[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第3幕― 第17章

 (50日目夕方)
 遠くに、ディシューマ大陸が見えてきた。
「・・・すごい・・・、建物が・・・あんなにたくさん・・・。」
「レイティナークだからな・・・、とんでもないところに行くんだな、俺達。」
 ディシューマといえば、その大陸の至る所に高層ビルが立ち並ぶ、
この世界で、最も経済を発展させた国だ・・・。
「あんたたち、喜びすぎよ。・・・レイティナークでしょ?」
「今まで見てきた街よりも、ずっと大きな街なんですよ?・・・迷わないかなぁ。」
「大丈夫よ・・・私が、案内したげるから。」
「・・・お前、ここに、来た事あるのか?」
「知らなかった?」
「・・・ああ。」
「ま、別にそれでもいいけどね。ほら、もう着くわよ!!」

 船は静かにレイティナーク港へと上陸した・・・。
「・・・よし、いくか・・。」
 俺達が船から外に出ようとしたときだった。
「乗客の皆様・・・。」
「え?・・・何よ、今さら?足止めしてんじゃないわよ・・・。」
「・・・ただいま、軍本部より、連絡を受けました。
 ―――何者かが、セーシャルポート制圧を妨害し、壊滅的ダメージを負わせた。
 よって、現在、実行犯を特別指名手配者として捜索しているとのことです。」

 言われなくとも、それが、自分たちの事だということに気付いた。
「ですので、これより、港が封鎖されます。
 ・・・じきに解除されるとは思いますが・・・しばらくは、
 ここに滞在していただくことになります・・・ご了承ください。」




「まずいことになってるわね。」
「ああ・・・、下手な行動をすれば、一発でアウトだ・・・。」
「・・・なるべく、目立たないようにいくわよ・・・。まずは・・・。」
 そう言った私の目の前で、こいつらは勝手な事を言い始めたわ。
「本部に突入しよう・・・。一刻も早く、ガーディアを見つけなければ・・・。」
「・・・ディッシェムさんを探さないと・・・。」
「何、言ってんの?・・・自分たちが言ってることの意味、わかってる?」
「それが目的で来た。もたもたしている時間はない。」
「あんたたち、・・・ここの恐ろしさ、何もわかってないのね・・・。」

 やっと、2人とも口を閉じたわ。
「金があればなんでも解決できる―――ここの街の掟よ・・・。
 いい?指名手配されてんの。・・・ここの連中なら大丈夫だろうけど、
 ・・・もし、そいつが、とんでもない殺し屋だったら・・・?」

「分かった。ここは、おまえに任せる・・・。」
「そう、・・・わかったみたいね。それなら、行くわよ。」
 私は、さっさと歩き始めた。
「・・・どこに行くんだ?」
「まずは、宿に泊まるわよ。」
「え?」
「考えてても仕方がないわ。それに、私にはちょっとしたあてがあるから・・・。」



 (50日目夜)
「・・・・よく、あんな大金持ってたな?」
 シーナさんが宿代を払ったのを、アーシェルさんは、ずっと、不思議がっていました。
「だから、ここにいたって言ってるでしょ?・・・だいぶ、物価上がってるけどね。
 あぁぁ、せっかく貯めてたお金が、みんな飛んじゃったわよ。
 ・・・明日からは、自分たちで払うのよ!!」


 私達は、それから、部屋に入りました。
「いい?まずは・・・ディシューマ連合に行くわ。」
「ディシューマ連合?」
「―――殺し屋どもが集まってるとこ。あそこなら、いろいろ情報が聞きだせる。」
「殺し屋・・・ですか?」
「だから、そう言ってるじゃない。」
「方法はまかせる。だが、そのためには、金がいるだろ?」
「当然じゃない。」
「・・・どうするんだ?」
「稼ぐのよ。」
「やっぱり、そうか・・・。」
「さ、明日から大変よ。・・・アーシェル、それじゃ、おやすみ!!」
 私達は、そのまま眠りました。



 (51日目朝)
 俺は、マーシャの声で目を覚ました。
「お願いだから・・・静かにしてくれ・・・。」
「アーシェルさん!!アーシェルさん!!!起きてください!!わ、私の・・・私の。」
「どうしたんだよ・・・あ、あれ?・・・おい、俺の、アーチェリー・・どこだ?」
「私のライトロッドがないんです!!ど、どうしよう!!」
「―――なんで、あんたたちは、朝っぱらから、騒いでんのよ!!!」
 シーナが飛び起きた。
「おい?シーナ!!お前は?お前は大丈夫か?」
「何がよ?」
「俺のアーチェリーがなくなっちまった。マーシャのものだ・・・。
 いったい、どうなってるんだ?」

「うるっさいわねぇ・・・そこ、置いてやってんじゃないのよ。」
 俺は、壁にたてかけられている、アーチェリーとライトロッドを見た。
「何度も言ってるの。そろそろ分かってくれるかしら。
 ・・・ここは、レイティナークよ・・・、こんな事、日常茶飯事・・・。」

「そ、そんな・・・。」
「で、あんたたちはどう?・・・しっかり稼げた?」
「・・・な、何言ってんだ?」
「今まで、・・・寝ていたんですよ?」
 シーナがあきれたような表情を浮かべた。
「バッカじゃないの?あんたたち・・・。
 この街にねぇ、夜は寝る時間だなんてルールなんか、ないのよ!!」

「なんてこった・・・。」
「ほら、ここに1086D$あるわ。―――どいつもこいつも、
 稼ぎの少ないこそ泥ばっかだったけど。ホントに・・・。
 何のために、私が斬ってあげたのか、わけわかんないわ・・・。」

「私達が寝ている間にそんなことがあったなんて、・・・こ、こわい。」
「慣れよ、慣れ!!・・・こんなの、3日あれば慣れるわ・・。」
「わ、私は・・・そ、その―――シーナさんが・・・。」
「あんた、斬ってあげようか・・?」
「―――あの、このまま外に出て行くのは、危険じゃないでしょうか?」
「話、・・・そらさないでくれるかしら?」
「たしかに、・・・それはあるな・・。顔も知られているんだし・・・。」

「あんたたちが、そんないらない心配する必要なんてないわ・・・。」






 (51日目朝)
「心配する必要ない・・・、どういう意味だ?」
「難しいこと考えたって仕方がないの。いい?ここの連中はバカなの。
 連中はね、顔を隠してる奴は、誰だって犯罪者だって勘違いしてるらしいの。
 ・・・顔だしてる奴なんか、見向きもしないわ。」

「・・・そういうものか?」
「じゃあなに?ここに、バンダナあるけど、・・・これで顔でも隠すの?」
「シーナさん・・・なんでも持ってるんですね。」
「まぁいい。そこまで言うなら、お前に従う。」
「・・・さっきから、あんたたち見てると、すごく不安なんだけど・・・。
 指名手配犯だっていう自覚、ないでしょ?・・・もういいわ。早く行きましょ。」




「ほら、・・・ついたわ。」
「ここが、ディシューマ連合か・・・。」
「ここにいる連中は、みんな、この大陸でうまくやってる連中ばっかりよ・・・。」
「うまく・・・やっている?」
「・・・こいつらのせいで、どんどんこの大陸は荒んじゃってくのよ。」
「それで、まず、どうするんだ?」
「―――まず、マーシャが言ってる、殺し屋・・・ディッシェムを探すわ。」
「・・・痛ぇ、なにすんだ・・・てめぇ・・。」

 とても怖そうな顔をしてる、とても大きな体の殺し屋の人が、
自分からぶつかっておきながら、シーナさんに文句を言いました。
「・・・。」
「黙ってんじゃねぇ・・。・・金はあんだろうな?
 ・・・コラァ!!・・・何だったら今すぐ殺してやってもいいんだぜ・・。」

 私は、男の人の低い声をとても怖がってました。
ところが、シーナさんは、自分から、その人のところへ一歩前に出ました。
「あんた、それでも脅しのつもり?・・・なってないのよ・・、全然。」
「シーナ、何言ってんだ?!」
「アァァ、・・こらぁ!!・・・ふざけんじゃねぇぞ!!
 殺し屋の俺に向かってなめた口きぃてんじゃ、ねぇ!!」

 とうとう、その人は怒って、シーナさんにロングソードを振り上げました。
「どうだ!!・・・今なら許してやらぁ・・。」
「だから・・・、あんた、全然怖くないっての!!」

 ・・・よくわからないうちに、男の人は、シーナさんにやられてしまいました。

「・・・地獄でまた会いましょうね。」
「ちょっと待て、シーナ。・・・こいつには、聞かないのか?」
「そ、そうだったわ。・・・ちょっと、あんた?・・・まだ生きてんの?!」



 ちょっとつついてやっただけで倒れちゃったそいつも、やっと気がついた。
「うっ・・・。」
「金ならいくらでもやるわよ。え?ぶつかったの?・・・それはごめんなさいね。
 文句さえ言わなけりゃ、いくらだって払ったげるのに。バカね、あんた。
 ・・・その代わりって言ったらなんだけど、ちょっと、教えてもらおうかしら?」

 私は、そいつに1086D$投げつけてやった。
「あんた・・・、ディッシェムって殺し屋、知ってんの?」
「ディ、ディッシェム様?!な、なんで一般の人間が、ディッシェム様を・・・」
「知ってちゃ、なんか文句あんの?」
「い、いえいえいえ、と、とんでもないです。」
 ディッシェムって名前聞いただけで、腰抜かしちゃったみたいだったわ。
「こ、殺し屋の連中の中でも・・・トップの実力を持った方。
 お、俺達じゃ、とてもとても顔を見る事も出来ない・・・すんばらしい殺し屋です。」

「じゃあなに?あんた・・・下っ端なわけ?」
「・・・へ、へい。」
「情けないわね。・・・じゃ、ディッシェムの居場所なんか知るわけないわよね?
 金やって損したわ。・・せいぜい、奪われるんじゃないのよ。」

「ま、待ってくだせぇ!!い、居場所なら、わかりますぜ!!」
「そう、知ってんの。で、どこよ?」
「はぁ・・・、仲間の話じゃ、この国の巨大戦車置場があった場所に、
 ディッシェム様は、おられるそうです。」

「巨大戦車置場跡・・・。そう、ありがとね。役に立ったわ。」
「へ、へい。」
「・・・何よ、もう、あんたに用はないわ。」
「き、気をつけてくだせぇ。では。」
 そいつは、ディシューマ連合の奥の方に消えてったわ。
「じゃ、行こうかしらね。・・・どしたの、あんたたち?」
 なんか、マーシャもアーシェルもぼうっとしてつっ立ってた。
「遊んでる場合じゃないのよ。さっさと行くわよ。」



「なんか・・・頭がぼんやりする・・・。シーナ、お前って、一体・・・。」
「謎なのはあんたたちよ。目あけたまんま、気絶してんじゃないのよ、まったく。」
 マーシャは、もう、何にもしゃべらなかった。
「困ったわね・・・。」
「・・・どうしたんだ?」
「さっきの奴に、金、全部渡しちゃったのよ。
 袋に詰めるんじゃなかったわ・・・。参ったわね・・・。」

「もう、1D$も残ってないのか?」
「だから、そうだって言ってんじゃない。
 それにしたって、―――巨大戦車置場跡って・・・どこにあんのよ?」

「し、知らないのか?」
「当然。」
「・・・来た事あるんじゃないのか?」
「悪かったわね。・・・だいたいなんで、この私が、
 巨大戦車の置場なんて、知らなきゃならないのよ!?
 え?なんでよ?言ってみなさいよ!!!」


 ・・・俺達を追いかけてくる奴の気配に気付いた。

「シーナ・・。」
「バレちゃったみたいね。奴等にも・・・。」
「え?!」
「いくらあいつらがバカでも、これだけ堂々と顔出してれば、いい加減わかるでしょ。」
「どうする?」
「どうする?!逃げるのよ!!バカ言ってんじゃないわよ!!
 あんな奴等の相手なんかしてる場合じゃないでしょ?」

 俺達は、とにかく必死になって逃げ切った。
「・・・もう、追ってこないわね。さ、今のうちにこの街を抜けなきゃ。」
「え?もう行くのですか?」
「それに、分かるのか?・・・これからどう行けばいいのか?」
「じゃあ何よ?戻ってどこにあんのか、聞きに行くの?!」
「・・・わ、わかった。進もう。」
 俺達は、レイティナークから東の方向へと進んだ。






 (51日目昼)
 レイティナークと建物の外観はそんなに違いがなかった。
どこまでも、高層ビルが立ち並んでいるだけだった。
 だが、そのどれもが、崩れ果て、廃墟と化していた。
人が住んでいる様子も感じられない・・・。

―――あるのは、無数の鋭い視線のみだった・・・。

「ずいぶん、様子が違うな・・・。」
「はぁ、落ち着かないわね、こんなとこ、さっさと抜けるわよ・・・。」
 時折、スフィーガルと同じくモンスター化した動物が俺らの方に向かってきた。
確かにそいつらは、俺らに敵意を持ち、襲い掛かってくる・・・。
「・・・斬られに来てんのかしらね。こいつら。」
 だが、ただこちらに近づいてきているだけというような気もした。
シーナの言うように、自分に危害が加わることを、まるでわかっていないようだった。
「なんで、こんなことになってしまうのでしょうか?」
「・・・ああ。それに、・・・今までのモンスター以上に、本来あったはずの、
 本能までもが、・・・破壊されている。」

「言い方は悪いけど、こいつら・・・出来損ないよ。中途半端なのよ。
 もう、動物でもないし―――モンスターでもないわ。」


 シーナが急に立ち止まった。俺も、それと同じ理由でこれ以上歩くのをやめた。



「ど、どうされたのですか?!」
「はぁ、囲まれちゃったわね。」
「殺し屋か・・・。」
「いろんな奴が混じってるわ・・・。」
「えぇっ?!」
 あっという間に周りに、たくさんの人達が出てきました!!
「雑魚の殺し屋もいるけど、殺し屋じゃない奴もいるわね。
 獲物のにおいにでも気付いた、ハイエナみたいな連中もゾロゾロって。」

「覚悟・・・できてんだろうなぁ?・・・俺が殺るぁ!!」
 シーナさんは、その人の攻撃をかわしました。その人は、勢い余って、
地面に倒れこんでしまいました・・・。
「他の殺し屋なんかに・・・こいつらをやるかよ。この獲物は俺んだ!!」
「マーシャって野郎は、俺が殺すぜ、手ぇだすなよ。」
「こいつがアーシェルか。こんな野郎、俺がひねり潰してやらぁ。」
「ここで相手していても仕方がない。」
「その通りね。ここでひと暴れなんてしようものなら、調子に乗って、
 どんどん集まってくるわよ。殺し屋もハイエナどもも・・・。
 ―――いい?バラバラの方向に逃げるわよ。こんな奴、相手にするまでもないわ。」

 とうとう、何人もの人達が、私達に向かって、ソードを手にして走ってきました!!
「アーシェル!!」
「レインアロー!!!」
 アーシェルさんのレインアローで他の人達が立ち止まったとき、私達は走り出しました。
「ちくしょう!!逃がすかぁ!!」
「あいつだ!!アーシェルの野郎を殺せ!!」
「女の方は俺がやるぜ。」
「バカ野郎、あれは、指名手配犯じゃあ・・」
「スラムの連中は情報が古いぜ。あの女も―――指名手配犯の仲間だからなぁ。」
「な、なんだとぉ?!!」

 ―――私も、逃げようとしました、でも・・・。



「・・・もう、さっきから逃げてばっかり。まぁ、いいわ。
 もう、追いかけてこないでしょ。―――やっぱ、私が誰かってことまでバレてんのね。
 私の方に来た連中は、どいつもこいつも、殺し屋ばっかだったし・・・。」

「それで殺し屋がそっちに流れたんだな。こっちに来たのは、盗賊どもだった。」

 少し間があいたわ。

「ちょっと!!バラバラに逃げたってのに、なんでまたアンタがいんのよ?!」
「どうせいずれは合流するんだ。それが早まっただけだ。」
「・・・まいったわね。てっきり盗賊どもは私んとこ来るって思ってたのに。
 誤算だったわね。どうせ、何も盗ってないんでしょ?」

「ま、またそれか・・・。」
「あのね、2つ言っておくわ。汚い手を使って、いい思いしてる連中に、
 容赦する理由なんかないのよ。それと、相手が盗賊なら、逃げたのは間違いよ。
 ・・・あいつらは、諦めが悪いからね。」

「・・・ということは。」
「こっちが、諦めるしかないようね。」
 アーシェルを追いかけてきてた連中が、他の連中も連れて集まってきてたわ・・・。



「そ、そんな!!」
 私は、その人達に邪魔をされてしまいました!!
「仲間は逃げちまったみてぇだな。」
「さ、やっちまうか。」
 前にいた人が、私にソードを振り落としてきました!!
私は、必死にそれをロッドで止めましたが、力に押されてよろけてしまいました!!
「や、やめてください!!」
「やめろって言われてなぁ、やめる奴なんざ、いないのよ!!」
 両側から私は攻撃されてしまいました。体中に痛みがはしって、
切られてしまったところからは、血も出てきていました・・・。
「こいつのどこが、指名手配犯なんだよ?・・雑魚じゃねぇかよ。」
「まぁ、いいぜ。殺しちまえ。」

 周りの人が一斉に攻撃を始めようとした時でした・・・。
「野郎が・・・来やがった、・・早く、ジストラスの・・、親分に―――。」
 そう言ってその人は倒れてしまいました。
「な、こいつは・・・。」
「・・・ここで何をしている?」
 低い男の人の声が聞こえた時、周りにいた人の動きが凍り付いてしまいました。
「邪魔だ・・・。」
 そう言われて、周りの人は、ゆっくりと私から離れて道を開けました。
・・・その人は、1人残っていた私のところに来ました。
「―――ここがどういう場所か、分かっているのか?」
「い、いえ・・・、こ、ここは?」
「ここはジストラスのテリトリー内だ。ここに来れば
 今のように襲われても仕方がない。・・・何を目的にしている?」

 その人がしゃべるたびに周りの人が震えていました・・・。
「人を・・・探しています。」
「やめておけ。お前には無理だ。・・・諦めて帰れ。」
「そんなことは出来ません!!」
「・・・ならば、勝手にしろ。俺は―――」
 2人の人がバレないように、逃げました。でも、男の人はそれを見逃しませんでした。
「ジストラスの親分に知らせねぇと!!!」

「・・・ここを、潰す。」






 (51日目夕方)
 男の人が、魔力を解き放った瞬間に、その2人を電撃が襲い掛かっていました。
周りの人は、それを見て、動きを止めてしまいました・・・。
「ここを・・・つぶす?もしかして、あなたは・・、殺し屋・・・?」
 男の人は静かにうなずきました。
「―――ジストラス、って男は危険な奴だ。俺の仕事の中でも、
 ・・・恐らく一番危険な仕事だろう。」

「なんで、そんな・・・危険な仕事を?」
「奴は・・・、もともとこの仕事をやってた。―――最初の俺のパートナーだった。」
「パートナー?・・・なんで、パートナーを殺さないといけないのですか?」
「殺し屋でいる以上は、・・・そんなことに理由は必要ない・・・。
 ・・・ここは、殺し屋だった奴が集まった危険な場所だ。
 ―――奴等は、みな、殺し屋から追放された奴等だ・・・。
 この国で、殺し屋から追放される事は、人間として最低限の
 生きる権限を奪うようなものだ。こんなご時世だからな・・・。」

「・・・。」
「これ以上、話す必要はないな。こんなスラムはいくらだってあるんだ・・・。
 さぁ、もう帰れ。・・・俺は行くからな。」

 男の人はそう言って、行ってしまわれました・・・。



「・・・何すんのよ。」
 俺とシーナは、結局、盗賊らに捕まって、ロープで縛られていた。
「まさか、あの指名手配犯が、こんなところに来るとはな・・・。」
「どうする気だ、俺達を?」
「決まってんだろ?連合に突き出してやるのよ。」
「俺達が殺したって、金は出ねぇからなぁ。」
「ま、さっきみたく、下っ端の殺し屋を言いくるめて、そいつが殺したように、
 みせかけちまうってのも手だけどなぁ。」

「ちょうど今なら、チャンスなんでな。」
「チャンス?何でよ・・・?」
「レイティナークから一流殺し屋の奴等は出払ってるからなぁ。
 俺達が入ってくには、絶好のタイミングなわけよ。」

「よし、おしゃべりもこれくらいにしようぜ。そろそろジストラスさんが
 帰ってこられる頃だしよ。」

「ジストラス・・・。」
「このスラム街を作った誇り高きお方よ!!」
「あの人は、俺達を救ってくだすったのよ。」



 私は、いい加減、そいつらの言ってることにあきれてた。
「・・・その様子じゃ、ジストラスって奴がいなけりゃ、あんたたちじゃ、
 私達に手も出せないみたいね。」

「なんだと?!テメェ!!」
「昔なら、テメェの脳ミソぶち抜いてんぞ!!調子こいてんじゃねぇ!!」

 階下から声が聞こえた。階段の近くにいた奴が階下に下りて、すぐに上がってきた。
「おい!!イガーアトルの連中が来やがった!!」
「なんだと?!この忙しい時に?!!」
「く、くそ!!逃げんじゃねぇぞ、オメェら!!」
 奴等は、そう言って慌てて下に下りていったわ。

「・・・何があったって言うんだ?」
「さてと・・・。」
 私は、ナイフでロープを切ったわ。
「シーナ?お前・・・。」
「・・・情けないわ・・・、ほんと。・・・私をバカにするなんて。」
「おい?・・・シーナ?」
「あン?―――あ、そうか・・・ロープ切ってほしいわけ?」
「・・・すまない。」
 私は、ナイフでアーシェルのロープを切ってやった。
「下の様子も気にはなるが・・・まずは、マーシャを探さないとな・・。」
「え?・・・あ、忘れてた。」
「―――どちらにしろ、まずは、ここを脱出しよう。ここでは何も出来ない。」
「同感ね。急ぐわよ。」



 私は、あの人の後を追いかけました・・・。
「こ、この中・・・?」
 あの殺し屋の人は、マンホールの中へと消えました・・・。
「・・・こ、この先に、アーシェルさんが、いるのかな?」
 ルアートは、しきりにマンホールの中に向かって進もうとしていました。
「行ってみましょ・・・。」
 下水道は、もう使われていませんでした・・・。
でも、足跡がたくさん付いていて、普段から、人が出入りしているみたいでした。
 それでも、薄暗くてじめじめしたところでした。
「こわい・・・。」
 それでも、ルアートは先の方に進んでいきました・・・。
「ま、待ってよ・・ルアート!!」
 ルアートは、何かに呼ばれているみたいに、先へと進んでいました。
それから、急に立ち止まって、壁を見ていました・・・。
「どうしたの?・・・ドア?」

 下水道の中に部屋が作られていました。ドアの鍵は壊れかかっていました。
「入るわよ・・・。」
 私は、中に入りました。中は、古い倉庫みたいでした。
ルアートは、一歩部屋の中に入って、そこで止まりました・・・。
「・・・この部屋に、何があるの・・・?」
「―――だれだ?」
 突然、倉庫の中から誰かの声が聞こえました!!でも、とても苦しそうな声でした。
「だれ・・・ですか?」
 私は、ゆっくりと倉庫の奥に歩いていきました。
「・・・誰か、そこにいるんだな。」
 私は、とてもひどいケガをして血を流して倒れている男の人を見つけました!!
「だ、大丈夫ですか?!」
「お前・・・誰だ?―――そうか、わかったぜ。
 裏切り者が、殺し屋を呼びやがったんだな・・・。ちっ、勝手に殺れ―――。」

「キュア!!」
 私は、何も考えずにすぐ、その人のケガを回復し始めました。
「・・・何しやがる?!」
「静かにしていてください!!」
「―――お前、・・・ひょっとして、女か?」
 私は、何も聞こえないフリをしてキュアをかけ続けました。
「・・・殺し屋じゃ、ないんだな・・、なら・・いいか。」
「はい・・・。」
 男の人は、そのままゆっくりと横になりました。






 (51日目夕方)
 キュアをかけ終わって、その人もだいぶ楽になったみたいでした。
「ちくしょう・・・。あの野郎、最後の最後に俺を騙しやがった・・・。
 巨大戦車置場跡なんかに呼びつけやがって・・・。
 ―――まさか、軍の連中が勢ぞろいとは思わなかったけどよ、
 いきなり、銃撃されなきゃなんねぇんだ・・・。」

「巨大戦車置場跡・・・?」
「・・・誰だか知らねぇが、お前には関係ない。」
「いえ。私は、そこに用があるんです。」
「―――テメェ、本当に殺し屋じゃねぇんだろうな?!」
 男の人はゆっくり起き上がりました。
「・・・テメェ、どこかで、見たような・・・、―――マーシャって野郎か?」
 私は、ほんの少しだけうなずきました。
「そうか・・・。なんてこった・・・、殺し屋よりとんでもねぇ奴か・・・。」
「そ、それよりも!!巨大戦車置場跡に行ったのですよね?!
 それなら、それなら、あなたは、ディッシェムっていう人を―――」

「お前・・、ディッシェムのガキを知ってんのか?!」
「はい。」
「・・・ああ、奴なら、今頃、処刑されてんだろうよ。」
「処刑?ど、どうしてですか?!」
「―――軍の連中が俺を銃撃する前に言ってやがった。
 それに理由も簡単よ。笑えるぜ!!・・・お前を殺さなかった!!それだけだ。」

「私を?!」
「殺し屋の掟って奴よ。・・・任務遂行が失敗しちまえば、処刑されちまうのよ。
 ・・・まぁ、昔は、―――追放くらいで、すんでたんだけどよ。
 まぁ、処刑されちまっても無理はねぇか。なんたって、相手は、
 軍のセーシャルポート制圧作戦を妨害した野郎だったって話なんだからなぁ、
 そんなとんでもネェことするお前らを止めれなかったんだ。殺し屋失格だな。」

 私は、無言でそれを聞いていました。
「ホントの事、言っちまえば、この手であの野郎は、処刑してやりてぇ位なのによ。
 ―――確かに、俺は追放されるだけのことをやったぜ。それも覚悟してた。
 失うもんは、1つで十分だった。・・・なのに、野郎は―――。
 結局・・・失うもん、みんな失って、何もかも奪われちまったんだからな。」

「・・・もしかして、あなたは―――。」
「俺か?・・・俺が、そん時からずっと、このスラムを取り仕切ってる、
 ジストラスってんだ。・・・それが、どうかしたか?」
 
「あ、あなたがジストラスさんなのですか?!」
「さん付けかよ・・・、指名手配犯が俺を、誰だと思って話しかけてきやがった?」
「そ、その・・・、ジストラスさんの・・・仲間の方だと思って・・・。」
 ジストラスさんは、私の目をじっと見てきました。
「・・・本当に、犯罪者なのか?―――さっきだってそうだ。
 見ず知らずの俺の傷を・・・治したりしやがってよ・・・。」

「ケガをしている人を放っておくことなんてできません!!」
「・・・わかんねぇ野郎だぜ。」



「やっぱりそうよ!!あの時にねぇ、ついていけば迷ったりしなかったのよ!!
 今頃、こんな薄汚いところから抜けれたのよ!!」

「ついていって捕まったら、元も子もないだろう?!」
「そんなくだらないこと言ってる場合じゃないのよ!!
 どうするってんのよ?!マーシャは?ディッシェムは?!リズノはどうすんのよ!!」

「あぁ!!うるさい!!とにかく進むしかないんだ!!」
「何よ?!さっきからそうやってまっすぐ進んでるけど、
 それでどうなったってんのよ!!え?!言ってみなさいよ!!!
 こんなことなるくらいだったら、やっぱりついていけばよかったのよ!!
 引き止めるくらいの事してね!!捕まったときは、捕まったときよ!!
 その時に考えればそれでいいじゃないのよ!!!」

「じゃ、どうしろってんだ!!!」

「―――アーシェル。」

 一瞬で、俺もそいつの殺気を感じ取った。だが、それにしたって、
相変わらずこのシーナの態度の豹変ぶりだけは、理解できない。
 向こうからやってくるのは、間違いなく、殺し屋・・・。
「・・・道をあけろ、邪魔だ・・・。」
 殺し屋は、俺達の姿を見て、足を止めた。



「もう一度警告する。・・・そこをどけろ。」
 言い方に腹は立ったけど、とりあえず我慢することにしたわ。
「別に、逆らおうなんて思ってないわ。・・・あんた、殺し屋でしょ?
 それに、私は、ここの人間じゃないしね。」

「・・・ならば、お前達に用はない。」
「ここに、何の用があるって言うの?」
「素性も知らぬ人間に、明かすことなどない。」
「どっちでもいいわ。教えてあげる。あんたが狙ってる奴等なら、
 多分、ここには、もういないわよ。」

「―――何を根拠に言っている?」
「目の前で見たもの。・・あわてて出てったわよ。」
「・・・気づかれていたか?」
「まぁ、いいわ。どいて欲しいんでしょ?どいてあげるわ。
 そうだ、あんた・・・ひょっとして、マーシャって女の子、見てない?」

「・・・マーシャ?」
「あ、知らないの?それなら、別にいいけど。・・・じゃあ、通って。」

 結局、私達の横をその殺し屋は通り過ぎようとしたわ。
「―――マーシャ、・・・顔は覚えてないが、名は・・・聞いた事があるな。
 確か、指名手配犯。・・・そういえば、・・・仲間がいたな。」

 殺し屋の視線が私達に戻ろうとしてたのを見て、すぐ私は話をそらしたわ。
「殺し屋ならやっぱり知ってるようね。・・・それなら、そのマーシャって子を、
 殺し損ねた殺し屋のことも当然知ってるのよね?」

「ディッシェムか・・・。」
「お前が、狙っていた奴らは言っていた。一流殺し屋はみな、
 レイティナークを出払っていると。・・・お前はその1人なのか?」

「違うな。だが、お前達はそれほど、今の事情を知らないわけではないようだな。
 ジストラスの連中も恐らくは、そう思っていただろう・・・。見当違いだったがな。」

「ねぇ?私達が、だいたいの事情を知ってるっての、理解したんでしょ?
 ・・・ちょっと、私の言葉に耳貸してみる気・・・ない?」

「・・・いいだろう。有益かどうかは、聞いた後で判断すればいい。」
「ホントは金もらうとこだけど、あんたは、殺し屋だしね。特別よ。
 さっきから言ってるけどね、私達は、マーシャって子を探してんの。
 ―――レイティナークで見たって話があんのよ。ディッシェムを探してるってね。」

「巨大戦車置場跡に来ると言うのか?」
「・・・おそらくは、お前の言う、仲間2人と一緒だろう。」
「あんた、場所知ってんでしょ?・・・どうなの?」






 (51日目夕方)
 私は、しばらく黙っていました。
「・・・お前は、この俺を・・・、人のように扱うんだな・・・。」
「えっ?・・・どういう意味ですか?」
「俺は殺し屋の稼業についた時、人なんてもんは捨てた。
 そうでもしねぇと、殺し屋として、生きてなんかいけねぇからな・・・。
 だが、いったん殺し屋の稼業から追放されてみろ!!
 寝るもん、食うもん・・・何にも調達できやしねぇ。
 大人しかった奴等まで、俺を平気で襲ってきやがった、
 どいつもこいつも、俺を見捨てやがった。
 ・・・殺し屋なんてそんなもんよ。いったんやめちまえば、もうクズ扱いだ。」


 ジストラスさんは一呼吸おいてから、続けました。

「こうやってスラムを作ってみれば、あっという間に、俺を頭領として慕う野郎が、
 集まってきやがったけどよ、・・・結局は、名前だけ借りて、悪事に走るだけよ。
 そこに、信頼なんてもんはねぇ。いざ、頼りにしようって思った時には、
 裏切られちまうんだからな。・・・それが、今じゃ、女に助けられちまう様よ。
 ―――情けねぇぜ。・・・俺は人間なんてもんは信じてねぇ。
 人の面して、いいことやってるフリしてる野郎の頭には、汚ぇ考えしかねぇからな。
 信じるなんて・・・バカなこと、あるか?!」


 私は、ジストラスさんの話を最後まで聞いた後、すこし間をあけて尋ねました。

「―――人を信じないで、生きていて・・・辛くならないのですか?」
「信じねぇって決めりゃ、そいつがいくら騙そうと、俺は、なんともねぇ。」
「・・・誰かが、あなたを助けてくれたり、力になってくれたりした時、
 ・・・それでも、あなたは、その人を信じてあげられないのですか?!」

「裏切られちまうのが、目に見えちまうからな・・・。」
「そんな生き方をしていても、・・・きっと楽しい事なんか、ない。」
「楽しいだと・・・?甘えた事言ってんじゃない。
 人生なんて、楽しけりゃあいいってもんじゃねぇんだ・・。
 ―――お前じゃ、俺に人を信用させようとすることなんか、無理だな。」

「信じるかどうかは、あなたが決める事です!!」
 私は、そう言いました。それでも、ジストラスさんは、
もう私の話は聞いてくれませんでした。



 ジストラスさんは、ゆっくりと立ち上がったあと、私の横を通って、
ドアの方へとゆっくり歩いていきました。
「どこに行かれるのですか?」
「ここから出てかなきゃなんねぇのは、おまえの方だ。
 ・・・おまえが、ここから出る気がないなら、それでいい。」

 私は、時々、倒れそうになってしまうジストラスさんに近寄りました。
「うっとうしい!!離れろ!!」
「・・・はい。」

 その時でした。奥の方から、男の人達が大声を上げているのが聞こえました!!
「今の声は?!」
「・・・手下どもの声―――、まさか、イガーアトルの連中か?!」
「イガーアトル?」
「―――ちっ、どうする?この様じゃ、イガーアトルの刺客の相手はきついか・・・。」
「・・・私が先に行きます。ですから、後から追いかけてきてください!!」
「イガーアトルの連中の用があんのは、俺だ。関係ない奴は、関わるんじゃねぇ。」
「それでも、早く助けに行かないと!!私は行きます!!」
 私は、とにかく、声のした方に急いで走っていきました。



 私とルアートは、下水道の中を走っていきました!!
そして、少し広い場所に抜けた時、2人組みの男の人達が両側の壁際に立って
ソードやナイフを持って、お互いをにらみ合っていました!!
「ルアート!!この人たちを止めないと!!」
 手前側の人達が動きました!!奥にいた人は、その人の攻撃をかわしました。
私は、横から見ていましたが、とうとう、奥にいた2人の人の首元に、
ナイフが突きつけられてしまいました!!
「終わりだ!!」
「待ってください!!!」
 私は、その人達に叫びかけました!!
「誰だ?!・・・女?」
「早く・・ここを、逃げてください!!」
「おっと!!逃がしゃしねぇよ!!」
 その人は、またナイフを突きつけました!!
「悪いことは言わねぇ・・・、あんたが、ここから逃げろ!!」
「これから死ぬ野郎が、ずいぶん余裕じゃねぇか。
 人の心配してる暇があんのかよ?!」

 その人は、倒れてる男の人の腹を力いっぱい殴りました!!
「ぐはぁ・・・、な、何しやがる・・・。」
「ほらよ、そいつみてぇに痛い目に会いたくなけりゃ、ジストラスを出せや!!」
「今は・・・外出中だ。」
「出方次第じゃ、皆殺しだぜ。」
「何といわれようと、・・・本当の事は、本当の事だ。」
「・・・ジストラス1人殺させてくれりゃあ、お前らも、他の仲間も、助かるんだぜ。
 それでも、黙ってんなら、お前も、こいつも・・・そこの女も死ぬ事になるぜ。」

「その人は・・・関係ないじゃないか!!」
「気が短いんだよ、俺らはなぁ!!どうせ、野郎の命はもうねぇんだよ!!」
「―――そこのあんたは、どうして逃げないんだ?!
 このままだと、あんたまでも!!」

「いいえ!!ジストラスさんの・・・代わりに、―――私が!!」
「・・・何を、言って・・・。」
「女・・・お前も、ジストラスの奴を知ってるみてぇだな!!」
「―――よく見てみればよ、こいつ・・・、マーシャとかいう女だぜ。」

 その人が私の名前を言ったとたん、2人の人は私をびっくりしたような顔で見ました。

「し、指名手配犯―――マーシャ?!・・・そ、そんな奴が・・・なんで?」
「お、お前も・・・ジストラスさんを狙う野郎だったのか?!!」
「そ、そんな・・・私は!!」
「助けが入ったかと思ったら、・・・こりゃあ、とんだ勘違いだったみてぇだな。
 ―――それなら、お前も、俺らの仲間ってわけだ。
 あの指名手配犯が味方なら、心強いぜ。」

「違います!!私は、ジストラスさんの代わりに―――」
「ジストラスの居場所がわかるのか?」
「そりゃあ好都合だぜ。よし、そこに案内してくれ。俺らと一緒に殺ろうじゃねぇか。」
 イガーアトルの人達が笑いながらこちらに来ました。そして、今まで、
やられていたはずの2人の人も、怖い顔で私の方に向かってゆっくり歩いてきました。
「・・・ジストラスさんに、手・・・出させるか!!」
「俺らはどうなったっていい!!おめぇら!!先に、俺らを殺しちまえ!!!
 だから、・・・だから、行くんじゃねぇ!!!!」

「私は・・・違う・・・、そ、それ以上近付かないで!!!」

 前の2人の人の目や気配が急に変わりました。その時、急に耳が遠くなって、
目の前が急に真っ白になってしまいました・・・。






 (51日目夜)
 目の前のまぶしい光の中で、私は初めて、無意識のうちに、私が知らないはずの
何かの魔法を唱えていた事に気付きました・・・。
「ど・・・どうして?・・・わ、私は、何も―――。」
 少しずつ、目が慣れてきて、私は、1つの動いている影を見つけました。
「・・・間に合わなかったか。」
 ジストラスさんの声でした。
「間に合わなかった・・・。」
「俺もな・・・、最初は正義感って奴で、こいつらを拾ったんだ。このスラムによ。
 だがよ、ほんのついさっき、お前と話していた時でさえ、俺は、
 こいつらも、信用なんかしちゃなかった。―――こいつらは、それも知ってた。
 分かっていながら、・・・俺を慕ってやがったんだ、こいつらは。
 そんな野郎に、どう応えてやりゃあいいかもわかんねぇ・・・。」

 私は、だんだんと、体中が震えてくるのを感じていました。
「お前の言う通りだ。・・・こいつらを信じられなかったのが、
 ―――今更だけどよ、なんで、・・・なんで、こんな辛ぇんだよ?」


「ごめんなさい。・・・私のせいです。」
「何か・・・言ったか?」
「だ、だって、私が・・私がやってしまったんですよ!!」
「女―――、忘れるな、俺は、最初からお前を信用してない。だから、
 お前が何したところで、俺には、関係ない・・・。
 ・・・だがよ、お前は見ただろ、・・・お前が指名手配犯であると知ったとたんに、
 こいつらが、お前に向けた目を・・・。
 ―――何かを信じるってのはな、そういうことなんだ。」

 私は、自分がしてしまったことを思い出して、震えながら、
だんだんと、自分自身のことが、怖くなっていました・・・。
「分かったろ?・・・それなら、ここから出て行け。―――二度と、顔を見せるな!!」
 最後のジストラスさんの大きな声で、震えが一番大きくなりました。
「・・・はい。」
 私は、震える足で、少しずつそこから出て行くために、歩き始めました。
そして、ジストラスさんの顔を見ないように、横を通り過ぎました。
「俺とお前じゃあ、生きてきた世界が違う。・・・俺は、お前のことを、
 信用することは出来ねぇ。・・・何を、信じるかどうかは、俺が決める。
 俺は、それ以外の何も信じねぇ。だから俺は、
 ―――お前を、犯罪者とは認めねぇ。」

 ジストラスさんは、そう低い声で、私の背後から言いました。



 殺し屋に案内され、俺達は、ようやく外への出口まで出てきた。
「あんた・・・よくも迷わずに、ここまでこれたわね。」
「・・・ここを出た後は、どう行けばいい?」
 殺し屋からの返事はなかった。
「ねぇ?聞いてるの?」
 殺し屋は立ち止まっていた。

「・・・アーチェリー使いのアーシェル。」

 どう聞いてもそれは、俺のことを言っていた。
「それがどうしたっての?・・・こいつが、そうだっていいたいわけ?」
「・・・指名手配犯の名だ。・・・そしてマーシャの仲間は、2人・・・。」
「ここまで・・・だな。」
 俺は、アーチェリーに手をかけた。・・・それをシーナは止めてきた。
「あんたたちには、ターゲットでしかない、マーシャも、こいつも、それに私も、
 わざわざこんなとこまで来た以上、こんなとこで殺られるわけには、いかないのよ。」


 シーナは走り出した!!俺もその後をすぐに追いかけた!!
そして、路地へと出た瞬間、それは起こった。
 足元から電撃のようなものが走って、体中の自由がきかなくなった・・・。
「わざわざここまで来たのなら、・・・死に場所くらい選ばせてやろう。」
 俺とシーナは、殺し屋に捕らえられた。無理矢理歩かされていることを、
記憶していたが、気付いた時には、気を失っていた。



 最初に気がついたのは、アーシェルらしかったわ。
私は、アーシェルの声で目を覚ました。
「・・・こ、ここは・・・、何処だ?・・シーナ?!・・・おい・・大丈夫か!!」
「―――アーシェル?」
 そこで、私ははっきりと思い出した!!
「リズノ・・・そうよ、リズノは?!」
 周りを見回してみたけど、アーシェル以外、誰もいなかったわ。
「・・・リズノ?・・・助けてくれたのか?」
 あの状況だと、戦っても、私達は無事じゃすまなかった。
でも、結局逃げ切れなかった。アーシェルの奴の意識はなくなってた。
あれは、私の意識も遠くなりかけてた時・・・。
「あれは、リズノだったわ。・・・でも、話しかけることも、出来なかった。」
 周りはだんだん明るくなってきてた。それで、私達は、どこにいるのか、
やっと分かるようになったわ。
「ここは・・・。」

 古臭くなってる戦車、たくさんの戦艦、・・・もう使われてもないような飛行艇が、
置き去りにされてる場所だった。
「巨大戦車置場跡・・・?」
「ディッシェムは、ここにいるのか・・・。」
「―――マーシャは、・・・どうなってるのよ?」
「わからない・・・。・・・まだ・・・スラムの中にいるかもしれない・・・。」
 しばらくお互い黙ってたけど、私は決めた。
「・・・とにかく、進むわよ・・。・・・何処にいたって、危険なんだから・・・。」
 私達は、壁の外にそって進んでいった。正面には、見張りがいるのが見えた。
「侵入することになるな・・・。」
「そうとも言うかもね。―――?」

 私は、何かに気付いて後ろを振り返った。
「・・・アーシェルさん、・・・シーナさん。」
 マーシャが立っていたわ。私達を見てた。
「マーシャ?!」
「あんた!!無事だったの!!」
「・・・はい。」
「まだ安心できる状況じゃあないが、・・・ここで合流できてよかった。」
「何してんのよ?こっちに来なさいよ!!」
 マーシャは、ゆっくりと私の方に歩いてきた。
「まったく、心配させんじゃない・・わ・・・よ」

 マーシャは、急に私のローブのところでしゃがみこんだわ。
「ど、どうしたっていうのよ?!」
「私は、自分のことが怖い。・・・私は、・・・私は―――。」
 マーシャは、泣き崩れてた。そんなマーシャの横からルアートが見ていたわ。
「なんで、そんなことを言うんだ?」
「アーシェル。あんたは黙ってて。」
 私は、泣きじゃくってるマーシャに話しかけた。






 (52日目朝)
「理由なんて聞かないわよ。・・・あんたの泣く理由なんて、想像つくから。
 泣いちゃった以上は、どうしろなんて言わないわ。
 悲しいけどさ、・・・涙が止められるのは、・・・自分だけなのよ。」

「・・・シーナさん。私―――」
「私の言葉じゃあ、あんたのことは救えない。
 ・・・あんたと一緒に歩いてきて、私はそう思ったの。
 苦しんでる誰かを助けるより、あんた自身であんたの大きな悲しみから、
 抜け出る事のほうがきっとむずかしいと思うわ。
 ―――でも、私は、それが出来ないマーシャを・・・見たくない。」

 静かな時間がしばらく流れていた。だが、その時間を終わらせることが起こった。
「・・・殺し屋だ。」
 シーナが俺の横に来て、確かに殺し屋の姿を確認した。
「追ってきた・・・っていうの?」
 殺し屋は、見張りの人間に話しかけていた・・・。
だが、様子が妙だってことに気付いた。
 見張りの奴は、気絶したまま立っていた・・・。



「もう、先客がいるらしいわね。少なくとも、ディシューマの殺し屋じゃない奴。」
「あの人・・・。」
「知ってるのか?!」
「殺し屋の人です。―――ジストラスさんを狙っている・・・、まさか!!」
「思ったとおりね。あんたは、ジストラスの奴に会った・・・。」
「ジストラスさんはもしかすると、本当にディッシェムさんのところに・・・。」
「そう考えてもいいだろうな・・・。」
「シーナさん!!アーシェルさん!!!早く行きましょう!!
 殺し屋の人も、ジストラスさんも、ディッシェムさんを・・・殺そうとしています!!」

「―――殺し屋が出払ってるって、そういうことだったのね。
 ・・・ホントなら、そんなとこに、行くなんてことしないんだけど・・・。」

「行くんだろ?マーシャ。」
「私は、・・・ディッシェムさんの所に行きます!!」
「あんたと一緒じゃなきゃ、やんないからね。私達は!!」
「行くか。俺も同感だ。」
 私は、シーナさんとアーシェルさんの後に、中へと入りました!!
「さて、どうやって入ろうかしら・・・ねぇ!!」
 シーナさんは、ナイフを両手に持ちました!!!
「モンスターを放し飼いにしているのか?!」



 鋭く研ぎ澄まされた鎌を持つモンスター、シックルタイガー2体だった。
「危ねぇっ!!」
 そして、奴等の動きは異常なほど俊敏だった。
「何、遊んでんの?!私がやるわ!!」
 シーナは、ナイフを突きつける。だが、シックルタイガーはその攻撃を
完全にかわし続けていた。
「じれったい!!なんで、当たんないのよ!!」
 スキを見て、時折シーナに攻撃をしかけるが、シーナはそれをナイフで止める!!
シーナは、一度シックルタイガーから離れ、間合いを取った。
「甘くないわよ・・・、こいつ。」
「一瞬だが、動きを止めるなら、俺にも出来るな。」
「いい?足を狙うのよ!!」
「シーナ!!走れ!!」
 シーナがナイフを持って、1体に狙いを定め走った!!
「クロス・・・ブレイカー!!」
 シーナがクロスブレイカーを放つ直前に俺は、シックルタイガーの右足に
アローを放った。だが、わずかにそれたらしく、即座にシックルタイガーは、
鎌を振り上げ、シーナを切り裂いた!!
「シーナさん!!」
「バ、バカ!!こっちくんじゃないわよ!!!」
 マーシャへのもう1体の攻撃を、寸前のところで俺が身代わりになって受けた!!
「ぐっ・・・は、はやく、・・・シーナを。」
「ルアート!!アーシェルさんを!!」
 ルアートが近寄ってきて、俺の傷を回復させた。
「マーシャ・・・サンキュ。」



 私とマーシャの背後に、モンスターの野郎が近づいてきたわ・・・。
「アーシェル。」
 アーシェルとルアートも、モンスターとにらみ合ったまま、タイミングを計ってた。
「・・・なんとか、2手には、分けられたな・・・。」
「ここは、これくらいにして、さっさと中に入る方がいいかもね。」
「それに、早くしないと、・・・ディッシェムさんが!!」
「ああ。ここで時間をかけるわけには、いかないか。」
「アーシェル。そいつは、無視して!!こいつを片付けた瞬間に、
 さっきの殺し屋が入ってったあのドアを一気に目指すわ!!」

「でも、・・・どうやってですか!!」
「・・・ナイフ、新しくして、まだやってない技が1つあるわ。離れて!!」
 私は、ナイフに魔力を込めた。―――ナイフから激しく炎が吹き上がったわ。
「お、おい?!おまえ、何する気だ?」
「・・・マーシャ、アーシェル。走るのよ!!バーニング・・・スラッシュ!!!」



 シーナのナイフからの炎の勢いが最大になった時、シーナは、ナイフで、
目の前にいたシックルタイガーを斬り裂いた!!
 激しい炎に包み込まれ、体全体をやけ焦がすほどの勢いだった・・・。
「お、思ってたより・・・すごいわ、これ。」
「シーナさん!!」
 マーシャの声と同時に、俺達は、ドアへと向かった!!
だが、俺は、もう1体のシックルタイガーに足止めさせられた!!
「アーシェルさん!!」
「ほっときなさい!!中に早く入るんでしょ?!」
 シーナが、先にドアにたどり着いた。
「・・・あ、開かない?!」
「え?!」
「それなら、他の道を探せばいい!!」
 ルアートが凍える風を吹きつけた!!一瞬だったが、ひるんだのを見逃さなかった。
「くらえっ!!」
 俺の放った地の矢が足元で炸裂し、シックルタイガーの動きを鈍らせた!!
「シーナさん!!アーシェルさん!!」
「どうしたの?」
「こうなったら、ここから入りましょう!!」
 マーシャが、足元のマンホールを指差していた。
「・・・それに、賭けるしかないか。」






 (52日目朝)
 マーシャが、マンホールのふたを開けて、中に入れるようにしたわ。
「アーシェル!!適当なとこで、終わらせて!!入るわよ!!」
「ああ。」
 ルアートが雷を落として、アーシェルは、炎の矢を放ちながら、こっちによってきた。
「行きます!!」
 アーシェルは、入ってすぐにふたを閉めた。上から、何度かぶつかってくる音が
聞こえたけど、すぐ、その音も聞こえなくなった。
「あとは、中に入れるか・・・どうかよね。」
「マーシャ、どうだ?先には行けそうか?!」
 マーシャは、先に下まで下りてたわ。
「・・・暗くて、よく見えません。―――!!」
 マーシャの悲鳴が聞こえた。・・・何かがマーシャに襲い掛かったみたいだったわ!!
「シーナ!!急げ!!」
 やっと、地面まで下りたとき、マーシャが、地下水道の中に棲み着いてる
コウモリのモンスターに囲まれてるのが見えた!!
「マーシャ!!かがんで!!」
 私は、そいつらをバーニングスラッシュで斬り払ってやったわ。
「ちょ、ちょっと待ってください!!!」
「人にかがんで、言っておいて真上で炎を撒き散らすか?!」



 マーシャは、辛うじて落ちてくる炎に包まれたフォールキラーを避けた。
「どんどん来るわよ・・・。」
 周りにいたフォールキラーがさらに集まってきていた。
「やばいな・・通り抜けるぞ!!」
 明かりが全くなかったが、壁伝いに奥へと走っていった。
「・・・ここ、あんまり、いい気分じゃないわね。」
 足元にたまっている泥からは、確かにあまりいい臭いはしなかった。
空気も湿っぽく、走りながら、顔からは水滴が落ちてきた。
「アーシェルさん?・・・階段です。」
 地下水道自体は続いていた。
「どうする?私としては、早く、こんなとこ抜けたいんだけど。」
「迷ってるヒマはない。・・・ここは、シーナの意見に従うか。」
 階段を上がるにつれて、それが正しい判断であったことがわかった。
「中に入れたみたいね・・・。」
「ここの外にも、飛行艇や・・・戦車がたくさんありますね・・。」
 窓の外には、マーシャの言う飛行艇が見えた。
「いや、だが・・・これは、廃棄されているもの・・とは違うな。」
「どういうことですか?」
「―――ガーディアらが乗っていた・・・か?」
「のんびり見物してる場合じゃあないでしょ?・・・あの階段から2階に行くわよ。」
 シーナの後をおいかけて俺達も階段に近づいた。
「え?」
 マーシャが立ち止まって、後ろを気にし始めた。
「何やってんの?!行くわよ!!」
「あ、は・・・はい。」
「何か・・・あったのか?」
「誰かが・・・私達を見ていたような―――。」
「殺し屋か?!」
「い、いえ、たぶん見間違いです。ごめんなさい。行きましょう!!」



「男1人と、女2人―――。気付かれなかったな?!・・・よし。」
「それならもういいだろう。先を急ぐぞ。目的は1つだけだ。
 足止めをする気なら、いくらお前でも容赦はしねぇ。」

「ま、ジストラスの旦那、そう焦っちゃいけませんですぜ。」
「盗賊、今回ばっかりは、こっちも気が立ってんだ。それに、一度、騙されたしな。」
「あれは事故ですぜ、旦那!!俺かて、まさかあんなことに・・、ホント、申し訳・・」
「もともと、盗賊の肩を持つ義理なんかねぇんだ。」
「ジストラスの旦那はここいらのスラムを取り仕切ってて、情報には詳しい。
 その交換条件で俺は、そんな旦那に、俺の手下の力を貸してる。
 手助けされてるなんて、思っちゃいませんし、望んでもいませんて。」

「・・・確かに、お前らの力には何度も救われた。だがな、手下どもの希望で
 お前ら、盗賊と手を結ぶ方がいいって言ってるだけだからな。」

「いやいや、お安い御用ですぜ。狙われちまうのは、お互い様ってもんで。」
 そいつらは、だんだんと処刑場へと近づいてきてやがった。
「アサラ・・・お前らの魂胆が何かなんてことに興味はねぇ。
 盗賊どもが急に俺らと手を組んできやがったってのも、きな臭ぇ話だしよ。
 ・・・ここから先、誰かが死んじまうのは、避けられねぇ。」

「・・・はは、こっちも、・・・盗賊稼業について、そう、他人にゃあばらせませんが、
 俺らは、お互いの利益になるように、思って行動してるだけ―――」


「ジストラスさん!!口を覆ってくだせぇ!!」
 ジストラスの手下の1人がその異変に気付きやがったらしい。
「・・・イガーアトルか?!」
「アトル様からの伝令でなぁ、俺達は、ディッシェムの最期を見にきたんだけどよ、
 まさか、ジストラスの野郎の最期も見れるとは思わなかったぜ。・・・なんてな。」

「けっ、ザヌレコフ盗賊団なんかとつるみやがってよ。だが、
 今回ばっかしは、こっちも負けられねぇんでな。今日は、大勢で来てんのよ。」

「こんな時に・・・テメェらは!!」
「バカなお前らも薄々気付いてんだろ?!
 お前らん中に内通者がいたってことによ。」

「所詮は、クズどもの寄せ集めだぜ。自分の欲のためなら、今まで慕ってた野郎を、
 簡単に裏切れんだからなぁ。」

「さてと、ディッシェム処刑前の余興だ。
 賞金首共!!今日ばっかりは観念しな!!」

 イガーアトルの連中の数は、あっという間に増えてったみてぇだった。
「ジストラスさん。俺達・・・ジストラスさんの役に立ちてぇ。」
「・・・先に行ってくだせぇ。ジストラスさんの手を煩わすわけにゃいかねぇ。」
「お前ら・・・。」
「軍部の連中に復讐してぇのは、みんな同じ・・・。でも、一番、そう思ってるのは、
 ジストラスさん・・・。それなら・・。」

「俺達に言ってくださいやした。―――お前らと、生きてく。こんな俺らでも、
 胸張って生きてけるような、時代のためにって・・・。
 ―――ジストラスさん!!絶対・・・勝ってくだせぇ!!」

「お前ら・・・、この俺が、負けるわけ、ねぇだろ。―――ありがてぇ。」
 ジストラスの奴は、1人、処刑場の方に歩き出しやがった。
「旦那―――あばよ。」
「ジストラスの奴、逃がしゃあしねぇ!!」
「ここは通さねぇからな!!」
「・・・あの野郎には無理だぜ。お前らが思ってるようなことはな。」
「それでも、ジストラスさんは命をかけて!!」
「結局、無駄死にするのがオチよ。いいか?!
 もう、お前らの時代なんてもんは来ねぇ。
 軍部が潰れんのは今じゃねぇ。
 俺達・・・イガーアトルが最後に潰すんだからよ!!」







 (52日目昼)
「素直に通しちゃ、くれそうにないわね。」
 奥に大きな扉のある部屋まで俺達は上ってきた。
「シルバーガーゴイル・・・。」
「指名手配モンスターが見張りになってるなんてね・・・。」
 シルバーガーゴイルの目が開き、こちらをにらみつけた。
「ハンティング・・・開始。」
 行動を開始した瞬間、シルバーガーゴイルが、電撃を放った。
「う、うそっ!!」
 シーナの右足を電撃が直撃し、シーナは動けなくなった。
「シーナ!!」
「こ、こんな、早くに・・・!!」
「よくも、シーナさんを!!!」
 マーシャがロッドで攻撃したが、硬い体にはじかれた。
「マーシャ、よけろ!!」
 俺は、氷の矢を放った!!それと同時に、ルアートの凍える風が吹きぬける!
風が収まった時、そこにはマーシャの姿がないことを確認した。
 シルバーガーゴイルは、相当ダメージをくらってるようだった。
「・・・ルアート、一気にたたくぞ!!」
 ルアートは一直線にシルバーガーゴイルにかけより、雷を落とした!!
「・・・ルアートって、こうまで、強いのね。」
「シーナ?!お前、大丈夫なのか!!」



 すぐ駆け寄ってくれたマーシャのおかげで、だいぶ楽になってた。
「アーシェル、少しは、役に立ちなさい・・・」
「アーシェルさん!!!」
 シルバーガーゴイルの奴が、アーシェルに向かって、衝撃波を放ったわ!!
前にいたルアートを直撃した。アーシェルは、飛んできたルアートを
なんとか手で捕まえて、必死にそれをかがんで耐えてた。
 とうとう、シルバーガーゴイルの奴は、地面から離れて、自由になった右腕に
もってるソードを振り回して、アーシェルの方によってきたわ!!
「アーシェルに接近戦は無理よ!!わ、私が!!」
「ダメです!!動かないでください!!」
「うっ・・・。」
 シルバーガーゴイルの奴のソードが、アーシェルの目の前をかすったわ!!
アーシェルは後ろに下がって、それをよけてた。
 でも、シルバーガーゴイルは、アーシェルの目の前で・・・。
「ぐあぁっぁぁっ!!!」
 ソードから電撃がまっすぐアーシェルに直撃したわ!!
「ダメです!!まだ、ダメです!!!」
「シーナには、負けるだろうがな・・・。」
 アーシェルの奴は、この距離で、シルバーガーゴイルの奴にアーチェリーを向けた!!



「くらえっ!!」
 モンスターが中心に押し戻されました!!
「アーシェル、待たせたわね。」
 シーナさんは、私から離れて、アーシェルさんの横にいました。
「もう、大丈夫なんだな?!」
「何度も言わすんじゃないわよ!!一気に片付けるわ!!」
 シーナさんが飛び出しました!!それを、アーシェルさんが追いかけました。

 私には、それからの2人の動きが、とてもゆっくり動いてみえました。
まるで、時間の流れが、とても遅くなってしまったみたいに。
 シーナさんの構え方は、もう、何度も見ていたので覚えています。
クロスブレイカーをかけようとしていました。

 だんだんと、モンスターとの距離がせまくなっていきました。
アーシェルさんは、気付いて、だんだんと走るスピードをおさえました。
そして、手を伸ばして、シーナさんを止めようとしていました。
 それでも、シーナさんは、まっすぐ、進んで・・・。

「シーナッ!!」



 俺は、シーナに近寄った。ナイフは直撃し、シルバーガーゴイルは、
音もなく崩れ去っていたが、シルバーガーゴイルの放った衝撃波を、
シーナは、至近距離でまともにくらっていた。
「お、おい・・・、どうしたんだよ・・?!」
「シーナ・・さん!!」
 シーナは、何も答えなかった。
「しっかりしろ、おい、シーナ!!!」
「キュアっ!!」
 マーシャの青い光に包まれても、シーナは微動だにしなかった。
「う、嘘だろ・・、おい、何か答えろ!!シーナ?!」
 マーシャは、キュアをやめて、シーナから離れた。
「マーシャ・・・?」
「アーシェルさん。・・・後の事は、よろしくお願いします。」
「な、何・・・言ってるんだ?」
 マーシャは、静かに目を閉じ、ライトロッドを強く握った。
「・・・・神よ!我が願いを聞き届けよ!
 迷える魂を呼び戻す力を我に与えよ!!
 そして再び生命をもつ力をシーナに与えたまえ!!!!!
 リバイバル!!!!!!」

 マーシャとシーナを、激しい光が包み込んだ!!
「・・・マーシャ!!ど、どうなってるんだ!!!」
「シーナさん!!!お願いします!!!・・・戻ってきてください!!!!」



 ただ、俺の周りを支配していたのは、沈黙だけだった・・・。
「・・・シーナ?」
「―――。」
「おい、シーナ!!返事をしてくれよ!!」
 俺の声だけが、部屋の中に響いた。
「マーシャ、・・・マーシャ!!」
 シーナとマーシャは、そのまま眠り続けていた。
「―――くそ・・、俺は・・・何も出来なかった・・・。」

 俺は、2人をどうすることもできない。
だから、俺は、再びアーチェリーを手にして、立ち上がった。
「マーシャは、俺に後のことを、任せた・・・。
 それなら、・・・俺は、奴等を止める!!」

 俺は、ドアへと駆け寄り、それを一気に開け放った!!

「ガーディア!!!」

 俺の声は、恐らく、誰にも届かなかった。
 俺は、眼下に広がっている光景をただ、呆然と、
見ていることしか、出来なかった・・・。






 (52日目夕方)
 ディシューマの兵士・研究員、そしてガーディア達が、ディッシェムを取り囲んでいた。
「・・・ご苦労・・・、よい、データを取らせてもらった・・。」
 ディッシェムはうなだれたまま、何も答えなかった。
「もう、答える、気力もないか・・・。」
「・・・役に立ってもらったが、もう・・・ここにある飛行艇と同じ、
 ・・・利用価値のないただの廃材・・・・。」

「今、ここに、本当の力を完成する・・・・。」
「―――本当の力・・、だと?」
 セーシャルポートで聞いた言葉をガーディアが口にしていた。
「・・・我々は、・・・この崩壊しかけている世界を、
 我々の偉大なる国―――ディシューマの元に統治する!!
 絶対の力のもとに!!!」

「―――おまえらに・・・、そんなこと・・・出来るわけ・・・、ねぇだろ・・・。」
 ディッシェムは意識のないままに話していた・・。
「・・・まだ、・・意識が残ってるのか?」
「いえ、すでに意識レベルで麻痺を起こしています。
 ・・・もはや、人間として思考する事自体不可能です。」

「・・・こんだけ、ぎせいを出しやがった・・・お前らなんかに・・・何が・・。
 お前らは、・・・まだ生きる事が出来た、奴らを・・・見殺しにして、
 ・・・権力だけで、この国をメチャメチャにしやがった・・・・。」

「―――寝言のわりには、大きな口をたたくな・・・。
 ・・・おい、こいつの思考能力を限界まで低下させろ!!」

「し、しかし、・・・す、既に、動物以下の感情しか持たぬレベル・・・。」

「そうか、感情だけで・・・か。」



 ガーディアが立ちあがりやがった・・・。
「・・・感情など、殺し屋には必要ない。ただ、冷酷な心のみあればいい。
 それを持たないのは、ただ1人、この役立たずだけだ。」

 ガーディアの野郎は、立てかけられていたバズーカを俺に向けた・・・。
「・・・もはや、粉々になってしまえば、生きてはいけまい・・・。」

「待て!!!」

 そこにいた連中は、残らず全員、入り口の方を向いた。
「・・・何者だ!!」
 そこにいる野郎を、俺はかすむ目で見た。だが、俺はそいつの顔を忘れちゃなかった。
「お前は、ジストラス!!」
「―――ジストラスだと?!」
「・・・冷酷な心だけが、殺し屋だと?・・・冷酷な心を持ってるのは、
 テメェらの方だろうが?!・・・殺し屋なんてなぁ、人間のする事じゃねぇ仕事が
 まかり通っちまうような世の中を作ってきたのは、テメェらじゃ、ねぇのか!!」

「・・・銃撃程度では、死なないか・・・。その体力と回復力だけは、驚嘆に値する。
 だが・・・、おまえは、既に殺し屋ではない・・・。
 この世界で生き残れなかった、いわば敗者だ・・・。」

 すかさず、全員がショットガンをジストラスに向けた!!
「いいか!?同じ、殺し屋だったディッシェムがどうなろうと、
 知った事じゃねぇ・・。・・・だがな、テメェらが、どうのこうの出来る事か?
 ただ、黙って見てやがれ!!・・・俺が、こいつにふさわしい殺し方をしてやる!!
 ―――俺を殺すか?!悪ぃが、このままじゃ、死にきれねぇ!!
 俺がこいつの息の根を止めてからにしろ!!!」

「馬鹿な男・・・、殺ってしまえ!!」
「許さねぇ!!!!!」



 それからは一瞬の出来事だった・・・。ジストラスは、一斉にショットガンで、
射撃されたが、突然、その背後からあの殺し屋が現れ、
ジストラスの息の根を誰よりも速く止めていた・・・。
 あまりにも一瞬の出来事に、誰もがあっけに取られている時だった。
それは、突然現れた。どんな影よりも暗い、その影が現れ、
ディッシェムの元に近寄り、あっという間に、ディッシェムを連れ去っていった。

 だが、俺には、ここまでしか見る事は出来なかった。
この一瞬の出来事の間に、俺の意識はどんどん、遠ざかっていた。
 ディシューマの研究員達が、事の次第に気づいたのは、
俺の背後から、何者かが、俺の感覚を麻痺させ、
その場から誰にも気付かれることなく、俺を捕らえ、連れ去ったしばらく後だった。
 その間、静寂だけが、辺りを支配していた。



 俺が気付いた時、辺りは、もう、暗くなりかけてた。
体中が、もう、痛みも何も感じなくなっちまってた。
 きっと、俺は、死んじまったんだ。そう、思ってた。
 もう、俺は・・・終わったんだ。
 だが、ほんの少しだけ、俺には、感じる事ができた。
吹き抜ける風の冷たさ、いつまでも鼻にまとわりつく、鉄のにおい。
 そして、俺の体に伝わる、振動・・・。
 俺は、周りの風景が、動いていることに気付いた。
そして、それらが、みんな、俺の覚えのあるものであることに。
 間違いなく、俺は、まだ、ディシューマにいた。
そして、俺は、・・・まだ、生きていた。



 もう、辺りは、真っ暗になっちまった頃、
俺の目の前で流れてた、風景が止まっちまった。
 俺の目も、耳も、もうぼんやりとしか言うことを聞いちゃくれなかった。
でも、ただ、俺は、何か、なつかしい気分になっちまってた。
「・・・あなたは。」
「―――。」
「まさか・・そ、それに!!」
「すまない、よろしく・・・頼む。」
 俺は、ゆっくりと、冷たい地面に下ろされた。
「はい。」
「・・・。」
 声も、においも、・・・俺は、覚えてた。
「また・・・あなたは、去っていくんですね。」
「・・・。」
 俺は、もう、ねむくなってきちまってた。
自然と、心が落ち着いてくるような、そんな感じになった。
「私には、・・・あなたを、止めることは、出来ないのですね。」
「・・・僕は、・・・もう、行かなくてはならない。」
「はい。」
 俺は、もう、眠っちまってた。
これは、俺が見てる、ただの夢じゃあねぇのかとも思った。
だが、そうじゃねぇことを、望んじまってる俺も、そこにはいた。
 だが、俺が、次に目を覚ました時、そこにあるもんが、何であろうと、
俺は、・・・まだ、生き続けてるってことに、変わりはねぇんだ・・・。


2003/11/03 edited by yukki-ts To Be Continued. next to