[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第4幕― 第22章

 (71日目早朝)
「・・・みんな!!・・・朝よ!!・・早く起きて!!」
 東の窓からは、ほんの少しだが、太陽が顔を出そうとしていた。
すでに朝食の用意が終わって、辺りに香ばしい香りが、漂っていた。
「ちょっと!!・・・シーナにディッシュ!!
 マーシャちゃんと、アーシェルくん!!・・・もう、時間でしょ!!」

「も、もう少しだけ・・、ねかせてくれよ・・。」
「あ・・、あれ?・・・どうしてだろ。・・・いつもは、早く起きられるのに・・。」
「やっぱり、ここのベッドが一番落ち着いて寝られるわ。」

 それから、朝食を済ませた。すぐに準備をすませ、ドアへと向かった。
「もう、出航の時間なの?」
「ああ、短い間だったけど、ゆっくりできたぜ。
 ・・・いつか、ここに戻ってくるからよ、・・・心配しねぇで、
 ここの子供らを見てやってくれよ・・・。」

「あなた達を見てきたのは、私よ。任せなさい!!・・・忘れものはないわね?」
「はい。」
「それじゃ。・・・お元気で。」
「ケガしないように気をつけるのよ!!・・・がんばってね!!」
「さよなら!!お姉ちゃん!!」
 俺達は、それぞれの思いを胸に、孤児院を後にした。



 朝日が辺りを赤く染める頃、朝霧に包み込まれた海のかなたから、
静かに、船はやってきました。
「お~い!!・・・船がつくぞ!!」
「なんとか、間に合ったみたいね・・・。」
「あ、マーシャ?・・・やっと来たみたいね!!」
「サリーナさん!!」
 サリーナさんが私達に気付いて、こちらの方へと走ってこられました。
「あの船に乗って行くからね。皆さんも・・・。」
「そっか。この船に乗るのね・・・。」
「これで、この国とも、しばらくお別れか・・。」
「いろいろあったが、・・・まだ旅はこれからだ・・。」
「よっしゃ!!・・・船がついた!!・・・10分後に出航するぞ!!」
 船乗りの人の、威勢のいい声が聞こえました。
「よし、・・・船に乗るぞ。」

 私達は、船に乗り込みました。そして、ゆっくりと、
この大きな海を北へ向かって、出航したのでした・・・。



 (71日目昼)
 入航したときには、もう、お昼過ぎになってた。
「・・・こっちにくるのも、ずいぶん久しぶりな気がするわね。」
「いろいろあったからな。セニフは、何処に・・・?」
 アーシェルは、サリーナにそう尋ねてた。
「ここから、ずっと北です。」
「・・・ずっと、・・・北?」
「サングの集落よりも北?」
「もっともっと、それよりもずっと北です。」
「・・・今日中につくのか・・?」
「きょ、・・・今日中、・・・ですか?」
「ちょっと、無理があるかもね。」
「―――ま、急ぎだとは言うが、ここは、俺達のペースで行こう。」

 セーシャルポートの街も、やっぱり、相変わらずにぎやかだったわ。
でも、ここは、素通りすることにした。
 それから、橋を越えて、サングの集落の近くまで来た。
「あの集落は・・・?」
「あれが、サングの集落よ。・・・まだ、これより北だって言うんでしょ?」
「この森ん中に入んのか?・・・まぁ、いいぜ。ここも素通りでいいだろ?」

「―――おまえ?・・・シーナか・・・?」

 背後から、私の名前が、呼びかけられたわ。
「・・・急いでるってのに、なんか、悪いわね。」
 私は、諦めて、そっちの方に振り返った。

「ずいぶん久しぶりじゃない。」



 その男は、シーナに話しかけてきた。
「・・・話したい事がある。・・・時間はあるか?」
「絶望的にないわ。・・・5分で済む?」
「5分か。―――お前が話を聞くのが耐えられなくなる、最長の時間だな・・・。」
「何の話だっていうの?」
「・・・お前にだけ話したい。」
「って話みたいだから、・・その、ちょっと、待っててくれる?」
「ああ・・・。」
「じゃ、行ってくるわ。いい?5分よ、5分!!」

 それから、シーナは、集落のある建物に姿を消した。
そして、5分ほど経って、シーナは、その建物から出てきた。
「しかし、本当に、5分で終わったな。」
「・・・そうね。」
「で、さっきの野郎と、何話してたんだよ?」

「うん。」

「うん・・って、何だよ?」
「シーナさん?・・・どうされたのですか?」

「・・・そうね。」



「と、とにかく!!・・・今は、先へ進むことが大事よ。さあ、早く!!」
「あ、ああ。」
「・・・そうすっか。」
「で、でも・・・。」
 サリーナさんが、私に、小声で話しかけられました。
「普段から、おしゃべりな人が、急に物静かになっちゃった時は、
 関わってあげない方がいいの。・・・わかる?」

「・・・はい。」
「おい、シーナ!!ついて来いよ!!」

 シーナさんの顔には、もう、何の表情もありませんでした。
まるで、ただ、力なくそこに立ち尽くしているだけのようでした。
 ゆっくり、歩き出されましたが、とても、いつものシーナさんではありませんでした。
 それでも、私達は、その山道へと向かいました。
「・・・こんな足場で、モンスターなんか出てきちまったら、どうすんだ?」
「出てこないことを、祈るしかないだろう。」
「―――しっかし、シーナの野郎が、あれだと、なんか、調子狂っちまうな。」
「ディッシェムもか。・・・いっそのこと、モンスターでも出てくれば・・・。」
「縁起悪ぃだろ?!―――ん?・・・ありゃあ、何だ?」

 私達は、その開けた場所へと出ました。






 (71日目夕方)
「なんだ・・・、ここは?」
「グリンディーノの森です。」
「・・・こんな森の中に・・。」
 そこには、まるで、樹海に覆い隠されるように、小さな聖堂があった・・。
「・・・たしか、ブロンジュール=クローグさんという人がいるはずです。
 その、私・・・ちょっと、あいさつに行って来ます。」

「ちょ、ちょっと?マーシャ!!」

 そう言って、マーシャは、聖堂の方へと近づいて行った。
「・・・ん?どうかしたか?」
「え?・・・な、なんでもないわ。」
「とにかく、マーシャのところに行ってみよう。」



「ブロンジュール=クローグさん?!」
 マーシャは、何の気配もねぇ、静かな聖堂の中に、呼びかけてやがった。
「・・・おい・・、だれも、いないぜ。」
「え?・・・で、でも、ここには・・・。」
「人の気配はしないな。・・・近くにいるわけでもなさそうだし・・・。」
「そうか!!森の中に出かけられたんだ!!」
 マーシャは、そう言って、西の方に走っていきやがった。
「ちょ、ちょっと、待てよ?!」
「・・・どうしたっていうんだ?」
「マーシャが、1人だった頃に、ここに来たことがあるからよ。」
「マーシャが、・・・ここに?」
「そうよ。だから、きっと、お世話になった人に、会いたがってるのよ。」
「・・・さっきのシーナと同じかよ。それなら、俺達も探してやろうぜ。」
「そうだな。・・・よし、追いかけよう。」
「・・・ええ。」
 サリーナって奴の様子は、そう言って、ため息をついてやがった。



 アーシェルさん達が、私の近くへと来られました。
「あれ、アーシェルさん?」
「・・・俺達も探そう。しかし、ここは、・・・気味が・・・悪いな。」
 ディッシェムさんが、突然、低く笑い始めました。

「・・・こいつは、・・・死者の気配って奴だ。
 ・・・そこらへんにいるぜ。・・・テメェには、見えるだろ?」


「な・・、何がいるって・・・?」
「ほら、後!!」
「な!!何???」

 アーシェルさんは、あわてて、背後を振り返り、腰を抜かしてしまいました・・・。
「バカか、お前?!―――んなもん見れるわけないだろってんだ!!」
「・・・俺を・・、脅かしただと?」
「ハハハ、回りがあまりにもリアルなんで、まったくこの驚き様!!傑作だぜ!!」
 アーシェルさんは平静を保とうとしましたが、とても、悔しがっているようでした。
「よっしゃ、アーシェル!!これで、もう、何にも怖くねぇだろ?!
 いつまでも腰ぬかしてんじゃ―――、おい、マーシャ。何、俺を触ってんだ?」

「何を言ってるんだ?」
「な・・・、だって、俺の後ろにはマーシャしかいな―――。」



 俺は、その時、間違いなく、右にいる奴がマーシャだってことに気付いた。
「おいおい。・・・それじゃ、後ろにいる奴って、誰だ?」
 俺は、冗談だろって思いながら、周りの奴に、笑いかけてやった。
「―――なぁ、・・・だ、誰だよ?」
 そこには、アーシェルとシーナ、マーシャも、サリーナもいた・・・。
何故か、マーシャもサリーナも、少し笑ってやがった・・・。

 俺は、覚悟して、後を振り向いた!!
「な・・、何だ、こいつら?!」
 骨が出掛かってる犬やら、鎌持った半透明野郎とかが、俺に近づいてきやがった!!
「う、うそだろ?!・・・こいつらは、なんだ?!!」
 俺は、一瞬、引いちまったが、次の瞬間にはスピアを突き出してた!!
スピアが、犬を突き抜けて、骨が砕け散った。その音を聞いた瞬間、
そいつらが、ただの幻じゃねぇって事に気付いた。
「ちっ、・・・け、消し飛んじまえ、バケモン!!」
 俺は、大爆発を起こしてやった!!
「どうだ、・・・もう、終わった―――」
 ますます、数が増えていやがった。そいつらは、あっという間に、
俺を取り囲んで、俺に、襲い掛かってきやがった!!!
「・・ど、ど・・・どう、どうすりゃあいいんだ?!!!」
 俺は、スピアを振り回しながら、その内、わけがわかんなくなっちまってた・・・。



 (71日目夜)
「・・・まったく、情けないのぉ・・。」
 ディッシェムさんが、突然目を覚まされました。
「くそ!!・・・来るんじゃねぇぇ!!」
「何、寝ぼけてんだよ?」
「―――はっ?」
 ディッシェムさんは、周りの様子を見ていました。
「・・・小屋?どこだよ、ここは?」
「やっぱり、子供だったわね。・・・最初からそう思ったもん。」
 サリーナさんは、そう言いました。
「な、なんだと、テメェ?!」
「そう。・・・ここは、強い精神力を持つものしか、
 入る事の許されていない、魔法の修練場よ・・・。」

「魔法の修練場?・・・そんなことより、俺がガキだとぉ?!なめんじゃねぇ!!」
「マーシャだって、自力でここまで来たっていうのにねぇ。」
「・・・さっきのは何だったって言いやがる?!
 マーシャは、あいつら、全部ぶっ倒して、ここに来たってのか?!!」

「なぁ、ディッシェム?・・・さっきは、何を1人ではしゃいでたんだ?」

「―――ガキね。」

「ぼそっと言うんじゃねぇ!!テメェら!!聞いてりゃあ、さっきからよ!!
 いつまで、こんなとこでボサっとしてんだよ?今日中に行けなくなるだろうが?!」

「もう夜だ。それに、セリューク大魔導師の言う事には、
 俺達が目指す場所は、まだ、ここよりも北らしいからな。」

「ちょっと待て、夜?・・・おい、それまで、・・・一体、何してたんだ?」
「・・・ディッシェムさんは、気絶していました。」
「まぁだ、お前さんには、早かったようじゃなぁ、ホッホッホ。」
「なんだとぉ、このババァ!!!」

 私は、突然思い出して、セリューク様に尋ねました。
「そうだ!!セリューク様。あの、・・・ブロンジュール=クローグさんは
 今、どこにいるのですか?・・・ずっと、探していたのですが・・・。」


 そう言ったとたん、セリューク様もサリーナさんもメリーナさんも黙ってしまいました。






 (71日目夜)
 マーシャの言葉で、3人の顔色が変わったのは、間違いなかった。
「そうか・・・、マーシャは、奴に会いにここへ来たようじゃな。」
「・・・え、はい。」
「マーシャ、・・・私、言い遅れちゃったんだけど―――。」
「サリーナ。あんたが言わんでもええ・・・。」
「セリューク様・・・。」
「―――奴は、・・・ここにはおらん。」
「で、では・・・どこに?!」
 しばらく、セリューク様と呼ばれた、その老婆は黙り込んでいた。
そして、もう1人の女性が、俺達の方へと歩み寄った。
「・・・マーシャ、・・・それに他の3人の方も。
 今は、セニフ様に、会うことだけを考えて・・・。
 ―――知りたくなくても、・・・いずれ知ってしまうことだから。」

「どういうことだよ?」
「・・・セニフの元へ、急ぐ事が、答えに近づくこととなるのだろう。」
「だが、もう夜だぜ?!それに、また、・・・あそこ抜けるんだろ・・・。」
「―――怖いのね。」
「そ、そんなこたぁねぇ!!だが、急ぐにも、程ってもんがあるだろ?!」
「セリューク様。仕方がないので、今日はここに、泊めていただけないでしょうか?」
「・・・仕方がないようじゃの。」
 俺達は、その日は、ここで一泊することとなった。



 (72日目朝)
「全く、ディッシュにも、困ったものよねぇ。」
「うるせぇよ!!今から急げば、昼には着くだろ?!いいだろ、それで!!」
 朝起きた頃には、シーナの奴は、元に戻ってやがった。
「ともかく、今は、一刻も早く、セニフ様に。」
「ああ。・・・世話になった。行くぞ!!」
「なぁ、ちょっと待ってくれよ。ま、また、・・・その、あそこを、通るんだろ・・?」
「何よ?まだ、ビビッてんの?!」
「ディ・・・、ディッシェムさん・・・。」
 マーシャが、なんかの首飾りを取り出した。
「これをつけていれば、ここのモンスターを封じることが出来るので、大丈夫です。」
「そ、そうか?・・・そりゃ、一安心だな。」
「・・・はぁ、よかった。」

「―――俺が、なんで昨日、使わなかったんだって言わなかったから、
 よかったって言ったのか?おい!!」

「そ、そ、そんなわけ、な、ないです!!」
「もういいか?」
 それから、何事もなく、俺達は、森を抜けた。



 (72日目昼)
「やっと、山道もおわりそうね。」
「ああ。集落が見えてきた。」
「でも、まだ、ここよりも北ですよ?」
「どっちでもいいわ。素通りよ素通り!!」
 私達は、その集落の中に入ってったわ。結構、人がいて、にぎやかなとこだった。
「あれ?・・・なんでしょうか?あの人達・・・」
「おい!!あれは、・・・モンスターか?!」
「なんで、こんな街ん中で、・・・て、ちょっと、どこ行くつもりよ?!」
 アーシェルもマーシャも、急いでることなんて忘れて、その人だかりの方に走ってた。
「・・・ダークネスバットか。・・こんな、人里に出てくる奴じゃないはずだが。」
「アーシェルさん!!あの人が、襲われそうです!!」
「ああ。行くぞ!!」
「仕方がないわね。・・・片付けるわよ!!!」



 なんとか、6匹のモンスターが暴れているのを、止めることができました。
「あんたら、・・・助けてもらったみてぇだな。」
「ああ。・・だが、こんなところにまで、モンスターが現れるのか?」
「・・・最近な。前まで、こんなこと、なかったんだがな。」
「はぁ、人騒がせな奴等ね。とにかく、もういいでしょ?
 こんなとこで、道草食わなくたってさ!!」

「なぁ、お前ら、・・・おかしいと思わねぇのか?」

 ディッシェムさんが、私達にそう言いました。
「な、何がですか?」
「―――アーシェル、今、金どれぐらい持ってる?」
「金、・・・何だ、急に。―――ん?」
 アーシェルさんの様子が変わりました。
「これ、ねぇんだろ?」
 ディッシェムさんは、サイフを持っていました。
「わ、私のおさいふもなくなっています!!!」
「どうすんだ?野郎、追いかけんのか?」
「はい!!私、おさいふがないと、困ります!!」
「・・・そういえば、どうしてお前は、大丈夫なんだ?」



 俺達は、そいつらの行った方向へと走ってった。
「―――お前、ディシューマ連合での話、覚えてるか?」
「・・・殺し屋か?」
「ああ。野郎共の中で、盗賊に成り下がった野郎がいる。そいつらの一組だろ。」
「殺し屋の次は、盗賊ですって?・・・はぁ、どうなってんのよ!!」
「あんなカスに、盗まれたってのに、気付かねぇ、オメェらもどうかと思うがな。」
「・・・今、どの辺りにいる?」
「そうだなぁ、・・・この辺りだろ。」
 俺の勘は当たってたらしい。そいつらは、金額を建物の陰で数えてやがった。
「ちっ、こいつら、気付いてやがったか?!」
「だが、それもここまでよ。これは、俺達の金になるんだからな!!」
「さてと、・・・俺のこと、まさか、誰だか知らずに言ってんのか?」
「うるさい!!元殺し屋に向かって、ナメた口利いたこと、後悔すんだな!!」
 そいつらは、さっきのダークネスバットをばらまきやがった。
「死んで、俺達に詫びるんだな!!!」
「・・・エナジーラバリー。」
 一斉に寄ってきやがったダークネスバットは、一気に体力を俺に奪われて、
地面にへばりついたみてぇだった・・・。
「な、何をしやがった?!!」

「いくらオメェらでも、ディッシェムって名くらい、聞いたことあんだろ?」

 そいつらはようやく、気付いたみてぇだった。
「俺が、その・・・ディッシェムよ!!」
 俺は、そいつらにスピアを突きつけてやった。
「・・・ディ、ディッシェム―――。」
「な、なんで、・・・ディッシェムなんて一級殺し屋が、こんなところに?!」
「返せ・・・。」






 (72日目夕方)
 しばらくの間、沈黙が流れていました。
「・・・返せってのがわからねぇのか?」
「どうして、・・・殺さない?」
「―――そんなに、殺されてぇのか?」
「・・・お前が、あのディッシェムなら、・・・殺してでも、奪うんじゃないのか?」

 ディッシェムさんは、スピアを突きつけたまま、黙っていました。
「ちっ、返すぜ。」
 その人達は、おさいふをディッシェムさんに投げつけて、一目散に逃げて行きました。

「・・・人殺しは、もう、しねぇって決めたんだ。どんな野郎だろうとな。」

「ディッシェム・・・さん・・・。」
「ほら、お前らのサイフ・・・返してやらぁ。」
 ディッシェムさんは、私に、おさいふを渡してくださいました。
「・・・ほら、先、急ぐんだろ?行こうぜ。」
「あ、ああ・・・。」
「そうよ。だいたい、あんたたちが、あんな野郎に構うから、
 こんな時間食っちゃうんでしょ?!もう、これだから・・・。」

「人が、取り返してやったってのに、その態度か?」
「あ、これ?ありがとね。・・・別に、中身が入ってんのは、こっちにあるんだけど。」
「じゃ、・・・それはなんだ?!」
「え?ただの袋よ。もちろん、空っぽ。・・・こんなの何に使うんだろって、
 思ってたけど、まさか、本気で間違えてったなんてね。」

「とにかく。もう、日が暮れかけている。夜になる前に行こう。」



 (72日目夜)
 結局、遠くに灯りが見えた頃には、暗くなりかけてたわ。
「あれが、ロジニの集落か・・・。」
「ちっ。しかし、どうなってんだ?ここらへんは!!」
「・・・私がいた頃には、モンスターなんていなかったのに・・。」
 私達は、モンスターに襲撃されて、何度も、足止めを食らってた。
「ブラウンウルフ・・・4体か?!」
「もう、すぐそこだってのに!!」
「ああ。・・・こんな集落の近くにまで来ているのに、一向に数が減らない!!」
「全く、うっとうしいぜ!!」
 ディッシュは、スピアでブラウンウルフを突き上げた!!

「・・・もう、腹が立ってきた!!バーニングスラッシュ!!!」
 だけど、ナイフからは、前みたいに炎は出なくなってた。
「やっぱり、出ませんね・・・炎。」
「そんなことは、もういいわ。だけど―――」
 ずっと、アーシェルの奴が、サボってるのに、いい加減、腹が立ってた。
「おかしい・・・、まただ。―――だが、次こそは!!」
「アーシェル?!あんたは、何で、さっきからずっと、サボってんのよ?!!」
「遊んでるわけじゃない!!・・・見ていろ!!今度こそ!!!
 ―――風の精よ、我の声に耳を傾けよ。今、契約の元、
 ここに、その力を示さん!!
 ・・・ハリケーンアタック!!!」




 (71日目夕方)
「ほう、リックの実じゃなあ、これは。」
「ああ。もしかして、ここならば何か分かるのではないかと思っていたんだが。」
「リックの実ってことは、ハリケーンアタック・・・ですよね、セリューク様。」
「そう。召喚術の1つじゃ。」
「―――私にも、使えるものなのですか?」
 セリュークは、俺の顔をまじまじと眺めた上で、答えた。
「それは、あんた次第じゃなぁ。・・・あんたの場合、・・・そう、
 マーシャと比べて、・・・明らかに魔力が足らんからのぉ。」

「そんな、マーシャと比べたら、かわいそうだって・・・。」
「とにかく。わしらが手伝えるのは、あんたに、その召喚術を、
 唱えられるようにするまでじゃ。使えるかどうかまでは、知らんぞ。」

「構いません。・・・とにかく、自分にも出来ることならば、やり抜きたいんです。」

「・・・召喚術は、・・・使えるようになるまでが、苦しいぞぉ・・・。」

「覚悟しています。」
「ならば、こちらへ、来るとええ・・・。」



 (72日目夜)
 アーシェルの奴から、すげぇ風が巻き起こった!!
「こ、こいつは?!!」
 それが、一気にブラウンウルフらを包み込んで、真空で切り裂きやがった!!
風が収まった頃、そいつらは、動かなくなっちまってた。
「・・・へぇ、すごいじゃない。」
「これで、遊んでたわけじゃねぇって・・・分かったか・・・。」
「いつから、そんな魔法、使えるようになってた?!」
「・・・お前が、ゆっくり寝てる間に・・・な―――。」
「え?あ、アーシェルさん?!!」
 アーシェルが、急に倒れ込みやがった。
「な、ど、どうしちまったんだ?!」
「アーシェルさん・・・、もう、魔力が尽きて、寝てしまったようです。」
「魔力が尽きる・・・って、こいつ、そんなに、魔力使ってた?!」
「・・・はい。ずっと、ハリケーンアタックを出そうとしていました。」
「・・・そうだったの。」
「しゃあねぇな。ほら、つかまれよ。」
 俺は、アーシェルの奴の体を支えてやった。
「・・・よし、行こうぜ。すぐ、そこじゃねぇか。」



 ロジニの集落についた頃には、もう宿屋にしか、灯りがついていませんでした。
「セニフさんは、ここにいます。」
「とにかく、入るわよ。・・・こいつも、ボロボロみたいだし。」
「・・・おい、アーシェル。着いたぜ・・・。」
 私達は、中へと入りました。
「・・・こんばんわ・・・。」
「おや・・・、お客さん―――、・・・マーシャ。あんた、マーシャだね?!」
 宿屋のおばさんは、私の事をみて、すぐに入り口まで出迎えてくれました。
「はい。・・・お久しぶりです。」
「ずいぶん遅かったわね。・・・もっと早く来ると思ってたのに。」
「ごめんなさい。・・・いろいろとあって。」
「それで、・・・あなたが、シーナ。・・・それと―――。」
「俺は、ディッシェム。で、こいつが、アーシェル。」
「あら、ちょっと。・・・だいぶ、疲れちゃってるみたいね。
 分かったわ。とにかく、今日はゆっくり休むといいわ。」

「あの、・・・セニフさんは?」
「セニフ・・・もう、寝ちゃったのよ。」
「そ、そうですか・・・。」
「とにかく、明日は、長い日になるわ。ゆっくりと、おやすみなさい。」

 私達は、それから静かに階段を上がって、眠りました。






 (73日目朝)
 私は、いつものように起きました。みんなはまだベッドの中で横になっていました。
身支度をして、そのまま階段を下りて行きました。
「あら・・、相変わらず早いのね・・。」
 おばさんは、こんな朝早くから起きてらっしゃいました。
「おはようございます。」
「おはよう、マーシャ。・・・よくねむれたかしら?」
「はい。・・・セニフさんは・・?」
「仕事だよ。」
「・・・こんなに早くからですか?」
「そうよ。今日は、特別にはりきってたからね。・・・でも、もうすぐ帰ってくるわ。
 ・・・他の3人が起きてくるまで、そこで待っておいて・・・。」

「はい・・・。」

 私はテーブルの回りにきちんと整頓されておいてあるいすへ、腰を下ろしました。
それからしばらくして、みなさんも下りてきました。
「やっぱり、マーシャは、早起きよね・・。」
「ったく、シーナが騒ぐから、こっちまで起きちまったじゃねぇか!!」
「朝から、騒がしいな・・・。」
「おはようございます!!」
「あ、マーシャ、おはよう・・。」
「さぁ・・、これから朝食を作るわ。・・・マーシャ、・・・手伝ってくれるかしら?」
「はい。」
 私は、台所の方に入りました。



「・・・へぇ、・・・いいにおいがするじゃねぇかよ・・。」
「あんたも、ちょっとは、落ち着いて、待っていたらどうなのよ!!」
 その時、宿屋のドアが開き、外から1人の男が入ってきた。
「・・・帰りました。」
「あぁ・・、セニフ?お帰り!!・・・朝食にするから、座って!!」

 セニフと呼ばれたその男は、俺達と同じテーブルに腰を落ち着けた。
「・・・初めまして。・・・私は、セニフと言う。」
「あなたが、・・・私達に用があるっていう、セニフさんね・・?」
「そうだ。・・・アーシェル君、・・・それにシーナさん、だったね?」
「ちょっと待てよ、おい!!・・・俺は?」
 セニフは、しばらく考えていたが、知らないようだった。
「知らないのかぁ?俺は、ディッシェム!!覚えてくれよ!!」
「ディッシェム・・・、だな・・・。」
「ところで、用件とは・・・?」
 セニフは、立ちあがり、席から離れ台所へと歩き出した。
「・・・もう、出来たのか?」
「できたわよ。・・・待っていれば持っていくわよ。」
「セニフさん!!座って待っていてください!!」
「私も運ぶ。・・・さぁ、マーシャ。座ってくれ・・・。」
「・・・は、はい。」



 マーシャは、エプロンを外し、私達の席へと戻ってきた。
「・・・それで、・・・セニフさん。・・・いったい何を?」
「まぁ、・・・せっかくの料理だ。・・・先に頂こう。」
 私は、静かに、食事を食べ始めた。
「ああ、それじゃあ、俺も、頂くことにする。」
 しばらく、あまり話もせず、静かに食事を続けた。
「あんた、ちょっと、がっつき過ぎじゃない?」
「昨日から、何も食ってないからな。・・・腹がすいてるんだ。」
「そ、そりゃ、私だって・・・。」
 食べ終えてから、私達は、食器を片付け、テーブルをきれいにした。
最後に、マーシャが席についたのを見て、私は、その4人に話を始めた。
「・・・マーシャ。」
「はい。」

「もう、気付いているはずだと思う。
 ・・・君は、かつて、この世に、・・・殺戮と破壊と絶望をもたらし、
 一国を滅ぼし、大陸を引き裂くほどの強大な力によって、
 人々を悲しみに落とし入れた、あの悲劇を引き起こす程の力を持つ少女。
 ―――『悲劇の少女』という運命を、背負う者であることを・・・。」


 マーシャは、うつむいていた。だが、ゆっくり顔を上げ、静かにうなずいた。
「・・・まず、何から話をはじめようか・・・。」
 その時、4人の中の1人が、テーブルを叩き、立ち上がった。



「なんで、・・・あんな悲劇を起こす運命なんてのが、このマーシャにあるんだ?
 ・・・なんでそんな事を、マーシャがしなけりゃならねぇんだよ!!」

「運命。・・・だれにも動かす事のできない絶対の運命。」
「だいたい、お前がこいつの、何を知ってるって言うつもりなんだよ?!」
「ディッシュ、あんた。言いすぎよ・・・。」

「―――私は、かつて、・・・マーシャの母親―――ルシアと共に、
 世界を旅した、仲間の1人だ・・・。」


 俺達は、顔色を変えねぇなんてこと、出来そうになかった。
「・・・大魔導師―――セリューク、今は亡きバトルマスター―――ティルシス、
 そして、神官―――ブロンジュール=クローグと共に・・・。」

「ブロンジュール=クローグさんが、・・・お母様と?」
「忘れもしない。・・・私達は10年前の、あの日・・・。
 はるか南方の大陸―――クリーシェナード大陸に、立っていたのだからな。」

「・・・クリーシェナード、―――死の大陸・・・。」
「既に君達も見たはずだ。
 ―――悲劇の少女として覚醒した、マーシャの姿を・・・。」

 俺達は、確かに見てた。あのディシューマの研究所本部で、起こった事を・・。
「・・・あれが、・・・悲劇の少女だって言うの?」
「―――マーシャに渡した、幻の雫の結晶・・。」



 マーシャは、すぐにそれを取り出したわ。
「・・・ルシアは私にこれを渡した。・・・悲劇の少女―――マーシャのために、
 これを、封印するようにと言い残して・・・。」

「いったい、・・・これは?」
「4つ、揃った時、・・・悲劇の少女の持つ、真の力が解放される。そして・・・。」

 マーシャは、それから黙ってたセニフに尋ねた。
「ブロンジュール=クローグさんは、今、どうされてるのですか?」
 セニフは、少し考えた後、答え始めたわ。そして、その答えが、
私達にとって、どういう意味であるか、考えさせられた・・・。

「今ならば、まだ、告げることが出来る。・・・そして、覚えておいて欲しい。
 悲劇の少女に関わりし者には、未来永劫の逃れられぬ運命があることを。
 ―――ティルシスや、・・・ブロンジュール=クローグと、
 同じ運命をたどることになる、・・・残された私、セリューク、
 ・・・そして、いずれ、マーシャとともに、歩むであろう、者達に・・・。」







 (73日目朝)
 セニフの話は、その言葉を最後に、一度、終わった。
「・・・あの時から、・・・少しくらいは、・・・考えてみたわ。
 ・・・悲劇の少女って、・・・何なのかって。
 ・・・でも、今の話聞いても、・・・私には、どういうことか、分からない。
 ―――運命って何、・・・死ぬ事なの?―――悲劇って何、・・・滅ぼす事なの?」

「今の私に、・・・その答えを、話すことはできない。」
「隠さなければならない―――そういうことなの?」
 セニフは、シーナの質問に、答えようとはしなかった。
「もし、マーシャと歩み続けるならば、俺達であろうとも、同じ運命をたどると?」
「・・・ああ。」
「だ、だけどよ・・・、このままじゃ、―――どうすんだよ?!
 ・・・もう、決まっちまってる運命なんか、・・・どうやったら、
 受けとめられるってんだよ?!・・・逃れられないって、
 ・・・そんなの、悲しすぎるじゃねぇかよ?!」

「君には、まだ、・・・己の運命を選択することが出来る。
 ―――4つの雫の結晶の封印を解く、・・・その時まで―――。」

「そ、その時まで・・・だと?」
「そして、それより先の運命は、・・・君には、決められない。」

 セニフは、マーシャの方を向いた・・・。
「・・・全ての運命の行く先―――悲劇の結末を知るのは、
 ・・・マーシャ、ただ、1人だけだ。」




 私には、セニフさんが、どういうことを言おうとしているのか、分かりませんでした。
でも、私は、・・・ただ、自分の信じることを、セニフさんに告げました。

「・・・もし、私に許されるなら、・・・私に出来ることなのなら、
 ―――誰1人として、・・・悲しませたくはありません。
 ・・・悲劇の少女の力が、―――そのために、・・・使えるのならば、
 ―――私は、雫の結晶を、集めます。」


 セニフさんは、そう言った私の元に、静かに歩いて来られました。
「ティルシスや、ブロンジュール=クローグは、
 ・・・どれだけ、この日―――悲劇の少女が訪れるこの日が来るのを、
 待ち望んでいたことだろうか・・・?」

「・・・セニフさん。」

「私は、ルシアとの誓いに従い、幻の雫の結晶を、マーシャに託した。
 ―――だが、私は今もなお、この世で生かされている。・・・それが、運命ならば、
 私は、かつて、ルシアとともに旅立ったように、マーシャと共に行こうと思う。」


「でも、私に・・・本当に、できるのでしょうか?」
「今、マーシャに宿る、覚醒した力は、未だ、仮の力しか持たない。
 だが、既に、その力に呼応する現象は、起こり始めている。
 ―――この大陸からもまた、力が徐々に失われ、消えてゆくのがわかる。
 ・・・もはや、時間は残されていない。」

「はい。」

「ちょっと、待ってくれ・・・。」



 アーシェルは、立ち上がってたわ。
「セニフのように、これが運命なのかどうか、俺には分からない。
 ・・・だが、何を言われようとも、旅を止めるつもりはないし、
 それが、俺に止めさせる理由にもならない。

 ―――俺には、やらなければならない事がある、真実を確かめるという事を。」


「ちっ、アーシェル。・・・おめぇ、人の話、聞いてねぇな。」
 ディッシュは、全然関係ない方を見ながら、しゃべってた。
「・・・俺は、他人の運命に流されちまうなんて人生は、まっぴらごめんだな。
 自分の人生ってのはよ、自分の望むように、自分で決めんだよ。
 ―――だっけどよ、いつからだったかなぁ。俺の望む生き方って奴が、
 ・・・マーシャの望む生き方って言っちまっても、変わらなくなっちまってよ。」

「悲劇の少女に、ついていくという意思は、あるな?」
「ホント言うとよ。セニフさん、あんたの話、俺にはこれっぽっちもわかんなくてよ。
 けど、その俺にも、1つだけ言えることがあらぁ。

 ―――ここまで来て、引き下がるような俺じゃねぇってな!!」


「ねぇ、どうしても・・・言えないの?
 ―――クリーシェナードで、・・・悲劇が起こった、その理由って。」

「今は言えない。だが、4つすべてを集める時が来たならば、
 ・・・その時、全てを明かさなくてはならないだろう。」

 私は、セニフとマーシャに向かって答えたわ。

「―――じゃあ、私も協力する。・・・私の過去に、悲劇って言うのが、
 ほんの少しでも関係あるなら、もしかしたら、何かの手がかりになるかもしれない。」


「・・・みなさん。」
「―――私達は、みんな、・・・マーシャの仲間よ。」
 そう言った後、セニフは、私達全員の顔を見回したわ。
「既に刻限は間近に迫っている。・・・一刻も早く旅立とう。」



 それから、私達は、旅立つ準備を始めた。
「セニフ、・・・もう、旅立つんだな。」
 仕事場の仲間が、皆、ここへ、集まってきていた。
「ああ。今日まで、世話になったな。」
「しかしよ、とうとう、お前まで、南に行っちまうなんてな、・・・さみしくなるな。」
「ああ。・・・だが、いつか、必ず帰ってくる。」
「あんた。・・・気をつけるんだよ。それに、マーシャちゃんも!!」
「はい。行ってきます!!」
「そうよ、あんたみたいな笑顔してあげれば、みんな、元気になれるんだからね。
 ・・・本当に、あんたって、ルシアにそっくりだわ。」

「お、お母様と・・・ですか?」
「ああ。最初、マーシャと会った時、私は、ルシアではないかと思ったくらいだ。」
「がんばるのよ!!」
 全員の準備が終わり、私達は、宿の皆に別れを告げた。
私達の姿が見えなくなるまで、皆、手を振り続けていた・・・。



 (73日目夕方)
 俺達は、寄り道もせず、セーシャルポートに着いた。
「今日は、この宿で一度休むことにしよう。
 ・・・これからの目標は、まず、残り3つの雫の結晶探しになるだろう。」

「・・・明日からか。」
「そうみてぇだな。」
「どういうことになっちまうか、想像もできないけどな。」
「・・・それでも、私は、みなさんと一緒なら、がんばれます!!」
「明日、この場所で、これからの方針を話し合おうと思う。
 それまで、各自、ここでゆっくり、体を休めよう。」

「分かった。よし、それじゃあ、明日、ここでな!!」
「はい!!」

 それから、俺達5人は、それぞれの旅立ちを描きながら、眠りについた。






 (74日目朝)
「あの2人、・・・いつになったら起きてくんだよ?!」
 その場所に、私とディッシェムさん、そして、セニフさんが集まってから、
もうだいぶ時間が過ぎていました。
「そうは言っているが、君もかなりの時間、マーシャを待たせていたな。」
「マーシャは別だぜ!!とんでもねぇ早起きだからよ!!」
「あの、私、見てきましょうか?」
「いい。どうしても下りてこないのならば、その時はその時だ。」

「・・・あ、もうここに、集まっていたのか。」
 アーシェルさんが下りてきました。
「てめぇ!!いつまで待たせやがんだ?!」
「あの、アーシェルさん。・・・シーナさんは、まだ起きられてませんでした?」
「ああ、その事で、話があるんだ。」



 俺はテーブルのイスへと座った。
「今朝早く、ここを出て行った。」
「シーナが?!」
「それもまた、選択の1つだろう・・・。」
「でも、ど、どうしてなのですか?!」

 俺は、少しセニフの顔を見た後、手紙をテーブルに置いた。
「部屋に、この手紙を見つけた。」
「なんで、あいつ・・・、手紙なんか。」
「とにかく、読んでみるからな・・・。」
 俺は、シーナの手紙を声に出して読んだ。

「アーシェル、マーシャ、ディッシュ、それに、セニフ。
 ごめんけど、私、どうしても行かなくちゃならないとこがあるの。
 ―――マーシャ、ごめんね。あんたたちのこと、今すぐには手伝えないわ。
 いつか、また逢える日が来たら、いいのにね。」


「・・・それで、終わりなのか?」
「ああ。」
「あいつ・・・、どういうつもりなんだ?!それに、アーシェル?
 ・・・お前、今朝早くに見たんだろ?!なんで、止めなかったんだ?!」




 アーシェルの奴は、落ち着いて答えやがった。
「いつか、この日が来るってことは、分かってた。」
「どういうことですか?」
「・・・マーシャは、シーナともう、長いこと一緒に旅してると思う。
 だが、俺は、それよりも前から、あいつのことを見てきた・・・。
 ―――俺が、あいつに初めて会った時から、・・・昨日までの間、ずっと、
 あいつは、何かを探し続けてた、・・・1人きりで。」

「何かを探してる?」
「・・・それを知っていながら、俺には、あいつを、手伝ってやれなかった。
 あいつは、ずっと、1人でやってきていた。そして、俺達を、拒み続けていた。」

 マーシャが立ち上がった。
「それでも、シーナさんは言ってくれました。また逢える日が来るといいねって。
 それなら、私は信じています。シーナさんと、また逢える日のことを。」

「今は、あいつを1人にさせてやるべきなんだと俺は思った。
 ・・・今は、あいつのやりたいように、させるのが一番だと・・・。」

「そうか・・・。」



 (74日目昼)
 太陽が昇る頃、私は港で船を待っていたわ。
「・・・リズノは・・、失われた過去と、真実を求め・・・、
 死の大陸―――クリーシェナードへ1人・・・旅立った・・・、か・・。」

 船が来て、乗った後も、私は、ただ西の方向ばかりを見ていた。
ディシューマよりもはるか西、死の大陸のあるという場所の方角・・・。

 ディシューマ大陸に着いたのは、お昼過ぎだった。
レイティナークの街は、やっぱりにぎやかだったわ。
でも、私は、その明るい通りを、ぼんやり歩いてた・・・。
 どうやって、クリーシェナードに行くかは知ってた。
クダールの奴が、リズノに聞いた話だと、ディシューマ大陸の南の方に、
小さな港町があるって話だった。そこが、死の大陸に、最も近い場所だって・・・。
「まず、・・・南に行かなくちゃいけない。」
 私は、レイティナークの通りを南に歩いていったわ。
それから、南のはしっこまで来たとき、私は立ち止まらなくちゃならなかった。

 そこは、研究所本部がなくなった今でもまだ、高い関所で中と外が分けられてた。
そして、関所では、相変わらず、出入りが厳しく見張られてたわ。
「なんで、まだ関所なんか―――、・・・どうやって、中に入れば―――」



 (74日目夕方)
「よし、荷物はそこにおいておけ!!」
 そいつの声があってから、その荷物は乱暴に地面に放り投げられたわ。
しばらくして、誰の声もしなくなってから、1つの荷物のふたが開いた。

「・・・なんて、手荒な扱いなわけ?!」
 あの後、関所を通ろうとしてた奴等が運んでた荷物に忍び込んでやった。
「ここは・・・。」
 見た事のない部屋だったけど、だいたいの感じはわかった。
「グロートセリヌ・・・、潜入できたってことね。」
 明かりが消されてて真っ暗だったけど、むしろ姿を隠すにはちょうどよかった。
さんざん迷って、私は、中央にある広間に出たわ。何人かの人の姿が見えた。
 そこには、ディシューマ軍が使ってたっていう列車があったのを覚えてた。
「ちょうどいいじゃない。あれを、使わせてもらえば・・・。」
 しばらく、私はそいつらの動きを見てた。でも、そんなことしてる暇はなかった!!
「う、うそ!!動き出しちゃった?!」
 私は、仕方なく列車の方にダッシュしたわ!!
「誰だ?止まれ!!」
「ああ!!間に合わないじゃない!!!」
「止まれ!!射殺するぞ!!!」
 私は、どんどん加速する列車の一番後ろにナイフをひっかけて、乗り込んだ!!
「一斉射撃!!!」



 どうにか、列車に乗る事は出来たわ。
「・・・はぁ、はぁ。でも、それにしたって、何よ、あいつら?!
 ―――確かに、私も悪かったのかもしんないけど、私、撃たれなきゃなんないの?」

 さっきからどうも変だなって感じてた。もう、あれから2週間になるわ。
街の人達だって平和な生活を取り戻してる。軍部だってなくなって、殺し屋もいない。
 でも、関所はまだあるし、・・・ここにいる奴等の様子だって、どこか変・・・。
「おい、探せ!!―――この列車に、侵入者がいる!!!」
 私は、反射的に列車の外側を伝って、窓から姿が見えないように、そこから離れた。
「・・・長くは、いれそうにないわね・・。」
 中で探してる奴等の足音が、だんだん近づいてきた。
「何処にいる?!出て来い!!!」
「―――もうちょっとだけ、先に進みたいのに!!」

 私は、次の瞬間、殺気に気付いて、とっさに猛スピードの列車から飛び降りた!!
その直後に、私がいたすぐそばの窓を銃弾が打ち抜いて、粉々に砕いた!!

「ちっ、侵入者の野郎、逃げやがったか・・・。どうします?」
「ま、当たってなくたって、今ので、死んでんだろ?今は、新鉱山に行く方が先だ。」


2005/01/26 edited(2004/03/11 written) by yukki-ts To Be Continued. next to