・・・みんな、
 助けられたんじゃないのか?俺が助けられたんだ、
 みんな、助けれたんじゃ―――」

「―――むかついてんなら、俺が相手になってやる。俺をぶち殴って、
 それで気が済むんなら、いらねぇ事グダグダ口にせずに、テメェ1人で、
 生きること、それだけ考えてりゃ、それでいいんだ。」

 俺は、そいつのその言葉で、それ以上口にするのをやめちまった。
どうせ、その時の俺には、そいつをぶん殴れるほどの気力なんかなかった・・・。
「ほら、・・・もうすぐ、陸だ。・・・そっからは、ボーズ一人で、生きるんだな。」
「・・・俺は、・・・ボーズじゃねぇ・・。・・・俺の名はザヌレコフだ!!」

 そうこうしてるうちに、小舟は陸に打ち上げられた・・・。
「―――ボーズ、・・ついたぜ。」
 その野郎は、俺の腕をムリヤリつかんで、ひっぱりあげやがった。
「自分の力で、立てねぇのか・・?」
 俺は、急に腕を突き放された。足に力を入れる・・・。
一瞬、バランスを崩しかけたが、どうにか、立つ事はできそうだった・・。
「じきに歩けるな・・。」
 そいつは、俺の方を向いて、目を見て話しやがった。

「俺のことは、忘れろ。絶対だ。・・・どこか、遠くに行け、ボーズ。」



 俺は、何をすりゃいいのか分からなかった。突然、何が起こったかもしらずに、
何もあてもないまま、放り出されたって、何が出来るって言いやがる・・・。

「―――すぐに、俺の近くから離れろ。」

 そいつの声色が変わりやがった。俺に話しかけた時より、ずっと緊張した声だった。
「ど、どこに・・・?」
「ボーズは、俺達と同じ、運命に逆らう者。俺は、安全な場所なんざ知らねぇ。」
 その野郎は、俺が今までみたどんなソードよりも長くて巨大な、
不思議な光沢を放つ、ロングソードを抜いていた・・・。
「俺も、やっかいな事を引き受けちまったぜ。」
 俺は、空から下りて来やがった、その見た事もねぇバケモンの集団を見て、
ただ、ガクガク震えることしかできなかった・・・。

「何度、来たところで、俺を倒せるわけねぇだろう?!
 わざわざ、殺されに来てんじゃネェ!!」




「・・・消えうせろ!!!」
 そいつは、そんなバケモンどもにビビりもせず、ソードで次から次へと斬り倒して
いきやがった。だが、奴等の数は、とても1人で相手出来る量じゃあなかった。
「く、くるな、・・・近づくんじゃ、ねぇ!!う、うわぁっぁぁ!!」
「何してやがる、バカヤロぉ?!とっとと、消えうせろ!!」
 完全に怖気づいちまってた俺の目の前にそいつは立っていた。
「・・・数が多すぎる!!ボーズまで、守りきれねぇ!!
 いいか、ボーズ。あとは、自分で身を守れ。
 ―――このロングソード、・・・『ロベルタクスソード』なら、ボーズを守れる。
 俺が、こいつを向こうに投げる。そうしたら、とにかく、それを持って逃げろ!!」

「でも、おまえは!?」
「俺は、おまえなんて名前じゃねぇ!!ティルシスだ!!
 でも、覚えるんじゃねぇ。忘れちまえ。―――さぁ、逃げやがれ!!」

 ティルシス―――その野郎は、ロベルタクスソードを、俺よりも、
ずっと後ろの方に投げて、そっちの方に俺を突き飛ばしやがった!!
「今は逃げて生き延びるんだ!!!!ボーズ!!!!」



 (92日目早朝)
「・・・俺は、このロベルタクスソードを持って、とにかく逃げつづけた。
 ・・・何も、見えなかった。・・・何度も、奴らは襲いかかってくる!!
 ・・・でも、そのたびに、このソードと、・・・そのソードに結び付けてあった、
 この、時の雫の結晶が、光り輝いて、奴らを倒して行きやがった・・・。」

「ザヌレコフさんは、・・・・『悲劇』の犠牲者の・・一人・・・。」
「それから、俺は、たった一人で、このソードと、結晶を持って、逃げた。
 ・・・すべて奪われた俺に、・・・残っていたのは、コレだけだった・・。
 ・・・・何度、死のうかと思った・・。・・・でも、そのたびに、
 ジュネイルの顔が浮かんできた。―――俺は、誓った。
 ・・・絶対に、ジュネイルの敵を取る・・・。」

 俺は、ソードを抜いてそれを見つめた。
「俺がこのソードを返そうって思った頃、
 あの男―――ティルシスが死んだと聞いた。
 ―――奴は、俺にコレを渡して、・・・そのまま死んじまった・・。」

 俺は、そのまま時の雫の結晶を見た。そのあと、少し思い出し笑いをした。
「・・もうひとつの、こいつだけは、何の役に立つのか、さっぱりだった。
 ―――けど、誰も教えちゃくれなかった。
 金のねぇ奴の言うことなんか聞きやしねぇ。
 それからさ、俺が、盗みを始めたのは。・・・金さえありゃ、なんだって出来る。
 そんなことしてるうちに、俺は知ったのよ。これが4つあるってことも、
 ・・・あの忌まわしい『悲劇』にまつわる物だってこともな・・・。」







 (92日目早朝)
「―――やがて、世界中に俺の名が知られはじめた・・。
 ・・・それから、奴らは金を出しても、何も言おうとしなくなった。
 だから、俺は、逆にそれを利用してやったのさ・・・。
 ・・・・世界中に、俺がこの結晶を狙う、大悪党だと知らしめれば、
 いつかは、見つかると信じた。だから、俺は、盗賊団を結成した・・・。
 ―――あれから、ずっと、手がかりなしで、10年も探し回り続けた。
 4つの結晶さえ、集めれば、きっと、ジュネイルも・・・、
 ・・・ほかの奴等もみんな、俺のところに帰ってくる・・・。
 俺が失ったもん、みんな取り戻せるんだ・・って信じてたからな。」


 それから少し考えて、俺みてぇな奴の話を真剣に聞いてやがるその女の
顔を睨みつけてやった・・・。
「やっと1つの情報が手に入った。
 幻の雫の結晶を持つ男―――セニフのことをな。」




「それじゃあ、あの時・・。ザヌレコフさんは、・・・わ、私が持っている、
 この、幻の雫の結晶を・・・・。」

「そうさ、俺が・・・、やっと見つけた、希望って奴を・・・、
 お前は、奪っていきやがったんだ・・・。」

 ザヌレコフは、マーシャを睨み続けていた。
「ご、ごめんなさい!!わ、私は、知りませんでした。本当に、ごめんなさい。」
「マーシャ・・・。」
 こんな盗賊になんで謝る必要があるんだ?――― つい、口を滑らしそうになった。
けど、今のザヌレコフとマーシャの様子を見て、この空気をぶち壊すような、
そんな真似、シーナでもない限り、出来そうじゃなかった。
「本当に、私は、・・・何も考えていませんでした。
 ただ、4つの雫の結晶を集める、それだけのことしか・・・。
 何も私は知りません。でも、ザヌレコフさんは、・・・辛い過去を経験して、
 ・・・今も、それをひきずっている。自分の運命を背負い続けて生きている・・・。」

「・・・。」
 マーシャは、真剣な顔でザヌレコフを見た。

「でも、それでも・・・、私が、これをあなたに渡すことは、出来ません。」

 ザヌレコフの奴はうなだれた・・・。
「分かって、くれねぇ・・・か、これでも・・・。」
「ザヌレコフさん。」



 突然、その女は俺の手をとりやがった。
「な、何をしやがる?!」
「・・・一緒に行きませんか?・・・あなたの故郷。クリーシェナードに。」
「マーシャ?!何を言ってんだ?!」
「一緒に、雫の結晶を4つ集めて、それから、何が起こるのか―――、
 ・・・一緒に、見ませんか?」

「いいか?!そいつはザヌレコフだ!!ザヌレコフは―――」
「ああ、そいつの言うとおりだ・・・。俺は、テメェとなんか、つるむ気は―――」
「仲間でなくても構いません。・・・でも、一緒に来てください。・・・きっと、
 天国のどこかであなたを見てくれている、ジュネイルさんもそれを望んで――」

「何でも分かっているような事を言うんじゃねぇ!!」

「分からないからこそ、一緒に、確かめればいいじゃないですか!!」

 その女の声が、洞窟の中で何度もこだましやがった。
「―――手を、・・・貸す・・だけ。」
「お、お前・・、何を・・?」
「・・・この結晶は、おまえに渡さないからな。」
「ええ、それでも、構いません。」
 俺は、女の顔をまだ信じれねぇ顔で見ていた。そいつが何を、
この俺に言ってきたのか・・・。
「―――俺に、一緒に仲間になろうなんて、・・・そんなこと言う奴、
 この10年間、誰もいやしなかった・・・。
 いったい、・・・おまえは、・・・・何者なんだ?」

 けど、そいつは、何も答えねぇまま、立ち上がった・・・。
「さぁ、一緒に行きましょう。・・・クリーシェナードへ!!」



 私達3人は、それから洞窟を抜けて砂浜に出ました。
「いねぇ・・、他の連中が、・・・誰も―――。」
 ザヌレコフさんは先に海岸へと走っていきました。
「船が、ない―――、俺達の、船が・・・。」
 私達が来た時にあった、たくさんの船の姿は、みんな消えていました。
「えっ?どうするのですか?わ、私達、もう、戻れないのですか?」

 その時でした。遠くの方から私達を呼んでいる人の声が聞こえました。
「あれは・・、船長の声か?!」
「ハーディンさん!!」
「あっちだ、マーシャ。行こう!!」
「はい、ザヌレコフさんも来て下さい!!」
 私達は、ハーディンさんの方へと歩いていきました。そして、
少し歩いた先に、私達が乗ってきた船の姿が見えてきました。



 俺達は船へと乗り込んだ。すぐにハーディンが俺達を迎えにきた。
「・・ようやく、戻ってきたか!!・・・もう、戻ってこないかと思ったぞ!!」
「・・・・早く、ここを出ましょう!!」
 だが、ハーディンは首を横にふった・・。
「・・・無理だ。・・・もう、海流が強すぎる。・・・限界だ。
 ―――ん?・・・ひょっとして、・・・ザヌレコフか?!どうしてそこにいるんだ!!」

 船長も、俺達のそばにいた、ザヌレコフの姿に気付いたようだった。
だが、それに、ザヌレコフは答えようとしないようだった。
「そんなことより、これからどうするって言うんだ?!今、それどころじゃないだろ?」
「・・・俺は、見殺しにしても構わねぇ。それだけのこと、あんたらにしてきたんだ・・。」
「なにグダグダ言ってやがる、早く、入って、お前の手下どものところに行け!!」
「あ・・?・・な、なんだと!?」
 ザヌレコフは、船の奥に勢いよく入った!!
「・・・おい!!・・・大丈夫か!!・・・おい!!!何があったんだ?!」
「あまり、大声を出すんじゃない。そいつらは、流された船を追って、
 あの海流の中で命を捨てようとした。相手が盗賊だろうがそんな事は関係ねぇ。
 海に生きる人間が、海で死のうとする奴を、見過ごせるわけねぇだろう・・・。」

「おまえ―――」
「だが、どうする・・・、海流は強くなった。そいつらを助けたはいいが、
 ―――これじゃあ、俺達もいずれ、流されちまう・・・。」

「ん?な、なんだ、こいつは?!」
 ザヌレコフとマーシャが持っている雫の結晶が光り輝いていた。
「ザヌレコフさん!!それを私に貸して下さい!!」
「こ、これをやらねぇと言っただろう?!」
「いいから早くしろ!!今は、・・・マーシャを信じてやれ!!」

 マーシャは、ザヌレコフから雫の結晶を受け取って、甲板の上へと出て行った。

2005/12/08 edited(2005/04/09 written) by yukki-ts To Be Continued. next to