[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第3幕― 第16章

 俺はこれまで、殺し屋として生きてきた。
これまで、数え切れねぇくらいの、モンスターや、
・・・人間の息の根を、このスピアで止めた。
 そんな人間の中にたまに、死ぬ直前に、今までの思い出だとか記憶が、
目の前を通り過ぎてくっていう奴がいた。
 今の俺は、ちょうど、そんな感じだったのかもしれねぇ・・・。



「今日も、性懲りもなく来やがったのかよ?!」
「このあいだの借りは、しっかり返してやるから、かくごしてろよ!!」
「おまえたちも、アトルに手なんか出すの、やめればいいだろうに。」
「うるせぇ!!男の子がやられたままで、だまってられるかよ!!なぁ、ドミー!!
 この前のお返しを、きっちりしてやろうぜ!!」

「威勢がよさは褒めてやらぁ。だけど、お前らじゃ、アトルさんにゃ勝てねぇよ。
 ・・・イガーさん、そいつらに、例の奴やってやれ。」

「おまえたちでは、アトルには敵わない。だから、これがせめてもの情けだ。」
「しびれ薬なんか、・・・効かないよ。」
 ドミーは、魔法の力で風をおこした。前に一度戦ってから、
必死に考えた作戦だった。あの野郎の仲間の1人、イガーって奴の
薬のせいで、前ん時は何もできないまま、やられちまったんだった・・・。
「学習はするみたいだけど、その程度じゃ、だめだな。」



「しまった!!ひ、左手が・・・うごかねぇ!!」
「ディッシュ?!」
「わずかにでもこの薬が体に入れば、おまえは動けなくなる。」
「へ、片手でも、動くだけで十分だ!!行くぜ!!」
 俺は、スピアを右手に持って奴らのところに走ってった。
「そんな長いスピアを、片手だけで、おまえみてぇなガキが扱えるかよ?!」
「・・・じゃあ、ためしてやらぁ!!」
「どうせ、口だけ―――」
 俺は、スピアで思いっきりそいつを突いてやった!!
そいつは、ナイフを取り出して防ぎやがったが、俺は、すぐに、
もう一撃くらわせてやった!!
「どうだよ?!・・・文句あんのか?!」
「こ、こいつ・・・やりやがったなぁ!!」
「近寄るんじゃない!!」
 イガーって奴が、急にそう声を上げやがった。
「ディッシュ!!そこを離れて!!」
「な、何?!」



 もう遅かった。俺は、眠り薬の中心に立っちまってた。
「少しでも吸ってみろ・・・。すぐに、一歩たりとも動けなくなる。」
 俺は、すぐにそこから抜けて手前にもどった・・。
せきがなんども出てきた・・・。だんだん、目がかすんできやがった。
「こいつは、もうだめだな。・・・おい、そっちの野郎。俺が、やってやらぁ!!」
「・・・ド、ドミー。」
 そいつは、俺を無視して横を通り過ぎていきやがった!!
「ショートソードか。俺とやろうってんだな。上等だぜ。」
「く・・・さ、させるかよ?!」
 俺は、とにかく、ドミーのとこに向かって走った!!
そいつは、ドミーと目が合った瞬間に、斬りかかった!!

「―――手は、抜いてあげたから。」

 そいつは、急に心臓に手を当てて、倒れこみやがった・・・。
だけど、血が出てないどころか、服も切れちゃあなかった。
「ディッシュ・・・。」



 ドミーと俺は、そいつらに囲まれてた・・・。
「2人、・・・やってやったぜ。」
「こいつら、俺らに喧嘩売ったことの、意味をわかってねぇのか?!」
「ただじゃ、すませねぇからな!!」
 最初に、動きやがったのは、ドミーと、イガーって野郎だった。
「争いは好きではない。だが、そうも言ってられない。お前は、私が相手になろう。」
 まずイガーの野郎が仕掛けやがった!!ドミーはかわしたが、
イガーのナイフが、ドミーの腕をかすった!!
「お前は、そこのガキよりは、面白い戦いが出来るな・・・。」
 俺は、その言葉にブチ切れちまった。
「て、てめぇら!!ボサっとしてんじゃねぇぞ!!」
 俺は、スピアを振り回して、周りでぼけっとしてる奴らに食らわしてやった!!
「まだ動きやがるのか?!こいつ!!」
「お前らじゃ、俺の相手になんざ、ならねぇのよ!!!」



 それから2人の奴にスピアを突きつけたときだった。
俺は、あの野郎―――この俺を負かしやがった野郎がいることに気付いた!!
「て、てめぇ!!!」
「アトル?!」
「イガー?こんなとこで何してやがるんだ?」
 イガーの野郎は、ドミーに毒薬をばらまいて、アトルの奴のとこに戻りやがった。
「てめぇには、会いたかったぜ。やっと、仕返しができるんだからよ。」
「イガー、・・・このバカ野郎は、俺になんて言ってやがるんだ?」
 俺は、アトルの奴のところに向かって走った。
目の前まで行ったときに、急に、しびれと眠気と吐き気が一度におそってきやがった!!
「こんなざまで、俺に何しようってんだ?!」
 アトルの奴が動けなくなっちまった俺のとこまで来て、
思いっきり腹をぶち蹴りやがった。
「痺れ薬も眠り薬もまともに吸った。それに、気付いてないかもしれないから、
 言っておくが、足に毒液をぬりつけたダガーを刺して置いた。」

 俺は、その時、右足がムチャクチャ痛み出したのに気付いた・・・。
「そうかよ。この様じゃ、仕返し・・・されてやれねぇなぁ・・・」
 アトルのかかと落としをまともにくらって、俺の口から血があふれてきやがった。
「ドミー・・・」
 ドミーが、俺の背後に来てた。あの傷口からドミーも毒をくらったみてぇだった。
「こいつらに手ぇかけたみてぇだなぁ、お前。・・・俺が、直々にぶっ殺してやらぁ。」
 アトルの奴がまた俺の方に向かってきやがる。次に攻撃されりゃあ、殺されちまう!!
俺は、気力をふりしぼって、野郎が近づいたギリギリのところで、スピアを振り上げた!!
「・・・まだ、動きやがる・・だと?!」



 体中を、熱い何かがぐるぐるまわってやがるみたいだったけど、
俺は、まだスピアを持ってた。・・・もう、しゃがみこんじまったままだったが。
「ぶっ殺してやるのは・・・俺だよ。くらわして・・・やったぜ―――。」

「―――このバカ野郎は、威勢はいいが、何も考えずに突き進むだけのクソだ。
 ・・・だが、おめぇ程、スピアが扱える野郎は、――― 俺らの手下にもいねぇなぁ。」

「そこのもう1人は、そっちの奴よりは考えるみたいだな。それに・・・、
 ―――持ってるショートソードは、常に、私達の心臓のみを・・・狙っていた。」


「ちょ、ちょっと・・・な、なにやってるの?!あんたたち!!」

 俺の記憶はそこで一度途切れちまった・・・。






 ガキの時の記憶の後に、俺は、殺し屋になったばっかの時のことを見てた・・・。

「ディッシュ・・・。」
 俺とドミーはレイティナークの街にやってきてた。周りは目つきの悪い野郎
しかいなかった。そのどいつもが、このディシューマの殺し屋どもだった。
「おいおい、そこのガキが・・・まさか、殺し屋になろうってんじゃねぇだろうな?!」
「けっ、なめられたもんだぜ。・・・ガキにつとまるかよ。」
 そいつらの1人が、俺の足をひっかけやがった!!俺がつまづいたのを見て、
そいつらはいっせいに、はやしたてやがった。
「おいおい、どこ見てあるいてんだぁ、ガキ?!」
「もっと、下見てあるかねぇと、まぁたこけちまうぜ。」
「バァカ、下ばっかみて、間違って来ちまったんだろ?
 出口は、あっちだぜ、けけけ!!」

 俺は、そんな野郎どもには見向きもしなかった。こんな野郎どもと同じ仕事を
するって思っただけで、吐いちまいそうだったけど、俺は、我慢した。
「お、おい・・・あれが、噂の連中か?!」
「イガーアトルってスラムのガキだろ?・・・ヤバいって聞くぜ。」
 イガーやアトルの奴等も、結局俺らと同じ時にここにきたみてぇだった。
―――だいたい、最初に、俺らに殺し屋のことを言い出したのは、アトルの奴だった。



 あれから、俺とドミーは何度かイガーとアトルの奴が仕切ってるスラムに行った。
「ちくしょう・・・。なんで、俺らを、よびつけたりしやがった?!」
 最初は、俺とドミーが孤児院の前にいた時、アトルの野郎の手下が、
俺らにちょっかいをかけてきやがった。野郎どもが、このスラムにまで案内しやがった。
「あんな孤児院でぬくぬく過ごしてる野郎どもには、わかりゃしねぇよ。」
「てめぇ?!やんのかよ!!」
「ディッシュ!!」
 イガーの奴が、両手になんかの薬が入ってる袋を持ってんのを、ドミーが俺に教えた。
「そうよ。お前は、おとなしく話をきいてればいいんだ。」
「・・・ちくしょう、・・・何のつもりだよ?!」
「俺はなぁ、おめぇみたいな野郎見てると、・・・ブチ殺したくなるのよ。」
「人がおとなしく聞いてりゃあ・・・。殺ってやろうか?!」
「一度でも考えた事があるか?・・・親も、住むとこも、金もみんななくしちまった、
 ―――おまえらみてぇに、孤児院にもいけなかった奴等がどう思ってんのか?
 ・・・こんなスラムに、肩をよせあって助け合いながら生きてく奴等の気持ちを?!」

 俺は、まさかそんな言葉を、あのアトルの野郎から聞くとは思ってもなかった。
「・・・お前らは、あの孤児院の女に拾われ、俺らは、拾われなかった・・・。
 俺らの周りにいた野郎は・・・どいつもこいつも、
 ズル賢い、汚い大人ばっかだった。」




 俺は、黙ってた。アトルの野郎の言い方に圧倒されちまってたってのもあったが、
それ以前に、アトルやイガー、他の連中が、どう思ってるかなんて、俺には、
とても、想像なんかできやしなかった・・・。
「ちっ、わかりゃあ、しねぇよな。クソどもが。」
「・・・き、来たければ、来たらいいじゃねぇか。」
 アトルの奴が俺の方に一歩近づいてきやがった!!
「―――簡単に言うんじゃねぇ。何にも頼れねぇ、誰も信じられねぇ。
 大人どもに裏切られちまった奴等は、どいつも、そう心の中で決め付けてんだ。
 ・・・だから、俺らは、俺らだけで生きてきた。盗み、脅し、なんだってやった。
 もう、今更・・・他の奴なんかに、頼れるか?!」

「こんなスラムでも、私達にとっては、ただ1つしかない、帰る家だ。」
「・・・言いたいことは、それだけかよ?」
 俺は、口ではそう言ってた。けど、親を亡くして、1人になっちまった奴は、
今までずっと、みんな、孤児院にいるんだとばっか思ってたのは、本当だった。
 俺らとこいつらが、同じ境遇にあるってのに、こんな違うってことに初めて気付いた。
「おめぇらは、知らねぇんだよ。俺らが、どれだけ、大人どもを憎んでんのか。
 どれだけ、復讐してやりてぇのか。・・・俺らにこんな苦しみを味あわせやがった、
 あの大人どもに、どれだけ、思いしらせてやりてぇか!!」


 奴にそう言われて、俺の頭に最初に浮かんだ奴は、―――リサの奴だった。
いつも、俺には怒鳴ってきやがるし、あいつが俺を見れば、必ず面倒に巻き込まれる。
だが、リサは・・・、アトルの言うような奴だとは、俺には・・・思えなかった。

「なんで、そんな・・・お前は、大人を憎んでんだよ?」



 アトルの奴が急に逆上して、俺の目の前まで来た。それから、
俺の顔を、右手で思いっきり殴ってきやがった!!
「頭ん中まで腐らせやがって!!聞いたことねぇのかよ?!
 みんなぶち壊しやがった奴等が、『悲劇』だとかぬかして、
 責任のがれしてんのを!!
 『悲劇の少女』だとか言う奴のせいにしてやがるのを!!」


 悲劇―――リサが何度か言ってるのを聞いた事があった。3年前のあの出来事・・・。

「そんな奴、見た事も、聞いた事もある奴なんて、いねぇんだ。いるわけねぇ!!
 奴等が―――グロートセリヌを潰した野郎どもが、でっちあげたんだからなぁ!!」

 グロートセリヌ・・・。俺は、誰よりも、その国の名前を知ってる。
グロートセリヌの傭兵隊長―――かつて英雄と謳われたのは、俺の親父だ・・・。
「今はまだ無理かもしれねぇ。だが、俺はやる。奴等に地獄を見せてやる。」
「私は、争いは好きではない。だが、思いは、アトルと同じ・・・。」

 アトルの奴が俺の目の前で、顔を下に向けた・・・。
「―――お前らの・・・力を、借りたい。」
「・・・な、何を、言いやがった?」
「何度もいわせるんじゃねぇ・・・。お前らの力を、貸して・・・欲しいんだ!!」
 俺もドミーも黙ったまま、アトルの奴を見てた。
「いつかは、・・・やらなくては、ならないんだ。」
 俺は、すぐには、どうとも返事することが出来なかった・・。
「・・・でも、どうやって、そんなこと・・・やんだよ?」
 アトルは、顔をゆっくり上げて、立ち上がったあと、最初の場所まで戻った。

「俺らは、・・・レイティナークで、殺し屋になる・・・。」

「殺し屋・・だと?」
「いつまでも、このスラムにいるわけにはいかない。生きてくためには、
 ・・・そうするしかない。―――最初は、奴等の言いなりになるふりをする・・・。」

「―――そして、いつか・・・野郎どもを、この手で!!」



 ディシューマ軍の奴が出てきた。
「これから、お前らを組に分ける。―――不服のある野郎には死が待ってるから、
 覚悟してんだな。・・・1組目からだ。」

 最初は、5人1組に分けられるみてぇだった。俺らの目の前で、
今まで仲間どおしでくっついてやがったいくつかの連中は、野郎の言葉1つだけで、
簡単にバラバラにわけられちまっていた・・・。
 組み分けは、14組目までで終わりやがった。

「―――おめぇらが、俺と一緒の野郎どもだな。まぁ、いい。
 俺は、ジストラスってんだ。足、引っ張る野郎は、同じ組だろうと容赦しねぇからな。
 ・・・テメェら、1人ずつ、俺に名を名乗りやがれ・・。」

「ちっ、アトルってんだ。覚えてろ。」
「・・・イガーだ。」
「ドミアトセア・・。」
「―――ディッシェム=フランシス。・・・足なんか、誰が引っ張るかよ。」






 最初の頃は、意外と俺達いいんじゃないのかって思ってた。
けど、あの指令書が、俺達がバラバラになっちまうきっかけになった・・・。



「テメェら・・。俺らが、こんなこと―――やるとでも、思ってんのか?!」
 指令書を見て、最初にブチ切れたのは、アトルの奴だった。
「やらない・・・そういう気か?」
「やる、やらねぇとか、そういう問題じゃねぇだろう!!どういうことだよ?!
 俺らのスラムに・・・軍部のスパイが紛れ込んでやがるだと?!
 ふざけんじゃねぇ!!そんな奴が、いるわけねぇだろう!!」

「―――身に覚えがねぇってんなら、グダグダ言わずにやりゃあいいじゃねぇか。」
「俺に、奴等一人一人を疑えってんのか?!誰も信じてないみてぇじゃネェか!!」
「アトルの方は知らない。だが、私の手下だった者に、手出しするというのなら、
 ・・・私も、黙って見てるわけにはいかない。」

「もう、おめぇらは―――殺し屋なんだろ?スラムの頭だったんだかどうかなんて、
 今の俺達に関係ある問題じゃねぇ。軍部の連中は、
 そいつを殺せと命じやがったんだ。」

「でも・・・もし、それが・・・本当だったら?」
「そいつらを・・・殺しゃあいいんだろ?」
「軍部のことだ。そうともなれば、嬉々として私やアトルにも嫌疑をかける・・・。」
「軍部の野郎は、俺らのスラムを目障りだとしか見ちゃいねぇ。」
 イガーとアトルの奴は結局、自分から罠にはまりにいくのなんてごめんだ、
みてぇな感じで、この仕事を放棄しようとしてやがった。
「―――なら、他の殺し屋連中に殺らすんだな?奴等ん中には、
 見境なくぶっ殺す奴もいらぁ。なんたって、イガーアトルのスラムなんて、
 危なっかしいもん・・・潰してぇ野郎は、軍部だけじゃねぇからな。」

 イガーとアトルは立ち止まって、黙り込みやがった。



 イガーアトルのスラムの前まで結局5人で戻ってきちまった。
「・・・自分が、何者かなんて忘れちまえ。いいな。」
 黙ったまま、俺らはスラムの中に入った。
「こっちだ。テメェら、来い。」
 アトルの奴は、早歩きで奥の方まで俺らを連れてきやがった。
「あ、アトルさん?」
「どうされたんすか・・こんなとこで・・・。」
 アトルの奴は、しばらく黙ってやがったが、そいつらに答えた。
「・・・ここは、俺らのスラムだろ?そうだ、おい・・・、奴は、どこだ?」
「奴・・・?」
「はい、こっちです、案内しやす。」
 そいつに連れられて、俺らはある部屋に案内された。
「わりぃな・・・。お前らには、苦労以外、なんにもかけちゃねぇんだからよ。」
「いいっすよ。ゆっくりしてってくだせぇ。」
 アトルは、扉を開けやがった。

「・・・ヴァルゼッタ。」
 部屋ん中にいた奴を見たのは、今日が初めてだ。でも、名前は知ってる。
アトルの野郎の右腕って呼ばれてやがる奴だ。
「久しぶりだなぁ、兄貴よぉ。―――そっちの、連中は?」
「・・・なんでもねぇよ。・・・気にすんじゃねぇ。」
「―――殺し屋だろ、兄貴。」
 その声に、俺らは殺気を感じちまってた。
「なんでもねぇっつってんだろうが?・・・ぐだぐだ抜かすんじゃねぇ。」
「・・・アトルの兄貴。何が・・・あったってんだ?」
「帰ってきた・・・。そんだけだ。」
 よくわからねぇけど、こいつらの間で会話は成立してるみてぇだった。
「・・・俺は、ここを捨てたわけじゃねぇんだ。いつんだって、戻ってこれらぁ。
 ―――軍部の連中を、たたきてぇのはおめぇらだって一緒だろ?
 だが、・・・今は、俺らがやってんだ。・・・手ぇ貸して欲しいときゃあ、言うからよ。」

「あぁ、アトルの兄貴よ。・・・俺らは、そういうつもりで、
 兄貴を、送ったんだからよ。心配なんか・・・しねぇでくれ。」


 急に、下が騒がしくなりやがった!!
「な、何が来やがった?!」
「まさか・・・他の連中が来た?!」
「ちくしょう!!俺は、行くからなぁ!!」
 アトルとヴァルゼッタの奴が走っていきやがった。その後をイガーも追いかける!!
「おい、ディッシェム。いらねぇことを考えるんじゃねぇ。」
「追いかけネェのか?!」
「勝手な行動を・・・すんじゃねぇ。―――俺らは、先に行くぞ。」
「・・・なんだと?」
「ムダに時間を費やしてる連中に用はねぇ!!
 奴等よりも早く仕事を遂行する!!」




「て、テメェらぁ!!よくも、殺りやがったなぁ!!」
「ヒャヒャヒャ。ジストラスのバカ野郎を葬れる上に、そのついでに、
 イガーアトルのスラムで殺しまくれて、金まで頂けるたぁ、
 笑いが止まらねぇぜ!!」

「ついで・・・だと?!」
「おっと、口が滑っちまったぜ。まぁ、全部、あの野郎が招いたことだけどよ。
 教えてやろうか・・・?あいつがどういう野郎かをよ、ヒャッヒャッヒャッ・・・。」




「・・・ど、どうして―――?」
「な、・・・なんで・・・お、おまえが・・・こんなこと・・・。」
 俺らはそいつらをベランダに追い詰めてやった。最初は抵抗しやがったが、
軍部の極秘資料を間違いなく隠し持っていやがった。だが、なんか様子が妙だった。
「ジストラス?!何してやがる!!早く殺りやがれ!!!」
「・・・お、俺には・・・で、出来ねぇ。」
「な、何・・・言ってやがる・・・?」
 そいつらは、突然、ベランダから飛び降りて、下の階に行きやがった!!
「逃がしちまった!!追いかけるぞ!―――ジストラス、何してやがる?!」
 下の階で追いついたときには、もう、他の殺し屋連中に囲まれていやがった。
「この野郎だぜ・・・、間違いねぇ。軍部の資料を隠し持ってやがった。」
「この階に逃げてきちまったのが、運の尽きだぜ。殺ってやらぁ!!!」
 そいつのナイフが、そいつらを切り裂く寸前だった。ジストラスの奴だった。
「・・・なんだ、ジストラスの野郎?・・・かばうってのか?!」
「おめぇらに―――こいつを、殺らせや・・・しねぇ。」
「裏切りやがったなぁ、ジストラス!!お前が・・・オメェが、
 そいつらと、グルだってな!!!―――許せねぇ。
 貴様のせいで、俺らの、手下どもは・・・!!」

 アトルとイガーの奴らは、完全にキレてやがった。

「・・・ちくしょう。そういう・・・ことかよ。わかったぜ!!!」
 ジストラスは、ロングソードで、背後の殺し屋をなぎ払う!!
何を思いやがったのか、その合間から、その2人を逃がしやがった!!
 そいつらは、俺らの方に向かってきやがった。
「ディッシェム!!ドミアトセア!!!見逃して・・・やってくれ!!!」
 俺は戸惑っちまってた。どんな事情があろうと、殺し屋は、殺さなきゃなんねぇ。
それは、奴自身が言ってやがったことだ。―――そいつらは、俺らにマシンガンを向ける。

 すれ違い様に、俺とドミーは、言ってみれば本能的に、そいつらを殺してた。






「新人の2人が、・・・手柄を立てるたぁなぁ・・・。」
 報酬を受け取りに行ったのは、結局、俺とドミーだけだった。
「ディッシェム・・・それに、ドミアトセアか。
 スパイの野郎は、どっちも、心臓をぶち抜かれて死んでいやがった。
 ・・・テメェら、・・・ただの新人じゃねぇな。」


 それから、しばらく俺らは、2人だけで仕事を続けてたんだ。
あとの3人とは結局、会うこともなかった。

 ―――待ち望んでたことが起こりやがった。軍部の連中が俺らを呼び出しやがったんだ。
「お前らが、我が軍部の機密情報を盗み出したスパイを殺した、新人の殺し屋、
 ―――ディッシェムとドミアトセア・・・か?」

「ああ。そうだぜ。」
「新人にして、これ程の働き・・・。お前らの力は、高く評価されている。
 ・・・異例のことだが、お前たちを今日より、――― 一流殺し屋見習いとして、
 軍部直属の殺し屋として働いてもらおうと、思うのだがどうだね・・・?」


 顔で笑いながら、俺がこの時、心ん中に冷静さって奴を持ってれば・・・、
軍部の連中に復讐してやるって最初の目標を忘れるわきゃなかったんだ。
今、思ってみれば、こん時に、こいつらの魂胆に気付いてりゃあ、よかったんだ。
 俺は、有頂天になってやがったんだ。



 周りの奴の視線が、明らかに変わりやがった。
「ディッシェム・・・。」
「あの野郎が・・・一流殺し屋だと・・?!」
「ふざけんじゃねぇ・・・。」
 俺は、そんな奴等の言葉なんか、無視して、ただ、軍部の命令に従って生きてきた。
いつのまにか、ドミーとも別行動になっちまって、会うこともなくなっちまった。
・・・いつの間にか、俺は―――ひとりになっちまってた。
 最初の頃は、「ふざけてんじゃねぇ」だとか「なんでテメェが一流殺し屋なんだよ」
とか、そんなこと言ってた野郎どもも、いつの間にか、俺の事を、
殺し屋として腕の立つ野郎だって、認めてきやがったみてぇだった。
 レイティナーク中で、もう、俺の名を知らねぇ野郎はいないとまで言われてた、
・・・そんな毎日が続いてた、ある日に、俺は・・・噂を聞いちまった。

―――最近、大きくなってきやがった、2つの対立するスラムのことを・・・。



 ジストラスの奴の噂は、俺らが一流殺し屋になったころによく流れてた。

「ジストラスの野郎―――追放されたってよ。」
「そりゃ、そうだろ。殺しの標的をかばうんだからよぉ・・。」
「なんつったって、あの標的―――1人は、
 あの野郎の実の妹だったって話じゃねぇかよ。」

「しかも、長い間、失踪してやがったんだって。」
「そりゃ、殺せねぇぜ。鬼でもねぇ限りよぉ。」
「・・・まぁ、おかげさまで、邪魔な野郎もいなくなったってもんよ。」
「―――あの軍部の野郎にしちゃあ、めずらしく、気の利いたことやってくれたぜ。
 ありゃあ、全部・・・軍部の策略って奴だからよ。」

「唯一、納得いかねぇのは、あのガキ二人が、一流殺し屋なんかになりやがった事
 くらいか。・・・まぁ、いいぜ。どうせ、そのうちのたれ死ぬだろうからな・・・。」

「どうでもいい・・・。軍部どもの犬に成り下がったふりしてりゃあ、
 いくらでも、いい目見れるんだからよぉ。ヒャッヒャッヒャ・・・。」


 この腐ってる野郎どもを、どこかで納得しちまってた、俺は、
もう、こん時には、どうかなっちまってたのかもしれねぇ・・・。
 そうでもなけりゃ―――普通の人間なら、あの2人みてぇにしてたはずだ・・・。



「・・・一流殺し屋さんかよ、・・・えらくなったみてぇだな。」
 あれからだいぶだって、イガーアトルのスラムは、もっとデカくなっちまってた。
仕事の途中、俺は、偶然イガーやアトルに再会した。
「だけどよ、・・・あんまりいい気にばっかなってんじゃねぇぞ、お前も。」
「・・・いい気だと?・・・俺は、テメェが言ってたみてぇに、
 いつの日か、軍部の連中に復讐してやるために、今は奴等の言いなりに―――」

「人間はな、・・・そんなに、よく出来てはいない。
 あの場所にい続ければ、いつかは、人間のクズになる・・・。」

「俺達は、気付いたのよ。・・・所詮、軍部の命令で従ってる野郎どもも、
 軍部の奴と何にも変わってるとこなんかねぇ。
 自分の欲のままに、生きてやがる下種に変わりはしねぇってよ・・・。」

「この俺が・・・そうだっていいてぇのか?」
「―――もし自分で本当にそうだと思ってるのなら、
 私達が、この手で、お前を殺している。」

「オメェも・・・そんな奴に成り下がっちまったってのか?」
「・・・今は、そう見えるのかも、しれねぇな。」

 俺は、そう言って奴等と別れることにした。
そんな俺に、奴等は、後ろから話しかけてきやがった・・・。
「俺らは、俺らでやる。・・・テメェはテメェでやれ。」
「・・・軍部の連中に、言われてんだ。・・・スラムの連中には、気をつけろってな。
 ホントに、言いなりにならなきゃなんねぇなら、―――いつか、俺は、
 お前らを・・・潰さなきゃなんねぇかもしれねぇ・・・。
 ここだけじゃなく、・・・あの野郎―――ジストラスのスラムも・・・。」

「そん時、・・・俺らが軍部を潰すってことを、覚えておくんだな。」
「それに、・・・あの男のスラムは、―――私達の手で潰す・・・。
 ・・・あの男は、許しておくわけにはいかない・・・。」


「ディッシェム―――いつまでも、腐るんじゃ・・・ねぇぞ。」
「次に会うとき、・・・殺しあうことがないことを、祈っている。」





 俺は、もう目を閉じちまうのをやめた。
誰かが、この部屋に近づいてきやがる足音を聞いちまったから・・・。
 こいつらに、もうすぐ、俺は―――処刑されちまう。
「『いつまでも、腐るんじゃ・・・ねぇ』・・・。」
 俺は、勝手に独り言を言っちまってた。
「『あなたが生きていることを・・・喜んでくれる人は、・・・いないの?』・・・。」
 最後に、標的にした野郎―――あの女は、
どういうつもりで、俺に話しかけやがったんだ・・・・。
「―――『私は、・・・あなたに、生きていてほしい。』・・・。」

 誰も苦しまなくたっていい。他人を苦しませても、・・・そこに平和は生まれない―――。

 一瞬だけど、そん時、俺は・・・まだ生きていたいと、ふと思っちまっていた。
だが、俺には、そう思うことは、・・・許されちゃ、いねぇ・・・。

 ―――足音が、目の前で止まりやがった。


 俺はこれまで、殺し屋として生きてきた。
これまで、数え切れねぇくらいの、モンスターや、
・・・人間の息の根を、このスピアで止めた。

 次は・・・俺の番―――。


2003/11/01 edited by yukki-ts To Be Continued. next to