[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第3幕― 第20章

 (57日目深夜)
「この先に・・・研究所の、・・・本部がある。」
 何もかもが暗黒に包み込まれていた。時折、雷鳴が辺りに轟く。
その度に、水も栄養も得られず、朽ち果てた木の幹を映し出す・・・。
「・・・モンスターの気配も・・・ない―――。」
「ないんじゃない・・・。消し去られているんだ・・・。」
 俺達は、互いに支えあいながら、ただまっすぐ歩き続けていた。
そして、やがて、その建物は見えてきた・・・。
「―――研究所・・・本部・・・。」
「・・・ここに、・・・ガーディアはいるのか・・?」
 この世のものとは思えない程の、おぞましい、不気味な建物だった・・・。
「・・・本当に、・・・こんな悲しい戦いは、・・・もう、終わるのでしょうか?」
 マーシャは、そう言った。
「勝手に終わりはしない・・・。―――俺達の手で、・・・終わらせるんだ。」
 そのまま、研究所本部の中へと入っていった。激しい雷鳴が轟く・・・。



「・・・ディッシュ、・・・ここが、研究所本部・・なの?」
 私は、中の様子を見ながら、ディッシュにたずねたわ。
「ああ・・・。研究者の連中の、10年間の研究が、みんなここに集められて、
 ―――実験段階を終えた実験体は、・・・ここで実用化されんだ・・・。」

「お前が言っていた、・・・XK-150sとかいう奴か?」
「勘違いしてんじゃねぇ。―――あの野郎の話、聞いてたんだろ?
 ・・・外にいる奴は、単なる廃棄物だ。実験に失敗したな・・。
 そいつを、軍部は、意思のない道具みてぇに使ってやがった・・・。
 ―――早速、おでましみてぇだな!!」

 暗闇に、赤い光が4つあったわ・・・。それが、私達の方に近づく・・・。
「シーナ・・・、よけろ!!」
 体が言う事を聞かない・・・。そいつの攻撃をまともに食らった・・・。
「シーナさん・・、やっぱり、まだ・・・。」
「マーシャ、・・・シーナとアーシェルを見ていろ。
 そいつらに比べりゃあ・・・、俺の傷なんか、なんでもねぇ!!!」




 XK-300。こいつは、ただの廃棄物なんかじゃねぇ。
XKって名のつく、最低ランクの殺人機・・・。
「いいかよ?・・・研究者の連中が、死ぬ気で研究してやがった理由・・・。
 ―――それは、こいつらのどっかに、欠陥があるからなんだよ!!」

 俺は、スピアを持って、素早く、そいつらの背後に回りこんでやった!!
「そして、こいつを仕向けた野郎の最大のミスはよ・・、
 仕向けた相手が、―――欠陥の全てを知り尽くした、元一流殺し屋の・・・」

 俺は、背後から、思いっきりスピアで貫いてやった!!
XK-300の野郎は、あっという間に、ショートして故障しやがった!!
「後ろだ!!」
「―――この俺、ディッシェムだったってことだぜ!!」
 俺のスピアは、XK-300のど真ん中をぶち抜いていた・・・。
「・・・さすが、元一流殺し屋・・・ってとこね。」
「行動パターンは、少しも変わっちゃいねぇ。
 ―――何度、実験につきあわされたって思ってやがるんだ・・・。」

「心強い限りだな・・・。」
「こんな野郎、・・・目ぇつむってたってつぶせらぁ。」
「・・・その割には、あの飛行艇で、・・・ボコられてたじゃない・・・。」
「うるせぇ・・・、あれは、・・・ゆ、油断してただけだ!!」
「・・・行動パターンが読めているのではなかったのですか?」
「あぁ、黙りやがれ!!いいだろ?!そんな昔のこと!!
 ・・・ちょっと、マーシャの魔法が効いてきやがったからって、
 調子にのってんじゃねぇぜ!!」

 その時、体中を、ゾクっとするような、殺気が襲いやがってきた・・・。
「ディッシュ?!」
「ヤベェ・・・、こ、この・・・殺気、―――殺し屋か?!」



 私達が入ってきた入り口が開け放たれました。
そして、そこに、灯りを持った人達が、立っていました。
「・・・とうとう、出やがったな・・・、裏切り野郎と、指名手配犯共!!」
 その人達は、その廊下で、何も見ませんでした。
「―――探せ、見つけて、ぶち殺せ!!」
「ディッシェムッ!!姿見せやがれぇ!!」
 私達は、ディッシェムさんに言われて、とっさに壁の陰に隠れました。
「・・・こん中にいるのは、分かってんだぜ!!
 聞こえてんなら、とっとと、姿現しやがれやぁ!!!」

 声は、どんどん近づいてきました・・・。
「隠れてやがるかもしれねぇ。・・・そっちも見てみろ!!」
「ちっ、・・・あの野郎!!」
 間違いなく、私達のいる場所にその人達は近づいてきていました。
「・・・4、5・・・、もっといるわね。」
「相手は殺し屋だ・・・、1人だとしても、まともに渡り合えるとは思えない。」
「こうなりゃあ・・・お前ら、―――自分の身は自分で・・・」
 その中の1人の人が、立ち止まりました。
「少し、待って頂けないだろうか・・・?」
「何だ?・・・テメェ。この俺に、命令すんのか!?」
「止まって頂けないと、―――効きにくいからな。」



 そいつは、急に回りに何かをバラまいたわ!!
とたんに、周りの連中が、せきこみ始めて、うずくまった!!
「これって・・・まさか!!」
「助かるじゃねぇか!!」
 入り口の方で、声を上げてる連中が、ソードを抜いて、
周りの奴をぶった斬り始めたわ!!
「ディッシェムの野郎!!生きてんだろうなぁ!!!」
 ディッシュの奴の案内で、私達は、ぶっ倒れてる奴の横を通って、走り出した!!
「イガーさん、それに、アトルさん!!」
「マーシャ、・・・こいつらに任せて、ここは先に行くわよ!!」
「お前ら!!殺し屋なんかにビビってんじゃねぇ!!
 全員、ぶった斬っちまえ!!暴れまくれ!!!」

「お前達!!・・・殺し屋はまだ来る!!気を抜くんじゃない!!」
 私達は、そこを抜け出して、なんとか、先に進む事が出来たわ。
途中、気付いた奴も、イガーの薬が効いて、眠りこけてった。
「あいつら・・・、やってくれるじゃねぇか!!ありがてぇぜ!!」
「マーシャ、・・おかげで、少しだけ、・・・元気出てきたわ。さ、行くわよ。」
 マーシャは、走りながら、階段の下の方に向かって叫んでたわ。
「イガーさん!!アトルさん!!ありがとうございます!!!」
「よし!!・・・上りきるぞ!!」






 (58日目深夜)
 階段をのぼりつめた時、目の前に扉を見つけた。
「・・ここは?」
「・・・俺もこんなところまで来たことはねぇんだよ・・・。」
「頼りにならないじゃないのよ。」
「―――入るしかなさそうだな。」
「当然よ、行くわよ。」
 シーナは、扉を蹴破った。・・・中は、広い部屋だった。
「・・・あの時、素直にここへ来れば、よかったものを・・・。」
 その中央に、黒服が1人立っていた・・・。
「あんたは・・・?」
「・・・軍部、特殊能力部隊―――隊長・・・、マルキューア。」
「ディッシェム・・・。厄介な奴も一緒にいるのか・・。
 まあよい。・・・どのような状況であろうと、私はこう告げるのだ―――、
 ―――燃えろ・・・。地獄の業火に焼かれ、消え去るがいい!!」

 マルキューアは、右手を前に突き出した!!



「オーロラバリア!!!」
 奴が巨大な炎の玉を出したすぐ後に、周りは灼熱の炎に包みこまれたわ。
「この炎・・・、まさか!?」
「―――私の・・・村を。・・・村のみんなを、・・・お父様を・・・。」
 アーシェルとマーシャの様子を見れば分かった。こいつが、
マーシャにとって、どうしても許せない奴だってことが・・・。
「ちっ、・・・このままじゃ、焼け焦げちまうな・・・。」
 炎の勢いがあまりに強すぎて、バリアは、もうもちそうになかったわ。
「・・・マーシャ、しっかりするのよ!!ここで、負けちゃいけないのよ!!」
「―――私の・・村を―――。」
「おい、アーシェル!!ここは、俺とシーナに任せろ。お前は、マーシャだ!!」
「ああ、任せろ!!」
「・・・行くわよ!!」
 オーロラバリアが壊れた瞬間に、私達は、炎に包み込まれたわ!!
「くくく・・・。骨の髄まで焼け焦げるがいい。そうすれば、お前も―――」
「・・・私の炎と、あんたの炎・・・、どっちが強いんでしょうねぇ・・・。」



 俺とシーナは、マーシャの前に立ちふさがって、野郎の方をにらみつけてた。
「せっかくの俺のマントが、台無しじゃねぇかよ・・・、マルキューア。」
 シーナの奴のナイフから、すげぇ勢いで炎が吹き上がってやがった・・・。
「いつまで耐えられるという?・・・燃え尽きるがいい!!」
 マルキューアの野郎は、両手を広げて巨大な火炎をぶっ放しやがった!!
「ちっ、・・・テメェの炎くらいで、俺を倒せるかよ・・・。」
 俺は、マントをひるがえして、炎を防いだ。もちろん、
こいつと殺りあうのを見越して、マントにはちょっとした仕掛けをしておいた。
「・・・あんたは楽よねぇ。―――こっちは、魔法とナイフだけが頼りだってのに。」
「炎の効かぬ人間が、ディッシェムの他にいるとはなあ・・・。
 だが、次の攻撃は、お前には避けられまい・・・。」

 マルキューアの野郎は、シーナに向かって突撃しやがった!!
「斬り殺されるのがお望みのようね、あんた!!!」
「愚かなる者よ!!地獄の炎に焼かれ塵となるがいい!!」
「オーバーな例えね。・・・バーニングスラッシュ!!!」
 一瞬で終わった。全身を炎に取り囲まれてんのは、・・・マルキューアの奴だった。



「そんな、バカな事が・・・。」
「どう?・・・私の勝ちね。」
「炎の民―――、あの民は、滅んだはず・・・。」
 その言葉を聞いた瞬間、私は、頭の中を、鋭いもので刺されたような感じがした。
「・・・たとえ生き残っていたとして、10年前に、この世から、
 あの大陸―――クリーシェナードの人間はすべて消滅したはず・・・。
 ―――それが、・・・何故だ?!」

「よし、シーナ!!もう一発ぶちかましてやれ!!」
「・・・様子が変だ、―――シーナのナイフを見ろ!!」
 私のナイフから出てくる炎が、乱れ始めてた。でも、もう止められなかった。
炎は、私を取り囲んできた。・・・それでも、私は、どうすることもできなくなってた。
「お、おい?!なにやってんだ、シーナ!!いくらお前でも焼け死んじまう!!」
「どうする・・・どうすればいい―――、マーシャ?」
「どうした?!アーシェル・・・、おい、・・・マーシャは、どこだ?」
「はっ?!・・・マ、マーシャ、お、お前・・・。」
「フラッシュリングッ!!!!」



「く、・・・光魔導法かっ?!」
「私には、あなたを、許すことが出来ません・・・。」
「・・・な、なんて風圧なんだよ・・・、体が、押されちまう・・・。」
「いつものフラッシュリングとは違う。・・・怒りに、満ちている―――。」
 私は、そこにいた、―――悪魔に向かって叫びました。
「なぜ、あなたは、そんな軽々しく、滅ぼすなどと言えるのですか?
 ・・・それが、どれだけ人を・・、傷つけることなのか、分かっているのですか?
 ―――村のみんなは、・・・お父様は・・・、いったい、いったい・・・」

 私の出せる限りの、一番大きな声をその時出していました。
「何処にいるというのですか?!!」
 そう言った私に、・・・悪魔は、冷たく言い放ちました。
「知りたいか・・・。いいだろう、だが、自分で調べることだな。
 ―――これから、送ってやろう、その場所に。あっちの世界にな・・・。」

 その悪魔を、全ての怒りを込めて睨み付けました!!
「フラッシュリング!!!」



 光の輪がマルキューアの全身を取り囲んだ!!
「・・・心地良い。」
 俺は確かに見た。・・・そいつの、悪魔のような笑顔を。
「私は、あなたを絶対に許さない!!」
「―――覚醒もしていない小娘など、恐れる・・・私ではないわ!!!」
 マルキューアが魔力を解き放った瞬間、全ての光の輪が吹き飛ばされた・・・。
「そんな!!」
「よいだろう。―――この私が、私であることを、ここに示そうではないか。」
「ちっ、・・・野郎。これ以上の炎を出しやがるってのか?!
 おい、シーナ!!しっかりしやがれ!!来るぞ!!」

 シーナは、ディッシェムの顔をしっかりと見ていた。
「―――マーシャに、目を覚まさせてもらったわ。大丈夫。
 マーシャ!!マジックシールドよ―――、マーシャ?」

「わ、わたし・・・。」
「ダメだ!!直撃すれば死ぬ!!!」
「ヒートバースト・・・ドーム。」






 (58日目早朝)
 私達の周りを炎の壁が取り囲んだわ。そこから、数え切れない数の炎が、
弾丸のように私達に襲い掛かってきた!!!
 私とディッシュはどうにかなる・・・。でも、マーシャは?!
そんな私の前で、あいつは、・・・走っていた―――。
 猛烈な炎に取り囲まれた瞬間、見えない炎の向こうから、
アーシェルの苦しむ声が響いてきた・・そして、やがて、その声は、消えた・・・。
「ア、アーシェル―――」
 やがて、炎の壁は消え去ったわ・・・。
私のローブの裾は灰になってた。ディッシュのマントもほとんど焼け焦げてたわ。
「・・・キュ、ア―――。」
 マーシャの声だけが、聞こえた。
「アーシェル・・・アーシェル!!!」
「他愛もない。―――ただ、魔力を解放しただけで、ここまでの騒ぎか?
 だが、せっかく、ここまで生き残ったのだ。
 ・・・地獄というものを、ここに、見せようではないか―――。」




「・・・ガマン対決も、終盤ってとこかしらね。」
 シーナの奴は、次の炎に備えて、全魔力を集中させてやがった。
「アーシェルさん―――。」
「―――マーシャ、そいつは・・・、もう、キュアじゃ、戻れないわ。」
 アーシェルの奴の体を見る限り、奴の言葉通り、
骨の髄まで焼け焦げちまってるのは、確実だった。
「・・・リバイバル!!!」
 マーシャの奴は、アーシェルに全魔力をぶつけてた。
その激しい青い閃光は、マーシャの、ルーアンラットからも放たれてやがった。
「我に宿る炎の弾丸よ・・・、今、その呪縛を解き放たん。
 ―――我の元に集え!!!」

 マルキューアの奴に、ものすごい勢いで魔力が集中していきやがった・・・。
「来るんなら・・・さっさと来ることね!!」
「―――地の底に宿るマグマとなり、全てを包み込め!!」
「アーシェルさん!!!」
「マグマニック・・・スペース。」



 私には、確かにその声が聞こえていました。
「・・・な、何故だ?―――何故、我に集った炎が従わない?!」
「―――ダメだぜ、一瞬でもよ、この俺を・・・忘れちゃあよ。」
「まさか・・・、お、お前?!」
「テメェの魔法。―――封じちまったぜ。」
「・・・ディ・・・ディッシェム!!き、貴様?!」
「おっと、動くなよ。―――シーナ、知ってるか?
 魔導法って奴の途中で、術者が最後まで唱えられなくなった時、どうなるかよ?」

「・・・おあいにく様。マーシャに聞いたこと、あんのよ。
 ―――制する力がなくなって、暴発すんのよ。」

「テメェも、終いだなぁ。」
「くくく・・・。」
 マルキューアは笑っていました。そして、私は、どうして、
こんな状態で笑っていられるのか、気付いていました・・・。
「な、何がおかしいんだ?!」
「流石は、一流殺し屋様・・・とてもよくご存知で。」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇよ。―――もうそろそろだぜ。
 テメェが出したもんで、自滅する時がよ!!」

「―――今まで、下種ばかり、殺してきたのだろう。」
「な、なんだと?テメェ!!」
「・・・では、一足先に、・・・逝かせてもらうとするか。」
 私は、あとのことをルアートに任せて、一度、
アーシェルさんのところから、離れるしかありませんでした。



 マルキューアの奴は、地獄の業火に包み込まれて、焼き尽くされたわ。
そいつの顔は、最期まで、悪魔のような顔だった・・・。
「自滅しやがったぜ。・・・ざまぁねぇなぁ。」
 急に、私の前にまぶしい光が現れたわ。
「・・・ディッシェムさん、シーナさん。
 ―――私は、このライトロッドの導きに従います!!」

 それは、マーシャのライトロッドの光だった。でも、どこか、様子が変だった。
「・・・な、何をやるの?!」
「このままでは、暴発してしまいます!!!」
「な、何を言ってやがる?!奴は―――」
「覚えておいてください!!二度とこんな方法を使ってはいけないという事を!!」
 そう、奴は暴発で死んだんじゃなかった。本当に、自分の魔導法で自滅しただけ。
あまりにも呼び出した魔力が多すぎて、暴発まで時間がかかってる、
それに・・・この様子だと、確実に・・・私達も―――。
「・・マーシャ―――。」
 マーシャは、ライトロッドを振りかざして、きつく目を閉じたわ!!
「ディッシェム!!伏せるのよ!!」
 マーシャの青い光は、今にも暴発しそうな程大きくなっていた炎を取り囲んだ。
最初は、激しく反発してた・・・。でも、包み込んだ光が、ゆっくりと、
中の炎の魔力を解き放って、やがて、小さくなっていった・・・。



「・・・助かった、のか・・・?」
「―――私達、2人・・・だけどね。」
 マーシャは、魔力を使い果たして倒れた・・・。
「私は、マーシャを見る。だから、ルアートと一緒にあんたはアーシェルを・・・。」
 シーナは、マーシャに近寄った。
「み、見る・・・つったって、アーシェルの奴に、俺が、何をしてやればいいんだ?」
 シーナは俺の方を見ず、ただ、マーシャの近くに座りながら、答えた。
「私達が、こいつらに、何かしてやれることなんか、1つもないわ!!
 だから、私達は、・・・こいつらを、守ってやるしかないのよ。」

「・・・。」
 俺は、今も魔法をかけ続けているルーアンラットの近くに寄った。
シーナは、ああ言った。確かに俺には何も出来ない。どうすることも、できねぇ。
―――ただ、こいつを、守ってやることしか、出来ない・・・。
 長い時間がたった・・・。どれくらいの時間かは、もう分からなかった。
アーシェルの奴が目を覚ますかどうかなんて、俺に知る方法なんかなかった。
 だけど、1つだけ分かることがある。あいつ―――シーナは、どう考えてんのか。
「マーシャ、・・・私、あんたのこと、信じてるから。
 だから、・・・もう、目を覚ましてよ。―――じっと待ってるなんて、苦手だって、
 ・・・言ったわよね、私。・・・忘れたなんて、言わせないわよ・・・。」

 あいつは、信じてやることが出来る。・・・殺し屋だった頃の俺なら、
きっと、そんなこと、出来やしなかった。






 (58日目昼)
「―――どう?・・・気分は?」
 私は、シーナさんの声を、自分の耳で聞きました・・・。
「・・・シーナさん―――。」
「もう、・・・心配させんじゃないわよ。」
 すぐに私は思い出しました!!
「アーシェルさんは?!・・・アーシェルさんはどうなったのですか?」
「・・・マーシャ、大丈夫みたいだな。」
 アーシェルさんは、私に元気そうな顔を見せてくれました。
「よかった。アーシェルさんだ・・・。」
「―――お前よ、・・・その、・・・感謝しろよ、ルーアン―――いや、ルアートに。」
「ディッシェム・・・。」
「あんた、骨の髄まで焼け焦げてたんだからね!!ルアートがいなきゃ、今頃・・。」
「―――体が、思うように、動かない・・・。」
「あんたが、目を覚ましただけで奇跡みたいなもんなんだから。
 ・・・ぜいたく言ってんじゃないわよ。」

「・・・迷惑をかけるようなら、置いて行って構わない。」
 シーナさんは、アーシェルの近くに寄りました。
「バカ言ってんじゃないわよ!!もし私が、そんなこと出来るんなら、
 とっとと、ここの敵、全滅させてるわよ!!」

「―――俺をフォローしてるのか、それとも、足引っ張られてるのを、
 あからさまに言ってるのか?」

「あんたフォローしたって仕方がないじゃない。
 とにかく、あんたは、自分のことだけ考えてればいいのよ!!
 ほら、なんか知らないけど敵もいないし、今休まないで、いつ休むのよ?」

 そんなアーシェルさんを横で見ながら、私は、ディッシェムさんに話しかけました。



「・・・なんか用かよ、マーシャ。」
 マーシャの奴は、俺に、ものすごく真面目な顔で話しかけてきた。
「覚えておいてください。」
「な、なんだよ、・・・急に。」
「・・・魔導法を使う者は、強い心を持たなくてはならないのです。」
「強い心・・・?」
「一度、魔導法を唱えたのならば、いかなることが起ころうとも、最後まで、
 続けなければならないのです。もし、恐れや迷いで、途中で投げ出したならば、
 自らの発した魔力で、その身を滅ぼすことになる・・・。」

 何のことを言い出したかは分かった。マーシャが倒れる前に俺に言った言葉・・・。
「でも、あの時は仕方がなかったじゃない。・・・ディッシュのやり方が、
 私には、最善のやり方だと思ったんだけど・・・。」

「シーナさん・・・ごめんなさい。」
「だ、だから・・・なんで、急に謝ったりするのよ?!」
「まだ、あの時には、私は、魔導法を、軽い気持ちで使っていたから・・・。」
「だけどよ、・・・俺は、あれと同じ方法で・・・、いろんな奴を―――」
 マーシャは、すぐにこっちを向いてきやがった。
「ディッシェムさん。たとえ、その相手がその時、あの方法で、
 ・・・自らの命を落としてしまったとしても、魔導法を使う者ならば皆、
 どんな恐怖にも打ち勝ち、自分の信じたものを貫く、強い心を信じています!!」

「そ、そんなもん、・・・俺にだって、あらぁ―――。」
「いいえ。ディッシェムさんは、分かっていません。」
「な、なんだと?・・・じゃあ、俺は、弱虫の臆病者だって言いてぇのか?!」
 そこまで言った後、マーシャと目が合っちまった・・・。
「マルキューアが、最後に笑ったのは、魔導法を使う者が信じた強い心も知らずに、
 その命を奪い、運良く生き残ったディッシェムさんが、
 同じ事を、マルキューアにしたことに対しての、軽蔑と自尊心からです。」

 もう、まともにマーシャの目を見れなくなってやがった。
「私も、マルキューアは、悪魔だと思いました。でも、・・・それでも、
 ―――魔導法を使う者として、最後まで、自らの命が消える事になろうとも、
 ・・・心は悪魔のままでありながら、その強い心を信じ続けていたのです。」




「―――あんな、マルキューアの野郎の事まで、お前って奴は、
 認めようなんてしてんのかよ・・・。」

「ディッシュ、・・・あんた。それは、違うわよ。」
「何が違うってんだ?!・・・マルキューアの野郎は、
 魔導法を使う者のかがみだって、そう言ってんだろ?!
 あれだけ、マーシャを怒らせたはずの、あんな野郎に、
 ・・・この俺が、劣ってるって、けなしやがったんだろ!!!」

「・・・もういいわ、ガキの戯言になんか、付き合ってられないから。」
「なんだと?!テメェ!!!」
 俺は、ディッシェムの前に立った。
「お前が、どうとらえようと、お前の勝手だ。そうとらえるならそう信じておけ。
 ―――だが、それは、お前だけの考えだ。それを他人にまでさらすな。
 ・・・どれだけ、今のお前の考え方が、マーシャを傷つけているのか、
 よく考えてみるんだな・・・。」

 本当なら柄にもなく、ぶん殴っているところだ。だが、相手が、
元殺し屋であり、俺も、病み上がりであることを考えると、出来そうにはなかった。
「・・・アーシェルの奴、あんたのこと、・・・殴りたがってるわ。
 そこまで殴りたいってんなら、私、殴ってあげようか?こいつ。」

「・・・俺が、そんなこと・・・考えるか。」
「テメェら・・・。―――俺は、お前らを・・・助けようと思って、
 ・・・ああやったんだ。・・・なんで、・・・そこまで責められなきゃなんねぇ?!
 ―――やり方が汚かったからか?・・・生きるために、手段なんか選べるかよ!!
 お前らの望んでるキレイな生き方なんて、俺は、知らねぇんだよ!!!」

 ディッシェムの奴は、スピアを持って、俺達に背を向け、離れようとした。
―――だが、それを、させまいとする人間が、・・・1人だけそこにいた。
「・・・放しやがれ!!」
「こんなことを言って、ごめんなさい。」
「い、いまさら、何、謝ろうってんだ?!お前は、お前が俺に対して思ってる事を、
 言ったんだろ!!それとも、あれは、ウソだったって言うのか?!」

 そう言われたマーシャは、不安な表情を顔に浮かべて、答えた・・・。
「私は、・・・私は、ただ、・・・ディッシェムさんに、
 ・・・生き続けていて欲しいと、思ったから―――。
 それを、ディッシェムさんに、どう言えばいいのか、ずっと考えていました。
 でも、・・・私は、ディッシェムさんを、傷つけてしまった―――、だから・・・。」

 ディッシェムの奴は、そのまま、マーシャの方に振り返ることはなかった。
「・・・じゃあよ、俺も、―――言い直していいか?」
「・・・はい。」
「今度からよ、そういう時は、『あんなことすんな。死ぬぞ!!』って言ってくれよ。
 ・・・俺、バカだからよ。・・・その、―――悪かったよ。
 ―――ちっ、やらすな、こんなこと。ほら、もう今ので十分休めたろ?行くぜ!!!」

 マーシャは、久しぶりに笑顔になっていた。






 (58日目夕方)
 通路を先へと進みに連れ、あの力の気配がじりじりと強くなっていくのを、
嫌なほど感じ取る事が出来た・・・。
「階段のようね。」
 奥に光が差し込む階段があった・・・。
「・・・上に、何があるのですか?」
「おそらくテラスだ・・。・・・何もなければいいが・・・。」
「何もねぇなんて、誰もわからねぇよ。
 ―――どっちにしろ、まともに動ける奴ぁ、俺とシーナくらいじゃねぇか。」

「アーシェルはまだ休んでた方がいいし、マーシャに頼りすぎるわけにもいかないわ。」
「・・・それでも、行きましょう。」

 俺達は、一気に階段を上り切った。
「・・・誰か・・、いる?」
「―――気配はない・・。」
「でも・・・、何かとても嫌な感じがしませんか・・・?」
「・・・無理矢理、誰かが気配を消してる・・・。」
「どこだ?!」
「―――うしろだよ。」
 一斉に後ろに振り返った!!
「・・誰もいない。」
「―――どっちにむいてるんだい?」
 ・・・背後から、物凄い殺気が感じられた。
「・・・こ、怖い・・。」
「いっせいので・・、振りかえるわよ。」
「せぇのっ!!」



 俺は1人振り返った。
「お、おい?!な、何してやがる?」
「『いっせいの』って言ったじゃない!!」
「同じだろうが、どっちも―――」
 シーナの奴に、口は勝手にそう答えてやがった。
その口以外の顔は全部、・・・強張ってやがった―――。

 俺と、同じ年の奴が、・・・そこに立っていやがった・・・。
「―――ぼくは、ガーディアさまの、ちゅうじつなしもべ、―――ドミアトセア。」
「・・・ドミアトセアだと?」
「―――ディッシュ・・・。ひどいな、わすれたの?
 ・・・おなじじんしゅじゃないか。―――ぼくたち。」

 そいつは、作られたみてぇに、おだやかな笑顔だった。
「―――ぼくはきみをころしたくない。
 ひとはボクを『狂気の奇術師』とか『意思を持たぬ殺し屋』ってよぶんだよ。
 ひどいとおもわない・・・?」

 俺は、別に、こいつを忘れたわけじゃねぇ。忘れるわけ、ねぇじゃないか。
「―――きみとおなじ、こじいんからでて、おなじころしやになった・・。」
 そうだ。俺は、こいつのことを知っている。
「―――いっしょにいれて、ほんとうにたのしかった。
 でもディッシュは、かってに、ガーディアさまにそむいた。
 ・・・もう、ともだちじゃ、ないよね。」

「・・・そんな・・、つもり・・・ねぇよ・・。」
 そう答えた時、急にドミーの奴の、気配が変わりやがった・・・。



「・・・や、やめろ。・・お前―――ドミーと戦いたくなんか、ねぇんだ!!」
「止めても無駄だ。ディッシェム。ガーディア様を、狙う奴は殺す。
 ディッシェムも、シーナも、小僧も小娘も。」

「・・・そ、その声、どこかで聞いた―――あ、あの時の・・・。」
 私は、覚えています。スフィーガルの丘―――アーシェルさんに助けて頂いた、
あの場所で、黒服の人の中に、この人がいたことを・・・。
「小娘。ガーディア様が、あの時、どうして、お前を殺さなかったのか、
 私には理解できない。でも、ガーディア様は絶対。だから、
 私が後始末をする。」

 突然、全身が、震え上がるような恐怖に襲われました・・・。
「―――こいつは、多重人格って奴だ・・。気を付けろ・・。
 こいつは、今、『意思を持たぬ殺し屋』になっちまってる。
 足手まといにならぁ、・・・お前らは、下がってろ。」

「わ、私もやるわ!!」
「シーナもだ。・・・これは、―――俺の戦いだ。」
「ディッシェム、私はいつも、君と対称的に扱われた。
 一体何が違うというんだ。君と同じように生きて、
 君と同じように、殺した。なのに、何故なんだ。」

 ドミアトセアさんは、ショートソードを抜きました。
「ドミー!!そんなの思い込みだ!!誰も、お前も悪いように扱ってなんかねぇ!!」
 ディッシェムさんもスピアを構えました!!
「見せておくれ。ディッシェムの、スピアさばきを。」



 ドミアトセアの奴は、すごいスピードでショートソードを、
ディッシュの奴の心臓めがけて刺しに行った!!
「くらうかぁっ!!」
 ディッシュの奴は、それを、スピアで払いのけたわ・・・。
「・・・。」
 ドミアトセアは、さらに、懐からナイフを無数に投げつけてきたわ!!
「ハァッ!!」
 ディッシュの奴は、スピアで空を斬って、ナイフを全部叩き落した・・・。

「―――腕は劣ってないようですね。」
 突然、殺気が収まったわ。声色も変わってた。
ドミアトセアは、冷たい視線で、ディッシュを見てたわ・・。
「―――ドミーもな・・。」
「・・・ぼくは昔から、弱かったのです。・・・心も体も・・・。」
「そんな事ねぇだろうが?!」
「君といっしょに、イガーアトルのスラムに行って、
 殺し屋になることを決めたあの日のこと、覚えていますか?」

「―――ああ。」
「・・・あの時代・・、まともに生きていけるのは、商人・貴族・研究員、
 ・・・そして、殺し屋でした・・。」

「・・ああ。」
「・・・ぼくたち、一緒に、一流殺し屋になりましたよね?」
「そうだよ・・・な。」
「でも、それからは、ぼくたちは、一緒にいられなくなりました。
 いつの間にか、ぼくは、ひとりぼっちになっていました。
 軍部の命令に従うため、強くなろうとすればするほど、ぼくの精神は、だんだん、
 破壊されて、多重人格になっていました。そして、扱いきれなくなった研究者達は、

 ―――ぼくに、この人格を、植え付けたのです。」







 (58日目夜)
「ぼく、この人格のことが、嫌いです。今、こうして喋っている事もすべて、
 創られた、心のない言葉ですから・・・。」

 そう言って、ドミアトセアは、笑みを浮かべた。
「でも、お陰で、ぼくは、ガーディア様に、君以上の扱いを受けました。」
「なぁ、・・・本当に、自分の心の中、・・・喋れねぇのかよ?」
「出来ません。そう、プログラミングされました。」
「―――自分の意見も言えずによ、・・・操られてるだけで、それでいいのかよ?!」
「ガーディア様がどうして、君を、お気に召さないか、知っていますか?
 ―――君が、こんなぼく以上に、・・・忠実すぎたからです。」

「・・・ど、どういうことだ・・・?」
「だから、そこにいる人達は生きている。・・・そうですよね?」
 ディッシェムは、俺達の顔を振り返ってきた・・・。
「ガーディア様は、ぼくのような、精神を破壊された人間を好みました。」
 そう言われたディッシェムは、スピアを強くにぎっていた・・・。
「―――ディッシェム。君は今、怒りだとか戸惑いとかという、
 そんな下らない感情でいっぱいだろう。殺し屋に、決して必要のない。」

 ドミアトセアの気配は、突然、消え去った・・・。



「・・・どこだ?」
 背後から数え切れないくらいのナイフが飛んできやがった!!
スピアではねのけてやったが、2、3本、突き刺さりやがった・・。
「動揺しているようだな。」
「ちっ・・・。」
 ドミーの奴は、気配を消し去ったまま、いろんな方向から攻撃してきやがった。
「感情に支配されている奴程、弱く、扱いにくいものはない。」
 俺の、目の前に・・・ドミーの奴の姿があった。
ドミーの持ってる、毒が塗りこめられているショートソードが、俺に刺さっていた。
 毒の回りは早いらしく、俺は、力が抜けてしゃがみこんじまってた。
「・・・なんでだよ。」
 俺の質問に、ドミーの奴は答えなかった。
「どうして、俺を・・・殺さねぇんだ?
 ―――ちょっと左に動かせば、・・・心臓、八つ裂きに出来んだろ・・・。」

 黙りこんでやがった・・・。
「ドミーの腕は、怖いくれぇ正確なんだぜ・・・。
 もし、俺が、ほんの少しでも動けば、心臓を一突きにされちまって、即死だぜ。
 ―――最初から、殺るつもりだってのは分かってた。けどよ・・・。
 ・・・なんで、殺さないんだよ、俺を・・・。」




 ドミアトセアの奴はショートソードを引き抜いたわ。
ディッシュの奴から、血があふれ出てたわ・・・。
 それから、ドミアトセアから、今までとは比べられないくらいの殺気が放たれたわ。
「仲間カ・・・、コイツラガ、原因ナンダナ・・・、オ前ガ本気ヲ出サナイノハ。
 死ンダラ困ル。コンナ奴ニ殺サレタラ困ル。ダカラ、戦イヲ拒絶スル。
 ソウイウ事ナンダナ!!!」

 しゃがんだままのディッシュから離れて、私達の方を向いてきたわ・・・。
「オ前ガ殺シテオケバ、何モ問題ハナカッタンダヨ。代ワリニ、
 ボクガ、コノ場デ殺シテヤロウ。ソウスレバ、目ガ覚メルダロウカラナ。」

 冷や汗が流れてきた・・・。それでも、私は、ナイフを握るしかなかった。
「―――俺は、お前を、殺し屋として、・・・殺さなくちゃ、ならねぇんだな。」
 ディッシュの奴が、ゆっくり立ち上がった。何かで封印されてるその包みを出して、
スピアでそれを切り裂いたわ。・・・それは、刃がうっすらと、
紫がかってるショートソードだった。
「こいつで、・・・お前を、殺す。」
「ディッシェム、ヤット、殺シ屋トシテ、目覚メテクレタカ。」
「俺を殺せたら、・・・そいつらを今すぐ八つ裂きにしちまえ。」
「ちょ、ちょっと!!・・・あんた、何寝ぼけた事言ってんのよ!?」
「だから、・・・俺を殺さない限り、そいつらに・・・手ェ出すんじゃねぇ。」
「ソンナ甘イ考エガイケナインダヨ。イズレ、コイツラハボクガ、殺スンダヨ。」
「・・・殺してから、言うんだな。」



 ディッシェムさんと、ドミアトセアさんが戦いはじめました・・・。
「心臓カ?」
 ディッシェムさんの顔は、最初に会った時よりも怖い顔でした。
「心臓ヲ狙ッテ、殺セルトデモ思ウノカ?」
 ディッシェムさんは、ただ黙って、ドミアトセアさんに斬りかかりました。
「クラエ!!」
 ドミアトセアさんのショートソードは、何もないところを斬りました。
「遅ぇよ。」
 ディッシェムは背後に回りました!!
「バカメ・・・。」
 私は、思わず目を押さえてしまいました。振り向いたドミアトセアさんは、
ディッシェムさんをショートソードで突き刺していました。
 私は、それでも、ゆっくりと目を開けました・・・。
「―――自分ガ斬ラレルト、分カッテイテ、・・・俺ヲ、殺ッタッテノカ?!」
 ディッシェムさんのショートソードも、深く突き刺さっていました。
「―――俺は、お前を殺る。・・・でなきゃ、俺が殺られるからな。」
「ボクニサエ出来ナイ事ガ、オ前ニハ、出来ルノカ?」
「・・・死んでも、―――後悔しねぇって言うのかよ?」
「ナゼ?ナゼ、後悔シナケレバ、ナラナイ?」
「・・・生きてれば、楽しい事とかさ、・・・いっぱい、あるじゃねぇかよ!!」
「ボクニハ、ナイナ・・。」
 ディッシェムさんは、ショートソードを静かに抜きました。
「俺はよ・・・、もう、殺し屋じゃねぇんだよ。
 ・・・こいつらについてくって決めたんだ。―――ドミーを殺す理由なんて、ねぇ。」

 ディッシェムさんは、封印の布でショートソードを包み込みました。
「テメェが、どんな忠実な僕だろうと、俺達は、・・・ガーディアのところへ行く。
 ・・・その時は、悪いが、おとなしく引いてくれよ・・・。」

「そうですか。」
 ドミアトセアさんは、風のように舞い上がり、後ろに飛び退きました。
「戦う気がうせてしまったというなら、仕方がありません。
 ・・・私も、飽きてしまいました。
 『狂気の奇術師』という人格は、気まぐれな人格なのです。
 ・・・やりたくないと思ったならば、決してやらなくなりますから。」

「・・・。」
「さあ、私の人格の変わらないうちに、進みなさい。」
「―――進んで、いいわけ?」
「・・・そう言ってんだ。行くぜ。」
 私達は、ドミアトセアさんの横を通り抜けました。
そして、私達を見送っていたドミアトセアさんは、闇の中に消え去りました。






 (58日目深夜)
「リフレッシュ!!」
 ディッシュの奴にまわってる毒は、普通の人間なら、とっくの昔に
死んじゃってるくらいの、猛毒だったわ。
「・・・こんなの、毒のうちに入らねぇよ。」
「そんなわけないじゃないですか!!殺し屋の人は
 こんな毒薬まで使うのですか?!」

「―――よっぽどの事がない限り、使わねぇよ。毒を使う野郎は、
 自分にも、その毒が回っちまうことを、ずっと警戒しないといけねぇんだ。
 ・・・そういやぁ、これって、マーシャの言ってた奴と、同じだな・・・。」

 ディッシュとマーシャの奴が、笑っておしゃべりしてたわ。
でも、私もアーシェルも、緊張しっぱなしだった。
もちろん、ディッシュだって、それを感じないわけないに決まってる・・・。
「・・・あと、どれぐらい行けば、ガーディアのところに行けるんだ?」
「―――ドミーがそこにいたんだ。近いぜ・・・。」
「アーシェル、・・・あんた、もう、大丈夫なの?」
「きっと、ガーディアのところに行く頃にはな・・・。」
「・・・いよいよなのですね。」
 マーシャは立ち上がったわ。
「ああ。―――ガーディアのところに行こう。」



 廊下を進んでいった。そして、俺達は、大きな階段のある部屋へと来た・・・。
「・・・ガーディアの奴は、そこにいるぜ。」
「よし!!行くぞ!!!」
「―――させるものか。」
 階段の上から、白衣を着た研究員3人が下りてきた・・・。
「ちっ、・・・なんだよ、お前らが俺達を殺ろうってのか?!」
「・・・ガーディア様の所へ行かせるわけにはいかないのでな。」
「邪魔をするのなら、・・・戦うしかないな。」
 そのとき、研究員の1人が、血を吐いた・・・。
「な、なによ・・・?!」
「お前ら、・・・ボロボロじゃねぇかよ―――。」
「・・・それがどうしたという。今、私達は、―――成功に酔いしれているのだ。
 これ以上、どうやって、表現しよう・・・。」

「何が嬉しいかなんて知らないけど、血なんか吐く以外にもあるわよ、きっと。」
「お前達の断末魔を、・・・子守唄に、逝こうではないか―――。」
 研究員達の体が、崩壊した・・・。そう表現するしかなかった・・・。
「―――来たぜ。」



 XK-444、もう一体の野郎はXK-777だった。
「単なる改良型―――じゃあ、ねぇな。」
「・・・あのスライムか。」
「まさか、あの力を―――。」
「信じられねぇぜ。今の今まで、研究し続けてやがったなんてな。
 ま、それならこっちにしてみりゃ、好都合だけどな。」

「こいつの雰囲気は、相当ヤバイぞ。・・・なぜ、そんな余裕なんだ?」
「あの力を使ってんなら、弱点が残ってらぁ。」
「弱点もない奴なんかと、まともに戦えるわけないじゃない。」
「―――潰すぜ。」
 シーナは、XK-444の方に走っていきやがった!!
ナイフで、XK-444の奴に斬りつける。それに合わせて、XK-444の奴は、
腕を前に出して、そのナイフを受け止め、押し返しやがった。
 シーナの奴は、よろめいて、バランスを崩した!!
「シーナさん?!」
 すぐ、体勢を戻して、後ろに飛び退いた・・・。
「・・・なにか、あるな・・そいつは。」
「反撃された時、なんかすごい威圧感みたいなのを感じたの・・。
 ・・・まともに、攻撃されちゃったら、・・・バラバラになるわ。」

 俺は、スピアでそれに反応した!!
「ちっ、こいつは、厄介な野郎だな・・・。」
 XK-777の腕が俺の近くまで伸びてきてやがった。
「スライムが、腕に寄生してやがるのか・・・。」
 俺は、XK-777の方へと走っていった!!
「要するに、間合いがムチャクチャ広くなっちまったXK-777ってわけだろ?
 ・・・俺は、お前の破壊の仕方―――知ってんだよ。」

 俺は、腕を避けながら、奴の方へと近づいてった。
だが、近づけば近づくほど、奴の攻撃が避けにくくなっちまう・・・。
「くそ・・・、何か、何かきっかけがありゃあ!!」
 一筋の光が流れた・・・それに、奴が一瞬反応する―――。
「―――見つけたぜ。」
 俺は、一瞬の隙をついて、奴の、弱点に一撃をくわえてやった!!!
奴がそれで動かなくなっちまうのは、もう、体で覚えちまってた・・・。
「・・・アーシェル、ナイス。」
「仲間ってのを、信じるんだな。」



「ルアート、行くのよ!!!」
 シーナさんは、最後に攻撃された時、壁まで吹き飛ばされてしまっていました。
「もう、・・・あんただけが、頼りみたい・・ね。」
「すぐに、キュアをかけます。だから、待っていてください!!」
 ルアートは、雷を落としました!!
そして、動かなくなっている間に、私は、ライトロッドを強く握りました!!
「ルアート下がって!!!」
 ルアートは横に逃げました。
「・・・フラッシュリング!!」
 光に包み込まれて、その機械は、煙を上げて動かなくなりました・・・。
「―――やっぱり、あんたの力に、対応しきれてないみたいね。」
「キュア!!」
 ディッシェムさんとアーシェルさんも戻ってきました。
「片付いたみたいだな・・・。」
「シーナ、・・・お前、もう、ガーディアのところまで来てんだぜ。」
「うるさいわね・・・。」
「・・・少し、時間がかかるかもしれません。」
 シーナさんは、もう分かっていたのかもしれません。
これからの戦いで、一緒に戦うのは、厳しいかもしれないということを・・・。
「マーシャ、・・・もう、行くわよ。」
「で、でも・・・。」
「もう、そこなのよ。・・・だから、もう、行くわ。」
「いいのか?」
「・・・あんたは、それを望んでるんでしょ?」
「・・・ああ。」
「―――よし、決まった。この奥にいる奴に、・・・会いにいくぜ!!」






 (59日目早朝)
 俺達は、扉を開いた。そして、広い部屋の、奥にいる男を見た・・・。
「とうとう・・・、ここまで、来たか。」
「―――ガーディア。」
「アーシェル・・・。」
「ガーディア・・・、もう、アンタに聞く事なんかない。
 ・・・今まで、見てきた事だけで、十分過ぎるほど、分かった!!」

「―――何がわかったと言う?」
「・・・今すぐにでも、ハンティングしなきゃならない・・・って事がな。」

 ガーディアは、立ち上がった。そして、俺の思ってもいないことを、口にした。
「アーシェル・・・、引いてくれ。」
 次の言葉で、俺は、どう動けばいいのか、分からなくなった。

「せめてもの情けだ・・・。マーシャから・・・。
 ―――悲劇の少女から、手を引いてくれないだろうか・・・。」




 アーシェルは口を開くのをやめたわ。でも、私もディッシュも、
その言葉を聞いたとたん、・・・何も言わずには、いれなくなってた・・・。
「―――悲劇・・・。」
「悲劇の少女が・・・、―――マーシャ、だと?」
「どうやら、その2人は何の事か分かったらしいな・・・。
 ―――ディッシェム・・・。そしてシーナ・・・。」

「そんな・・・、バカな・・・。」
「あり得ねぇ・・・、そんなこと・・、なんで・・、なんでだよ・・。」
 ウソだと思いたかった。ガーディアの奴に頼めるなら、頼みたかった。
―――今言ったこと、何から何まで、嘘だったって・・・。
「アーシェル。」
「俺は、・・・アンタの命令は、聞けない・・・。」

「10年前・・・。悲劇の少女―――マーシャの母親、ルシアによって、
 ・・・あの悲劇は、起こされた―――。」




 俺は、もう、体に力が入らなくなっちまってた。シーナの奴も、
何かに打ちのめされちまったみてぇに、つったってた。
 ・・・俺は、ガーディアしか見ていなかった。・・・見れなかった。
「そ・・・、そんな・・・。」
「事実には変わりない。―――そして、この世に、悲劇の少女がいる限り、
 ・・・悲劇は、繰り返される・・・。」

「ウソを・・・言うんじゃ、ねぇよ。・・・マーシャが、・・・そんな、わけ・・・。」
「俺達の計画―――。・・・悲劇の少女を抹殺し、
 ・・・二度と悲劇の起こらない、理想の平和な国家を建国する―――。」


 俺もアーシェルの奴も、黙っちまってた・・・。
「アーシェル・・・、お前が指名手配された理由。
 ―――この国家、いや、この世界をも救うはずの計画・・・。
 それを、お前の行動が、・・・邪魔することになるからだ。」

 ガーディアの声だけが、辺りに響いてやがった・・・。
「ここの研究員達・・・、その皆、全員が、悲劇の被害者なのだ・・・。」
 ガーディアは、アーシェルに近づいてきやがった・・・。
「―――アーシェルよ、・・・お前の関わる問題ではない。
 これは、俺達と、悲劇の少女―――マーシャの問題だ・・・。」

 ガーディアは、アーシェルの目の前にまで来た。



「テメェに・・・、そんな、権利・・・ねぇよ。
 ・・・悲劇なんてものを、俺は知らない。俺は、被害者でもなんでもない。
 そんな俺が、言うのはおかしいかもしれない・・・。だが、そんなことが、
 ―――マーシャに、・・・手を出す理由には、決してならない!!」

 俺は、まだ頭の中で、今の出来事に整理がついていなかった。動揺していた・・・。
「・・・もはや、遅いのだ。マーシャは、・・・いずれ、
 悲劇の少女として、―――覚醒するのだからな。
 もう、誰にも・・・、止める事は・・・出来ない・・・。
 だから、・・・俺からの、最後の頼みだ・・・。―――引いてくれ。」

 俺は、ガーディアを睨み付け、言い切った。

「―――引かない。」

「・・・悲劇の少女に関わった者の、運命を知らぬ愚か者が・・。
 やはり、お前を、生かしておく理由など、ないようだな・・・。」

 ガーディアは、ロングソードを抜いた。
「アーシェル、・・・俺が、殺ってやらぁ。下がってろ。」
 俺は、左手でディッシェムを制した。
「・・・最初から、これが目的だったんだ。」
 アーチェリーを構える・・・。
「この俺の事は、聞いただろう?・・・俺は、このソードでゾークスを打ち負かした。」
「・・・勝ち負けは関係ない。―――俺は、俺のやりたいようにやる!!」



 最初に動いたのは、アーシェルだった。
アーシェルは、ものすごいスピードでアローをガーディアに放った!!
「速い・・・。」
 ガーディアの奴は、横によけた・・・。
「・・・だが、俺を、・・・本気で殺れるなどとは、思っていまい。」
 ガーディアの奴は、アーシェルに向かってきたわ!!
でも、それに動じないで、アーシェルの奴は、アローを番え、放った!!
 アローは、ガーディアをかすめた。
「それだけか?!」
 アーシェルは、ガーディアの奴に斬り裂かれた・・・。
傷口を押さえて、よろけた・・・。
「格が違う・・・。」
「・・・スピードアップ。」



 アーシェルの奴は、姿を消しやがった・・・。
「―――無駄だ・・・。」
「でも、あいつ、・・・本当に、速いわ。」
 俺でさえ、あいつの姿を捕らえられねぇ・・・。まさか、あいつが、あの速さで
動ける奴だなんて、俺は、知らなかった・・・。
「・・・右か。」
 アローが、ガーディアの横をすり抜けやがった・・・。
「後ろ・・・。」

 風だった・・・。もう、アローは、風になっちまってた・・・。
だが、ガーディアの奴は、それを避けやがる・・・。
「・・・次で、決まるわ。」
 一瞬だった。ガーディアの奴の肩にアローが刺さりやがった。
ガーディアの奴は、それを無言で引き抜く。―――血が吹き出やがった。
 それを合図に、無数のアローが野郎に向かって飛んでいくのが、俺には見えた。
だが、ガーディアは、・・・その方向へと歩き出しやがった―――。






 (59日目朝)
 俺は、激しく斬り裂かれ、空中を舞い、・・・落下した。
「がはぁぁっ・・・。」
「アーシェル!!!」
 すべてのアローは、確かに、ガーディアに突き刺さっていた。
「・・・力不足を呪うんだな。」
 ガーディアの奴は、俺を見下ろしていた。
「力・・が、―――欲しい。」
「・・・スピードで、俺に勝てないことが、分かったのだからな。」
「たとえ、悲劇の少女が・・・、マーシャだとしても構わない・・・。
 ・・・護れるだけの、・・・力が、欲しい―――。
 ―――俺には、・・・無理なのか?」


 ガーディアは、低く笑った。
「今頃、気付いたようだな。・・・だが、少々、遅すぎた。
 ・・・お前の罪は、・・・死で償うといい。」

 俺は、それでも、立ち上がった。ガーディアの奴は、背後に下がる。
アローを番え、アーチェリーを、ガーディアに向けた。
「・・・思いだけでは、どうにもならぬ事が、この世にはある。」
 ガーディアは、ソードを俺に向け、走り寄ってきた。
俺は、アローを放つ・・・。だが、それは、ロングソードではねられた。
「―――それは、お前の考えに、同じだ!!」



 アーシェルの奴は、ダガーでガーディアのソードを受けていた。
「人を護る・・・ということが、何か。お前に分かるのか?」
「・・・。」
 ガーディアの奴は、そのままロングソードを振り上げたわ・・・。
アーシェルは、宙を舞って、後ろに飛ばされた・・・。
 ガーディアは、アーシェルから視線を外し、奥の方を向いたわ。

「―――己を、捨てるということだ。」

 ロングソードを、鞘におさめる・・・。
「・・・己を、捨てる・・・。」
 アーシェルの奴は、床に手をついて、体を支えていたわ。
「もう動けまい。―――横になれば、楽になる。」
「そうだよな・・・。どう、俺が思ったところで・・・、
 ―――ガーディア・・、あんたは、・・・俺の、隊長だった野郎なんだ・・。」

「・・・命令も聞けぬ奴は、・・・俺の配下には、いない。」
「思いだけでは、・・・どうにもならない。」
「アーシェル、お前・・・。」

「・・・俺は、勝たなくちゃ、ならないんだ。」



 アーシェルの奴は、あの状態から、起き上がりやがった・・・。
「・・・俺は、どうなってでも、・・・お前を、倒す。」
「・・・もう、体力は残っていまい。アーシェルよ、どう倒すというのだ?」
「―――己の力のなさを呪うくらいならば・・・、
 ・・・自分の力の限界を、・・・俺は、信じたい。」

 もう、アーシェルの奴は、歩けねぇ。見ればわかる。
だが、奴は、アーチェリーを構えやがった。アローをつがえて、目をつぶった・・・。
「・・・いいだろう。お前の力の限界、見届けよう。」

 アーシェルは、大きく息を吸い込んだ。それから、少しずつ、
アローの先端が、淡く光り出し始めやがった・・・。
「あの野郎、・・・まさか。」
「―――死ぬつもりだというのか、アーシェルよ。
 ・・・アーチェリーがお前の魔力を吸収し始めているではないか。
 もはや、自らの力の制御すら、出来ないでいるのだろう・・・。
 お前のような奴を、俺は、何度も見てきた。・・・何も出来ずに死に行く者を。」

「ガーディア隊長・・・。」
 シーナの奴は、笑ってやがった。
「・・・誰よりも、あんなに可愛がってた部下の力を、見抜けないなんてね・・・。
 半分正解よ・・・。でもね、そいつは、自分の力が制御できてないんじゃないわ。」

「ああ。・・・俺の持てる、全ての力を、・・・アーチェリーに送っているんだよ。」
「同じ事だ。・・・何が出来るという?!」
「―――知るかぁぁ!!!」



 アローを射った。・・・空気を巻き込みながら、どんどん加速していく・・・。
「俺のソードに、斬れぬアロー等、ない!!」
 ガーディアはロングソードを構えた。
「・・・か、体が、・・・押される?!―――ソードが、・・・うご、かない?!!
 こ、こんなことが・・・あ、あ―――!!!」


 ガーディアを爆風が包み込んだ。それに、耐え切れずに、
そのままどんどん背後へと追いやられていった・・・・。
 壁まで追いやられたガーディアは、やがて、力なく、その場に倒れこんだ。

「・・・さぁ、まだ・・・戦えるっていうなら、―――殺せよ。
 これが、・・・俺の、限界―――。もう、動けねぇよ・・・。」

 俺は、もはや、立ち上がる事は出来そうになかった。
「―――立ち上がれない。・・・俺は、まだ、何一つとして、
 ダメージを受けたわけでは、ない・・・。―――俺が、負けたというのか?」

 ガーディアの奴は、やがて、ロングソードを地面に落とした。

「―――アーシェル、聞け。・・・一言も、もらさずに聞け!!
 ・・・いずれ、悲劇の少女は、覚醒する時が、来る・・・。
 ―――お前がそう、願うのなら・・・、関わり続けることも、出来るかもしれない。
 だが、覚えていろ。―――悲劇は、・・・止められない、―――誰にも。」

 俺は、ただ、黙っていた。
「―――この10年、俺は、何かに取り憑かれていた。
 ・・・何一つとして、己が間違っている気はしない・・・、だが・・・、
 ・・・俺には、・・・俺自身を、許すことが、できない。
 ―――なんだ、この気持ちは。・・・そうだ。・・・目が覚めたような―――、
 ・・・長い、長い、・・・悪夢から、覚めたような、そんな気持ちだ―――。」


 ガーディアは、上を見上げていた・・・。
だが、やがて、ゆっくりと、俺の方を向いてきた・・・。
 ―――俺は、その時のガーディアの目を見た。・・・その死んだような目を。
しかし、俺は、なぜか、ガーディアが、・・・今にも消えそうだったが、
―――希望の光を、探し続けようとしているように見えた。その瞳の奥で―――。

「―――探して・・・くれ・・・・。」

「・・・ガーディア、隊長―――?」
 ガーディアは、今にも消えそうな、だが、しっかりと聞こえる声で、
俺に、何かを言い残そうとした・・・。
 その顔は、一瞬だったが、・・・笑ってみえた。
俺の、記憶に残る、―――隊長の笑顔だった・・・。

「―――お、れ・・・・の―――。」


 ―――銃声が鳴り響いた。






 (59日目昼)
 ガーディアは、すべてを成し遂げたみたいに、満足そうな笑顔を浮かべてた。
「・・・うそ・・・だろ―――。」
「いらぬ事を・・・、喋りすぎた・・・。」
 アーシェルは、もう、悔し泣きをこらえる事が出来なくなってたわ・・・。
「誰だ?!・・・貴様は!!」
「ガーディア・・・、10年・・。よく働いてくれた・・。ご苦労だった・・・。」
「テメェは、誰なんだ?!聞いてんのかよ!!!!」

「・・・ディッシェム。・・・裏切り者め。」
 ディッシュは、突然、何かに突き飛ばされた・・・。
「裏切り者は、消えよ。」
「―――まさか、貴様・・・、バルシド、か―――。」
「・・・目障りだな。―――消し飛べ。」
 バルシドは、右手を突き出して、ガーディアの亡骸に向けた・・・。
一瞬だったわ。ガーディアの回りにあったもの、全てを、吹き飛ばした―――。

 その爆風は、・・・私とアーシェルまでも突き飛ばすくらいの威力だった・・・。
「あんたは、・・・あの力を、取り込んだ―――そういうことね。」
 バルシドの奴が、私の方を向き、人差し指を振ったわ。
・・・私は、何も出来ず、倒れた。深く刻み込まれた傷から、血が溢れてた・・・。



「・・・人間がどれだけ弱く・・・もろいか。
 ・・・神にも等しい力・・。絶大な力・・・。
 ―――悲劇の少女、・・・マーシャ。・・・貴様を倒すがために!!」

 私は、この部屋で戦いが始まってから、・・・ずっと、呆然としていました。
「―――悲劇、・・・わたしが、・・・悲劇の、・・少女―――。」
「そうだ。・・・10年前の、あの、殺戮と、破壊を招いた、悲劇・・・。
 ・・・その主人公―――。・・・お前は、やがて、お前の母親―――ルシアと、
 その仲間達が、お前の力により、10年前に起こした、いや、
 それ以上の悲劇を、起こす。―――お前が持つ、・・・その力によって―――」

 私は、ただ、絶叫していました。
「悲劇・・、ディッシェムさんを、あんなに、・・・苦しめた・・、
 ―――私が、・・見てきた、・・・全ての人が、・・怒り、嘆いていた・・・、
 ・・・あの、悲劇が、・・・わ、わたしの・・・・力、だ・・・なんて―――。」

「もう、始まる。お前は、・・・覚醒する!!」
「いやだ・・・、そんなの、・・・いやだ・・・、私は―――」


 私の絶叫をかき消してしまうほどの、大地震が、起こりました。
私の体と、ルアートの体を、青い光が包み込みました・・・。
 ルアートの体には、天使のような羽が生え、私のもとへと近寄ってきました。
そして、私が持っていた、ライトロッドの中へと、吸い込まれました・・・。
 その瞬間、ライトロッドは、激しい青い光を放ち始めました・・・。
地震の衝撃で、床は裂け、壁は砕け、そして、天井は崩れ始めました―――。




 俺は、そこにあるものを、ただ、見ているだけの者になっていた。
「・・・これが、・・・悲劇の、少女・・・。」
 マーシャは、自分のことを、驚いた表情で、見回していた・・・。
「―――これが、・・私の、・・・姿・・・?」
「―――マーシャ・・・。」
「誰?」
「―――あなたを、守護する者・・・。―――あなたが覚醒する、
 この日を幾日も待っておりました・・・。」

「私を、・・・守護?」
「・・・あなたは、これまでの、数多の悲劇の少女達が、成し遂げられなかった事を、
 受け継がねばならない、運命を持って生まれた者・・・。」

「せっかく、覚醒したというのに、―――哀れなことだ。
 ・・・この10年間、・・・お前を潰すが為に、生きてきたのだからな!!」

「数多に告げるべきことはございます。・・・ですが、今は・・・。
 ―――今は、あなたの欲するように、動きなさい―――」

「出よ、我が力よ―――、エナジーストーム!!」
 バルシドは、両手を前に突き出して、霧状のエネルギー体を放った!!
「・・・私が、行動したいように・・・。」
 マーシャは、目をつぶり、動きを止めた・・・。

「我が力よ―――、悲劇の少女を、砕き散らせ!!」



 私の回りの青い光が、強力な結界となり、すべての力を消滅させました・・・。
「バカな、貴様自身の力を俺達の限界まで高めた、その力に、打ち勝つだと?!」
 ライトロッドは、私の頭の中に、何度も、同じ事を繰り返し話しかけました。
「私は、・・・戦いたくなどない。―――争いの中から、何も生まれない・・・。」
「いや、まだ、力は、これほどまでに溢れ出てくるのだ。
 ・・・どうして、このような小娘に劣るという?!!
 集え、我が力よ―――、エナジースパーク!!」

 バルシドの膨大な力が凝縮され、それを、私へと投げつけました!!
「これで終わると思うな!!尖れ、我が力よ―――、エナジーブレード!!」
 その後方から、自らの力を、巨大な魔力の剣に変え、私に向かい来ました。
「この世から、消え去れぇぇっ!!!」
 私は、静かに目を閉じ、左手を前に突き出しました。
もう、ライトロッドからの声だけが、私には聞こえ続けていました・・・。
 バルシドからの力は、すべて、左手から発せられた青い光によって遮られました。
そして、そのすべての力は、一切、私の結界を破ることを許されませんでした・・・。
 自らの力の暴発に巻き込まれ、力なく、バルシドは崩れ落ちました。

「か、かなわない。―――我が力が、・・・全く、効かない!!」
「お前に苦しめられ、悲しませられた人々、全ての者の怒り・・・、
 ―――私が、代わりにお前に教えてくれる!!!フラッシュリング!!」




 今までのとは、比べる方が間違ってるくらい、たくさんの激しい光の輪が、
何度も何度も、バルシドの奴にぶつかっていった・・・。
「あぁ・・ぐ・・・ぐはぁあっ・・・。」

「神の怒りを知れ!!!―――ゴッド・・・トライフォア!!!」

 マーシャは天高く、左手を向けた。やがて、この世のものとは思えない、
光の筋と一緒に、強烈な電撃をともなった稲妻が、バルシドの脳天を貫いたわ・・・。
 もう、バルシドの奴からは、血も出なくなってた・・・。
ずっと続いてる地震のせいで、部屋中が、崩れかかってた。
「―――やった・・・の?」

 突然、バルシドの奴が、人間とは思えないような声で笑い出したわ・・・。
「何がおかしい、バルシド!!」
 マーシャは、自分の魔力で、空中を浮かんでた。そこから、バルシドを見下ろしてた。
その視線の先で、バルシドの奴の体が、・・・裂け始めた。
 もう、私には、その様子を、これ以上、言葉にするなんて、出来なかった。
ただ、ゆっくりと、その体の中から、―――人間じゃない奴が、出てきやがったわ・・。

「・・・人間。・・・身分をわきまえるんだな。この、俺様の名を乱用しやがって。」
「な、何者・・・なの?」






 (59日目夕方)
「・・・俺は、闇の住人。・・・この人間の体内に寄生し、
 機会を狙って、体を食いちぎり、神経も血管も引き裂いて、
 ・・・いずれ、人間共を、ブチ殺すが為に!!」

「バルシド・・・、闇の住人―――バルシド・・。」
「・・・そうか、ご存知か、悲劇の少女さんよ・・・。」
「ここは、お前がいてはならぬ場所。・・・今すぐ、封印―――」

 マーシャは、突然、ゆっくり落ち始めて、床に足が着いちまってた。
それから、回りの光もだんだん、暗くなっていきやがった・・・。
「・・・なんだ・・。これはどうしたということだ・・・。
 ・・・力の存在に気付いて、せっかく、出て来てみたら・・・、
 テメェ・・・、中途半端に覚醒してた野郎なのか?!おい、起きやがれ!!!」

 バルシドの野郎が、マーシャに近づく!!
「ん?・・・なんだ、この、微かな痛みは・・・。」
「テメェ・・・、マーシャは、殺らせねぇ!!」
「手ぇ出したら・・、葬るよ!!」
 バルシドは、俺達に気付きやがった。
「人間?・・・そうか、悲劇の少女の仲間・・・。
 哀れな運命だな・・・。頼りの悲劇の少女が、この様とはよ・・・。」

「クロスブレイカー!!」
 シーナのナイフは両方とも、バルシドに摘み上げられた・・・。
「なんだ、これは・・・。」
「見ればわかるじゃない!!ナイフよ!!」

 バルシドの右手にあったナイフは、突然音をたてて、溶けちまった・・・。
「ナイフ、・・・人間の玩具か。」
「な、なに・・・すんのよ・・。」
「だめだ、・・・手、手が、・・・出せねぇ―――。」
「―――邪魔になるやもしれん、掃除だ。・・・エナジーストリーム。」



 バルシドは、右手から禍々しい力を流動体にして、床に流し始めたわ。
「・・・力が、違いすぎる―――、もう、どうしようも、ない!!」
 突然、私達の回りを、暖かい光が包み込んだ。
その直後に、私達は、エナジーストリームに飲み込まれた・・・。
「もう、消えた頃か・・・。」

「―――バル、シド・・・。」

「なんだ・・・、死に損ないの、悲劇の少女さん・・・」
 マーシャは、再び青い光を取り戻し、それを一気に放出したわ!!
「・・・マーシャ!!」
「ようやく、蘇ったか。そうでなくてはな。」
 バルシドの野郎は、右手に魔力を集め、一気にマーシャに放出した!!
マーシャは、ライトロッドで魔法陣を描いて、つくり出した結界で、消し去った!!
「力よ、俺の元に集え―――エナジースパーク!!」
「させない!!!」
 マーシャは、バルシドに駆け寄って、ライトロッドで叩きつけたわ!!
でも、そんなマーシャにも、とうとう、限界が近づいてきたみたいだった・・・。



 もう、私の力も、限界に近づいていました・・・。
「・・・魔力をともなう攻撃は、もはや、お前には効かぬか・・・。
 だが、所詮、悲劇の少女といえども、不完全の身・・・。
 ・・・力を使い果たした時、お前は、ただの人間となる―――。」

「神の・・、怒りを―――知れ!!―――ゴッド・・・トライ・・フォア!!」
 私は、全力をライトロッドに込めました!!
「まだ・・・、封印するまでは、―――倒れるわけには、いかない!!」
 今の直撃で、床が崩れ始めてしまいました。
「この俺が、封印されるだと?・・・誰がだ、この俺がか?!
 ・・・この俺が、封印されるかぁ!!!!」

 バルシドは、両手に、全魔力を凝縮し、私に向かってきました!!
「フラッシュリング!!!!」
 無数の光の輪が、天から落ちていました。それを、バルシドは、
両手の凝縮した魔力で、エナジーブレードを作り出し、斬り裂きました!!
「結界だ。結界を斬り裂けば、お前は死ぬ!!!」
「フラッシュリング!!」
「残念だな。・・・後ろだ!!・・・結界よ、砕けろ!!!」
 ものすごい衝撃を背後から受けて、私は、床にたたきつけられました!!
「この地の奥深くに、この俺が逆に、お前の体を封印してやろう!!ゆくぞ!!」



 バルシドは、マーシャの真上から急降下した!!
「・・・く、結界か?!」
 バルシドは、強力な結界によって、その空間に閉じ込められた!!
だが、マーシャの回りの光は消え、ただ、ライトロッドだけが、光り輝いていた。
「どうやら、ここまでだな。・・・この場で、お前をブチ壊し、人間共をブチ殺し、
 こっちを、俺等、闇の住人達にとって住みよい世界へと変え―――」


 マーシャは、静かにうつむいて、すべての魔力を集め始めていた!!
「・・・面白ぇ。・・・ここで、悲劇の幕開けとはな。・・・この、俺といっしょに、
 お前の仲間、・・・全ての人間共が、昇天しちまうっていう、悲劇のなぁ!!」

 バルシドは身動きをとれなくなっていた。結界が、そのまま封印へと変わり始めた。
「・・・だが、1つだけ、筋書きを変えちまうぜ。」
 バルシドは、結界を内側から砕き散らした!!
「残念だったな、悲劇の少女!!・・・今回は、俺は、下りるぜ!!」

 マーシャは、目を見開いて、両手を挙げた!!再び、結界に閉じ込める!!
「くそ・・・、ダメだ・・・、俺の体が、・・・溶け・・・る・・・」
 マーシャの力が完全に解放されつくした瞬間に、バルシドは、結界に封印された。




 私は、そこで、急に意識を取り戻しました・・・。

「―――ここは・・・?」

 自分がどこにいるのか、何をしているのか、何も分かりませんでした。
「マーシャ!!・・何してんだよ?!」
「やったじゃない!!!あとは、あんた次第なのよ!!」

 そこには、私に笑顔を見せてくれる、みんながいました。
「さっさと終わらせて、帰ろうぜ、街によ!!」
「みなさん・・・。」

「マーシャ、・・・杖を、天にかざしなさい。」

 その声に導かれて、私は、ライトロッドを結界に向けました。
それから、空中に浮かんでいたその結界は、この世から、消え去りました・・・。

 その直後、私は、全ての魔力を使いきって、長い眠りについてしまいました。

「今は、ゆっくり、眠らせてやろうぜ。・・・さぁ、街に行くぜ!!」
「あんたたち、突然だけどさ。状況分かってる?・・・とっても、危険な状況よ。」
「風景が、上に向かって動いて―――いや、違う・・・、落ちているのか?!!」


 こうして、研究所は、全ての悲しみや怒りと共に、崩れ去っていきました。
―――そして、その全てを洗い流すかのように、静かに雨が降り始めました―――。


2004/11/17 edited(2004/03/01 written) by yukki-ts To Be Continued.