[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第1幕― 第5章

 (12日目朝)
 俺は、いつのまにか眠りについていた。
ひどく揺れていたが、早く休みたいと思う気持ちの方が強かったのだろう。
 俺は今、船に乗っている。
 考えてみれば、この1週間、ろくに睡眠もとっていなかった。
窓からの風が、疲れのまだ残る体を優しくなでてくれた。
「アーシェル!!アンタ、何してるの!!早く起きて!!大変よっ!!」
「どうした。朝から・・・。」
「あきれたっ。・・・これだけ騒いでるってのに、気付かないわけ?!
 マーシャ、マーシャがいないのよ!!!」

「・・・な、な、何を言ってるんだ?!」
「マーシャが居ないの!!」
 俺は、立ち上がりシーナの方へかけよった。
「探したのか!!!」
「当たり前よ!!アンタだけよっ、のんきに寝てんのは!!」
「と、とにかく行くぞ!!」
 甲板には既に多くの船員が集まっていた。その中から1人、俺の方に歩いてきた。
「大変な事をしてしまった・・・、なんとわびればいいのか・・・。」
「・・・どうすれば、いいんだ。」
「すまない・・。だが今、これ以上探しても仕方がない。」
「なんでだ!!もっと探さないと!!」
「無駄だ。この海流に飲みこまれて、生きているはずが・・・」
「なんだと!!」
 横からシーナが、ナイフをつきつけようとするまで、俺は、我を忘れていた。
「あきらめてくれ・・・こんなことになるとは思わなかったんだ。すまない。」
「アンタがいくらわめいたって、しょうがないのよ。少しは落ち着いて。」
「落ち着いていられるか・・・。」
 船の先端から声が聞こえた・・・。
「船長・・・見えました!!グラニソウルの大陸です!!」
「・・・ついたようだな。」




 私たちは、遠くの方に見えた街を見ていたわ。
まだ、小さくしか見えなかったけど、大きそうな街みたいだった。
「グラニソウル大陸の首都、ディメナだ。
 俺達も探してみる。それまで待っていてくれ。
 今はなんとしても、サニータ様の所へ行ってくれ。」

 アーシェルは、船長の目を見ずに答えてた。
「・・・わかった。必ず見つけてくれ・・・。」
「・・・必ずな。」
 船の中は急に忙しくなっていったわ。
ゆっくりと、港に入っていったけど、その間に何度も、
倒れそうになるような、すごい揺れを感じることがあったわ。
みんなから、何人かの船乗りがこの海流のせいで、沈んだって話を聞いて、
心配になったりもしたけど、なんとか、私たちの船は、
港にたどりついたみたいだったわ。
 ディメナっていう街は、砂漠の中のオアシスにある、とても大きな街だった。
みんなと別れて、私とアーシェルはしばらく、この街の中を歩いていた。
「もう、暗くなってきたみたいね。」
「ああ、・・・サニータという人に会いに行くのは、今日は無理かもな。」
「どうすんの?宿に行く?」
「・・・そうだな。暗くなってきたことだし、そろそろ休むべきか。」
 そんなわけで、街をぶらぶらして、すぐに宿に入ったの。
「お二人様ですね?」
「あ、・・・そ、そうか。ああ、二人だ。」
「お二人っていっても、部屋は別よ。」
「ああ、そうだな。」
「・・・。」
 アーシェルは私を置いて、さっさと上に行ったわ。
そのあとを追いかけていったけど、もう、アーシェルは部屋の中に閉じこもってた。




 ひどく冷え込んで来たせいか、まだ陽もあがらないうちに、目を覚ました。
アーチェリーを手に取り、シーナを起こさないようにして、俺は宿から外に出た。
 朝が早いせいもあるが、街の中には誰もいなかった。
ただ、冷たい砂埃の混じる嵐が吹きぬけるばかりだった。
 話だと、この街の北に、古い時代からの王宮があるという。
この国の名前でもあるディメナ王が、代々この地を統治していると聞いた。
そして、ゾークス様からの話によれば、これからの道を指南してくれるであろう、
サニータという人物が、この王宮にいるという。
 シーナは連れてこなかったが、俺はその王宮へと向かってみた。
城門は開け放たれていた。というより、むしろ、門などないと言った方が
いいかもしれない。誰でも謁見が許されているということなのだろうか。
 古い時代からの王宮であると聞いていた。たしかにその通りだった。
だが、昔は備わっていたであろう、荘厳な雰囲気はそこにはなかった。
城壁はところどころ崩れかかり、風が共鳴して、低いうなり声をあげていた。
 その音の中で、俺はかすかに物音を聞いた。
俺は、城壁からその音がした方向を見た。その先に、俺は2体の空を浮遊する
モンスターの姿を見てしまった・・・。
 そして、俺は奴等の話の中から、ある人間の名前を聞いた。
「ガーディアの野郎の所に報告・・・」
「ガーディアだと・・・?」
 その時点で、俺は急に理性を失った。
「く、人間か。大人しく黙っていればいいものを。」
「まだ、術にかかってない奴がいたか。ん、まて、おいっ!!こいつは?!」
「モンスターズハンター、アーシェルだ・・・。」




「アーシェル!!起きてんの?!!」
 部屋の中に、アーシェルはもういなかったわ。
「どういうことよ、私を置いて、もう行っちゃったってわけ・・・?」
 この街の北の方にあるお城に、サニータって人はいるって聞いてた。
アーシェルのことだからきっとそこにいるって分かってた。
「でも、サニータって人に会って、何がわかるってのよ。
 もし、ここでどこに行けばいいのか分かっても、
 マーシャと会えるかどうかなんて分からないじゃない。もうアーシェルが行ってんなら、
 もしかして、私までついて行かなくても、いいんじゃないのかな・・・。」

 なんとなくだけど、私はアーシェルが私を避けてるように思うようになってた。
アーシェルも私も、もともとは1人でやってきた。
今、私はアーシェルと2人で歩いてる。でも、それは、マーシャがいたから。
 マーシャがいなくちゃ、私達は、つながってなんて、いられない。
「おい、しかし、レイティナークの船にまぎれ込んでた手配書、見たかよ?」
「ああ、あの女の子だろ、・・・可愛いらしいんだよな?」






 (13日目朝)
 私は、モンスターズハンター事務所に入ったわ。
「見せてもらおうじゃないのよ、その手配書!!」
「だ、誰だ?!」
「誰だとは失礼ね。これでも、モンスターズハンターよ。」
「そ、そうか。何の手配書・・・」
「何のじゃないわよっ!!レイティナークの船ん中にあったっていう奴よ!!
 女の顔が書かれてる・・、アンタが持ってんでしょ、早く出すのよっ!!」

「も、持ってない。」
「あ、持ってない?・・・アンタが隠し持ってんでしょうよ!!」
「だから、ここにはない・・・」
「でも、知ってんでしょ?!名前くらい、わかるでしょ!!」
「あ、ああ・・見たが、・・・名前までは・・・」
「早く言わないと、斬るわよ!!」
 私は、もう両手にナイフを握ってたわ、その時、別の人が出てきて話しかけてきたわ。
「お前、どこのモンスターズハンターだ?」
「え、スフィーガルよ。・・・今はたまたまここにいるけど。」
「スフィーガルとこことは、同じ系列なんだけどな、
 この前のは、こことは違う奴だ。・・・あれは、殺し屋の手配書だ。」

「殺し屋・・・?」
「レイティナークからの船にあったなら、間違いない。
 それに、ここにもない。今頃、港のどこかに落ちてんだろうよ。」

「ここにないの?・・・そういうこと、早く言いなさいよ。」
 私は、さっさとこんなところ出ようとしたわ。
指名手配の張り紙もなければ、私以外にモンスターズハンターが誰もいない、
こんな平和で退屈な街の事務所に用なんかなかったから。
「話だと、・・・2人いるそうだな、指名手配犯は。」
「2人?いいわよ、私が気になってるのは1人だけだから。」
 城に行こうかとも思ったけど、私は、しばらく港で探したわ。
結構遅くになるまで探してたけれど、紙ひとつ落ちてなかった。
海はまた荒れてるみたいだった。港には誰も乗ってない船がいくつもあったわ。
 暗くなってきたから、私は宿屋に戻ったわ。




「ああ、シーナか・・、どこに行ってたんだ?」
「アンタは、私を置いてさっさと城に行ってたんでしょ。」
「あ・・・、ああ。」
「サニータって人には会ったの?」
「ああ、会った。」
「アンタもお疲れみたいね、私はもう寝るわよ、じゃあね!!」
「あ、ま、待て・・・。」
 シーナは、もう部屋に戻っていた。
俺も、すぐにベッドに横になった。シーナのいう通り、俺は疲れていた。
だが、眠れるような気はしなかった。しばらく天井を見つめていたが、
暗い街を窓から眺めたり、ぼんやりと時間を潰していた。

 俺は、次の日も、まだ陽が明けきらないうちに王宮へと向かった。
「アーシェルか?・・・決めてくれただろうか?」
「もう少し、話がしたい。・・・サニータ様に謁見させてもらえないだろうか。」




 俺は、アーチェリーをそいつらに向けた!!
「どうするよ、こいつを殺っちまうか?」
「こいつが、アーシェルって奴なら、話は別だなぁ。」
 奴等は、手にもつスピアを構え、こちらにとびかかってくる!!
それは的確な攻撃だった。
 俺は、寸前でよけたものの、これまでに会った敵とは違い、
明らかに自ら判断し、意思を持ってこちらに攻撃をしてきているようだった。
「何故、俺を狙う。・・・ガーディアの命令か?」
 奴等は、俺に冷笑を浮かべると同時に、再び向かってきた!!
俺は向かってくる敵に対して、アローを放つ!!
しかし、それをかわし、直後に奴は空中へと舞いあがる!!
 スピアを空に向け、しばらくの間、静止する。
だが、それに注意をむける隙を与えないかのように、もう一体が向かってくる。
 こちらに攻撃のタイミングを与えず、なおかつダメージも与えない、
時間稼ぎのような中途半端な攻撃を続けてきた。
 突然、横から轟音とともに光が現れ、俺を覆った!!
体中に、猛烈な痛みが、雷撃とともに襲ってきた!!
 俺は、意識が途切れそうな中で、アーチェリーに再び意識を集中させた。
「トルネードスラッシュ!!」
 周りの電撃をともなったアローが、風とともに放たれる!!
片方にその攻撃が当たるが、大したダメージを与えられない。
 再び、奴等が攻撃に転じようとした。
「ん?・・・人間か?」
「もう、戻ろう。遅れちゃあマズいからな。」
 奴等は、その場を離れて空へと飛び去っていった。
「ガーディアのところか・・・?一体、ここに何を?」
「おい、誰かいるのか?!何があった?!」




 城の中へとその兵士は俺を招きいれた。
「やはり、あの音はモンスター・・・。」
「こんな王城の近くに、いったいなぜ、モンスターが?」
「モンスターの動きは昨日までだいぶ落ち着いてきていたはずだったのだが・・・。
 どちらにせよ、感謝しなければならないな。
 ・・・旅人のようだが、名はなんという?」

「スフィーガルのモンスターズハンター・・・」
「ひょっとして、お前。アーシェルという者か?」
 その兵士は、俺の名を呼びかけて、立ち止まった。
「あ、ああ。・・・この王城におられるという、サニータ様に・・・」
「そうか!!ならば、こちらへ来てくれ。」
 俺は、その兵士に、王の間へと連れてこられた。
「ここは?」
「入ってくれ。・・・お待ちしておられる。」
 俺は、王の間へと入り、ゆっくりと中へと進んでいった。
「いったい、サニータ様は、どちらに・・・」
 俺は、部屋の奥に、ベッドから上半身を起こし、こちらを向く老人を見た。
「サニータ=ディメナ様。アーシェルを連れてまいりました。」
「サニータ様?」
「・・・ゾークスより、話は聞いておる。・・・待っておった。」
 力なく、しわがれたその声で話し掛けた。
「このような姿で、話し掛けるのを許してくれ・・・。」
「国王様、やはり、まだ・・・。」
「心配しなくてもよい。」
「サニータ様、あなたは、・・・国王?!」
「申し遅れてしまったようだな。」






 (13日目朝)
 俺は、しばらくの間、そのやせ細った老人を見ていた。
「気楽にしてくれ。見ての通り、もはやこのありさまよ。」
「なぜ、そ、その、国王様が、俺・・・いえ、私などに?」
「サニータで構わん。アーシェル。・・・お前さんはゾークスの紹介で来たのだろ?」
「は・・・、はい・・。」
 俺は、そこで自分があがっていることに気付いた。
今まで、俺は、見慣れたモンスターズハンター相手にしか話した事がなかった。
 1人でいることに何か、いいようのない不安が襲ってきた。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・。すみません。」
「わしは、わしなりに考えてみた。アーシェルの進むべき道を。」
 既に、この辺りで、俺の意識は半分飛んでいた。
「ここに留まり、わしの後・・・、ここの王になって欲しい。」




 アーシェルの様子がなんとなく妙だったけど、私は、また港に出てったわ。
結局は、何もみつからなかった。
でも、昨日以来、誰からもその話は聞かなくなってた。
 昼頃には、もうあきちゃって、私は宿屋に帰ってた。
まだ、全然眠くもならなかったし、部屋の中でうろうろしてた。
 アーシェルがいるから、ここを離れるわけにもいかなかったし、
何もしてないと、気になって気になってどうしようもなかった。
 その日から、アーシェルは夜遅くになっても帰ってこなかった。
 朝になっても、私はなんとなくベッドから起き上がりたくなくなってた。
疲れたっていうより、何もできない自分がイヤになってたわ。
 考えてみれば、船長の言う通り、マーシャだって・・・考えたくないけど、
もう、いないのかもしれない。
マーシャがいなくなってから、何か、大きな穴があいたみたいに感じてた。
 お城に行って、その現実を思い出さされるのはイヤだった。
 それから何日か、アーシェルは帰ってこなかった。
それでも、城には行かなかったし、こんな感じで過ごしていた。
 ある日、手紙が届くまでは・・・。




「気が付いたようだな?」
「・・・面目ない。」
「突然のことですまない。だが、疲れてるようだな?」
「不覚にも、朝の戦いで、傷を受けて・・・。」
「形はどうであれ、モンスターを追い返したことには感謝する。
 ・・・アーシェル。私は、お前が王になることを望んでいる。
 今、この国は、・・・大きな不安を抱えている。」

「お、俺は・・・。」
「すぐに返事が出来るとは思ってはいない。
 だが、・・・王の様子がおかしくなったのは、ここ数日前からなのだ。」

「数日?」
「もちろん、それがなくとも、王はアーシェルが後を継ぐことを望んでおられる。
 ・・・ただ、これ以上、私から強要しても仕方があるまい。
 明日、もう一度、王城へ来てもらえないだろうか?
 もう一度、王に会ってゆっくりと話して欲しい。」

 そんな話を、俺は帰ってからなんども頭の中で繰り返していた。
突然の話ではあったが、俺の中では気持ちははっきりとしていた。

 ここに留まらなければならないくらいなら、何もわからず飛び出した方がいい。

 だが、このままでいいのだろうか?
ゾークス様は、サニータ様・・・このディメナの国王に俺達のことを頼んだ。
 俺の知らない、何かがあるのかもしれない。
一方で、俺は、サニータ様に、どこか興味を覚えていた。
 次の日から、俺は、ベッドの横でディメナ王の話に耳を傾けた。

 数日、泊まり続けて、俺は、あることを決め、シーナへ手紙を届けた。




「手紙?・・・こんなものよこすくらいなら、戻ってきたらいいじゃないの。」
 手紙には、ただ、こうとだけ書いてあったわ。
『―――俺は、しばらくここに留まる。マーシャを頼む―――』
「どういうことよ?!」
 私は、宿から飛び出したわ。
どこに行くのかを決めるために、今までここにいたんじゃなかったの?!
マーシャを頼む・・・って、もう、アンタは、どうでもいいってわけなの?!
 城の方へ行こうとする私を、後ろから呼びかける人がいたの。
「シーナだな?」
「あ、アンタは、船長・・・?な、何の用よ?!」
「大事なことを話す。来てくれるか?」
 船長は、そういいながら、私が探していたある紙を見せてきた。
「・・・そ、それは・・・?」

 私達は、港へと歩いたわ。
「この紙を見つけたときは、どうしようかと思ったが、気にするな。
 俺の仲間以外には、誰にも見れないよう、俺がこいつを持っていた。」

「それじゃあ、アンタも、マーシャを・・・?」
「マーシャ・アーシェル・・・指名手配犯だったとはな。」
「冗談じゃあないわよ?!なんで、そんなことになるわけ?」
「俺にもそんなことは信じられないな。・・・だから、誰の目にも入らないように、
こうして持っていた。・・・それはそうとだ。今日連絡が入った。」

 船長は、地図を見せてくれた。大陸が2つ描かれていて、2ヶ所に×印があった。
「この×印は、ここ、ディメナだ。・・・そして、もう1つが・・・。」
 船長は、ディメナの場所を指差して、そこからもう1つの場所に指を動かしたわ。
「・・・あの娘はまだ、生きている。」
「ちょっと待って?・・・こ、こんなに離れたところにいるの?!」
「仲間から連絡があった。だが、これがどういうことか分かるか?」
 私は、この地図と手配書を見ながら、考えて話した。
「マーシャは、・・・今、どこに向かってるの?」
「南に向かうしかない。・・・そしてその先にあるのは。」
 私はマーシャが一番危険な場所、・・・レイティナークへ近づいてることに気付いた。
「今行かなければ、確実にマーシャは殺し屋共に・・・。東に行くんだ!!
 ホントなら、俺は船で送るくらいのことをして、詫びなけりゃあならないはずだが、
 この荒波のせいで、船にガタが来ちまった。本当に、すまない。」

「いいわ、私、アンタ達を誤解してた。マーシャのこと、ありがと。
 ちょうどいいわ!!もう、こんなところに何日もいるのも耐えらんなくなってたの。
 ひと暴れしてやろうじゃない!!」

「アーシェルには、知らせていかないのか?」
「私1人じゃ不安だっての?一度、斬られてみる?!」
 私は、手紙を船長の方に投げつけた。
「はぁん、そうか、アーシェルは残るか・・・。怒るのも無理ないな。
 ・・・でもよ、アーシェルは、マーシャが生きてるって事、信じてるんじゃねぇかよ。」

 私は、それだけ聞いてから、東に向かって走りだしたわ・・・。


2008/12/07 edited (2002/04/21 written) by yukki-ts next to