[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第4幕― 第25章

 (80日目早朝)
 まだ、太陽も顔をわずかに見せようかとしている頃。
街の通りには、人は誰1人として姿を見せなかった。
家という家が、その扉を固く閉じていた。

 やがて、その刻限は訪れた・・・。
 街の南部、関所の周辺から、それは始まった。
大爆破―――、その音、振動、舞い上がる瓦礫の粉塵を合図に、
一斉に、その周辺に控えた者達の手により、
次々と壁は人々の怒号とともに、爆破されていった・・・。
 そして、私達は、その瓦礫の粉塵の中、城まで突き進んで行く・・・。



 俺とセニフは、グロートセリヌ城に入り、列車の方に向かった。
「見えたぜ!!あいつに乗っちまうぞ!!」
「ディッシェム・・・、おい、お前?!ディッシェムか!!」
 列車の周りにいる連中・・・。アトルや他の街の連中だった!!
「さ、早く列車に乗れ!!・・・この様子じゃ、
 テメェら・・・、鉱山に行く気だろ?!」

「ああ、・・・お前は、協力してくれるんだな?」
「ここに残ってる奴の役割・・・重要だっただろ?」
「そうだな・・。」
「くだらねぇことは後にしやがれ!!行くぜ!!」
「おうよ・・・、ん?!」
 そいつらとは別の奴等が物音に気付いてやってきやがった・・・。
「こ、こいつらは・・?」
「街の連中・・・、洗脳・・・されちまってるがよ。
 ―――ディッシェム、テメェは、先に列車に乗れ・・・。」

「な、何だと?!ここは、どうするんだ?!」
「俺達に任せやがれ。いいな!!」
「あ、ああ・・・。」
 俺は、列車に飛び乗った!!
一気に、ドアをぶち破って、列車ん中を駆け抜けた!!
「ここは・・・任せる。」
「さぁ、テメェら。ここで、止めてやるからよ。かかってくる奴は来やがれ!!」
 セニフの野郎も、俺の後からついて来やがった・・。



 列車の中央付近まで来た時、突然、列車が揺れ、やがて動き出した。
「何・・・、なぜ、出発し始める?!」
 私は、列車の先頭―――機関室まで急いだ。
「おう、・・・セニフ、来やがったみてぇだな。」
「今、・・何をしている?」
「見りゃわかるだろ?鉱山に向かってんじゃねぇかよ。バカじゃねぇのか?」
「・・・無茶な―――。運転の仕方は分かるのか?」
「何か問題あんのか?・・・動いてるじゃねぇかよ!!」
「―――ますます、加速している・・・。」
「いいことじゃねぇかよ。さ、どんどん、飛ばすぜっ!!」



「ご、ご報告・・・致します・・・、か、壁が、既に、8割―――」
「クッ、・・・何ノツモリダ・・・。」
「城からの報告を・・・、現在、列車が何者かに乗っ取られ、
 鉱山に向かっているとのこと―――。」

「ナンダト・・・?」
「もう、数分もたたず、到着する模様かと・・・。」
「―――ヨク聞ケ・・・、ソノ者達ハ皆、反逆者・・・。
 到着次第、射殺―――、必要ナラバ、列車ゴト破壊セヨ・・・。」

「はっ・・、皆、出迎えるぞ!!」
 立ち上がっていた、その男は、やがて、落ち着きを取り戻し、席につく・・・。
「・・・ディッシュ、―――君なんだろ・・・。
 早く、・・ボクのところまで、・・・来ておくれよ・・・。
 ―――ボクが、君を、・・・殺してあげるから・・・。」

 手に持つソードは、怪しげな光を放っていた・・・。



「・・・そろそろ、鉱山に着く。・・・もう、スピードを落とした方がいいだろう。」
 俺は、セニフの言う通り、鉱山がすぐ近くにあることを確認した。
「おう、・・・ブレーキ、ブレーキっと・・・、―――。」
「どうしたんだ?もう、すぐそこなんだ。このスピードで突入する気か?」
「ブレーキ・・・、どれだ?」
「わからないのか?」
「こ、これじゃねぇし、こいつも・・・違う・・・。」
「・・・止めなければ、そのまま激突する!!」
 ますます、鉱山の駅が近づいてきやがった・・・。
「ど、どうすんだ?!さっきから、余計にスピードばっか上がって、
 止まりゃあしねぇっ!!!ブレーキを、いったい、どれなんだよ?!」

「―――ダメだ。もう、仮にブレーキをかけたところで、衝突は避けられない。
 なぜ、君は、運転の仕方も分からず、動かしたんだ?」

「仕方がねぇだろうが!!」
 俺は、もう、これ以上、列車をどうにかしちまうことなんて諦めちまった。
「こんな時こそよ、・・・セニフ、落ち着け。」
「・・・解決策でもあるというのか?」



 私達を乗せた暴走列車が、着くであろう鉱山では、
私達の到着と同時に、一斉攻撃をかける体制を整えていた。
「いいか、第1隊は到着と同時に、列車に乗り込み、封鎖!!
 ・・・中にいるもの、すべてを消せ!!
 ―――万が一、作戦失敗なら、第2隊は列車ごと爆破・・・」

「待ちやがれ・・、どういうことだ?!」
「き、聞いてないぞ!!それじゃ、第1隊まで、
 爆破に巻き込まれるじゃないか?!」

「いまさら、何を言う?・・・いやならば、敵をその場で消せばいい。」
「・・・な、なんだと・・・?」
「列車が見えた!!・・・もうじき、・・・到着するぞ!!」
「さぁ、位置につけ・・・。」



「・・・列車から落ちて消息不明ってバカの話、・・・聞いたろ?」
「君は、・・この列車―――、この暴走する列車から飛び降りて、
 無事にすむと、思っているのか?」

 俺は、横にあったドアを蹴破った。ものすげぇ風が吹き込んできやがった。
「・・・そんなバカの仲間は、・・・やっぱ、バカだったって事だぜ。」
「―――仕方がない。・・・バカの言うことを聞いてしまった、
 この私も、やはり、馬鹿なのだろう・・・。」

「セニフ!!・・・行くぜ!!・・・無事で帰れたら、感謝しろよ。」
 俺と、セニフは、入り口で風に耐えながら、その瞬間を待った・・・。






 (80日目昼)
「・・・おい、あの、列車・・・、なんか、妙じゃないか・・・?」
「と、とまらない。・・・ま、まさか!!突っ込んでくる気か!?」
「う、ウソだろ!!おいッ!!爆薬はどうすんだ!?
 このままじゃ、・・・マジで、列車ごと吹き飛んじまうぞ!!」

 最悪の事態を目の前にして、あわてふためくが、もはや、どうしようもなかった。
 そして、列車が鉱山に到着すると同時に、私とディッシェムは、
その暴走列車から飛び降りた。背後の列車が、突如、爆破される。
巻き起こる爆風に、私達は、突き飛ばされた・・・。
 炎上する列車のそばで、私は、正気を取り戻した。
「―――ケホ・・、ケホ・・。・・・な、なんだよ。
 ・・・・列車って、こんな爆発すんのかよ?」

 辺りには、火薬の臭いが充満していた。
「君も気が付いたようだな。・・・ここにいても仕方がない。先へ行こう・・・。」



 静かな坑道を走って行った・・・。
「・・・誰もいねぇな・・・。」
 中はそんなに複雑な作りじゃなかった。それなりに、広い鉱山だったけど、
その割には中に、人がいやしなかった。
「エレベーターだ・・・。」
「こいつを使って、下に降りるのかよ・・・。」
 エレベーターに入って、とにかく、一番奥まで下りていった。
かなり深かった・・・。いつまで乗っていても、一番下に着きやしなかった。
「このエレベーター・・・、どこまで行きやがるんだ?」
 だが、エレベーターもついに、止まりやがった。
「とんでもねぇ、地下まで降りちまったな・・。」
「ここが、本拠・・・。」
 今までの坑道とはなんか雰囲気が変わっちまってた。壁とか明かりも、
他の坑道の奴と比べて、いいもんが使ってあった・・・。
「階段・・・。」
「この階段を下りたところに・・・。」



 私は、ディッシェムの様子をそれとなく伺った。
恐らくは、この階段の先に、すべての元凶がいるのだろう。
もちろん、いかなる理由があろうとも、その者の行いを、
許しておくわけにはいかない・・・、だが・・・。
「さっさと、行こうぜ。」
 ディッシェムは、そう言い、自ら、階段を下り始めた。
私は、それを追いかける・・・。
 奥に進み、扉を開いた先・・・、私達は、その男を目にした。
その男がもつ、不気味な光沢を放つソードとともに・・・。
「・・・ヨウコソ、ディッシュ。マタ会エテ、ヨカッタ。」
「ドミー・・・。てめぇ・・・。」
 禍々しい光沢のショートソードを、ディッシェムに向けた。
「―――コノ輝キ・・・。綺麗ダロウ・・・。
 ケド、綺麗ナダケジャナイ。・・・トテツモナイ力ヲ秘メテイル。」

「ドミー。・・・もう、やめようぜ。・・・こんな真似。」
「何故、・・・ディッシュハ、ソンナ事バカリ言ウンダヨ・・・?
 ・・・君ニハ、分カラナイノカ・・?コノ、ショートソードノ持ツ力・・・。」

「その力を濫用することは、許されない。そして、お前達が、
 何も考えも持たぬままに、使えるものでもない!!」

 それまでの無表情だった時から、私の顔を見た瞬間、その表情を、
見るからにおぞましい物へと変えていった・・・。
「ボク達ノ会話ダ・・・。邪魔者ハ、入ッテ来ルンジャナイ。」



 ドミーがショートソードを振り上げる。そのソードの先から、
突然、デケェ獅子のバケモンが4体出てきて、セニフに襲い掛かりやがった!!
 その突然の攻撃をかわせず、セニフは押しつぶされちまった!!
「セニフッ!!」
「ドウシタ、ディッシュ・・・。何ヲ、カバオウとシテルンダ?」
「や、やめやがれ・・・。こ、こいつ、このままじゃ、・・・やられちまう!!」
 ドミーは、俺の言葉の通り、そいつらを、自分の周りに寄せ付け始めやがった。
セニフの野郎は、その場で倒れこんでやがった・・・。
「見タダロウ?コレガ、闇ノ力・・・。コノ山カラ採レル鉱石ハ、
 闇ノ力ヲ操ル事ガ出来ル・・・。」

「な、何の事だよ・・・、これが、・・・闇の力?」
「ち・・・違う。そんな、使い方・・・、しては、なら・・・ない。」
 セニフの野郎は、立ち上がりやがった・・・。
「テ、テメェは起きるんじゃねぇ。・・・俺にまかせてろ・・。」
「・・・こればかりは、・・・ひけない。―――おまえ一人の問題ではない・・・。」
「協力なんかするなって言ったのは、テメェじゃねぇか!!
 ・・・自分が言った言葉くらい、覚えておけよ!!
 とにかく、今は、動くんじゃねぇ!!」

「友情ゴッコハ、モウ終ワリ。・・・君モ、君モ、・・・モウ死ヌンダカラ。」



 私は、ディッシェムの前へと出る。
「協力?冗談を言うな・・・、私が、やる・・・。」
「うるせぇ、こいつは、・・・俺が倒さなきゃなんねぇんだ!!」
 ディッシェムは、スピアをその男に向けた。すぐさま、
周りのスフィンクヘッド2体が、それをつかみかかった・・・。
「ドミー・・・、もう、テメェは、誰のもんでもねぇだろ?
 ガーディアも、・・・バルシドの野郎も、もう、いねぇんだ!!
 ―――もう、誰も、お前を操ってなんかいねぇんだ。目を覚ませよ!!」

「目ヲ覚マス・・・、ソレハ、ディッシュノ方ダヨ。
 ・・・君ハイツマデモ、目ヲ覚マソウトシナイ。君ガソウスルツモリナラ、
 ボクハ、コノ手デ、君ヲ永遠ニ、目覚メヌヨウニシテアゲル・・・。
 モウ、君ヲ、見タクナイカラ・・・。」

 ディッシェムのスピアを持つスフィンクヘッドの体に電気が宿る。
その瞬間、スピアを伝わり、高電圧がディッシェムの体にかかる!!
 ディッシェムは、声にならぬ悲鳴を上げる!!
「グラヴァティ・・・。」
 私は、ディッシェムもろとも、スフィンクヘッドたちを押しつぶした。
スフィンクヘッドはすぐさま、ドミアトセアの元へと戻り、
その場に、ディッシェムは、力なく倒れ伏していた・・・。
「邪魔ヲスルナ!!」
「・・・私は、それほど気が短いとは思っていない。だが、
 それも、もう、限界も近い・・・。」

 私は、心を落ち着かせ、両手のクローの放つ光と同調させる・・・。
やがて、その光は増幅し、輝き始める・・・。
 そして、スフィンクヘッドに近づき、それを脳天から引き裂いた・・・。






 (80日目夜)
 さらに次の標的に移ろうとする時、私は、腕をつかまれた。
「テメェ、・・勝手に人の喧嘩・・・、邪魔に入るんじゃねぇ・・・。」
「な、何をする!?」
「ドミーよぉ。・・・俺さぁ。・・・人にあわせるのが、
 ・・・だいっ嫌ぇだった。・・・今だってそうだぜ。
 ―――おんなじような事している奴ら見てると、・・・イライラするんだ。
 なんで、どいつもこいつも、そんなだれでもやってること、
 平気で真似できるんだって・・・?」

 黙って、ディッシェムの顔を見る。とても、まともに動けるようには見えなかった。
「―――でもよ、・・・1つだけ、この俺でも、他の野郎がやってる事、
 真似してぇなぁって思った事があんだ・・・。
 ・・・嬉しい時、楽しい時。そんな時に、自分の何もかも
 みーんなさらけ出しちまって、笑うのよ・・・。」

 そう言って、ディッシェムは笑みを浮かべた・・・。
「笑ウ・・・?ソンナ事ガドウシタ?―――何カ、ディッシュノ利益ニ
 ナルトデモ言イタイノカ・・?」

「・・・別に、ねぇよ。けど、・・・それで、いいんだ。
 ―――ドミー、・・・今のお前を見て、・・・そんな風に笑ってくれる奴、
 ・・・いると思うか?・・いやしねぇんだよ。
 俺が、そんなキレェ事言えるような柄じゃねぇことくらい、わかってらぁ。
 ・・・だけどよ、・・・俺は、今のお前、・・・間違ってるって思う。」

 ドミアトセアの表情は、変わらない。



「分カラナイ・・、モウ、ボクニハ、君ノ事ガ分カラナイ・・。
 君ガ、羨マシクモ思エルシ、怖クモ思エル・・・。」

 ドミーは、ゆっくり、ショートソードを構えやがった・・・。
 ドミーの顔を、俺は、もう一度見た・・・。
ドミーの顔に浮かぶ笑みは、・・・俺の知ってる頃の、ドミーの笑い顔じゃなかった。
それでも、俺には、今のドミーを見ている今でさえ、あの頃の、
想い出、記憶が次から次へと蘇ってきた・・・。
 孤児院で初めて出会った頃・・・、一緒に遊んでリサの奴を困らせたり・・、
アトルの野郎のとこに行くときも・・・、殺し屋になった頃だって・・、
いっつも、一緒に俺達はいたんだ・・・。

「―――でも、それは、ぼくが、君の、偽りの力におびえているから。」

「・・・お、お前・・、お前は出てくんじゃねぇよ・・。」
 ドミーの人格が最初っから不安定だったのは、気付いてた。
いろんな人格がごちゃまぜになっちまってた・・・、それでも、
まだ、ドミー自身の心の中の言葉だった・・。
「作られた言葉なんか・・・、口にすんじゃ・・ねぇよ・・・。」
「ぼくの言葉は、真実です。君の力は、偽りの力。
 いつもそばにいた、君が、ぼくの力の影響を受けただけなのですから。」

「・・・俺は、お前自身と話してぇんだ!!!」



「君は、一度も、疑ったことはないのですか?
 どうして、幼いながらに、一流殺し屋として生きていけたのか。
 なぜ、何も教わらず、修行もせず、これほどの腕前を持つ事ができたのか。」

「お、俺は・・・、つ、強くなるために、ま、毎日・・・」
「君の努力は、今の君の力のほんの一部にもなってはいない。
 全ては、君が、いつでも、ぼくのそばにいたから。
 ぼくと、バルシド。2人とも、あの方の亡き後、
 闇の世から、こちらに呼び起こされた者なのです。」

「闇の世・・・。」
「・・闇の住人だと言うのか?」
「1人は、軍の頂点として、もう1人は、そのコマの中心として。
 ぼくは、人間の赤子としてこの世に生を受けたその時から、力を持ちました。」

「一体、・・何故、そんなことを?」
「それは、あの方、マルスディーノ様のご意思。」
 マルスディーノ・・・、私が、一生背負わなくてはならぬ名・・・。
「だから、君が、ぼくに持っているあらゆる感情は、偽りのもの。」



「ドミーが、ガキだった頃から、・・・普通じゃねぇくらい、強ぇ奴だってことは、
 ・・・分かってた。・・・そうだろうと、そうじゃなかろうと、
 俺は、ドミーの友達、・・・ガキの頃から―――。
 ―――今更、・・・お前の口から、そんなこと、・・・言うんじゃねぇ・・・。
 言わなくたっていいだろ?!ドミーは、ドミーじゃねぇのか?!
 なんで、そんなことドミーが言わなくちゃなんねぇんだ?!
 どうして、ドミーなんだよ?!!なんでなんだ?!!!」

 ドミーの奴は、黙ってやがった。あの作られた人格が急に不安定になりやがって、
別の人格が出ようとしてやがったが、そいつらもまた、
お互いの人格が出る事を、邪魔してやがるみてぇだった・・・。
「お願いだ・・・、おまえ自身の、・・・ドミー自身の言葉を聞かせてくれ!!!」
「・・・ディッシュ―――」
「ド、ドミー、・・・ドミーなのか?!」
「ぼ、ぼくは・・・、いつわりの―――そんざ・・、
 ―――闇より創られ、人間として―――、きみは、・・・ぼくの―――」

「ドミー・・・。」
「オマエハ、偽リノ・・・存在―――」
 俺は、もう、これ以上、ドミーの人格がぶっ壊れてくのを、見たくはなかった。
昔のドミーに戻したい・・・、願っちゃいけねぇことってのは、分かってた。
望んじゃならねぇことだってことは、分かってた・・・。
「俺とドミー。どっちか、このまま死ぬんだろうな。
 だがよ、死ぬんならさ、・・・最期に、―――笑って死のうぜ。・・・なぁ?」




 ディッシェムはスピアを構えた。ドミアトセアは、走り出す。
私の目の前で、二人は互いの持つ最大の力を持って刺し違えた・・・。
 ―――禍々しい輝きを放つショートソードは、ディッシェムの腹を刺していた。
ディッシェムの腹部から血が滴り落ちる。
 だが、それとともに、ドミアトセアのショートソードは、跡形もなく消え果てた。

 ディッシェムのスピアは、ドミアトセアの心臓を完全に貫いていた・・・。
一分足りとも、躊躇した跡を見る事は出来なかった。
これ以上になく、完全なまでに、寸分の狂いもなく・・・。
「・・・ぼくは、・・・どみー ―――。」
 ディッシェムは、そのままゆっくりと倒れこんだ・・・。
そして、ゆっくりと、ドミアトセアの体が、幻と消えていった・・・。
主を失った、スフィンクヘッドとともに―――。

 私は、その静寂の中に存在していた。
 呼吸や鼓動、体温―――、ディッシェムが生きている事を確かめることは、
私には、容易いことだろう。だが、私は、その静寂に囚われていた・・・。

 私は、静寂の中で、・・・永遠の静寂を、願っていた・・・。






 (81日目深夜)
 私は、真夜中、急に目を覚ました・・・。
あれから、長い、長い夢の中で、私は、ふとよぎっては去っていく、
そんな、いろんな記憶を、見続けていたわ。

―――リズノ達と、この国で、・・・死にそうになりながら、歩いていた事。
―――孤児院での、リサお姉ちゃんや、ディッシュとの出会い・・・。
―――リズノとの約束・・・。
―――それに、・・・アーシェル、マーシャとの出会い・・・。

 不安をかき消そうとしてたんだと思う。でも、迷いはなかった。
 今、私は、・・・過去と真実を見つけるために、この旅をしている。
それが、どんなに、受け入れ難いことだったとしても、
知らなければならないことだから・・・。

 私は、少し、体全体が楽になってるのを感じた・・・。
しんどいかもしれないけど、もう、私は、歩いて行ける・・・、そう感じていた。



 (82日目早朝)
 突然の物音で、また、私は、夢から呼び起こされたわ。
ゆっくりと、体を起こしてみた。体が重い・・・。
 それでも、私は、ゆっくりと、ベッドから起き上がってみた。
よろけそうになりながら、私は、なんとかベッドのそばで立ち上がることができた。
「いったい・・・、何の音なのよ・・?」
 突然、ドアが勢いよく開いて、あの白髪混じりのおじいさんが入ってきた。
そのまま、中からきつく鍵をかけた・・・。
「ねぇ?・・・どうなっているの?!」
「もう、起きれるようじゃな。―――もはや、この場所は安全ではない。
 ・・・奴等が、お前さんを見つけたら、恐らくは、
 相当の足止めになるじゃろう―――」

 ドアが、何人かに激しく叩かれたわ!!それを、おじいさんは、必死に押さえてた。
「誰かいるのか?!ここを開けろ!!」
 しばらくして、そいつらは、ようやく諦めて、他のところに行ったみたいだった。
おじいさんは、座り込んだ・・・。
「あいつらの目的は、・・・私なんでしょ?」
「―――お前さんが、心配することはない。
 寝ておったから知らないんじゃろう、・・・わしらの手で、
 ディシューマの壁を破壊したんじゃ、―――奴等が、黙っとるはずはない。」

「か、壁、・・・関所を破壊したって言うの?!」
「・・・じゃから、お前さんは、自分のことを考えればよい。
 何も関わってはおらんからな。奴等の気配も消えた今、
 ―――ここを去る方がええ。・・・さあ、港へ行くぞ・・・。」


 おじいさんは、ゆっくりと慎重にドアを開けたわ。
そして、一緒にドアの外へと出た。
 本当に、久しぶりに、私は、外の空気を吸い込んだ・・・。
「奴等は、少しずつ引き上げ始めた模様・・・。
 でも、気をつけて・・・、まだ、何人か残っている・・・。」

「そうか、よし。・・・1人で歩けるか?」
「・・・倒れたら、私のことなんか放っておいて。」
「何を言っている・・。行くぞ。」

 私は、ゆっくりと自分の足で、港の方に歩いていった。
 海のかなたの方は、深い霧のせいで、何も見えなかった。
海岸に、小舟が一隻つながれてるのが見えた。
「・・・見えるな?・・・あの舟・・・。
 ―――何人か、まだおるようじゃな・・・。」

「あんた、・・・この気配、わかるの?」
「うまく隠れてはおるが、・・・不自然な事に変わりはない。
 ・・・ここは、お前さんが、先に行くといい。
 すぐにその後から、わしも追いかける・・・。」

「真正面から突っ切るって言うの?危険すぎるわ・・・。」
「お前さんは、走れない・・・。なるべく、早く舟に乗るためには、
 ・・・真正面から行くしかない・・・。
 どんなことがあろうと、・・・お前さんは、死の大陸へ向かうのじゃろう?」

「・・・でも・・。」
「幸い、朝霧も出ておる。むしろ、走らず、ゆっくりと歩いた方が、
 返って気付かれにくい・・・。じゃから・・・。」

「分かったわ・・・。おじいさん、それに、あの黒い服の人にも・・・。
 ―――ありがとうって伝えて・・・。」

「ああ、必ず・・・。」

 私は、ゆっくりと、一歩ずつその小舟に向かって歩いていった・・・。
まだ、足取りはおぼつかなかった。すぐにでも、倒れそうになる。
何かに頼って歩きたかった。それでも、私は、自分の足で歩いた。

 もう、走れば、すぐにでも乗れる場所まで来た・・・。
「―――誰か、いるのか?!」

 私は、全身から冷や汗が出てくるのを感じた。
立ち止まったせいで、急にバランスが崩れそうになる!!
「たちどまってはならん!!」
 私は、焦った。でも、焦ったところで、足がまた動かなくなってた!!
「ど、ど、・・・どうすれば・・。」
 突然、私はつかまれた。おじいさんだった。舟に近づいていく。
すぐに、舟に乗せられた後、おじいさんは、力いっぱい舟を押し出した!!
「・・・ゆ、ゆけぇ―――、は、早く!!!」
 ゆっくりと舟が沖の方に出て行った。
私は、バランスを崩して、そのまま舟の上で倒れた・・・。

 港から、銃声が響いてきた―――。



「そいつを、捕らえろ!!急げ!!!」
 振り返りざまだった。老人は、ゆっくりとしゃがみこむ・・・。

「・・・これは―――。」

 老人は、ふところからそれを取り出した。手鏡だった。
その手鏡が、無残に打ち砕かれながらも、銃弾を止め、老人を護っていたのだった。
その、『ルシア』という名の刻まれた手鏡によって・・・。
「ル・・・ルシア様―――。どうか、彼女を、お救い・・・下さい―――。」
 銃を撃った者が近づいてくる。だが、それを、突然、後ろから止める者達がいた。
「お前は、銃を撃ったのか?!何を考えてるんだ?正気に戻れ!!」
「な、なにを言って・・・」
「寝ぼけてるんじゃねぇ!!なんで、俺達が、銃なんか持ってなきゃならない?!」
 その男は、顔を殴り、正気を取り戻させた。
「な、何を―――、・・・どうして、俺は、銃なんか―――。」
 男は、あわてて、右手に持っていた銃を投げ捨てた・・。
「気付いたのか?・・・と、とにかく、急いで、その人を・・。」
「―――血、血が出ている・・、ま、まさか、俺が――?」
 混乱しながらも、呪縛から解放されたレイティナークの街の人間によって、
その老人は、ストロヴィーノに運ばれていったのだった。






 (82日目昼)
 舟は海流に乗って、どんどん沖に流れていったわ。
私は、疲れと、なまってる体の重さに耐え切れずに、倒れたまま、
もう、起き上がる事もできなかった。
 辺りは、霧に包み込まれてて、あのおじいさんがどうなったのか、
あの銃声が何だったのかも、もう確かめることは、出来なくなってた。



 もう、どれぐらいの時間が経ったのか・・・、
今、私が、どこにいて、どこに向かっているのかも・・・、
ストロヴィーノがどこで、クリーシェナードがどこなのかも、
・・・この舟が、漂流しているのか、止まっているのかも、分からなかった。
 ただ、私の目に映るのは、どこまでも続く、変わらない海の風景だけ・・・。



 昼は、あっという間に過ぎて、辺りは、暗闇に覆われた。
凍えるような風が、私に吹きつけてきた・・・。
 それでも、ただ、海流に流され、漂流し続けることしか、
私には、許されてはいなかった・・・。



 雨が降ってきた・・・。
冷たい雨は、私の体温を、容赦なく奪っていった・・。
もう、私には、何の感覚も残っていなかった・・・。
ただ、うっすらと目を開いて、ぼうっと一点だけを見つめ続けていた。
 舟に揺られながら、私に、死って奴が近づいてることに気付きながら、
それでも、私は、・・・わずかな希望ってのを信じてた。
 だから、私は、目だけはいつまでも閉じなかった―――。
たとえ、夜の闇が光を奪っても、霧が視界をさえぎっても、
・・・私は、目を閉じようとは思わなかった・・・。



 ―――朝の光のまぶしさで、私は気を取り戻した。
重い体を、ゆっくり起こし、私は、周りを見渡してみた。
「・・・ここは・・・。」
 あれから、どれほどの時間が経っているのかは、私には分からなかった。
でも、この舟は、―――まるで、何かの、不思議な力に導かれたみたいに、
その浅瀬にたどり着いていたわ・・・。
 私は、ゆっくりと、舟から降りた・・・。
足元がふらついて、そのまま、地面にしゃがみこんでしまう・・・。
 それでも、私は、ゆっくり、地面に手をついて、もう一度立ち上がった。
一歩ずつ、自分の足で、前へ、前へ歩き出した・・・。
 ―――そして、その大陸を、私の目でしっかりとみた・・・。



 死の大陸―――、私は、その大陸へとたどり着いていた。
誰に教えてもらわなくたって、私の目に映る、その光景を見た瞬間、
なんで、この大陸が、そんな名前なのか、すぐに理解できた。
 目に映る限り、この大地の上には、誰もいなかった。
存在するはずなんて、なかった・・・。
 空を見上げた・・・。青い空には、雲も見えなかった。
―――空は、私に、何も話しかけてくれたりしない・・・。
「うっ・・・。」
 私は、せきこんだ。止まりそうにもなかった。
息が苦しかった・・・。
 地面からは、白い水蒸気が吹き上がってた・・・。
それを吸い込んだ途端に、苦しくなった・・・。
 この大陸の空気は汚されていた・・・。
全てを消しつくす、毒のガスに―――。



 それでも、私は、歩き始めた。どんなことが起こっても、
私は、・・・立ち止まる気なんてなかった・・・。
 毒に汚染された沼地に、足を踏み入れることもあった。
何度も、足をとられ、倒れそうにもなった。
 どんなに息を止めようとも、毒ガスは、私の肺の中にまで
入ってきた。そして、その度に、私は激しくせきこんだ・・・。



 どれぐらいの間、歩いただろうか・・・。
また、私は、沼地に足をとられ、地面にひざを落とした・・・。
 その時、私は、何もかも忘れて、狂ったみたいに、叫んでた・・・。
「ここが、・・・ここが・・・私の・・・私の・・・、
 ・・・私の過去を知る場所なの・・・?
 こんな・・・こんなところが・・・。
 ・・・私は、・・・私は・・・、――――いったい何なのよぉぉ・・・・。」




 知らない内に、涙が流れてた・・・。
そんな、私の周りに、何かが空から降りてきた・・・。
そいつらは、私を取り囲む・・・。
「・・・あんたたち、・・・何・・・?」
 飢えた目で、私を見る、みるからにやせた鳥―――、モンスターだった。
久しぶりの人間の姿を見て、興奮しているのか、狂ったみたいに飛んでた。
「―――あんたたちが・・・、こんな風に、・・・したって言うの?」
 そいつらは、私に向かって、急降下してきた。
私は、ナイフを両手に、強く握り締めた。その時、
あれだけ、努力しても出てこなかった、炎が吹き上がってきたわ・・・。
 2匹は、その炎によってきて、途端に、蒸発したわ・・・。
目の前に来たそいつも、私は、ナイフで斬り裂く・・・。
 よく見れば、炎が吹き上がっているのは、ナイフからじゃなかった。
・・・私の腕全体から、炎が出ていた・・・。
 残った一匹が、他のやられた奴のことに気付いたのか、
逃げようと私から、離れる・・・。
「・・・クロスブレイカー。」
 私は、そいつも、虚空に消し去ってやった・・・。



 腕が無事なはずなんてなかった。
普通の人間なら、感覚もなくなってるほどの火傷・・・。

 でも、そのお陰で、私は、やっと正気を取り戻せた。
もう、沼で足を取られることもなくなった。
 今の私に、迷いや戸惑いなんてものは、残ってなかった。
私は、心に決めた。この大陸で、本当の自分を見つけることを。

 私は、しっかりと前を見て、確実に、一歩ずつ歩み始めた。






 (84日目昼)
「ロベルタクスストーン。・・・確かに受け取りました。」
「さほど、影響は受けておらん・・・、間に合ったようじゃ、セニフ様。」
 私は、その言葉を聞き、胸をなで下ろした。
「・・・闇の力。それは、主の心の宿す影と同調し、それを増幅し、
 主を支配します。しかし、・・・その心が、支配を解こうとすれば、
 この世から滅されるでしょう。
 ―――力を行使するものは、支配されぬだけの意思が必要なのです・・・。」

「レクティ、グラッジ。この力の、・・・この世に存在する意味は、何だと言うんだ?」
 レクティ―――私が呼びかけた、その女性は私の顔を見て答えた。
「あなたが、・・・一番よく、ご存知のはずです。」
「わしのような者が、この世にいるのも、・・・セニフ様のような、
 運命を背負う者がおるからですじゃ。」

「・・・再び、封印を解く―――、そんな必要が、本当にあるのだろうか?」
「セニフ様。この激しく、邪悪なる光を放つものが見えるじゃろう・・・。」
「グラッジ、これは、・・・ロベルタクスストーン。」
「―――闇の力に同調しておる。・・・その周りに、まだ小さくか細き、
 しかし、確かに光り輝くものも2つ、見えるはずじゃ。
 ・・・そして、未だ、1つ。失われた光が、・・・再び光る時を待っております。」

「・・・。」
「ここに、居やがったか?」



 俺は、セニフと、そいつら2人の方に近づいていった。
「ディッシェム。・・・もう、いいのか?」
 そいつらの近くの壁にもたれかかった。
「ケガするの、早ぇからよ。治るのも、あっという間なんでな・・・。」
「もう、・・・大丈夫なんだな。」
「いつから、そんなに俺のことを心配しやがるようになった?気持ち悪い野郎だぜ。」
「殺し屋、いや、・・・モンスターズハンター―――ディッシェム、じゃったな。」
「・・・聖堂のじいさんに、依頼人の女・・・か。」
 聖堂であった、あのじいさんが、持ってるもんを俺に渡そうとしてやがった。
そいつは、光り輝いてるスピアだった。
「こいつは、ロベルタクスの力を得たスピア。・・・見たであろう。
 この力に支配されし者に待つ運命は、ただ1つ。滅され封印されるのみ。
 ―――そなたの心に同調し、スピアはその力を、その身に及ぼす。」

「・・・俺に、どうしろって言いやがるんだ?・・・こんなもん、
 俺に、・・・使う資格、あんのかよ?」

「使えない?・・・その時、お前は、―――スピアに、支配されたということだ。」
「手にするがよい。・・・そのスピアが、そなたを見極めるじゃろう。」
「・・・わかったよ。」
 そいつらの言われるままに、俺は、右手でそのスピアを受け取った。
次の瞬間、何かとてつもねぇ力が、俺の体中を駆け巡りやがった!!
「な・・・な、なんだ!!・・・ど、どうなってやがる?!」



 ディッシェムの持つ、スピアからは、強烈な力が放たれていた。
「・・・しばらくすれば、慣れる。よいか?忘れるのではないぞ。
 心に迷いが生ずれば、支配され、己の身が消滅する。」

「・・・わ、・・・わかったよ。」
「―――グラニソウル大陸。・・・禍々しい光は、ここの中央から見えます。」
 レクティは、ロベルタクスストーンの結晶を指差していた。
「私は、そこに向かう。これほどの闇の気配・・・。
 それは、雫の結晶の力に他ならないだろう。」

「そうかよ・・・。」
「今は、スピアに集中するの。」
「要は、雫の結晶のありか、やっと分かったってこと、だな。
 ―――それじゃあよ・・・。」

 ディッシェムがスピアを意のままに操り、私達の方へと真っ直ぐ向かい立った。
「・・・セニフ様。・・・やはり、目に狂いなど、なかったようですな。」
「グラッジ、レクティ・・・。」
 ディッシェムのスピアから放たれる力が穏やかな光へと変わるにつれ、
私達の口数は減り、そして沈黙へと変わった。それは、ここで成すべきことが、
終わりを告げたことを意味していた。
「・・・もう、こんなとこに、用はねぇだろ?さ、行くぜ。」

 ディッシェムは、1人、ドアへと向かい、やがて、姿が見えなくなった。
「強い子ね・・・。」
「そうなのかも、しれない。」
「流石は、ベラの息子・・・というところじゃろうかな、レクティよ。」
 グラッジは、ゆっくり立ち上がり、私達に会釈した後、部屋を後にした。
「不思議ね。あの時のあなたが、こうして、ここにいるなんて。」
 私は、黙って立ち上がり、ドアへと向かった。ディッシェムを追いかけるため。
「願ってはならない・・・、分かってる。でも、セニフ。私・・・。」
「今は・・・、行かなくてはならない。」
「―――あなたが、ディッシェムを選んだ時に、諦めたわ。」
 その声を背中に、私は、自らの進むべき方向へと、歩み始めた。



 (85日目早朝) 
 アサラの野郎どもと別れて、もう2週間になる。
「ちっ、どうなってやがる、ここは?!」
「場所はここだ。鍵もある・・・。けど、何かが、足りネェんだ。」
「アサラ隊長らの情報・・・、そりゃ、ザヌレコフ様。今は、その情報しか、
 頼りにできねぇですけど―――。」

「この廃墟・・・、宝も荒らされてますし、もう、何もありやしませんぜ・・・。」
「―――何が違うって言いやがる気だ?集落ん時は、うまくいったじゃねぇか?」
「・・・ザヌレコフ様、また・・・、2人。」
 俺は、そいつの案内で、その倒れちまった2人の所に行った。
「・・・ザヌレコフ・・さん。」
「テントに入れ。中に居りゃあ、―――この前みてぇな事は起こらネェ。」
 この砂漠の空は、妙な色をしてやがった。
こいつらの何人、・・・いや、たくさんの野郎が、突然狂ったみてぇに
暴れ出しやがった。テントん中に閉じ込めとけば、どうにかなることは、
最近気付いた。―――それまでの間に、俺は、いくらかの手下を失った・・・。
「・・・おい、ちょっと待ってくれ。」
 俺は、近くを通った、手下の1人を呼びかけた。
「お前、確か、ディアロス班の人間だったよなぁ?」
「ザヌレコフさん・・、あ、はい。ディアロスの兄貴に何か御用でも・・・?」
「いや、・・・お前の班の、伝令役の女の様子はどうだ・・・?」
 そいつは、しばらく黙っていた。だが、それから、俺にこう言った・・・。
「兄貴とザヌレコフさんは、長い付き合いだって知っています。俺、信じてますから。
 必ず、兄貴とザヌレコフさんが、雫の結晶ってのを手に入れるって。」

 こいつらのためにも、俺は、1日でも早く、闇の雫の結晶を見つけなくちゃならねぇ。
けど、あの野郎のよこしたソードは、これ以上、何も答えちゃあくれなかった・・・。






 (85日目夕方)
 夕方、俺達は、砂漠のど真ん中にある、その遺跡に着いた。
辺りのモンスターどもは、妙にざわついていやがったし、
どうにも、ここらへんの空気は、俺の気を逆なでしやがった・・・。
「セニフ・・・、こいつが、テメェの言っていやがった・・・。」
「奇跡の泉の遺跡・・・。この遺跡の奥深くに封じられている。」
「こんなボロボロの遺跡、おおかた、賊の野郎共が荒らしつくしちまってんじゃあ?」
「これを見ろ。」
 セニフは、ロベルタクストーンの結晶をかざした。
そいつは、突然、まがまがしい邪悪な輝きを放ち始めやがった。
遺跡のひび割れた壁が、そいつに同調して、輝く・・・。
 そいつをしまった途端、その光は消えやがった。
「まだ、この遺跡は生きている。」
 俺とセニフは、その遺跡ん中に入っていった・・・。
「・・・足跡。まだ、新しい。」
「賊だろ?これだけたくさんついてやがるんだからな。」
「ああ、恐らくな・・・。」
 奥まで歩いていった。宝箱なんて、みんな荒らされちまってたし、
これ以上行っても、何もねぇと思ってた。だが、セニフの野郎は立ち止まりやがった。
「扉・・・。ディッシェム、スピアを見るんだ。」



 同時だった。辺りの壁の禍々しい輝きが増した時、扉から2体のモンスターが
ディッシェムに向かい、飛び掛ってきた。
「なんだ?!このスピア!!」
「突くんだ!!」
 ディッシェムのスピアが、一体を貫く。だが、ディッシェムは、
もう一体の攻撃に、突き飛ばされる。そして、着地と同時に、
再び動き出し、その視線の先に私の姿をとらえる。
「私が倒す。・・・さぁ、来い。」
 ケルベロスは俊敏な動きで私に近づき、鋭い爪で私を切り裂く。
私の、右手のクローは、その時、ケルベロスの心臓を貫いていた・・・。
 私の目の前で、ケルベロスは苦しみもがき、断末魔をあげ、崩れ落ちた・・・。
「・・・倒したのか?」
 ディッシェムは、出血のひどい肩を押さえていた・・・。
「ああ・・・、―――!!」
「古き鍵を持つ者よ。如何なる理由があろうと、汝の鍵は受け付けられぬ鍵。
 我は、守護する者。汝の鍵は古き鍵―――」




 突然、セニフの野郎がふっ飛ばされやがった。ケルベロスの野郎の肉体は腐って、
骨だけの姿に化けていやがった。
「セニフ!!」
 俺は、その骸骨野郎の頭をスピアでぶち抜く―――、手ごたえがない。
その時、俺の脳みその中で、四方から同じ低い声が響いてきやがった。
「我の知らぬ鍵を持つ者よ。汝の鍵は受け付けられぬ鍵。
 我は、守護する者。許されし鍵ならば、証を示せ―――」

「証?!・・・何の事だ?!」
 俺の背後で、骸骨野郎があごをカタカタ不気味に鳴らしやがる・・・
「よけろ!!」
 セニフに突き飛ばされた瞬間、そいつは、酸の吐息をぶちまけてきやがった!!
「・・・ディッシェム!!起きろ。こいつは、ロベルタクスストーンの力で、
 強化されている。このままでは、無理だ。」

「人を突き飛ばしておいて、よく言うぜ・・・。だがよ―――。」
 そいつらの攻撃は、容赦してくれそうにはなかった。
「ここは、逃げるっきゃねぇか。」
「扉に、スピアを刺せ。」
 セニフは、落ち着いた声でそう俺に命令しやがった。
何故か、その時の俺は、素直にその声に従っていやがった。
「よ、よくわからねぇが、そうさせてもらうぜ!!」
 俺は、言われるまま、扉に向かって走って、スピアを貫いた―――



 (86日目早朝)
 私は、歩くはるか先に、街を見つけた。荒廃し尽くされたその街を。
 やがて、私は、その街道へと入った。ただ1人、私だけが、歩いていた。
・・・大きな街だった。いろいろな建物が、瓦礫となって、立ち尽くしていた。
 私は、歩いていた。目に映るものは、何も記憶に残っていなかった。
ただ、真っ直ぐ、私は、荒れ果てた街の中を歩いていた。
 時折、動く影があった。人の姿にも見えた。・・・顔は、白骨がむきだしになり、
ボロボロに朽ち果てた服をまとい、右足を引きずりながら、意思もなくさまよう、
そのモンスター達を、私は、何の感情も持たずに斬り裂いた。
もう炎も出なくなった、私の焼け焦げた両腕で・・・。

 大きな建物が見えた・・・。他の建物と同じ色をしていた・・・、
けど、その姿は、今でも神殿の姿を保っていた。
 かつてはあったであろう、荘厳さはなく、力を失ったかのようだったけど。
 それでも、私は、北へと歩き続けた。
―――私の頭の中に、直接話しかけてくる、その声だけを頼りに・・・。
「・・・炎の民の、集落・・・。」



 やがて、私は街を抜けて、川沿いの道を北へと進んでいた。
街から離れ、山脈の中へと続くその道を行くにつれて、少しずつ、
私の頭の中に響く声は、大きく、はっきりとした声になっていった・・・。

 その山脈に囲まれた、小さな集落・・・。
 私が今まで、この大陸で見てきた光景とは、まったく違っていた。
何か、とても不思議な力に包まれているみたいに、かつてあったはずの姿を、
今でも、その場にとどめていた・・・。
 それでも、私は、この光景から、記憶の断片を取り戻すことはできなかった。
ただ、ほんのわずかに、私の体の中を、何か熱い力が通りぬけるのを感じた。
「ここは、・・・いったい・・・。」



 人は、誰も見当たらなかった。それでも、私は、
ここへと連れてきた声の持ち主を探すために、集落の中を歩き回った。
 私は、一軒の家の中へと入った。鍵も何もかかってはいなかった。
やっぱり、人がいる様子はなかった・・・。
 そうして、私は、誰か他に、私以外に歩いている―――生きている人を探し続けた。

 いくらかの家を回って、私は気付いた。
 この集落には、私以外、誰一人の姿も見えない。
でも、なぜか、私には、ここに訪れるほんの少し前まで、
この集落には、たくさんの人がそれぞれの生活を営んでいたように思えた。
 どの家の中も、整然としていた。温かみすらも感じられた。
何よりも、この集落のどこにも、荒れ果てたと感じさせるものがなかった。

 そんな時だったわ。また、私の頭の中に、今度は、はっきりとした声で、
話しかけてくるその声を・・・。






 (86日目昼)
 ロベルタクスストーンが淡く輝いた時、周りの様子がおぼろけに見えてきた。
「ディッシェム、起きろ・・・。」
「―――セニフ・・・、ここは?」
「闇の力の根源・・・。」
 私達を取り囲むものは、漆黒の闇だった。
「鍵・・って、何のことなんだ?」
「ここに雫の結晶を封印した者は、自らはおろか、仲間にすらも解くことの
 出来ない封印を施した。いかなる理由をもってしても・・・。」

 こうして話し始めた自分自身に、私は、心の中で驚いていた。
「そして、また、その仲間が持つ鍵なくして、封印は解けないようにした。」
「・・・ちょっと待て。どういうことだ?言っている意味が分からねぇぞ?
 鍵がなくちゃ解けねぇのは分かるが、なんで、解けなくする必要なんかあるんだ?」

「それほどまでに、ここにあるものは、解き放つことが危険だということだ。」
「けど、お前は、雫の結晶を集め―――、お前は、あん時に言ってた・・・、
 マーシャの奴に渡した、あの雫の結晶を封印した・・・。」

 私は、クローを目の前にかざした。
「これが私の・・・、そして、そのスピアが君の・・・、
 どちらも、ロベルタクスの恩恵を得た、鍵の役目を果たすもの―――。」

「このスピアが・・・、鍵?」
「私1人では決して解くことはできない。君1人でも解く事はできない。
 2つが揃う時、初めて解けるようにしていたということだ。
 あの2体のケルベロスは、その門番として配されたのだろう・・・。」

「その門番も、ここの毒気にさらされちまってたってわけかよ。」
「私の鍵は2つある。このクローと、もう1つ、私の封印した雫の結晶自身・・・。
 ―――これは、推測だが、・・・私達より以前に、ここへ侵入しようと試みた者が
 いたのかもしれない・・・。」

「誰がそんなことをしやがるんだよ?少なくとも、お前の仲間だった奴1人と、
 もう1人、鍵を持ってる野郎が・・・必要なんだろ?
 ただの賊じゃあ、そんなこと無理じゃあねぇのか?」

 私は、以前より感じていた、心の中にあった小さな不安が、暗雲のように
広がっていくような感覚に襲われた・・・。



 私は、頭の中に響く声に導かれて、歩き出した。
たどり着いたところは、他の家からひとつ高い場所にある、一軒の家だったわ。
 もちろん、そこにも誰もいなかった。
 私は、家の奥へと歩いた。そして、まっすぐ階段へと歩き、上り始めた。
そして、上りながら私は、ふと足を止めて、不思議に思った。
「どうして、私・・・、すぐにこの階段に・・・?」
 なんとなくだった。でも、他の家とは違う、何か特別な感じをこの家で受けた。
それから、私は2階の廊下を歩き、ふと、ある部屋のドアの前で立ち止まった。
「この部屋・・・。」
 私は、ゆっくりとその部屋の扉を開いた。
ゆっくりと中に入り、それから、私は机の上にあるものに、目を奪われた。
 1枚の古い写真だった。
私の知らない男の人と、女の人。そして、その2人のそばで、
無邪気にはしゃいでいる、幼い女の子・・・。

「―――わ、・・・わたし?」



「・・・ディッシェム。今は・・・先へ進もう。」
「あ、ああ・・・。」
 セニフの仲間だった野郎が封印したもん。これから、俺はそいつを
解き放ちにいく。・・・どれだけ、恐ろしいもんなのか、俺には、正直分からねぇ。
 ただ、スピアを握り締めながら、俺は、暗闇をどこまでも進んでいった。
―――突然、辺りの雰囲気が変わりやがった。
「・・・な、なんだ・・・、こ、・・・こいつは・・・?」
 真っ赤に燃えたぎる炎の玉と、周りの空気まで凍りつかす氷の玉・・・、
その2つの玉の間に、そいつは、居やがった・・・。
「―――デューク・・・リューナ・・・。」
「セニフ?・・・知ってんのか!?」
「・・・間違いない。だが・・・、こうも容易く、闇の力は―――。」
 セニフの野郎は、それから先を言いやがらなかった。
「な、・・・いったい、こいつは・・・、こいつは何者なんだ?!」
「・・・ディッシェム。こいつを・・・、破壊する。」



 私は、もう一度、よく写真を見たわ。
それでも、やっぱり、その写真の中に写っていたのは、・・・私自身だった。
「・・・ど、どういうこと?」
 私は、部屋を見回した。―――私の記憶にはない部屋・・・。
「そういえば・・・。」
 もう一度、私は写真を見直した。
「もし、これが私なら・・・、周りの・・・。まさか・・・、
 ―――父さん・・・、母さん?!」

 私の声が、部屋の中に響いた・・・。そして、また静かになった時、
落ち着いて、私は自分自身に問いかけたわ。
「・・・ここは、私の家―――故郷だっていうの・・・?」



「炎の民―――、あの民は、滅んだはず・・・。
 ・・・たとえ生き残っていたとして、10年前に、この世から、
 あの大陸―――クリーシェナードの人間はすべて消滅したはず・・・。」


「・・・リズノは・・、失われた過去と、真実を求め・・・、
 死の大陸―――クリーシェナードへ1人・・・旅立った・・・。」


「・・・その大陸の奥地に、あんたみたいな、
 炎を使う、『炎の民』ってのがいたって、聞いた事があるけどなぁ・・・。」


「このナイフは・・・お前が持たなきゃならない。
 お前が失ったモノ―――血に汚れた過去を・・・、
 全てを見てきた、このナイフを・・・。」




 いろいろな人から聞いたことを思い出せば、私が今いる、この場所が、
―――炎の民の集落だってことになる・・・。
 私は、またあの声を聞いた。今までで、一番はっきりとした声で。
声のした方向へ走って、窓を開け放って、私はその方向を見つめた。
 視線の先にあったもの。それは、集落の背後にそびえる、
噴煙を上げている火山だったわ・・・。
 その火山からは、何か、とてつもない力を感じた―――。
 私は、すぐに部屋を飛び出した。
私が向かうべき場所・・・、その声の導く先へ行くために。


2005/07/20 edited(2004/07/07 written) by yukki-ts To Be Continued. next to