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[stage] 長編小説・書き物系
eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
悲劇の少女―第4幕― 第26章
(86日目早朝)
「ディッシェム!!来る!!スピアを構えろ!!」
「か、構える?!」
デュークリューナとかいう奴の右側にあった、炎の玉から、
とてつもなくどでかい火炎の球がすげぇ勢いで俺達の方に飛んで来やがった!!
「―――な、なんだ?!」
俺のスピアとセニフのクローを中心にして、透明の丸い盾みてぇな結界が、
俺達をその火炎の球から守っていやがった。
「ダークシールド・・・、ロベルタクスストーンの力だ!!」
「・・・も、もたねぇ!!―――体が、吹き飛ばされちまう!!」
「動くんじゃない。・・・動けば、全身、一瞬にして焼け、灰すら残らないぞ!!」
「ちくしょう!!」
そいつの魔法に耐え抜いて、威力が弱まった瞬間、俺は前にかけ出した。
スピアを思いっきり、デュークリューナの野郎に突き刺す!!
「・・・か、硬ぇ!!」
「・・・闇の力に支配こそされているが、デュークリューナそのものが
闇の力を持っているわけではない。・・・恐らくは、もう既に、
デュークリューナに実体はないようだが、この暴走を止めるには、
もはや、・・・砕くより他にない!!」
セニフがデュークリューナをクローで切り裂く。
「次が来る。下がるんだ!!」
私達は、デュークリューナの放つ魔導法、ダイアモンドダストに耐えていた。
「くっ、手が、・・・凍り出しやがった・・・。」
ディッシェムのスピアを持つ手に力が失われてきていた・・・。
「こらえるんだ!!我慢しろ・・・。」
私は、ディッシェムの前へと、ダイアモンドダストに歯向かいながら進み出る。
しかし、両手のクローで遮るにも限界があった。
「これ以上は、近づけない。それに、・・・このままでは、もたない・・・。」
「セニフ・・・、俺なら、・・・まだ、いけ―――。」
「限界だな―――。」
私は、左手のクローを引く。一瞬にして、左半身に猛烈な凍傷を負う・・・。
「グ・・グラヴァディ!!」
呼び起こした重力に押しつぶされ、デュークリューナの攻撃が弱まる。
だが、それと同時に、私の感覚が徐々に失われていき始めた。
「・・・セ、セニフ!!」
セニフの野郎が力を使い尽くして倒れ込みやがった・・・。
「ち、ちくしょう・・・。この野郎―――、いい気になってんじゃねぇ!!」
俺は、またデュークリューナの野郎をスピアで突く!!
そん時、突然俺は、まぶしい光に目を閉じちまった。
ゆっくり目を開けたとき、俺の目の前にあったのは、白く光ってるスピアだった。
「な、なんだ?こいつは?!」
その白い光にデュークリューナの奴は包み込まれていやがった。
「―――それが、・・・君の心に、同調した・・・、スピアの姿・・・。」
「セ、セニフ?!」
「恐らく、それが君の力ならば、・・・止める事が出来る。」
「それなら、砕くまでよ!!」
俺が一歩踏み出した瞬間、デュークリューナの周りを、また暗闇が
覆いかぶさりやがった。
「・・・闇の力が、完全にデュークリューナを支配した。」
「ど、どうなって・・・いやがる?!」
「炎の玉と、氷の玉を見るんだ・・・。互いの力が徐々に増幅している・・・。
このまま放っておけば、暴発は免れない・・・。」
「どうすれば、止められる?・・・俺に出来ることは、あるのか?」
セニフの言いやがることは、どうやらマジだった。
俺のマントが、その勢いで切り裂かれちまい始めた・・・。
「止める・・・。君にも、そういう発想が出来るんだな。」
「―――俺に、生きていて欲しいって、言いやがった奴が・・・いるんでな。」
「スピアを・・・、しっかりと握るんだ。」
どんどん、俺の体はその力に押されてきやがった。
「力が反発し始めた。―――来る!!」
「―――こ、ここは・・・?」
「―――セニフよ。」
「―――誰だ・・・。」
「―――デュークリューナ。闇の封印を守るため、セリュークに創られた存在。」
「―――デューク・・・リューナ・・・。」
「―――今、再び、力が解き放たれんとしています・・・。」
「―――必ず・・、必ず、私達が、果たします・・・。」
「―――私の力は、もう、消え去るでしょう。導かれし者よ。最期の、私の力を。」
「―――デュークリューナ!!!」
私達の意識が、急激に戻ってきた・・・。
「・・・セニフ、俺達・・・。」
「君のスピアの光は、聖なる光・・・。恐らく、暴発を止めたのは、君自身の力。」
「おい、セニフ。もしかして、・・・こいつが。」
私は、ディッシェムの指差す先にある、闇の雫の結晶を見た。
「―――最期の・・・力。」
「俺にも、・・・デュークリューナって奴の声が聞こえたぜ。
・・・これを、封印するために、―――こいつは・・・。」
「ディッシェム・・・。」
「なんだ・・・?」
「闇の力を秘めし物を、今、ここに復活させた。・・・もはや、後戻りはできない。」
「ああ・・・。」
「もう、この力を、止める術はない。・・・封印は、開かれた。」
「俺は、テメェの言葉通りのことをやってきた。俺達のなすべきことは、
4つ、こいつを集めること・・・だろ?」
「・・・ああ、そうだ。」
「なら、それ以上の事を言うんじゃねぇ。
何を言われようと、俺は、やりとおすと決めた事は、やりとげる。」
「その台詞は、・・・ロジニの時にも聞いたな。」
ディッシェムが、闇の雫の結晶に近づき、そして手にとった・・・。
「行くぜ、セニフ・・・。」
遺跡に入り口へと向かった。差し込む光の中で、私達は見た。
―――無数の足跡、・・・そして、私の心を覆った暗雲。
ディッシェムは明らかに殺気立っていた・・・。
「ちっ、嫌なメンツだな・・・。」
「ディッシェム、・・・待て。・・慌てるんじゃない。・・・ここは、ひけ。」
「・・・よりにもよってなんで、・・・大盗賊―――ザヌレコフの奴が・・・?」
(86日目昼)
「この滅びた遺跡に、今まで、2人で何をしていた・・・?」
「私達は、遺跡巡りをする旅人―――、そういうことではだめだろうか?」
「この遺跡には、何もなかっただろう?手下共がさんざん荒らし尽くしたからな。」
「遺跡に踏み入り荒らす・・・、惨い所業をするものだな、盗賊という連中は。」
「セニフ?!」
こんなことは言いたくねぇが、数に違いがありすぎる・・・、勝ち目はねぇ。
セニフの野郎は、それくらい分かってやがるはず・・・。
「―――俺を誰だか、分かっていてその大口を叩いてんのか?」
「俺達はなぁ、モンスターズハンター・・・。テメェの面も、俺達の間じゃ有名・・。」
頭じゃわかってても、俺の性格じゃ引き下がれそうにはねぇようだった・・・。
「モンスターズハンター・・・、そうか。生きて帰れると、思うんじゃねぇぞ。
あんだけの邪悪な気配が、消えやがったんだ・・・。―――何をしやがった?」
「・・・。」
セニフの奴にしゃべる気はねぇらしい。バラすか、バラさねぇか・・・、
それは、闇の雫の結晶を持ってる、俺に決めろとでも言いてぇんだろ・・・。
「口を割る気はねぇ・・・か。」
ザヌレコフの野郎がソードに手をかける・・・。
そん時、俺は何か、変な感じを受けた。気のせいかもしれねぇが、
セニフの野郎の表情も、さっきまでと少し変わっていやがった・・・。
ディッシェムも恐らく気付いただろう。盗賊の持つソードの刃が見えたと同時に、
私達の武器、―――ロベルタクスストーンが反応を起こしたことを・・・。
「・・・どういうことだ?」
私が小声でそう漏らす間に、盗賊はソードを抜いた・・・。
そして、私はその状況で、あることに気付き、同時に疑念を持った・・・。
これは、『あいつ』と同じ呼応ではないか―――、どういうことなのか・・・と。
「お前等、・・・手を貸せ。次から次へと、俺を邪魔する輩を、
これ以上、のさばらすわけにゃ、いかねぇからな・・・。」
「ザヌレコフ様!」
「ザヌレコフ様。」
盗賊の配下―――、男と女がそう言い、近づいた。
だが、周りの者達の視線も殺気も、私達に向けられたままだった・・・。
「伝令を申し上げます・・・。」
女の方が、ザヌレコフに耳打ちをする。それから、ザヌレコフは、
驚いた表情を、やがて、意味ありげな笑みを浮かべた・・・。
「ザヌレコフ様、先にお行きください。ここは、俺等が始末しましょう・・・。」
「これで、もう、邪魔は、入れねぇ・・・。
お前達には、苦労をかけさすな・・・。―――ここは、任せる・・・。」
ザヌレコフの野郎はそう言って、周りの連中が俺等に警戒し続けてる間に、
その場から離れていきやがった・・・。
「ま、待ちやがれ―――」
「兄ちゃん達よぉ、・・・逃げられや、しねぇぜ。」
「ちっ、手下の野郎。・・・デケェ口を叩きやがる・・・。」
「・・・この人数の前で、余裕なのかよ?」
「ディアロスの兄貴、ここは、言い合いなんかしてる場合とは違うんじゃねぇか?」
「用件を言う方が先じゃないかしら?」
「そ、そうか・・・。」
「何が言いたい?」
「めずらしく調子のいい兄貴に横から口をはさむんじゃねぇ。」
「殺気ぶっぱなしながら、コントでもしようって気か?」
「雫の結晶、大人しく渡してもらおうか?!」
「ディシューマ連合ってとこで聞いたことがあるぜ、
ザヌレコフ盗賊団が、雫の結晶探しを依頼したことがあるってよ・・・。
そうか、―――今でも探してやがるのかよ。」
「しらばっくれる気のようね?分かるのよ、あなたが持っていること。」
「俺が、持っている・・・だと?」
「ディッシェム。ここまでだ。ここは、大人しく渡すんだ。」
ディッシェムが私を疑うような目で見てきた。恐らく、
ディッシェムはディッシェムなりに、隠し通そうとでも考えていたのだろう。
「どうやら、白状しやがったな。」
「さあ、ディッシェム・・・。」
「ちっ、どういうつもりだ?!」
「自分の手で取ったはずだろう。」
ディッシェムは、スピアを握り、しばらくどうするか迷っているようだった。
「やっぱ・・・、俺にゃあ無理だっ!!」
ディッシェムは、疾風のようにかけだし、スピアを盗賊に向ける。
だが、無謀だということは、ディッシェムにも分かるのだろう・・・。
盗賊の目の前で、スピアを地面に突きつけた・・・。
「・・・。」
「ディッシェム・・・。」
「出してもらおうか・・・。」
「・・・ほらよ。」
ディッシェムは、それを取り出した。不思議な銀色の光沢を放つ、
その球状の物体を盗賊の目の前に取り出した・・・。
「これが、・・・ザヌレコフ様の求めた、闇の雫の結晶―――。」
「ああ、そうだよ・・・。」
「ありがたく、いただきましょう。」
そいつが俺の持ってるもんに手をつけようとした時だった・・・。
「いや、違うな。そいつは、違う。」
「何を言うつもりだ?」
セニフの奴が真っ先に反応しやがった。
「俺は、雫の結晶ってもんを見せて頂いたことがある。そいつは、それとは違う。」
「て、テメェ・・・、騙す気だったのか?!」
「―――ちっ、なんで、バレやがるんだ?セニフ!!」
セニフの野郎はセニフの野郎で、不思議そうな顔をしてやがった。
「見せていただいた・・・、だと?
―――やはり、そうか。気になってはいたんだ・・・。」
「セニフ?何に気付きやがったんだ?」
「4つの雫の結晶。マーシャが持つ1つ。そして、ディッシェムが持つ1つ・・・。
残るは2つ・・・。恐らくは、先程のザヌレコフの様子、1つの在り処へと
向かおうとでもしていたのだろう・・・。」
「なんだと?!」
「1つだけ、・・・私にも場所の見当がついてなかった雫の結晶があった・・・。
恐らく、見る機会があるとするなら、・・・その1つだけ。」
そいつらの様子を見る限り、セニフの野郎が話しやがった事は、
ほとんど間違いねぇみたいだった・・・。
「最後の1つ、時の雫の結晶は、・・・既に封印が解かれている。」
(86日目夕方)
火山のふもとに、人を寄せ付けないほどの熱気を吹き出してくる穴―――
洞窟の入り口を見つけた・・・。
「―――あつい。こんな、・・・こんなところに、入れるわけ・・・。」
それでも、私は、少しずつ猛烈な熱気に襲われながら、中へと入ってみた。
何か、何か大きな力が、私をひきつけているのを、感じずにはいれなかったから・・・。
「一体・・・、この中には―――」
私は、言葉を失った。・・・真っ赤な光景が広がっていた。
煮えたぎるマグマが激しく波打ち、激しい水蒸気がもうもうとふき上がっていたわ。
「な、何?こ、これは・・・。」
時々、道の途中に黒い塊が転がっていた・・・。
「まさか・・・。」
もし、このままこの火山に居続けたら、いくら私でも、
こんな姿になってしまうのかもしれない・・・。頭を振って嫌な想像をはらった。
それでも、私は進まないといけない・・・。
「クロスブレイカー。」
ドロドロに溶けたマグマが、まるで息を吹き込まれたかのように
私に向かってきた。マグマで形作られた腕が、私をつかもうと迫ってくる・・・。
「邪魔されてるヒマなんてないのよ!!」
私が攻撃態勢をとった時、想像したよりもずっと速く、ドロドロに溶けた拳で、
地面に叩きつけられた。
ローブのこげる音を聞きながら、私は痛みにこらえつつ身を翻した。
そんな私を待たずに、もえたぎる灼熱のような吐息を吹きかけてきた。
「じょ、冗談じゃないわよ!!これ以上、暑くさせるんじゃないわよ!!」
熱でゆらめく風景を見つつ、私は、もう一度、クロスブレイカーで叩き斬った・・・。
動きが鈍くなって、ゆっくりと崩れて固まっていった・・・。
息が上がってた。滝のような汗が吹き出して、体力も相当奪われてた・・・。
「はやく、片付けて、外出ないと・・・、私、ヤバいわ・・・。」
今にも崩れそうな足場のところを進んでいった。
それでも、道はまだ奥へと続いていた。ここまで来て、もう、引き返せない・・・。
少し開けた場所へ入った。暑さに変わりはなかったけど、
ドロドロの溶岩を見なくてすむだけ、気分は楽だった。
突然、私は、何かの気配に気付いた。奥に何かがいる・・・。
ナイフをしっかりと握って、その正体を確かめに行った。
「モンスター・・・。」
真紅のローブを身にまとう魔法使いのようなモンスターと、
燃え上がる炎の羽を持つ鳥のモンスターだった・・・。
気のせいか、どこか様子がおかしかった・・・。
そんな私をよそに、魔法使いの方は、魔法陣を描き、溶岩を杖にまとわせた。
それを意のままに操って、私に放ってきたわ・・・。
「オーロラバリア!!」
炎を避けながら、私はそいつらに向かっていった。
魔法使いは、そんな私を警戒して魔法をぶっ放し続けてきてたけど、
どういうわけか、鳥の方は、何もしてこない・・・。
よく見れば、ひどく弱ってるみたいだった。そんな炎の鳥に、
時々、魔法使いの奴が命令を出すみたいに、杖で殴りつけていた・・・。
「よくわかんないけど、・・・とにかく、アンタはぶった斬るわよ。クロス―――」
魔法使いは突然後ろに下がり、炎の鳥を盾にした。私は、一瞬躊躇した・・・。
その油断が命取りだった。私は、至近距離で魔法使いの放つ溶岩を受けた!!
全身が溶けそうな猛烈な熱気に襲われる!!
「うっ・・・。」
うずくまった私を、少し笑ったような顔で魔法使いが見下ろしてきた。
その横にいる炎の鳥は、力弱く、私に、まるで何か言いたいような目をしていた・・・。
その目を見た時だった。脳裏に、何か不思議な感覚―――、この大陸に来てから、
ずっと感じてた感覚におそわれた・・・。
魔法使いがまた魔法陣を描き始めた時、私は、その炎の鳥に向かって走りだした。
何をしようとは考えてない。ただ、私は、走り出してた・・・。
近くまで寄ると、炎の鳥は、少し穏やかな表情で私を見つめてた。
でも、もう、燃え上がる炎の羽に、力強さは残っていなかった・・・。
「・・・いったい、あんたは―――」
魔法使いが再び溶岩を召喚し、私へとぶつけてくる。
熱気がすさまじい勢いで私に迫ってきた!!
そんな私の前を黒い影がさえぎった・・・。
「な、なに?!」
炎の鳥が、私をその炎から守ってくれた。そう見えたのは一瞬だった。
もう、炎の鳥に意識はなくて、目も閉じられていた・・・。
私は、両手が震えているのを感じた。
「許せない・・・。」
無我夢中で、クロスブレイカーを放った。避けようとさせる間もなく、
そいつを斬り裂いてやった・・・。
もう、羽からの炎は、とても小さくなっていた。
それでも、また、ほんの少しだけ、その命の灯火は羽に宿っていた・・・。
「・・・もう、力がほとんど残ってない―――。」
いつもだったら、躊躇もなくぶった斬ってる。こんなに弱っていれば、
クロスブレイカー一発で間違いなく息の根がとめられる・・・。
それとは、正反対の気持ちになっていた・・・。
「つれて・・・、いくわ。」
私は、炎の鳥を抱えた。傷ついた体を癒すような暖かい体だった・・・。
だんだん、息をすることさえ難しくなってきたわ。
そんな私の目の前の通路を、無数の真っ赤な体のスライムが埋め尽くしてた・・・。
「・・・まだ、それでも、私の邪魔をしようっていうの?もう、いい加減―――」
目の前が真っ白になった。体中の感覚が奪われて、痛みも、暑ささえも、
分からなくなった。・・・ナイフが手から落ちそうになる―――。
「限界・・・なの?」
とっくの昔に炭になっててもおかしくなかった。
今、私がここまで来たのだって、考えてみれば、無謀だったし、無茶だった。
ここまで来たんだから、最後まで歩く・・・。
言うだけなら簡単。でも、もう、そんな私の心に、体は答えてくれそうになかった。
スライムが私に気付いて向かってきた。もうろうとする意識の中で、
私はそう感じていた。
「やっぱり、私・・・、スライムにやられる・・・、そういう運命なのよ―――。」
真っ白な風景が、真っ赤になった。何が起こったのかは分からないけど、
とても大きなエネルギーが私の肩の上辺りから放たれ、
その勢いで、私の意識も急激に戻ってきた。
巨大な炎―――ヒートバーストドームがレッドスライム達を包み込んでた。
「―――魔法?ヒートバーストドームなんて、・・・だれが?!」
(87日目早朝)
レッドスライム達は、一瞬にして体力を奪われて、消え去っていったわ。
「まさか・・・、あ、・・・あんたの力なの?!」
フレイムバードの姿を探した。すぐに見つけられた。
けど、相変わらず弱りきって、目も閉じられていた・・・。
「そんなわけ・・・、ない―――」
私は、はっきりと、脳に話しかける誰かの声を聞き取った。
今までのどんな時よりもそれははっきりとしてた。
もう、迷いはなかった。奥に、私は進まないといけない・・・。
フレイムバードを肩に、私はただ、奥へと歩いていった。
そして、その場所に着いた時、自分の目ではっきりと、その声の正体を目にした。
―――美しくも、その姿を見た者は、皆この世から消えると謳われる、
殺戮に満ちた、神にも似た伝説の存在・・・。
「フェアリー・・・、ドラゴン。」
フェアリードラゴンのまとう炎の気配に圧倒されて、フラつきそうになってた・・・
「スライムに殺されるより、・・・ちょっとくらいは、マシな理由になるかしら。
―――もう、冗談言うのも疲れたわ・・・。」
私は、ただ上目遣いでフェアリードラゴンのその姿を見上げていたわ・・・。
「・・・あんたが、・・・ここに、私を呼んだの?」
フェアリードラゴンは、ただ、私を空中から鋭く見下ろすだけだった。
「そう、違うのね・・・、それでも、構わないわ。
―――死ぬ覚悟くらい、もう、私、・・・できてるから。」
私は、ナイフを握り締めた。
「でもね、・・・それじゃ、許さない奴らを私、知ってるのよ。
―――死んでまで、あいつらになんだかんだ言われたく・・・ないのよ!!」
クロスブレイカーを放った。フェアリードラゴンが、恐ろしい目つきで睨んできたわ。
「・・・普通に斬ったんじゃ、・・・だめみたいね。」
クロスブレイカー程度じゃ、硬いウロコを突き通せそうになかった。
「―――意地でも、炎を出さないと・・・。」
目を閉じて、ナイフに魔力を送る・・・、ナイフが次第に熱を帯び始めた。
でも、炎が吹き上がることは、なかったわ・・・。
「でも、やるしかない!!いくわよ!!・・・バーニング、スラッシュ!!!」
私の攻撃は、フェアリードラゴンの尾に押し返された。
それでも、もう負けてられない。私は、バーニングスラッシュを連発した。
フェアリードラゴンは、急に浮上し、魔法陣を描いた。
もう、同じものをさっき見た。けど、今度のはワケが違った・・・。
「これは、・・・きついわね・・・。」
ドロドロに溶けた溶岩の塊がいくつも私に飛んできた。
でも、もう私には、それを全部避けられそうにはなかった・・・。
直撃を受けて、私は痛みの感覚もなくなってた。
そして、フェアリードラゴンは、ゆっくりと私のもとに舞い降りて、
その鋭い爪を向け、私の体を引き裂いた!!その瞬間、私の体中を、
猛烈な炎が包み込んだ・・・。
私は、そのまま、動けなくなった―――。
フェアリードラゴンは、攻撃の手を休めて、
そんな私を、冷たい表情で見下ろしてたわ・・・。
「―――そうでしょうね、・・・まさか、普通の人間が、・・・まだ生きてるなんて、
・・・思わないでしょうからね・・・。」
ナイフから、力強く炎が燃え上がり始めたわ・・・。
もう、体力の限界なんてとっくの昔に超えてる。でも、それでも、
私の命の炎は、消えたりしなかった・・・。
「・・・あんた、―――やっぱり、私を助けてくれたようね・・・。」
私の上で、フレイムバードは力強く空中を舞っていたわ・・・。
「あんたも・・・、私と、戦うつもりなの?」
フレイムバードは、その視線の先にフェアリードラゴンをとらえていたわ。
「―――やる気・・・あるようね。」
私は、そんなフレイムバードと、ナイフの炎に答えるために、
もう一度だけ、立ち上がった。
「・・・私の炎。―――まだ、輝かせるのなら、・・・命のある限り、
何度でも、私は立ち上がる!!」
フェアリードラゴンが、再び私のもとへと降下し始めてきた!!
「―――バーニングスラッシュ!!」
ナイフから、想像をはるかに超えた巨大な火柱が上がって、
一気にフェアリードラゴンの体を斬り裂いたわ・・・。
私の攻撃を食らったドラゴンは、思いっきり爪を私に向けて、
すごい勢いで急降下してくる!!
「あんたも行くのよ!!」
フェアリードラゴンの鋭い爪で引き裂かれそうになった時、フレイムバードが
その場に割り込み、ヒートバーストドームを放ったわ。
フェアリードラゴンは、その激しい炎にひるんだ・・・。
「わたしも!!」
私は、炎に包み込まれてるフェアリードラゴンのふところに飛び込んで、
バーニングスラッシュを放った・・・。
フェアリードラゴンの苦しそうにする声が洞窟中に響いたわ・・・。
地面に足が着いた。もう一度、私は、ナイフの炎の限り、立ち向かい続けようとした。
だけど、もう、私の体は、それ以上の私のわがままを聞いてくれそうじゃなかった。
もう、上と下が分からなくなってた。視界が狭くなっていく。
フェアリードラゴンの炎に、フレイムバードが圧倒されているのが、
少しだけ見えた。・・・力の差は、れきぜんとしてた・・・。
「・・・やっと、・・・やっと炎が元に戻ったっていうのに!!
これから、・・・これからなのに!!ここで、死んだら・・・、
何のために、ここに来たのか、分からないじゃない―――」
私は、記憶の中で、最後にそう絶叫していたのを覚えてる・・・。
―――全ての力を失った私に、誰かが静かに話し掛けた・・・。
「―――今はまだ、あなたに『炎の民』としての本当の力は宿っていません・・・。」
「・・・だ、・・・誰?」
声にはならなかった。ただ、心の中で私は、そう言っていた・・・。
「―――世界を回るのです・・・、『悲劇の少女』と共に・・・。」
「・・・悲劇の・・・少女・・・。」
「―――そして、いつかここへ戻ってくる日が来るでしょう。
・・・そのとき、再び会えることを、楽しみにしています・・・。」
「まって!!・・・・いったい・・・。どう言うことなの!?」
声は、少しずつ小さくなっていった・・・。
「・・・私は、・・・『炎の民』じゃあ、ないって・・・言うの?」
暗闇の中で、私は、どこまでも深いところまで沈んでいった。
何もない、静かで暗い、その闇の中に―――。
(87日目深夜)
その男は、『死の大陸』と呼ばれる地にいた。
理由を知る者は、その男の他にはいない。いるはずがなかった。
10年という永い時間の流れの中で、忌まわしい呪縛から、その男は、
逃れることなど出来はしなかった。
男は、かつて、炎の民と呼ばれた民族が居住していた地にいた。
ただ目を閉じて、ふきすさぶ風の声を聞いていた・・・。
「・・・誰だ?」
誰も居ないはずの、その場所で、男はその気配に気付いた・・・。
だが、それは、幻影でも飢えたモンスターでもなかった・・・。
「まさか、・・・こんなところに、あなたがいたなんて・・・。」
それは、まだ幼い少女の声だった・・・。
「あなたを追いかけて、ここまで来てしまいました・・・。」
「・・・僕を、追いかける?」
「一体、どうして君のような娘が、・・・たった1人で?」
「私は、あなたの為なら、何処へでもついて行きます・・・。」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・。」
少女は、男に寄り添う・・・。
「・・・やっとあなたに逢えた・・・。もう、絶対、・・・この手は離さない。」
「僕は、君のことを知らない。―――すまない。」
「一緒にいれば、たとえ、・・・たとえ欠点があっても、お互い、補いあえるわ!!」
少女は急に男に抱きついた。男は、バランスを失い、少女とともに倒れ込む・・・。
「きゃっ!!」
「すまない!!大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。・・・私が、・・・私がいけないんだわ!!
私も、あなたのことを、分かってあげられなかっただけ。
・・・私は、たとえあなたがその腕で、私を優しく抱いてくださらなくともいい。
それでも、・・・あなたの為なら、宇宙の果て、青く深い海の底、
―――いえ、その火山の中へでも、ついて行きます!!」
「火山か・・・。―――確かに、僕は、行かなくてはならない。
だが、1人で行く。・・・すまない。」
男の向かう先には、大きくそびえ、灰色の噴煙を上げる活火山があった。
少女は、それを引き止めた。
「やめて!!あなた!!・・・私一人をおいて、・・・死ぬなんて!!
・・・死ぬときは、私も・・・一緒に・・・。」
「・・・僕は、・・行かなきゃならない。・・・どうしても。」
「お芝居は、もうそれくらいで、いいんじゃないかしら?」
私の一言で、やっとその2人は黙り込んだみたいだったわ。
「あ、あれ?って、あんたは・・・、―――リズノ・・・、リズノなの?!」
「・・・シーナ?シーナか!!」
間違いなかったわ。その男は、私の記憶の中にいた。
「―――で、そっちの娘は?」
「な、何のことだ?」
「ここまできてとぼけようって気?
・・・あれぇ?ひょっとして、あんた?どこかで見たことがあると思ったら・・・。」
「な、何よ?!私は、あなたなんて知りませんわ!!」
「声も覚えてるわよ。確か、前に会ったのは、イガーのスラムだったかしらね?」
「・・・イガー。・・・私は、そんな 女 の名前に覚えありませんわ。
そんなことより・・・、そうよ、そうだわ。・・・分かった。分かったわ!!」
そう言って、私なんかほっといてリズノの方に向いた。
「この人は、あなたの・・・、あなたの彼女!!――― 恋人同士 なのね?!」
「な、そ、それは―――」
「ちょ、ちょっと、あんた、エスティナだったわね!!こ、こんなとこまで来て、
何ふざけたこと言ってくれちゃってるのよ?!」
「・・・否定してくれないの?私の目を見て。あなたの答えを教えて!!」
「あ、あのさ。リズノ・・・、目が見えないの。だ、だから・・・。」
「―――どうして、黙ったまま・・・なの?」
さっきから、どうも、私は無視ぶっちぎりにされてるみたいだったわ。
「もし、それが・・・本当なら―――。」
どっかで聞いたことある口調で、そう言って、急にリズノの前から姿を消した。
「―――私、本当に・・・あなたのことを、スキになりかけてたのに。」
「あ、あのさ、もしかすると、イガーの奴と同じ理由で、あ、あんたたちが、
探してるっていう変装名人の奴ってのが、もしかして、ひょっとすると、
リ、リズノだとでも思った、・・・そ、そういうこと?」
「レイガル様・・・。この人も、違いました。
だって、もしも、この人がそうなのだとすれば、たとえ、姿も心も他人に
成り代わったとしても、この 私 というものがありながら、
他の 薄汚い女 などに、手を出すはずなど、ないですものね・・・。」
「え、えらく、大きく出たわね・・・。誰が薄汚いですって?!」
「レイガル様。私、・・・必ず、見つけます。
―――だから、・・・天国で、見守っていてくださ―――、ごほ、ごほっ!!」
リズノは、エスティナの口に布をあてがった。
「深く息を吸わない方がいい。ここはそれほどでもないが、
空気が汚れていることに変わりはない・・・。」
「これ以上、あなたの優しさを受けるなんて、出来ない・・・。さよなら!!」
それを振り払って、エスティナはどっか向こうの方に走り去って行った・・・。
「・・・なんだったんだ?」
「どこを、どう見間違えたら、あんたが私の恋人に見えるわけ?
寝ぼけてんじゃないわよ、全く・・・。」
「・・・。」
「な、何よ?・・・急に黙り込んで―――。」
リズノは、一度顔を伏せたあと、しばらくして私の方を見てきた。
今までで一番、マジメで真剣な表情だった・・・。
「・・・もう、お前は、・・・ここで、すべてを見てきた―――、そうだな?」
私は、少しだけ驚いた表情をしてみせた。
それから、1人で後ろを向いて、2、3歩歩いて、空を見上げた・・・。
「私も、・・・私の周りにいる人たちも、みんな、昔の記憶はないと言ったわ。
・・・ただ、みんなが私に隠しているだけと、ずっと思ってた。
でも、みんな、・・・本当に何も知らなかった。」
私は、そのまま話し続けたわ。
「過去なんて、知ったところで、何になるのよ?
―――そう考えていれば、別に、何も気にしなくてすんだ・・・。
でも、もう、・・・私にはそんなこと、・・・言えない。」
私は、リズノの方に向いた。もう、これ以上は、限界だった・・・。
「あんたが、この10年間。たった1人で、抱え続けてきたもの・・・、
すべて、見てきたわ―――。失われた私の・・・過去を。」
2つの風が空を切り裂いた。
「お前のことを、僕は知っている・・。」
「・・・。」
「もし、僕が・・、お前の敵だとしたら―――、
もし、僕が、お前の親を・・・、集落の人間を殺したとしたら、どうする?」
幼い少女は逆上した。少女の足元に突き刺さったその2本のナイフを手に、
その青年に襲い掛かろうとした。
「ああ、殺してくれ、僕を・・・。」
「こ、ころす・・・?」
「そうだ。僕が憎いだろ?皆を死に追いやってしまった、この僕が!!
憎い奴を、さぁ、そのナイフで、殺してくれ!!」
「・・・あ、あなたと、・・・同じことなんか、し、したくない。」
「―――殺さない・・・のか?」
「・・・。」
少女は、それ以上動こうとはしなかった。
「そうか・・・、それなら、それでいい。僕も、死にたくはないからな・・・。」
「・・・。」
少年は、少女にゆっくりと歩み寄った・・・。
「けど、このまま、何もしないわけにはいかない・・・。
僕は、まだ死ねない。やらなければならない事が残っている。
けど、それだと、・・・お前は、いつまでも、憎しみを残し続けるだろう。
僕も、いつか、自分の犯したことを、忘れ去るかもしれない・・・。」
「な、なにを・・?」
「そのナイフで、僕の両目を貫け。」
少女は驚いた顔をした。
「僕は、自分の犯した過ちを、永久にこの目に焼き付け、戒めとする。
さぁ、そのナイフで目を・・・」
「で、できな・・・」
「こうするんだ。」
青年は、ナイフを持つ少女の右手を取り、思い切り、自分の左目を貫いた。
少女の絶叫だけが、辺りに響き渡った・・・。
「・・・もう片方もだ。」
「でき・・・ない。」
少女は、ただナイフを強く握り締めたまま、震えていた・・・。
「僕は生き残る。そして、お前も、生きなければならない。
僕は、お前が歩むべき道を教える。それが、僕に課せられた罰・・・。」
青年は、少女の左手に握られているナイフを再び自分の右目の高さに持ち上げ、
自ら、その刃で目を貫いた・・・。
「な・・・、なんで・・・。」
「僕は、・・・ある人間を殺した。・・・この地を、盗賊から守るため・・・。」
「・・・。」
「だが奴等は、『炎の民』とよばれる者達を自らの目的のために利用していた。」
少女は、黙り続けていた・・・。
「彼らの力には、到底及びもしなかった・・・。彼らの『炎』の力は、
あまりにも大きすぎた・・・。僕は、彼らのすきを見て、奪い取った、
お前がもつその2本のナイフで、・・・彼らを、殺した・・・。」
「事実に気付いた時は、罪のない人間を殺めた自分が許せなかった。
そして、初めてお前を見たとき、・・・正直、恐怖で震えた・・・。」
「・・・。」
「彼ら一族の子供・・・、それが、お前―――シーナだからだ・・・。」
「う・・・そ・・・。」
「いつかこの子が大きくなれば、必ず僕に怒りを・・・、恨みを覚えるだろう。
いずれ、殺したいとまで思うに違いない・・・。
だが、忘れないでいて欲しい・・・。
彼らの多くは、その後、虐殺されてしまった。残されたのは、お前1人だけ・・・。
僕は、これ以上、もう、誰も傷つけさせたくはない。」
「・・・。」
「無責任かもしれない・・・。だが、・・・僕が、導き手となる―――、
そのナイフで、・・・生き抜いてくれ。
・・・いずれ、僕の目は全ての光を失って、ナイフも使えなくなる・・・。
君は、僕の代わりに、そのナイフを持つんだ・・・。」
青年は、その少女に、少しずつナイフの扱い方を教えた。
そして、少女自身が持つ力を引き出せるようにと、
バーニングスラッシュを教えた―――。
「・・・どうだ?・・・異常は、ないか?」
「当然だ・・・。ここを襲撃しようなんて考える奴が、いるとは思えん・・・。」
それは、昔、まだ、その地が死に絶える前の話・・・。
その国に、ひとつの神殿があった。その神殿を守護するべく、その国では永く、
数十名の者達を傭兵として雇っていた・・・。
「だがよ・・・、ここ1ヶ月、なんか妙だぜ・・・。」
「晴れもしない、雨もふらねぇ・・・、太陽も分厚い雲に隠れちまってる・・・。」
「・・・そのうち、とんでもねぇもんが降って来るんじゃねぇのか?」
その場にいた者の多くは、その冗談に笑っていた。
「・・・けどよ、俺の親父が昔、言ってたんだ・・・。
ずっと昔、こことは違う別の国で、ちょうど、こんな天気が続いたんだってよ・・・。
それから、続けてその国には災いが起こって、
ついに、その国は滅びちまったって。」
その話で、笑い声は沈んだ・・。
「ちょっと、それ、笑えないな・・・、ま、どうせおとぎ話なんだろうけどな。」
「なぁ、シーナ、どう思う?」
そう聞かれた1人の幼い少女は、質問に答えなかった。
「ま、とにかく・・・、中に入ろう。交代の時間だろ?」
少女は、未だにその者たちに、心を開こうとはしなかった・・・。
それから、いくらかの時が過ぎ去った、ある日のこと・・・。
「・・・リズノ・・・。お前は、やっぱり何かが、起こるって奴、信じてるんだろ?」
「・・・ああ。」
「そうなったら、俺達はどうなるんだ・・・。」
「何が起こっても、不思議じゃ、ない・・・。どうしようもない・・。
だが、もし、・・・これで死ねるというのなら、・・・どれだけ、楽な事か・・・。」
「おいおい、今からそんな事言うなよ・・・。」
「―――ああ、悪い冗談だったな・・・。僕達は、生きてなきゃならないんだ・・・。」
男は、その青年を見た。未だに、青年の両目には、痛々しい傷が残っていた。
「・・・リズノ、本当に、・・・このままでいいのか?」
「・・・。」
そして、時は、刻一刻と過ぎ去っていった。少しずつ、その異変は、
冗談などではなく、現実のものになり始めていた・・・。
地震、さまざまな自然災害が多発し、異常現象が各地で目撃され、
その大陸の人々にも、これから何か不吉な出来事があるのではないかという、
いいしれぬ恐怖が襲いかかりはじめていた・・・。
そして、その異変は、その青年達にも影響を及ぼし始めた・・・。
「な、なんて・・・ことだ・・・。」
悲鳴と慟哭に驚いて駆けつけた、その青年と少女達が見たのは、
仲間14人の無惨な姿だった・・・。
そして、それに手を下したのは、ここから逃げ出そうとした者を、
まるで気が狂ったかのように、次々と斬り殺した、
他の誰でもない、その青年達の仲間の1人だった・・・。
「どうなっていやがる?!ちくしょう!!」
「ちっ、また、地震か?!」
「リズノ・・・、もう、どうなってるか、わからねぇ!!
・・・いったい、何が始まるってんだ?」
その時、その青年は窓の外である人物を見た・・・。
事の重大さに、じきじきに視察に来られた、国王の姿だった。
その青年達数名は、王を神殿の入り口で出迎えた・・・。
「・・・いったい、何が起こったというのだ?」
王は、厳しい目で、隊長に質問された・・・。
「はっ、仲間の内部で、混乱が、・・・死者も10数名・・・。」
いくらかの者は気付いた。少しずつ、目の前で話す人物の声色が変わっていく事に。
「そうか、ならば・・・もうここをお前達にまかせては、おけぬようだな・・・。」
「はっ・・?」
リズノ達ははっきりとそれを目撃した。王、いや、王の姿を持っていたものが、
突如変貌を遂げたのを・・・。恐ろしく鋭い目つきでその場にいる者を睨みつけ、
不思議な、オーラを放ち始めた・・・。
「うっ・・・、な、なんだ・・・これは・・・?」
「リ・・・リズ・・・。」
「ど、どうしたって・・・いう・・・、ん・・・、うっ・・・。」
「お前もラクになれ・・・。」
王は、その青年に手に持つ杖を振り落とす・・・。
「リズノッ!!」
「―――何をするつもりだ・・・。」
・・・少女がいた。その手には、血塗られたナイフを持っていた。
「・・・。」
「答えぬか・・・、それでもよい。」
「―――バーニングスラッシュ。」
少女の体温がその声と同時に、異常な上昇をし、莫大な魔力が放出された・・・。
『炎』が少女の両手にあるナイフから吹き上がる・・・。
「『炎の民』・・・、まだ、生き残りがいたのか・・・。」
「!!」
シーナは、ナイフで王の脇腹に突き刺した・・・。
「どうした、・・・それで終わりか・・・。」
王の持つ杖から妖しげなオーラが放たれた時、シーナは、突然よろめき、
まるで魂が抜けたかのように、さまよい始めた・・・。
「・・・な、中には、・・・入らせな・・・い・・・。」
それらの声を無視し、王は、中へと侵入した・・・。
「く・・・、まさ、か・・、王が―――」
「その者を神殿に入れては、いけない!!」
背後から、わずかな意識の中で女性の声を聞いた。
その青年はゆっくりと、その声の主の方へと向いた。
それは、マントをまとった若い女性だった。
右手には、不思議な光を放つライトロッドを持っていた・・・。
どことなく、人間のもつそれとは、何か違う雰囲気を感じられた・・・。
不思議な女性だった・・・。
「ちっ、もう入りやがったのか・・・。」
その背後から長剣を手にした剣士がかけよってきた・・・。
「行きましょう。私達の成すべきことはそれだけなのですから・・・。」
神官の格好をした者が現れた・・・。
「奴を止めよう。・・まだ、今なら、間に合う。」
妙に大人びた少年が走ってきた・・・。
「別に、希望を捨てろなんて言わんよ、・・けど、覚悟を決める時は、決めんだよ。」
最後に魔導師が現れた・・・。
「・・・お、お前・・達は、何者・・・?」
その青年は、息も絶え絶えに、その5人に話しかけた・・・。
「なんてひどいことを・・・。」
その女性は、青年にキュアをかける。
「・・・こ、これは・・。」
「静かにしなさい・・・。」
その暖かい青い光が、少しずつ癒していく・・・。
「とにかく、助かった・・・。そうだ、・・・皆も、見てくれないか?!
・・・治してやれるんだろ!?」
その女性は、少し静かな声で答えた・・・。
「ここから離れるのです・・・。ここは、私達に任せて・・・。」
「み、皆は・・・。」
「行きなさい・・・、ここは、私達が、必ず・・・。」
「時間がねぇ、行くぞ。おい、お前・・・。」
剣士が、青年に話す・・・。
「救われた命、大事にするんだな、・・・まだ、残ってる他の連中を、お前なら
救ってやれる・・・。俺達だけじゃ、手が回らない。さぁ、行くんだ・・・。」
「―――なにが起ころうとしている?いったい、お前達は、何者・・・?」
「行きましょう・・・。」
「ま、待て・・・、答えろ、答えないか?!!」
5人は神殿へと急ぎ足で入った・・・。
何かが起こる予兆か、空は雷雲に包まれ、時折激しい雷鳴が轟く・・・。
「皆・・・、僕は、どうすれば・・・。」
かすかな声で、青年に1人の男が答えた・・・。
「・・・シー、・・・ナ―――。」
青年はその時、気付いた。自分を守ろうと動いた、その少女の姿がなかったことを。
決して、口にすることはなかったが、皆は、分かっていた―――。
シーナに巣くう心の闇がどれほどのものか。それに償おうとしたリズノを
分かろうとする気持ちと、それでも許せないとする気持ちで錯綜していながらも、
必死に今日まで生きてきた・・・、これからも共に生きていく仲間だという意識を。
やがて、青年は探しに歩き始めた・・・。
―――仲間の変わり果てた姿を後にして・・・。
何が起こったのか―――、一際大きな地震の直後、強烈な頭痛にうずくまり、
何もわからなくなっていた・・・、そして、いかなる闇よりも暗い空間に
落ちていくような感覚の中で、青年は、・・・それが、死というものだと感じていた。
どれほどの時間が流れたのだろう・・・、時間の感覚を失っていた青年には、
それはひどく長い時間に感じた。突然の轟音に、急激に意識を取り戻した・・・。
青年のわずかに残る視力で見た世界は、それまでと、余りにも変わり過ぎていた。
ただ、呆然とその変貌に驚くしか出来なかった・・・。
色―――、そんな感覚があったことを忘れるかのようだった。
全てを燃え尽くす暗黒の炎・・・、既に灰となりつくしたもの―――、
多くの動物、植物、建物・・・、ありとあらゆるものが、黒く染まり尽くしていた。
そんな中で、青年は、たった1つ、ぼんやりとした視覚で、色を持つ者を見つけた。
「・・・シーナ―――。」
返事はなかった・・・。青年は我を忘れ、必死にシーナの体を揺さぶった・・・。
「起きろ、起きるんだ!!何をしているんだ!!!」
「・・・。」
「お願いだ、起きてくれ!!!もう、僕は、・・・これ以上!!!」
「―――だれ・・・?」
かすかだったが、それは間違いなく記憶の中にある少女の声だった。
「・・・リズノ・・だ。・・・わかるか?」
「リズノ・・。・・・だれなの?・・・あなたは?」
「な・・何言ってるんだ?・・・シーナ?!」
「わたしは・・・シーナ・・・。・・・あなたのおなまえは?」
「・・・どうなっている?」
青年は、突然あふれ出てくるような、力の気配に気付いた。
それは、王国の宮殿の方角からだった。
「―――行こう、シーナ・・・、宮殿に・・・。」
「・・・リズノ、・・・リズノなのか?!」
青年は、背後からそう呼びかけられた・・・。
「―――クダール・・・さん?!」
それは、青年にとって、久しぶりの、そして思いもかけなかった再会だった。
「・・・まさか、こんな形で、お前に、また会う事になるとはな・・・。」
クダールは、シーナの姿に気付いた・・・。
「―――その娘も、無事みたいだな・・・。」
「・・・。」
リズノは、複雑な気持ちでクダールの声を聞いた。もともと、リズノは、
クダールの下で働いていた。だが、あの日―――そう、忘れることもできない、
罪無き『炎の民』を虐殺することとなったあの日・・・。
「・・・僕は、・・・これでよかったと、・・・今でも思っている。」
クダールは、炎の民の多くが命を落とし、それが、盗賊達の策略で
何も罪のない者を殺めたことを、そして残された幼いシーナの事を知るなり、
『残酷な現実を知らせても、それは、何も生まない―――憎しみ以外には・・・、』
と言い、決して誰にも真実を話させぬよう命じていた・・・。
「・・・俺は、お前が、目を潰したと聞いた時、―――確かに、愚かな者だと、
そう感じて、お前を、・・・俺の隊から外した・・・。」
「・・・。」
「・・・お前には隠していたんだが、あれから、俺もその娘の様子は、
陰ながら見てきた。お前が、その娘とともに生きていく姿をな・・・。
―――なあ、お前1人だけで抱えこむ必要、あるのか?
お前だけが、・・・1人で、どうして自分を苦しめる?」
「・・・愚かだったとは、一度も思っていない・・・。」
沈黙を、いくつかの足音がかきけした・・・。
「リ、リズノ?」
「大丈夫だったんだな?お前!!」
リズノの近くには、かつて一緒だった者達が集まってきた・・・。
その誰もが、息も絶え絶えの半死の状態だった・・・。
「―――クダールさん、今は、もう、昔じゃない・・・。
僕の仲間の多くも、・・・命を奪われた。黙っていることは、出来ない・・・。」
「俺等も、・・・ここに来るまでに、だいぶ、炎にやられた奴を失った・・・。」
「リズノは、神殿で何が起こったのか、分からないのか?
何か、見たんじゃないのか?」
「・・・何が、起こったのかは、・・・分からないんだ。
だが、―――今、行くべき場所は、・・・宮殿だと、僕は思う・・・。」
「宮殿・・・。」
想像はしていたが、余りにもそれは無惨な姿をさらしていた・・・。
シーナは、ひどく周りの様子におびえていた・・・。
「ひどいな・・・、なんだよ、これ・・・。」
「ここは、・・どこなの?」
「ここは宮殿・・・、リズノ?連れて来たことはないのか?」
「わからないんだ・・・、僕のことも忘れてしまっていた・・・。」
その場にいた一同は、皆、静寂を切り裂いた、その音のした方向を見た。
「奥に誰かいるな?!」
「どうする?・・・行くか?」
クダールはリズノにそう聞いた・・・。
「行こう・・・。」
壊滅した宮殿内を走った。あの音から後は、リズノ達の足音だけが響いていた。
中央広間を抜け、そのまま玉座の方向へと向かう・・・。
「王の様子が妙だった。もしかすると、この宮殿に原因があるのかもしれない・・・。」
「王の姿を見たのか?!」
「神殿に向かわれていた・・・、だが、まるで、
何かに取り憑かれているかのようだった・・・。」
「その後は・・・?」
「・・・見てはいない。」
玉座の間へと入った一同は、その部屋へ入るなり走る速度をゆるめた・・・。
そして、リズノは、その先頭で、その部屋にいた者達に話しかけた・・・。
「・・・お前ら、・・・何をしているんだ?」
その場にいた4人はこちらを振り返った・・・。
「生きている者がいる・・・のか?」
「説明しろ。いったい、何をしたんだ?!」
「リズノ?こいつらを知ってるのか?」
「―――お前は、神殿の前にいた者だな・・・。」
「そうだ・・・。」
「・・・ルシアの奴の施しを受けたんだったな、お前。」
「ルシア・・・?」
リズノは、あの不思議な雰囲気を漂わせていた女性を思い浮かべた。
その女性は、この4人の中にはいなかった・・・。
「あなた方は皆聞いたと思います。生きなくてはならない・・・という声を。」
「お前らは、―――本来、今、この世に生きちゃあねぇ存在なんだよ・・・。」
一瞬、何のことを言おうとしているのか、リズノ達には理解できなかった。
「あの時、この大陸にあるものは全て滅びた・・・。」
「滅びた・・・?」
「だ、だれが、・・・しやがったんだ・・?!」
リズノ達は口々に真実を求めた。だが、その声が止んでしばらくたっても、
その4人は口を閉じたままだった。
「答えないのか?・・・これは、―――お前達の仕業だとでも言うつもりなのか?」
その時、4人の1人の剣士が静かに言い放った・・・。
「それで納得出来るんなら、・・・俺達に話すことなんかねぇ・・・。」
クダール達は、いっせいに剣を抜く。
「もういちど聞くようだが、・・・認めるんだな?」
「その様子じゃ、納得してねぇか。」
剣士が一歩前に出る。
「―――納得するまで、俺が相手してやらぁ。
気がすむまで、俺にかかってきやがれ!!」
あわてて、それをそばの2人が止める。
「止めるんじゃねぇ。納得するにゃ、それしかねぇだろう!!」
「国を、国民を滅ぼされたと聞いて、黙っていられるとでも思ってるのか?」
リズノはさらに一歩前に出て、語勢を上げて問いかけた。
「生きなければならない?!お前達は、僕達を救った気にでもなっているのか?
どれだけ言葉を並べようと、お前達がした事は、大悪党のする事と、
なんら変わりもないじゃないか?!」
「生かされた事を、恨むというなら、恨み続けなさい。
あなた方は生きなければならない。たとえ、恨みを糧としてでも・・・。」
「幸い、その恨みをわし達がかってやれるようじゃしのぉ・・・。」
4人の言葉が、クダール達の苛立ちと憤りを頂点にまで上げていった。
「とんだ悪党どももいたもんだなぁ、・・・腐り切った外道め!!」
「外道・・・、今の私達には、そんな呼び名がふさわしいのだろうな。」
リズノを含め、クダール達は、覚悟を決めた。どんな理由があろうと、
今目の前にいる者達は倒すべきだと。
「―――悲劇の少女の末路は、哀しみのみが待ち受ける運命・・。」
リズノ達は、その声を聞いて足を止めた・・・。
それは、今まで黙り続けていたシーナの声だった。
「・・・人々に、恐れ続けられ、やがて、哀しみの中で、何も出来ぬまま、
導かれし者達の前で、その運命を受け入れるのみ・・。」
「・・・シーナ?」
「いきなり・・・、な、何を?」
「―――運命に導かれた者達に、・・悲劇の少女は、護られなくてはならない。
・・その時が来るまで・・。それが、導かれし者達に課せられた使命・・・。」
「―――こんな、幼い娘に・・・。」
「セリューク様・・?」
セリュークと呼ばれたその魔導師が、落ち着いた声で話した。
「・・・鍵を託す、それだけの器を・・持っておるのかものぅ・・。」
「シーナ?どうしたんだ、本当に?」
リズノが未だ虚ろな表情を浮かべるシーナにそう呼びかけたとき、にわかに、
4人の顔に緊張が走った。それは、クダール達も感じていた・・・。
「いくらかがこっちにも来やがるか・・・、まぁ、当然だろうな。」
「セリューク?!」
「わしらも行かねばならぬようじゃのぉ・・・。」
「リズノ、このただならねぇ気配、・・・相当ヤバい連中だ。」
「ああ、だが、どうすればいい?!」
セリュークと呼ばれた魔導師が、リズノ達に近づく。
「少々、手荒なことをしなければならんようじゃな・・・。」
「・・・ど、どうする気だ?」
身構えるリズノ達をよそに、シーナはまるで誰かに乗り移られたかのようだった。
「哀しき使命に―――、その生命を賭した、数多の者達の遺志を継ぎ、
混沌とした世を滅する力を、その御手に携えし、杖に・・・」
「・・・この世を滅する力―――、杖・・・?」
リズノは、その時、ふとあることを思いついた。
「あの女、―――神殿で、僕の傷を癒した、・・・あの、女が・・、悲劇の少女・・。」
「セリューク様、・・・よろしいのですね?」
「迷っておる暇などないんじゃ。待っておれ、今―――」
魔導師が杖で複雑な魔法陣を描く。描き終わると同時に、とてつもない魔力が
空中に描かれた魔法陣より発せられた。
剣士がリズノ達に近づいてきた。そして、焦ったようにこう告げた。
「忘れちゃならねぇことが、1つだけある。生かされた命、無駄に散らすんじゃねぇ。」
「先に、言わねばならんな。この術によって、お前さん方の記憶は消えるじゃろう。」
「記憶が・・消える?」
「お前さん方にとっては、代償・・となるじゃろう・・。」
「な、何をする気だ?!やめろ!!」
「いつしか、時が満ちた時、―――導かれる。悲劇という名の運命に・・・。」
やがて、リズノ達を強い力を放ち続ける光が囲い込む!!
「―――ゆくぞっ!!」
一際強い光が溢れた・・・。それはリズノ達の中心にいた、
シーナの体から溢れているかのようだった。その光に包まれた誰もが、
その光を強くその目に焼きつけた・・・。
「・・・セリューク、これは・・・?」
しかし、それはやがて、その中にいた、たった2人―――
シーナと、リズノの周りでだけ、その様子を変えた・・・、
あふれ出す全ての魔力よりも強い、その力によって・・・。
「セリューク様・・。力が、拒絶・・・されて―――」
「しくじった・・じゃと?!・・・い、いいや、まさか―――。
ならば、・・仕方があるまい、・・・・続ける!!」
やがて、4人の目の前にいた、全ての人間の姿は、虚空へと消えた。
そして、その4人もまた、その場所から姿を消した―――。
(88日目早朝)
「・・・どうしてか、わからない・・・。でも、・・・
私、―――暗闇の中で、みんな、見てきたわ・・・。
どういう風にリズノ達と会って、どんな風にここで生きてきたのか・・・。
それに、記憶が消える直前に、この大陸で、・・・起こった事。
・・・あの時から、リズノ以外のみんなが、記憶をなくしたことも。」
私は、リズノの顔を見たまま、力なく座った・・・。
「過去なんて、どうでもよかった。知ったってどうなるのって、
ずっとそう思ってた・・・。こんな急に、・・・こんなたくさんのことを見ても、
・・・私、・・・何も、何も分からない。―――分からないよ・・・。」
(88日目早朝)
そんな私を、リズノはただじっと黙って見続けていたわ・・・。
「・・・でも、どうして、・・・リズノは、記憶が消えなかったの?
あんな、―――あんな記憶を、・・・今までずっと、抱え続けてたの?」
「・・・どうしてか、それは、僕には分からない。
けど―――、僕も1つ、聞いていいか・・・?」
リズノは、もう見えない目で、私を見つめたわ、・・・とても穏やかな表情だった。
「僕がした事をシーナは見た・・・。」
私は、それからリズノが言おうとすることが何か、すぐに気付いた・・・。
「シーナは、今、・・・僕のことを、恨んでいるのか・・・?」
その声を聞いた瞬間、辺りの風の音が、暗闇の中で聞いた、昔の私の絶叫に変わった。
そして、気付かないうちに、私は、リズノの目を見ていた・・・。
「・・・そんなわけ、ない。リズノ、・・・あんたは、私に・・・、
いろんなものをくれた、そのお陰で、今の私がいる―――。
もう、今さら、・・・恨めるわけなんて、・・・ないじゃないのよ。」
「・・・そうか。」
リズノは、ゆっくりと空を見上げた・・・。
「それなら、僕が忘れなかった理由がはっきりとわかる・・・。
―――忘れたくなかった、忘れるわけにはいかない・・・。
きっと、そう強く思ったから・・・。」
「みんな忘れてたのよ、私も・・・。それなら、そう思わなくても、
・・・リズノが、忘れてしまってても、よかったじゃない。
あんな記憶、・・・覚えていても、仕方がないじゃない―――。
苦しみ続けるだけ・・・。私は、・・・きっと耐えられない・・・。」
リズノは、いつも通りにしようとしていたわ。でも、はっきりと分かった。
初めて、自分以外に、過去を覚えている人間を目の前にして、
その重圧が、少しでも軽くなっていくことに、今まで持ち続けていた、
いろんな想いが少しずつ、あふれ出していくのを・・・。
「僕の生きる道は、・・・シーナと会ってから大きく変わった・・・。
―――それが、本当に僕が歩むべき道だと強く感じたのは、
・・・やっぱり、あの出来事からだ・・・。あの日、この地が死んだ日から・・・。」
私は、もう1つ、リズノに確かめることがあった・・・。
「リズノ・・・。」
リズノは、黙って私の方を向いたわ。
「―――私は、・・・本当に、炎の民なの?」
「間違いない・・・、シーナは、最後の炎の民・・・。
この世に生き残る、最後の1人・・・。」
「火山で言われたわ。私に、炎の民としての力は、ないって・・・。」
「それでも、シーナはこの集落の者達の血をひく者・・・。
それを、今日まで、決して忘れることなく、記憶し続けてきたんだ・・・。」
私の肩にいた炎の鳥がそっと大きく、その翼をひろげたわ・・・。
「やっと今、シーナは自分のことをはじめて見つめる事が出来たんだ・・。
これでやっと、・・・もっと多くのことを、見る事ができる・・・。
シーナ自身の、その瞳で・・・。
そうして初めて、自分が、どんな姿なのか、気付く時が来るんだろう・・・。」
「・・・そうね。―――今の私は、・・・やっと、自分のことが、
ほんの少し分かったばっかりだっていうのに。まだ、資格なんてないのよね。
まだ、私は、何かとても大事なものを、・・・見つけてないのよ。」
「・・・でも、その答えを、僕も・・・、それに、シーナも・・・、
知っているのかもしれない・・・。」
リズノの次の言葉で、私は、本当にリズノがあの時のことを、
今でも覚えているんだって思い知らされた・・・。
「不思議な女性だった・・・。シーナの口から、
―――悲劇の少女という者の話を聞いた時、僕の命を救ったその女性に、
選ばれて生かされたのだと、そう思うようになった・・・。
だから、10年たった今でも、はっきりとその女性の雰囲気を覚えていた。
姿が見れなくとも、同じ雰囲気を持つ人だと気付けた・・・。」
「―――導かれたのは、・・・リズノだけじゃないわ。きっと、私も・・・。」
私は、リズノの方に一歩近づいた。
「暗闇の中でみた私は、悲劇の少女って口にしてた・・・。
その言葉でリズノが導かれたって言うのなら、―――私は、その導かれた先を、
これから、自分の目で見たい・・・。」
その後、本当に言いたかったことを、私は続けた・・・。
「―――ねぇ、リズノ?」
「どうした・・・?」
その声を聞いて、私が、何を聞こうとしたのか、リズノには分かっていたと思った。
「一緒に、行かない?・・・私、もう、・・・リズノと―――」
「出来ない・・・。」
覚悟はしてたけど、それでも引き下がれなかった。
「どうして?!もう、1人で抱えなくてもいいのよ?
私も、やっと、・・・やっと、リズノの抱えてる苦しみを
軽く出来るようになったの。10年も待たせちゃったけど、
もう、私、・・・リズノを1人になんて出来ない、・・・したくない。」
リズノは、ゆっくりと私に背を向けて、ゆっくりと歩き始めた・・・。
「僕が導かれた道は、シーナ、君を導くために生きること―――。
僕は、もう、これから先、シーナを導くことなど出来ない・・・。
今のシーナを見れば、これまでの歩んできた道が、
決して間違った道じゃなかったって、信じられるから・・・。」
「どうして?どうして、そんなことを言うのよ?!」
リズノは少し歩いて、たちどまった・・・。
「長かった・・・。」
その言葉に含まれているリズノの気持ちがどんなものかを考えると、
私は、それ以上、言えなくなっていた。
「10年・・・、僕にとっては、長すぎた・・・。
もう僕は、見ることができない―――、シーナが、代わりに見てきてくれ・・・。
僕には、信じられる。それが、どんなに重く辛い苦痛を伴うとも、
・・・その導かれた先に、僕が、・・・シーナが望んだものがあるって。
僕には助けられない・・・。僕の苦しみは、僕が背負う―――。
シーナが背負うもの―――、それを共に背負ってくれる者。
お前には・・・、仲間がいるんだ・・・。」
リズノは、そう言ってまた歩き始めた。もう、私には、そんなリズノを、
留めることなんてできなかった・・・。
姿が遠くまで行って、見えなくなった頃、私の目の前に、
燃え盛る炎の羽をもつその鳥がゆっくりと舞い降りてきたわ・・・。
「・・・あんた・・、・・・私と、・・・これからも行くの?」
静かな、そしてとても力強い目で、私を見ていたわ・・・。
朝日が辺りを赤く染め上げていく・・・。
「―――よろしくね。・・・これからも・・・。」
(90日目朝)
「アーシェルさん!危ない!!」
マーシャの声が響いてくる。これで4度目だった。
「わ、わかってる・・・、くっ―――。」
ようやく、シオンの放つアローを辛うじてかわせるようになった。
危なげな状況が続いたが、まだ、一度もダメージを受けてはいない。
「どうする?次の一発が、勝負になる・・・。」
大技ではどうしても仕留められない、これまでに何度も試してきた。
シオンは、そのわずかな考えを練る時間すらも与えまいとするかのように、
連続して攻撃をしかけてくる!
「どうしたの?かかって来る気がないの?!」
時間がたてばたつほど、押されていく・・・。
今まで、何度も同じように負けてきた・・・。
「待ち続けてても、勝てないなら、・・・こっちから攻める!!」
俺は、シオンに狙いを定める。だが、俺の視界にシオンの姿が
入った時には、もう、シオンの攻撃が始まっていた。
「ほらほら、どうしたの?攻撃ってのは、これくらい勢い良くやるものよ。」
俺が何度やっても通用しなかった大技を、軽々と連続して俺に仕掛けてきた。
どんどん距離が縮まり、追い詰められる・・・。
そして、その連続攻撃の最後、俺は全身の毛が逆立つほどの、
シオンからの強烈な魔力を感じ取った瞬間、何もしなければ、やられると確信していた。
「ここまでね!!」
「―――最後の、一撃だ!!!」
「アーシェルさん!!」
あまりのまぶしさで、私は目をつむってしまいました。
ゆっくりと、目を開けて、アーシェルさんとシオンさんの方を見ました。
「・・・勝った、・・・のか?」
アーシェルさんは、しゃがんだシオンさんの前に立っていました。
それから、シオンさんがアーシェルさんに何かお話をされたあと、
アーシェルさんは外へと歩いていきました。
「アーシェルさん!!ずっと見てました!!」
「・・・マーシャ・・。」
「どこにもケガはありませんか?」
「あんたは、・・・本当に、その娘と一緒じゃないと、いけないみたいね・・・。」
シオンさんが私達の方にこられました。
「そんなことありません!!」
「ふふ、冗談よ。・・・半月になるかしらね。」
「思ってたより、長かった・・・。」
「でも、あんたの力は確実に強くなってるわ。
・・・まだ、私は負けないけど、・・・いずれあんたも私と同じ力になるわ・・。」
「―――手加減した・・・、そう言いたいのか?」
「あら?大きなこと言えるようになったのね。師匠が本気で弟子を相手するとでも?」
「・・・。」
「結局、あんたが最後に選んだのは、私が教えたどの技でもなかったわね。」
「どの技も通用しなかった・・・、他が選べなかっただけ・・・。」
「・・・ちょっと、こっちにきてくれる?」
シオンは、俺達を部屋へと呼んだ。
「あんたには、これをあげるわ。」
シオンから手渡されたのは、よく磨かれたアーチェリーだった。
「・・・これは?」
「あんたとは、一番相性のいいものよ。私が教えたどの技にも耐えられるはず。」
「これを、俺に・・?」
「―――もし、スフィーガル大陸に行くのなら、ゾークス様を訪ねるといいわ。
あんたは、ラストルの四使徒として、それなりに素質がある。
私は、自由にはここを離れられないけど、あんたは旅する事ができる・・・。
あんたなら、その娘を護ることだって出来るわ・・・。」
「―――ゾークス・・様?」
「知らないの?」
「い、いや、知っていることは、知っているが・・。」
「ゾークス様、・・・ラストルの四使徒の1人よ。」
「そうなのか?!」
「ゾークス様なら、あんたのことを見極められるはず・・・。」
その時、部屋の扉がノックされた・・・。
シオンは、少し俺達の方を向いて笑いかけたあと、扉の外に待つ者のところへ向かう。
私は、なんとなく、シオンさんの方を向いてみました。
外にいる人の表情は、何か大変な事がおこったような顔をしていました。
廊下からは、いろいろな人の足音や呼び声が聞こえてきました。
「それは、本当なの?」
アーシェルさんもその様子に気付いて、シオンさんの方に歩きました。
「何かあったのか?」
「それで、街の様子は?・・・王宮は、今どうなっているの?」
アーシェルさんが声をかけると同時に、シオンさんは、廊下へと出ました。
「アーシェルさん・・、一体、何が・・・?」
「王宮・・・、ディメナ王国か?」
「シオンさんを追いかけませんか?」
「ああ、そうだな。」
私達は、シオンさん達が向かった先へと向かいました。
そして、曲がり角を3度曲がった時、そこでシオンさんに会いました。
「とにかく、王宮に一度行ってみるわ。黙ってられない・・・。」
「ディメナ王国で、何があったんだ?! シオン!!」
「あ、あんたたち・・・、これから、私はディメナに行くわ。
どうするの?もしかして、あんたたちも行くと言うの?」
「はい。」
「ああ、そのつもりだ・・。」
「いいわ。それならついて来て。すぐに行くわよ。ディメナに!!」
シオンさんがトンネルの方へと駆け出されました。
私達もあわててその後を追いかけました。
「アーシェルさん・・、あれ・・・。」
私は、走りながら、ふもとの街から煙があがっているのを見ました。
「ディメナの街がある方だな・・・。」
「急ぎましょう・・・。」
トンネルを抜けて、私達は、ふもとの集落へと出ました。
一度来た時と、集落の風景は変わり果てていました。
「・・・ひどいわね。」
「これは、誰の仕業・・・。」
「―――ザヌレコフ盗賊団よ・・・。」
2005/10/06 edited(2005/01/09 written) by yukki-ts To Be Continued. next to
No.27