[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第2幕― 第13章

 (41日目 昼)
 ふもとの集落(しゅうらく)、ウドルの様子(ようす)(たし)かに修行(しゅぎょう)施設(しせつ)(やつ)らが()ってた(とお)りだったわ。
「な、(なに)よ・・・これ。」
「ひどい・・。」
 集落(しゅうらく)人間(にんげん)は、(こわ)れた(いえ)修理(しゅうり)をしてたり、ケガしてる連中(れんちゅう)看病(かんびょう)してたり、
いろいろと(いそが)しく(はし)(まわ)ってたわ。
「この調子(ちょうし)じゃ、・・・ディメナの(ほう)じゃ、もっと・・・。」
「シーナさん、・・・大丈夫(だいじょうぶ)なのでしょうか?」
()ってみれば、わかることよ。」
 宿(やど)もいっぱいだったし、キャラバンも()てなかったしで、結局(けっきょく)(ある)いていくことにした。



「シーナさん・・・そろそろ、(おし)えてくれませんか?」
 (わたし)は、とうとう我慢(がまん)できなくなってそう質問(しつもん)してしまいました。
(なに)よ?」
「アーシェルさん・・・、(いま)、どうなっているのですか?」

()まるの面倒(めんどう)だから、(ある)きながら()いてよ。」

 シーナさんは、一呼吸(ひとこきゅう)おいてから(つづ)けました。
「このグラニソウルって(くに)はね、(いま)まで(ある)いて()てきたでしょ。砂漠ばっかりなのよ。」
「はい。」
「やっと()たここ、ディメナって()うんだけどね、ここだって、
 結局(けっきょく)砂漠(さばく)(なか)にあるのよ。ただ、オアシスがあって、(うみ)(ちか)くて、
 (むかし)は、結構(けっこう)にぎやかな(まち)だったんだってね。」

(むかし)・・・ですか?」
「マーシャは(おぼ)えてる?スフィーガルからこっちへくる(とき)(ふね)のこと。」
「・・・()たあとすぐのことなら、(おも)()せるのですが・・・。」
「あの(とき)も、(ふね)、すんごく()れたわよね?」
「ええ、はい。」
「ここ数年(すうねん)(うみ)がずっとあんな調子(ちょうし)なんだってね。
 もともと、(ふね)貿易(ぼうえき)して(さか)えてきたって(まち)なんだけど、その(ふね)もこんなムチャな
 海流(かいりゅう)じゃあ、まともに(かじ)()れないって・・・。
 (はなし)(もと)(もど)そっか。あいつ、アーシェルの(やつ)は、あの(あと)、ここについて、
 勝手(かって)1人(ひとり)で・・・、(おぼ)えてる?ゾークス隊長(たいちょう)()()いって(ひと)のこと。」

「サニータ・・・さんですよね?」
「そう。」
「シーナさんはどうして・・・?」
「あんたを(さが)してたんでしょ!!(なに)()ってんのよ、(まった)く。」
「で、でも・・・アーシェルさんは。」
()りたいのは(わたし)(ほう)よ。・・・ただね、あんたんとこへ()途中(とちゅう)
 なんか、ひっかかる(うわさ)()いちゃったのよ。」

(うわさ)・・・ですか?」
「・・そう、―――あ、もう(すこ)しよ、()えてくるわ・・・ディメナが。」
 そういって、シーナさんはその(あと)のことを()ってくれませんでした。



 (41日目 夕方) 左手(ひだりて)にはとてもきれいな夕焼(ゆうや)(いろ)()まっている(うみ)()えました。
そして、坂道(さかみち)(くだ)った(さき)()えたのは、とても(おお)きな(まち)とお(しろ)でした。
「さ、ここがディメナよ。」
(おお)きな(まち)ですね・・・。(わたし)、こんなに(おお)きな(まち)(はじ)めてです。」
「まぁ、とにかく、(まち)(なか)(はい)りましょ、それからよ。」

 (さか)(くだ)ってから、(わたし)想像(そうぞう)していた(まち)姿(すがた)とは、(すこ)(ちが)っていたことに気付(きづ)きました。
「・・・シーナさん?なんだか、ここ・・・。」
「まぁね。やっぱり()かるのね、マーシャも。」
 たくさんの(ひと)がいました。いろいろなショップもありました。
でも、なんだかみんなの(かお)は、とても(つか)れていました。
どことなく(くら)雰囲気(ふんいき)(ただよ)ってました・・・。
「こんだけ(ひと)がいれば、まぁ、すぐに復旧(ふっきゅう)できるわね。」
 盗賊団(とうぞくだん)(こわ)されてしまったお(みせ)とかも、ところどころ、いろいろな(もの)
ちらかっているところもありましたが、ほとんど修理(しゅうり)()わった(あと)でした。
「どうして、(みな)さん・・こんなに・・・(くら)いのでしょうか?」
「それだけ、ここの(くに)未来(みらい)(あか)るくないってことよ。
 ・・・マーシャ、とりあえず、こっちへ()て。」

「ど、どこへ()くのですか?」
()(みち)よ。どうせ、もう(くら)くなっちゃうし。明日(あす)にしましょ。」



 商店街(しょうてんがい)()けて、()()んだ路地(ろじ)()けて、私達(わたしたち)(みなと)()たわ。
「・・・ここは?」
「マーシャはそういえば、()らないのよね。いいから、ついて()て。」
 (わたし)は、ある建物(たてもの)(まえ)にやってきた。
「ここよ。」
 (わたし)とマーシャは、(かる)くノックしたあと、(なか)へと(はい)ったわ。
船長(せんちょう)(いま)ここにいる?」
「・・・お、(もど)ってきたか?!」
 私達(わたしたち)船長(せんちょう)は、テーブルについて(すこ)(はなし)(はじ)めた。
(うみ)様子(ようす)は、どうなの?」
「ますますひどくなってんな。もう、これ以上(いじょう)航海(こうかい)無理(むり)だろうな。」
無理(むり)?」
(かじ)がとれねぇなんて()ったよな、(たし)か。・・・もう、(ふね)がもたない。
 航海(こうかい)技術(ぎじゅつ)がどうのこうの()ってるだけじゃどうしようもねぇくらい
 海流(かいりゅう)(はげ)しくなっちまってる。どうかしちまってるぜ、(まった)く。」

「それじゃあ、・・・もう、私達(わたしたち)は、・・・(かえ)れないのですか?」
 船長(せんちょう)は、マーシャの(こえ)気付(きづ)いたみたいだった。
「おう!!突然(とつぜん)()なくなっちまうから、心配(しんぱい)したぞ・・・。
 そうか・・・なんとか、()つけられたみたいだな。」

「あんたたちのおかげでしょ。」
「それよりも、アーシェルさんは?!」
「アーシェル・・・か。・・・実際(じっさい)のところ、(うわさ)はいよいよホントっぽくなってきたな。」
「ホントっぽくって・・・、まさか、そんなわけ・・・。」
「シーナは(うわさ)・・・(みみ)にしたみたいだな。」
「・・・そんなバカなって(おも)ってたんだけど・・・。」
「まぁ、実際(じっさい)(いま)のこの(くに)()てみろ。こんな有様(ありさま)だ。
 会議(かいぎ)だって名目(めいもく)修行(しゅぎょう)施設(しせつ)連中(れんちゅう)()てたけど、
 ありゃあ、ひょっとしてって(はなし)だな。
 もっとも、(ねら)ってきたみてぇに、盗賊(とうぞく)どもが()て、結局(けっきょく)
 ムチャクチャになっちまったらしいけどな。
 ・・・サニータ(さま)には、もう()ってみたのか?」

結局(けっきょく)まだよ。・・・明日(あした)には()いに()って()るわ。」
「その(とき)にでも(たし)かめてみるんだな。」
「そうするわ。・・・マーシャ、()くわよ。」
「そ、その・・・(うわさ)って。」
明日(あす)には()かるわ。・・・いいから、もう、その(はなし)はしないで。」
「・・・はい。」
 私達(わたしたち)は、この(まち)宿(やど)()った。






 (42日目 朝)
「・・・シーナさん?」
 (わたし)は、シーナさんに()こされました。
(なに)やってんの?さっさと()くわよ!!」
「・・・だ、だって、まだ・・。」
今日(きょう)(はや)いって()ったはずよ!」
「・・・シーナさん、昨日(きのう)(よる)(ねむ)れなかったのですか?」
「な、なんで、そんなこと()くのよ?」
「だって、・・シーナさん、ずっと(まど)のそとを(なが)めて・・・」
「み、()てたわね!!」
「なんだか、シーナさんらしくなかった。」
「う、うるさいわね!!いつも(どお)りじゃない!!」
「・・・今日(きょう)、アーシェルさんに()えるのですよね?」
「・・・さあね。だから、(いそ)ぐのよ。」

 (わたし)は、とにかく(いそ)いで()こうとするシーナさんに()れられて、
(まち)(きた)(ほう)(ある)いていきました。
「いいから、(はや)くするのよ!!」
「ど、どこに()くのですか?!・・・こ、この(さき)には・・。」
(しろ)よ。」
 城下町(じょうかまち)(きた)()けて、(わたし)はそこにとても(おお)きな宮殿(きゅうでん)()ました。
そこは、とても、とても(ふる)いお(しろ)でした。



 (わたし)は、もう我慢(がまん)できなくなってた。これ以上(いじょう)()えられなかった。
マーシャを()いて1人(ひとり)(はし)って宮殿(きゅうでん)(なか)まで(はい)っていった。
 正直(しょうじき)のところ、宮殿(きゅうでん)(なか)まで(はい)ったのはこれが(はじ)めてだったわ。
何人(なんにん)かの兵士(へいし)(こえ)をかけようとしてきたけど、全部(ぜんぶ)無視(むし)してった。
 (わたし)は、ただ一番(いちばん)(うえ)(かい)目指(めざ)してた。
王様(おうさま)は・・・、サニータ(さま)はどこよ!!!」
 (わたし)は、階段(かいだん)()がりきったところにあるその(とびら)()(ひら)いて中に(はい)ったわ。
王様(おうさま)!!あいつに・・・アーシェルの(やつ)王様(おうさま)なんて無理(むり)です!!
 (かんが)(なお)してくださいませんか!!サニータ・・・(さま)・・・・。」


 (わたし)は、そこに想像(そうぞう)してたのとは、(ちが)老人(ろうじん)姿(すがた)()てた。
(おう)(ちか)くにいた何人(なんにん)かの兵士(へいし)たちが(わたし)のとこへ()って()ようとしてたのを、
ベッドから(からだ)()こしてたその、おじいさんが()めてた。
「・・・シーナ、かね?」
「・・ど、どうされた・・・のですか?」
 ()(かん)じ、とても衰弱(すいじゃく)してるように()えた。少なくとも、
(まわ)りの(へい)(たい)する威厳(いげん)態度(たいど)()ない(かぎ)り、王様(おうさま)だとはとても(おも)えなかった。
「なに・・・、(ひと)()いるものだ。もう、(なが)くはないのだろう。」
「ま・・まってください、・・・シーナさん・・。」
 やっとマーシャが()いついてきた。
「シーナさんっ・・・あ、そ、その・・ご、ごめんなさい!!」
「・・・そなたが、・・マーシャ・・・か?」
「はい。はじめまして。・・な、なぜ、ご存知(ぞんじ)なのですか?」
「そなたのこと・・・そしてシーナ、・・・アーシェル(きみ)のことも、
 みな、旧友(きゅうゆう)のゾークスから(はなし)()いている。」

「え、・・も、もしかして・・・、あ、あなたが!!」
「この(くに)王様(おうさま)、サニータ=ディメナ(さま)よ。」



 (わたし)(うし)ろから、私達(わたし)のことを()いかけてきた兵士(へいし)方々(かたがた)(あつ)まってきていました。
(わたし)兵士(へいし)(みな)さんも、シーナさんとサニータ(さま)(はなし)()いていました。
「・・・城下(じょうか)(なが)れている(うわさ)を、やはり(みみ)にしたようだな。」
「ええ。ここの(おう)がその()(わか)旅人(たびびと)(ゆず)るとかいう(うわさ)
 ・・・(わたし)(かんが)える(かぎ)り、そんなの、・・・アーシェルしか・・・。」

「ええ!!そ、そうなのですか?!」
 そんな(はなし)になっているなんて、(まった)想像(そうぞう)もしていませんでした。
(たし)かに、・・・(すす)めてみたのは、事実(じじつ)だ・・・。」
「ま、まさか・・・。アイツ、そんなこと、(なん)にも()わなかったのに・・。」
「シーナさん?!・・・も、もう、アーシェルさんとは・・」
「と、とにかく!!あんな(やつ)には王様(おうさま)なんて絶対(ぜったい)無理(むり)です!!」
「―――やはり、そう()うのだな、そなたは。」
 シーナさんは、(いき)()らせながら(つぎ)言葉(ことば)()っていました。
「わしも(かんが)(なお)した・・・。もう(すこ)し、()とうかと・・・。」
「そ、・・・それでは・・?!」
心配(しんぱい)せずとも、ただの(うわさ)よ。()(まわ)してしまったようだな。・・・すまない。」
「い、いえ・・そ、そんな・・・・(わたし)は。」
「いつの(ころ)からなのだろうか・・・、この(くに)がこんなに()んでしまったのは・・・。」



自分(じぶん)身体(からだ)()()(おとろ)えていくのがわかる。
 まるで、(いま)のこの(くに)(あらわ)すかのように。
 ひとり、病床(びょうしょう)につきながら、いつしか悲観(ひかん)にくれるようになっておった。
 心なしか、(いま)だ、自分(じぶん)(つか)えてくれる(へい)までもが、この絶望(ぜつぼう)()()まれそうな
 そんな(かん)じがしておった・・・。」

「・・・サニータ(さま)自分(じぶん)たちは・・。」
自分(じぶん)には、世継(よつ)ぎはおらぬ。もはや、(ふる)くから(つづ)くこの王家(おうけ)も、
 時代(とき)(なが)れの(なか)()()運命(うんめい)にあるのだろう・・・。
 まさに、国中(くにじゅう)が、暗闇(くらやみ)()()まれそうなそんな(とき)、ゾークスからの()らせ・・・、
 そして、アーシェル(くん)姿(すがた)があった・・・。」

 私達(わたしたち)は、みんな(なに)()わないで、王様(おうさま)(はなし)(みみ)をかたむけてたわ。
(ひかり)()たような()がした。そう、希望(きぼう)の・・・(ひかり)を。
 他国(たこく)とのつながりを()たれ、(まち)活気(かっき)(うしな)い、自分(じぶん)()(おとろ)えてゆく。
 そんな(なか)(かれ)()きる姿(すがた)は、この(しろ)人間(もの)
 (みな)に、希望(きぼう)(あた)えているようであった。」

「あ、あいつが・・・。」
「だが、アーシェル(くん)には・・・(わる)いことを()ってしまったな。
 それに、・・・アーシェル(くん)には仲間(なかま)がいる。シーナ、そしてマーシャ・・・。
 何者(なにもの)にも、仲間(なかま)(きずな)(うば)うことは、(ゆる)されていないのだろうからな。」

「わ、わたしは・・・。」
()わずとも()かる。・・・アーシェル(くん)を、・・・よろしく(たの)むぞ。」
 なんだか、ずっとひっかかってた(なに)かが、やっと、(かる)くなったような()がしてた。
あの(とき)、アーシェルから(はな)れてマーシャのところに()った(とき)は、
(なに)(おも)ってなかった。・・・(はな)れてみて(はじ)めて、アーシェルがいなくなるってことが、
どれだけ、不安(ふあん)で、(おそ)ろしいことか、()かったような()がした。
 もう、アーシェルに()えなくなることがどんなことかだなんて、
想像(そうぞう)したこともなかった。
「あ・・・あの・・。」
「え、(なに)よ?マーシャ・・・。」
「どうしたのだ?」
「シーナさん・・・、そ、その・・・。」
「な、(なに)よ?はっきりしてよ!!結局(けっきょく)(たん)なる(うわさ)だったのよ!!」
「・・・それでは、アーシェルさんは、・・・ど、どこに?」
「え?」






  悲劇の少女―第2幕― ~第56話~

 (42日目 昼)
 (わたし)は、(はじ)めてその状況(じょうきょう)気付(きづ)いた。
「ど、どこに?!なんで、いないのよ、あいつ!!!」
「サニータ(さま)!!アーシェルさんはどこに?!」
「そうであった・・・、まだ、()っていなかったな。」
 サニータ(さま)は、兵士(へいし)2人(ふたり)に、(なに)かを命令(めいれい)した。
「あの・・・アーシェルは?」
「そう、あわてるでない・・・。もう(すこ)し、(はなし)につきあってもらえないか?」
「・・・はい。」
(かれ)無理(むり)なお(ねが)いをしたあと、やはり、(ことわ)られてしまった。
 自分(じぶん)にそんな資格(しかく)はない・・・それに、仲間(あいつら)裏切(うらぎ)れない・・・と。
 (かれ)(なか)では、もはやそれは()るぎのないことなのであろう。
 最初(さいしょ)(たの)んだ(つぎ)()に、アーシェル(くん)はそう()った・・・。」

「ふん、・・・それならそれで・・・(なん)でよ・・・。」
(たし)かに、(こころ)(なか)では落胆(らくたん)した。だが、それは仕方(しかた)のないことよ。
 ゾークスからも、どうかアーシェル(くん)とそなたらを(たす)けてやるようにと
 ()われていたのだから・・・。」

「・・・お()(いた)しました。」
 その(へい)()ってたのは、一冊(いっさつ)(ほん)みたいだった。
「この(くに)(ふる)歴史(れきし)(あゆ)んできた。かつての(おう)()にあった(もの)記録(きろく)がある。
 (じつ)は、この王宮(おうきゅう)でも、最近(さいきん)、この記録(きろく)(なか)()になる記述(きじゅつ)
 (ろん)じられてきていた・・。」

()になる・・・記述(きじゅつ)?」
「この(くに)(きた)に、鍾乳洞(しょうにゅうどう)がある。(おく)(ふか)(ほら)だとは()られていたが、
 (とく)価値(かち)のあるものとも()られていないものだった・・、だが・・・・。」

王様(おうさま)、これを。」
 サニータ(さま)(へい)から、(なに)かの(かみ)(たば)()()った。
「もうすでに3度(さんど)報告(ほうこく)()けている。今回(こんかい)が、おそらく最後(さいご)となるだろう。」
「アーシェル・・・そこにいるのですね?」
 (わたし)は、もう、これ以上(いじょう)ここにいるのは()えられなかった。
「そう(いそ)ぐでない。」
「シーナさん!!(はなし)()いてから!!」
「アーシェルがいる場所(とこ)がわかったのよ!!(はなし)()きたいなら、マーシャ1人(ひとり)
 十分(じゅうぶん)よね!!・・・(わたし)は、もう(さき)()くわよ!!」




「シーナさん!!」
()ちなさい。」
 サニータ(さま)はシーナさんを()いかけようとする(わたし)()()めました。
「これは、内部(ないぶ)地図(ちず)だ。もう、ここで()っておけばいいと()(こと)無駄(むだ)というのは、
 アーシェル(くん)(はなし)や、ゾークスからの(はなし)十分(じゅうぶん)承知(しょうち)している。
 (くわ)しい事情(じじょう)について()(しる)したものも一緒(いっしょ)にある。()って()くといい。」

 サニータ(さま)からその(かみ)(たば)()()りました。
「ありがとうございます。」
(なか)(ひろ)い。・・・くれぐれも()をつけるよう・・・。」

 (わたし)はお(しろ)()て、(きた)(ほう)(はし)っていきました。
しばらくして、シーナさんの姿(すがた)()つけました。
「あら、マーシャ?あんたも()げてきたの?」
「に、()げたなんて・・・。これをもらって()たんです。」
 シーナさんに、地図(ちず)()せました。
「ふーん、あいつもよくやるね、こんなこと。」
「それに、もう(ひと)つこんなものをもらいました。」
(なに)よそれ?」
(なに)か、(くわ)しい事情(じじょう)について()いてあるそうです・・。」
「そんなのあるんだったら、最初(さいしょっ)から(わた)してくれればいいのに。
 そうよ、きっと絶対(ぜったい)、あの(ひと)(はなし)がしたいだけだったのよ。」

「サニータ(さま)(はなし)では、きっとここで()ってるようにって()っても
 無駄(むだ)だろうという(はなし)でした。」

「・・ま、まぁね。そ、そりゃあそうだけど。なんで、サニータ(さま)にそんなこと・・」
「ゾークス(さま)や、アーシェルさんがそう()っていたと・・。」
(なに)よそれ?!まるで、(わたし)がそうする(こと)がもう()かってるみたいな(かん)じじゃない、それ。」
「でも、本当(ほんとう)にその(とお)りでしたね。」
「・・・とにかく、そういう(むずか)しそうなのは、マーシャが()んでね。
 地図(ちず)があるんでしょ?・・・心強(こころづよ)いじゃないの。」




 (はなし)()てた(きた)にある洞窟(どうくつ)ってのはすぐにみつかったわ。
結局(けっきょく)、ナイフはしまいっぱなしだったし、地図(ちず)なんかあったから、
全然(ぜんぜん)(まよ)うこともなかった。
「なぁんだか、ヒマね。」
 (まわ)りを見回(みまわ)しながら(ある)いてると、ところどころで、
アーシェルが(なに)調(しら)べてたあとみたいなのを()つける(こと)ができた。
「はっきりいって、こんなところ、調(しら)べたって、(なん)にもないわよ・・・。」
「そろそろ、階段(かいだん)()えます。」
 マーシャの言葉(ことば)のとおりに、(くだ)りの階段(かいだん)()えた。
(した)(かい)()りてみても、相変(あいか)わらず(うご)いてるのは私達(わたしたち)2人(ふたり)だけだったわ。
 地図(ちず)(とお)(すす)んでいっても、モンスターは()てこなかった。
でも、(まわ)りの雰囲気(ふんいき)(すこ)しずつだったけど、不気味(ぶきみ)になっていってた。
「はぁ、また階段(かいだん)?もう、いい加減(かげん)にしてよ・・(ひろ)すぎよ、ここ。」
「・・・シーナさん?」
(なに)(はや)()きましょ。アーシェルのとこ!!」
「・・・もう、地図(ちず)が、ありません。」
「へ?」
「・・・と、とにかく、(すす)みましょう。」



 階段(かいだん)()りた瞬間(しゅんかん)に、(わたし)はとても(さむ)いと(おも)いました。
「ヤバいわね、・・・この雰囲気(ふんいき)。」
「モンスター・・・ですか?」
「あ。」
 シーナさんが突然(とつぜん)(なに)かに気付(きづ)いたように(はし)()しました。
「ど、どうしたのですか?!!」

 (わたし)が、シーナさんのあとを()いかけて、その場所(ばしょ)()たとき、
シーナさんは、鍾乳洞(しょうにゅうどう)(なか)出来(でき)ていた、()きな地割(じわ)れの(ほう)()いていました。
「な、(なに)をしているのですか?」
「・・・マーシャも、一緒(いっしょ)なのか?」
「そうよ。だから、・・・私達(わたしたち)にも、手伝(てつだ)わせなさいよ!!」
「シーナさん・・・だ、(だれ)と・・・(はな)して・・・。」
 (わたし)は、ゆっくりとシーナさんの(ちか)くへと(ある)きました。
そして、シーナさんの視線(しせん)(さき)に、ずっと(おも)(えが)いていた(ひと)(かお)()ました。
「あ・・あ、アーシェルさん!!」
 アーシェルさんは、(わたし)()安心(あんしん)されたように微笑(ほほえ)んだようでした。
()かってるだろ?ここは、ヤバい。ついてくるなら、(いそ)げ。」
 アーシェルさんは、そう()ってどこかへと()ってしまいました。






 (42日目 夜)
「行くよ。」
 いよいよ鍾乳洞の中の雰囲気は、歩くたびにヤバくなってった。
「シーナさん・・・。」
 次の瞬間に、後ろを歩いていたマーシャの叫び声が聞こえたわ!!
「な、何よ?!どうしたの!!」
 吹雪が巻き起こってたわ。突然、モンスターどもが襲いかかってきやがった。
「シーナさん!!気をつけてください!何かがいます!!」
「あんたに言われなくたって、分かるわ!!いい?!こいつは、
 シャドーゴーストって奴よ!!」

「シーナさん!!!」
 背後を振り返った私が、何か光ったのを見た瞬間に、その鎌が私の首に向かってた。
「ふん、私の首が欲しいわけ?やんないわよ!!」
 ヘルシックルとかいう奴をぶった斬ってやったあと、すぐに私達は、
キラーベビーとかいう犬に取り囲まれて、一斉に凍える風を吹きつけられた!!
「こんなん相手にしてる場合じゃないわ!!突撃するわよ!!」
「と、突撃って!!」
「入り口見なさいよ!!もう、あんなに埋まっちゃってるじゃない。
 とっくに閉じ込められちゃってんの。・・・いい?ほんの気休みだからね。」

 私は、オーロラバリアっていう結界を私達のまわりに張り巡らせた。
効果が一瞬で消えることなんて分かってるけど、吹雪が途切れた瞬間に、
とにかく、奥へと走ってった。



 シーナさんの結界は、すぐ吹雪に破壊されてしまいました。
私は、その鎌を持っていたモンスターに取り囲まれてしまいました。
「神よ、我に・・・邪悪なる者を裁く、力を与えたまえ!!」
 私の周りで、何重にもなった光の輪に、モンスター達は飲み込まれていきました。
 すぐにシーナさんの姿を探して、見つけました。
そちらの方向へ走り出そうとした瞬間、とても大きなモンスターが現れました!!
 私はロングロッドを持ったまま、どうすればいいのか分からなくなってしまいました。
「ストーンガーゴイル・・・ぶっ倒す!!」
 シーナさんがそのモンスターの後ろから攻撃をかけたすぐあと、
私の横から、クリートが冷たい風を吹きかけました!!
「ふん・・あんた、私のナイフくらいじゃ、通さないのかもしんないけど、
 ・・・寒いのに弱いらしいわね。」

 そのモンスターは、突然動き出して、私をソードで斬り付けてきました。
すぐに体勢を立て直せなくて、すぐにまた攻撃されそうになったとき、
私の目の前に、シーナさんが来てくださいました。
「どんなにね・・硬いもんだって、関係ないのよ。」



 そいつが魔法を唱えたのはわかってた。ただでさえ、硬いってのに、
ますます、ナイフを受け付けなくなってるみたいだった。
「・・・バーニングスラッシュ!!」
 一気に、ストーンガーゴイルの間合いに入って、ナイフ2本でぶった斬った。
もちろん、一撃でダメなのは分かってる。当てた瞬間に、もう一つ
クロスブレイカーを連続で放ったわ!!
「まず、ひとつ・・・そして、ふたつ!!」
 私は、クロスブレイカーをくらわせたあと、さらに、連続攻撃をたたきこんでった!!
「みっつめ!!そして、最後に・・・」
 私は、飛び上がって、そいつの頭上から最後の一撃をおみまいしてやった。
「もう、・・・体じゅうが、ボロボロのはずよ。くたばっちゃいな!!」
 それっきり、こいつは動かなくなってたわ。
「はあ・・・シーナさん、って、また来ます!!」
「ああ、もう、あんたも斬ったげるから待ってんのよ!!」

 そうやってしばらくやってるうちに、だんだんとそいつらの数も減ってきてた。
「もう十分遊んだわ!!先へ行くよ!!」
「はい!!」



 私達は、ある広い場所へと出ました。
天井からは、ぽたぽたと液が落ちて、壁にもたれ流れていました。
いろいろな場所で、白い鍾乳石やつららのようなものが見えました。
「え、シーナさん?」
 急に、シーナさんが私のところへ近づいてきました。
・・・少し、震えているようでした。
「どうなされたのですか?」
「・・・マーシャ、離れないで・・・。」
 そうシーナさんが言ったすぐあとに、突然、何かの流れるかたまりが、
地面からいっせいに吹き上がってきました!!
「・・・だいたい、分かってきたわ。」
 シーナさんは、私と背中合わせで、ナイフを構えました!!
「こ、これはスライムですか?!」
「そんなとこかしらね。」
 シーナさんがナイフで斬った瞬間に、そのスライムは無数に分裂してしまいました!!
そのすぐあと、いくつにも束になったスライムが、シーナさんを真横から襲いました!!
「面白いじゃない!!メルトスライム程度の雑魚が、大勢で騒いでんじゃないわよ!!」
 シーナさんは、目の前から来たその束になったスライムに斬りかかりました。
「か、硬い!!な、何よこいつ!!」
 そうしている間に私も、たくさんのスライムに取り囲まれてしまいました!!
「フラッシュリング!!」
 私のロングロッドからの光の輪がまわりのスライム達を取り囲みました。
ところが、スライムは分裂したり、光の輪を束になってくぐりぬけたりして、
みんな避けてしまいました!!
「ダメよ・・。前言った事あったわよね。モンスターってのは、凶暴化した動物
 だけじゃないって・・・。このスライムはみんな、ただの水が操られてんの。
 ただ、性質(たち)が悪すぎるわ。液体になったり、ドロドロになったり、
 霧になったり、メチャクチャ硬くなったり、なんでもありなのよ、こいつ!!」




 スライムの数は明らかに多くなってた。こいつらは、少しずつ、私達の体の
自由を奪ってった。このままだと、動けなくなる・・・。
「・・・体中、しばりあげられちゃってる・・・。周りはどんどんスライムが
 集まってるし・・・、ナイフが、こいつらの体でグチャグチャ・・・。
 これ、ひょっとして・・・ピンチかしらね。」

 マーシャの悲鳴が聞こえた。音から判断すれば、硬く固まったスライムの束が
一気に、マーシャに攻撃を加えたらしかった・・・。
「・・はぁ、結局、・・・私、スライムなんかにやられる運命だったのね・・・。
 もう、ここまで来ておいて、何にも出来ないなんて!!!」


 急に、後方のスライムがさっとある部分からひいていったわ。
何かがものすごいスピードでつきささって、その部分が炎で燃えていた・・・。
それが、炎をまとうアローであることに私は気付いた。
「シーナ!!!」






 (42日目 深夜)
 「炎の矢」は効果があったようだった。俺は、その開いた空間へと割り込んだ。
「来るかっ!!」
 俺は、同時に襲い掛かったそのスライムの束を同時に、射抜き散らした!!
「・・・ア、アーシェル・・・さん。」
 マーシャの声を聞いた瞬間、そちらの方向のスライムに炎の矢を射る!!
それらが、ひるんだ瞬間に、俺は、マーシャを救い出した。
「ありがとうございます!!」
「ああ・・。それより、こいつらを・・・どうにかしなくちゃな。」
 俺は、アーチェリーに全神経を集中させた。周りのスライムらが、
近づいてくるのは分かってた。そして、俺は、魔力を発動させた。
「風よ!!我の放つ矢に従い、無数の矢の雨となりて降り注げ!!」
 俺がアローを放った瞬間、ものすごい風が巻き起こった!!
それらは、やがて予想していたよりもはるかに多くの「矢の雨」を降らせた。
「あ・・・あんなにたくさんのスライムが・・・。」
「よかった、マーシャ・・・無事みたいだな。」
「はい・・・あ、そ、それより―――シーナさんが・・・。」
「シーナ・・?・・・あ、忘れていた!!シーナ、どこだ!!」
「アーシェル・・・あ、あんた・・・。」
 シーナは、俺の背後でおぞましい形相をして立っていた。
「なんだ・・・助けなくても、自分で立ってるみたいだな。」
「っさいわよ!!真っ先に助けるのがあんたの役目でしょうが!!」
「結局、シーナを助ける必要なんてなかっただろ?」
「それ以上言うと、あんた・・・心臓5つにバラすわよ!!」
「ほ、本当にしそうで、怖いです。」
「マーシャ、あんた!!!」
「す、すみません。」
「・・・ま、とにかく無事で良かった。」
「良くないでしょうが!!だいたいねぇ、アンタ!!
 なんでさっきのところから戻ってきたりしたのよ!?」

「な、・・そ、そりゃあ・・・シーナ達が来たって知って・・・心配になって・・。」
「あ、そう。分かった。それじゃとっとと行くわよ!!」
 そう言ってシーナは先へと歩き始めた・・・途中で、俺に振り向かず、こう言った。
「ま、アンタのレインアロー・・・、見てない間に、進歩してたじゃないの。」
「シーナ・・・。」
「ほら、ぼさっとしてんじゃないの。足手まといになってるんじゃないのよ!!」



 私は、シーナさんとアーシェルさんのとても嬉しそうな顔を久しぶりに見ました。
シーナさんとアーシェルさんはお互い、とてもキツいこと言い合っているように見えて、
それでも、やっぱり、また会えたことがとても嬉しいみたいでした。
そんな2人を見ていると、私も幸せな気分になれました。
「感動の再会なんかやってる場合じゃないわ。アンタ、この先のこと、
 ある程度は、分かってんでしょ?」

「ああ・・・、だが、単純な道程じゃない。」
「は?いいのよ、道順さえ分かってればね!!くだらない事言ってると・・・」
「前だ。」
 私達3人は、いっせいに武器を構えました。
「ドラゴンフライ。奴の炎はドラゴン系の中じゃ最弱って言ったところで、
 炎には変わりない。くらえば、無事じゃすまされない。」

「そんな解説してもらわなくたって、ちゃんとたたきこんでるわ。
 要するに、ぶった斬ればいいってことよ!!」

 シーナさんは、そう言ってドラゴンの方へ走っていきました。
「ほ、本当にいいのですか?」
「言ってることはムチャクチャだが、シーナには、
 シーナなりのやり方があるんだろう。」

 そう言ってアーシェルさんはシーナさんの後を追いかけました。
「あぶなっかしいわねぇ!!」
 ドラゴンは、辺り一面を炎の海にしていました。
「むやみに近づくんじゃない!」
「うるさいわねぇ!!あんたが指図してんじゃ・・ってまた来た!!」
「氷の矢!!」
 アーシェルさんの氷の矢はすぐに炎で燃え尽きてしまいました。
「なめてんの、ドラゴンフライの炎の海を?その程度じゃムリよ!!」
「クリート!!こっちに来て!!」
「マーシャ!!何をするんだ?」
「私だって・・・戦います!!クリート、冷たい風を!!」
 クリートの冷たい風が吹き荒れるが、それも、炎の海の前にかきけされる!!
「その程度の冷気では、ダメだ!!」
「続けるの!!」
 私は、クリートが冷たい風を吹き出した瞬間に、同時に
フラッシュリングを唱えました!!



 その次の瞬間、ドラゴンフライの吹き出す炎の標的は私になってた。
「く・・・来るわ!!」
 ドラゴンフライの炎が私を取り囲む直前になって、アーシェルが、
直撃から私をかばってくれてた!!
「あ、あんた!!バカ!!何やってるのよ!!こんなとこでかっこつけて
 死んだって意味ないのよ!!!早く、そこからよけるのよ!!」

 私は、すぐにアーシェルを炎の海から引きずりだした。
「はやく・・・よけろ・・・。」
「アーシェルさん!!キュア!!」
「もういいわ!!クリート、聞いてる?いい、まだ、終わってないのよ!!
 アーシェルがまともに立てるくらい回復するまでに、ぶっ倒すわよ!!」

 私はナイフを構えた。ドラゴンフライもこっちをにらみつけてたわ。
「・・・攻撃態勢とるつもりのようね。・・・させないわよ!!」
 私は、ナイフに魔力をこめて、バーニングスラッシュの構えをとった。

―――その瞬間に、突然、それは起こったわ。

「な・・・何よ・・何よこれ!!」
 私のナイフから、今まで見た事もないような色の、とても熱い炎が吹き上がってた。
「どういうこ・・と・・・?」
 それから、私は、どういう風に動いて戦ったか覚えてなかった。
とんでもないくらい大きな炎を上げてるナイフに、まるでひきずられてるみたいに、
私は、ドラゴンフライにつっこんで行ってた。そのナイフがドラゴンフライに
猛攻撃を続けていたわ。そして、まっすぐ直撃した次の瞬間・・・。

 私は、爆風に巻き込まれて、地面にたたきつけられていたわ。
「お、おい・・・シーナ?・・・シーナ!!しっかりしろ!!!」
「シーナさん!!キュア!!」
「・・・・ご、ごめん・・・ね。」
「とにかく、しゃべるな。いいな!!」
「―――そっか・・・マーシャに、神の力があるみたいに、・・私には、炎の力が・・。」
 それからしばらく私は気絶していたみたいだった。






 (43日目 早朝)
「・・・あ、あれ・・・こ、ここは・・・鍾乳洞?」
 シーナさんが、意識を取り戻されたみたいでした。
「そうだ・・・、もう大丈夫だな。」
「・・・。アーシェル!!ど、どうしてこんなとこに?」
「もういいから・・・、はやく・・・進むぞ。」
 シーナさんは、どういうわけか少し前までの記憶がなくなってしまっていたようでした。
それからしばらくの間、奥へと進み続けました。
「・・・ここを、調査し終われば、ハンティング終了だ。」
「いつんなったら終わるのってずっと考えてたけど、やっと、終わりみたいね。」
 同じような場所は今までにも見た事がありました。
スフィーガル大陸、そして、ロッジディーノ大陸で・・・。
「ここまで来たら、迷う理由なんかないわ。」
「行くぞ。」
 私達はその部屋の中へと走って入りました。
明かりは消えていて、機械の低い音だけが聞こえていました。



「やはり・・・遅かったか。」
「邪魔ハ・・サセヌ。」
 背後からその声がした。
「じゃ、アンタも敵ね。・・・邪魔するんでしょ?」
 黒いローブに身を包み、黒い帽子を深くかぶり、薄く光る杖を持つ
モンスターの姿がそこにあった。
「ハイコンジャラー・・・そんな名だったな。」
「ソノ通リ。人間、邪魔ハサセヌ・・・。」
「・・・斬るまでよ。」
 シーナが、猛烈な速さでナイフを振り回すが、ハイコンジャラーは
その攻撃を完全にかわし続ける。
「遅イ遅イ・・・。」
「何よこいつ!!・・・クロスブレイカー!!」
「ビブレーションウェーブ。」
 力の差は歴然としていた。あのシーナが、ナイフをかすめることなく、ねじ伏せられた。
「・・・動けないじゃないのよ、・・・こいつ。」
「オ逝キ。」
 次の瞬間、衝撃波を受けたシーナが絶叫を上げた!!
「シーナ!!奴は魔法を使う!!下がれ、単純に攻撃をしても無駄だ!!」
「うるさい・・こいつは、私が・・・」
 俺は、アーチェリーを構えた。
「お前に、俺の最高の技をかける。―――ハリケーンスラッシュ。」



 アーシェルのアローがたくさんの風をまとって加速しながらモンスターに当たった。
「・・・人間ナド、コノ程度・・・」
「レインアロー!!!」
 アーシェルは、その後すぐ、アーチェリーをモンスターに向けてた。
「いくらなんでも・・・あんた、やりすぎよ。十分じゃない。
 でも、これじゃあ、逃げられないわね・・・。」


「・・・いや。」
 猛烈な数の風の矢がぶつかったのは見えた。でも、
モンスターは、動きを止めようとはしなかった。
 次の瞬間、砂漠で襲い掛かってきたあの力がまた私を締め付けてきたわ・・・。
「・・・な、なんだ、これは。・・・気持ちが、・・・悪い・・。」
「まただわ・・、マーシャ・・・た、助けて・・。」
「シーナさん!!アーシェルさ・・・」
 マーシャが急にがくっとひざをついてしゃがみこんでた。
モンスターの力に押さえつけられて、もう、立っていられなくなってた。
「愚カナル人間ドモ。我ガ魔力ノ前ニヒレ伏スガヨイ。」
 だんだんと、力が強くなっていくのを感じてた。
体中の力がまるで抜け出していくようだったわ。
 それに、だんだんと理性がなくなって、何も考えられなくなっていた。



「―――マーシャ・・・様。」
 私はその声に聞き覚えがありませんでした。
「・・・マーシャ様・・。」
「・・だ、誰ですか?・・・私を、呼んでるのは・・・。」
「・・・私です・・・。」
「・・・誰?わかりません・・・。あなたはいったい?!」
「目をあけなさい。自分の目で・・確かめなさい。」
 私はぼんやりとしながら、必死に目を開けました。
そこにいたのは、姿を変えているクリートでした。
「クリート・・・じゃない。でも・・・どうして?」
「自分を信じなさい。・・・闇の力に惑わされず―――。」

「フラッシュ・・・リング。」



 マーシャから、これまで見てきた中で一番光り輝いている
フラッシュリングが放たれた。その瞬間に、俺の周りの嫌な感覚が薄らいだ。
「・・・ルーアンラットね。その子。」
「それじゃああなたは、ルアートね!!ありがとう。もう一度、行きます!!」
 マーシャが放った光のリングがハイコンジャラーに何度も激突していった。
「闇ヲモ退ケル・・コノ力・・、ソウカ、ソコマデ・・・地獄ガ見タイカ・・。
 見セテヤロウ・・・。オ前ハ・・・海ヲ越エタ・・・アノ女ノ―――」

「海を越えた?!」
 そういい残してハイコンジャラーは突然、霧のように周りに溶けて、
周囲の機械に取り込まれていった・・・。
「何が・・起こったの・・・?」
 次の瞬間、部屋の中が猛烈に揺れ始めた!!
「く、崩れるのではないですか?」
 マーシャはそう言ったが、俺はしばらく動く気はなかった。
「アーシェル・・・、あんた・・。」
「ああ、確かに崩されるな。・・・奴が呼んだ、・・・『地獄』って奴に。」
 揺れがいっそう激しくなった瞬間、左側の壁が崩壊した!!
そこから、奴の姿が、現れた!!
「・・・悪魔より、・・・性質悪そうね。」
「これは・・・とんでもない奴が出てきたな・・・。」
 そのモンスターの背は、天井を越えていた。
今まで見たどのモンスターよりも巨大な姿をしていた・・・。
「マーシャ?!」
 マーシャとルアートがそのモンスターの前へと立ちふさがった。
「行くわよ、・・・ルアート!!」
 マーシャとルアートがそのモンスターに向かって飛び出した!!






 (43日目 昼)
「ルアート!!冷たい風を!!」
 ルアートは、マーシャの合図で前に飛び出した。
それから、今までの冷たい風を遥かに上回ってる、凍える風を吹き出したわ!!
 あまりの冷たさが、モンスターを縛り付けてた!!
「な・・・なんて威力なんだ?!」
 それどころか、ルアートの勢いはどんどん増してった!!
風がおさまったと思った次の瞬間、ルアートは、巨大な雷を落としていた!!
「ル・・・ルアート・・あ、あなた。」
「ルアート!!下がれ!!」
 その猛攻撃をし終わったルアートはすぐに気付いてかわそうとしてた。
でも、モンスターの岩のような腕がルアートの体をなぐりとばしていたわ!!
「ルアート!!」
 ルアートは血を流しながら、そのモンスターをにらみ付けていた。
「マーシャ、まともに攻撃しただけでは、倒せないぞ。」
「だったらトロトロしてんじゃないわよ!!この私が、こいつに
 クロスブレイカー一発、ぶちかましてあげようじゃない!!」

「待て!!」



 シーナは、俺が止めるのを聞かずに走り出していた!!
「くらいなぁ!!クロス・・・」
 ゴーレムは右手の拳を固め、思いきりシーナに殴りかかる!!
が、それは、空を切り、シーナをとらえられなかった。
「バカ力なだけで、ノロいじゃないのよ。」
 ゴーレムは明らかにシーナの動きに翻弄されていた。
「そろそろね!!クロスブレイカー!!」
 シーナのクロスブレイカーはゴーレムの体の一部を砕くが、
さほどのダメージを与えていなかった。ゴーレムはとつぜんうずくまる。
「何を・・する気よ?」

「待て・・・シーナ!!逃げろ!!」
 俺は、次に起こることを予想し、そう叫んだあとに、アーチェリーを構える!!
「邪魔すんじゃ・・・」
 予想通りだった。ゴーレムは突然、うずくまったまま、上空へとジャンプした!!
「!!!」
 俺は同時にシーナの方向へ飛び出していった!!
「地の矢・・・、間に合えっ!!」
 シーナが潰されるその直前に、ゴーレムの真下で大爆発が起こる!!
俺は、その下にいるシーナのところへ滑り込む!!!



 私の目の前で、2人はモンスターに押しつぶされてしまいました・・・。
「そ・・・、そんな・・・!!」
 私はだんだんときつく、ロングロッドを握り締めていました。
「ルアート・・・あなたは、ダメ。私が・・・行く。」
 ルアートがすぐにでも駆け出そうとしていたのを、私は止めました。
「私・・・許せない。」
 私はそのまま走って行って、思いっきりロングロッドでモンスターをたたきました!!
でも、モンスターの体にロッドははじき返されてしまいました・・・。
 モンスターは私の方に向かって歩き出そうとしました。
そのすぐ後に、突然、モンスターは苦しそうにうめき声をあげました!!
「俺らを・・・ナメんなよ。」
 背後からシーナさんとアーシェルさんが歩いてきました!!
「あんただけじゃ、無理ね。カッコつけるのは、私だけで十分よ。」
「シーナさん!!アーシェルさん!!」
「ほら、お目覚めよ。」
 モンスターはまた起き上がりました!!
「くらえ!!」
「ちょっと不安だけど・・・使わせてもらうわ!!バーニングスラッシュ!!」
 アーシェルさんは、炎の矢を放ちました。
そして、シーナさんのナイフからはとても大きな炎が上がっていました。
「ギリギリ・・・大丈夫ね。それじゃ・・・行くわよ!!」
「ルアート!!あなたも!!」
 ルアートは、雷を呼び起こして、モンスターに落としました!!
「皆さん・・・私も行きます・・・。フラッシュリング!!」



 4人の攻撃が一気にゴーレムを襲いかかった。
だが、奴の攻撃は収まる事がなかった。
「アーシェルッ!!」
「くっ・・・この程度・・、トルネードスラッシュ!!」
 俺は至近距離から真空をまとうアローを放つ!!
ゴーレムの右腕に当たった瞬間、右腕が砕け散った!!
「よし!!あとは私が・・・」
 ゴーレムは右腕を失った瞬間、左腕を振り回し暴れ始めた!!
「くっ・・・こいつは、キツいな。」
「何とかしなさいよ!!これじゃ、手が出せな・・・」
 ゴーレムの左腕は次の瞬間、シーナをとらえ、猛烈な速度で激突する!!
「シーナさん!!!」
「―――痛っ、・・こいつ、私の・・・顔に、傷付けてくれたわね。」
「戦えるか?!」
「当たり前よ。・・・左腕を、・・・斬る!!」
 シーナは、極限まですばやくナイフで左腕を斬り裂く!!
「これで、・・・アンタは攻撃できないわ。」



 モンスターの腕は二本とも砕け散ってた。
「マーシャ、ルアートに・・凍える風を。」
「はい。ルアート・・・お願い。」
 両腕を切り落とされて呆然としてたモンスターに、
ルアートの凍える風が吹き荒れてた!!
「氷の矢・・・凍りつけ!!」
 アーシェルの矢が周りの風の冷たさをまといながら、モンスターに当たった瞬間、
モンスターは冷たく凍り付いていた・・・。
「それじゃ、後は私が・・・」
「私も!!」
 私とマーシャで氷付いたモンスターを真上から砕いてやったわ!!
「―――ハンティング、終了だな。」
 後に残ってたのは、粉々に砕け散った岩のかけらだけだったわ。
「今まで相手にしてたのって・・・ただの岩だったの?」
「スフィーガル岬のブロンズガーゴイルらと同じだろう。それに・・・」
「海を越えた・・・女の人・・・。」
「マーシャ・・・やっぱり、気になってるの?」
 マーシャは、黙りこんでた。






 (43日目 夕方)
「そうか、ご苦労であった。」
「はい。サニータ様・・・、スフィーガル大陸でも同じものを見ました。」
「でもこっちの場合、まだ中にいた連中が外に出てきてなかっただけ、
 まだよかったわよ。あとちょっと遅かったら・・・。」

「礼を言おう。だが・・・。」
「ええ。これは、何かの予兆にすぎないのかもしれません。」
「予兆?」
「そなたらには手紙を渡したであろう?」
「ええ、はい。」
「ちょ、ちょっと、私・・見せてもらってないわよ。」
「闇の住人・・・という存在のことですよね?」
「この国は、太古より闇の住人とともに歩んできた歴史を持っておる。
 文献にはそう記されていた。闇の住人の持つ力は、
 人間の心の中を闇で覆い尽くす。ここ最近、この国でもその兆候が
 現れておった。そなたらが帰ってきてから、わしもようやく、
 病魔から解放されたようだ。・・・闇に打ち負けてしまっていたのだろう。」

「闇の住人・・・そんな奴と、何故、ガーディアらは関わってるのでしょうか・・・。
 私には・・・分かりません。」

「焦ってはならん。真実を、自らの目で見極めるのだ。
 アーシェルよ、そなたなら可能であろう。」


「王様!!」
「そなたは、マーシャであったな・・・。」
「モンスターが私に言いました。お前は海を越えたあの女の・・・と。
 私は、その人がどんな人なのか知りません。でも、同じような事を、
 スフィーガル大陸でも聞きました。一体、誰なのですか・・・?」

「海を越えた・・・か。」
 サニータ様はしばらく考えているようだった。
「すまぬ。わしには、わからぬ。」
「ごめんなさい・・・。」
「だが、何も、考えられぬというわけでもない・・・。」
「何かご存知なのですか?」
「アーシェルよ。そなたらが追いかける敵、その者らは、今もなお、
 海を越えた女に対し、恨み、怒り・・・それを越えて、殺意をも
 持ち合わせているということだ。わしから言えることは、それだけだ。」

 しばらくの間、沈黙が続いた。



「さてとだ。・・・このわしの所には、様々な噂が流れてくる。
 わしは、サニータより、そなたたちの行くべき場所を指南するようにと
 言われておる。アーシェルよ、そなたには、長い間、わしのわがままを
 聞いてもらった。今度は、わしが、約束を果たさねばな。」

「何か・・・ご存知なのですか?」
「シーナよ、・・・そなたは、この紙に見覚えがあるであろう。」
 私は、そこで見る事が出来るはずもないものを見て、驚きを隠しきれなかった。
「わ・・・私と、・・マーシャが・・・。」
「どうして、それを?!」
「わしは、この国を統治する者ぞ。それに、今までこの国のために、
 働いてくれた者達が、他の国から指名手配されておるのだ。
 わしは、これを見過ごすことは・・・出来ぬ。」

「どうする・・・つもりなのですか?」

「シーナよ。そなたは、辛うじて指名手配を逃れているようだな。
 ならば、そなたに、告げておこう。そして、道を選ぶが良い。
 ―――ディシューマの国が動き始めた。」

「それは・・・何を、目的に・・・。」
「表面的には、セーシャルポート制圧・・・」
「真の目的は、その手配書か・・・」
「シーナよ。戦闘で全てが解決するわけではない。
 時として、様子を見た後に、十分に備えた上で行くことも必要だ。
 よいか。―――あの国を・・・相手にすることの意味を、考えるのだ。」

 シーナさんは、しばらく黙っていました。
「へへ、サニータ様って、・・・ホントに、この国の王様なんですか?
 指名手配犯にそんなこと言っちゃって・・・大丈夫なんですか?」

 サニータさんも、それからすぐ微笑んで、話されました。
「申したであろう。わしは、ゾークスの友ぞ。」
「それなら、私がどうするか・・・もう、ご存知ですね。」
「さぁ・・・わからないなあ。」
「決まってるわ。」
「どうするのですか?」
「私はね、マーシャやアーシェルが指名手配になってるなら、
 これ以上危ない目にあわせる必要なんか、ないって思ってるの。
 だって、もう、マーシャだって、殺されかけてるんだからね。」

「シーナ・・・おまえ。」
「きっと、私も、アーシェルやマーシャと一緒にいれば、
 そのうち、指名手配者の仲間ってことになるんでしょうね。
 なら、私は1人でいれば・・・指名手配されることなんかない。」

「シーナさん・・・。」
「・・・指名手配なんかされたら、・・・たまんないもんね。」
「ああ、そうだな。ディシューマか・・・。」
「アーシェル、アンタは、すぐやられるでしょうね。」
「かもな。」
「マーシャ、もう、次はないわよ。セーシャルポート・・・。
 そこへ行けば、今度こそ、殺られるわ。」

「・・・。」
 私は、何も答えられませんでした。

「―――面白いじゃない。」
 アーシェルさんは、もう、仕方ないだろうっていう顔をしていました。
「わしの話に、耳を貸す気はないか・・。」
「最初から決めてたわ。」
「だが、俺らが指名手配されているのは事実だ。
 ディシューマの人間に、俺とマーシャのことを知る人間がいる。」

「・・・ホントに行くのですか?」
「イヤとは言わせないわよ。」
 シーナさんは、黙ってにっこりと笑っていました。
「ならば、アーシェルよ。これが、報酬だ。」
「で、ですが・・・!!」
「あんたもしつこいわね!!くれるって言うんだから、もらうのよ!!!」
「・・・モンスターズハンターならば、報酬を受け取るのは当然のことであろう。
 ―――ならば行け。わしは、おまえらが去った後、ディメナの国王に戻るぞ。」

 サニータさんは、そういって微笑まれました。
「ありがとうございます。」


2003/06/20 edited by yukki-ts To Be Continued. next to