[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第4幕― 第24章

 (76日目深夜)
 俺は、ある記事のとこで目を止めた・・・。
「―――新鉱山鉄道、始動直後の騒動・・・。」
「流し読みしただけだけどよ、・・・2、3日前、侵入者があったらしい。」
「・・・けっ、バカな奴もいんだな。わざわざ、鉄道にただ乗りしなくてもよ。」
「列車に乗り込んだまではいいが、途中、奴等に見つかり、
 ・・・一斉射撃。そのまま落下し、・・・行方不明だ。」

「そりゃ、またハデだな・・・。」
 この記事がただの笑い話じゃねぇってことは、そいつらの雰囲気で分かった・・。
「お前、・・・本当に、知らねぇのか?閉ざされた関所の奥のこと・・・。」
「な、何言ってやがる?・・・グロシェは、解放されただろ?
 軍部は壊滅して、俺達、殺し屋もみんなクビになったんだからよ・・・。」

「・・・殺し屋じゃなくなったとたん、テメェも、情報に疎くなっちまったな。
 時代は流れてんだ。仕方ねぇな。お前がいなくなってからのこと、教えてやらぁ。」




「軍部が潰れた後、関所の外側の人間を集めたよな。この国を建てなおす奴を。」
「そういや、テメェら、・・・祭り騒ぎでそんなことも決めてたな。」
「それに比べ、自分の立場が危うくなった殺し屋どもは、集まっても来ねぇで、
 ・・・俺みたいな賢い奴を除いて、どいつもこいつも逃げやがったからな。
 もちろん、テメェも逃げやがった連中の1人だぜ。」

「俺は、逃げたんじゃねぇ!!」
「そういうことにしてやらぁ、落ち着け。それから、殺し屋抜きで、
 レイティナークやスラムの連中、力合わせて、建て直し始めたってわけよ。」

「・・・そんなことくらい知ってらぁ。いいことじゃねぇかよ。」
「―――おかしい奴だぜ。そこまでのこと、知ってんじゃねぇか。」
「な、何?・・・何のこと言ってんだ、テメェ。」
「今、関所の中にいる者は、この街の人間だということだ・・・。」
「うるせぇ、テメェに言われたかぁねぇ・・・よ―――」

 ようやく、事態が飲み込めたらしく、持っている紙をもう一度見直し始めた。
「一斉射撃・・・。殺し屋じゃああるまいし、なんで、この街の連中が・・・。
 ―――列車から落ちて、・・・消息不明。・・・2、3日前・・・、侵入・・・。」

「今も関所は閉じたまんま。普通の人間が列車に乗るには、侵入するっきゃねぇ。」



 俺は、その時、想像もしたくねぇような、最悪な光景を頭ん中で思い描いた。
それから、頭をよぎったその光景を、とにかく必死にかき消してやった。
「―――バ、バカなこと、考える奴も・・・、い、いるんだな。」
「そうだな。まるで、殺し屋の頃のテメェ見てるみたいだぜ・・・。」
「じょ、冗談じゃねぇぜ。こ、これじゃ、まるで・・・。
 あの頃と、・・・何にも、変わっちゃねぇ・・・。まさか―――」

 セニフの奴が口をはさみやがった。
「黒幕はまだいる・・・ということか。」
「・・・さ、どうだ?このまま、テメェ・・・黙ってられんのか?」
 俺は、スピアを握り締めて、その質問に答えてやった。
「さっき、この俺を逃げたとか言いやがったな。そうじゃねぇってこと、
 この俺が、テメェにもはっきり分かるように、教えてやろうじゃねぇか!!
 ―――そんな野郎がいるんだったら、この俺が、ぶっ潰してやらぁ!!」

「よし、明日の昼に、もう一度ここに来い。それまでに、準備しとけよ・・・。」



 (77日目昼)
「・・・来たみてぇだな。」
「お前の方も、抜かりはないな?」
「おうよ、兄貴。こいつが、例のもんですぜ。」
 私は、その男に頼んでいたものを手に入れた。
「なぁ、一体、いつの間にお前らだけで、話進めてやがったんだ?」
「そうだな、ディッシェム。兄貴は、俺の想像以上によく働いてくれるお人よ。
 ・・・計画もこれなら、滞りなく進む・・・。
 ―――あとは、依頼主のところにその紙を持っていくだけだぜ。」

「ディッシェム・・・、今夜だ。」
「今夜・・?」
 私は、ディッシェムを置いて、依頼主の元へと向かい始めた。
ディッシェムは、事態を飲み込めぬまま、私を追いかけてきたようだった。



「お、お前・・・、この前の野郎?」
 セニフは、この前ん時の黒装束の野郎と向かいあって話をしてやがった。
「セニフ様・・・、それではこれに・・・。」
「すまない、助かる・・・。」
 セニフから何かの紙を受け取って、そいつは、何かをその紙に書きやがった。
書き終えると、そいつを折って、封筒に入れた・・・。

 セニフの野郎は、それを受け取ると、案の定、俺のことなんか気にもせずに、
さっさと出て行きやがった・・・。
「待ちやがれ!!テメェだけはよ!!」
 俺は、セニフの野郎の足を止めた。
「少しは、俺にも教えやがれ!!何、たくらんでやがるんだ?!」
「たくらむか・・・。」
「さっきの野郎が依頼主だったんなら、一体、何を依頼しやがったってんだ?!
 それくらいのこと、俺にも教えやがれ!!」

「・・・こうとでも言っておこうか。―――世界一の鍛冶屋を探し出せ・・・。
 それが、君と私への依頼だ・・・。」

「世界一の・・・鍛冶屋だと?」
「ああ、そうだ。」
「そ、そんなもん・・・、一体、どうやって探しゃあいいんだ?」
「・・・依頼された者が、もし、君であったのなら、依頼した者も不幸だろうな。
 分からないならそれでもいい。分かろうとする必要もない。」


 俺は、もう、そろそろガマンの限界に来ちまってた。
「テメェ・・・、あんまりよ、俺を怒らせんなよ。
 ―――どうも、テメェと一緒になってからよ、気にくわねぇことばっか
 起こりやがる・・・。ああ、気にくわねぇなぁ!!
 ・・・なんだよ、テメェの、その突き放すような態度はよお!!
 この俺が、分かろうとする必要もねぇか?!
 ああ、そうかよ?!分かったって言ってやりてぇとこだがな、
 こうなったら、俺も意地だぜ!!テメェの言いてぇ放題にこれ以上、
 黙ってつきあってなんか、いられねぇからなぁ!!!」

「・・・もう、しゃべり飽きたか?」
「な、なんだと・・・?」
 セニフが俺の目を見てきやがった。まっすぐ、俺を見透かすような目で・・・。
「いつまで、己を変えぬままいるつもりなのかと、私は聞いた。」
「・・・。」 
 その時、俺は、何も出来なくなっちまってた。
セニフの野郎は、ただ、俺の目を見てきやがっただけだった。
 だが、セニフが諦めて、また歩き始めてから、ディシューマ連合に戻るまで、
俺は、ただ、この野郎についてくことしか出来なかった・・・。






 (77日目昼)
 外の騒がしい声に、私は気付いて、目を覚ましたわ・・・。
「―――ここは・・・?」
 私は、ベッドで横になってるらしかった。
周りに誰もいる感じはなかった・・・。
「つっ・・・。」
 体中から鈍い痛みが伝わってくるのが、なんとなくわかった。
体は動かせなかった。感覚が鈍ってた・・・。
「・・・ここは、・・・何処なの?」
 返事は返ってこなかった。ただ、外の方がやけに騒がしかっただけ・・・。
私は、その声をなんとか聞き取ろうとした。
 でも、少しでも体を動かそうとしたとたん、今まで、忘れてたみたいに、
体中から耐えられないくらいの痛みが襲い掛かってきたわ!!
 そのまま、私は、声も出せずに気絶した・・・・。



 どれぐらいの時間がたったのか、分からなかった。部屋は暗かった・・・。
ほんの少しだけ、首を動かしてみた。微かな痛みが走った・・・。
でも、それを振り切って、辺りを見回してみた。
 その時、初めて、かすかに人の気配を感じ取ったわ・・・。
「ん・・・?」
 私の様子が変わったことに気付いたみたいだった。私に近づいてくる・・・。
気の良さそうな、白髪まじりの人、・・・でも、暗くて、顔はよくわからかった。
「・・・あんたは・・・?」
「まだ、しゃべりなさんな・・・、・・・あんたの傷は深い。
 ・・・生きておるのが、不思議なくらいだ・・・。」

「・・・ここは・・・、どこ・・?」
「―――ストロヴィーノ・・・、寂れた港町じゃよ・・・。」
「・・・ここが、・・・ストロヴィーノ・・。」
 私は、少しだけ安心した。理由はどうであれ、確実に前に進んだんだから・・・。
「じゃが、・・・いったい、こんなところに・・・・いったい何を・・・?」
 そう聞かれた時には、もう、私は深く眠り込んでいたわ。



 (77日目深夜)
 その通行証の効き目は相当のものがあった。
表情や仕草から不審に思われぬよう、闇に紛れつつ、関所へ来たことも、
どうやら、正解だったようだ・・・。
「・・・通行証だったのかよ、あの紙きれ・・・。」
 私は、あえて、ディッシェムとの間に、距離をおいていた。
もちろん、まともに話をすることが、疲れる以外の何物にもならないということも、
理由として挙げることは出来た・・・。
「だがよ、たまには、お前も、俺の言うことに同意しやがることがあんだな。
 ・・・鍛冶屋。よく考えてみりゃあ、ここは、昔は鉱山で栄えてんだ。
 いるとすりゃあ、ここん中以外に考えられねぇ・・・。」

「そうだな・・・。」
 ディッシェムは、やはり、おもしろくないという表情をしていた。
 グロシェの地の荒れ果てた様は、正直のところ、私の想像を超えていた。
10年前、この地を訪れた時の情景を、記憶からかき消し去ってしまう程だった。
「あれから、ちっとも、変わってないじゃねぇかよ・・・。
 一体、俺達が軍部潰したのは、なんだったってんだよ・・・。」

「・・・破壊し尽くすのは容易なことだ。1度で成し遂げることも出来よう。
 ・・・だが、再び、何かを生み出すことは、・・・並大抵のことではない・・・。
 多くの努力を持ってしても、ほんの小さな動きにしか、なりはしない・・・。」


「―――そうだよな、・・・たった一度ですむんだからな。」



 俺は、低い声で湧き上がってくる感情を押し殺しながら、セニフにぶつけた・・・。
「・・・よく分かってるみてぇな口きいてやがるテメェによ、
 聞いてやらぁ。テメェに、なんで、俺達のことが分かる?
 俺達の、何が分かるって言いやがる気だ・・・。」

 セニフの野郎は立ち止まりやがった。
「テメェの過去のことなんて、見てもねぇんだ、知るわきゃあねぇ。
 マーシャの母さんと一緒に冒険してたってことも疑やぁしねぇよ。
 ・・・結局、俺達に、何も言う気、・・・ねぇんだろ?
 だって、言わないじゃねぇか・・・。―――なんだかんだ言いやがるけどよ、
 ディシューマが10年前からこんな事になっちまったの、
 ・・・テメェらのせいじゃねぇか・・・。」

「・・・事実には、変わりない。」
「10年もありゃあ、テメェのやった事、棚に上げてよ・・・、
 まだ、心の傷も癒えてねぇ、失ったいろんなもんも二度と返って来やしねぇ、
 そんな、俺の前で、そんな態度、取れるようになんのかよ・・・。」

「・・・気に入らないならば、・・・仕方がない。」

 風が吹きぬけて来やがった―――。
そん時、目の前にいる奴のことが、理解できなくなっちまった俺がそこにいた。

 それから、俺は、左頬に走った激痛に気付くまでの間、
・・・自分を完全に見失っちまっていた。



 私は、クローを装着していたことも忘れ、ディッシェムを力の限り殴っていた。
ディッシェムは、右手に持つスピアをも投げ出し、倒れこんだ。
クローの刃が、ディッシェムの左頬に、赤々とした爪痕を残していた・・・。
「気を落ち着けろ、目的を忘れるんじゃない。
 ・・・私達は、鍛冶屋を探している。」

 ディッシェムは、しばらく、呆然とした後、ゆっくりと右手を地に付け、
体を起こし始めた。

「―――そうかよ・・・。」

 手や服についた土を払いながら、やがて左手で、
赤く腫れた左頬を押さえつつ、立ち上がった・・・。
 そして、私は、ディッシェムの視線が私を強く睨みつけていることに気付きながら、
ただ、ディッシェムの存在を無視するかのように、先へと歩み始めた。
 地を踏む足音は、ただ、私のもの1つしか聞こえなかった。
そして、それ以後、ディッシェムが、私の後を追いかける事は、なかった・・・。



 俺は、セニフの野郎の姿が消えた頃、スピアをひろいあげ、
そいつと全然違う方へと歩き始めた。
「・・・セニフの野郎、―――どうにでもなっちまえ・・。」
 少しずつ、辺りが明るくなってきやがった。それと一緒に、
左ほほの傷が、だんだんとうずきだしてきやがった・・・。
 もう、これからどうすりゃいいかなんて考える俺は、そこにいやしなかった。
 そんな俺の目の前にあったのは、回りの廃墟の中に1つだけ、
・・・たった1つだけ、俺の知ってる頃に戻ってる建物を見つけた。

 ―――グロシェ大聖堂・・・。

 俺は、なんとなく、その建物に近づき、そして、中へと、入った。
明かりも灯ってなくて、中の様子は真っ暗で何にも見えやしなかった。






 (78日目朝)
「ん?」
 何かの気配に気付いた俺は、その大聖堂の中に、1人、
座ってる奴がいることに気付いた。
 見覚えのある奴だった・・・。
「・・・おい、・・・何してんだ・・?」
 そいつは、ビックリしたような、表情を浮かべて振り返って来やがった。
「なんのようじゃ・・・。」
「あんた・・・、前に聖堂にいたじいさんだな・・。」
「・・・おまえさんは・・?」
「ディッシェム。・・・前に女2人と、男がもう1人で、
 ここに来たのを覚えて・・・」


「―――ディッシェム、・・・殺し屋じゃな。」

 そいつは顔を強張らせた。
「・・・な、違うぜ!!・・・俺は、モンスターズハンター・・。」

 そいつは、突然、目を見開いた。何かにひきよせられるみてぇに、
俺の方に近づいて、俺の左ほほにふれやがった。
「触るんじゃネェ!!」
 俺は、思いっきり、それをふりほどいた。だが、そいつは、
それでもなおも、俺の左ほほを見開いた目で見てやがった。
「・・・それは、どうしたんじゃ?」
「うるせぇ!!セニフのクソ野郎のことを思い出さすんじゃねぇ!!
 いいから、これ以上、触るんじゃねぇ!!」

 そう言うと、今度は、少し離れて、やっぱり、俺をまじまじと見てきながら、
話し始めやがった・・・。
「今、確かに、・・・確かに、セニフと言うたな!!」
「しつこいぜ!!その名を言うんじゃねぇよ!!」
「どこじゃ?セニフ様はどこにおられる!!」
「知るかよ?!さっき、俺をぶん殴ってどっかに行っちまったよ!!
 ・・・それに、何だよ、テメェも。セニフ様、セニフ様ってよ・・・。
 ―――そんなに、あの野郎は、偉い奴なのかよ?!」

「間違いはない、・・・このロベルタクスストーンの気配・・。
 ・・・セニフ様のものじゃ・・・。」

「ロベルタクス・・・ストーン・・・?」



 そいつも、その石っころの名前を知っていやがった・・。
「この地方でわずかにしか採れぬ、不思議な、強力な魔力を秘める石―――」
 そいつの長い説明を聞いてるうちに、なんとなく、
そのロベルタクスストーンって奴が、何なのか分かってきた。
 鉱業で栄えた国、大聖堂のある国、争いの絶えない国、
そして、軍部と殺し屋の国・・・。いろんな事をこの国にもたらした物・・・。
 それが、この国で採れる、ロベルタクスストーン・・・。
 そして、そいつの話の終わりで、俺は、聞いたことのある奴の名を聞いた・・・。
「・・・わしは、それで、クロー・ロングソード・スピアを鍛え、
 そして、託した・・・、ルシア様と、その仲間達に―――。」

「もしかして、・・・お前。―――鍛冶屋なのか?!」
「・・・いかにも。このロベルタクスストーンの恐るべき力を知り、
 それを人に明かす事なく護り、そして、引き出す技術を受け継ぐ者の1人・・・。」

「・・・あの野郎の持ってるクローが、・・・そんなロベルタクスストーンを
 鍛えたもんだって言うのかよ・・・。なんで、あんな・・・野郎に?」

「お前さん、・・・殺し屋でなく、モンスターズハンターだと言ったの。
 それならば、わしの依頼を請けてはくれぬか?」

「・・・依頼?」
「―――セニフ様を、そして、・・・わしの仕事道具をここへ・・・。」
「セニフの野郎―――」
 俺が、そう言おうとしたとたん、じいさんが俺の言葉をさえぎりやがった。
「わしの全財産をくれてやろう・・・。モンスターズハンターとして、
 請けてはくれぬだろうか?・・・仕事道具一式は、グロートセリヌ城に置いておる。」

「―――俺は、じいさんに用があって来た・・。たぶん、じいさんのことで、
 間違いねぇと思う。・・・だったら、請けてやる。だがよ・・・、
 ・・・教えてくれねぇか?一体、あの野郎とロベルタクスストーン・・・、
 何の関わりがあるって言うんだよ?」

「・・・わしの話を聞いたであろう。ロベルタクスストーンの持つ力。
 それは、己の力と呼応し、互いにそれを増幅し、爆発的に互いの力を高める・・・。
 ―――それを理解する者と認め、初めて、鍛える・・・。
 じゃが、今・・・、この国に、―――わし以外の何者かが、この技術を知り、
 そして、それを、邪な目的に使わんとしていることに気付いた。
 ・・・黙って見ているわけにはいかぬ・・・、
 だが、もはや、わしひとりではどうにもならぬ程のものになっておる・・・。
 もし、時がこれ以上に経てば、・・・この国に未来はない。」

「セニフの野郎・・・、あいつなら、・・・この国は、救えんのか?」



 俺のその質問に、なぜか、じいさんは、すぐに首をたてには振らなかった・・・。
「な、どうしてだよ?!ここまできて、じいさんは、『セニフ様』って呼んでる、
 あの野郎を信用できないってのかよ?!今の話じゃあ、
 セニフの野郎しか、この国を救えそうな奴がいないじゃねぇかよ?!」

 そう言った時、俺には、じいさんが、ほんの少しだけ、笑ったみてぇに見えた。
だが、そいつが気のせいだったみてぇに、すぐに、いつものしわだらけの顔で、
俺に言いやがった。
「依頼は、ディシューマ連合に出しておく。くれぐれも、頼んだぞ。」
「あ、ああ。とにかく、グロートセリヌに行ってみるからよ。
 ・・・よっしゃ、そうと分かればよ!!じいさん、すぐ戻ってくるからよ!!」

 俺は、席を立って、外に走って出て行こうとした・・・。
だが、途中で止まって、わざと、じいさんの方を向かずに最後に尋ねてみた・・・。
「なぁ、じいさん・・・。教えてくれねぇか?」
「何をじゃ・・?」
「―――なんで、あいつは・・・、セニフの野郎は、
 俺と協力せずに、1人でやろうとしやがるんだ・・・?
 じいさんは、・・・あの野郎のこと、知ってんだろ?
 ・・・人嫌いとか、・・・俺が邪魔だとか・・・、そんな理由だけじゃねぇだろ?」

「―――確かに、お前さんの言うとおり、普通ならば、お前さんのような者と、
 協力するなんぞ、まっぴらじゃろうな。・・・わしでもそう思うからのぉ・・・。」

「ちっ、・・・そこまで、はっきり言うんじゃねぇよ・・・。」
「じゃがな、・・・誤解だけは、しないでくれ・・・。
 ―――セニフ様は、・・・お前さんの、・・・心強い、味方じゃ・・。
 わしも、セニフ様も、・・・お前さんは、そう信じられる人間じゃと、思っておる。」

「野郎が・・・俺の・・・。」
 あいつの行動を思い出す限り、そんなこと、すぐに信じられやしなかった・・・。
だが、今になって、考えてみた。もし、あいつに接してきた俺が、
今の俺みたいじゃなかったとしたら、・・・あいつは、俺にどう接しただろう・・・。






 (78日目昼)
 10年前。グロートセリヌの王家の血筋は途絶えて、ディシューマ軍に占拠された。
今。ディシューマ軍は敗れた・・・。けど、この城は、重い空気に包まれたまま。
 俺は、静かに城ん中に入ってった。人の気配はなかった・・・。
「・・・誰なんだよ、・・・平和を、ぶち壊す野郎は・・・。」
 俺は、静かに廊下を進んでいった。



「お、おい?!あいつは、ディッシェム・・・、ディッシェムの野郎だ!!」
 すぐにその周りに何人かの男達が集まってきた。
そう、皆、街の人々に選ばれて、この城へと入った者達だった・・・。
「・・・助かるのか、俺達・・・?」
 1人がそう言ったのをきっかけに、他の者も一斉に、
聞こえるはずもないと分かりながらも、助けを求めていた。
―――1人を除いて・・・。

「殺し屋だぜ・・・、彼奴らの手下だろ・・・?」
 そう言った男の言葉の後、他の者は一斉に黙り込んだ。
「くっ、・・・じゃあ、奴は・・・。」
「こ、今度は、・・・何されちまうって言うんだ、俺達はよ?!」
 再び慌てふためき始めた男達を横目に見ながら、その男は、
部屋の外の気配に気付いた・・・。



 俺は、立ち止まった。人の気配・・・。
そいつは、相変わらず無表情で廊下を歩いていやがった。セニフの野郎だ・・・。
 だが、俺の目はそのさらに奥にいた野郎どもの方に向いた。
―――そいつらは、明らかにセニフを警戒してやがる・・・。
「まさか、・・・あいつ、気付いてねぇのか?!」
 そいつらの先頭にいた野郎が合図をする。そいつらが一斉に動き出しやがった!!
「ちっ!!」
 俺は、スピアを構え、階段を駆け上がった!!!
目の前に、セニフの野郎の姿をとらえる!!!
「そこにいる野郎は、誰だ?!!」
 俺がスピアを突き出した時、そいつらは顔を出し、同時に、右の扉が蹴破られた。
「グラヴァティ・・・。」



 左からの者を重力で押しつぶし、右から来た者が放ったスピアをクローでひねり、
そのまま、前方から来た者に突きつけた。
「て、・・てめぇ・・・、人のスピアで何しやがる?!
 ―――助けて・・やったんだぜ?!」

「・・・いたのか?」
 ディッシェムはしばらく私を睨んでいたようだったが、
すぐ違う方向へと目線を変えた。私の目の前にいた男に・・・。
「―――テメェは・・・。」
「・・・ディッシェム、・・・こいつをどけな・・。」
「アトル、アトルだよな・・・?―――何してんだ?」
「テメェにカンケーねぇ。―――しかし、片手でこいつらを・・・。
 ・・・突然とはいえ・・なぁ・・・。」

 ディッシェムにアトルと呼ばれたその男は、私と、横で倒れている男達を見ていた。
「・・・テメェ、黒幕のこと・・・知ってんのか?」
「その前に・・・、こいつ。はずさねぇか?」
 私は、クローを引いた。
「・・・ディッシェム。そいつはなぁ、俺も、テメェもよく知ってる奴だぜ。」
「よく知ってる・・・、殺し屋か?」
 その男は、軽く首をたてに振る。



「・・・イガーの野郎の言葉どおりだったぜ。あいつ、この城の前に来るなり、
 入るのを拒みやがってよ・・・。
 ―――最初、あの野郎を見た時、既に妙だったんだ。街の人間共のいくらかの
 態度が急に変わってよ・・。それからだぜ・・・、だんだんと、他の連中も
 おかしくなって来やがったんだ・・・。まるで、野郎に洗脳されたみてぇに、
 野郎のどんな命令も大人しく聞いちまうようになったんだ・・・。」

「なら、お前らは・・・?」
「さぁな・・・。どういうわけか、俺達は、他の野郎みてぇにはならなかったらしい。
 それで、野郎も、諦めたのかどうなのか・・・、俺達をこんなとこに、
 閉じ込めやがったってわけよ。・・・最後の悪あがきで、野郎と周りの連中が、
 なんか知らねぇ、黒いモンを取り出して、俺等に見せやがったんだ・・・。
 ・・・多分、あれが、洗脳のために必要なもんなんだろうぜ。」

「ロベルタクスストーンか・・・。」
「セニフ・・・?まさか、そいつが持ってたって言うのかよ?」
「―――そう、考えるべきだろう。」
「そいつの・・・名前は?」

「・・・ディシューマ軍直属の、一流殺し屋―――ドミアトセア・・・。
 確かに、俺は、・・・そいつの顔を、この目で見た。」




「ドミー・・・、あいつが・・・。」
「・・・そうか。」
 考えはしたが、やはり、事態は思うよりも早く進んでいた。
ロベルタクスストーンの存在とその力を知り、それを行使する者の存在・・・。
「私とともに街へ戻れ。いいな・・・?」
「・・・あ、あんた、助けてくれんのか?!」
 その男の奥の部屋から、他の街の人間のいくらかが現れた。
だが、それを、その男は、突然制止した。
「何か、気にくわねぇ野郎だぜ・・・、悪いが、テメェの言葉は、のめないな。」
「何故だ?」
「俺達の言葉は、街の連中に伝えろ。俺達が、ここを抜けることは出来ねぇ。」
「セニフ、こいつらの言う通り、先に行ってろ。俺は、やることがあるからよ。」
 ディッシェムが、そう言い残し、すぐさまその場を離れていった。
「・・・な、何をすると言うんだ。」
「セニフ・・・、お前の名か。・・・ディッシェムは、どっか行っちまったが、
 どうする?お前の知り合いなんだろ?!」

「知り合い・・・。ならば、先を急ぐ。今、ここにいることが得策とも思えない。」

 私は、その男に背を向ける。・・・背後から声がかかった。
「―――あいつは、どうするつもりか知らねぇ。だがよ、セニフ・・・、
 お前は、―――ドミアトセアの野郎を・・・。」

「ロベルタクスストーンの力を行使する者・・・、見過ごすわけにはいかない。
 ―――例え、それが、何者であろうとも・・・。」

「容赦は・・・ねぇってことか。」
 私は、城の外へと出た。そして、数歩歩き、立ち止まった。
それから、しばらくの時が無言で過ぎさった・・・
「はぁ、はぁ・・・、なんだよ、待ってやがったのか?」

 私は、黙ったまま、ディッシェムに振り返り、クローを鋭く顔面に向けた・・・。






 (78日目夕方)
 私の首元には、ディッシェムのスピアが突き出されていた・・・。
「・・・君も、ようやく、動きがそれらしくなったな。」
「―――これ以上、顔傷つけられちまったら、・・・いやだからよ・・・。
 ・・・セニフよぉ・・・、俺もよ、その・・・、少しは、努力するからよ。」

「スピア・・・、もう、外せ。」
 ディッシェムはスピアをゆっくりと戻した。
「・・・その、なんだ。―――な、仲良くよ・・・」
 その時、ディッシェムの視線が、私の持つものに向けられた。やがて、
ディッシェムは、私にゆっくりと近づいてきた。
「お、おい?お前の右手に持ってるもん・・・、それ、なんだ・・?!」
「―――これを探しに行ったのか?」
「なんで、テメェが、それを持ってやがるんだ?!」
「私は、ある名工の道具を城より持ち出すために―――」
「テメェ?!最初から知ってやがったんだな?!!
 だから、あのじいさんも―――、そ、そうだ!!おい、そいつをよこせ!!」

「何をするんだ?」



 俺は、セニフからあのじいさんの仕事道具を受け取って、グロシェ大聖堂の方に
向かって走っていった。
「おい、じいさん?!取ってきてやったぜ!!
 ・・・ど、どこにいやがるんだよ?!」

 大聖堂の中には誰もいなかった・・・。
「・・・だから、ここで、何をしようと言うんだ?」
「ここに、じいさんがいるんだよ。そうだ、お前のことも知ってやがった!!
 ・・・いつも、ここにいやがるってのに、今日は・・・どこに?」

「もう、ここにはいないのだろう。・・・街に戻るぞ。」
「―――ちっ、どういうことだよ。」
「聞きたいのは私の方だ。」
 セニフの野郎は俺のことを無視して、勝手に先に進みやがった。
とことん憎たらしい野郎・・・。こんな野郎の事を、
あのじいさんに言われた通り、少しは信用して、考え方変えてやろうかとも
思った俺・・・、自分で自分のことがバカじゃねぇのかと思っちまった。



 ディシューマ連合に戻るやいなや、私達はすぐさま、作戦会議に入った。
「とうとう、マジで、決行する日が来ることになるなんてなぁ・・・。」
 所員は、その依頼書を取り出した。
「兄貴・・・、こいつの依頼者は、兄貴がここに帰ってくる時、
 このでけぇ作戦が、実行されると言いやがった。
 ―――関所を、ぶっ壊すっていうでけぇ作戦をな・・・。」

 その言葉に、周りに集まった、街の人間達からも声が上がる。
「関所をぶっ壊す・・・。」
「そりゃあいいぜ!!街の人間、全員で、革命ってところだな!!」
「ちょ、ちょっと待てよ?!俺を差し置いて、どこまで話が進んでやがるんだ?!!」
 ディッシェムがその話の中心へとおどり出てきた。
「・・・空気のよめねぇ野郎だな、テメェも。」
「だいたい、依頼主・・・いや、あのじいさんは、ここにはいねぇのかよ?!
 こ、こいつを取ってくるのが、今回の依頼だったろ?!!」

 ディッシェムは、その箱を取り出した。
「そんなものはとりあえず、お前が預かっていろ。依頼主の持ち物なんだからな。
 ・・・依頼主は自ら、北方への伝令を買って出た。
 あの依頼主自身が、この作戦を口にし、自ら先頭に立って、進めている・・・。
 ―――まだ、若いもんには、負けられぬって言ってな。」

「あの・・・じいさんが・・・?」
「関所を破壊することの意味・・・。邪魔だからとっぱらうってだけが
 目的じゃねぇ。確かに、関所をぶっこわすぐらいが、野郎共に対する、
 俺達が出来る精一杯の抵抗―――だが、抵抗の意思を見せ付けるにゃあ、
 関所をぶっこわすなんてもんじゃ足りねぇ。周りを囲んでやがる壁、
 ・・・そいつを、いっぺんに吹っ飛ばす。こんくらいのことをしてやる・・・」

「そりゃあ、いいぜ!!街・・・いや、国中の人間で協力してやるんだ!!」
「鉱山を野郎共に盗られた恨み!!これまでの憂さも、晴らしてくれらぁ!!」
「そうだぜ・・・、好きにさせてたまるかぁ!!」
「山を・・・俺等が見つけた、あの山を取り返すぞ!!」



 そいつらが盛り上がってやがる中、セニフの奴は、落ち着いた声で言いやがった。
「―――もし、失敗すれば、・・・ただではすまないだろう・・・。
 何をもって、成功とする?・・・当然、奴等もなんらかの反応を示すに違いない。
 その刃が、誰に向けられるかも分からない・・・。安全は、誰にも保証されない。」

「今更、・・・そんなこと、心配する野郎なんて、この国にいやしねぇぜ!!」
 アトルの無事を知ったスラムの連中は、やる気満々みてぇだった。
「自分の国・・・、私達が、それを護ることは、当然の事・・・。」
「西への伝令も・・・始まったみてぇだな。」
 イガーも姿を見せた・・・。
「・・・おめぇら、・・・なんで、こんな急に、ここまで話を進められたんだ?!
 ―――まだ、俺には、・・・何がなんだか、わからねぇぞ!!」

「何、テメェは混乱してやがるんだ?1人で。」
「ディッシェム・・・、あれから、関所を開放しなかった日が、
 今日まで続いた・・・。今の時点で、私達は、その態度を続ける
 中の者に対して、強制的にでも開けさせる準備は、整えてきた・・・。」

「セニフの兄貴によって、・・・街の人間の――― 一部だが、
 無事が伝えられた・・・。明日までには伝令もまた、行き渡る。
 依頼主の言う通り―――、いや、俺達全員がこう思っている。
 ・・・テメェらが、この作戦の、一番の中核・・・リーダーたる人間だってな。」

「ディッシェム。」
「・・・な、何だよ・・。」

 セニフの奴が俺に近づき、そして、部屋の外へ出るように言ってきやがった。
俺は、そのまま部屋から、外へと出た・・・。
「―――これまで、私自身の目で、・・・君を見た。君が、この国にとって、
 どういう人物であり、君自身が、・・・どういう人間であるか・・・。」

「何が言いてぇんだ?」
「・・・君も、これまでの人生で、様々な物を見、聞き、そして、知り得たことから、
 その答えを、己自身で見出せるだろう。ならば、最後に、君に聞く・・・。
 ―――その答えを貫く上で、必要なことは、何であると思う?」

「・・・テメェが俺を見ていた・・か。あれだけ、俺を無視して、
 突き放してよ、・・・そのくせ、俺よりも、ずっとこの国のことを知ってやがる。
 俺の知らねぇことまで、・・・知り過ぎてやがるお前がよ・・・。
 そんなお前を、だから、あいつらは、リーダーだって選んだんだろ・・・?
 ・・・こうなることも、みんな、テメェは、知ってやがったんだろうしな・・・。
 ―――そのテメェが、今更、なんのために、俺に、そんなことを聞きやがる?」


「・・・その答えを貫くことを、私に許されてはいない・・・。」






 (78日目深夜)
「・・・・あれ・・・、あの人は・・・?」
 なんとか、上半身が起こせるようにまでになった・・・。
外からは、相変わらず騒がしい声が聞こえてたわ。
 そして、その声の中に、私の聞き覚えのある声が混じってることに
気付くのに、そんなに時間は必要なかった・・・。
「・・・そっか。・・・私は、・・・・列車から落ちたんだっけ・・・。」
 私の事を探してる連中の声が、近くや遠くからいつまでも聞こえていた・・・。
「あの人、・・・私を、かくまってくれてるの・・・?」
 私は、そのことにやっと気付いた。これ以上は、迷惑なんてかけられない。
そう思って、立ち去ろうと思ったところで、下半身が言う事を聞いてくれなかった。
 ベッドから動く事なんて、出来なかった・・・。



 それから、まただいぶ時間がたった頃だったわ。
外の騒ぎ声も聞こえなくなってた・・・。

「・・・まだ、起きているのね。」
 その声は、私が目を覚ました頃に聞いた男の声じゃなかった。
でも、全然知らない声でもなかった。
「・・・私を、・・・助けてくれた人・・・でしょ?」
 答えは返ってこなかったわ・・・。
「私を・・・かくまってくれてるの?」
「―――何をしたの、あなた。」
「・・・ちょっと、追いかけられるようなこと、しただけよ。」
 扉が静かに叩かれる。真っ黒な服を着ているせいで、まるで、
闇の中に溶け込んだみたいにして、その人は扉に近づいたわ。
 少し、扉を開け、中にその人を入れた。
「・・・奴等の姿も、どうやら、消えたようじゃ、・・・待たせてしまったな。」
「いえ・・・。」
 あの、白髪混じりの人の声だった・・。私を助けてくれた人の、
知り合いなんだろう・・・。
「・・・さて、今宵は静かな夜じゃ・・。どうじゃろう、少し、話をしてくれんか?」



 私は、ディッシェムとともに、再びディシューマ連合へと入った。
「みんな、・・・聞いてくれ。」
 周りの人間が、私の声を聞き、黙った。

「決行は、伝令が行き届き次第・・・、早ければ、明日後の早朝に。
 皆が一斉に、壁を崩し始めたのを合図に、私と・・・ディッシェムで、
 一気に鉄道に入り、鉱山へ行く・・・。」

「・・・こうなりゃあ、テメェらは、待ってろ。
 ・・・俺が、鉱山を取り戻してやらぁ!!」


 その言葉を、皆は今か今かと待っていたらしい。
場の雰囲気は最高潮を迎えていた・・・。
「ディッシェム・・・、俺がお前に、こんなこと言う義理はねぇが・・・、
 ―――分かってるな?テメェは、鉱山で何をしなけりゃならねぇのか・・・。」

「敵をぶっ潰して、鉱山を取り戻す・・・、さっきも言ってやっただろ?」

「・・・ドミアトセア。奴のことは、どうする気だ?」



 俺は、もう、ちゅうちょせずに心に決めたことを答えた・・・。
「・・・お前みてぇに、直接、このセニフの野郎も聞いてくれりゃ、
 分かりやすいんだけどよ・・・。
 ―――心配すんじゃねぇよ。俺は、お前らを裏切る気はねぇ。
 敵をぶっ潰して、鉱山を取り返す。それ以外のことは、しねぇ。」

「・・・テメェなら、そう答えるって思ってたぜ。」
 ホントの事を言っちまえば、俺は、その時になるまで、
出来ることならば、考えたくはなかった。あれから、いくら時がたって、
ドミーの奴が変わっちまったとしても、俺の記憶の中にいる、
あのドミーは、ドミーのまま・・・。
「君は、1人では生きていけない。そんな強い人間には見えない・・・。」
 セニフは、そう俺に言いやがった。
「・・・君は、突き放されることにも、・・・突き放すことにも、
 恐らく、耐えられるほどの心を持ってはいない。
 変わらぬ事、ただ、それのみを、心の拠所としている。
 ―――そこから、逆らう力を、・・・君は、持っているだろうか?」


 俺は、セニフに答えてやった・・・。
「何度も、言わすんじゃねぇ。―――やってやらぁ。テメェらもだ!!」
 そこにいる全員が、手に持ってる武器を高く上げ、大声を出しやがった。
それから、俺達は、準備とかいろいろしつつ、その突入の時を待った・・・。



「―――お前さんの用がある場所は、まさか、この場所ではあるまい。」
「・・・え、ええ。」
「死の大陸―――クリーシェナードに行くのじゃな・・・?」
 私は、黙っていた。
「やめておくことじゃ。・・・あそこに行って、帰って来た者はおらん。
 ・・・もう、今となっては行く者も絶えた。
 ―――この町も、いつしか忘れさられてしもうた・・・。」

「・・・私は、それでも行く。」
 私は、天井を見上げたまま答えた。
「・・・行かなければならないの。・・・もう、引き下がる事も、
 留まることもできないし・・・、これ以上、迷惑だってかけられないわ。」


 私は、それからしばらく、答えが返ってくるまでの間、天井を見つめ続けてた。
「―――この前、1人の男が同じような事を言って、ここから、
 舟で旅立っていった・・・。―――じゃが、あの男・・・。
 ・・・まるで、あの大陸の事を―――あの大陸で起こった事を
 すべて知っているような、そんな雰囲気をもっておった・・・。」

 私には、その男が誰であるのか、はっきりと分かっていた。
「わしは、・・・正直圧倒された。・・・あの男には、何の迷いもなかった。
 ―――あんたは、・・・その男に、似た雰囲気をしておる・・・。」

「・・・いつの、話なの・・?」
「2週間・・・、いやもっと前じゃった・・・。
 ―――ディシューマの軍が、陥落したと聞いたのが、
 その少し、後じゃった気がするからな・・・。」

 私は、そのままゆっくりと横になった。
「・・・そうじゃな。・・・今はまだ、お前さんは寝なければならないんじゃ・・・。」
「私も・・・、そこに行く。・・・連れていってくれる・・・?」
 私は、横になりながら、たずねた。
「・・・・断っても、・・・諦めないじゃろう?」

 そのまま、私は、眠りについた。
「―――すまぬが、外を見てきてはくれぬか?わしは、ここにおる・・・。」
「かしこまりました・・・、では。」
 静かにドアを開いて、外へと出て行った。夜は静かに更けていった・・・。


2005/06/10 edited(2004/05/09 written) by yukki-ts To Be Continued. next to