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eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
悲劇の少女―第1幕― 第7章
(22日目朝)
私は、まぶしい朝の光で目を覚ましました。
「マーシャ・・・起きたか・・。」
「ここは・・?」
隣には、セニフさんが座っていました。
「宿屋・・・ロジニの宿屋だ。」
「ブルート・・ブルートは!?」
「無事だ・・君が、命懸けで助けたんだ・・。」
私のベッドの横ですやすやと寝ているブルートの姿が見えました。
「あら、起きたのね。」
おかみさんが、下から上がって来られました。
「はい・・・それよりも、私のお母様―――ルシアお母様の事を・・・」
「そのことなんだけど・・・。」
「これを持っていくんだ。」
セニフさんは、私にあの幻の雫の結晶を下さいました。
「これは、セニフさんの・・・。」
「いや・・、これは・・・もともと、きみのお母さん・・ルシアが持っていた物だ。」
どう返事してよいのか分からずに、しばらく黙っていました。
「・・・驚くのも無理はないだろう。だが、事実だ。」
「なんで、セニフさんが・・・?」
「・・・君は、」
「セニフッ!!!!」
とても真剣な顔でセニフさんが私に何かを言おうとされたのを、
おかみさんは、必死になってそれを止めてしまいました・・・。
「お願いします!!教えてください!!!」
セニフさんは、長い間、口をとざしたままうつむいてしまいました。
「―――マーシャ・・・、知りたいのなら、私について来い。」
セニフさんは、そう言って、立ち上がり階段の方へと歩き始めました。
「私について来るんだ!!」
「は、はい。」
(22日目夕方)
私は、マーシャを連れ、再びトルクの集落へとやってきた。
そして、南の方へと歩き、森への道を守る門番のところへと向かった。
「私はロジニのセニフ、この娘をグリンディーノの森まで、連れて行きたいのだが。」
「ここを通るとあとは、迷いやすい森になるぞ・・・いいのか?」
「迷いなどしない。任せてくれ。」
「わかった、気をつけて通れ。」
トルクの集落を越え、山道に入ると、やがて道は細くなり、
だんだんと森が深くなっていった。陽も落ちていき、辺りは真っ暗になった。
しかし、モンスターの気配はまったくない・・・。
「どこまでいけばいいのですか?」
「もう少しだ・・・。」
「はい・・・。」
それきり、会話はなくなった。鳥の鳴き声1つさえ聞こえない、静かな森だった。
それから目的の場所を目指し、歩きつづけていった。
そして、私達は突然開けた場所に出た・・・。
(23日目朝)
「ここが、グリンディーノの森だ・・・。」
「グリンディーノの森?」
「こっちだ・・。」
私は、マーシャを連れゆっくりと歩き出した。
そして、ゆっくりと姿を見せ始めた太陽に薄く色付いた、その聖堂へとやってきた。
「・・・・聖堂?」
森の最も東の場所にある、かなり古い時代に造られたであろうその聖堂へと着いた。
そこで、私は、マーシャに振り返り、こう告げた。
「・・・マーシャ。私は仕事がある。あとは1人でがんばるんだ。」
マーシャは、驚いた表情を浮かべた。
「すまない。だが・・・」
「分かりました。もう1人で大丈夫です。」
意外と早く、私はその声を聞いて少し驚いたが、顔に浮かべずにマーシャに告げた。
「そうか・・・それを聞いて安心した。他の人たちも必ず見つかるはずだ。
信じていれば、いつかきっと会える・・・そして時がくれば・・・、
また、私とも会う事になるだろう・・・。その日まで・・・。」
マーシャは、優しく私に微笑みかけ、ゆっくりとお辞儀し、聖堂へと向かっていった。
「・・・どちら様でしょう?」
中から神官の方が出てこられて、私に尋ねられました。
「・・・マーシャと申します。」
「マーシャ・・様・・・・。ひょっとして、あなたが、マーシャ様でございますか?!」
「はい・・・そうですけど・・。」
「まさか・・・こんなところであなた様と出会う事ができるとは・・・、
い、いえ、失礼しました。私はブロンジュール=クローグと申します。」
「ブロンジュール=クローグさん?」
「ご存じないのも無理はありません。
あなたのお父様、ディテール様の古い友ですから。」
「ディテール・・・あ、あなたはお父様をご存知なのですか?!」
ブロンジュールさんは、優しく微笑んでくださいました。それから、私に、
いろいろと尋ねられました。・・・私は、何もかも包み隠さず、すべてを話しました。
村で起こったこと、そして、私が村を旅立ってからここに来るまでのことを・・・。
「そのようなことが、あなたに・・・。では、もう、これをあなたがもつ時が来たと。」
ブロンジュールさんは、私の持っている幻の雫の結晶を見て、そうおっしゃいました。
「それは、あなたのお母様・・・ルシア様が持っておられたものですね。」
「あなたもお母様の事を!!」
ブロンジュールさんは、そこまで言って、急に黙ってしまいました。
「・・な、なぜ黙るのですか?」
「すまない。私の口からは・・・。」
「なぜですか?どうしてなのですか?」
私が、そう問いかけ続けていると、やがてブロンジュールさんは私を真剣に見ました。
「・・・落ち着きなさい。まずは、あなたが・・もっとお母様のように強く・・・、
そう、心の成長が必要なのです。」
私には、すぐにはそれがどういうことを言っているのかが分かりませんでした。
「この結晶をここから東の森の奥に住む、セリューク様の所へ持って行きなさい。」
「セリューク・・・様?」
「偉大なる大魔導師様で、森の中に訪れるものに魔力を与える、
といわれる方だ。あの方ならこの結晶の事も・・・きっと教えてくださるだろう。」
「森に行けばいいのですね・・・?」
「ただ、そこと、この森をつなぐ森は、さまざまな恐ろしい幻が、さまようといわれ、
弱い心の持ち主は、その森の力で、永遠にさまよい続けてしまうという迷いの森
そんなことから、死者の森、と呼ばれています・・・。」
「死者の・・・森。」
「しかし、もしこの森の中であなたが強い心を持つ事が出来たなら、
幻から解き放たれセリューク様のところへ行く事が出来るでしょう・・・。」
「はい・・・でも、どうすれば?」
「自分で見つけるのです。あなたに宿るお母様―――ルシア様の力を・・・。」
(23日目朝)
私は聖堂から出て、まっすぐ東へと歩きました。
やがて、その先に、ブロンジュール様がおっしゃられていた森が見えました。
スフィーガルにもこわい森がありました。でも、ここは・・・。
「え、・・・だれ?!」
ずっと、私はまわりから見つめられているように感じていました。
でも、動いているのは、私とブルートだけ・・・。
「ブルート?」
ブルートが向いている方に、私もその姿を見ました。
何かが、動いている・・・、でも、なんとなくぼんやりとした・・・。
「私たち以外に、誰かが・・・この森にいる・・・。」
太陽の光も届かない、暗い森の中で、私は急に寒気を感じました。
「・・・さっきのは、恐ろしい・・・幻?」
私は、急に後ろから、何かに固いもので突き飛ばされました!!
ブルートは私の後ろに向かって、にらみ付けていました。
「えっ?!!」
ボロボロの服を着た、ところどころ白い骨が見えるその人が私に向かってきます!!
ブルートはすぐに、冷たい風を吹きかけますが、動きが止められません!!
「ブルート!!私がやるわ!!」
私は、その人がきっと、この森で迷ってしまった人なのだと思いました。
でも、ブロンジュールさんの話なら、この人は幻のはず・・・。
杖を思いっきり振り落としました!!
「いやっ!!・・・これ、幻なんかじゃない!!」
ボロボロに朽ちた骨がくだけながら、いやな音をたててその人は倒れました。
こわいのと、いやな音で気分が悪くなって、知らない間に汗でびしょぬれでした。
「!!!」
急に声が出せなくなってしまいました。周りには誰もいないはずなのに、
何かが、私をすごい力で押さえつけてきました!!
それが、叫び声だと気付いたのは、ブルートがその草に向かって攻撃した時でした!!
その草は、信じられないほど高い声で叫びつづけているようでした。
すぐに、私は杖を持ってブルートの近くに寄りました。
そして、すぐにその叫び声のせいで、私はとても頭が痛くなってしまいました。
頭がぼんやりとしてきた時、私は急に体中が痛くなりました。
とがった葉で、その草が私に攻撃していました!!
切り傷からは、血がにじみ出てきました。
私は、それでも立ち上がって、ブルートの後から、その草を攻撃していきました。
「・・・あ、声が戻った。」
やっと、草を全部倒したあと、立っていられなくなって、座り込んでしまいました。
「このままじゃあ、・・・私も、・・・今の人たちみたいに・・・。」
ブルートは私のそばに寄っていましたが、いつでも周りを警戒していました。
「強い心って、なんだろう?」
私の心は、きっと弱い心なんだろう。そう、思っていました。
強い心があれば、この森にいる幻達に、襲われたりしないのかなって。
体中を電気が走ったのは、そのすぐ後でした!!
「うっ・・・あぁぁっ。」
私は、雷の直撃を受けたみたいでした。
「ブルート・・・、私・・・。」
ブルートはそのモンスターに向かって攻撃を始めました!!
しばらくの間は、ブルートが押していました、でも・・・。
「はっ!!・・・ブルート!!危ないわ!!よけて!!」
そのモンスターは魔法を使いました。炎が私とブルートを包み込みました!!
「アツい!!・・・ブルート・・・キュア!!」
炎の中で、キュアの青い光が私たちを守ってくれました。
「このままじゃあ、本当にやられちゃう!!」
私は、体中痛いのを我慢して、立ち上がって杖を握り締めました!!
「私だって、負けていられないの!!」
私は落ち着いて、集中しました。・・・でも、もう大きな魔法を唱えられるほど、
魔力がのこっていませんでした。
そのうち、また、そのモンスターが私たちに雷の魔法をかけようとしました!!
私は、急にモンスターに駆け寄って、一気に杖を振り落としました!!
「きゃぁぁぁ!!!」
モンスターは、私の前で倒れましたが、いっしょに私は電撃を受けてしまいました。
「もう・・・だめ、かもしれない・・。
・・・私は・・・、お母様みたいに・・・・、強く・・・
なれない・・・・アーシェルさんとも、もう・・・会えない・・・・・・。」
私は、本当に倒れそうになりました。このまま倒れると、きっと起き上がれなくなる。
そんな時でした・・・。私は奥に不思議な光を見つけました。
「あれは?」
ゆっくりと私は、その光に近づいていきました。
それが何なのか知りたくて、そして、それが私にとって
しなくてはならないことのような気がして・・・。
それを手に取った瞬間、まわりの恐ろしい幻が、急に消えました。
その、不思議な光が私の周りを包み込んでいました・・・。
「これが・・・、強い心・・・?」
でも、私は目の前が真っ暗になったことに気付きました。
もう、体が倒れるのを止めることは出来ませんでした。
「おや?あれは、なんじゃ??」
その老婆は森の中に倒れる1人の少女の姿をとらえた。
ゆっくりと、その古いローブを身にまとう少女に近づき、
めずらしいものを見るかのような視線で、その少女を眺めた。
「・・・こんなに幼いお嬢ちゃんが・・・どうしたんじゃ?」
やがて、その老婆は、少女を連れ、森の奥へとその姿を消した・・・。
(23日目夕方)
「・・・・、あれ?・・・ここは?」
「ありゃ?気付いたのカナぁ?」
遠くから、高くてゆっくりとしたおばあさんの声がしました。
まるで、ちょうど今、私が起きたのを知っているみたいでした。
私は、家のなかにいました。窓からは夕陽がさしこんでしました。
「あ、あなたは・・・?」
ちょうど入り口に、私の知らないおばあさんが立っていました。
「わしかの・・・、なに、この森でわしを訪ねに来る者なら、
わしの名前を知らぬとは、思わんのじゃがな・・・。」
「・・・セリューク様?」
「ほぅ、わしの事を知っておるのか・・・感心感心。」
おばあさんは、満足そうな顔で私ににやっと笑いかけていました。
「そうじゃのぉ、ここは聖なる場所じゃ・・・。本当に強いこころをの、
持つものしか、訪れる事はできぬ・・。じゃが今ここにあんたがおる。
よってこのわし・・セリュークがあんたと話しをしておる・・・。」
「はい・・。」
(23日目夕方)
「あんたも、魔法を使うのかねぇ?」
「えぇ。使えます。お母様にもらった魔導の書で、勉強をしました・・・。」
「ほぅ・・・魔導の書・・・、そのようなものをあんたのお母様が・・、
いったいだれじゃ。あんたは?」
「私は・・・マーシャといいます。」
「マーシャ・・・そうじゃなぁ・・・聞いた名前ぢゃないのぉ。
いったいどんな魔法が得意なのじゃ?」
「キュア、リフレッシュ、シールドチャージ、それにマジックシールドは、
私が子供の時からお父様に教わっていました。それから、
私が自分で魔導の書をよんで、フラッシュリングとリバイバルを覚えました。」
「何・・・フラッシュリング?!そんな高度な魔導法が使えるのかぃ?あんたは!!」
「はい。」
「たまげたねぇ。それに、リバイバル・・・・。これはこれは・・・。
こんな若いお嬢ちゃんにこんな魔法使いがいるとは・・。」
高い声が、もっと高くなって一気に早口になったので、しばらくぼうっとしてました。
「・・びっくりさせたかのぉ?」
「いえ、だいじょうぶです。」
「・・・そうかのぉ。じゃが、まだあんたは若い・・。魔法は本当は恐ろしいんじゃ。
自分の精神力、分かりやすく言えば強い心じゃ。」
「強い・・心?」
「人には体力と精神力がある。どんな者でも持っておる。
体力は人のもつさまざまな目に見えぬ力を使うために必要なもの。
じゃが、精神力は人がより強い心を持ち、それをつかうために必要なもの・・・。
どちらが欠けても人は生きる事は出来ないんじゃ。
わしらは、精神力を使い、その心の力をさまざまな目に見えぬ力のように、
使う能力を強くもっているんじゃ。そして、
それは、人の持つ目に見えぬ力をはるかに超える力をもっておる。」
「はい。」
「ほう。まだこのわしの話を聞いておるとは・・・。」
「いろいろと、勉強になります。もっと聞かせてください。」
おばあさんは、私の顔を、じぃっと見ながらゆっくりと話しました。
「あんたは確かに強力な魔法を使うだけの力がある。じゃが、・・・心は弱い。
何、すぐに強くなるものでもない。今は学びながら強くなればよいのじゃからな。」
「はい。・・・・あの?」
「なんじゃ?」
「これを。」
私は、やっと幻の雫の結晶をとりだして、それをセリューク様に見せました。
「・・・これは!!!」
「ご存知なのですか!?」
「ご存知って。あんたは知らないのかイ!!」
また、セリューク様の声がとても高くなり、早口になりました。
「えぇ。」
「これは・・・・、なんと・・・・。そうか、そうなのか。」
「えっ?」
「よいか?これは神の力をもつといわれる伝説の宝玉のひとつじゃ。」
「伝説の宝玉?」
「雫の結晶じゃ。その、首にかけておるアミュレットを見るといい。」
いつのまにか、私の首には、その知らない飾りがかかっていました。
「それは、この雫の結晶からうまれたものじゃ。気付かなかったのかのぉ?
そんなことはよい。その結晶はどうやら、あんたを守るべき者と認めたようじゃな。
この雫を狙うものがいるのならばじゃ、あんたが守り抜くんじゃ!!」
「・・・はい。」
「今日はもう遅い・・・、もう寝るんじゃ・・・。」
「はい。」
(23日目夜)
マーシャがすやすやと寝息を立てている・・・。
セリュークは、その横のランプの光のもとで、マーシャを見ながら考えこんでいた。
「この、ライトロッド・・・、どこかでみたような・・、
なんじゃったかのぉ・・・。思い出せぬ・・・年かのぉ・・・。」
(24日目朝)
「・・・あれっ、セリュークさん?」
セリューク様の姿は、そこにはありませんでした。
私は外に出ました。あの不気味な死者の森の中とはとても思えませんでした。
明るい朝の光が辺りにさしこんで、まぶしいくらいでした。
西の小屋に明かりが灯っているのを見つけて、そこへ行きました。
「おや、あんた朝早いんじゃのぉ。」
「おはようございます。セリューク様。」
「おはよう、マーシャ。わしは考え事をして、よぅ眠っておらんのじゃ・・・。」
「そうなのですか・・・。」
「心配せんでェェ。わしはもう年じゃからな・・・。ところでじゃよ。
ここにとどまって、しばらく魔法を学んでみてはどうじゃ?」
私は、しばらく考えてから答えました。
「いいえ。わたしにはやらないとならないことがあります・・・。」
「ほう、なんじゃ?」
「今・・・、みんなが、私を探してくれている、いえ、私がみんなを
探して・・・アーシェルさんとシーナさんのところに戻らないと・・・・。
みんな心配してるはずなのです。私がここで自分の強い心を育てる間、
みんなに心配をかけることになります。・・・ごめんなさい。」
「なに、いいんじゃ。」
「えっ?」
「自分の事より他人の事を考える。それも大切な事じゃよ。」
「はい。」
「ところで、他人の事ついでに、わしの願い・・・聞いてもらえるかの?」
「・・・えっ?」
「あんたは気にせんのかもしれんのじゃが、ここにはもともと、
他にも多くの魔法使いがおったんじゃよ。じゃが、
南の都会に流れたまま帰って来ん。」
「・・・・。」
「また、昔のようににぎやかになれば、いいんじゃが・・・。
そこで、あんたにはその南の都会に行って、連れ戻してほしいんじゃ。」
「そんな、私が・・・できるでしょうか?」
「頼む!!お願いじゃ・・・このわしの願いをきいてくれないじゃろうか!!!」
「・・・はい。お世話になったお礼にその願い、
かなえられるか分かりませんがやってみます!」
「そうか・・・よかった。それでは、この手紙を・・・ブロンジュール=クローグ
にみせておくれ。そうすればいい。」
「はい。」
「魔導の書を見つけたなら、また好きな時にくるとええ。」
「はい、必ずまた!!」
私は、セリューク様と別れました。
2008/12/10 edited (2002/07/21 written) by yukki-ts next to
No.8