[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第4幕― 第23章

 (74日目朝)
「―――とにかく、・・・俺の話を聞けよ、アーシェル。」
 ディッシェムは、沈黙を破って話し始めた。
「ここはよ、やっぱ、別々に探した方がいいんじゃねぇのか?」
「シーナは既に別行動を始めた・・・、だが、これ以上、仲間を分裂させたくはない。」
「心配されなくたってよ、俺は死んだりしねぇよ。
 ・・・けどよ、ディシューマのモンスターズハンター事務所のこと、
 やっぱ、お前らより、俺の方がずっとよく知ってんだよ。
 その俺から言ってんだ。あんなとこはよ、集団で行くより、1人で行く方がいいんだ。」


「同感だな。」
 そうセニフはディッシェムに話しかけた。
「・・・なんだよ。俺は1人で行く。・・・余計な手ぇ出すんじゃねぇよ。」
「それ以外に手段も見つからないし、見つかった所で信用に値するものなどない。
 ―――君も、私と同じ考えだと思うのだが。」

「・・・協力なんか、必要ねぇよ。」
「協力も干渉もしない。ただ、同じ行動を同時にすると言っているんだ。」
 ディッシェムはしばらく黙っていたが、やがて、スピアを持って立ち上がった。

「手間、かけさすんじゃねぇぞ。」
 ディッシェムは、そういい残して、1人で外へと向かった。
「たとえ、・・・君が死ぬ事があろうとも、私は1人で行く。」
「テメェ、その言葉、・・・忘れるんじゃねぇぞ。」
 やがて、セニフもディッシェムの向かった方へと歩き、部屋から姿を消した。



「アーシェルさん・・・。」
「2人に、・・・なっちまったな。」
 私もアーシェルさんもしばらく黙って考えていました。
そして、アーシェルさんは口を開きました。

「俺は西へ、・・・行く。」
「西・・・?」
「・・・残された方角は、西しか残っていない・・・。
 そこに、何があるかは知らない。だが、ここで何もしないでいるわけにはいかない。
 ―――何も手がかりはないし、これから何が起こるかも分からない。
 ・・・だが、分からないからこそ、俺は、旅をしなければならない。」

「私も、行きます。・・・西へ。」
 私は、立ち上がって、アーシェルさんの目を見てそう言いました。
「・・・危険な旅になるかもしれない。」
「私は、構いません!!」

 アーシェルさんは、しばらく黙っていましたが、やがて答えてくれました。
「・・・そうか、・・・マーシャも来てくれるか・・・。」
 アーシェルさんは、後ろを振り返りました。
「・・・シーナだけじゃない。・・・ディッシェムや、セニフ、
 ―――それに、マーシャや、・・・俺にも、分からない事はたくさんある。
 でも、みんな、それに向かって歩いてるんだな。
 ・・・俺は、1人、みんなに取り残され、1人で立ち尽くしていた・・・。」

 私は黙って、アーシェルさんの言葉を聞いていました。
「―――俺には、・・・何の力もない。
 ・・・護る事も出来なければ、自分で未来に踏み出す、勇気もない・・・。」

「・・・だから、・・・仲間がいるんだって、・・・アーシェルさんは、
 私に教えてくれました・・・。」

 私は、そう言ったアーシェルさんに近寄りました。
「・・・もし、アーシェルさんに、悩む事があるのなら、
 今度は私が・・・。あの日、アーシェルさんが私に話してくれたように―――。」

「―――よろしくな、これからも・・。」
「はい。」



 (74日目夕方)
 俺とマーシャは、ティメヌ港へと入る、船に乗っていた。
「・・・まず、西を目指す・・・。」
 俺は、船から、グラニソウルの大地へと下り立った。
「ア、アーシェルさん!!!」
「どうした・・・、あ、あぶなっ!!」

 振り返った俺の目の前で、マーシャがバランスを崩して、倒れこんで来た。
寸前のところで、俺は、マーシャの体を支えた・・・。
「・・・あ、ありがとうございます。」
「よかった、無事で・・・。」

 しばらく間があいた後、俺は、マーシャから離れ、また西の方に向き直った。
「―――と、とにかくだ、・・・西に、行くぞ。」
 それから、俺は少し早歩き気味で、西のティメヌ盆地の集落へと向かった。



「・・・そういうことだ。キャラバンとともに、砂漠を越えようと思うのだが。」
「そりゃ、まぁ、構わねぇ・・・けどよ。」
 私達は、キャラバンの近くにいたその人と話をしていました。
「何か、問題でもあるのか?」
「悪いが、先に言っておくぜ。モーグまでの道・・・、
 命を落とすことがあろうと、俺達を恨むんじゃねぇぜ。」

「命を落とす・・・、いったい、砂漠に何があると言うのですか?」
「10日以上前からだ・・・、急に、砂漠が、・・・騒がしくなってきやがったんだ。」
「騒がしくなった?」
「―――モンスターどもだ。」
「それくらい、覚悟の上だ。」
「今まで、見た事もねぇような、奴等だって言ってもか?」
「見た事も・・・ない?」
「長い事砂漠にいた、俺達ですら、あんな野郎共、見た事がねぇんだ・・・。
 ―――その様子じゃ、なんで、お前ら以外に客がいねぇのか、知らないんだな。」

 私達の周りには、ほとんど人がいませんでした。そういえば、
船の中にも、あまり人がいなかったことを思い出しました。
「砂漠に潜んでやがるのは、モンスター共だけじゃねぇ。
 ・・・あの野郎共、ザヌレコフ盗賊団の一味を見たって奴がいるんだ。」

「ザヌレコフ盗賊団?」
「砂漠に潜んで、・・・何をしようとしているんだ?」
「―――悪いことは言わねぇよ。関わるとろくなことにならねぇ。
 ・・・さ、乗るんだろ?なら、乗ってくれや。こっちも、商売あがったりでよ。」




 それから、俺達は、キャラバンと共に、砂漠を突き進んでいった。
やがて辺りは暗くなり、月夜となった・・・。
「さてと・・・、盗賊団は、見えねぇが・・・。」
「静か・・・だな。」
「さぁ、ソウル砂漠だ。―――持てる武器があんなら、持ってろよ!!」
 そう言って、中にいた者は、武器を持ち、外へと出た。
 やがて、それらは突如として、砂漠の中から姿を現した。
無数とも言える、モンスターの集団だった・・・。






 (75日目朝)
「どう言うことだよ?!・・・何もそんな情報はないだと?!」
 俺と、セニフの野郎は、船から下りるなりすぐに、ディシューマ連合に行った。
「あのなぁ、ディッシェム。―――雫の結晶のありかだと?
 確かに、価値はあるのかもしれねぇぜ。だけどよぉ・・・、
 ・・・そんな、あるかどうかもわかんねぇもん、
 まず、手に入れようって奴がいねぇんだから、俺達だって知らねぇぜ。」

 俺は、いきなり手詰まりになっちまったってことに気付いた。
「ちっ、なんだよ、この様はよぉ!!どこのどいつだ?
 ・・・私も同じ意見だ、とか抜かした野郎はよ?!」

 そう言って、その野郎の顔を見た。セニフの野郎は、顔色1つ変えやしなかった。
「ま、そこらへんに散らばってる宝石だとか狙ってる輩なら、
 掃いて捨てるほどいるんだけどな。なんでも、頼れるなんて思ってんじゃねぇよ。」

「がっかりだぜ、お前にはよぉ・・・。」
「例えば、この依頼書とかな。・・・ロベルなんとかって石を探してるって野郎で、
 ・・・俺がここに来た時にはもうあったけどよ。知らないもんは知らねぇんだよ。」

「・・・ロベルタクスストーンか?」
「ん?なんだよ、知ってんのか?」
「なんで、テメェが・・・。」
「こりゃいいぜ。どうだい、兄貴?この依頼書、請けちゃあくれないか?」
「な、何言ってやがる?俺達は、そんなくだらねぇ事してる場合じゃあ!!」
「依頼主は、どこにいる?」



 依頼書の元、私は、東の方へと向かった。
「おい!!俺を置いてくんじゃねぇ!!
 だいたい、何だよ?ロベルタクスストーンってのはよ!!
 なんで、そんな俺も知らねぇようなもんを、ジストラスのとこの奴等が?
 ・・・いや、だからよ、セニフ、少し待てって言ってんだろ?!」
 
 しばらく歩いて、私は、それらしき廃墟の街を目にした。
「なぁ、いい加減よぉ、黙りすぎじゃねぇか?!!」
 私は、振り返り、クローを喉元に突きつけた。
「・・・足手まといになる。今、君に協力してもらう必要はない。」
 その状態にありながらも、ディッシェムに、ひるむ様子はなかった。
私は、再び歩き始める事にした。
「ちっ・・・。この野郎、―――背後から、突き殺してやろうかぁ・・・。」
 ディッシェムは、私が立ち止まったことに気付かず、ぶつかってきた。
「な、何してやがる?!」
「・・・。」
 気配は2つ、その2人は、目の前の建物から姿を現した。



 そいつらは、ナイフを手にして、一気に攻めて来やがった。
「ま、待ちやがれ、テメェら!!何をしやがる?!」
 答えることもなしに、そいつらは、ナイフで俺を突いてきやがった。
とっさに後ろに避けるが、マントの端が切り裂かれちまった。
「ちっ、速ぇ!!」
 だが、俺は、落ち着いてスピアを操り、そいつらに一撃を加えてやった。
そいつらの動きが鈍った瞬間、エクスプロージョンで、地面に叩きつける・・・。
「―――ちくしょう、ディッシェムの野郎が、・・・なんで、ここに。」
「聞きたいのはこっちだぜ。いきなり襲い掛かってくんじゃねぇよ!!
 ・・・そういや、テメェら。まだ、このスラムにいやがったのか?
 あのジストラスの野郎にひっついてたテメェらがよ。」

「うるせぇ、殺し屋のテメェにゃあ分からねぇ。」
「確かに、ジストラスさんは、逝っちまった。けどよ、ここは、
 ジストラスさんが残した場所。俺達が、自分を取り戻せた場所なんだ。」

「・・・そのような場所から、逃げ出す理由は、これか?」
 セニフの一言で、そいつらは凍りついた。
「―――て、テメェ、・・・そ、そいつは。」
「なんだ?・・・これ、テメェらなのか?」
 俺が、セニフから依頼書を取り上げたとたん、そいつらが奪おうと、
また襲い掛かってきやがった!!
「そんなの持ってんじゃねぇ!!今すぐ、俺等によこしやがれ!!」
「ちっ、放しやがれ!!お、おい、セニフ!!手ぇ貸せ!!」
 セニフは、目を離したその一瞬で、姿を消していやがった。
「あ、あの野郎?!ど、何処行きやがった!!!」



「おい、そっちを頼む!!さ、しっかり持てよ!!」
「ほら、しっかりしろよ!!モーグ盆地まで来たからな!!」
「み、みなさん。ほ、本当にありがとうございます!!」
「君も災難だったな。とにかく、まずは、宿でゆっくり休ませてやろう。」
 それから、キャラバンの人達と一緒に、宿屋へと入りました。
「おい、誰かいるか?!けが人がいるんだ!!」
「いらっしゃいま・・、こ、これは、どうなされたのです?!」
「お願いします。アーシェルさんを、・・・アーシェルさんを!!」
「砂漠で大量のモンスターが一斉に放った火炎を、まともにくらいやがったんだ。
 ・・・おかげで、俺達は救われたが、・・・このままじゃ、帰れねぇからな。」

「できる限り手を尽くしましょう。さあ、その人を、上の階へ・・・。」
 アーシェルさんは、ものすごい大ヤケドを負っていました。
でも、私の力だけでは、どうすることも出来ませんでした。



 (75日目夕方)
 私は、細い回廊を抜け、やがて、その部屋の中へと入った。
そして、そこにいる黒装束をまとう者と会話していた。
「・・・ここでは、見ない顔だな。」
「ああ、そうだろう。」
「何も用がないのならば、ここから立ち去るといい。」
「そうもいかない。ロベルタクスストーンを知る人間がいるとなれば、
 黙って見過ごすわけにはいかないからな・・・。」

 その名を出すと、黒装束は顔色を変えた。
「―――名はなんと言う?」
「なぜ、ここで名乗らねばならない?」
「同じ言葉を返すことになるが、それでもいいか?」
「・・・そうか。この私も、ロベルタクスストーンの名を知ることは、
 許されていないか。いいだろう。私の名は、セニフという。」

「セニフ・・・。」
 私の名を聞いた途端、黒装束の声色が変わったようだった。
「―――セニフ様?」
「おい、テメェ!!勝手に消えてんじゃねぇよ!!!」
 ディッシェムの声が部屋に響く。
「・・・だ、誰だ、・・・そいつ?」
 私は、その時、その黒装束の者を、記憶の奥底より呼び起こした。
それは、実に10年以上も昔の、古く、鮮明な記憶だった・・・。






 (75日目夜)
 俺は、ゆっくりと立ち上がった。ふらふらとおぼつかない足取りで、
窓の方へと歩き、外を見た。既に、辺りは真っ暗になっていた。
「・・・よかった、気付かれたのですね。」
「ここは・・・?」
「モーグ盆地の集落・・・だそうです。」
「―――もう、そんなところまで来ていたのか。」
 マーシャが、ゆっくりと俺のところへと近づいて来た。
「アーシェルさんが、倒れてしまった時、私・・・、―――私・・・」
「・・・悪かったな、心配かけさせて。」
「私の事は構いません。・・・アーシェルさんが、また、こうして、
 起きて下さっただけでも、私は・・・。」

「―――迷惑・・・だよな、俺。」
 俺は、そう口から漏らしていた。
「そ、そんなこと、私は思っていません!!」
「いいんだ。分かってる。だが、俺は・・・。」



 アーシェルさんは、ゆっくりと私から離れて、部屋のドアの方へと向かいました。
「ど、どこに行くのですか?」
「・・・すこし、外に出るだけだ。すぐに戻ってくる。」
 アーシェルさんは、そう言って、外へ出て行きました。
少しの間、待っていましたが、そうしている内に、だんだん、心配になっていました。

「アーシェルさん?」
 宿屋から外へ出て、辺りを見回しても、アーシェルさんの姿はありませんでした。
私は、慌てて、周りを探し始めました。
 そして、それからすぐ、トンネルの近くでうずくまっていた、
アーシェルさんを見つけました。
「アーシェルさん!!どうして、こんなところに!!」
「・・・すぐ、戻ると・・・言っただろう?」
「こんな体で、無理しないでください。」
 そう言った時、少しアーシェルさんの体が震えて、やがて、私から
離れるようにして、立ち上がり、足を引きずって、トンネルの方へ向かいました。
「宿屋の人も言っていました。あと、一週間もすれば、元に戻るって。
 今、こんなに急いでも仕方がないじゃないですか!!
 ・・・早く、宿屋に戻りましょう!!」

「一週間か・・・。マーシャ。・・・俺、もう、決めたんだ。
 マーシャに、これ以上、心配なんか、かけさせない。かけさせたくない・・・。」

 アーシェルさんは、私の声を聞かないようにして、先に進んでいきました。
「・・・。」
 私は、そんなアーシェルさんの後を、ゆっくりと歩いていきました。



 そこにいた野郎は、俺のことを、上から下までジロジロと見てやがった。
「・・・あなたの名は?」
「俺の名前?・・・ディッシェムだけど、そ、それがどうした?!」
「ディッシェム・・・。」
「・・・答えねぇなら、答えねぇで構わないけどよ・・・、
 こいつだけは、はっきりさせな。このスラムに、突然、何のために来やがった?」

「・・・あなたに話したところで、どうなると言う?」
「どうなる・・・?さぁな。けどよ、ここの奴等ん中には、
 ・・・顔見知りもいるんだ。そいつらを追いかける理由ってのはなんだ?」

「それは、君と私が、ここに来た理由・・・そのものだ。」
「―――あの依頼書か?・・・ロベルタクスストーンがどうだとか・・・。」
「そうだ。このスラムの人間に、その石の存在を知り、
 探し求めようとしていた者がいると聞いた。」

「・・・そいつを、探してたってわけか?」
「むしろ、理由と、探させた人間・・・と言った方がいいだろう。」
「・・・一体、何なんだよ?そこまでしなけりゃならない程の、その石って?」
「―――事は、急を要するか・・・。」
 セニフは、俺の方に向いた。
「一度、・・・レイティナークへ戻ろう。」
「は?戻る・・・?」
「ああ、そうだ。さぁ、早く行け。」
「おい、1人で分かったような事言ってんじゃねぇ。何がどうなってやがる?!」
「ディッシェムと言ったな・・・。」
 俺は呼び止められた。
「ああ。それがどうした?」
「・・・いずれ、また会う時があるだろう。その時を楽しみにしている。」
「何言ってんだ?テメェ・・・。」
 結局、何がどうなってんのか分からねぇまま、セニフの言う通り、
俺達は、レイティナークまで戻った。もう、真夜中になっちまってた。



 (76日目早朝)
 私は、体中を強く打って地面に転がってた・・・。
「・・・なんとか・・・、助かったらし―――、うッ・・。」
 足から、すごい激痛が走った。気付かないうちに、大量に出血していた・・・。
「・・・こ、このままじゃ、・・・まずいわね。」
 意識ははっきりしてなかった。列車から落ちた記憶は残ってたけど、
それが、いつのことなのかも、思い出せそうになかった。
 足の、ものすごい痛みに耐えながら、私は、ゆっくり立ち上がって、
南の方へと1人で歩き始めたわ。



 (76日目朝)
 一晩かかって、俺達は、頂上にたどり着いた。
「・・・アーシェルさん。」
「ようやく、着いた・・・。ここが、修行施設・・・。」
「そうです。・・・一度、ここで休みましょう。もう、朝になってしまいました。」
「ああ、そうだな。」
 だが、俺は、もうこの時には、マーシャの言うことを聞いていなかった。
俺は、ただ、1つの目的のために、何も考えず、修行施設の中へと入っていった。
 もう、体中がボロボロになっていることも、忘れていた・・・。
「おはようございます、修行施設へようこそ。申し込みをされますか?」
「頼む!!なるべく早く、ロングソードが扱えるように、なりたいんだが!!」
「そうですね。・・・では、ナイフを扱ったことはありますか?」
 俺は、所員の質問に、素直に答えた。
「い、いや。」
「では、今までに、ソード系の武器を扱ったことはないと・・・。」
 俺は、沈黙していた。
「・・・ならば、いきなりロングソードを習得するのは困難でしょう。
 まずは、ソード系の基本の武器である、ナイフやショートソードから―――」

「時間がないんだ!!できれば、ロングソードを!!」
「・・・では、あなたは、今まで、どのような武器を扱い、得意としていたのですか?」

 そう聞かれた俺は、アーチェリーを手にしていた・・・。






 (76日目朝)
「・・・アーチェリーをされているのですね。
 では、どうして、ロングソードを習得したいと?」

 俺は、正直な気持ちを答えた。
「アーチェリーでは、・・・どうしても足でまといになる。
 ・・・ロングソードのように、接近戦をすることが出来ない。
 そうしなければ、・・・俺は、仲間を守れないんだ。
 やはり、・・・ダメなのだろうか?それなら、仕方ない。時間はかかってでも・・・。」

「・・・あなたは、そう考えないかもしれませんが、アーチェリー自体、
 実戦で使用するには、ロングソードと同じ位、習得の難しいものなのです。
 どうでしょうか?ここで、アーチェリーを、完全にマスターしてみると言うのは。」

「アーチェリーでは、ダメなんだ!!」
「特別の理由があるのなら、仕方がありません。ですが、アーチェリーに、
 何か不満があるというのなら、ちょうど、この機会に、あなたが本当に、
 アーチェリーを使いこなしているかどうか、試してみては?
 ・・・そして極めてみてから、それでもダメならば、また考えましょう。」

 俺は、その答えに、いくらか憤慨していた。少なくとも、
ここで得られることなど、既に叩き込まれていると思っていた。
「ああ、いいだろう。」



 私は、急ぎ足で歩いている、アーシェルさんの姿を見つけました。
「こんなところに!!アーシェルさん!!」
 でも、アーシェルさんは、まるで聞こえていないようでした。
私は、すぐに、そのあとを追いかけました。
 そして、アーシェルさんは、ある部屋へと入りました。
その時、突然、アーシェルさんは、大きな声を上げました。
「な、何をするんだ?!」
「へぇ・・・、門下生の割に、いいアーチェリー使ってるじゃない。」
「・・・女?」
 私は、陰の方から、その様子を見ていました。そこにいたのは、
アーシェルさんの持っていたアーチェリーを眺めている女の人でした。
「返せ!!」
「・・・こんなもの、ただの宝の持ち腐れね。・・・あんたは、こんなもんで十分よ。」
 女の人は、アーシェルさんに、壁にかけてあった、
古いボロボロの、アーチェリーを投げ渡しました。
「それで、あの的にめがけて、一発。ぶちこみな!!」
 そう言われてアーシェルさんは、細長いその部屋の、一番奥にある的を見ていました。
「あれを居抜けば、・・・返すんだな?!」
「・・・私がいいというまで、これは私が預かるわ。」
「く・・、見てろ!!」



 俺は、そのライトアーチェリーを構えた。不思議と、それは手によく馴染んだ。
アローの先端に全神経を集中し、的の中央、その一点だけを凝視した・・・。
 そして、俺は、目を見開き、アローを放った。
空を切り裂き、それは、的の中心に、深々と突き刺さっていた・・・。
「・・・上出来ね。」
「この程度・・・、バカにするんじゃない。」
「狙いはバッチリね、・・・まぁ、それは当然としても、
 そうね。あんたは、まず、集中の仕方に問題ありね。」

「どういうことだ?俺に、集中力がないとでも言いたいのか?」
「あのねぇ。人に尋ねるときの聞き方っていうのを知らないの?
 『どのように問題があるのですか?教えてください。』ってね。
 ―――確かに、矢を放った瞬間の、あんたの集中力、・・・尋常じゃなかったわ。
 ・・・あんたみたいなの、めずらしい方よ。・・・でも、それじゃ、役に立たないわ。」

「実戦だったなら、一瞬で!!」
「アーチェリーで戦いを挑もうとする人間が、放つ時だけ一生懸命集中しても、
 意味ないの。それじゃ、遅いわ。意識して、集中なんかしても、疲れるだけよ。
 結局、足手まといになるわ。」

 俺は、足手まといという言葉に反応して、口どもった・・・。
「・・・お、俺は。」
「―――それと、あんたのアローから、・・・わずかだけど、魔力を感じるわね。」
「魔力?・・・お、俺は、別に、魔力を込めてはいない・・・。」
「そう、正直なのね。・・・あれは、魔法戦士特有の反応なの。
 ―――あんたに、魔法戦士としての素質があるってことよ。」

 女は、俺の方に近づいてきた。
「・・・その2つくらいかしらね。あなたに、欠けてる、大事なものは。
 どっちも、あんたの考え方の問題なの。どう?ここで、修行してみる?」

「修行・・・。」
 俺は、まだ、このままうなずいてもいいのかどうか、考えがまとまっていなかった。
「・・・そうね。あんたがどれほどの力を実戦で発揮できるのか。
 ・・・それを見てからにしようかしらね。」

「実戦・・・?」
「さ、こっちについてらっしゃい。」



 アーシェルさんは、闘技場の中で、敵が出てくるのを待っていました。
「・・・魔力は使ってはならない。・・・あくまで、俺の力だけで、
 モンスター一体を、・・・アロー、10本でしとめる。」

 そして、アーシェルさんの目の前で、柵が開き、そこからモンスターが現れました。
「―――スライム?!」
 すぐに、アーシェルさんは、スライムにアーチェリーを向けました。
スライムはアーシェルさんに近寄ってきて、突然とびかかりました!!
一瞬、後ろに下がりましたが、アーシェルさんは、アローを放ちました。
ところが、スライムは、まるでそれを分かっていたかのように、避けていきました。
「・・・避けただと?!」
 スライムは、それからも、アーシェルさんをまるで、翻弄しているかのように、
予想もつかないような動きをして、時々、アーシェルさんに飛び掛っていきました。
その度に、アーシェルさんは、アローを放ちましたが、どれも当たりませんでした。



 俺は、その時、まだ気付いてはいなかった。それが、本物のスライムではないことに。
「7本目。あと、3本・・・、少し、早すぎたかしらね。」
 その女は、俺からは見えない場所から、スライムに行動の指示を与えていた。
「・・・8本目。」
 俺は、残り2本になってから、このまま同じ事を繰り返しても、
仕方がないということに、気付いた。
「あと2本・・・。さぁ、真正面にまわりなさい。」
 スライムは、その指示に従い、俺の目の前に進んできた。
そして、何かの合図によって、俺の方に飛び掛る!!
 しかし、俺は、アーチェリーを構えたまま、射ようとしなかった。
スライムは、その時、初めて、俺のほうに体当たりを仕掛ける・・・。
「・・・真正面から攻撃したのに、・・・どうして、射ようとしないの?!」






 (76日目朝)
 体中を刺す様な凍える風が、私に吹きつけてきたわ。
自分でもわかった。その風のせいで、私の足の傷は、どんどん悪くなってった。
 そのうち、体力も奪われて、もう、立つこともできなくなってた。
「ここで、・・・私は・・、・・・死ぬの?」
 そのまま、私は、地面に倒れこんだ・・・。
「はは・・・、こんな事なら、・・・もっと、華やかな一生、送ればよかった・・・。
 ・・・私の一生なんて、・・・どうでもいいことばっかり、だったわ。」

 横になって、過去を振り返ってた・・・。
「でも、・・なんでだろ。―――どうしても、私は、昔の記憶を、取り戻せない。
 ・・・マーシャや、アーシェル・・・、ディッシュ・・。
 セニフや、クダール・・・、それに、他にもたくさんの人達にあったわ。」

 私は、静かに目を閉じた。
「―――でも、私は、思い出せない・・・。本当の、・・・私の、姿を・・・。」
 体中が、冷え切っていくのがわかった。それでも、そんな私のこと、
お構いなしに、いつまでも、冷たい風は、私に吹き付けてきてた・・・。



 どれぐらい、それから時間がたった頃だろう・・・。
体は冷え切って、意識もなくなって、もう、傷の痛みも感じなくなってた頃・・・。
「・・・こんなところで、・・・何を?」
 目も開けられなかった。近くにいるような気はしたけど、
聞こえてくる声は、まるで、とても遠くから聞こえてくるみたいに、
小さな声だった。静かで、落ち着いた、・・・女の声だった・・・。
「ひどい傷だ・・・。凍傷にもかかっている・・・。」
 すぐ、その女は、私のケガが、放っておけば、死につながるものだったことに
気付いたみたいだった。
「もう、意識もない・・・。呼吸も弱いし、・・・脈も、乱れてきてる・・・。」
 私は、それから、どうなったのか、もう分からなくなってた。
急に、眠たくなって、真っ暗な闇の中で、私は、どこまでもどこまでも、
暗くて深い方へと、ゆっくり落ちて行くような、そんな感じがしてた。

 これが、死ぬってことなのかって、その時には、思っていた・・・。



 女は、アーシェルの周囲から、直接攻撃するように、スライムに命じた。
だが、アーシェルには、まるで、反撃をしようとする様子は見えなかった。
「・・・どういうこと?!」
 女は、アーシェルの行動の変化に戸惑いを覚えながらも、再び、攻撃を命じる。
その瞬間だった。突如として、アーシェルはアーチェリーを構える!!
 女は、慌てて、スライムに回避を命じた。
「・・・そっちかぁ!!」
 アーシェルは、回避したスライムに全神経を集中させ、アローを放った!!
「だ、だめ!!避けられない!!!」
 だが、辛うじて、9本目のアローは、スライムを貫くことなく、
地面へと突き刺さっていた。
「・・・まるで、さっきまでと、行動が別人のようだわ・・・。
 ―――でも、別に、何も変わってないように見える・・・。
 ・・・いったい、何が、起こったっていうのよ?」




 とうとう、残ったアローは、1本になってしまいました。
「アーシェルさん・・・。」
 それでも、アーシェルさんに慌てる様子はありませんでした。
それどころか、アーシェルさんは、もう、目をつむっていました。
 そして、スライムが再び、アーシェルさんの真正面に回り、
そして、飛び掛った時でした。
 アーシェルさんは、目を見開きました。
 私は、その時、今まで、見た事もないような光景を目にしていました。
アーシェルさんの放ったアローが、魔力に取り囲まれ、
とても大きな真空波となって、スライムの体を包み込んでいました。
 そして、スライムを貫いたまま、その勢いのままで、どんどん飛んでいきました。
やがて、壁へと激突しましたが、それでも、魔力は衰えようとしませんでした。
 でも、それを見て、一番呆然としていたのは、アーシェルさん自身でした。



 俺は、その女が、再び俺の目の前に現れるまで、その場に立ち尽くしていた。
「・・・魔力を使った覚えはない・・・、だが、最後の一発は、
 ―――あれは、俺の、力じゃあ、ない・・・。」

「本当・・・なの?」
「あんな、魔力・・・、普通の人間じゃ、出せない・・・。」
 女は、それから一呼吸置いて、俺に質問してきた。
「あんた、・・・名前、なんていうの?」
 女の突然の質問にいくらか動揺したが、すぐにこたえた。
「・・・アーシェル。」
「本名があるでしょ・・・。」
「・・・ア、アーシェル=ラストラル・・。」
「ラストラル・・・、どこ、・・・出身なの?」
「スフィーガル、・・・イシェル。」
 そう俺が答えた後、女は、こう口にした・・・。

「・・・あんた、・・・まさか、ラストル様を・・・知っているの?」

 想像もしていなかった質問だったが、すぐに、それに答えた。
「・・・聞いたことはある。」
「そう。・・・やっぱりね。」
 女は、俺に近づいてきた。



「・・・心配しなくても、何もしないわ。」
「な、何もしないって、・・お、おまえ・・・?」
「あんたじゃないわ・・。後ろで心配そうにしてる、あの娘に言ったの。」
 アーシェルさんは、私のことを見つけました。
「・・・マーシャ!!・・・な、何してんだ!?」
「そ、その・・。・・・アーシェルさんが、突然ここに走ってきていたので。」
「へぇ・・・、あの娘、あんたの?」
「な・・・、何言ってんだ!?・・・そ、そんなわけ・・・、な、ないじゃ・・。」
「あんた、かわいいわね。仲間かって聞いただけなのに。
 ―――改めて、自己紹介しようかしらね。私は、
 ラストルの四使徒の1人、シオン。・・・お久しぶりね、・・・マーシャ。」

 アーシェルさんは、それを聞いて、私の方を向きました。
「ええ。前に、シーナさんと一緒に・・・。」
「・・・そうなのか。」
「そうよ。こんな女の子2人で、ザヌレコフと渡り合ったなんてね・・・。」
「シオンさんが助けてくれたおかげです。」
「いいじゃないのよ、こんなに、心強い仲間が一緒だなんてね、あんたも。」

「・・・いいわけ、ないだろう。」

 アーシェルさんは、真剣な顔をしていました。






 (76日目昼)
「・・・ちくしょう。セニフの野郎、どこに行きやがった?!」
 朝起きた時にはセニフの野郎は姿を消してやがった。
宿を飛び出して、レイティナーク中を探し回ったが、どこにもいやしなかった。
「それにしても、セニフの野郎にしたって、ジストラスの連中にしたって、
 石っころ1つで、なんで、あぁまで騒ぐ必要があんだよ・・・。」


 俺は、結局、宿に戻っちまってた。どうせ、ディシューマ連合行ったって、
何にも出来やしないし、ひょっとして、戻ってやがるんじゃねぇのかとも考えてた。
「・・・よく考えてみりゃ、雫の結晶とかいう石っころに
 いいように、転がされてんのって、・・・俺じゃねぇかよ。」


「きゃっ!!」「う、うわぁっ!!」

 階段を上ったところで、急にそのガキが飛び出して、
危うくぶつかっちまうとこだった。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「なにをしてるの、ミーナ!!飛び出したりして!!!」
 そう言って、女が近付いてきた。このガキの母親みてぇだった。
「お怪我はありませんか?」
「あ、ああ・・・、ぶつかったわけじゃ、ねぇからな。」
 そう言ってもまだ、その女は、俺のことを見回して、
ケガしてる場所を探そうとしてやがった。
「・・・ホントに、大丈夫だからよ!!」
 それからなんだかんだやったあと、やっと、そいつらは下りてった。

「―――俺が、誰かも、知らねぇでよ・・・。」

 俺は、レイティナークにいる間中、俺のことを知ってる奴からは、
いつでも、冷たい目で見られてた。俺が、殺し屋だから。
でも、それにも、慣れちまってた。・・・けど、殺し屋ってのがなくなった今にしても、
結局、この街の連中の、俺に対する態度は、何一つ変わっちゃなかった。



 (76日目夕方)
 結局、セニフの野郎はいつまで待っても戻ってきやしなかった。
「・・・どうすんだ、俺。このまま、何にもせずに、1日終えちまうのか?!」
 いい加減、待ちくたびれた頃になって、ドアがノックされた・・・。
「おい、セニフ?!さっさと、入って来やがれ!!」

「・・・ディッシェムさんの、お部屋ですか?」
 女の声だった。俺は、その声を聞いた事がある。さっき階段であった女だ。
ドアに近づき、壁を背にして、扉を開かないまま答えた。
「何しに来た・・・?」
「―――あなたに、・・・殺し屋であるあなたに、お願いがあります・・・。」
「・・・俺は、もう、殺し屋じゃねぇし、・・・殺しの依頼なら、お断りだぜ。」
「いいえ・・・。」
「俺の名前は、どっかで聞くことが出来たにしたって、俺が、
 殺し屋だったなんてこと、この街の人間でもねぇ奴が知るはずなんてねぇ。
 だいたい、知ったところで、なんで自分から近づいてきやがる・・・?」

「バーミル、・・・バーミル=フォンロートという男について、
 教えていただきたいのです。あなたなら、きっと、よくご存知だと・・・」

 俺は、少しドアを開けた。外にいる女と、そのガキは、ドアから離れて、
じっと、ドアが開けられるのを待っていやがった。

「・・・バーミル、雷使いのバーミルなんて殺し屋の・・・、
 ―――しかも、あの野郎が隠してやがった本名まで知ってやがる・・。
 ・・・テメェ、一体、・・・何者だ?」

「パメラ・・、パメラ=フォンロートと申します。」



 俺は、扉ごしに話を続けた。ドアを開けた途端、ナイフ突き出されるなんて
殺し屋の頃じゃ、めずらしくもなんともねぇ話だった・・・。
「あなたの名前は、あの人から聞かされたことがあります。
 スピアを持つあなたを見て、もしやと思い・・・。」

「・・・で、奴の、・・・何が知りたいって言うんだ?」
「―――今の、・・・居場所を。」
 バーミル・・・。俺が殺し屋を始める前、あのジストラスの野郎の
パートナーだった奴の名・・・。だが、俺は、・・・いや、他の殺し屋も、
あいつは、あんまり近づきたくねぇ野郎だった。奴のことは、
俺、いや、他の殺し屋にしたって、そんなにたくさんのことは知っちゃあない。
 野郎自身が、隠してやがった・・・。例え、その相手が、ガーディアであろうと。
「もう、私も、この子も・・・、あの人に帰ってきて欲しい・・・、
 ただ、それだけを、願っています。もう、私のことは、いいから・・・。」


 ただ、1つはっきりしてやがるのは、もうこの国に、殺し屋って奴はいねぇって事。
「・・・もう、奴は、ここにゃ、いねぇよ。」
 殺し屋の職を奪われた連中は、廃棄物をかっさらうだけかっさらって、
ディシューマから抜け出しやがった。バーミルも、そんな野郎の1人だ・・・。
「・・・探しても、見つからないはずですね。」
「テメェも、・・・殺し屋なんて腐った仕事してた野郎に、今更、よく、
 会いたいなんて、言ってられるな。・・・まともになんて、生きれやしねぇのによ。」

「あの人は、―――私の父親の仇を討つ、そのために、・・・殺し屋になられました。
 そして、10年以上の間、あの人は・・・。このディシューマで、先日起こった事を
 人づてに聞きました。・・・その時、私は、もう、過去をひきずるのはやめて、
 家族一緒に、静かで平和に、―――例え、世間から
 姿を隠さねばならないとしても、
 生きて行く方がいいと・・・、そう思ったのです。
 ―――あの人の顔も知らない、・・・この子のためにも。」

「仇・・・。」



 殺し屋やってる連中。そいつらは、生き抜くために、金を稼ぐために。
・・・ぶっ殺して快感を得るため。そして、・・・復讐するため。
そんな、いろんな理由で、この仕事をやってやがった。
 人間のすることじゃねぇ、そんなことをやればやるほど、人ってもんから、
離れていくってことに気付きながら・・・。
「ねぇ、お兄ちゃん?・・・お父さんと同じしごとしてたんだよね?
 ・・・お父さん、どこにいるか、わかる?お母さんとさがしてたんだけど、
 みつけられないの。・・・せっかく、むかえに来てあげたのに・・・。」

 まだ、殺し屋って奴のこともろくに知らねぇに違いない。殺し屋ってのが
いなくなったこれから先、こんな風に、殺し屋ってもんが忘れ去られる日ってのが
来るのかもしんねぇ。いつか、俺が、この街でも笑って過ごせるような日が・・・。
「お父ちゃん・・・、見つかったら、どうすんだ?」
「お父さんとお母さん、みんなでいっしょに、わたしのお家でくらすの!!
 それから、お庭でいっしょにあそんで、おでかけもするの!!」

 そいつは、嬉しそうな声でそう言いやがった。
でも、俺は知らねぇ・・・。この国で殺し屋を始めた連中で、
始めた頃に持ってた理由って奴を、殺しの中で、解決できたっていう奴を。
どいつも、それ以上の何かを犠牲にして、それを背負ったまま生きてる。
 いくら時がたったって、軽くなったりしねぇもんを・・・。

「きっと、お家に・・・戻って来るだろうぜ。待っててやれよ・・・。」
 俺は、静かに、ドアを閉じて、そのまま座り込んだ・・・。






 (76日目夕方)
 俺は、そのコロシアムの中心で、なす術もなく倒れこんだ・・・。
体中にアローが突き刺さり、血が滲み出してきていた・・・。
「あんたの力は、ここまでのようね。」
「・・・どこへ行く気だ。」
 シオンは、俺の近くから去ろうとした。
「どうしたの?まだ、立てるというの?」
「・・・お、俺は、・・・ま、まだ―――。」
「ウソ・・・つくんじゃないよ。」
「・・・まだ、戦える―――」

 シオンは、再び、アーチェリーを俺に向けてきた。
「今、あんたに、このアローから、自分自身を守ることができる?
 それも出来ないようじゃあ、お話にもならないわよ。」

「俺は、・・・護りたいもんがある。だから、戦う―――。
 ・・・それ以外に、・・・俺が、戦う理由など、ない・・・・。」

「それ以上動いてみなさい・・・、バラバラになるわ。
 ―――あんた自身の体くらい、わかってないと、・・・あんたの護りたいもんなんて、
 ・・・護れるわけ、ないじゃない・・・。」

 シオンは、俺に背を向け、歩き出した。俺は、ただ、黙るしかなかった。
やがて、シオンは、コロシアムから外へ出た。

「・・・早くふもとの医者にでも見せに行きな。・・・手遅れになるわよ。」



 わたしは、持ってる全ての力を込めて、アーシェルさんにキュアを唱えました。
「・・・マーシャ。」
 シオンさんは、私がいないことに気付いて、すぐにコロシアムの中を見ました。
「あの娘―――。バカな心配だったみたいね。」


「そうね。そう言ってもらわないと。ほら、これ、返すわよ・・・。」
 アーシェルさんは、アーチェリーを受け取りました。
シオンさんは、その後、すぐにコロシアムの方に向かいました。
「何処へ行く・・・?」
「どうしたの?早くいらっしゃいよ。もう、修行は始まってるの。
 あんた自身の持てる力全部使って、この私を、倒してごらんなさい・・。」

「あ、あんたを・・・?」
「門下生なら、私のことを、師匠と呼ぶ事ね・・・。
 あんた、全力出さないと、・・・死ぬ事になるわ。」



「俺・・・、強く、なる・・か・・・ら。」
 アーシェルさんは、そう言って、目を閉じられました。
「・・・しばらく、あいつらと遊んでみるっていうのも、悪くないかもね。
 ―――何年ぶりかしらね、こんなワクワクした気持ちになるの・・・。」


 こうして、アーシェルさんの修行が始まりました。



 (76日目夜)
 あの野郎は、夜になって、突然戻って来やがった・・・。
「・・・君は、何をしているんだ、ここで。」
「な、な・・・何してただと?!テメェ!!勝手に消えてんじゃねぇぞ!!」
「まさかと思い、来てみたが・・・。」
「聞いてんのは、こっちだ!!今、何をしてやがんだ?!」
「―――足を引っ張る気がないのなら、ここに留まれ。止めはしない。」

 そう言って、セニフの野郎は、姿を消しやがった。
当然、俺は、持てるもんだけ全部持って、こんなとこ飛び出してやった。
「セニフ・・、おい、セニフ。テメェッ、聞いてんのか?!」
「聞こえてしまった以上は、答えるべきだろうな。ああ、聞いている。」
「いったい、これから、どこに行くんだ?!」
「いくらにぎやかな街だとはいえ、もう夜だ。少し、声が大きい。」
「答える気、ねぇみたいだな!!」
「・・・ここだ。」
 セニフの奴が急に止まりやがったのは、ディシューマ連合の前だった。
「・・・ここに、まだ用があんのか?」
「私は言った。そして、君も同じようなことを言ったはずだ。そう、記憶しているが。」
 そう言って、セニフの野郎は中に入っていきやがった。



「おっ、あ、兄貴?!確かに在ったぜ。兄貴の言う通り!!」
 どうやら、私の考えは当たっていたようだった。
「もう、かなり前の依頼書・・・、よく、取ってあったぜ。
 俺も流石にびびっちまった・・・。」

「おい、一体何があったってんだよ?!」
「ディッシェム・・・、おめぇ、見つかったぜ!!雫の結晶!!」
「な、なんだと?!見つかった?!!」
「兄貴の言う通りだぜ。マジで、昔、狙ってた野郎がいたんだ。」

 事務員は、指名手配犯のリストを取り出した・・・。
「・・・大盗賊、―――ザヌレコフ。お、おい?ザヌレコフだとぉ?!」
「説明するまでもねぇだろ?手下の数は数十、いや数百。
 しかも、世界中に散らばってやがる。そういや、最近、
 野郎の手下の1人の、レイガルが死んだって聞いたぜ。
 なんでも、軍部が自らぶっ潰したって噂らしいな。
 いや、話が脱線したな。とにかく、大盗賊って名のくせに、
 ホントに奴らは、ワケがわからねぇ連中でなぁ・・・。」

「ああ。盗んだもんを、どういうわけかほとんど返しちまうんだろ?」
「・・・そ、そうだけどよ。でよ!!そんな奴等が、どういうわけか知らねぇけど、
 ―――狙ってたんだよ、それをな・・・。」

「雫の結晶か・・・?」
「考えられるか?指名手配犯が、わざわざ危険を冒してまで、
 ディシューマ連合に、依頼するなんてよ?!」

「そこまでして、手に入れようとしたかった・・・、そういうことなのか。」
「で?・・・その、雫の結晶ってのは、どこにあんだよ?」
「何を言っているんだ?」
「見つかったって言ったんじゃねぇのかよ?」
「見つかった?この、手配書のことか?ああ、苦労したぜ。これ、探すのよ。
 ま、結局、請ける奴なんていねぇし、依頼した奴等も消えた。これにて終了!!」

「結局、ありかがわかんねぇのかよ?!」
「まぁ、そうすぐ冷めんな。それよりよ・・・。
 ・・・テメェが来るの、待ってたんだぜ。」


 事務員は、そう言ったあと、ディッシェムにその紙を見せた。
「―――こいつは・・・?」
「ディシューマが出してる情報誌の切れ端よ。
 今朝、勝手に投げ込まれてよ。いつもなら無視ぶっちぎりだけどよ、
 ・・・手配書探しの途中で偶然見ちまってな。
 ―――なかなか、興味深いこと、書いてあんだろ?」


 ディッシェムは、その紙を読み始めた。


2005/03/18 edited(2004/03/14 written) by yukki-ts To Be Continued. next to