[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第1幕― 第2章

 モンスターズハンター事務所には、誰の姿もなかった。
「それで、そちらの娘は?」
「はい。マーシャといいます。はじめまして。どうぞよろしくお願いします。」
 マーシャは、シーナに対して深々と頭を下げる。
「マーシャねぇ・・・。アーシェル、あんた、ホントに何してたの?」
「俺が何もしてないような口調で問い詰めるな。・・・1つ分かったことがある。」
「何よ?」
「動物たちが急に狂暴化してしまうこの病気。それと、この娘が関係ある・・・。」
「この娘が、・・・黒幕?」
「えっ!?」
「いいか?話だと、マーシャの母さんは不思議な力を持っていたらしい。」
「・・・普通に聞き流したわね。」
「そして、マーシャはその力を受け継いだ。」
「それで?なんだって言うのよ?」
「その力を狙う奴らに会った。」
「で、それとこれと、何か関係あるの?」
 シーナの発言は、耳に入れないように心がけて、俺は深呼吸して話を続けた。
「・・・俺は奴らに立ち向かった。だが奴らは、既に狂暴化したモンスターを
 使って俺に戦いを挑んできた。」

「それって・・・。」
「あぁ。」
 真剣な顔つきにやっとなってきたシーナに対して、俺は静かにうなずいた。
「要するに、マーシャを狙ってる奴と、私達が追ってる奴は、同一人物ってこと?」
「そういうことになる・・・」
 俺は、そこでその先の事実を言うことを一瞬戸惑った・・・。
「どうしたの?急にだまって。」
 なんとなく俺はシーナから視線をそらし、空中をぼんやりと眺め、つぶやいた。
「奴らに・・・ガーディアが関わっていた・・・。」



 私は思いもよらないその名前を聞いて、しばらくその言葉を信じられなかった。
「そ、そんな、そんなことが・・・。」
「俺も信じられなかった。まさか、隊長が敵だったなんてことが・・・。」
「・・・見間違いじゃあ・・・。」
「いや、確かにそうだった。・・・俺達は裏切られちまったんだ。」
 アーシェルの言葉で、私は重い空気におしつぶされそうな嫌な感じになったわ。
「あの・・・」
 そんな時に、私の目の前にその娘はいたのよ・・・。
「そういえば!!!」
「どうしたんだ?」
「いったい何があったのその娘?服がボロボロじゃない?」
「・・・お前、すぐに調子が変わるな・・・。」
「そ、その・・・、これは。」
「マーシャ、こいつに答えなくたっていい。・・・過去を聞くのはやめろ、シーナ。」
「な、何よ?!・・・私にそんなきつい口調で言わなくたっていいじゃない!!」
「お前のそんな軽いところが俺は嫌いだ。」
 突然怒り出したアーシェルに、私はカチンと来ちゃった。
「わかったわよ!!アンタのことは報告しとくわ!!
 明日には依頼があるでしょうね。
 さっさとアローの調達にでも何にでも行けばいいじゃない!!」

 私は、アーシェルさんと事務所を出ました、いえ、追い出されました。
 アーシェルさんは、何も言わずにただ黙って宿屋へと向かいました。
「おぅ、お前はアーシェルじゃねえのか?」
「また世話になる。」
「って、お前。そっちのお嬢ちゃんは、どうしたんだよ?お、・・・おまえ?!」
「マーシャです。お世話になります。」
「へぇ。マーシャちゃんか。しかし、どこかの教会のシスターみたいなお嬢ちゃんが
 また、なんでアーシェルのガキなんかと・・・?」

「ガキで悪かったな。」
「ほらほら、とっととガキはお嬢ちゃんのために金払って上がっちまいな。」
「クスッ。」
 思わず、私は笑ってしまいました。
「な、お、おい?!」
「あやまんなくたっていいぜ、こんなガキによぉ!!」
 そんな会話の一つ一つが、私にとっては何か新鮮に思えました。
「そこの階段を上りな。・・・一番奥の部屋が一番いい部屋だからよお。」
「はい。」
「って、お、おい、金高いだろ?!」
「気にするな、お前の部屋はいつもの部屋だ。」
「そういう問題じゃないだろ?」



 なんだかんだあって、俺はベッドの中で夜を過ごし、朝、目覚めた。
いつも通りの朝に変わりはないはずだった。
いつものように朝日が窓辺に差し込み、平和な街を映し出していた。
「・・・おはようございます。」
 階下では、朝早くに起きて身支度を整え終わっていたマーシャが笑顔で待っていた。
「いつまで寝てんだよ?お前は・・・。マーシャちゃんをいつまでも待たせやがって。」
 俺は、落ち着いてマーシャに話し掛けた。
「・・・俺は、これから出掛ける。危険だから、お前はここに留まれ。」
 マーシャは驚いた様な表情を浮かべる。
「シーナの奴はともかく、外に出ちゃならない。・・・この親父なら、
 お前の一人や二人、守ってくれる。・・・夜までには帰る。」

 俺はそのまま外へと向かう。
「私も行きたい!!」
「だめだ。」
 宿から一人外へと出た。俺は昔から一人で行動してきた。
そんな俺にマーシャを自分ひとりで守ることなど出来ないと勝手に決め付けていた。
「いいんだ。・・・今まで、そうして来たんだろ。」
 俺は、事務所へと入った。
「アーシェルか?・・・遅かったな。」
「アローの調達に手間取った。」
「シーナとまた何かあったんだろ?あいつ、そうとう不機嫌だったぞ。」
「知るかよ、そんなこと。」
「それより、・・・女の子は一緒じゃないのかよ?しかも相当可愛い・・・。」
「誰から聞いたんだよ?」
「シーナが私程じゃないけどとか・・・、いや、今は仕事の話が先だ。」
「何処だ?」
「町外れにきこりの家周辺で、モンスターの動きがあるらしい、400S$だ。」
 俺は、アーチェリーを携え、モンスターズハンター事務所をあとにした。





 私は、ぼんやりと明るい日差しに包まれた街を窓からながめていました。
それは聖堂の窓から見た村の景色よりも、とても明るくて楽しそうでした。
でも、外から聞こえてくる声に、村でよく聞いた小さな子の声はありませんでした。
「一人で外を見てたってつまんねえだろ?」
 突然の声に私はびっくりして後ろを振り返りました。
「扉は閉めときな。何があっても知らないぞ。」
「ご、ごめんなさい。」
「街に出てみな。小さな街だけどよ。」
「で、でもアーシェルさんが。」
「誰も噛み付きゃしないって。夕方までに帰ればいいんだからよ。行ってみな!!」
 断ることも出来なかったので、身支度を済ませて街へと出ました。
部屋の中から聞こえた以上に、街はとてもにぎやかでした。
 街で会う人はみんな、私に明るく笑顔で声をかけてくれました。
私は、ふと昨日の、あの事務所の中へと入るシーナさんを目にしました。
 私は、そのあとを追いかけるように、事務所へと入りました。
「え?マーシャ?どうしたの?アーシェルの奴と一緒じゃないの?
 きっと、あいつのことだからまた、危険だから宿で待ってろとでも言ったんでしょ?」

「は、はい。」
「あいつは、マーシャにケガさせたくないだけなのよ。妙に責任感強いんだから。
 危険な目にあうのは自分だけで十分だ、って格好つけたいんでしょ。」

「あの、アーシェルさんは、ここには?」
「いや、アーシェルはまだ仕事中だな。」
「あんた、その右手で今、隠したの。・・・指名手配書でしょ?」
 シーナさんは急にその男の人に話し掛けました。
「やっぱり、見てたのか。」
「見過ごすわけないでしょ?どんな指名手配犯よ?」
「ニナートゥルの森。緊急指名手配だ。報酬は2000S$。今回ばかりは・・・」
「いいわね。やってやろうじゃない。」
「最後まで聞け。今回はお前だけじゃ無理だ。クローウルフは一人じゃキツい。」
「報酬が減るじゃないのよ、そんなことしたら!!さっさと、片付けて来るわ。」
 シーナさんはそう言って足早に事務所から飛び出して行きました。




「はぁ、いつのまにか一日が過ぎてたんだな。」
 俺は、既に高くなった陽に照らされるイシェルへの街道を歩いていた。
「マーシャに、心配をかけたな。早く戻ろう。」
 イシェルに戻って、俺はまず仕事の報告をしに、事務所へと入った。
「今、帰ってきた。ハンティングは無事に終了・・・」
 俺は、事務所の中のその異様な人数に一瞬圧倒された。
「ん?マーシャ?なんでここに。」
「俺が連れてきた。だよな?マーシャちゃん?」
「って、何してるんだよ?!」
「アーシェル!!今の今までお前、何をしていたんだ?!」
「な、何だよ、急に大声で。仕事をしていた。敵が多かったがようやく終わった」
「シーナの奴が帰ってこないんだ!!」
「・・・。」
 一瞬俺はいつものことかと、落ち着き払おうとしたが、もう一度落ち着いて考えた。
「な、なんだと?!ど、どこに向かわせたんだ?!」
「ニナートゥルの森だ。」
「ニナートゥルの森。あそこは迷いやすいうえに、モンスターが。なんで一人で?」
「報酬が2000S$だと俺は言った。」
「まさかその報酬で・・・。ああ、わかった。俺が今すぐ向かう!!」
「任せても大丈夫だな?」
「シーナは、俺が連れ戻す。親父、マーシャと一緒に宿へ戻れ!!」
「待ってください!!!」
 マーシャが突然、俺の元に近寄り、叫びかけた。
「しばらくまた心配をかける。だがお前は、ここで待っていてくれ。」
「シーナさんやアーシェルさんはそうやって、一人でも危険に立ち向かっています。
 私だけ、こうやってみんなに守られながら何も出来ないなんて。
 私にだって、きっとできることがあります。お願いします。
 私も、私も連れて行ってください!!」

「俺は、マーシャのことを心配して言っているんだ。」
「けっ、このガキが。お前は自分のことだけで手いっぱいか?」
「私は、自分のことは自分で守ります。アーシェルさんに、迷惑はかけません。」
「女の子一人、守れないんじゃ、お前、大した事ねえんだな。」
 うまくはめられたような気はしたが、これ以上話していても仕方がなかった。
「わかったよっ。シーナが心配だ!マーシャ、来い!!」
「はい!」
 俺は、街道を急いで西へと駆け出した。その後ろからマーシャが追いかける。
「ニナートゥルの森は、別名迷いの森と言う。」 
 俺達、モンスターズハンターへの依頼が多いのもこの地域だ。
太陽の光も満足に届かないこの森は、迷い込む者に襲いかかるよう、
本能的にモンスター達が集う危険な場所となっている。
 やがて、俺達はニナートゥルの森へとついた。
「だんだん、暗くなってくる・・・。」
「俺から離れるな。ここは迷ったら最期だ。」
 マーシャは手に杖を持ち、周りを警戒していた。
「いろいろな声が森の奥から聞こえる。とても恐ろしくて悲しい声。」
「シーナ、一体何処に?」
 その時だった。シーナの叫び声が森の奥から聞こえたのは。
俺は反射的にその方向へ向かって走り出した。
「何処だ?どこにいる!!」
「シーナさん!!!」
 返事は俺の耳には届かなかった。嫌な予感を振り切ってその方向へと走りつづける。



 森に入ってしばらくはクローウルフの姿を見つけられなかった。
あきらめて帰ろうとした時、私の前に奴は突然姿を現したのよ。
「見つけたわよ。覚悟するのね!!」
 私は、両手にナイフを握り、クローウルフの方に向く。
でも、あいつの素早さは想像以上だったわ。
 攻撃をギリギリでかわしたけど、そのまま私は地面に倒れこんだ。
「や、やめて!!!!」
 クローウルフは倒れこんだ私をアイアンクローで貫こうとする。
必死になってよけ続けたわ。それでも背中にクローがかすめる。
なんとかして、立ち上がらないと、私はこのまま殺られるの?
「シーナぁっ!!!」
 アーシェルの声が聞こえた!!注意が一瞬それたすきにアーシェルの方に転がる!
クローウルフの顔面にアローが突き刺さる。
「いったい、こいつは!!!」
「クローウルフ。緊急指名手配モンスターよ。」





 シーナは俺とマーシャが来た事に気付くと、即座に跳ね起きた。
クローウルフは静かに低い唸り声とともにこちらを眺める。
「マーシャ、・・・あなたは後衛へ。アーシェル、加勢して!!」
 クローウルフはシーナの動きを察知する!!
2本のナイフを両手に持ち、疾風の如く、敵に向かう!!
「残念ね。あんた、私の動きについていけてないわ。」
 シーナは全身の力を両手に集中させ、クローウルフの身体にナイフを突き立てる。
鈍い金属音が森の中に響き渡る。
 シーナの持つナイフは、クローウルフの固い身体に弾かれ
シーナは、バランスを崩しそのまま倒れこむ、その頭上からクローが突き下ろされる!!
 そこで俺は何かの声を聞いた。一瞬、自分が発した声かと錯覚したが、
その直後、俺は周りの状況を察知した。
「・・・傷を受けてない。」
「よかったぁ、間に合って。」
 背後で、マーシャが息を切らしながら、シーナに微笑みかけるマーシャがいた。
「マーシャ、お前・・・」
「アーシェル!!こいつ、相当硬いわよ。私のナイフが弾き返された。」
 クローウルフはすぐさま食って掛かる勢いでこちらを見据える!!
「力だけじゃ、だめなら、こいつを試してみるか!!」
 俺は、一本のアローを取り出し、つがえる。
引き絞った瞬間、アローの先端で炎が燃え上がる!!
 奴がこちらへ攻撃を仕掛けたのを合図に、俺はアローを放つ!!



 アーシェルの炎の矢は、クローウルフの体に深く突き刺さって、燃え上がった。
「効果、あったようだな。」
「炎が効くわけね。それなら、私の番よ!!」
 私は、もう一度ナイフを握って、奴のところに走っていった。
奴も、クローを私に向けたけど、そんなのお構いなしに私はナイフに力を込める!!
「一気に決着をつけてあげようじゃない!!」
 体をかがませて、奴の間合いギリギリまで駆け寄って、私はナイフを振り上げる!!
体が急に熱くなる!素早く私の腕を伝わって、ナイフは赤く燃え上がる。
「さよならっ!バーニングスラッシュ!!」
「決まったか?!」
 腕には、クローウルフの体を斬り裂いた感覚があったわ。
でも、そのあと私の背中を激しい痛みが襲ってきた。
声にならない悲鳴を私はあげながら、倒れこんだ。
「シーナさん!!」
 それと一緒にマーシャの声が聞こえたわ。
回復魔法キュアってみんなが呼んでいる、暖かい青い光に包み込まれた。
「マーシャ、シーナを頼む!!あとは俺が奴を!!」
 私は、背後から苦しそうに息してる、マーシャを見たわ。
私のために、こんなになってまでも、がんばってくれていた。
「アーシェル!!待つのよ!!」



 シーナさんは、急に私から離れてアーシェルさんの方へと駆け寄りました。
「シーナさん。」
「はあぁ、ちょっと、キツいかな・・・。」
 シーナさんの傷口からはまだ血があふれだしていました。
「マーシャのところにいろ!!」
「あんたに力を貸してあげるわ。さっさと奴を倒すことね。」
「シーナさん!!離れないで下さい。」
「立っているだけでやっとでしょ。マーシャのためにも、はやく片付けないと。」
「私は大丈夫です!!」
 シーナさんは、アーシェルさんにゆっくりと近づき、腕をつかみました。
ゆっくりと深呼吸をしたあと、シーナさんの体からアーシェルさんに
赤い光が手を伝わっていきました。
「さぁ、あとはアンタの力、出し切ってみせな!!」
 そう言って、シーナさんはゆっくりと私の方へと戻ってきました。
「マーシャの命、削ってまで、私を助けようなんて思わないでね。
大丈夫よ、アーシェルの奴なら、きっと私のおまじないが通じるわ。」

 シーナさんはゆっくりと座り込んでしまいました。
「次のアローでお前をハンティングする!!」
 アーシェルさんは、近づくモンスターにアーチェリーを向けました。
「アーシェルさん!!」
「灼熱の炎の中で自らの罪を悔いろ。・・・炎の矢を射ん!!」
 アーシェルさんのアーチェリーから炎に包み込まれたアローが放たれました。



「やったか・・・?」
 俺はゆっくりとアーチェリーを下ろした。
急所に深く刺さったアローが、クローウルフを苦しめ、
やがてこちらに対して、恨みを込めた表情で見つめてきた。
「森の奥へと還れ。さもなくば、お前をもっと苦しめなくてはならない。」
 いくら、人間に被害を加え指名手配されているモンスターとはいえども、
みな人間と共存できるはずだと俺は信じていた。
「指名手配モンスターに、そんなこと言ったってムダよ。」
 シーナは突然、ケガしていたのが嘘であるかのように、跳ね上がる。
クローウルフが力を失い、倒れこんでいった。
「アンタ、よく私の仕事の手伝いをしてくれたわね。感謝してるわ。」
 シーナは、あとずさりしながら俺に話し掛ける。
「もちろん、これは私の仕事。報酬は頂くわよ。」
「お前、それでいいと思ってるのか?!」
「奴はもう起き上がらないし、あとは報告するだけね。
 あんたに、私は助けてなんて言った覚えはないわ。」

 シーナは、そうとだけ言い残すとすぐさま森の中へと駆け出す。
「さっきまでの苦しみ方、あれは演技か?!
 だいたい、お前は確かに加勢しろと言っただろ!!」

 そう言い終わった時には、シーナの姿は影も形もなかった。
「アーシェルさん?」
 マーシャは、ただ俺に微笑みかけて話すばっかりだった。
「帰ろう。こんなところに居たって仕方がない。」
 イシェルに戻った時には、陽は既に落ちていた。
「シーナはどこだ!!」
「アーシェル?遅かったんだな。もうシーナに報酬は渡したぞ。」
「な、何?シーナの奴。まさか自分で倒したつもりになってるのか?」
「シーナがあんなボロボロになるまで、戦ってたのに、
 なんて口を利くんだ、お前は!」

 もちろん、事務所にシーナの姿は跡形もなく消え去っていた。





 アーシェルさんはそこでしばらくは立ったままでしたが、
やがて、宿に戻るために扉へと歩き始めました。
「おい、アーシェル。」
「もう、夜だ。仕事の話は後にしてくれ。ひどく疲れた。」
「スフィーガル高原には行ったことはあるか?」
「関所の奥か。通行許可書も持ってないのに、行けるわけない。」
「ここに、許可書はある。」
 何かがいろいろとかかれているその紙をアーシェルさんに見せていました。
「俺に、高原で何をしろと?」
「ゾークスのことは知っているな?」
「ああ。元隊長の方だろ。高原にいるのか?」
「ガーディアの件で、お前、いろいろと調べてるんだろ?
 それなら、ゾークス様にゆっくりと話を聞いてみたらどうだ?」

 アーシェルさんは、その紙といっしょにもう一枚紙を受け取りました。
「お前のことだから、断りはしないだろ?明日にでも行ってみろ。」
「あの、私も行っていいですか?」
「マーシャ、分かっただろ?これ以上危険な目にあわせたくない。
 お前は宿でゆっくりと休まなきゃならない。これからのために。」

「でも、私だって本当のことを知りたい。」
「これは、依頼書だ。一人で行かせてくれ。ゾークス隊長には、
 しばらく会ってなかった。昔、いろいろとお世話になった人なんだ。」




 イシェルは渓谷の最もふもとにある街だ。
ここからマーシャのいた所へ向かう北の関所。
ニナートゥルの森へ向かう西の関所と、もう1つ、東の関所があった。
 他の2つの門に比べて、特に出入りが厳しかった。
許可書を持っているのも、モンスターズハンターの中の少数だ。
「通行書だな。この先に洞窟がある。モンスターが出る。気をつけろ。」
「ああ、街のことをよろしく頼む。」
 気持ちのいい朝だ。こんなさわやかな風が吹き抜けるのも久しぶりのような気がした。
 モンスターも珍しくその日は、俺の前にあまり出てこなかった。
視線や気配は確かに感じたが、この地域ではそれほど影響が大きくないらしい。
 門番の話していた洞窟があった。
薄暗く湿っぽいその古い洞窟を俺は進んで行った。
 やはり、気配は感じられたが、そのいずれも俺に対して
襲いかかろうとする者はいなかった。
 洞窟を抜けたのは、陽が高く昇った昼過ぎだった。
高原を吹き抜ける風は気持ちよかった。俺は広がる草原の奥に、一軒の小屋を見た。
「モンスターズハンター事務所から来た、アーシェルといいます。」
 中から返事はなかった。何度か呼びかけては見るが、何の反応もなかった。
「誰か、いないのか?」
 少し声を上げて呼びかけてみるが、やはり何も返事は返ってこない。
そのままでいても、仕方がなかった。俺は試しに扉を開けてみた。
「・・・鍵、かかってるみたいだな。」
「本当に事務所の人間か?お前は。」
 その声は中から聞こえた。
「今、開ける。少し静かにしてくれるかの。」
 質素な小屋の中にあるいすにその老人は座っていた。
「ゾークス様ですか?」
「ああ。そうだ。・・・お前が来たのか。」
「俺ではなかったほうが?」
「ガーディアの奴はどうしておる?別の仕事か?」
 俺は、そこで口をつぐんだ。
「事務所を離れてから、何かあったようだな。」
「ガーディア隊長は、いったい、何故モンスターズハンターになられたのですか?」
「なぜ、そのようなことを聞く?」
「俺には、どうしても信じられないんです・・・なぜ、隊長が。」
「ガーディアが何故隊長となったのか。お前はそれが知りたいのだな?」
「はい。」
「この仕事に成功し、生きてここへ戻れ。その時にお前に教えてやろう。」
 急にゾークスは黙り、目を閉じる。
「何だ?何かが、近づいてくる?!」
 突然、小屋は激しい暴風に巻き込まれる!!
風の通り抜ける音が小屋にこだまし、辺りは激しく揺れる!!
「この小屋を出て、西へ行け!!お前がどれほどのモンスターズハンターか、
 見せてみるがいい!!」

 俺は、即座に小屋を飛び出し、西の方向へと飛び出す!!
「な、なんだ?奴は!!」
 何処かで聞いたことがあった。奴の名はスカイドラゴン。
嵐、炎、雷を操る巨大な化身。奴の翼からその暴風は放たれていた。
「俺が、押されてる・・。この風は、厄介かもしれない。」
「お前に、奴を倒す事はできるか?」
 いつのまにか、背後にはゾークスがいた。
「依頼を遂行するのが、俺のしなければならない仕事だ!」
 俺は、アーチェリーを引く。一点に集中し、アローを射る!!
アローは風を切り、スカイドラゴンに向かい飛ぶが、やがて減速しそのまま落ちる。
「もっと近くからか?」
 俺は、さらに近くに寄る。しかし、暴風はやがて俺の姿をみつけ、
刃となって、俺に襲い掛かってくる!!
「近づけない。どうすれば?!」
 スカイドラゴンはやがて、俺の姿に気付き、風を集めて俺に吹き付ける!!
俺は成す術もなく、風に吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。
「手も出す事ができない・・。」
「別の奴を連れて来い。」
 ゾークスはアーシェルに冷たく言い放つ。
「お前一人では、力不足だ。帰れ。」
 俺は、そのまま何も言い返すことが出来なかった。
しかし、留まっていても、俺には奴に勝つ自信がなかった。
背後に、ゾークスの冷たい視線を感じていたが、ただふもとへと引き返すだけだった。
 洞窟を一人、力なく歩いていた俺は、前方からやってくるその殺気を感じた。
俺の本能は自然と、岩陰にその身を隠すように俺の体に命令を下していた。
 奴等は、街の方向から洞窟の奥へと向かい、歩いていた・・・。




 俺が、眠らないこの街に戻ってきた時は、もう真っ暗になっていた。
「また、新しい獲物を見つけに来たか?」
「聞いてるぜ。軍からだろ?世を乱す野郎共のリスト。殺しの依頼。」
「テメェ程の殺し屋なら、血が騒ぐだろ。どうだ、ディッシェム?」
 血まみれのスピアをしまって、俺はその紙を読んだ。
「―――ディシューマ軍部よりレイティナークの殺し屋共に通達する。
 以下に示す2人の始末を貴様らに任す―――、久しぶりに、人間が相手かよ。」

 俺は、その2人の顔が書かれた紙をカウンターに置き、再び眠らない街へと出た。
アーシェル、マーシャというその2人の名前と顔だけを覚えて。

2008/12/05 edited (2001/12/10 written) by yukki-ts next to