[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第3幕― 第19章

 (55日目深夜)
 この時間はもう、ここの子達にとって、夢を見ている時間でした。
「・・・あの・・・その・、ええと・・。」
「ごめんなさい!!リサお姉ちゃん!!
 ・・・ってあんたもほら!!・・・ディッシュもあやまりなさいよ!!」

「な、・・・なんでだ?」
「ちょ、ちょっと、約束が違うじゃない!!」
「ちっ、わかったよ。・・・リサ!!・・・ご、ご・・、ごめんよ!!」
「そう、・・・わかったわ。」
「あ、・・・あれ?・・・リサ・・お姉ちゃん?」
「どうしたのよ?」
 シーナさんとディッシェムさんは口をそろえて言いました。
「お仕置きは?」「お仕置きは?」
「何言ってるの。・・・ティシが、帰ってきてくれた。それだけで、私は十分よ。」

「・・・・ごめんなさい!!」
 ティシ君は泣き崩れてしまいました・・・。
「どうして・・、あんなところに?・・・ダメだっていったじゃない・・・。」
「・・・リサお姉ちゃん、・・・もういいじゃない。
 ・・・反省してるし、・・・ティシは相当疲れてるわ・・。」

「そうね・・・。もう寝ちゃったもの・・。」
 ティシは、静かに寝息を立てていました・・。
「・・・もしかして、初めてかしらね・・。あなた達が、・・・謝ったの・・。」
「えっ?・・・うそ?・・・ディッシュはともかく、
 私は謝ったことくらい、あるわよ!!」

「・・・な、いつだよ!!」
「・・・え、・・・そ、その・・?・・・いつだっけ?」
「ほら、やっぱりそうだ!!」
「ちょっとねぇ。・・・もう夜なのよ!!・・・分かってるの?!」
「・・・ごめんなさい。」
「あ、あら・・・マーシャちゃん。・・・いいのよ別に、あなたは。
 ・・・うるさいのはこの子達なんだから・・。」

「私はもう17よ!!・・・ガキはこいつだけで、十分!!」
「んだとぉ?!13だよ、俺は!!」

 またシーナとディッシェムが言い合いを始めた時、
リサさんは静かに立ちあがって、私達に、こう言いました。
「・・・シーナ、ディッシュ、・・・マーシャちゃん、・・・それにアーシェルさん。」
「はい?・・・なんでしょうか?」
「・・・ちょっと、話しがあるの。・・・こちらに来てもらえるかしら?」
「えっ?」
「・・・その、・・・とにかく、来て。」



 俺達は、リサの部屋へと集まった。最初に、リサは、シーナに向かって話を始めた。
「シーナ・・、・・・もう、分かってるわよね・・。」
「えっ?・・・や、やっぱり―――お仕置き・・?」
「って、違うわよ!!・・・あなたの、・・・その、―――お友達のことよ・・・。」
「えっ?」
 シーナは、俺達のことを見回してきた。
「・・・確かに、こいつらバカだよ!!でも、いいとこだって少しはあるんだから!!」

「今日ね、・・・この孤児院に・・・、研究員たちが来たの・・。」

 シーナは、突然顔を真っ青にした。それはディッシェムも同じだった。
「それって・・・、まさか・・・。」
「研究員たちはふたつ、私に言ったわ・・・。
 ―――この孤児院の立ち退き、
 ―――指名手配犯アーシェル・マーシャ、そしてディッシェム・・・、
 ・・・あなたたちを見つけたら、即急に通告すること・・・。」

「・・・な、そ・・・そんな・・。」
「研究員たちは、また、きっと、明日も来るわ。
 ・・・もう、あなた達を、安全にかくまうことは・・・出来ないの・・。」

「な、なんでよ・・。・・・こいつらは、・・・逃げなきゃならないほど、
 悪い奴らなわけないじゃないのよ!!それに、なんで、リサお姉ちゃんまで?!」

「―――研究員たちは、・・・いえ、・・・関所の中にいる人達、すべてが、
 関所の外側のスラム、そしてこの孤児院も、邪魔扱いしているわ・・。
 もちろん、・・・私は、ここを離れてもここの子供たちと、
 いっしょに、暮らしつづけていくわ・・、でも、もう、無理かもしれない・・。
 みんなを連れてくだけの、お金が私にはないし、孤児院を立てる場所もない・・・。」

「―――リサ・・。」
「ディッシュ、何?」

「・・・俺が、・・・そんな奴らの事、許せると思うか?」
「そうよ、・・・なんで、リサお姉ちゃんまで巻き込まれなきゃならないの!!」
「そんなの・・、絶対にひどすぎます!!」
「・・・このまま、黙ってるわけには、・・・いきそうにないな・・。」



 私達は、みんな立ち上がってそう叫んでた。でも、リサお姉ちゃんは、
優しい、静かな声で、私達に話しかけたわ。
「みんな・・・。気持ちはうれしいわ、・・・でもね―――。
 私は、あなた達の方が心配なの・・・。・・・私は、大丈夫。
 ―――あなた達に、心配されるほど、弱くないのよ!!
 ・・・絶対に子供たちはまもってみせるわ!!―――だから、
 ・・あなた達は、もうここを・・・離れたほうがいいわ。」

 そのすぐ後に、ディッシュの奴が決意したみたいに言ったわ・・。
「―――このまま、逃げたら、・・・いつまでたっても、
 ・・・この国を救う事は、出来ねぇんだよ。
 ―――親父は、死んじまったけど、
 ・・・俺が、親父の・・・夢を、俺が、・・・かなえたいんだよ・・。」

 アーシェルもその後を追うように話し始めたわ。
「俺も、本当の事が知りたい。・・・ガーディアがこの国で、
 何か、たくらんでいるとするなら、・・・それが、何なのか、
 俺はどうしても、知りたい・・。―――まだ、自分の中で、信じていたいんだ!!」

「私が、アーシェルさん達と一緒に旅をしているのは・・・、
 ―――自分がいったい何者なのか―――、
 ・・・みんなが、必死に隠しつづけてきた、私のお母様の事・・・、
 ・・・あの黒服の人達は知っていました。・・・私の事も・・・。」

「・・・でも、・・・普通の人間でも、・・・中へは、入れないのよ。
 ・・・よりにもよって、アンタ達、・・・指名手配犯よ!!
 どう考えたって、入れてくれるとは、・・・思えないんだけど。」


「―――ひとつだけ、・・・あるじゃない。」
 リサお姉ちゃんは最後の手段というような表情を浮かべて、私とディッシュを、
見つめてきたわ。・・・そう、さっきまでと同じ、優しくて・・・静かな声で・・・。

「・・・ま、まさか・・。」
「そ、そういえば、・・・その手が・・・あるのね・・。」






 (55日目深夜)
 急に、シーナとディッシェムがそわそわし始めた。
「―――お、俺は、・・・そ、その・・それだけは・・。」
「わ、・・・私は別に、あんたたちみたいに、・・目的はないし・・・。」
「・・・いったい、どうすれば、入れるんだ!!」
「リサさん!!・・・一体どうすれば、いいのですか!?」
 リサは、棚から、何かを取り出した。
「シーナ・・、ディッシュ・・、もう、分かるわよね。」
 シーナとディッシェムは、必死の形相で首を横に振っていた。
「・・・それは?」
 リサは、ローブと何かの紋章を持っていた。
「・・・グロシェ。・・・世界の聖堂の中心、聖地と呼ばれてる場所よ。
 ―――研究員たちも、この聖堂だけは、開放しているわ。
 ・・・ただし、一般の人はだめ・・。一部の聖職者だけがもつ、
 この、紋章とローブを着た者だけが、入れるの。」

「・・・た、たしかに入れるわよ!!・・・で、でも・・。」
「それを着るのだけは嫌だ!!」
「・・・なんで?・・・どうして、そうまで嫌がるの?あなたたちは!!」
 どういうわけか、この2人はいつも同じ事を思いついた時、同時にそろって言う。

「じっとすんのは、我慢できねぇ!!」「じっとしてんのは、我慢できない!!」



「はぁ?」
「シーナさん!!ディッシェムさん!!・・・お願いします。
 ・・・どうしてもシーナさんも、ディッシェムさんも、
 いっしょに来て欲しいんです。・・・お願いします!!」

「マーシャ・・、分かる?!・・・こんな、動きにくい窮屈な、
 ローブを着て、しかも、大聖堂でじっとしなくちゃいけないし、
 聖歌だってうたわなくちゃならないのよ!!・・・分かってるの!?」

「・・・あの、・・・聖堂って、・・・そういうところでは、ないのですか?」
「―――だから、嫌なのよ!!・・・マーシャは、我慢できるの?」
「・・・家が・・、聖堂ですから。」
「し、信じられない。」
「あのね、・・シーナ。・・・私は、聖堂に行ってから、
 あなた達がすることまでは、口出ししていないわ。
 ・・・あなたが、そこで本当に反省したいのなら、そこにいればいいし・・。
 ―――研究所に忍び込むのもいいし。」

「し、忍び込むって・・、リサお姉ちゃん・・・。」
「・・・リサが、・・・そんなこと言うなんて・・、なぁ・・。」
「あら、知らなかったかしら?」
「それならいいわ!!聖堂に行かなくていいなら!!」
「―――念の為に、一応、入るのよ!!・・・わかってる?」
「そ・・、そんな・・・。」
「―――シーナにも苦手なものがあるんだな・・。」
「な、どう言う事よ!!」
「そのまんまだ。」
「―――あ、あんたは?・・・あんたはまさか、・・・聖堂に入れるの?」
「普通、・・入れるだろ・・。」
「そ、そんな・・・。・・マーシャはいいとして、・・・アーシェルまで。」
「・・・シーナとディッシュが、極端過ぎるのよ。」



 俺は、テーブルをたたいて、立ち上がった!!
「俺は、もうタカをくくったぜ!!・・・いいじゃねぇかよ。
 ・・・聖堂だろうと、・・・なんだろうと入ったろうじゃねぇか!!!」

「ディッシュ、あんた、・・・とうとう、狂っちゃったの?」
「・・・お前は、来ないんだろ、・・・じゃあな!!」
「ちょ、・・ちょっと、待ってよ!!・・・みんな行くのに、
 わ、私だけ行かないなんて、我慢できないわ!!
 ・・・そ、それに―――、アンタ達だけじゃやっぱり心配よ・・。ハハハ・・・。」

「シーナさん!!・・・よろしくお願いします!!」
「マーシャ・・、分かったわよ!!・・・とことんついていってあげるわ!!
 ・・・覚悟してんのよ!!」

「・・・ハハ・・、お前もな・・。」
「それじゃあ、今日はもう、遅いわ。あなたたちも、もう、寝るのよ。」
「え?・・・で、でも、明日には・・・。」
「まだ、時間はあるわ。少しでも・・・あなたたちは元気を取り戻さなきゃ。
 もし、研究員達が来たら、・・・その時は、裏から出るのよ。」

「裏?・・・リサ、ここに裏口なんて、あったか?」
「あのねぇ、あなたたち・・・ホントに自分たちがやったこと、覚えてないの?!」
「・・・なんのこと?お姉ちゃん。」
「あなたたちが開けた穴のせいで、どれだけ、私達が困ったか・・・。
 ―――まさか、そんなものが、今になって、役に立つ日が来るなんてね・・・。」

「覚えてるか・・・?」
「知らないわよ。あんたがやったんじゃないの?」
「とにかく・・・。今は、ゆっくり休むの。明日は、グロシェだからね!!」
「はぁぁ・・・。」



 (56日目昼) 私達は、結局、昼前まで眠り続けてたわ。
・・・そんな、私達を起こしたのは、ティシと3人の男の子らだったわ。
「お姉ちゃん、おきてよ!!」
「なによ・・・起こすんじゃ、ないわよ・・・。」
「マーシャお姉ちゃんも!!お兄さんもおきてよ!!!」
「・・・ど、どうしたの・・・ティシ君?」
「あいつらが、あいつらがまたここに来るんだよ!!」
 私達は、その言葉で飛び起きたわ。
「本当なんだなぁ、おめぇら・・。」
「ウソなんかつくもんか!!」
「リサお姉ちゃんは?どこにいるの?!」
「そんなことどうでもいいから!!早く、かくし穴から外に出て!!」
「隠し穴・・・?」
「こっちだよ!!今、リサお姉ちゃんが、表をみてる。だから、今のうちに!!」
「ああ。急ごう。・・・シーナ、紋章を忘れてるぞ。」
「ちぇっ、気付かれちゃったか・・・。」
「もう、ローブに着替えちまってんだ。あきらめろよ、いい加減。」
「うるさいわねぇ!!」
「もう!!2人とも、言い合ってる場合ではありません!!!」
「とにかく、早く、こっちに来てよ!!」

 私達は、奥の方の、棚で隠してあった穴のところまで来たわ。
「あ、・・・思い出した。これ、私が、あんたをふっ飛ばした時のだ・・・。」
「嫌なこと思い出さすんじゃねぇ。・・・いいか、お前ら!!リサを守れよ!!」
「任せておけってんだ!!」






 (56日目昼)
 俺達は、その隠し穴から一度、外に出て、そこで、しばらく姿を隠していた。
「よくも、こんな都合のいい場所に、穴なんか作ったな・・・。」
「まさか、ここの壁が、こんなモロいなんて、思ってもなかったから・・・。」
「ちっ。俺がバランス崩したと見たとたん、全体重かけて、
 突進してきやがったからな。・・・壊れねぇ方が間違ってらぁ。」

「あんたはよくもまぁ、小さな事を、とんでもなく大きく大きく作り変えて!!」
「何のために私達は、ここで、夜を待ってるのですか?!静かにしていてください。」
「・・・マーシャも、最近、言う事、キツいわね。」
「ま、マーシャの言う事に、間違いなく賛成するけどな。」
「・・・はぁ、夜までねぇ。・・・長いわね。」
 結局、2人には、マーシャの言ったことが、聞こえてなかったようだった。
いつの間にか、2人の思い出話が始まり、それがすぐに、言い争いに変わった。
 夕方頃には、俺も、マーシャも諦めていた。
本当に、2人の話は尽きる事がなかった。他愛もないことから、
普通ではありえないような話、それに、俺の知らなかった、
シーナの昔の話を、永遠と聞かされることになってしまっていた。
 だが、俺達4人が、これからしようとすることの、不安だとか迷いだとかを、
紛らすには、ちょうどよかったのかもしれない・・・。
 いつになったら喋り疲れるのかと思い始めた頃、ようやく、辺りが暗くなった。



 (56日目夜)
「あぁぁ、やっと、暗くなったわね。」
「ここまで来て言うのもなんだが、・・・大丈夫なのか?
 ・・・昼夜なんて関係ないんだろ、奴らに・・・。」

「びくついてんじゃねぇ・・、みっともねぇ・・。」
「アーシェル、・・・あんたねぇ・・、これから何するかわかってるんでしょ?!」
「・・・。」
「せっかく暗くなったんです。もう、行きましょう!!」
「そうしよっか。」
 私達は、闇に紛れて孤児院から出たわ。レイティナークを目指して・・・。
「レイティナークに入ったら、まず、この格好をなんとかしちまおう。」
「え?で、でも、この格好でないと・・・。」
「俺達の目的は、侵入することか?―――彼奴らから、この国を・・・、
 平和ってのを取り戻すのが目的なんだぜ!!
 ―――侵入する事なんか、たやすい・・・。」

「・・・って、ホントにアンタ、大丈夫なの?」
「こっちは、とっくの昔に装備を整えてらぁ。
 それがなんだよ、お前ら・・・。その格好で入って、何するってんだ?!」

「ここは、元殺し屋の・・・意見に従うか・・・。」
「ま、ショップにでも行って、装備整えた方がいいかもね。」
「・・・じゃ、急ぐぜ!!」

 ディッシュがそう言った時、私達は、足を止めるしかなかった。
「―――お前ら、なんのつもりだ?」
「どこのハイエナどもかと思えば・・・。」
「あなた方は・・・。」



 私達は、たくさんの人に囲まれてしまいました。
とても怖そうな顔をしている人達ばかりでしたが、その中に、
私達のことを見ている、私の知っている人が、2人いました。
「生きてやがったみてぇだな、ディッシェム。」
「死んでなくて悪かったな、・・・アトル。」
「こんな夜中に、・・・なんて格好して歩いてやがるんだ?」
「黙りやがれ!!こっちだって好きでこんな格好してんじゃねぇや!!」
「むしろアンタたちの方が、なんでこんなところにいるのよ?」
「―――孤児院に、彼奴らが来たのだろう?」
「そうよ、イガー。リサお姉ちゃんに、・・・立ち退けって!!」
「軍部にとっちゃあ、スラムも、孤児院も同じなんだろうよ。」
「おめぇ!!」
「相変わらず、孤児院の話になると、ムキになるようだな・・・、ディッシェム。」
「その口のききかた、どうにかしやがれ、アトル。」
「だが、本当に聞かせてもらえないだろうか?どうして、ここに集まっているか。」
「そういえば、アトル?・・・あんたの右腕の姿、見えないようね。」
 そう言われて、アトルさんは、何か言いたそうでしたが、何も言いませんでした。
「・・・アトル、事実は事実だ。私の手下にさえ、盗賊団が紛れ込んでいた。」
「そうよ、・・・そういえば、あの盗賊―――」
「レイガルか?」
「・・・ど、どうなったのですか?あの後・・・。」
 アトルさんが、静かな声で答えました。
「情報ってのが流れんのは、なんでこう早ぇんだろうな。―――奴は、・・・死んだ。」
「えっ?!」
「・・・殺された。研究員に―――ヴァルゼ・・・」
「俺は、認めねぇ・・・認め―――。」
 アトルさんは、また黙り込んでしまいました。



「お前らにとっても、・・・潮時ってのが来たみてぇだな。」
「・・・軍部を、・・・ぶっ潰す時がな!!」
「へぇ、心強いじゃない。犯罪者達が、こんなに大勢、味方してくれるなんてね。」
「シーナ。もう、私達がそう呼ばれる時代は、終わる。」
「・・・分かってるわよ。」
「なら、話は早い。全員で、レイティナークに!!」
「はい!!」

「話まとめるには、ちっと早いんじゃねぇか?」
 アトルの奴が、そう言ってアーシェルとマーシャを止めやがった。
「―――川の水は、岩をも削る事が出来る。
 だが、それは、決して石に穴を開ける事は出来ない。
 ・・・ならば、何であればそれが出来る?
 ―――わずかな水滴。それが、幾日も落ち続けることにより、
 初めて、石に穴を開けることができる・・・。」

「・・・どんな大勢で行ったとしても、結局、何もできない・・・。」
「そうだ。・・・まず、穴を―――決定的な穴を、開けなくてはならない。」

「イガー。その役目、俺達が引き受けるってので、どうだ?」
「・・・ディッシェムならば、そう言うだろうと思っていた。」
「そういうことなら、構わない。」
「でも、アンタたちは?」
「―――黙って、俺達に、指でも舐めて待ってろとでも言いてぇのか?
 おい、オメェら!!それでも、いいってのか?!!」

 アトルの手下どもが、大声を上げ、武器を振り上げやがった!!
「・・・こいつらが、そんなのは、我慢出来ねぇってよ!!」
「ディッシェム、先に本部に行け。その後、私達も、暴れさせてもらう。」

「ああ。―――でっけぇ穴、ぶち抜いて待ってらぁ!!!」






 (56日目深夜)
 俺達は、真夜中のレイティナークに入った。
「とにかく、俺についてきやがれ。こっちだ。」
 俺は、ショップの中に入った。そのまま、奥の扉を蹴破って、中の奴に話しかけた。
「・・・おい、・・・やってんのか?」
「てめぇよぉ、だぁれに、・・・口きいてんだ?―――まぁ、いいぜ。
 売ってやろうじゃねぇかぁ。金かかるぜ、・・・法外な値がついてるからよぉ。
 ・・・分かってんだろうなぁ?!」

 そいつは、俺が誰かも確かめずに、いつも通りの応対をしやがった。
「金・・・?ああ、あるぜ。―――じゃ、・・・見せろよ。」
 精一杯目つき悪くして、ナイフを持って出てきやがったそいつは、俺の顔を見た。
「・・・ディ、ディッシェム?!貴様・・、なんで、こんなところに?!!」
「こいつらによ、売ってやってくれよ。・・・なぁ。」
「そ、そいつらは・・、し、・・し、指名手配犯の!!」
「声がでけぇんだよ。・・・売るのか?・・・売らねぇのか!?」
「・・・な、・・こ、こ、こっちだってな・・・い、命かけてんだよ!!
 ―――そ、そういえば・・・て、・・て、てめぇこそ、指名手配されてんだぜ!!
 ・・・じ、自分の・・・た、たたた・・・立場、わかって―――」

 俺は、ロングスピアを突きつけてやった。
「ああ、分かってるぜ。・・・だがよ、俺よりもなぁ、
 ・・・テメェの方が、よぉく分かってんじゃねぇのか?」

「く・・、わ、わかった・・。殺さネェでくれ・・。
 ほ、・・ほら・・・順番に・・・好きなもん買っていきゃぁがれ・・。」

「だとよ。・・・ほら、シーナ?何がいるんだ?」



 こいつが、ここまで極悪な奴だとは思ってもなかったわ。
「そのローブ・・・、いいじゃない・・、くれるかしら・・。」
「な・・・い、・・・いくらすると、思ってやがる!!16400D$だぞ?!」
 私とディッシュが、同時に武器突き出してた。
「わ・・・わぁった・・ほら、・・・持ってきやがれ!!」
「マーシャ・・、何がいる?」
「マーシャは・・、こんな事しないわよ・・。・・・た、たぶん。」
 そう言ってる横から、マーシャは、ライトロッドを手にして、
ロッドとマントを要求していたわ・・・。
「ありがとうございます!!」
「・・・。」
「アーシェル、・・・何がいる?」
「プレートアーマーとそこにあるアーチェリー・・・。
 この際だ。アローあるだけと、薬草エキス全部!!・・・頼む。」

「あぁぁ・・・やけだ!!・・・持っていきやがれ、泥棒!!!」
「・・・サンキュー・・。ま、何かの足しにしておけ・・。」
 ディッシュがそう言い残すと、大金の詰まってそうな袋を放り投げたわ・・。
「じゃあ、行くぜ・・・。」



 私達は、夜のレイティナークの街を走っていました。
「あんた、・・・本当に犯罪者って感じよ。」
「バーカ・・、お前らだって、やってることは、似たようなもんじゃねぇか。」
「―――ディッシェムさん?」
「な、・・なんだ?・・マーシャ、・・・別にいいんだぜ、
 ・・・今のご時世、こんなことをしてなくちゃ、生きていけねぇんだ・・。」

「・・・さ、さっきの袋、・・・いったいどれくらい入ってたんですか?」
「は?・・・あ、あんた・・・そ、そんな事、この際どうでもいいじゃない!!
 ―――で、いくらなのよ?」

「・・・結局、聞くんだな。」
「いちいち数えねぇからなぁ・・、6桁か7桁か・・・。」
「う、うそ・・・。」
「・・・さてと、準備も終わったことだし、・・・夜が明けねぇうちに、
 お邪魔しようじゃねぇかよ―――。」

 私達は、ディシューマ関所と呼ばれる、巨大な壁のところまでやってきました。
「・・・あれ?門は、向こうですよ?なんで、こんなところで・・・。」
「真正面から突っ込む奴がいるかよ・・・。」
「でも、これを着ていれば大丈夫なのでは・・・?」
「こんなもん、気休めだぜ。」
「正攻法では、無理だろうな。」
「じゃ、お前ら。侵入する準備、始めるぜ。」
「準備・・・ですか?」
「しまった・・、テメェら、殺し屋じゃ、ねぇんだったな。頭痛ぇ・・・。
 足手まとい以外のなんでもねぇなぁ。まぁいい。」




 ディッシェムは、壁の陰になっている部分へと来た・・・。
「どうするつもりだ?」
「まっ・・、見てろ・・。」
 ディッシェムは、どこにしまっていたのか、ロープを取り出した・・。
「ロープなんかで、何するのよ?」
「こうすんだよ!!」
 ディッシェムは、ロープをスピアにくくり付け、スピアを放り投げた!!
「―――よし、・・・引っかかった・・。・・・じゃ、・・俺は、行くぜ・・。」
 ディッシェムは慣れた手つきで壁を登り、侵入していった・・。
「ちょ・・、ちょっと・・・どうするのよ!!・・・私達は、登れないじゃない!!」
「おい・・・、静かにしろ!!―――ちょっと下がってろよ!!」
「え・・、ちょ、ちょっと、何する気よ?!」
「爆破!!」
「う、・・ウソでしょ!!!」
 俺達は、すぐ遠くに離れ、耳をふさいで、その衝撃に備えた・・・。
「―――何してんだ、お前ら?」
「えぇ?!」
 壁は、音もなく崩れ去っていた。
「な・・・ど、どうやってやったってのよ、あんた?!」
「企業秘密だ・・・手間かけさせんじゃねぇよ。」
「だ、だが・・・こんなことをすれば、明日の朝には間違いなく見つかるぞ!!」
「手段選んでる場合じゃねぇだろ?だいたい、この時点で、
 気付いてねぇ方が悪いんだしよ・・・。ガタガタ言ってんじゃねぇ。」

「そうね。・・・さっさと、行く方が賢いわね。」
 シーナは、崩れた壁の中に入っていった。
「・・・しかし、本当に、穴・・・作るんだな。」
「いいじゃないですか。・・・ディッシェムさんらしくって。」
「ディッシェムらしいって。―――俺には、理解できない・・。」
「それが、ディッシェムさんですって。」
 マーシャは笑顔でそう言った。確かに、シーナの言う通り、
最近、マーシャの言動が、変わってきているのは、間違いない・・・。






 (56日目早朝)
 関所の中の雰囲気・・・。そいつは、外のとは全く違う。
長い間殺し屋を続けてた俺でさえ、この重苦しい嫌な雰囲気には慣れない。
「これが、・・・あのグロシェだっていうの・・・?」
「変わったろ、ここも。―――やっぱ、気付かれたみてぇだな。」
 俺がそう言った途端に、門番の野郎どもが銃をぶっ放しやがった!!
「ちっ、ずいぶんなお出迎えじゃねぇかよ!!上等だ、ついて来やがれ!!」
 そういいながら、俺等は、中へ中へとそいつらを誘導していった。
「どこへ向かえばいい?・・・大聖堂はどこにある?」
「追いついてきた―――、数が増えてる?!」
 俺は、そいつらが急に止まりやがったのに気付いた。そいつらはこっちに向かって、
何かを投げつけやがった。それが何なのか、気付くのに、別に時間は必要じゃなかった。
「ちっ、モンスターかよ。」
「スカイドラゴン、ケルベロス、アントデュレイク、ハイコンジャラー・・・」
「懐かしいわ。ガーディアンナイトなんて奴もいるじゃない。」
「それに、あの動く機械も・・・。みんな、見た事がある・・・。」
「突っ込んできやがった!!」
「ディッシュ!!よけるのよ!!」
 スカイドラゴンの奴が、俺の真上からのしかかってきやがった。
「ディッシェムさん!!!」

「エクスプロージョン。・・・デスショック。」

 スカイドラゴンの奴を上空に吹き飛ばして、その息の根を一瞬で止めてやった。
「ふん、強いわね。」
「そこの2匹は、俺に殺されてぇか・・・。じゃ、残り、・・・1人1体でいいな。」
「いいわねぇ、ガーディアンナイト、・・・覚悟することね!!」
「それなら私は、ハイコンジャラーさんを!!」
「・・・ならば、俺は、この機械をハンティングする!!」



 俺は、スピードアップを唱えて、機械のところに向かった!!
「ハンティング開始だ!!」
 その機械はクローを使い巧みに攻撃してくる!!アーチェリーを向ける隙もない!!
「地の矢!!くらいやがれ!!」
 足元で俺は、爆発を起こした。だが、その瞬間、俺は、体中の力が抜けるのを感じた。
直後、俺の体は宙に浮き、背後にあった廃墟の壁に激突した!!
「ぐふぁっ・・・、く、レイン・・・アロー!!」
 俺の抵抗は無意味だった。機械のクローが俺に向けられる!!
・・・背後の壁が轟音とともに突き崩された・・・。俺のわき腹から血が溢れる。
「ここまでか・・・。」
 なす術もなく、俺の体は、空中に舞い上げられた。やがて、静止する・・・。
眼下にあったのは、鋭いクローを頭上に突き出す、機械の姿・・・。
「こんな所で・・・死ぬのか?―――この世界を、・・・なめていた・・・。」
 俺の体がゆっくりと降下し始める。・・・クローが次第に近づいて行く。

「―――クォーリッジ、ダウン。」

 俺は、体の向きを変え、地面に向かい地の矢を放った!!!
大爆発の中に俺は落下した。・・・機械は、ショートし、動かなくなっていた。
「はぁ、・・・なんとか、ハンティング、・・・終了か。」
「―――相手はXK-150sなんて雑魚だぜ。・・・ひでぇやられっぷりだったな。」
 そこにはディッシェムの姿があった。
「アントデュレイクとケルベロスは?」
「・・・とっくに殺っちまったよ。さ、あとの2人の所に行くぜ。」



「こいつ・・・。上から攻めても下から攻めても、まるで刃がたたない・・・。」
 ガーディアンナイトの奴は、何の感情も顔に出してこなかったわ。
ただ、私を斬り裂く。・・・それだけしか、してこなかった。
「このままよけてるだけじゃ、どうしようもないわ。って、どうすればいいのよ?!」
 こいつの攻撃で、確実に私の体力は奪われてったわ。
「・・・バーニングスラッシュ!!」
 一瞬だけど、こいつが、私の炎にひるんだわ!!
「クロスブレイカー!!!」
 バランス崩したガーディアンナイトの奴に、一気に叩き込んでやった!!
一瞬勝ったかと思った。でも、こいつの悪魔っぷりには、もう泣くしかなかった。
「な、なんでまだ起きてくんのよ!!あんた・・・不死身なわけ?!」
 こいつのロングソードで、私は地面にたたきつけられた・・・。
「私のナイフじゃ・・・ダメだっていうの・・・?」
 ガーディアンナイトの奴が、ゆっくり近づいて、ロングソードを振り上げたわ。

「・・・使いたくはないんだけど・・・、こうなったら、・・・仕方がないか。
 ―――コンフュージョン。」

 もう、やけだった。こんな混乱の魔法にひっかかった奴なんて、雑魚ばっかり。
しかも効果は薄いし、だいたい、こんな卑怯なやり方、許せなかった・・・。
「・・・こいつ、何、空見上げてんだ・・?」
「―――あのシーナが、あれだけ封じてた混乱の魔法なんか、使うとはな。」
「え?・・・こ、こいつ・・・マジで混乱してんの?―――とどめは、・・・いっか。」
 ガーディアンナイトの奴、空を見上げてたわ。表情は変わってなかったけど。



 私の魔力はもう尽き掛けていました。もう、すぐにでも眠ってしまいそうでした。
「・・・ね、眠い。でも、・・・ここで、負けちゃあ・・いけない。」
「おい!!しっかりやれ!!寝るんじゃねぇぞ!!」
 ディッシェムさんが私に声をかけてくれました。
「なに、へたってんのよ!!こんなとこでね、足止めくらってる場合じゃないの!!」
「ディッシェムさん、・・・シーナさん。」
「とっとと片付けるのよ!!」
 でも、私は気付きました。もう私と同じくらい魔力がなくなっていた、
ハイコンジャラーさんが、残り全魔力を放出しようとしていることに・・・。
「みなさん・・・、近づかないでください。」
「何言ってるのよ?!こいつはもういいわ!!勝手に自爆する!!
 あんたが、逃げなくてどうするのよ!!」

「マジック・・シールド。」
「・・・ちょ、ちょっと・・・魔力使い切ってどうするのよ!!!」
 私は、全魔力を使い果たし、眠りについてしまいました・・・。
「待て・・・。なんで、マーシャの回りに、マジックシールドがないんだ・・・?」
「お、おい・・・、これって・・・。」
「私達にマジックシールド唱えてどうすんのよ!!!」
「直撃を受ければ死ぬぞ!!!」
「自分を犠牲にして、俺達に魔法をかけただと?!」

「・・・マーシャは、そういう子なのよ。・・・私達でくいとめるわよ!!」
 シーナさん達は、私のところに近づいてくださいました・・・。
「シーナ、覚えてるか?・・・この魔法、・・・食らったことがある。」
「忘れるわけないわ。この締め付けられるような気分・・。体中の力が抜けてくの。」
「・・・おい、お前ら。―――何か考えがあって、飛び出したんだろ?!
 ・・・どうすりゃあいいんだ!!おい、答えろ!!なに、黙ってやがる!!!」







 (56日目朝)
「―――マーシャ様・・・、――――マーシャ様・・・。」
「・・・・?」
「――マーシャ様・・。」
「・・だれか・・・私を・・・・呼んでいる・・・。」
「―――私です・・・・。」
「・・・・ルアート・・、ルアートね・・・・・・。そうでしょ・・・。」
「―――目を・・・・開けて見てください・・・。」
「えっ・・・?」
 私は、とても不思議なものを見ました。そこには、とてもまばゆい光がありました。
そして、その中に、背中に翼の生えた何かが、遠くから私を見ていました。
「あなたは・・・だれ・・・?」

「―――あなたを・・・遠くで・・、護る者・・・・。」

 その言葉を聞いた時、私の意識が急に戻り始めました・・・。
「―――アーシェルさん・・・、シーナさん・・、ディッシェムさん。」
 回りにとても暖かい空間があることを感じました。
「・・・ルアート?・・・ルアートね!!」
 ルアートは、静かに目を閉じていました。
「みなさん!!・・・だ、大丈夫ですか!!」
 アーシェルさんが、最初に気付かれました。
「―――マーシャ、・・・無事・・なんだな。」
「動かないでください。今、キュアをかけます。」
「・・・もう、かけてくれてるんじゃあ、なかったのか・・・?」
「え?!」
 よく見ると、アーシェルさんも、シーナさんもディッシェムさんも、
傷がふさがっていました。回りの暖かい空間が、私達を癒しているようでした。
「・・・また、助けられちゃったみたいね。」
「シーナさん・・・。」



 もう、すっかり夜が明けてたわ。
「・・・ちっ、もう朝かよ。こんな明るいと、行動しづれぇ、・・・行くぜ。」
 ディッシュの奴は、さっさとグロシェに向かって歩き始めてた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「シーナさん!!ディッシェムさんも、待ってください!!」
「お、お前ら、・・・俺を、置いていくな!!」

 青い空に浮かぶ、白い雲の下で、鳥たちが幸せそうに歌う・・・、
色とりどりの美しい草花に包まれた聖地・・・、
この世に残された、唯ひとつの楽園・・・。
 あの頃、マーシャがここにいたなら、きっと、そんな風に言ったと思う。
「ひ・・・ひどすぎる。」
 マーシャが一番初めに言ったのは、そんな言葉だった。
いくら私でも、こんなグロシェ大聖堂なんて想像してなかった。
 そこにあったのは、青白い表情の鎧、・・・殺気立ってる兵士に、
―――今でも必死に、神の声って奴を聞こうとしてる、聖職者の姿だったわ。
「7年って・・・、そんなに、長かったって言うの・・・?」
「・・・あの兵士達・・・まさか・・。」
 そいつらは、何かを中にいた兵士の奴に伝えてたわ。
しきりにレイティナークの方を指差してた・・・。
「ちぇっ、バレちまってるみてぇだな。」
「ん?・・・そこの4人!!」
 兵士が私達に気付いて、話しかけてきた。
「な・・、な・・、何よ!!」
「そんな陰で何をしている?・・・そろそろミサの時間らしい、
 ・・・もう施錠するから、早く入れ!!」

「え・・、べ・・、べつに、わたした―――」
「は、入ります!!・・・み、みなさん!!・・い、いきましょう!!」
 マーシャがとっさに、拒否しようとした私の口をふさいで、中へ引きずり込んだわ。



「もがぁぁもががもがぁぁあ・・・・・・。」
「マーシャ・・、シーナの息が・・。」
「あっ!?」
「ブハァァッ・・。・・・あんた、殺す気!?」
「・・・も、もう始まりますよ・・。」
「また、いつもみたいに、何もなかったように流したわね・・・。」
「よっしゃっ、―――俺は、覚悟を決めたからな。」
「あぁぁ、もう!!始まっちゃうのね!!!」
「・・・。」

 それから、横で見る限り、この2人にとって、苦痛な時間が、永遠に続いた・・・。

「―――シーナさん?・・・シーナさん!!・・・おきてください。」
 シーナは、わけの分からないことを口にしていた。
「おい・・、大丈夫か?・・ホントに・・。」
 2人とも完全に気を失っていた・・・。
「ほんの6時間なのに、・・・疲れちゃったのでしょうか?」
「ん?・・・誰か、来るぞ。」
 俺とマーシャのそばに、痩せた老人が近づいてきた。
「・・・若いのに、・・・よう通うのォ・・・。
 ・・・やりたいことがたくさんあるじゃろうに・・・。」

「神への信仰は、欲とは関係ありません!!心の中から自分を見つめていれば、
 希望の光が、私を包み込んでくれて、とても安らかな気持ちになれます・・。」

「・・・ほぉ・・。若いのになかなか・・、良いことを言うんじゃなぁ・・。
 ―――そちらのおふたりは、・・お疲れのようじゃけどのぉ・・。」

「・・・。」
「お、おい・・・、・・・お、起きろ!!」
「・・・・。」
「だ・・・だめだ・・。」
「・・・じゃが、もう神の声はわしには聞こえん。年を取りすぎたのかもしれんの。
 もう、この世に・・・見捨てられてしもォたんかのぅ・・・。」

「そ・・、そんな・・。」
「お嬢ちゃんが嘆くことはない。そんなつもりでいったのじゃないんじゃ・・。
 ―――どうじゃ?・・・わしのところへ、来ないかの?」

「・・・よろしいのですか?」
「ああ、かまわんとも。―――何かお嬢ちゃんには懐かしいもんを感じてのォ・・。
 ・・・あと、そちらの2人も来るとええ・・。」

 その老人の顔は、多くのシワが刻み込まれ、暗い表情だった。
これまでの人生で、どれだけの苦労を背負ってきたのだろうか・・・。
俺には、それを知る術などないのかもしれない・・・。
 老人は、聖堂の入り口へと向かっていった。
「あのおじいさん。・・・私が話をするたびに、笑ってくれた。」
 マーシャには、そんな老人でさえも、幸せにすることができるのかもしれない。
「さぁ、2人を連れて行きましょう!!」






 (56日目夕方)
 俺には、その家が、とても、人の住む家には見えなかった。ただの廃墟だった。
「・・・ほんのささやかなもんしかないんじゃが・・。」
「かまいません。・・・私達のほうがご迷惑をおかけしているのに・・。」
「・・・名前・・、聞いてもよいかの・・・?」
「マーシャと申します。」
「・・・マーシャ・・。」
「あ・・・あれ・・?・・・ここ・・、どこなの?」
「シーナ・・、やっと、起きたか。」
「あ、・・あれ・・、アーシェル。・・・私どうして、・・・ここにいるの?」
「あ?」
「ねぇ・・、アーシェル?」
「あの・・、シーナさん?」
「なに、マーシャ。私に何か、質問があるの?」
「えっ・・・、そ、その・・。雰囲気・・・変わってませんか?」
「そ、そうかしら・・。」
「・・・不自然なくらい。」
 マーシャが奇妙に感じるくらい、シーナの様子は普段と違っていた。
「・・・ん・・、ここは・・・、いったい・・。」
「ディッシュ?・・・起きたの?」
「シーナ・・。・・・何してたんだろ?」
「―――寝ていたのかと思っとったら、―――ちゃんと聞いておったようじゃなァ。」
「おじいさん?・・・誰ですか?」
「・・・ただの老いぼれよ・・。」
「そうなんだ。」
「・・・。」



「・・・マーシャ、・・・じゃったのォ・・。」
「はい・・。」
「何年前だったかのォ・・、・・・物覚えが悪いのは、困りもんじゃなァ。
 お嬢ちゃんを見て、おもいだしたんじゃ・・。
 ・・・お嬢ちゃんより、少し年は上じゃったかのォ。
 お嬢ちゃんの座っていた、あのいすに座っておった・・・、
 ―――不思議な瞳をしておった・・・。
 その女性は、わしに気付いて話しかけてきたんじゃ・・。
 ・・・その言葉が、お嬢ちゃんの話した言葉そのままじゃったから・・。」

 私は、その言葉を聞いて、驚かずにはいられませんでした。
「あれは、お父様がいつも私に言っていた言葉・・・。
 ・・・でもそのあと、いつも言っていました・・・。
 ―――お前のお母様が、私にそれを教えてくれた、って・・・。」

「お母様・・って、・・マーシャ。・・・それって。」
「なんと!!・・・あれは・・、お嬢ちゃんのお母様じゃったか・・。」
「そのあと・・、お母様はどこへ行かれたのですか?」
「―――すまんのォ、・・・思い出せぬ。ただ・・・これだけが、その証じゃ。」
 おじいさんは、古い手鏡を私に手渡しました。
「ル、シ・・・ア。―――お母様の名前・・・。」
「やはりそうじゃったか。・・・あの女性は、まるで、今日のこのことを、
 分かっておったかのように、・・・わしに、これを預けたんじゃ―――。」




 突然地面が揺れ始めたわ。ガラスのない窓が音を立てて、
ヒビの入った壁からボロボロと白い塊が落ちていった・・。
「地震?」
「・・・このごろ、だんだんと回数が多くなっている。
 それに揺れもだんだん大きくなってきてんだ・・・。」

「・・・お嬢ちゃんのお母様がここにいた頃も・・、確か、そうじゃったなぁ・・・。
 ―――それからしばらくして・・・・。」

 そう言って、急に黙りこんだわ・・。
「ど、どうしたのですか?」
「・・あぁぁ・・、なんでもないんじゃ。」
「な・・・、何か・・あったのでは・・?」
 それから、まるで、遠い日を思い出すように遠くに目をやったわ・・。
「―――あの日・・、この世は・・・神から見放された・・。」
「えっ?」
「ど、どう言う意味ですか!?」
 静かに、目を閉じてたわ・・。
「・・・この世が神から見放された・・・って・・。」
 マーシャが、私の質問を止めた。
「シーナさん。・・・もう、やめましょう。」
「な・・、そ、それは・・・それで・・・かまわないけど・・。」
「私・・、このおじいさんの事がとても知りたい。
 ・・・でも、・・・それはこのおじいさんを傷付けてしまう・・。
 たぶん、そうだと思うんです・・・。そっとしておいてあげませんか?」

「・・・そ、そうすれば・・、・・・いいんじゃないかしらね。」
「ありがとうございます。」
 それから、マーシャは、持ってた手鏡をおじいさんの手に持っていったわ。
「・・・どうしたんじゃ?それは、お嬢ちゃんのものじゃよ?」
「いつか、必ず取りに来ます。その時まで、預かっていてくださいませんか?」
「か、構わんが・・・、じゃが、どうして?」
「お母様の大切にしていた物、・・・こわしたくないから。」
「―――お嬢ちゃんは、やはり、お母様の娘さんのようじゃな。」



 俺は、そいつらの話なんか、聞いちゃいなかった。
完全に、外にいる奴らのせいで、俺は、殺気立っちまってた・・・。
「来やがる・・・。」
 そいつらは、ドアを蹴破りやがった。
4人の兵士と、そいつの前に、1人の研究員の野郎がいた。
研究員の奴は、冷てぇ目で中を覗いてやがった・・・。
「・・・質問があるんだが、・・・答えてくれるかねぇ?」
「・・・な、何だ?」
「このグロシェに、・・・何の用があるというのだね?
 ―――殺し屋のディッシェムさんよ・・・?」

「な、何言ってんのよ、・・・そいつが、こ、殺し屋なわけ・・。」
「お前じゃない。ディッシェムに聞いてんだよ・・・。」
「・・・ち、違う。」
「それはそれは、大変失礼しました・・・。しかし、ザンネンですなぁ・・。
 ―――せっかく、・・・こんなものを見つけて差し上げたのですが・・。」

 研究員は、兵士に何かを取り出させやがった。
俺は、それを見た瞬間に、頭に血が上ってきやがったのがわかった。
「まぁ、こうまで形が変わってしまったのだから、分からないかもなぁ・・・。」
「―――テメェら、・・・なんで、テメェらが、・・・親父のもんを持ってんだ?!」






 (56日目夜)
「親父?・・・さぁ・・、なんの事でしょうかねぇ?」
「おい!!・・・それ以上、貴様に触れさせたら、親父が汚れちまう!!
 ・・・今すぐ、返しやがれ!!」

「おや・・・、それは、困りましたねぇ・・。
 ・・・これはかっての傭兵隊長、ベラ=フランシス殿の物・・・。
 そのようなお方の、息子様が・・、もし仮に、ここにいるなどということがあれば、
 ―――ここにいる者全員が、死ぬだけなのですがねぇ・・・。」

「くっ・・・。」
 私には、それが、何であるかは、分かりませんでした。ただ、それが、
ディッシェムさんにとって、とても大切なものだということしか分かりませんでした。
「どうしたぁ?・・・私には、オ・・ヤ・・なんとかと、
 聞こえたような気がしたのですがねぇ・・。」

 ディッシェムさんは、黙り込んでいました。
「―――これは、度々失礼を。気のせいでしたか・・。」
「・・・そ、そうだ・・。」
「・・・ならば、この場にいる者全員、別にこのかたまりが、
 どうなろうと、関係ない・・・ということで、よろしいですよねぇ?」

 白衣を着たその人は、近くにいた兵士の人の剣を抜かせました。
「な・・、何を・・・?」
「どうしたのでしょうかぁ・・、・・・別にかまわないだろ・・。
 それとも何か・・、これがそんなにも大切な物なのですか?」

 ディッシェムさんは、抵抗することもできず、ただ、黙っていました。
「・・・よし、やれぇ!!」

「ちょっと、・・・まってくれないかしら・・。」



 これ以上、こいつらの勝手を許しておくなんて、できなかった。
「・・・なんでしょうか?・・・何か用ですか、聖職者さん?」
「私達の前で、斬ったりしてしまったら、・・・もう本当の、
 ディッシェムって奴・・・いえ、人が見つけられないんじゃないかしら?」

「余計な心配を、してくれるのだなぁ・・。」
「それより、私・・・。そのベラ=フランシスって人がどういう方なのか、
 知らないのよ・・。・・・その人がいたところに連れて行ってくれないかしら?
 ・・・私達もそんな犯罪人、捕まえるのを手伝いたいと思ってるのよ・・。
 ここで、あなた方と会ったのも何かの縁だわ。・・・きっと。」

「さぁて、どうしたものだろうかねぇ・・。ザンネンだけど、聖職者の方々には、
 立ち入りの禁止されてるところなんだよォ・・。
 ・・・最近は、犯罪者達がアンタ達、聖職者に化けて侵入するなんて、
 愚かな事を考える連中が多いからねぇ。」

 私は、負けずに言い返してやったわ。
「私達は、薄汚いそんな連中が、軽々しく私達に化けるっていうのが、
 許せないの。・・・一刻も早くそんな奴等―――方々を見つけるのを手伝いたいの!!」

「・・・まぁ、よい。―――我々に手を貸してくれると言うのなら、
 我々のこころ強い味方だ・・・。特別に案内しよう。
 ―――連れていけ・・。」

 兵士達は、私達を取り囲んだわ・・・。



 辺りは、夜の闇に全て包み込まれていた。
時折、雷鳴が轟く中、俺達は、不気味な建物の前に連れて行かれた・・・。
「グロート・・・・セリヌ城・・・。」
「・・・ずいぶんと古い時代の呼び方をする奴がいるのですねぇ・・・。」
 その研究員はディッシェムを嘲笑した。
「チッ・・。」
 ディッシェムは、怒りを押し殺してうつむいているようだった。
 俺達は、その城の暗い廊下を奥へと案内された。
そして、ある、扉の前までつれてこられた・・・。
「さぁ・・、ここに、入るといい。・・クックックックック・・・。」
 不気味な笑い声を残し、その研究員たちは、俺達を、その部屋の中へと入れ、
扉を閉めた後、遠ざかる足音とともに、遠くへと行ったようだった。

 小部屋―――というにはあまりにも粗末な、まるで牢獄とも言える部屋だった。
「鍵、締めてったわね。・・・閉じ込められたってわけ?」
「・・・こんな形にはなったが・・、ガーディア・・、他の研究員も、
 何らかの形でここに関わっている事は間違いないんだろ?」

 俺は、ディッシェムに確認した。
「・・・そんな事、どうだっていいだろう。・・・あの野郎。
 ―――なんで、あの野郎が・・・・。」

「あの変な奴・・、・・・一体、アンタの親父さんの何を持ってるっていうのよ?」
「関係ない・・・。」
「・・・まぁ、いいわ。アンタの親父さんがスゴイ人ってことは、
 よぉく知ってるわ。―――でさ、いったい、何した人なのよ?」

「お前、・・・冗談じゃなかったのかよ?」
「知るわけないじゃない。」



 俺は、立ち上がってシーナに向かって怒鳴るみてぇに言った。
「テメェ!!・・・ここは、グロートセリヌ城だ!!
 10年前まで、この国を国民と一緒に共同で治めてきた平和な王城だった・・。
 ―――親父は傭兵隊長だった・・・。親父は王家直属の傭兵の中でも、
 最も権力を持つものに近かった・・・。
 ・・・でも、決して誇り高ぶったりしない・・。
 失業してしまった人達に、港町レイティナークを建設する仕事を手伝い、
 ・・・地元の鉱業を自ら進んで発展させていった・・・。」

「・・・いつも、あんたが言ってたことよね、それ。」
「ガキの時から、本当は親父の姿なんて、ほとんど見た事がねぇ・・・。
 ―――俺を目標にするな。俺を超えるくらいのつもりで生きろ―――。
 ・・・みんな口々に、親父の事を誉め称えていたことしか知らねぇ、
 俺が覚えてる、たった1つの親父の言葉だ・・・。」

 俺の話を聞いてやがったのは、アーシェルとマーシャだけみてぇだった。
「・・さっきの野郎が持ってたのは、離れ離れだった俺と親父、
 それに、もう生まれた時にはいなかった、俺のお袋をつなぐ、
 ただの名もねぇペンダントだ・・・。もともと、親父とお袋が持ってた。
 俺が気付いた頃には、親父が俺に、お袋がしていたペンダントをつけていた。
 ―――いつも肌身離さず、持っていた・・。」

 思い出したくねぇことを、俺は、口にしてた・・・。
「それが、粉々に砕けちまったのは、・・・親父の死を告げる紙が、
 ・・・人々の前に掲げられたときだった・・・。だけどよ・・・、
 ずっと、見つかってねぇんだ・・・。―――親父の亡骸も、親父のペンダントも。」

「・・・それじゃあ、あいつが持っていたものって・・・。」

 俺は、両手をきつく握り締めていた。
「これで、はっきりしたぜ。・・・親父は、事故や病気で死んだんじゃねぇ・・。
 ・・・あいつらに、・・・あいつらに、―――殺されたんだ!!」







 (56日目深夜)
 突然、鍵が外れる音がして、扉が勝手に開きました。
「えっ?・・・ど、どう言う事?」
 アーシェルさんとディッシェムさんが立ち上がりました。
「・・・ここにいても仕方がない、・・・進もう。」
 私達は、部屋から抜け出して、廊下に出ました。
「あんた、この道・・・知ってんの?」
「見た事がある。・・・この先に、確か広間があったはず・・・。」
 それから、角を2つ曲がって、階段を下りた先に、
ディッシェムさんが言っていた、その広間がありました。

「な、・・・なんだよ、これ・・・?!」
 その広間には、とても大きな機関車が何台も止まっていました。
「・・・線路の終着点になっているのか?」
「・・・ふざけるんじゃねぇよ。こ、ここは・・・、
 グロートセリヌの国民と傭兵が交流する、そういう場所なんだぜ・・・・。
 ・・・俺は、覚えてるぜ。俺と仲良かった、親父の下で働いてた奴とか、
 いっつも笑って、周りを明るくしてた、おばちゃん・・・。
 ―――それが、・・・なんで―――?」


「―――10年は、本当に長い月日だった・・・。やっと、今・・・、
 我々の積年の努力が、実を結ぼうとしているのだからな・・・。」


「この声・・・、ヴァルゼッタか?!」
「そう、彼も、よく協力してくれた。3日前だったか。」
「・・・まさか、レイガルさん・・?」
「だが、一番貢献してくれたのは、やはり、・・・傭兵隊長様だったな。」
「ヴァルゼッタ!!出てきやがれ!!」
「喜べ。・・・ベラと同じ場所で、最後の実験台となるのだからな。」
「実験だと・・・?」
「そして、成功の暁には、貴様らの死が待っている・・・。」



 巨大な機関車のなかから得体の知れない、
この世の物とは思えない生命体が現れた・・・。
「こいつは・・・最強にして最高の能力・・・『力』を身に付けたもの・・・。」
「な・・、なんだ、・・・これは?」
「スライムでしょ?・・・やけにでかい・・。」
「親父と同じ場所で死ぬだと・・・?どういうことだ!!」
「まったく同じ状況でベラも死んだんだよ。だがあれはまったくの事故だ・・・。
 まさか、あんな爆発が起こるとは思いもしなかったからな・・。
 だが、まったくよいデータを取れたよ・・・、本当に感謝している。
 ・・・もっと完成した状態であればと、悔やまれたよ・・・。」

「事故・・・?もう分かってんだよ・・。貴様らが殺したって事くらいなぁ!!」
「ディッシェムさん、前を見てください!!」
「こいつをなんとかするのが先だな・・。」
「私、ついていけないわ・・、こんな奴のために、10年も費やすなんて・・・、
 今すぐこの世から消し去ってあげるわ!!・・・ディッシュ・・、どうすんの?」

「答えるまでもねぇ!!」
 ディッシェムはスピアを構え、巨大なスライムに向かって行った!!
鋭くスライムの体を突き通す!!
「手応えがねぇ・・・。」
「ディッシュ・・?」



 ディッシュの奴は、貫いた勢いのそのまんまで、スライムに吸い込まれたわ!!
「クロスブレイカー!!」
 確かに、ナイフは当たってたのに、斬ったって感覚が全然返ってこなかった。
「こいつ・・・なんだ?!」
 ディッシュは、すり抜けて、奥の方で倒れこんでた・・・。
「マーシャ・・・、近づいてくるぞ!!」
 スライムの奴は、私達を無視して、マーシャとアーシェルの方に迫っていったわ。
「・・・氷の矢。」
 アーシェルの奴の氷の矢で、スライムの体の前面が凍りついたわ。
「次だ!!」
 大爆発が起こったわ。でも、スライムの奴の勢いは止まらなかった!!
「止まらない・・・、トルネードスラッシュ!!!」
 真空波が、スライムを取り囲んだわ。でも、結局、アーシェルの奴は、
スライムに取り囲まれたわ・・・。
「ア、アーシェルさん!!!」

 マーシャはロッドを持ってスライムに向かって、フラッシュリングを唱えたわ!!
突然、スライムが今までとは違う動きをしたわ。ぶつかってくる光にひるんで、
すごい勢いで後ろに下がっていった・・・。
「なんだ、あいつの動き・・・?」
「・・・マーシャのフラッシュリングに、反応している・・・。」
「いいわ、マーシャ!!あんたが頼りよ!!!」
「―――フラッシュリング!!!」



 スライムの奴に、マーシャの魔法が直撃した瞬間、
奴は突然動きを止めて、細かく震え始めた・・・。
「な、・・・何が始まるんだ・・。」
「・・硬直してやがるな。」
「そうか、今なら魔法でなくとも効く!!・・・シーナ!!」
「行くわ!!」
 俺が飛び出すと同時に、シーナの奴が飛び出しやがった。
「今度こそ、くらうのよ!!・・・クロスブレイカー!!」
「テメェの体、ぶち抜いてやらぁ!!!」

 俺には、その後に起こったことが何なのか、すぐには分からなかった。
体中に、何か、硬い細いもんがたくさん、貫いてきやがった・・・。

 シーナの奴を見て、どうなっているのか、俺は理解した。
「・・・触手ねぇ、やってくれるじゃない・・・。」
「シーナ、お前・・・。」
 スライムが貫きやがった体中の穴から、血が吹き出しやがった・・。
「この程度で、・・・負けを認めるわけ、ないじゃない!!」
 シーナは、すぐに飛び出しやがった。あいつは、一度、攻撃を受ければ、
もう、二度と同じ攻撃は食らわねぇ。次々と、触手を斬り落としていきやがった。
「キリがねぇ・・・。エクスプロージョン!!」
 俺の周りにいた触手は、みんな爆風で吹き飛ばしちまった。
「―――このスライム、ダメージを受けているのか?
 攻撃すればするほど、さらに攻撃の手が厳しくなっている。それに・・・。」

「クロス―――!!」
 シーナの奴が、奴の攻撃を避けそこないやがった!!
「・・・攻撃が、読まれているのか?」

 油断した隙に、俺は、わき腹を触手にえぐられ、血が大量に溢れてきやがった。
「―――こ、こいつ・・・。俺達に・・・殺れる・・のか?」






 (57日目早朝)
「ディッシェムさん!!・・・キュア!!」
「マーシャ・・、何してやがる・・・、ほっとけ・・。・・・殺られちまう!!」
 マーシャに触手が集中してったわ!!
「ふざけてんじゃないわよ!!・・・このスライムが!!」
 私は、ナイフから炎を吹き上げさせながら、スライムをぶった斬ってやった!!
でも、それも、もう読まれてたわ。私の体に、触手がまとわりついてきた・・・。
「・・・わかったわ、この触手、・・・体力を、奪っていくんだわ・・・。
 ・・・それで、どんどん、・・・力が抜けてくのよ。」

「シーナさん・・・。」
 マーシャが、ディッシュにキュアをかけ終わって、立ち上がった。
「私は、絶対に負けない!!」

 マーシャの回りが、突然青く光り輝きだした・・・。
とてもあったかい光だったわ。それから、この光が、スライムの触手に届いた時、
また固まって、そのまま砕け散っていったわ!!
 私達は、隅の方で固まってたスライムの前に立ちふさがったわ。
「・・・だが、不完全だったみたいだな、お前も。」
「こんな奴に、親父は殺されちまったんだ・・・。絶対に、消してやらぁ!!」
「―――行くわよ!!」

 さんざん苦しめ続けてきたこいつを、私達はやっと倒せると思ってた。
でも、私達は、・・・とんでもない勘違いをしてたみたいだった。



 スライムの奴が分裂しやがった!!すげぇ勢いで後ろに逃げ出す!!
それに、すぐ、アーシェルの奴が反応した。
「レインアロー!!」
 数え切れねぇほどのアローと一緒にシーナの奴が前方に飛び出した・・・。
そのすぐ後、急に、おかしな事がおこりやがったんだ・・・。
「・・・だ、だめ、―――耐えられない!!」
 急に不自然な格好で止まりやがったシーナが、いきなり、吹き飛ばされた!!
「お、おい・・・何してやが―――」
 俺とアーシェルに、すげぇ力がかかってきた。
「な、・・・なんだ?!こいつは!!!」
「体が、動かねぇ・・・。」
 俺達の周りの床が衝撃波でえぐられて、壁にはヒビがはいってやがった・・・。
「来た・・・。これは、ベラの時以来の、良いデータが取れそうだ・・・。
 さぁ、やるがいい!!思う存分、暴れるといい!!」

「力が・・、入らない・・。」
「―――親父・・・。」

 辺りが、急に静まり返りやがった。・・・地震が来やがったんだ。
遠くから、小刻みにそいつは始まり、・・・だんだん、激しくなってきやがった。
「―――愚かなことを・・・。」



 マーシャは、いつもとは全く違う、正反対の表情をしていた・・・。
その表情には、笑みがなく、青白い、全てを見下すような、
威圧感のある中に、どこか、人間のものではない、荘厳な雰囲気があった。
 そんなマーシャの足元に、ルアートが近寄る・・・。
「自ら、破滅に向かっていることを、まだ理解しないと言うのですか?」
 マーシャの回りを、青い光が包み込んだ・・・。
そして、ルアートがマーシャの肩に乗り、マーシャと同じく青く光りだした。
その姿は、次第に変わっていった。羽を持つ、光り輝くものに・・・。
 そして、マーシャと共に、スライムの元へと歩いていった・・・。
「・・・マーシャ様。ようやく、会う事が、・・・出来たようですね・・・。」
「―――私は、・・・悲劇を、演じ続けなければ・・・ならない者。
 ・・・永遠とも言える・・・時の限り―――。」

 マーシャは、左の掌を、高く天に向けた・・・。
「・・・抵抗する術は、・・・何者も、持たない。」
 その左手から、この世のものとはとても思えない、
強烈な魔力に帯びた光があふれ出す・・・。
 そして、マーシャが左手を振り落とした時、轟音とともに、
その光の束が、スライムを貫いた・・・



 私は、長い夢から、覚めたような気分でした・・・。
それでもまだ、私は、まるで空を飛んでいるような気持ちがしていました。
 やがて、私の体は、地面に落ちました・・・。
 どれほどの時間がたったのか、私には分かりません。
 最初に、起き上がられたのは、ディッシェムさんでした。
「―――何が、・・・あったんだ?」
 ディッシェムさんは、すぐにシーナさんと私を起こしに来ました。
「シーナ・・、マーシャ!!」
 シーナさんも起き上がりました。私の顔を見ていました。
でも、いつもとは、どこか違った表情をされていました。
 まるで、・・・何か、不思議で、・・・恐ろしいものを見たかのような表情でした。

「・・・マーシャ・・、あんた、・・・いったい・・。―――何者なの?」

 シーナさんの言う意味が、・・・私には分かりませんでした。
「―――恐らく・・・何も覚えてないのだろう。」
 アーシェルさんも、シーナさん達の声に気付いて、起き上がりました。
 私も、ゆっくり起き上がって、回りを見ました・・・。
それは、夢を見始める前の風景とは、・・・違っていました。

 あの冷たい床は、そこにはありませんでした。・・・そこにあったものは、
地面に散らばっているがれきの中の、・・・1つの小さな花でした。

「―――ここで、・・・何があったのですか?」



 ―――気にしなくても、いいわ・・・。
 こんな時、私なら、きっと、マーシャにそう話してた。
でも、今、私は、本当に、そう言ってもいいのかどうか、分からなかった。
 目の前で起こったことが、・・・現実に起こったことだなんて・・・。
 それに、私は、心の中で、もやもやしたものが、渦巻いているような気がしていた。
それが、・・・今、初めて、感じたものではないと、私に語りかけてくるみたいだった。
 ―――私が、知らないはずの・・・何かだって。
「・・・あのスライム、・・・何処に消えたんだ?」
 私達以外の、すべての気配が、回りから消えていた・・・。
―――ただ、1つを除いて・・・。



 その頃、レイティナークにて・・・。

「アトルさん・・・、奴等が、・・・殺し屋どもが騒ぎ始めやした。」
「ああ。・・・さては、ディッシェムの奴等、何か、しでかしたか?」
「アトル。・・・本部の方から、かすかだが、とても強い力を感じた・・・。」
「やっと、本部に入りこんだ・・・ってことで、・・・いいんだな?」

「殺し屋の動き方次第だ。―――もし、動くならば、・・・叩く!!」






 (57日目夕方)
「ヴァルゼッタ!!どこに、・・・いやがる!!」
「・・・もう、何万体だったろうか・・・。
 世界中の生命体を集めその能力を奪い、究極の力を持つ生命体を創りつづけ、
 実験を続け、・・・ようやく完成した。
 ―――多くの犠牲を払い、実験を行った、生命体はみな、
 この力の影響で狂暴化した。・・・思わってもいなかった副産物だったがな。」

「お前・・・。」
「・・・完全無欠の生命体。究極の力・・・。」
 緊張からくるものか、それとも、野望の達成感からきたものか・・・、
ヴァルゼッタの声は上ずっていた。
「だが、何度実験しようと、・・・犠牲を重ねようと・・・。
 1つだけ、欠けるものがあった・・・。
 それが、何か・・・、知る術は、何もなかった。」

「ヴァルゼッタの野郎!!聞いてやがるのかぁ?!出てきやがれ!!!」
「―――そうか、くくく。・・・これが、・・・ガーディアの言った、
 ・・・究極の力の、本当の意味だったとはな・・・。」

「ガーディアだと?!!どういう意味だ!!」
 少しの間の後に、ヴァルゼッタは言い放った!!

「―――どうしても、欠けてしまう、1つのもの―――。
 ・・・傭兵隊長でもなく、・・・盗賊のものでもない―――。
 軍部が、殺し屋にまで依頼し、捜し続けさせた・・・その女だ・・・。
 感謝しよう・・・。―――自らの首を絞める、苦しみを味あうといい。」




 アーシェルの奴が、突然、宙に浮き上がったわ。
それから、見るに堪えない不自然な格好になった後、とてつもない力で、
地面に叩きつけられて、体中の無数の傷から、すごい量の血があふれ出したわ!!
「ア、アーシェルッ!!!」
「・・・!!」
 ディッシュが、何かの見えない力に押しつぶされて、地面にへばりついた・・・。
「ど、どうしたっていうのよ?!ディッシュ!!!」
 私は、悲鳴のような声でそう言っていた。でも、それをかき消すような声で、
マーシャが、私に何かを叫んだ―――

 ・・・何が起こったのか、考えられなかった。
体中が固まっているのか、それとも、力が抜け切って、感覚もなくなったのか・・・。
 倒れ込んだ衝撃すら、もう、私には、わからなかった・・・・。
「ハハハハ・・・。どうやら、これで、試作品すら創る必要もなくなった。
 ―――ここに、完成したのだからな・・・。完全なるものが―――。」




 私は、もう、ただ、3人のところにかけよって、全魔力を使って、
キュアをかけることしか、出来ませんでした・・・。
「・・・お前の苦しむ姿。―――もっと、多くの者に見せてやりたい。
 ―――さぁ、ガーディアの元へ行くぞ、共に―――」

 私は、もう何も聞こえていませんでした。
でも、私は、何かに気付いて、キュアをかけるのを止めてしまいました。
 何か、とても、大きなものが、この場所から、・・・消えて行く―――。
「―――ど、何処へゆく!!待て―――」

 しばらく、何も考えず、ぼうっと立っていました。
今、そこに、立っていたのは、・・・私、たった1人だけでした・・・。
「・・・キュア。」
 思い出したように、私は、もう一度キュアを唱えました・・・。
「―――やめろ・・・。奴を、・・・追いかけるのが、・・・先だ。」
「ア・・・ア、―――」
 もう、アーシェルさんのことを呼ぶ事すら、出来ませんでした。
「・・・このまま野放しに、・・・しておくことは、・・・出来ない。」
 アーシェルさんが、体をひきずるようにして、起き上がりました。
「―――野郎の考えが、・・・まさか、マジだったなんてな・・・。」
 ディッシェムさんも、今にも呼吸が止まりそうだというのに、立ち上がりました。
「マー・・、シャ・・・、・・・この・・わ、・・・わたし・・が、
 ・・・あい、つらを・・・・許すな・・んて・・、―――おも・・・って、・・・」

「シーナさん!!喋らないでください!!思っていません!!
 そんなこと、・・・シーナさんが思ってるわけなんてありません!!
 だから・・、だから、お願いします!!もう!!!」

 私は、見ていました。・・・シーナさんに、ものすごい雷が落ちたのを・・・。
「・・・ごめ―――、マー・・シャ、・・・ごめ・・ん。」
「ど、どうして謝ったりするのですか!?」
「―――こ、この・・・わ、わたし・・・が、・・・く、くさっ・・・た・・
 や、ろうの・・・、ことば・・・なん、か・・・し、しんじ・・ちゃっ、て・・。」

 シーナさんは、ゆっくり・・・ゆっくりと立ち上がりました。
「・・・待ってください!!このままでは、死んでしまいます!!
 アーシェルさんも・・・、ディッシェムさんも!!!!」




 俺達、3人とも、・・・体中がどうにかなっちまってた。
「死ぬ?・・・私が、こんな、ところで、死ぬわけ・・・・ないじゃない・・。
 まだ、・・・リズノ、だって、見つけなきゃ・・・なんないの・・・。
 ―――追いかける・・・しか、ない・・・わ、・・・マー、シャに・・、
 ・・・ヒドイこと・・・言った、・・・あの・・野郎を―――。」

「・・・真実は、・・・この先に・・・ある。―――確かめに・・・行くぞ・・。」
 もう、俺達は、マーシャの止める声なんか、聞こえちゃあなかった。
シーナの奴も、アーシェルの奴も・・・、考えてることは、同じみてぇだった。
 本当の事を知ってる奴は、―――この奥にいる奴だと・・・。
だから、俺達は、・・・もう、ここで止まるわけには、いかねぇんだ・・・。

「・・・だ、・・・だれだ?」
 廊下に、そいつは、倒れてやがった・・・。
「―――ヴァルゼッタ・・か?」
 俺は、そいつの顔を確認した。俺のことには、気付かねぇようだった・・・。
俺は、そいつの持ち物を探って、・・・ようやく、見つけた!!
「返しやがれ・・・、テメェなんかが、・・・持っていいもんじゃ、ねぇんだ!!!」
 ペンダントを取り戻して、俺は、3人の所に戻った。
俺の心臓も肺も、どうにかなっちまいそうだった・・・。
「・・・取り戻せた・・・な。」
 俺は、落ち着こうとした。・・・心臓の音が、どんどん速くなってきやがる・・。
「―――貴様が、・・・貴様が、・・・、親父を・・。」
 俺は、スピアを左手に握り締めた!!

「やめろ・・・、殺して、・・・誰かが生き返るわけじゃない。」
「・・・もう、そいつは・・・ダメよ。―――ディッシュ。」

 俺は、スピアを下げた。許しちゃならねぇ、・・・だが、俺には、もう分かってた。
「・・・俺達で・・・終わらせちまおう。・・・こんなことをよ・・・。」
 俺は、マーシャの方を向いた。それは、アーシェルもシーナも同じだった。

「―――行きましょう、みなさん!!!」


'04/02/27 edited by yukki-ts To Be Continued. next to