[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第2幕― 第10章

 これは、とある王国の物語である。

「やはり、王のご容態は悪くなられる一方でございましたね。
 王子殿も結局、お姿を隠されたままでありましたし・・・。」

「・・・いったい、どうしたというのかしら?」
「最初に、おかしいと感じたのは、半年前、いえ、1年、2年・・・。
 もっと、昔からだったかもしれませぬ。エリースタシア王家との親交が深い、
 このガルド王国にでさえ、その応対が変化してきたのは、
 最近の話ではございません。」

「10年前・・・そう言いたいの?ホイッタ・・・。」
「・・・確かに、王子殿の弟君が10年前に、お亡くなりになられたことも、
 原因でございましょう。ですが、私めには、それだけが理由だとは思えぬのです。」

「・・・。」
「女王様・・・、やはり、心配でございますか?ネーペンティ殿のことが。」
「・・・心配じゃないなんて、言ってないわ。あたしだって、両親がいないの。
 弟さんがいなくなった時の、王子の顔を、あたしは思い出したくなんてない。」

「・・・あんなに、幼かった女王様を残して、お亡くなりになってしまいましたから、
 きっと、覚えてはいないでしょう。」

「ホイッタ、・・あなたに、お父様とお母様のことは、何度も聞かせてもらったわ。」
「あの後、・・・あの戦乱の後・・・、この私めに、女王様の養育を任され20年・・・。
 今では、このようにご立派におなりになって、私めも、ようやくあなたの
 お父様とお母様に、お顔が立てられるというものです。―――いえ、まだ、
 私めは、女王様が、ご結婚されるのを見なくては、なりませぬ!!」

「あたしは・・・、まだ、結婚だなんて・・・。」
「早く私めを・・・いえ、国民を安心させてくださいませ。無理にとは申しませぬ。
 ですが、女王にはお幸せになってもらいたい。そう願っておるのです。
 はぁ・・・、ネーペンティ殿は、どうされたと言うのだ?!」

「誰も、王子と・・・結婚するだなんて・・・。」
「いいえ、もう、あなた様の許婚いいなずけとして、決まっておることです。」
「今は、あたしはそんなこと話したくないの。・・・何か、別のことを話して・・・。」



 ここは、空の上・・・。飛行艇ひこうていの中。あたし達は、王国に向かってた。
半年に1度、あたし達はこうして、隣国、エリースタシアに訪問していた。
でも、最近、いつも、王様、それに・・・王子様と顔を合わせることはなくなってた。
 ホイッタは、あたしが小さな時から育ててくれた、ガルド王国の兵士長だった人。
ホイッタが話してくれたのは、20年前、このガルド王国がかかわってた、
大きな戦乱で、お父様が亡くなり、それからしばらくして、お母様も、
お病気で亡くなってしまった・・・、その後、お父様の命で、兵士長だった、
ホイッタが、まだ幼かったあたしを、養育することになったってことだったわ。

 それから10年間で、いろいろなことをホイッタから教わったわ。
王宮で女王として振舞ふるまうためのすべてを・・・。毎日、同じようなことの繰り返し。
 でも、そんな中で、幼いあたしを、ホイッタや兵士達は、なんども、
このエリースタシアへと連れてきてくれた。
 エリースタシアには、王様、女王様・・・それに、その間に2人の王子がいた。
いずれ、エリースタシアにとつぐってことは、ホイッタから、何度も言い聞かされていた。
・・・最初はそんなこと、ぜんぜん分かってなかった。
 いろいろなことをして遊んだわ。あの頃がなつかしかった・・・。

 でも、―――10年前・・・。



「ティスターニア女王様、ホイッタ様。・・・ケミュナルス大陸が見えて参りました。」
「そうか、よし。・・・女王様。先に王城へ戻りましょう。
 この者達は、いつもの通り、西へ行かせます。」

「ええ・・・、よろしくね。」
「はっ。女王様、ご無事で!!」

「よし、進め!!」
 飛行艇が、西の方に向かって飛んでいった。
「女王様、夜も更けているゆえ、外をお出歩きなさられぬよう、お願いいたしますぞ。」
「わかったわ、おやすみなさい・・・、雪が降ってるわね。」
「もう、草木も芽生えようという季節だというのに・・・。
 体をぬくくなさってから、おやすみになられますよう。」

「ええ、わかったわよ!!・・・おやすみ!!」
「おやすみなさいませ、ティスターニア様・・・。」

 次の朝には、もう、吹雪ふぶいていた。
ホイッタも言ってたけど、もう、そんな時期じゃないはず。
 雪が降るときだって、こんな勢いで降っていたことなんて、記憶にはなかった。
 いつもと変わらない、女王としての忙しい日が始まったわ。
毎日同じことの繰り返し。でも本当に国民のためになってるのは、たくさんの兵士や、
この王家に、私のお父様の時代から仕えてきた人達のおかげ・・・。
 そう、あたしは、何にもやってなんかない。



 次の日もその次の日も、吹雪がおさまることはなかった。
そんなある日、この王家に仕える1人の兵士の奥さんが王城へやってきたわ。
「女王様、あの、聞いていただけないでしょうか?」
 それは、1人だけではなかった。他にも、何人もの女性が集まっていたわ。
「どうしたというのだ?!まず、静かにするのだ、王城だぞ、ここは!!」
「夫が、・・・夫が帰ってこないのです!!」
「もう、交代の時ではないですか?!」
「いや、・・・交代は、したはずだが・・・、」
「どうしたのだ?」
「ホイッタ殿!!」
「・・・うぬ?やはり、そうか。」
「どうしたというの?ホイッタ?」
「・・・先日、ティスターニア女王をお連れした兵の者が、全員、帰還しないのです。」
「ど、どういうことですか、それは?!」
「それに、知っているのですか?!夜、西の空が、白く輝くのを・・・。」
「そうだ、その光が出ると、決まって、今以上の猛吹雪が吹き荒れるんだよ!!
 何か、あったんじゃないのかい?!!」

「ホイッタ殿、私どもが西へ参り、調査致しましょう。」
「しかし・・・、何かあった時はどうする?!」
「お願いします!!うちのを助けてくださいませ、女王様!!」
「お願いします!!!」
「女王様、・・・私達めに、お任せいただけないでしょうか?」

「わかったわ、・・・あなた方にお任せします。
 ですが、必ず、必ず、全員を連れ、王城へと帰還してください。
 無事を祈っています・・・。」


2003/03/12 edited by yukki-ts To Be Continued. next to