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eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
悲劇の少女―第1幕― 第4章
(14日目朝)
・・・大陸の間から、滝のように落ちる海があった・・・、
まるで削り取られたように切り立った崖・・・、
そのはるか足元に深き豊かな自然に囲まれた大陸があった・・・
私は滝のそばで精神を集中させていた・・・。
・・・朝日がバンダナに縫い付けられた紋章に反射して時折光る。
「・・・そろそろ仕事場に行くか、・・・ん?・・・なんだ?」
滝の轟音が突然静まり・・・突然、頂上から光のオーラに
つつまれた、少女がゆっくりと落ちてきたのだった・・・。
「助けなければ!!」
私は海の中へ入っていき、滝の上より舞い降りる少女を受け止めた・・・。
「なぜ、こんなところに・・・。それに今のは・・・。」
私は少女を抱きかかえたまま集落へと帰っていった・・・。
「すまない。この娘をみてくれないだろうか?」
私は集落の宿屋へ少女を運んだ・・・。
「この子は?」
「・・・滝の上から落ちてきた・・・。」
「ええっ?」
私自身、まだ、自分の目の前で何が起こったのか、理解する事ができなかった。
「とにかくすごい熱よ。・・・どこからかあの海流に飲みこまれたのね。
分かったわ。そんなことより早く仕事場にいきなさいよ・・・、
この子は私に任せて。もうみんな行ったわよ。」
「ああ。よろしく頼む。」
私は宿屋を出た。なんとなくだったが、私には
どこかで会ったような気がしてならなかった。
(17日目朝)
ここは、ロジニの集落―――男の方々の仕事場として栄えている小さな集落だそうです。
女の方々はみんな、南の方へと出て行ってしまい、いつの頃か女の方は
宿屋のおかみさんだけになってしまいました。
私はそれから3日、ずっと眠りつづけていたそうです。
「・・・ここ・・は?」
「・・・気付いたか?」
私が目を覚ました時、私は知らない男の人に見守られていました。
「あなたは?」
「・・・セニフ。」
ぼんやりとしていた頭の中に、急に記憶がよみがえってきました。
「アーシェルさんは?シーナさんは?ブルートは??」
「ブルート?ああ、この子の事か・・・?」
男の人はブルートを取り出して、私に見せてくださいました。
「ブルート!!・・・ここは?」
「ロジニという集落だ。君はいったい?」
「・・・私は・・・船で・・・。」
「船・・沈没したのか?」
「・・・わかりません、何も覚えてなくて・・・。」
「そうか。」
下から宿屋のおかみさんがあがってきました。
「仕事の時間よ。・・・あら、起きたの?」
「はい。」
「よかったわ。」
「どうやら、誰かと離れ離れになっているらしい。」
「そうなの・・・。」
私は、そのままベッドからおきようとしました。
「ダメ、あなたは、まだ寝てなくちゃだめよ。」
「・・・はい。」
私はまた眠り始めました。
その日の晩、私はふと目を覚ましました。
なんとなくでしたが、下からかすかに声が聞こえました。
「みんな、あつまってくれたの?」
「ああ。」
「仕事場の連中が帰ってこないのよ。みんな見にいってきて。」
「しかし、俺達が集落を離れてもいいのか?」
「男達が帰ってこない以上、私達がいつまで待っていても仕方がないわ。
私もついていきたいけど、あの子を看病しなくてはならないのよ。」
「・・・分かった。だが気をつけろよ。」
「まかせなさい。私を誰だと思って・・・
そこまで聞いて、私はまた、眠り始めてしまいました。
(18日目朝)
次の日の朝・・・私は目を覚ましました。
私は、ゆっくりとベッドから立ち上がり、1階へと下りました。
「・・・おはようございます。」
「あっ、起きたの。おはよう。」
おかみさんの声が、なんとなく震えているように聞こえました。
「・・・何か、あったのですか?」
「えっ?気にしないで・・・。」
周りは、おかみさん以外、誰もいませんでした。
「あの・・・セニフさんはどちらに?」
「・・・彼なら、今、ちょっと・・・。」
おかみさんはなぜか、言うのをためらっていました。
その後、突然、何かに気付いたように私にこう言いました。
「・・・あんた、ルシアって人・・・知ってる?」
私は、思ってもいなかった、その名前を聞いて、声も出なくなるくらい、
驚いて、おかみさんの顔をみつめていました。
「・・・やっぱり。・・・それなら、私の代わりに仕事場へいってくれるかしら・・・?」
「・・・え?」
「あなたなら・・・きっと、大丈夫よ。でもまだからだの方が心配なのだけど・・・」
「私は大丈夫です、それより・・・。」
おかみさんは、私の言葉を聞かないようにして、そのまま言葉を続けました。
「分かったわ。この集落の南よ。
先にこの町にとどまっていた男達も駆け付けたと
思うんだけど、もし危なくなったらすぐに私を呼びなさい。いいわね。」
「でも・・・。」
「大丈夫、あなたを・・・ちゃんと守ってくれるはずだから・・・。」
私は、何か言おうとしましたが、宿屋を出ました。
「・・・ルシア・・・。・・・マーシャを・・・見ててあげてね。」
(18日目朝)
見慣れないところに私はいました。
とてものどかで平和なところだと最初は思いました。
陽の光はとても暖かくて、時々吹く風からは海のにおいがしました。
・・・でも、誰もこの町には人がいませんでした。
そんな町の外れで私は、初めて人に会いました。
「どこへ行く気だ?・・・ここから先は他の集落だ。」
「あ・・・、あの、仕事場というのは・・・どこに?」
「仕事場・・?何の用だ?・・・まあ、いい。
ここからちょっと東へ行ったところの門から、南へ抜けろ。」
「ありがとうございます。」
私は言われた通りの方向へと向かいました。
その間、私は、その人がずっと私の方をじっと見ていたことに
気付いていませんでした・・・。
門を過ぎると森に囲まれた小さな道に出ました。
ゆっくりと下り坂になっていて、がけのような場所を歩いていった先に、
私はいくつかの小屋がある場所へと出ました。
「ここが、仕事場・・・。」
私は目の前から、誰かが歩いてくるのに気付きました。
「・・・だれか、誰かいるのか?」
私はその声を覚えていました。
「セニフさん!・・・セニフさんですか?!」
「ああ。・・・よかった、誰かに会えて。奥の仕事場で・・・崖崩れが起こった。
仲間が、なんとか私だけは助けてくれた・・・、そうだ。
他の男達を呼んでくれないだろうか・・・その、ええと・・・」
「・・・私はマーシャです。」
「そうか、マーシャ・・・か。頼む!呼んできてくれ!!」
「で、でも、もう既に、こちらに来ているはずでは・・・?」
セニフさんは驚いたような顔をしていました。
「あ、あの・・・見ていないのですか?」
「この仕事場に、他に誰か来たのならば・・・気付いた・・・ッ!!」
セニフさんは、肩を押さえて地面に苦しそうにうずくまってしまいました。
「セニフさん!!!ど、どうすれば?!私はいったい!!」
「落ち着くんだ!・・・君一人で奥に行くのは危険だ!!・・・誰かの助けが必要だ。」
「・・・はい。」
「いいか・・・宿屋のおかみさんを呼んできてくれ。今すぐに!!」
「はい!!」
私は、急いで来た道を戻りました。
途中で、別の集落への道にいた人にも手伝ってもらおうと思っていたのですが、
私が見た時には、すでにその人はいませんでした。
そのまま、私は宿屋の中に急いで入っていきました。
「おかみさん!大変です!!来てください!!」
「・・・ど、どうしたの?いったい。」
突然私が入ってきたので、一瞬びっくりされていましたが、すぐに、
何かが起こってしまった、ということに気づかれたようでした。
「・・・崖崩れが起こったそうなんです!!」
「わかったわ、行きましょ、今すぐ。」
おかみさんは、急いで台所から仕事道具を取り出されました。
「それは?」
「何、ちょっとした爆弾よ。急ぎましょう。」
「はい。」
宿屋から出ると、私は西の方で、何か人影を見たような気がしました。
「どうしたの?・・・仕事場はこっちよ。」
「え、そ、そちらからなのですか?」
「・・・どこから、行ったの?」
「こ、こちらから、ぐるっと・・・。」
「そんな遠回りしなくてもいいわ、こっちが近道よ。」
もし、私達が急いでいなかったなら、仕事場へ向かったのを見届けた人がいたことに
気付いていたかもしれません。
おかみさんと一緒に仕事場の入り口まで行くと、そこにセニフさんの姿を見ました。
「セニフ!!あんた、大丈夫なの!?」
セニフさんは、苦しそうに答えました。
「ああ、なんとかな・・。それより他のやつを・・助けなけれ・・ば・・。」
「あんた・・・じっとしときなさい!!あとは私にまかせて!!」
「・・・頼む。」
「そこに横になっときなさい。行くわよ!!」
「はい。」
おかみさんは、細い崖の道を歩き慣れているようでした。
あんな仕事道具を背負っているにも関わらず、ものすごい速さで通り抜けて行きます。
やがて、私は奥で山が崖崩れを起こしているのを見ました。
「ちょっと、なんでこんなことに?・・・小屋の真上じゃない!!」
「だ、誰かが!!」
私は、そのかすかに動く人の影を見ました。
「みんな、大丈夫なの!!!」
おかみさんの声に何人かが反応しました。
「今助けるわ!!あなたはここで待ってて!!」
おかみさんはそういうと、そちらに向かい、仕事道具を入れていたリュックを
腕にかけながら、中にあるものを辺りに投げ始めました!!
「痛いかもしれないけど、我慢するのよ!!」
と、叫び終わると、私はそこから煙があがり、やがてばらまかれた、
爆弾がいっせいに大爆発をしたのを見ました。
「え、ええっ!!!」
「いたたた・・・、みんな!!大丈夫なの!!!」
おかみさんは、吹き飛ばされた入り口から中を覗き込みました。
「大丈夫かぁっ!!突然、爆発さすんじゃない!!殺す気か!!」
「よかった・・、死んでないみたいね。」
吹き飛ばされた入り口から、傷の浅い人が大ケガをしている人を手伝って、
みなさんが出てきました。
「助かった・・・すまねぇ。」
「・・・何言ってるの。当たり前でしょ。」
「セニフは・・・今どこだ?」
「仕事場の入り口で倒れてたわ・・・でも安心して。だいじょうぶだから。」
私達は、みなさんと一緒に集落へと戻りました。
集落への入り口で途中でセニフさんとも合流しました。
ただ、セニフさんは何も言わずに、集落を指差していました。
「・・・私が、・・・迂闊だった。」
(18日目昼)
「集落が、・・・何者かに、荒らされた。」
家々はみな、無残に散らかされ、崩されているものまでもあった。
幸いなことに、火だけは付けられていなかったようだった。
「ど、どういうこった?」
「誰かが、集落に入ってきたっていうの?」
「ひどい、・・・誰がこんなことを・・・。」
私の横を、マーシャが通り過ぎていった。
「どこへ行く?」
私達は、マーシャの行く先へと走っていった。
「やっぱり、・・・誰もいない。」
「誰もいないって、・・・誰かいたのか?」
「え、だ、だって、ここには門番の人が・・・。」
「門番だって?そんなのは最初からいないわ、だいたい、男はみんな仕事場へ
向かったんじゃないのかい・・・、」
「そういえば、人数が少ない。・・・マーシャの言っていた、
私達を助けに来たという集落の男達・・・。」
「な、何?この今まで集落にはそれじゃあ、・・・誰もいなかったのか?!」
突然起こった崖崩れ。集落の人間が忽然と数人いなくなった。
私達全員が仕事場へ行ったのを、見計らって犯行に及んだかのようだった。
恐らく、集落の人間の何人かも、奴等によって囚われたか、或いは、共犯だったか。
ただ、ふと、私の脳裏に嫌な予感が巡ってきた。
「まさか・・、そんなバカなことが・・・。」
「セニフ・・・さん?」
「ちょっと、まさかって、・・・そんなはずがないでしょ!!」
私は、隣にいた、杖を持つその少女に話し掛けた。
「マーシャ、あの家が見えるか?・・・その家の奥に宝物庫がある。見てきてくれ。」
「はい。」
私は一人、その家の前に来ました。家の入り口は荒らされていて、
壁も崩れかけていました。
ゆっくりと扉をあけて、中へ入りました。
埃が舞い上がっていて、息が苦しくなりそうでしたが、
暗い部屋の奥に私は、何かの箱をみつけました。
近づいてみましたが、・・・その箱の外側は、傷つけられていました。
中身も、すでになにもありませんでした・・・。
私がみなさんの所へ戻ると、傷ついた人たちのために、おかみさんや、
他の人たちは、治療をはじめていました。
「どうだった?」
セニフさんは、私に尋ねました。でも、何も答えられませんでした。
「雫の結晶、・・・幻の雫の結晶が奪われた。」
周りの人達の手が、突然止まりました。
「幻の雫・・・?」
セニフさんは、しばらく黙っていましたが、やがて口を開きました。
「・・・命にかえてでも、守らねばならなかった物・・・。」
陽がだんだんと落ちてきたので、私達は宿の中へと入ることにした。
傷ついているものを優先して、ベッドへと誘導し、残りのものは、
壁にもたれかかり、しばしの休息をとっていた。
おかみさんと私は、治療の手伝いをしているマーシャのところへと歩いた。
「こんなことに巻き込んでしまって、すまない。」
「傷ついている人を放っておくなんて、出来ません。
私に出来る事なんて、他に、何もありません。」
しばらくの間、黙っていた。
「・・・このままでは、取り戻すことが出来ないかもしれない。」
「セニフ、心辺りはないの?」
「分からない。・・・狙う者がいたとしても、何故、あの封印が解かれた?
少なくとも、私達のような、普通の人間が近づくことが出来るような、
生半可な封印ではなかったはずなのに・・・。」
「普通の盗賊じゃあ、無理な話よねぇ。集落は荒らされたけど。
・・・それに、ここからは、そんなに金品は盗まれてないのよ。」
「盗賊か・・・。」
私は、そこまで口にして、突然意識が薄れ行くのを感じた。
「あぁ、もう、あんたもそこで横になっておきなさい!!
あんただって、ケガしてるんでしょ?いつまでも、おきてるんじゃないの。」
私は、そのままいつのまにか眠りに落ちていた。
「マーシャ・・・。」
「は、はい。」
おかみさんは、私の手をとって、目を見ながら話を始めました。
「トルクの集落へ行ってくれない・・・?」
「・・トルクの・・集落?」
「このロジニの集落から南に、もうひとつの集落があるの。
・・・盗賊達の溜まり場よ。手がかりがない以上、近くから調べるしかないわ。
ここの男達も奴らに囚われているかもしれないし、雫の結晶も・・・。」
「私では無理です・・・。」
この集落にいる人にとって、大切な宝物であるという、その雫の結晶。
そして、それを盗むために、集落を荒らして、セニフさん達の小屋で崖崩れを起こし、
何人かの人を、捕まえたその人達を、私は許す事ができませんでした。
忘れようとしても、何度も、あの炎が浮かび上がってきました。
でも、それでも、私はひとりでは何も出来ないと思っていました。
私はアーシェルさんや、シーナさんに会うことが出来たから、
生きてこれた、そして、これも生きていけるんだと思っていました。
1人では、私は何も出来ない、・・・それに何をすればよいのかも分からない。
私は、不安と恐ろしさで、いっぱいでした・・・。
「大丈夫。あなたなら。―――守ってくださるはずだから。」
「・・・ルシアという人。・・・お母様の事をご存知なのですか?」
おかみさんは、急に私から、目をそらしてしまいました。
「お願いします。お話ししてください。お願いします!!!」
「・・・何を、言ってるの。・・わ、私はなにも・・・。」
「教えてください!!!」
おかみさんは、急に大きな声で私の言葉をさえぎりました。
「セニフ達を・・・安心させるためにも、今は、雫の結晶を取り戻すの。
・・・これ以上、セニフにあの雫の結晶で心配させたくないのよ。
次に目を覚ました時には、ケガをしたままで取り返しに行くわ・・・死ぬ覚悟で。」
「・・・わかりました。私が、・・・行きます。」
私は、立ち上がって、暗くなった外へと出ました。
お母様のことは、誰も話してはくれません。
きっと、自分で見つけなくては、ならないことなんだ・・・。
・・・そう思うことしか、私には出来ませんでした。
2008/12/07 edited (2002/02/11 written) by yukki-ts next to
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