[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第2幕― 第11章

 (34日目朝)
 船は、セーシャル海峡をこえて、ティメヌ港に着いたわ。
「ここが、ティメヌ港よ。・・・ロッジディーノに行くための定期船が出る港。」
「・・・。」
「そういえば、なんで、あんなところにいたの?」
 マーシャは、黙ってるままだったわ。
「でも、よかったわ。すぐに見つかって。」
「・・・どうして、私の場所がわかったのですか?」
「あぁ、・・・ハーディン―――って言ってもわかんないか。
 スフィーガルから乗った船、あの船の船長よ。そのハーディンが教えてくれたの。
 いろんなとこから、情報を聞き出して、やっと、あんたのことを、
 ロッジディーノで見たって情報が入ったから、私が駆けつけたってわけ。」

「そうなんですか・・・。」
「さぁて、こっから先は、きっついわよ!!覚悟することね!!」
「は、はい、わかりました。」



 シーナさんの言うことの意味は、港から出てすぐにわかりました。
辺り一面、見渡す限り、どこまでも広がる砂漠でした。
「それじゃ、見えるかしら?・・・あっちの方に集落があるの。走るわよ。」
「は、はい・・・。」
 砂漠は、とても暑いところでした。
それに、時々吹き付けてくる砂嵐も、とても熱くて、何度か足を止めなくては
ならないこともありました。
 結局、シーナさんがおっしゃっていた集落についたのは、夕方のことでした。
「はぁ、もうさんざんな目にあったわよ、もう、体中、砂まみれ!!」
 ティメヌ盆地の集落と呼ばれるこの集落は、周りのとても高い岩山で囲まれていて、
激しい砂嵐からも、守られるように出来た集落でした。
 すぐに、宿屋に行って、部屋に入りました。
「はぁぁ、疲れるわ。これだから砂漠って嫌よ・・・。」
「あの、・・シーナさん?」
 もうベッドで横になっていたシーナさんは、突然起き上がりました。
「さて、今日は、眠らさないぞっ!!」
「えっ?」
「あれから、20日も何してたか。さぁ、夜通し話してもらわなくっちゃ。」
「その前に、私も忘れないうちに言っておきます!!」
「さぁ来た!!話してもらいましょっ!!」
「あの、・・私、サングの集落というところで、ある人に出会ったんです。
 リズノさんという方です。・・・私はお願いされました。
 シーナさんに会えたら、・・・がんばれよって伝えてくれって・・・。」

 話しながら、シーナさんの顔色がだんだんと真剣になってくのが分かりました。
「・・・リズノって言った?・・・今、リズノって言ったわよね、マーシャ?」
「はい。」
「・・・元気でやってるんだな?他の奴らは?」
「え、・・あ、はい、皆さん、元気でしたよ。」
「そっかぁ、・・みんな、元気でやってんのか。」
 シーナさんは、ナイフを取り出して懐かしそうにしていらっしゃいました。
「でも、なんで、シーナさんのことを、ご存知だったのでしょうか?」
「マーシャ。・・・私にもね、過去ってのがあるのよ。
 ・・・スフィーガルにずっといるのは、アーシェルくらいだわ。」

「アーシェルさんは、今、どうなさっているのですか?!」
 また、シーナさんの顔つきが変わりました。
「マーシャ、やっぱりヤメた。早く寝な。明日は早いよ。」
「シーナさん!!アーシェルさんは?!」
「早くディメナに着かないと、二度とアーシェルと旅、出来なくなるかも
 しれないのよ!!分かった?!だったら、早く寝るの!!いいわね!!」

「そ、そんな?!・・・ど、どうしてですか・・・?」
 シーナさんは、もうベッドで寝ていました。



 (35日目朝)
「キャラバンが来ないですって?!」
 私は、宿の主人にくってかかった。
「こちらもわけがわからない。突然、砂漠縦断キャラバンが全く・・・。」
「じゃあ、どうしろって言うのよ!!」
「待ってもらう他は、・・・どうしようも。」
「冗談じゃないわよ!!マーシャ!!歩いていくわよ!!」
「歩いていくのか?砂漠には危険があふれかえっているんだぞ。」
「最低でも、次の集落までは行くわよ!!・・・歩いてどれぐらいなの?」
「今日中にたどり着くのは無理だ。」
 私達は、話を聞かずに宿を飛び出してった。
とにかく、一日でも早く、アーシェルのところに戻りたかった。
 砂漠の恐さは、最初、こっち側に来たときに知った。
砂嵐が一度起こると、目の前が全く見えなくなった。
一緒に乗っていた何人かも、あまりの暑さのせいで倒れてた。
 それに、この砂漠には、もう1つ、どうしても避けられないものがあったわ。
そいつらは、砂嵐と一緒に、私達の前にやってきた。
「来たわよ・・。」
「モンスターですか?」
「こっちに来る途中のキャラバンでも、ずいぶん暴れたからね。
 きっと、気がたってるわよ。・・・覚悟してね。」

 とんでもない数のモンスターだったわ。いちいちどんなモンスターが、
襲ってきたか、それに、どんな奴を斬り裂いたかなんて、考えていられなかった。
「マーシャ・・・、一気に進むわよ。」
「は、はい。・・・でも、どうすれば?」
「決まってるでしょ?」



 私はフラッシュリングを唱えたあと、すぐにシーナさんに連れられて、
砂漠をどんどん先に進んでいきました。
「あ、また来たわ。」
「ま、またですか?」
「ずっと、こんな感じよ。・・だから、またお願いね。」
「はい・・・。」
 シーナさんは、やってくるモンスターをどんどん攻撃していきます。
スカートもシーナさんを助けて、冷たい風を吹きます。
そして、シーナさんの合図があった時に、私はフラッシュリングを唱えました。
 何度も、砂嵐が襲い掛かってきました。
 そんなことをしている間に、太陽も沈んで、辺りは真っ暗になってしまいました。
昼は、あんなに暑かった砂漠が、今は、とても寒くなってしまいました。
 それでも、モンスターは、何度も現れては、私達は足を止められてしまいます。
 太陽が、またゆっくりと昇ってきて、夜が明けようとした頃に、
私たちはやっと、次の集落を見つけました。






 (36日目朝)
 グラニソウル大陸の東側は、ずっと砂漠が続いていたわ。
今、私達がいるのは、その中でも特に、長い間、雨が降らないことがあると、
たくさんの人が、飢えや増え続けるモンスターの被害にあって犠牲になる、
グリヌ荒野ってところにある集落だった。
 まだ、オアシスから水が湧き出ていることもあって、飲み水が確保できるこの場所は、
この地方の人にとって、最後の集落になってた。
 私達が、この集落にきたころには、もうどっちも無口になってたわ。
「・・・ここへは、何の御用でございましょうか・・・?」
「何しに来た・・・ですって?それが、宿屋の主人が疲れきった旅人に
 対して言う、最初の言葉なの?!泊まるのよ!!」

「宿泊ですか・・・、いいですよ。・・・食べ物は出ないのですが。」
「ああ!!もう、いい!!わかった!!早く、部屋に案内するの!!」
 部屋に入って休んでると、私もだいぶ疲れがとれて、落ち着いてきた。
「・・・はら減った・・・。なんで、メシの1つもでないのよ・・・。」
「シーナさん・・・。」
 結局、何にもやる気が起こらないまま、一日中宿屋で時間をつぶしてた。
「あぁぁ、早く行かなくちゃなんないってのに、何で、やる気起こんないんだろ。
 もう、考えるのもいや!!私、寝る!!」

 夜になっても、結局、空腹で眠れなかった。



 (37日目朝) いつものように私は太陽が出る頃には目を覚ましていました。
「あれ、・・・シーナさんも起きてたんですね。」
「眠ってないの。マーシャは何にもなかったみたいに寝てたわね。うらやましいわ。」
「どうしますか?これから・・・。」
「モンスターでもナイフでさばこうかしら。」
「た、食べるのですか?」
「・・・下、騒がしいわねぇ。」
 シーナさんは私の質問なんか聞いていませんでした。
下の階では、何人かの男の人達が何か言い合っているようでした。
「どうしたのでしょうか?」
「腹減ってて、イライラしてるってのに、・・・怒鳴りこんでくるわ。」
「え、ええ?!」
 私は、あっという間に下に降りてしまったシーナさんをあわてて追いかけました。
「うるさいわよ!!何騒いでんのよ!!」
「んだと、貴様ぁ!!殺されてぇのかよ!!」
「何ですって!!!」
「シーナさん!!落ち着いてください!!」
「落ち着いてなんてられるの?!殺すぞって言われたのよ!!、返り討ちにして・・・」

「いい加減にしねぇかよ、テメェらっ!!」

 宿のご主人の声で、みんな、いっせいに黙り込んでしまいました。
「・・・な、何なの?」
「す、すみません。取り乱してしまいました。申し訳ございません。」
「取り乱しすぎでしょ、キャラ変わってたよ、あんた。」
「しかし、どうなされたのですか、皆様。」
「食料が調達されないんだ・・。」
「たべものが・・・?」
「・・・この集落じゃあ、満足に畑を作ることもできない。
 それで・・・南のシルトの集落から・・・毎週食料が調達されるんだ・・・。」

「・・・はい。」
「・・・それが、グラニソウル縦断街道に急に・・・」
「急に・・、何だってのよ?」
「大量のモンスターが溢れ出したんだ。そんな理由だけで、集落の連中は、
 食べ物の輸送をあきらめちまったんだよ・・・。」

「大量?・・・数なんて、知れてるでしょ?あいつらが群れてるっていったって・・・」
「数がとんでもない。・・・見てきたが、ありゃあ、間違ってる。」
「間違ってる?」
「この前から・・・、そうだ、奴らが増えだしてから、キャラバンも来ねぇんだ。
 あぁぁぁ、なんで、モンスターなんかのせいで!!また、腹立ってきやがった・・。」

「あ、あんた・・・ズルいわよ!!私だって我慢してんのに、あんたらだけ!!」
「シーナさん!!おなかがすいてるのはみんな同じです!!」
「わ、わかってるわよ!!でもねぇ!!」

「どいっつもこいつもよぉ!!テメェの勝手ばぁ口しゃあがってよっ!!
 ふざけんなよ!!!このままでええってんのかよ、おい、どうなんだ?!
 グダグダ言ってる場合とちゃうだろうが、ああ?!!」


 ご主人は、明らかに最初の時と印象が変わっていました。
「私、パスね。ただでさえ腹減ってるってのに、なんで、モンスター退治なんか
 しなくちゃなんないわけ?この私が?冗談じゃないってのよ。」

「い、いえ、・・・行ってくださいと言ったのではございません。」
「もう、あんた、ややこしいわよ。」
「・・・このままじゃ、全員、餓死しちまうな。」
 男の人の発言を最後にしばらくの間、誰も口を開きませんでした。



 沈黙を最初に破ったのは、キャラがよくわかんない宿の主人だったわ。
「だれか、グリヌ荒野に行きませんか・・・?」
「グリヌ荒野・・・ですって?」
「・・・どういうことだ?」
「街道からは大きくそれます。遠回りになることは確かですが、
 それでも、モンスターの数は少ないでしょう。」

「で・・、私達のうち、誰かに・・・荒野に行けって言うわけね・・。」
「私も行きましょう。」
「・・・へぇ、だから、誰かついて来いってわけ?」
「・・・いっしょに来てくれるのでしたら、ここにある最後の食料を・・・。」
 私を含めて、回りが全員一気にどよめきはじめたわ。
「なんだと?!まだ、食料残ってんのか!!!」
「・・・私の分をあわせて、3人分でございます・・。」
「しかし、荒野か・・・。」
「私がいくわ。」
 私は、すぐそう答えた。
「そうですか・・、あなたが来てくださるのですか。」
「私だけじゃあないわ。」
「えっ?」
「そちらの方もですね。」
「ちょ、ちょっと・・・ええ?!」
「いいわよね!!!マーシャ!!!決まり!!!」
「・・・は、はい。」
「では決まりました。他の方々は、私達が戻るまで、待っていてください。」
「・・・う、わかった。」
「なら、2人。・・・奥へ来てください。」
「・・お食事、いただきますっ!!!」






 (37日目昼)
 私達は、集落の人達の食料を調達してもらうために、モンスターであふれかえって
しまっているという街道をさけて、遠回りして南の集落へ行くことの代わりに、
最後のお食事を出してもらいました。
「・・・ははは!!腹いっぱいよ!!!もう、なぁんにもしたくない!!」
「シーナさん?!お約束は!!」
「えええ?・・・もう行くの?いいじゃん。ちょっとくらい休んだって。」
「ダメです!!お約束はお約束です!!そんなこと言っていると、
 また、宿屋のご主人様が、怒ってしまわれます・・・。」

「す、すみません。取り乱してしまうと、自分でもわからないうちに、
 性格が豹変してしまうようで・・・。」

「・・・わかったわよ。」
 私達は、宿から外へ出ました。
「頼むぞ、お前ら。・・・南の連中に絶対に話つけてくれよな!!」
「はいはい、わかったよ。まぁ、ゆっくり待っててなさいって。」
「とにかく、なるべく早く戻ります。待っていてくださいませ。」
「行ってきます!!」



 集落からほんのすこし離れたところだったわ。
「!!!」
「ど、どうなされたのですか?!」
「な、何よ?突然!!」
 宿屋の主人がその場でうずくまっていたわ。
「まだ、ぜんぜん離れてないじゃないのよ!!」
「す、すみません・・・。ここ、何週間も、まともな食事を・・・
 とっていなかったもので・・・・。情けないことです。」

「どういうこと?」
「こういうことは、砂漠の中で暮らす私達にとって、よく起こることなのです。
 毎週のように、あんな暴動が起こってしまって。私だけでも我慢していれば、
 そう思っていたのですが・・・、もう、限界のようです。」

「そんな環境にいれば、性格が壊れちゃうのも・・・仕方ないわね。」
「2人だけで、・・・行ってくれないだろうか。」
「そういうあんたは・・・?」
「・・腹をすかせた、モンスターの餌食にでも、なってしまうのでしょうね。」
「え?!」
「何言ってるのよ!!・・・分かったわよ、すぐ行ってくるから。
 待ってるのよ。それまで、喰われるんじゃないのよ!!」

「・・・すみません。」
「行くわよ。」
「はい。」

 途中からだんだんと道がでこぼこになってきた、っていうより道なんかなくなってた。
「・・・足場、悪すぎよ。」
「こ、こんなところで、モンスターなんかに出会ってしまったら・・・。」
「冗談言わないでよ。・・・そんなの勘弁してよ、ほんと。」
 道が悪いのは最低だったけど、モンスターが出てこないだけ、まだマシだったわ。
「・・・荒野中のモンスターが向こうにいっちゃったってわけ?」
「そうなのですか?」
「私が知るわけないじゃない。それにしたって、一匹も出てこないなんて、
 逆に不気味よ。まぁ、なんにしたって、出てこないんなら、出てこないで、
 こっち的には大歓迎だけど。」

 足をとられて、何度もつまずきそうになりながら、しばらくずっと歩いてた。
「シーナさん!!集落が見えます!!」
「え、ホント?」

 そこから先はずっと下り坂になってて、その一番低いところに、集落が見えた。
「あれが、シルトの集落ね。それじゃ、急ぐわよ!!」
「あ、シーナさん!?い、急ぐって・・・。まだ足元はこんなにでこぼこ・・・。」
「ソコマデだよ。」
 私の前にそいつは急に現れやがった。
「何よ、あんた?」
「ワタシ・・・ワタシかい?ティサートってのがワタシのナマエ。
 アンタたち、コウヤからキタってムダよ。」

「邪魔しようっての?冗談じゃないっての。」
 私はそいつなんかほっといて、さっさと歩き始めた。
「フレイム・・・ホール!!!」
 突然、そいつから魔法が放たれた!!私は一気に燃えさかる炎に取り囲まれたわ!!
「!!!」
「シーナさん!!!」
「ワルイコにはオシオキしてアゲナイとね。」
「なんてことを・・・。」
「―――魔法のせいにして・・・悪いけどね、・・・アンタが、やったの?」
「ナンノコトだか。」
「しらばっくれる気・・・?街道にモンスター集めるなんて・・・、
 悪趣味なこと・・・・、アンタみたいなふざけた奴じゃない限り・・・やんないわ。」

「サァ、ソンナコトしたカナァ?」
「アンタのせいで、みんな困ってんの!!口でわかんないなら、たたっ斬ってやる!!」



 シーナさんは、一気にティサートさんに向かって走ってナイフで斬りつけました。
「あんまり、私を怒らすんじゃないわよ!!クロスブレイカーッ!!」
 シーナさんは足元をとられて、ナイフは何もないところを斬り裂いていました。
「ドコミテルのカシラね。バカなコムスメはスコシのアイダ、オネムリ!!」
「んな、・・・ち、ちっくしょぉ・・・・。」
 シーナさんはそのまま眠ってしまいました!!
「フレイム・・・ホール!!」「冷たい風よ!!」
 スカートがティサートさんに向かって、冷たい風を吹き出しました!!
「それに私も!!フラッシュリング!!!」
 光の輪が何度もティサートさんにぶつかって行きました。
しばらく、それをじっと耐えていましたが、やがて私の方に向かってきました!
「オジョウチャンもモヤシテシマウよ!!フレイムホール!!」
「魔法は私には効きません!!マジックシールド!!!」
 魔法の炎に取り囲まれてしまいましたが、私はロッドを握り締めました。
「私たちは急いでいます!!どうしても通してくれないのなら!!!」
「・・・私達がアンタをぶっ倒すまでよ。」
「ナニッ?!」
「行きます!!」「行くわよ!!覚悟しなさいよ!!!」
 私のロッドとシーナさんのナイフで一緒に攻撃しました!!
「い、いない・・・。」
「オ、オボエテイロォッ!!!」
 ティサートさんは、そう言い残して姿を消してしまいました。
「なんだったのよ、今の?」
「逃げて行ってしまいましたね。」
「もう、わけわかんないわよ。さっさと行くわよ!!」






「やっと、ついたわ。・・・さ、はやく文句言いに行こうかしらね!!」
「ええ?!」
「わかってるわよ。・・・でも、許せないじゃない。モンスターの1匹2匹に・・・。」
 私とシーナさんが2人で話していると、横から男の人が話しかけてきました。
「・・・あんたら、・・・どこから来たんだ?」
「は?荒野からだけど?」
 男の人はシーナさんの答えを聞いて、真っ青になってしまいました。
「ど、どうなされたのですか?」
「い、いや・・・。まさか、奴を倒してここまで来たのか?」
「奴って?・・・ティサートとか言う悪趣味な奴?」
「そうかそうか・・・、よかった。これで平和が戻ってくる。」
「え?」
 男の人は、とっても安心したようでした。
「ここらに住みついていた、魔法使いの姉妹でな・・・、迷惑ばっかりかけやがる。
 最近は、ちっとイタズラが行き過ぎてたからなぁ・・・。
 これで、街道のモンスターもいなくなるだろうよ。」

「ちょっとまって?・・・姉妹、そう・・・言ったわよね?」
「どっちも・・・倒されたんですよね?」
 シーナさんは、表情を変えずに男の人を見ていました。
「・・・まさか・・・。」
「ティサートの奴だけよ。」
「フィサートは?!あいつがまだいる!!」
「フィサートさん・・・ですか?」
「奴はティサートの妹―――こいつは
 姉よりも性質の悪い奴・・・どうすりゃいい?!」

「この際ねぇ、そんなこと私達に、ぜんぜん関係ないわけ。
 そんなこと、どうでもいいから、食料。どこあんの?」

「・・・荒野から来たんだったよな?・・・宿屋の隣の家だ。」
「あ、そう。分かったわ、ありがと。」



 それから少し歩いて、私達は宿屋までたどり着いたの。
「・・・疲れちゃった。もう、休みましょ。」
「え?食料は宿屋の隣ですよ!!」
「あのねぇ、これから帰んないといけないのよ?もう、疲れちゃったわよ。
 決まり!!今日は宿屋に泊まるわよ!!」

「で、でも・・・食料だけは・・・先に・・・。」
「もう・・、分かったわよ。行くわよ!!」
 マーシャがあんまりしつこかったんで、仕方がなく私達は隣の倉庫まで来た。
「・・・鍵かかってる。」
「外出中・・・でしょうか?」
「それならそうと言えばいいじゃないのよ。今度こそ決まりね。」
「は、はい・・・。」
 なんとなくだったけど、外出中ってのとは、違うような気がした。
 結局、そのまま宿に入って、部屋の中で休むことにした。



 (37日目夜)「・・・ククク、よくネテル。イタズラ・・・シテヤルかな?」
 その人は、窓から静かにそっと入ってきました。
「クククククッ・・・。」
 突然、部屋が明るくなりました!!
「クァッ?」
「ガサゴソなんかやかましいって思ったら、あんた、ティサートね!!」
 シーナさんは明かりをつけていました。
「ティサート?シツレイな、マチガエるんジャナイよ?」
「あなたが、妹さんですね?」
「クッ、・・・オマエら、イツカラ気付イテいた?」
「最初っから。」
「・・・クリスタルブリザード!!」
 フィサートさんの魔法で、部屋の中に吹雪が吹き荒れてしまいました!!
「なんてこと・・、あんた、ここ!!宿屋よ?!分かってんの?」
「カンケイないね!!ワタシはオコッタわ!!」
「怒った?なんで?」
「イチイチハラたつヤツ!!コンフュージョン!!」
 突然、シーナさんの動きが止まってしまいました。・・・低くうなっていました。
「シ・・・シーナさん?」
「・・・・。」
「ククク、ナイフなんてアブナッカシイもの、モッテるからよ。」
 シーナさんは、完全に理性を失ってしまっていました。
「アンタのテキはアッチよ、ククククッ!!」
「シ、シーナさん!!」
「な、・・・こ、コッチを、ムクナ!!」
 シーナさんは、完全に混乱したまま、フィサートさんに向かって、
ナイフを突きつけていました。
「た、タシカにコンランさせたハズなのにぃ!!」
「・・・・。」
「フラッシュリング!!」
 横から私は、フィサートさんにフラッシュリングをぶつけました!!
「バカに・・・シオッテっ!!」
 フィサートさんが私を見て、すぐに何かの魔法を唱えました!!
「・・・力が抜ける・・・。」
「マッタク、・・・モウイチドサイショからイクわよ。クリスタル・・・」
 ・・・シーナさんが、フィサートさんをナイフで突き刺しました。
「・・・ナンダ?」

「もう夜だからさ、・・・静かに落ちてね。」

 急に静かになったあと、フィサートさんは、悲鳴を上げながら落ちていきました。
「さぁ、寝ましょうか。」
「は、・・・はい。そ、その?・・・どうして?」
「ん?寝ないの?」
「い、いえ・・・。おやすみなさい。」



 (38日目朝)
「あの、・・・昨夜は何かございましたのでしょうか?」
「あ、あの・・・その・・・。」
「また、・・・フィサートの奴ですか?」
「そうみたいよ。」
「・・・ま、また・・・ですか?」
「こんなうっとうしい事する奴は、ティサート・フィサートで決まりか・・・。」
 私達は、そのまま黙ってた。
「それじゃあ、またのお越しを!!」
「・・・。」






 (38日目朝)
 私達は、また食料がおいてあるっていう小屋の前までやってきた。
「それじゃ、入るわよ。」
「はい。・・・あ、あれ?」
「どうしたのよ?・・え、まだ外出中だっての?!」
「ど、どうしましょうか?」
「・・・物置小屋よね?」
「そ、そうですけど・・・。」
 私は、ナイフをしまって、深呼吸した。
「な、何をするんですか・・・?」
 私は、一気にドアを蹴破ったわ!!
「シーナさん!!!」
「な、・・・何よここ、ボロボロじゃない!!」
「あんなに強く蹴るから・・・。」
「私がやったっての?―――って冗談言ってる場合じゃないわね。」
「・・・だれだ・・・、おまえら・・・・・・。」
 中から、顔の青ざめた男が歩いて出てきたわ。
「いったい・・・何が・・・」
 その時、突然ドアが閉まったのよ!!!



「えっ・・・、そ、そんな!!鍵がしまってる!!」
「遅いわ!!!クロスブレイカー!!」
 シーナさんを急にその男の人が襲いかかっていました!!
「・・・倒れないってことは、・・・あんた、普通の人間じゃないね!!」
 突然、男の人は、シーナさんに向かって紫色の息をふきつけました!!
「な、なにすんのよ?!・・・・うっ、これ、・・・毒の息だっての・・・?」
「シーナさん!!!リフレッシュ!!」
 ゆっくりと青ざめていたシーナさんの顔がもどっていきました。
「・・・あんた、ポイズンゾンビとか言う奴ね。・・・あんたみたいなの、
 私、ホントにいやなんだけど・・・。」

 その男の人は、キュアを唱えていました。
「だから、・・・さっさとけりつけるわよ!!」
「フラッシュリング!!」
 私がフラッシュリングを唱えたすぐあとに、スカートも冷たい風を吹きかけました。
「キュアなんかかけさせないし、毒の息だって吹き飛ばせばこっちのものよ・・・」
 急に、その男の人の手の部分が光り始めました。
「シーナさん・・・?」
「マズいわ・・、忘れてた。・・・マーシャ!!シールドチャージして!!」
「えっ?!!」
「は、早くっ!!」



 遅かったわ。私の前からポイズンゾンビの奴の姿が急に消えて・・・。
「・・・・マーシャっ!!!」
 マーシャは、激しい攻撃を受けて、ゆっくりと倒れていったわ・・・。
「よ、・・・よくも、・・・よくもマーシャを!!」
 私は、完全にキレてたわ。防御なんか何にも考えずに、
クロスブレイカーにバーニングスラッシュを連発してた。
 冷静になった頃には、完全にボコボコにしていた。
「うう・・・ううううう・・・。」
「なんか、まだ言い足りないってんの?」

「ヤクにタタないヤツだねぇぇ・・・。」

「その、ヤル気のない声は・・・。」
 奥の方からティサートの奴が出てきたわ。
「まさか、これも、あんたの仕業だっての?!」

「もうスコし、アソンでてアゲテもヨかったのに・・・。」

「・・・いい加減にしろよ、おまえら・・・。」
 その横からフィサートまで出てきたわ。
「どうした?オコったか?!」
「覚悟しろよ、私を、完全にブチキレさせたんだからね・・・。」
「おお、コワイコワイ・・。」
「ゾクゾクするネェ・・・。」
「・・・スカート、ありがとね。」
 後ろで、薬草で回復したマーシャがゆっくりと立ち上がろうとするのが見えたわ。
「シーナさん・・・。」
「マーシャ、私・・・。―――暴れるから。」
「!!!」
「ど、どうしてソコまでオドろくンだ?!」
「わ、わるいことは言いません!!あきらめてください!!死にますよ!!」
「さぁて、楽しいトークタイムは終了!!」



 シーナさんはそれから、思う存分暴れ始めました。
「や、ヤバいよ!!どうする、クルよっ!!」
「フ・・、フレイムホール!!」
「ク、クリスタルブリザード!!」
 シーナさんを猛烈な炎と猛吹雪が同時に襲い掛かってきました!!
「あんたたち、・・・攻撃が、ぬるいわよ。」
「と、トまらない!!」
「そ、ソンナ?!」
「た、大変だ!!」

「・・・地獄で会いましょうね。」

 シーナさんの最後の攻撃が完全に決まりました・・・。
私には、とても今何が起こったか、説明することは出来ません。
あまりにも、一瞬の出来事でした・・・。

「はい、終了。マーシャ・・、大丈夫?」
「は・・・、はい。へ、平気です。」
「そう?・・・はぁ、疲れたわ。」
「ったた・・・。こ、ここは・・・?」
 倒れていた男の人がゆっくりと立ち上がりました。
「あんた?!・・・い、いったい、何なのよ?」
「た、大変だ!!・・・は、はやく食料を調達しなければ!!」
「何があったって言うの?」
「・・・お、思い出したぞ。ティサートと、・・・フィサートの奴に!!
 こ、こんなことしてる場合じゃない!!」

「じゃ、あんたは、ずっとここで寝てたってわけなの?」
「ね、寝てたって・・・、ティサートさんとフィサートさんに、
 何かの魔法がかけられてしまっていたんですよ!!」

「ま、なんでもいいわ。それじゃ、帰ろうか?」
「よし、それじゃ、2人とも、手を貸してくれるか?」
「え、な、なんで私達が・・・?」
「・・・は、はい。」






 (38日目夕方)
 グリヌ荒野の集落へたどり着いたのは、夕方あたりでした。
「おお・・・、ホントに戻ってきた・・。」
「遅くなってすまない。どう、わびればいいか・・・。」
「もう戻ってこなかったらどうしようか、ずっと心配していました。
 本当によく戻ってこられました・・・。」

「ごめんなさい。・・・いろいろあったので・・・。」
「あ、そういえば、宿屋のおじさん?もう、大丈夫なわけ?」
「お、おじさん?・・・わ、私は23だぞ?」
「え、ウソ・・・?」
「マーシャ!!そんな、いきなりズバっと言わなくたって!!!」
「お、おい・・・、わ、私は、私は23だ!!!」
「ご、ごめんなさい!!おじさん!!」
「23だっ!!!」
「あぁぁ、もう分かったって。せっかく食料来たってんだから、
 少しは、おとなしくしてろって・・。」

「ま、とにかく、一件落着ってとこね。それじゃ、晩ごはんってことに・・・」
「シーナさん!!早く、先に行きましょう!!」
「な、・・なによ?せ、せっかく一件落着だってのに?」
「アーシェルさんは心配じゃないのですか?!」
「・・・わ、わかったわよ、そりゃあ、ちょっと寄り道しすぎちゃったけどさ・・。」
「もう夜だぞ?・・・わるいことは言わないから、今晩くらいは泊まっていけって。」
「悪いけど、私達も急いでるから・・・。」
「命の恩人からお金はとらない。だから・・・」
「じゃ、おかまいなく。」
「・・・。」



 (39日目朝)「では、よい旅が続けられますよう・・・。」
「わかったわ、ありがとね。・・・結局キャラバンは来ないみたいだし、
 やっぱり、しばらくは歩きってこと?」

「おかしいな・・・。なんで、シルトからキャラバンがひとつも来ないんだ?」
「え?・・・だ、だって、今までずっと来ていませんでしたよ?」
「あんたの集落の人間、ヒドいのよ!!モンスターがあふれかえってるからって、
 全然、キャラバンも出さないし・・・まぁ、食料がこなかったのは、
 あんたがまぬけだったからとして・・・。」

「・・・ここに来る途中、・・・モンスターはいたか?」
 突然、私は何がひっかかっているのかがわかったような気がしたわ。
「そうよ、・・全然気付かなかった。・・モンスターの気配が、・・・消えた?」
「え、だって・・・、ティサートさんとフィサートさんが原因だったのでは・・・。」
「そ、そうだけど・・・。」
 悩んでも仕方がないわって言って、私達2人と、一緒に食料を運んだ何人かの
シルトの集落の人たちで、シルトの集落へと歩いていったわ。



 (39日目昼)
「・・・気のせい?・・こんな静かな集落だったっけ?ここ・・・。」
 街道にはモンスターは全く現れませんでした。
「静かだ・・、静かすぎる・・・。」
「まるで、・・集落に、誰もいないみたい・・・。」
「そんなバカな?!」
 何人かが、集落の家々へと走っていきました。
「いったい・・、何がおこったっていうの?」
「!!」
 私は、集落の東のはずれで、不思議なものを見ました・・・。
そして、驚いている私に気付いたシーナさんも、それをゆっくりと見ました・・・
「な、何よ、これ・・・。」
「―――ティサートさんと・・・フィサートさん・・・?」
 姿はそのとおりでした。・・・でも、全く動きそうではありませんでした。
体中が真っ白で、冷たく凍り付いているようでした・・・。
「・・・何だって・・・言うのよ?」
「いったい、・・・何が起こったんですか?」
「ねぇ、ちょっと、あんた・・?・・・あ、あれ?!ちょっと、どうしたの!!!」
 一緒に来ていたはずの男の人が、・・・後ろで、同じように凍り付いていました。
「・・・何が、何が起こったのですか?」
「・・・ひょっとして、集落の人、・・・全員・・?」
 私とシーナさんで一緒に集落を回って見ました。
「・・・気味悪い。何よ、これ?」
「それに、みんな白くなってるけど、・・・冷たくもあったかくもなかった。」
「死んでる・・・ってそんなわけはないわ。でも、気絶ってのとも違う・・・。」
 しばらく、私達は黙っていました。
「・・・ま、いいか。」
 シーナさんは、急に何もなかったように東へと歩こうとしました。
「!!!」



 突然、私は頭の中が真っ白になった。ぐるぐると辺りが回って、
まるで、何も見えない真っ暗な闇に吸い込まれてるみたいな感じになってきた。
だんだん、体中の感覚がなくなって、ゆっくりと、意識も・・・。
「シーナさん!!シーナさん!!!!」
「はっ!!な、何が起こったの?!」
「はぁ、よかった・・・。シーナさんまで、・・・あんな風になっちゃったら、
 どうすればいいんだろうって思いました・・・。」

「わ、わたしも?」
「でも、よかった・・・。」
 私は、ゆっくりと今、起こったことをマーシャに話そうとしたわ。
「・・・あれ、もう、・・・聞こえない。」
「何が聞こえたんですか?」
「・・・わかんない。」
「え?」
「でも、・・・南。そうよ、南から聞こえた。」
「南・・・ですか?」
「私達は、・・・行かなくちゃダメ。」
「誰が、誰が・・・何と呼んだのですか?!」
「わかんないわ!!と、とにかく。行かなくちゃ!!このままじゃ!!!」
「わ、わかりました!!行きましょう!!」
 こんなに、私がどうにかなっちゃってるなんてこと初めてだった。
変に落ち着かなくて、ふとした瞬間に、ものすごく不安になってた。
「シーナさん?・・・ど、どうしたのですか?」
「え、な、なんでもないわ・・・ほ、ホントよ!!」
 近くにマーシャがいなかったら、きっと、私は一人で立ってもいられなかった。
マーシャが近くに寄ってくれるだけでも、不思議と安心できた。
 それでも、南にいかなくてはならないという気持ちは、どうしても消えなかった・・。






 (39日目夕方)
「・・・ここは?」
「聞いたことがあるわ。・・・奇跡の泉の遺跡。」
 あたりからはモンスターの気配もなくなっていた。
今、聞こえる音は、吹き付ける砂嵐の音だけだったわ。
 砂漠の南の端。海に面したこの場所には、遺跡がいくつもあったわ。
「ま、私は、手配書で知ってるだけだから、ここのことは、よく分かんないわ。
 ―――でも、・・・声は、ここからした・・・。」

「奇跡の泉というのは・・・?」
 私は、ゆっくりと遺跡の中へ入っていったわ。
「ほら、あった。・・・見て。これが奇跡の泉。この砂漠の真ん中で、
 湧き出てくる不思議な水だって・・・。」


「・・・とても、おいしい。それに、なんだか甘い・・・。」
 しばらくここで休憩してから、私達は遺跡の中を探索し始めたの。
でも、相変わらず、モンスターの気配がまったくなくなってた・・・。
「なんで、灯りがついているのですか・・・?」
「だから、知らないって言ってるじゃない。いいのよ、この際、そんなこと・・・」
 2人とも、奥の方から何かが出てくることに気付いてたわ。
「何かが、・・来ます。」
 そいつらは急に姿を見せたわ!!
「スライムが4、それに、あ、あいつは?!」
 指名手配リストにそいつの顔があったのを記憶してた。
手には鎌も持ち、その姿を見るものを死に誘う、闇の生き物・・・。
「久しぶりに、手ごたえありそうな奴そうね・・・。」
 スライムたちがいっせいに砂塵の煙を吹き出し始めた!!
「シーナさん!!」
「ひるまないで!!視界が開けたらすぐに攻撃よ!!」
 スライムたちはそんなことを許してくれなかった。
私にむかって、いっせいにフレイムホールを唱えてきた!!
「・・・うっ、・・マーシャ、私に構わず・・・、もう一人の奴よ!!」
 すぐにでもキュアを唱えそうだったマーシャに私はそう言った。
「で、でも!!」
「くるわっ!!」



 急に体中がとても冷たくなってきました。
「!!」
 杖を持って後ろを振り返りました!!
スカートがすぐさま飛び上がって、そのこわいモンスターに攻撃し始めました!!
「スカート!!」
 スカートは、モンスターが持っていた鎌をうまくかわしましたが、
どうしても、モンスターの近くまでよることが出来ません!!
「・・・スカート、よけて!!」
 スカートが私の合図で横に飛んだすぐあとに、私はフラッシュリングを唱えました!
そのすぐあとでした。目の前が、真っ白になって、体中が凍りついてきました!!
「マーシャ!!何してるの?!よけるのよ!!」
 シーナさんの声が遠くで聞こえました。
でも、私は目の前に、モンスターが持ってる鎌の先が向かってくるのを、
ゆっくりと見ているだけでした・・・。
「よけるのよ!!!!」
 ―――私の目の前には、スカートがいました。
「・・・ス、スカート・・・?」
 そのスカートの背中には、鎌の刃が突き抜けていました!!
「よけて!!とにかくよけるの!!」
 シーナさんの声で、私はとにかく横に走りました!!
次の瞬間、猛烈な吹雪が巻き起こりました・・・。
「スカート!!!」
 すぐ横にシーナさんが来ました!!
「お互い、相手が悪かったわ。スライムをひきつけたわ。
 あとはまかせたわよ。そのかわり、私がアイツを殺る!!」

「ど、どうすれば!!」
 シーナさんはすぐさま攻撃しに走り出しました!!
「フ、フラッシュリング!!」
 近づいてくるスライムたちに私はとっさに魔法を唱えていました!!
スライムたちは、光に包み込まれて一瞬止まりましたが、すぐに、
シーナさんの方にむかって進み出しました!
「ちょ、ちょっとまってよ!!!」



 私はなかなか攻撃できなかった。ナイフで斬り付けようにも、
奴はスカートを突き刺したままの鎌で、それに応戦してきた・・・。
ヘタすれば、スカートごと斬っちゃう・・。
「攻撃しなければ、私は勝てない・・・、それに、スカートももたない・・・。」
「シーナさん!!」
「えっ?!」
 私が振り返った瞬間、あのスライムたちがいっせいにフレイムホールを唱えてきた!!
「な、なにやってんのよ?!」
 背後から、突然寒気が襲ってきた・・・。
「う、うそっ?!」
 私ははさみうちになった!!
猛烈な炎と鎌の刃に体中を貫かれるのを感じた・・・。
「シーナさん!!!」

「・・・さっきから、私ばっかり、私ばっかり・・。」
 シーナさんはいっせいに攻撃されてたはずだったのに、傷がありませんでした。
「え・・・、スカート?」
「・・・待って、この子。スカイラットじゃ・・ない!!
 クリームハムスター。確かそんな名前よ!!」

 スカートの姿が突然変わりました。そして、自分で鎌から抜けて、
今までとは比べ物にならないほどの、冷たい風を吹き出し始めました!!!
「す・・・すごい!!」
「ってことは、私も攻撃できるわね!!覚悟しなさいよ!!」
 シーナさんは、一気にクロスブレイカーでモンスターを倒しました!!
「スライムも凍り付いちゃったし、これで終わりね。」
「・・・シーナさん。急に、周りが・・・。」
「気付いてるわよ。モンスターが集まってきてるわ。」
「でも、もう、行くしか・・・。」
「ここまで来た以上はね・・・。」
「あの、・・・この子、クリームハムスターっていうんですか?」
「そ、そうだけど・・・・ま、まさか?」
「それじゃ、今日からあなたは、クリートね!!」
「・・・ちょ、ちょっとそれ・・・無理ない?」






 (39日目夜)
 私達はそのまま遺跡の奥深くまで下りていった。
「シーナさん、扉が・・・。」
「一応、これが最深部ってとこかしらね?どうする?入る?」
「はい。」
 私は、ゆっくりとその扉を開いた。
「・・・暗くて、何も見えません・・・。」
「待って、誰か・・・いるわ。それに・・・。」
 中からは、何かの動物が低くうなるのが聞こえた。
そして、私をこの場所へと呼んだ、もう一人の何かがそこにいたの・・・。
「アンタ・・・いったい、何者なの・・・。」
 中で2体のモンスターの目が光るのを見たわ。
それから、モンスターは真ん中へと集まっていった・・・。
「女の人・・・。」
「・・・見えた。」
 暗い部屋の中で、その女が立ち上がるのが見えた。その瞬間、
また、私は体中が凍りつくような気がし始めていた・・・。
「マーシャ・・・。わ、私・・。」
「シーナさん!!来ます!!」
 マーシャの声と同時にその女はフレイムホールを唱えてきたわ!!
でも、私はその場から動くことが出来なかった!!
「シーナさん?!」



 そのすぐあとに、クリートが前へ出て行って、走り出しました!
「しっかりしてください!!」
「ご、ごめん。・・そ、そうよね!!」
 シーナさんは、すぐにナイフを握り締めて、走り出していきました!!
「何が目的かわかんないけど、あんた、危険すぎるわ!!」
 シーナさんのナイフでその女の人を攻撃しようとした瞬間に、
横から、モンスターがシーナさんに飛び掛ってきました!!
「な、こいつは、ケルベロス?!」
 ケルベロスというその犬のようなモンスターは、すぐにシーナさんに飛び掛り、
鋭いつめで、シーナさんを思いっきり切り裂きました!!
「こいつら、身代わりしようっての?!」
 もう一体のケルベロスが凍える風をシーナさんに吹き付けました!!
「くっ・・・、こいつら、早く片付けないと・・・。あ、マーシャ!!」
 もう一体が、急に私の方に向かって走りよってきました!!
「クリート!!」
 クリートが私の目の前でケルベロスに向かって、何かを吹き付けました。
その粉をケルベロスが吸い込んだとたん、ケルベロスはその場に倒れこんでしまいました。
「眠りの粉・・・、都合がいいわ。マーシャ!!早くこっちに!!」
「はい!!シーナさん!!」
 私は、すぐシーナさんの近くまで寄って、キュアを唱えました。
「また来るわ。ケルベロスは、とにかく速いのよ!!」
 シーナさんは一瞬で、ケルベロスの攻撃をナイフで受け止め、
すきを見つけて、一気に斬りつけたあと、後ろにとび着地しました!!
「シーナさん!!!」
 突然、シーナさんは雷に包み込まれてしまいました・・。
私は、すぐにマジックシールドを唱えました!!
「マーシャ!!」
「大丈夫ですか!!・・と、とにかく、早く!!!」
「そうね、覚悟しなさい!!」
 シーナさんの腕が赤く光り輝きました。次の瞬間、向かってくるケルベロスに、
シーナさんのバーニングスラッシュが決まりました!!
「・・・ふふ、なかなか、そう簡単には倒れてくれなさそうね・・。」
「クリート!!私達もいくわよ!!」
「ちょ、ちょっと!!後ろ!!!」



 マーシャの背後から、もう一体の目を覚ましたケルベロスが飛び掛ってきた!!
「えっ!!!」
 なんとか、マーシャはその攻撃をかわしたみたいだった。
でも、すぐにケルベロスは向きを変えて、マーシャを攻撃しようとした!!
「!!!」
 突然あたりの風景が変わった。周りがぐるっと回って・・・。
私は、ケルベロスに強烈な攻撃を加えられて、空中を舞っていた!!
何も出来ないまま、私は地面にたたきつけられたわ・・・。
「う・・・く、くそ・・・。」
「シーナさん!!クリート、シーナさんのところへ!!」
「マーシャ・・・、ゴメン、二体とも・・・そっちにいったわ・・。」
 私は、体中がボロボロになってた。このままだと、マーシャは何にも出来ず、
ケルベロスたちに、殺される・・・。
「わ、私が・・・。」
 そのとき、私は急に体が軽くなるような気がした。私の横には、クリートがいたわ。
「あなた、まさか・・・」
 クリートが急に殺気立って、私の元から離れたわ!!
次の瞬間、クリートをサンダーストームの猛烈な雷撃が包み込んだ!!
「クリート!!・・・そ、そうよ、今なら・・・倒せるじゃない!!」
 私は、ナイフを握り締めて、まっすぐ、その女の方に走りよった!!
「もう、アンタの身代わりなんかいないのよ!!覚悟しなさい!!!」
「そのために、仲間を犠牲にしたというの?」
 その声で、一瞬体中が冷たくて凍りつきそうになった。
「へへ、・・さぁ、それはどうでしょうねぇ。」
「どうしたの?体中がふるえてる・・・。どこにそんな余裕があるの・・?」
「私ってば、すぐ忘れちゃうのよね。」
 後ろから、轟音が響いてきた・・・。
「・・・ひ、ひどい・・・。私に2体とも任せるなんて!!」
「あの子の恐ろしさ、忘れちゃうなんてね・・・。」
「ま、まさか・・。ケルベロスを・・一人で・・?!」
「とにかく、アンタは私がぶっ倒してあげるわ。
 もう覚悟する時間は終わり!!・・・地獄でまた会いましょうね!!
 クロス・・・ブレイカー!!!」

 その女は、部屋中に響く悲鳴と一緒に、気絶したわ・・・。
「・・・やっと、終わった。・・・なんだか、急に楽になったわ。
 さっきから気持ち悪かったのは、やっぱり、こいつのせいだったようね。
 そ、そういえば、ス、スカート・・・だっけ?さっきは、キュアありがとね。」

「クリートです!!・・え、キュアが使えるのですか?」
「そ、そうよ・・・、って知らなかったのに、クリートを私のところへ?
 ・・・ま、いいわ。でもよかった。思ったより、マーシャが強くて。」

「え?そ、それじゃあ、ホントに私を犠牲にしようとしてたのですか?!!」

「茶番は、・・・ここまでにしましょ。」






 (39日目夜)
 その女はまだ動けるみたいだった・・・。
「あ、あんた・・・。まだ、やろうって・・・いう気?」
「私としたことが・・・、まさか、こんな小さな子供に・・・。」
「子供ですって?いいわよ!!もっと、本気でぶった斬ってやろうじゃない!!」

「・・・幻の雫の結晶ね。」

 突然、女の声が変わってた。というより、恐ろしい声じゃなくなってた。
「わ、私・・・。」
「この闇の力が乱れる場所で、平然としていられる・・・、
 それは、あなたが雫の結晶を手に持つから・・・。」

「わかんないわね。・・・一体、どういうこと?まず、アンタって結局、何者なの?」
「私は、デュークリューナ。闇の封印を守るため、セリュークに創られた存在。」
「セリューク様?」
「今まで、私は長い眠りについていた。でも、いつしか、周りの闇の力が、
 いっせいに増大してきた。私自身、その影響で、一部分が私を離れ、
 この場より、外へと出て行き、暴走をしていた・・・。」

「・・・ティサートさんと、フィサートさん・・・。」
「そ、それじゃ、・・・あの2人は、あんたの・・・。」
「・・・あなたたちにわかるように言うなら、あの2人は、私の子供のようなもの。
 闇の力は、理性を失わせ、すべての者を凶暴な性格にし、攻撃させる・・・。
 まだ幼い、あの子たちは、私の意識が戻るまでに、支配されてしまったの・・・。」

「それじゃ、そのあと、集落の人やあいつらが凍りついたのは・・?」
「私が目を覚まし、すべてを闇に支配される前に、この地を中心に
 すべての存在の行動を、封印しようとした。すべての者が闇に支配される前に。」

「・・・そして、どうしようって思ってたのよ・・?」
「私には、これ以上のことは何も出来ない。ただ、闇がこの地を覆うのを、
 待つことしか・・・。私には、それしか、許されない・・・。」

「で、結局、あんたも、その・・、闇に支配されちゃったっての?それで私達を?」
「でも、あなたたちは、それを打ち破った。自ら闇に屈することなく。
 この私を、今再び闇から解放した・・・。
 そして、今は、時が満ちるまで、闇の力が増大するさまを、見続けることが、
 私の役目であり、私の出来ること・・・。」

「時が満ちるって・・・、時が満ちたら、どうなるのよ?」
「私は、なすすべもなく屈するだけ。・・・闇がすべてを覆い尽くすのみ。」
「って、また、あんな風になっちゃうっての?もう、どうにもとめられないの?」
「とめることは出来ません。でも、まだ、時が満ちるまでには、
 十分の時が残されています・・・。それまでに・・・」


「セリューク様にも言われました。・・・私が、・・・強くならなくてはならない。
 でも、・・・何を、何をすればいいというのですか?!」

「時が満ちたとき、あなたは、運命のすべてを受け止めなくてはならなくなるわ。
 その時、あなたがどう行動するかは、あなたが決めることができる。
 そして、決めなくてはならなくなる。そして、その時、あなたがどう行動するかは、
 あなたの心の強さで決まるのです。今のあなたは、
 雫の結晶にただ守られているだけの、果てしなく弱い存在にすぎません。」

「・・・私が、強くなるためには、・・・どうすれば。」
「今はただ、いろいろなことを経験しなさい。その中で自ら見つけるのです。
 私は、今再び、この地にて時が満ちることを待ちます・・・、それまでに・・・。」

 その女は、そうとだけいって、静かに消えてったわ。
私もマーシャも、何も出来ずにただ黙ってるだけだった。



「・・・マーシャ?わたし、・・何にも分かってないのよね。
 あなたが抱える運命って何なの?・・・あなたが、知りたいことって、
 いったい、どんなことなの?それに、雫の結晶って・・・。ねぇ、教えてよ!!」

「・・・ごめんなさい、シーナさん。私も、・・・何もわからないんです。」
「なにも・・わからないって・・・。」
「私がしなければならないこと。・・・でも、そんなもの、どうやって、
 自分で見つければいいのですか・・・?」

 シーナさんは、私の質問に答えてくれようとしてくれましたが、それからすぐに、
だまりこんでしまいました・・・。
「マーシャ・・。あんたがどんなことしなきゃならないかなんて、私には、
 わかるはずがないわ。だって、・・・だって、私だってそんなこと決められないもの。」

「シーナさん・・・。」
「もし、そんなものがもう決まってるんだったら、悩む必要なんてないわよね。
 でも、・・・でも、今は、今できることをすればいいじゃない。
 マーシャが抱えてることと私が抱えてることは、きっと違うわ。
 でも、出来ることだってきっと違う。私に出来てマーシャに出来ることがあるなら、
 その時は、私はマーシャの力を借りることができる・・・。
 マーシャがしなくちゃならないことがあるなら、それをするために、
 私が出来ることならなんでもしてあげる。強くなるために、私が手伝えることの、
 ひとつくらいはあるはずよ。とにかく、あなたは一人じゃないんだから!!」

「ひとりじゃない・・・。」
「今はわかんなくたっていいのよ。運命なんてそんな単純なもんじゃないわ。
 いずれ、分かる時が来るって言うんなら、その時を待ってればいいのよ。
 でも、ただ、待ってるだけじゃ、つまらないじゃない!!
 ・・・それなら、今からいろんなものを見て、
 いろんな人と出会って、・・・時には戦って、それで、何かを探せばいいのよ。
 今までと同じ。これからも同じよ!!」

「シーナさん・・・。」
「マーシャ。・・・私なんか、何の役にも立てないかもしれない。
 でも、一緒に歩いてくことだけは、私にも出来る。・・・これから、ずっと。」

「私も、・・・シーナさんと、・・・あるいて、いいのですか?」
「私だけじゃない。・・・もう一人、いるでしょ?」
「はい。シーナさん。・・・アーシェルさんのところへ・・・。」
「そうね。それじゃ、行こっか!!」

 私は、ずっと何かを知ろうとし続けていました。
何も私は分からない。それは、誰も私に教えてくれないから・・・、
そう思っていました。自分で見つけなければならないこと。
見つけ方なんて誰も教えてくれないけど、きっと、見つけなければいけない。
 シーナさんは、明るく答えてくれました。一緒に歩いていけばいいじゃないって。
しなきゃいけないことなんて分からない。でも、今出来ることをすればいい。
出来ないことがあったって、助けてくれる人がいる。
 私は、一人なんかじゃない。
 一人で知ろうとしなくたっていい。何もかも知っているのなら、
悩む必要なんてない。でも、分からないことがあるからこそ、
私達は、悩んで、苦しんで、・・・そう、一人じゃなくて、みんなで・・・。
 そう思うことで、私は、きっと強くなれる。
苦しみから逃れようとする弱さなんて、捨て去ればいいんだ。
 それなら、私は、・・・もう、迷わない。
しなければならないんじゃない。何もかも決まっているわけじゃない。

 強くなるっていうのは、運命なんてものを恐れないってことなのだから。


2003/03/12 edited by yukki-ts To Be Continued. next to