[
top
] | [
[stage] 書き物系
] > [
[stage] Story5-35
]
[stage] 長編小説・書き物系
eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~
悲劇の少女―第5幕― 第35章
(112日目朝)
飛行艇の中はとても暗くて、足元も見えませんでした。
「動くのでしょうか?」
「あの女性が操縦するという以上、・・・信じて待つしかないだろう。」
そういって、ザヌレコフさんとディッシェムさんを席へ座らせた後に、
セニフさん自身も、窓際の席へと座られました。
「・・・私、前の方に行って来ます。―――シーナさんも・・・。」
「行かない。」
「は、はい・・・。」
ときどき段差につまづきそうになりながら、壁をつたって、一番前へと行きました。
「―――各計器異常なし。気象は、ちょっと荒れてるけど、・・・まぁ、いっか。」
「ほ、本当ですか?」
「あら、いらしてたの?あたしの飛行艇に。・・・心配しなくてもよろしくてよ。
もし、死んだらあやまりますわ。ごめんなさいね。
・・・それで、電気系統、燃料系統、すべてなし―――。」
「どうして謝るのですか?!・・・そ、それに、燃料・・・なし、ですか?」
「そうだわ、あなた!!ちょっと、あたしと一緒に、ここに立ってくださるかしら。」
ティスターニアさんの足元には、魔法陣が描かれていました。
「どうするのですか?」
「すべて、魔力供給ですの、これ。―――手伝ってくださるかしら。」
飛行艇が激しく揺れた。動力系統が動き出し、飛行艇に照明が灯る。
操縦席前方のスクリーン全体に、巨大な世界地図が浮かび上がった。
「まず最初の目的地は、ここから一番近い大陸ね!!
―――そうね、ここに、ちっちゃな大陸があるみたい。ここにしましょう!!」
俺は、淡くともったその地形を見て、懐かしい気持ちになった。
「スフィーガル大陸・・・か。」
「アーシェルさん・・・、ここにいたんですね?」
「ああ。・・・そうか、戻るんだな。―――俺達の、故郷に・・・。」
「さぁ、行きますわ!!―――クイーンティスターニア号、発進!!」
マーシャが俺の顔を見る。恐らく、名前は本当にそれでいいのですか、
とでも、俺に言いたいと思っているのだろう。
(113日目早朝)
「長かったな・・・、この日が、・・・来るのが・・・。」
「あの日、私と、アーシェルさん、シーナさんで、スフィーガル大陸を出てから、
いろんな事がありましたね。」
「・・・楽しいことや、・・・悲しいこと。・・・いろいろとありすぎたが、
どれも、忘れるには、印象深い事ばかりだった・・・。」
客室にティスターニアが現れた。
「もう操縦室を離れてもいいのですか?」
「目的地までは、きちんと自動操縦で向かっていますわ。
―――故障はしていないし、方角も間違ってはいないわ。」
「ところで、アーシェル。・・・スフィーガル大陸で、何か予定はあるのか?」
アーシェルは少し考えた後に答えた。
「俺達の故郷だ。・・・いろいろと、挨拶まわりにもいかなきゃならないし、
報告も残っている。―――最後の仕事の報告がな・・・。
・・・それに、ひとつ。・・・・確かめたいことがあるんだ。
―――短い間でいい。・・・しばらくの間、待っててくれないか?」
「え?・・・一人で、行くおつもりですの?
―――せっかく立ち寄った大陸ですし、・・・あたしも、行きますわ。
・・・アーシェルは、当然詳しいのよね。・・・案内して下さらないかしら。」
ティスターニアがアーシェルに近づく。
「あ、あの・・・わ、わたしも・・。」
「ちょっと、・・・私を、・・・・差し置いて、話、・・・進めるんじゃ、ないわよ。」
馴れ馴れしくアーシェルに近づいてきた女とアーシェルの間に割って入った。
「あんたは、私が案内してあげるわ。・・・私も、ここにいたんだから。
―――いい?!・・・あんたは、単なる一旅行者として振舞えばいいのよ。」
「ちょっと!!このあたしを、誰だと思っていらっしゃるの?
・・・それなりの登場の仕方ってものが、あるでしょう!?」
「なによ、アーシェルと、一緒に歩いて!?
・・・こんな風に、腕とか組んだり?いちゃついたりして!?」
「お、おい?・・・シーナ・・。―――酔ってるのか?」
「るっさいわねぇ!!黙って!!」
「は・・・、はい。」
「ちょっと、・・・揺れに・・・、な、慣れてないだけよ・・。
―――いい?!勝手な行動は、慎むのよ!!だいたい、そんなに
大きな街じゃないし、なぁんにも、ないのよ!!そこんとこ、分かっててよね!!」
「アーシェルに聞きましたわ。ご機嫌がよろしくないのでしたら、
おとなしく、席に座ってていらしてはいかがですの?」
「話の途中で・・・申し訳ないのですが・・・、わ・・・、わたしも・・・。」
「―――ショップも大きいものがあるようだな。私も行こう。」
「・・・ここは?」
「ドルカちゃん!!よかった・・。」
「ドルカ・・・。飛行艇に乗ってすぐ、気を失ったんだ。
だが、心配はない。一時期のように力に押さえつけられていた
わけではないだろう。無理な魔力の行使は控えた方がいい。」
「ご迷惑をおかけしました・・・。」
「で、あ、あの・・・、それで、わ、私も・・・行き―――」
突然、飛行艇が高度を下げ始めた。
「どうやら、到着したみたいですわね。適当なところにつかまってて下さるかしら。」
「セーフね・・・。」
「おい?!ずいぶんとひどい、着陸だったじゃねぇか?!頭、打っちまった・・・。」
「おい・・・、テメェ・・。ヒメさんに向かって、なんて口利きやがる?
―――んな事より、今回、俺はパスさせてもらうぜ・・。
・・・疲れちまった。どうせ、誰かここに、残らなきゃならねぇんだからな・・。」
「・・・俺も、・・・ワリぃが待機するぜ。アーシェルらだけで、行ってきてくれ。」
「あ、・・・ああ。それじゃあ、行こうか。―――俺達の故郷に・・。」
「あの!!私も・・、私も行きます!!」
「な、なんだ!?・・・いきなり、大声なんてだして!?」
「そんなの、当たり前じゃない?何、寝ぼけたこと言ってんのよ?
さぁ、行きましょう!!・・・ほら、ドルカも。行くわよ!!」
そいつら6人は俺達をおいて、飛行艇から離れていった。
「―――なぁ・・・、ディッシェムよぉ・・・。」
「な・・・、なんだ・・・よ・・・・?」
「お前・・・、誰か、・・・隠し事してる奴・・・、いるか・・?」
「な・・、そ、そんなわけねぇだろうが?!
だ、・・だだだ、誰も、ドルカや他の奴らに隠し事なんかしてるわけねぇ!!
―――って・・て、テメェは、どうなんだよ・・?!」
「お、俺か!?・・・お、俺が、隠し事・・・す、するわけねぇ・・。
・・・俺が、・・・シーナや別の奴に隠し事する必要なんかねぇだろ。」
俺とザヌレコフは、そのまま肩を落として下を向いて黙り込んじまった。
「だよなぁ。」
「だよなぁ。」
(113日目朝)
「・・・なんていうかさ、ザヌレコフみたいな元大盗賊がいないだけで、
相当平和ね、このメンバー・・。」
「―――こう、毎日が静かで、何も起こらなければ本当に平和なのだが・・・。」
「アーシェル?!ねぇ、ふもとには何がありますの?」
その女が身分もわきまえずにアーシェルの方に近づいていった。
「モンスターが出ないだけでもありがたいんだ、邪魔しないでくれるか?」
とうとうこの女、本性を現したようね。けど、アーシェルがあんたみたいな女に、
興味があるわけないでしょ、全く・・・。
「シーナさん?何をそんなに慌てているのですか?」
「う、うわ。マーシャ。何、突然言い出すわけ?いつも通りでしょ?!文句あるの?」
「・・・もう1人、いなくならない限り、平和は来ない・・・か。」
「後ろの方?騒がしいですわよ。」
「マーシャお姉ちゃん?ふもとに、村が見えますね・・・。」
村での記憶が蘇りました。それは、燃え上がる炎・・・、村のみんなの叫び声・・・、
そして、・・・お父様の幻の言葉すべて・・・。
「・・・ごめんなさい。私、そんなつもりでは言ったんじゃあないんです。」
「え・・・、私は、何も、気にしてな―――、ああぁ!!」
「どうした?!マーシャ!!」
突然足元でつまづいて、バランスを崩して倒れそうになってしまいました。
アーシェルさんが、私の声に気付いて戻ろうとするところが見えました。
「何を、考え込んでいるんだ?」
しばらくセニフさんの腕にしがみついてぼうっとしていました。
「す、すみません!!あ、ありがとうございます。」
「気をつけるんだ。下にも人がいるんだからな。」
「・・・アーシェル?何を考えていらっしゃるの?」
「い、いや、なんでもない。」
「急ぎましょ?後ろなんて放っておいて。」
ティスターニアさんは、アーシェルさんの腕を引っ張って先に行かれました。
「ま、待ってくださいよ!!アーシェルさん?ティスターニアさん!!」
「・・・マーシャ、急ぐわよ。」
シーナさんも1人で追いかけ始めました。
「―――忙しい奴だな、全く。」
「誰も、いらしてないですわね・・・。」
「・・・マーシャの家だ。」
俺はそうつぶやいていた。一瞬、そうとは信じられなかったが。
「この聖堂が、マーシャの家だっていうの?!」
「主を失ってもなお、その聖なる力を失わない・・・。
なんという力を持つ聖堂だろう。」
マーシャは黙っていた。その表情を少し見た後、俺は正面の扉に手をかけた。
「マーシャ・・・。もう、心の準備は出来ているな?」
見たくもない光景だった。出来る事ならば、この場所を通ることを諦めたかった。
「心に決めています。何があっても、私は、・・・もう、負けません!!」
「行くわよ!!アーシェル!!!」
俺とシーナ、そしてセニフは扉を開け放った瞬間に外へ飛び出た!!
「邪魔よ、あんた!!・・・クロス、パニッシュ!!」
「不浄なるモンスター共・・・、この地をただちに去れ!!」
「グラシアルレイン!!」
前線にいた数体のモンスターを一気にシーナが片付ける。騒ぎに気付いた
周囲にいたモンスター達が一気に来るが、俺のグラシアルレインでそれを全て足止める。
「今こそ、我の声を聞き、その力をここに示せ!!―――アークティクス!!」
「みなさん、先に進んでください!!」
ティスターニアが凍りつかせたモンスター達の横をすり抜け、俺達4人が先へ進む。
「大丈夫、ドルカちゃん・・・。あなたを絶対に、守ってあげるから・・・。」
「―――闇魔導法、ビルス。・・・グローバルゲージ、レス-ウェーブ。」
俺にもわかる凄まじい魔力の波動の直後、猛烈な衝撃波が周囲の全てのモンスターを
覆いつくし、なぎ倒していった・・・。
「・・・マーシャお姉ちゃんを、傷つけるひとを、・・・私は許しません―――。」
「・・・何よ、ふもとまでの道、全部モンスターだらけじゃない!!」
「どういうことだ?なぜ、ここまで。それに、この辺りじゃ
見た事のない種族ばかりだ。」
「多少のダメージは仕方がない、だが、進むしかない!!」
「私はナイフ2本でどうにでもなるわ。でも、マーシャたちがもたないでしょ?!」
「ティスターニアさん!!力を貸してください!!」
あたしのことを力強い目で見ていた。あたしの事を信じきっている目だったわ。
「どうしてさしあげればよろしいの?」
「あの飛んでいるモンスター、全てを凍り付かせてください!!」
「あたしの召喚法でいいのね?・・・いいわ。アークティクスよ、力を示せ!!」
あたしには、全ての力を意のままに操る事ができた。無数にいるかのように見えた
その毒蜂のモンスター全てを、アークティクスの力が、的確に凍りつかせた。
「―――ゴッド、トライフォア・・・!!」
あたしが一緒にいるメンバーは、全員、見てきた全ての常識を覆すほどの
力を持っている人たちだった・・・。そんなことに今更気付いていた。
けれど、・・・その女の子の力。それだけは、―――全く別ものだったわ・・・。
(113日目夕方)
「・・・ついた。俺達は、ついたんだ。・・・イシェルの街に―――。」
俺達は、その懐かしい街並みに踏み入れた。
「お、おい、・・・アーシェル、お前、アーシェルじゃないか!!」
「みんな、アーシェル達が帰ってきたぞ!!」
突然、街中の人間が集まりはじめた・・・。
「アーシェル!!お前、・・・ずいぶんとまた、長い旅だったじゃないか?!
まだ、ほんのガキだと思ってたってのによぉ!!」
「いつまでガキだと思ってるんだよ、俺の事を!!」
「ねぇ、アーシェルなんかについていって、本当に大丈夫だったの、シーナ?」
「もう大変よ。毎日毎日トラブル続きよ、ホントに。」
「お、俺、マーシャファンクラブ会員番号22です!!
旅からのご帰還お疲れ様でした!!」
「て、てめぇ、何を目立ってんだ?!最初に挨拶すんのは、
俺の役目と決まってるだろ?!」
今に始まった事じゃないが、街中の人間が、俺達の帰りを喜んで踊り騒ぎあっていた。
「・・・ここでぼんやりしてる場合じゃないんだ。行こう、マーシャ、シーナ・・・。」
「おいおい、アーシェル・・・。もう、仕事の話なんかしてんのか?
せっかく俺達が宴を、マーシャちゃん達のために開こうってのに。
空気読めよぉ・・。」
「俺は、含んでないんだろ?開きたいなら、開けばいいだろう!!・・・とにかく、
事務所に行くのが先決だ。セニフ、ドルカ、ティスターニア、・・・行って来る。」
俺とマーシャ、シーナは、騒ぎあう街の人間の間を通り抜けて、事務所に入った。
「ごくろうさん・・・、長い旅だったな。」
懐かしい面々がいた。モンスターズハンター達全員が、俺達を出迎えてくれていた。
そのメンバーの中で、1人だけ、顔を知っているが、想像していなかった人間がいた。
「・・・シオン、―――どうして、ここに?」
「―――積もる話はあるだろうが、・・・まずは、報告してもらおうか、アーシェルよ。」
(113日目夕方)
「―――ガーディアは、やはり、敵でした・・・。
しかし、その背後で糸を引いていたのは、闇の住人、バルシド―――。」
「闇の住人・・・、バルシド―――。」
「ガーディアは、バルシドの手により、裏切られ、その命を絶たれました。
―――俺には、何も、・・・出来ませんでした。」
「奴は、もう・・・、逝ってしまったんだな・・・。」
「もう1つ。―――敵がここまでして・・・、マーシャの命を狙った理由―――。」
「私が、―――悲劇の少女であったから・・・。」
どの人も声に出そうとはしませんでしたが、唇は、悲劇の少女と繰り返していました。
「奴らの狙いは、マーシャのその、すごい力だったのよ。
私だって、目の前で見たんだから、間違いないわ―――。」
「バルシドを直接倒したのは、マーシャ―――、
悲劇の少女として覚醒したマーシャです。」
「・・・そこまで力が、あったとはな。―――アーシェルよ、本当にごくろうだった。
―――じゃが、アーシェルよ。この地を再び訪れたのならば、
もう、気付いておるな?」
「その女、誰なのよ?!そろそろ、説明してもらおうじゃない!!」
どうにも、その女の正体を知らないのは、私だけみたいだった・・・。
「マーシャ、・・・久しぶりに会ったわね。」
「そういえば、シーナさんは、シオンさんのことを、ご存知でなかったですよね?」
「―――私とサニータ、・・・2人は、この娘の、―――シオンの父親だ。」
「そ、そうなの?!・・・って、どういうことよ、それ・・・。」
「20年前、ロッジディーノの戦災孤児だったその娘は、たった1人で必死に
生き延びようとしておった。―――拾い上げ育てたその娘が、
ラストルの四使徒としての力を身に宿しておることに気付いた・・・。」
「ここにラストルの四使徒が集まる理由、・・・それが、モンスター達が再び、
凶暴化していることに関係がある―――。」
「・・・ラストルの、―――四使徒?」
そう聞いたとき、突然、ドアの方が騒がしくなった。
「ちょ、ちょっと!!ティスターニアさん!!だめですって!!」
「アーシェル?まだ、話は終わりませんの?外の方達が、待ちくたびれて
いらっしゃいますわよ?あら、・・・皆さん、初めまして。自己紹介が遅れましたわ。
此れより北の国、ガルド王国の女王、―――ティスターニア=ガルディックと申します。」
「何をしているんだ、それに、もう女王ではな―――、
わ、理由あって、マーシャ達と共に旅をしている、セ、セニフと言う者です。」
「ドルカ・・・、です。よろしくお願いします・・・。」
「みんな、アーシェルさんとの旅の途中で仲間になった方々です。あ、あと2人――」
「あら、まだ、他にもお仲間がいるの、マーシャ・・・?」
シオンがマーシャに尋ねるが、いくらなんでも、この場で答えるわけにはいかない
だろう。どうやって、マーシャの命を狙った元殺し屋に、シオン自身も襲撃された
元大盗賊が、今や仲間になっているだなんて言えるんだ・・・?
「ディッシェムっていう殺し屋のガキと、あの札付きの大悪党、ザヌレコフよ。」
「ちょっと待て、そんなにすんなり答えるのか?!」
「・・・それは、素敵なお仲間さんね。」
「さて、アーシェルよ。そろそろ、本題に戻ろうじゃないか。」
いい加減、収拾がつかなくなってきていたが、隊長の言葉で空気が戻った。
「―――どうして、マーシャの村が、モンスターで溢れかえっていたんだ?
俺達は、・・・モンスターズハンターじゃないのか?ゾークス隊長・・・。」
「その質問に答える前に、お前には言っておくことがある。
お前の目の前に居る人間を、隊長などと呼ぶのは、これまでだ。
シオンと共に、ラストルの四使徒として、・・・共に仲間となるのだからな。」
「シオン・・・、ゾークス―――、どういう事なのか、説明して欲しい・・・。」
「・・・シーナよ。」
「え、・・・わ、私?何よ、この邪魔者どもを連れ出せって?お安い御用だけど・・。」
「お前もだ、シーナ。それに、マーシャ、他の者も席を外して欲しい。
―――せっかくの宴だろう。今日1日ぐらいは、仕事を忘れるといい・・・。」
「さぁ、ティスターニアさん!!出ますよ!!」
ドルカが扉を開ける。街の連中の浮かれ声が聞こえてきた・・・。
「確かに、マーシャとシーナを呼ぶ声が聴こえるな。準備が出来たそうだ。」
「アーシェル?あなたも行きますわよね?」
「お前達だけで楽しんでくれ。どうせ、俺の名は呼ばれてないんだろう?
・・・隊長、いや、・・・ゾークスさんの言うとおりだ。せっかくの宴だ・・・。」
「あんた、ホントに嫌われてんのね。じゃ、こいつら連れ出すわね。」
それまでにぎやかだった事務所は、今や閑散としていた。
「・・・どうして、皆を外に?―――せめて、シーナや、マーシャくらいは・・・。」
「まずはそこに座るがいい・・・。」
アーシェルとゾークス、シオンの3人は部屋の真ん中に座っていた。
そして、私はこれからの話を、全て聞くことを選んだ。
マーシャをこの場から去らせた理由は想像に難くはない。だが、何よりも私には、
その場にとどまらなくてはならない理由があった・・・。
「ディシューマの軍、崩壊。そして、お前たちの様々な活躍は、
サニータからも全て聞いておる。もちろん、その後も旅を続けておった、
―――現状をより詳しく知っているのは、むしろ、お前の方であろう。」
「・・・確かにいろいろと見てきた。だが、まだ分からないことがある。
結局、ラストルの四使徒とは何か・・・、俺達が、何者なのかと言う事を・・・。
シオン、・・・俺に言ったことがあったな。今、ここで訊く。
なぜ、ここに四使徒が集まっているのかを―――。」
「―――明日の早朝・・・、約束して。必ず、1人で来ることを―――。」
「1人で・・・」
「・・・これは、隊長であった者の命令ではない。じゃが、四使徒である限り、
従わぬことは許されない。―――明朝、もう1人の者の元へ向かう。」
「―――四使徒のもう1人か?」
「あなたは、きっと知らない人。でも、・・・私はよく知っているわ。」
「わかった・・・。明日の朝、俺も、もう1人の四使徒と会おう―――」
アーシェルは立ち上がった。
「・・・あなたに訊こうと思ってた事があるの。・・・どうして、ラストル様に由来する
名前がついてるというのに、・・・あなたはそれを知らなかったの?」
「どうして・・・?」
「さっきの話の時もそう。―――ラルプノートの戦乱を知らない・・・って言うの?」
ラルプノート・・・。その言葉が聞こえたことで、私は全てを確信した。
「話した事はない。だから、アーシェルは知らぬはず。だが、告げる日を
選びかねていたのは事実だ・・・。じゃが、もう、迷う時間は残されてはおらん。」
アーシェルは、痺れを切らし、少しだけ苛立ちながら、その2人に話した。
「―――そんな遠回りな言い方をせず、はっきりと言ってくれないか?
・・・どうして俺に、何かを避けるように話そうとするんだ・・・。」
アーシェルは気付いていなかった。いや、そう思った事がこれまでなかったのだろう。
「これまで歩んできた、お前にとっての仲間たち。・・・そして、マーシャ、
―――悲劇の少女とは、・・・もう、関わってはならぬ・・・。」
(113日目深夜)
こんな小さな街だからこそなのかもしれない・・・。
街中の誰もがマーシャ達の帰還を心から喜び、酔い、踊り騒ぎ、
夜の間中その宴は続いた・・・。
そんな街の人々から少し離れて座っていたマーシャを見かけた。
「マーシャ・・・?」
「・・・は、はい。」
「―――私は、こういうのが苦手な性分なので仕方がない・・・。
・・・だが、これは、少なくとも、お前と、シーナ達の為の宴じゃないのか・・?」
「えぇ・・。」
「―――アーシェル・・・、か・・?」
「―――アーシェルさん・・・、それに、ディッシェムさん、ザヌレコフさん・・・。
シーナさんだってそうです―――。気のせいなら、・・・いいのですが、
・・・あの牢獄から帰ってから、・・・何か気になるんです・・・。」
「―――そんな事を、気にしてたんだな。」
「・・・何かが、アーシェルさん達を、押さえつけているんです・・・。」
「簡単な事だ。・・・それぞれの者が、自分の最も見たくない幻影を見せられた。
それが理由で、恐らくは、お互い、複雑な感情を持ってしまっているのだろう。
―――マーシャ、それは私も同じ。もちろん、お前も同じなのだろう?」
「わ、・・・私は―――。」
その時の私は、マーシャになんという答えを期待していたのだろう。
肯定して欲しかったのだろうか・・・。肯定されることを恐れている自分はそこには
いなかったのだろうか・・・。だが、マーシャは結局、それ以上何も答えなかった。
「おいおいおいおい・・・、マーシャちゃんをなに困らせてんだ!?コラァ!!」
「な・・・、なんだ?」
「マーシャちゃんに、近づくんじゃないヨォ・・・。・・・死ぬよ、おニイさん!!」
「や、やめてください!!」
「マーシャちゃんを奪還するぜぇぇ!!」
戦闘体勢をとりかけた。ただ酔っているだけだろう。なんとか、鎮めなくては・・。
「バカやろぉ・・・、この口だけのファンクラブ連中がぁ!!」
「アーシェルぅぅ、・・・テメェ・・・、邪魔すんじゃねぇぞぉ!!」
「アーシェルさん!!」
「ったく、慣れてないから、すぐ、酔っちまうんだ、そこらで寝とけェ!!」
その人たちは、倒れこんで眠ってしまいました。
「おいおい・・、セニフ!!・・・なにマーシャを困らせて・・、やがるんだぁ!?」
「な、なんだ・・?―――お前もなのか?」
「アーシェルさん・・・、酔ってる・・・。」
「よ、・・・酔ってるだァ!!・・・だれが、酔ってるだとォ?」
「お・・・、お前こそ、慣れてないんだろ・・?」
「ウッセェェ!!・・・文句あっかぁぁ!!」
「アーシェルぅぅ・・・」
「おお・・・、これはこれは、ティスターニア女王様ぁ!!
・・・お待ちしとりましたあぁ・・。ヒック!!・・・っとくらぁぁ・・。」
どうみても、完全に酔っ払っていました。
「・・・さぁ、夜の街に、・・・繰り出しましょ―――。ふ・た・り・・・で。」
「・・・よっしゃぁぁ・・。いこいこ!!どーんどんいこかッ!!」
「ちょ、ちょっと、ティスターニアさん!!と、止めてください!!
・・・アーシェルさん、酔ってるんですよ!!」
突然、振り返られたティスターニアさんの顔は、全く酔っ払ってはいませんでした。
「だったら、どうしたっていうのかしら!?・・・もうお眠りになられては?
そうでしょ?―――こ・ね・こ・・・・ちゃん。」
一国の女王だった方の発言とは、とても思えませんでした。
「グハァァッ―――」
「ア、アーシェルさん?!」
「ったく・・・、何、寝ぼけてんのよ・・。・・・ほんとに・・・。」
ナイフの柄でアーシェルのバカを小突いた。
「ちょっと!!どう言うおつもりですの?!―――横取りする気なのかしら、
このあたしから、アーシェルを!!・・・行動をお控えなさい、この泥棒猫!!」
「横取りですって?・・・どうして、この私が、こんな奴の為に、
わざわざ、あんたから奪う・・?・・・冗談じゃないわよ。
―――いくらなんでもねぇ・・・、こんな酔いつぶれたバカ、ほっとけるわけ
ないじゃない・・。いい、恥さらしよ、・・・ホントに、全く・・・。」
「・・・おーい・・・、シーナぁぁぁ・・。もう、俺を、斬るんじゃ、ねぇぇぇ・・。」
「・・・誰が、誰を斬るですって?!・・・寝言なら、許されてるとでも思ってるの?!
―――今すぐ、斬り殺したるわよ!!望み通りにねェ!!!」
「シ・・、シーナさん!!!」
セニフとマーシャの顔は、この私が酔ってるのかどうか疑ってる顔だった。
「・・・んなとこで、寝てんじゃないわよ!!どっか、適当なとこで寝るのよ!!」
私は、アーシェルを引きずって、宿へと向かった・・・。
「・・・あの女。・・・思わぬところに敵がいたようね。もちろん、あたしの前では、
敵などに値しませんけども。―――諦めてなるものですか・・・。」
そう言って、ティスターニアは、そのあたりで眠っていた数人の人たちと連れ立って、
夜の闇へと消えていった・・・。
「・・・そういえば、・・・ドルカちゃん・・、いったいどこに?」
「ドルカか・・・。今、何時だと思っているんだ?もう既に、宿に戻っているだろう。」
「えっ?・・・そ、そうなんですか!?」
「それが、普通だ・・・。どうだ?・・・もう、寝るのか・・・?」
「はい・・。なんだか、とっても疲れちゃって・・。」
マーシャは、ゆっくりと立ちあがり、宿へと向かい始めた。
・・・それが、急に、マーシャが小さくなっていくように見えていた。
「マーシャ―――」
私は、マーシャを呼び止めていた・・。
「は、はい・・・。なんですか?・・・セニフさん。」
まだ、すぐ近くにマーシャはいた。その表情や仕草、声も、何もかも、
私が知っているはずの、マーシャそのものだった。それを疑う必要など、何もない・・・。
「―――い、いや・・・。なんでもない・・・。
・・・私は、・・・しばらく、ここにいる・・・。ゆっくり休むといい・・・。」
「おやすみなさい・・・。セニフさん・・。また、明日―――。」
マーシャは1人、宿屋の方へと去っていった・・・。
未だに、街からの騒ぎ声は収まる様子がなく、どこか、その雰囲気に流されたいと
感じていた自分がそこにはいた。
アーシェルの様子―――、他人に理由を押し付けるのは、どこか釈然としなかったが、
それが、結局、私の心を決意させるものとなっていた。
「また、明日―――。マーシャは最後に、そう言ったのか・・・。この私に―――。」
―――長い夜は、いつまでも続いていった・・・。
(113日目夜)
「・・・なんだ、この音?」
ザヌレコフの野郎は、横になったままこっちの話なんか聞いちゃいなかった。
飛行艇の窓から、俺は外をのぞいたが、真っ暗で何にも見えやしなかった。
「出かけてくるからな。」
そんな遠くからの音じゃあなかった。だが、下りた目の前には何も見えなかった。
辺りを警戒しながら、俺は飛行艇から離れ、音のする方へと向かった。
ちょうど、飛行艇の入り口の反対側に来た時、音の出所が分かった。
「・・・あれは、―――飛行艇か?」
近くによって気付いたが、そいつは、よく知ってるディシューマの飛行艇だった。
「なんで、こんな所に・・・」
入り口側に回る。辺りに人の気配は全くなかった。
「―――入ってみるか。」
ロックも警戒装置も外していやがった。中の通路を気配を絶ちながら奥へと進む。
中の構造を見る限り、普通の型の奴だった。誰が乗ってるのか全く分からない・・・。
しばらく中の様子を見回った後、いい加減飽きちまって、出ようとした時だった。
「・・・まったく、入り口のロックくらいかけなさいよ。」
女の声がした。俺はとっさに気配を絶ち、物置の影に身をかくした。
「とにかく、これで、後は連絡を待つだけね。」
女1人なら、無理矢理にでも抜け出せる。そう思った俺を、別の声が止めやがった。
「この調子なら、明日までは様子見だな。」
「なぁ、そこにあった別の飛行艇・・・、あれ、一体何処のだ?」
どう考えても俺達の飛行艇のことを指していやがった。
「―――飛行艇?そんなもの、あったのか?・・・調べるべきか。」
「外も暗いし、ロックを忘れるような人に、入り口を開けさせるわけにいかないわ。」
「・・・そ、そうか。」
せっかくそいつが外に出ようとしたのを、その女が止めやがった。
どうにも、そいつらはこの部屋から出そうになかった。
(114日目早朝)
朝もやに包まれ、それが人影だと気付ける距離で、
その2人は声をかけてきた。
「決心ついたようだな。待っていた・・・。」
「街の人たちが起きないうちに、出発するわよ。」
足を止めた。一瞬ではあったが、殺気が流れた。
「・・・2人ではないのか?」
「その声・・・、お前は、本当にアーシェルなのか?」
その2人の後ろに、何人かが気配を絶ち待機していた。私はよく似た気配を感じた
ことがある。恐らくは、殺し屋か、盗賊の類の者だろう。
「―――私の愚見を述べるならば、この場に、恐らく、アーシェルは来ない。」
「・・・セニフ、そんな名前だったな。」
「あの後の会話を、理由あって全て聴かせてもらった。」
「聞かれていたなんて・・・。あなたは、何をしにここへ来たの?」
「来ない者をいくら待とうとも、それは、時間の無駄だろう。その代わりに、
私を同行させてはいただけないだろうか?」
「・・・どういうつもりだ?話を聞いていた―――、そう言ったな?
お前は、・・・悲劇の少女の仲間の1人、・・・そうだろう?
―――邪魔をするという気ならば、手荒い歓迎をすることとなるが・・・。」
「今は、私が何者かということは問題ではない。ただ、アーシェルの代わりに
純粋に力を貸す者・・・、そうとだけ認識してくれればいい。
1つだけ、情報を提供してくれる代わりにならば、望む通りに動こう・・・。」
「・・・情報ですって?いったいどういうつもり――― 」
バンダナを取り、見えるように紋章を見せた瞬間、男は女を制止した。
「―――そうか、お前が・・・。いつの日か、会う事になろうとは思っていた。」
「互いに、悲劇の少女とは深い縁を持つ者同士・・・。不足はないだろう。」
少し間が開いたあと、女性の方が再び口を開いた。
「・・・あなた、―――本当に、仲間・・・だったの?」
私はその質問を受け、すぐ答えるべきかどうか迷った。
「今も、私達は、・・・マーシャお姉ちゃんの大切な仲間です!!」
私は、セニフさんの顔をじっと見た後、その人たちの方を向きました。
「セニフさんの言葉にも、あなた方の言葉にも、私は従います。
けれど、この私の目の前で、・・・マーシャお姉ちゃんのことを裏切るようなことは、
絶対に許しません―――。」
少しだけ、セニフさんは私の視線から目をそらしたように見えました。
「・・・結果的にそうなったとして、・・・本当に止められるとでも思っているのか?」
「―――そう思っている。だから、私はドルカに、一緒に来てくれるよう、頼んだ。」
ゾークスさんは、セニフさんに疑いの表情を向けられましたが、
すぐに表情を戻されました。
「アーシェルは、少し、マーシャに近づき過ぎた。今、客観的に、そして冷静に、
悲劇の少女という者を静観できるとは、私には思えない・・・。」
「私は、今、何もしない事が一番いいとは思えないというセニフさんの言葉を信じて、
ここに居ます。・・・お願いします。私達を、一緒に行かせてください。」
現状の維持が最適解とは思えない。ドルカにはそう告げた。だが、果たして本当に、
それだけでドルカを呼んだのだろうか?
私は、マーシャの仲間かと訊かれ躊躇した。日々、悲劇の少女として確実に
力を増す姿を見る、自分の心の奥深くに巣くう闇を否定してくれる、
そんな存在を、ただ欲していただけではないのだろうか・・・。
「お互いに猶予はない・・・。予定の刻限だ。」
(114日目朝)
「あんたたち、・・・アーシェルの奴、見た?」
そう言って私は、事務所の中の連中に聞いた。
「―――何よ、あんたたち。」
どこか、不自然な視線を感じた。
「ここには来なかった・・・。」
「そうなの?・・・ま、いいわ。それにしてもさ、昨日も訊こうとしたんだけど、
なんで、あんなモンスターが暴れてるのよ?ちょっと、指名手配書見せてみなさいよ。」
私が、手配書をパラパラめくってる間に、別の奴が話してきた。
「・・・スフィーガルの谷の指名手配モンスターを、倒してきたのか?」
「あ、これね、そうよ・・・。あんたたち、モンスターズハンターなんでしょ?」
「流石シーナだな・・・。お前に、勝てない相手はいないってことだな。」
「・・・ほら、こんなのがいるじゃない。海の方でしょ?あんたたちじゃあ
倒せないってんなら、私がやってやるわよ?」
「・・・あ、ああ。そいつらなら、きっとお前を―――」
私は、手を止めた。
「ゾークス隊長はどこ?他にも、居ない奴がいるの。セニフって奴も、
ドルカって娘も、―――マーシャまでいないのよ。どういうことよ?」
マーシャって言葉にそいつらが反応したのは間違いなかった。
「―――ねぇ、なんか隠してるの?」
「・・・俺達は、お前に何もしない。・・・戦って、勝てるとも思えないからな・・・。」
口ではそう言ってるそいつも、武器に手をかけてるのが見えた。
「ソークスさん、・・・ここに、いるのか?」
「あら、みなさん―――、怖い顔して、どうかされましたの?」
どうみても空気の読めてないそいつら2人が、事務所の中に入ってきたわ・・・。
(114日目朝)
どこか場違いな雰囲気が流れていた。その空気に、完全に二日酔いが飛んだ・・・。
「・・・ど、どうしたんだ?一体・・・。」
「どうして、お前が、ここに―――」
「なんで、あんたがアーシェルとくっついてんのよ?!さっさと離れなさいよ!!」
「あら、どうしてあたしが、あなたに指図されなくてはならないの?」
「・・・お、俺は、・・・ゾークスさんに、呼ばれて―――。」
「ゾークス隊長なら、ここにはいないわよ。見てわかるでしょ?
・・・何よ、あんた。まだ酔って寝ぼけてるっていうの?
ま、どっちでもいいわ。そのうち戻ってくるでしょ?なら、あんたがここにいて。
気分が悪いわ!そこの高飛車女!!私に付いて来るのよ!!」
「何で、そんなに機嫌が悪いんだ?」
「誰のせいでしょうね?!ほら、アーシェルの邪魔してないで、私についてきなさい!!
早くしないと、ぶった斬るわよ!!」
「・・・ああなったら、止められない。・・・今は、言う事聞いてくれるか?」
「観光案内でもしてくださるのかしら。後で一緒に行きましょうね、アーシェル。」
俺は、そのまま事務所の中へと入った・・・。
「・・・ゾークスさんはいないのか?」
「こんな時間に、何を思ってお前は、ここに来たんだ?」
「俺は、ゾークスさんに呼ばれて―――、こんな時間になったのは、
その、・・・寝坊して・・・。」
気持ちの悪い嫌な沈黙が流れた・・・。
「お前はもう聞いてるだろう?ここの隊長は、もう、ゾークスさんじゃあない。」
「・・・それはそうと、一体、シーナの奴、ここで何をしたんだ?」
「いつもみたいに、手配書を見て、出かけたんだろう。」
「―――スフィーガルの谷にいたモンスターの大群、・・・この地方じゃあ見ない
奴等ばかりだった。・・・そう、ディシューマのあたりで見かけたような奴等だ。
・・・俺達の居ない間に、いったい、何があったんだ・・・?」
俺は、恐らくシーナが見ていただろう、重要指名手配リストを見つけた。
「・・・そこまで、特定できるんだな、お前は・・・。」
「出会ったモンスターの情報は全て、記憶してる―――」
俺は、シーナが見たものが何か、すぐに気付いた。
(114日目昼)
私は、スフィーガル岬に着いた。マーシャの村のときも
そうだったけど、ここにいるって聞いたモンスターも、このあたりじゃ初耳だった。
「・・・何よ、モンスターなんていないじゃない。もしかしたら、マーシャが
いるかと思って来たけど、これじゃ、何のために来たかわからないわ。」
「あら、素敵な景色ですわね。」
「そうよ、・・・マーシャも好きだって言ってくれた場所よ。
・・・モンスターがやってきて、台無しになっちゃったけどね。」
波の音を聞いてるその女に、私はなんとなく尋ねた・・・。
「本当に、アーシェルについてきただけなの?」
「―――あたしに何をお聞きしたいの?」
「・・・あんたにとって、マーシャってどんな娘に見えたのかなってさ・・・。」
「素敵な娘だと思いますわ。とても強い心を持っている・・・。目の前で誰かが
困っているなら、自分のことも忘れて助けてくれようとする娘ですものね。」
「・・・信じられないでしょ?あのマーシャが、・・・悲劇の少女だなんて。」
「あら?あなたは、信じていないのかしら。」
その女が言っている言葉の意味が、少しの間分からなかった。
「―――信じるもなにも・・・。そ、そうよ、マーシャは、マーシャ。
それ以外でも何者でもないのよ!!」
「あの娘が持つ力は、悲劇の少女としての力―――。これだけは、真実ですわ。」
アーシェルの言葉を繰り返しただけ、・・・でも、どうして、私が口に出すと、
その言葉に、何の力も感じられなくなってしまうのか、分からなかった・・・。
「そして、お前らは、そいつの仲間だった人間共だ・・・。」
ファイアバードが飛び出して、そいつに一撃を与えたわ。私もすぐさま、
ナイフを持って飛び起きた!!
「マーシャ=ルカ=エディナ・・・、重要指名手配犯―――。」
俺は、そこにいた全員の方を向いた・・・。
「ここの新しい隊長に、ゾークス様は会いに行かれた。」
「今日を持って、俺達は全員、その隊長の命に従うことになった・・・。」
「―――その新しい隊長は、・・・この指名手配書をみて、どうすると言ったんだ?
・・・俺達、モンスターズハンターに何をしろと命じた!!答えてくれ!!」
「・・・俺達は、何もしない。」
その答えに、俺は胸を撫で下ろした・・・。
「その代わりに、シーナには、あの手配書を見せた。」
「手配書・・・。」
「今頃、スフィーガルの谷よりも、大規模なモンスターの大群が、
手配書のモンスターによって呼び起こされているだろう・・・。」
「・・・何、言ってるんだよ?」
俺の考えるよりも早く、何人かが入り口を塞いだ。
「こうするしか・・・ないんだ。」
「シーナ1人で、・・・どうにか出来る量だと・・・、そう思ったのか?」
誰も答えようとはしなかった。
「・・・ティスターニアと2人なら、無事に帰ってこれる・・・そう考えて―――」
「どうして、お前はここに残ったんだ?!!」
その声が、事務所の中に響き渡った・・・。
「バーニングスラッシュ!!」
ファイアバードの魔法で辺りは何もかもが燃えていた。けれど、そんなもの関係なしに
そいつらは次から次へと、襲い掛かってきたわ。
「キリがありませんわね。少し、下がっていてくださる?!」
「何か手でもあるの?」
「我が願いを聞きたまえ。悪しき者を滅する力を、我に与えたまえ。
全てを無に帰すその力を、・・・我が手に宿せ!!」
次の瞬間に、ティスターニアの周囲にいた雑魚どもが魔力波にかき消されたわ!!
「・・・ほら、ごらんなさい。あたしの魔力を一気に解き放ちましたわ・・・。」
「あんた、ちょっと・・・、ふらついてるじゃない!!」
「すぐに回復しますわ―――、下りてきましたわよ。」
そいつが、また、私の前に下りてきたわ。
「先制攻撃してきたと思ったら、雑魚に任せて、自分は高見の見物だなんて、
随分なご身分のようね。あんたが、ターゲットなのよ!!」
「ふん、悲劇の少女の仲間だった人間・・・。ただ殺すには惜しい。」
「・・・だった?引っかかる言い方するわね。とにかく、地獄で会いましょ・・・。」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。ただ、私の体中の力が抜けていった・・。
「―――大人しくしておけば、生かしてやれる命もあるというものを・・・。」
それからのことを、私はあまり覚えていない。ただ、ゆっくりと
体のバランスが崩れていった。最後に見えたのは、ファイアバードが私に向かって
下りて来てくれるところだった・・・。
何もない場所だった。暗くて、静かな場所。
しばらくの間、私の目は、何もとらえることが出来なかった。
やがて、私は、自分の体の自由がきくことに気付いた。
けれども、まるで私の足は地面をとらえることが出来なかった。
「―――シーナ・・・。」
私の名前を呼ぶ声が聴こえた。その声を、私は聞いた事があった。
「・・・ここはどこよ?」
「また、あなたに会えましたね・・・。」
「そうよ、ここがどこだって別にいいのよ。・・・訊きたかったことが、
山のようにあるのよ。・・・あなたは言ったわ。私に炎の民の資格がないって・・。
悲劇の少女とともに世界を回りなさいって―――。」
「―――与えられし成すべきこと、使命・・・。それを全うし、天に召されたとき、
・・・はじめて、我々、炎の民がその生を受けるのです―――。」
「・・・まるで、・・・私が、死んだみたいに、・・・言うのね。」
しばらく、冷静になって考えてみた。これで私は、炎の民に、なれたというの?
「使命・・、私にとっての使命って・・・、マーシャと一緒に旅をして、
―――そして、死ぬ事だった・・。そういうことなの・・・?」
それから先、何も答えてはくれなかった・・・。
「・・・そう、これで、私は、―――炎の民に、なれた・・・。」
体がゆっくりと自由を失っていった。そういう事だと、納得しようと思っていた・・。
「―――使命・・、運命・・・。大げさに聴こえたくせに、・・・実際は、
こんなものだったっていうの・・・?悲劇の少女、マーシャの為に死ぬ事―――。
それで、私は、炎の民だと、認められたって言うの・・・?」
悲劇の少女の仲間だったこと―――。ただそれだけが、私の生きていた意味・・・。
そこから何かを生み出したわけでも、壊したわけでもない。
そんな事が、・・・私にとっての、―――炎の民としての試練だった。
「冗談みたいな話ね。・・・もし、私が、本当に炎の民だと、・・・そう認めてくれると
本気で言うんなら・・・。こんな、意味のない使命、―――私は、認めない。」
どこまでも続く闇に向かって、私はただ力の限り叫んだ・・・。
「―――そんな下らない理由でなる炎の民なんて、こっちから願い下げしてやるわ!!」
(114日目昼)
「目を覚ましなさい!!このあたしの前で、死んだりする事は、
いかなる者であっても、決して許されないのよ!!」
その女はゆっくりと、目を開けたわ・・・。
「―――なによ、・・・せっかく、炎の民とかっていうのに、なれたって言うのにさ・・」
「あたしは言ったはずですわ。魔力を回復するまで、待ちなさいと!!」
「・・・頼んでもないのに、私なんか助けてくれたっていうの?」
「感謝くらいして欲しいですわね、このあたしに・・・。」
「―――蘇生魔術・・・。悲劇の少女以外にも使い手がいたとはな・・・。」
「訂正させなさい。今もこれまでも、これから先もずっと!!私はあいつらと
一緒に歩く!!それが私の使命!!・・・地獄で会いましょうね!!」
「何度でも言っているといい、同じことを永遠に繰り返してやろう。」
「かかりましたわね・・・。」
その女の目の前で、あたしは攻撃を止めた。その鋭い攻撃は、
アークティクスの間合いに入った一瞬で凍りついていた・・・。
「あなたの体毛ですの?魔力で一瞬にして硬化させ、一直線に・・・。」
「み、見えなかった―――。」
「だからどうしたという?勝ったつもりか!!」
アークティクスの力が次々と攻撃を凍りつかせる。それを、レイピアで
突き崩しながら、あたしは、そのモンスターの攻撃を受け続けた。
「召喚術士を、なめておいてですの?哀れなお人ね、あなた・・・。」
「お前のようなか弱い女に、何が出来る?!」
「来なさい・・・」
「望み通り行ってや―――」
背後から無数に作り出した鋭いつららで、全身をくまなく突き刺しとおした・・・。
「―――アイゼルネ・ユングフラウってご存知かしら?あたしは、よく知りませんの。
拷問だなんて、趣味じゃあありませんもの・・・。」
「お、お前ら・・・、下りてこい、こいつらを―――」
「クロス、パニッシュ!!」
耳を覆いたくなる悲鳴を上げながら、苦痛にまみれてモンスターは消えましたわ。
「同感ね。こんな高飛車女に、ネチネチと裁かれたくないわ、私。」
「あら、他の方達は、もう下りてこないのかしら・・・。」
「さっさとかかってきな!!全員、耳揃えて、ぶった斬ってやるから!!」
リーダーを失くしたモンスター達は、皆、ゆっくりと溶けていった・・。
「あんな言い方では、モンスターもあの方も、なびきませんことよ?」
「感謝されたかったら、怒らせないことね。今回は、チャラってことにしてあげる。」
「・・・ここに来た理由・・、決まっている。俺は、ゾークス隊長の下で
仕事をするモンスターズハンター。ゾークス隊長の命令なら喜んで受ける・・・。
―――だが、俺の仲間、・・・マーシャ達を裏切るなど、俺には出来ない。
だから、俺はここに来た。ゾークスさんに、断る詫びを言うために―――。」
俺は右手に魔力を込め、ゆっくりと縦に線を下ろす・・・。
「俺も、お前達と争いたくはない。・・・邪魔をするな!!」
ゆっくりとマジックアローを引いた・・・。
「―――なら、このハンティングは・・・、失敗―――、そういう事だな。」
入り口の近くに居た人間は、手にしていた武器を地面に落とした。
俺も、魔力を込めていたマジックアローを解放した。
「・・・新しい隊長、―――4人目のラストルの四使徒の名は?」
「ゾークスさんから聞いた。―――隊長・・・、ネーペンティ=ディーリングは
裁神―――ラストルに認められし、・・・正使徒だと。」
「・・・ネーペンティ、・・・正使徒―――。」
「確かに、俺達は命じられた。悲劇の少女と仲間達を、野放しにしてはならぬと。」
「全てを破壊し尽くし、この世を滅ぼさんとする力を持つ者を、生かしてはならない。
それが、この世を破滅に導かぬための、唯一の道だと・・・。」
「―――アーシェル、・・・お前は、・・・これから先、どうするんだ?」
俺は、ゆっくりと入り口に向かって歩いた。
「・・・これから、どこへ向かうって言うんだ?」
「ネーペンティに会いに行く。」
「・・・会ってどうするつもりだ?」
「どうもしない。・・・ただ、この目で確かめたいだけだ。
この世に未来を、平和を導かんとする者、
―――勇者、ネーペンティっていう奴を。」
「・・・俺達は、・・・お前を、信じたい。お前がどんな人間かを、
今、目の前で全員が見ているし、これまでも、長い間見てきた―――。
そんなお前が、―――悲劇の少女と、これからも共に行くって言うんだな?」
俺は、扉に手をかけた。
「俺は、マーシャを探す。そして、シーナ、ティスターニア達と共に、
ネーペンティを追いかける。・・・そんな俺を信じられるのなら、それで構わない。」
振り返ろうともせず、俺は、走り始めた。それまでは気付かなかった、
その声に導かれる先へと向かって・・・。
(114日目夕方)
「―――シーナ、ティスターニア・・?」
私が、そいつらを片付け終わった頃に、やっと姿を見せてきた。
「もう、終わったわよ。あんた、助けに来るにしても、遅すぎるわよ。」
「アーシェル!!やっと来てくださいましたのね?」
「・・・ティスターニア、無事みたいだな。よかった・・・。」
「心配してくださったのね。ありがとう・・・。」
「あら、ごめんなさいね、あんたのご期待に沿えずに、私まで無事で!!」
「―――お前の事は、最初から心配なんて、していない。」
少しだけ、声の調子を落として、私はアーシェルに訊いた。
「・・・見たんでしょ?あんたも。」
もちろん私は、マーシャの指名手配書のことを言ったつもりだったわ。
「よく倒せたな・・・、ここに来るまでは、本気で加勢するつもりだった。」
「え?―――そ、そうよ、この私がトドメを刺してやったのよ!!」
「・・・お前の口ぶり、相当、ティスターニアに助けられたんだな・・・。」
「う、うるさいわね!!別に私1人だって倒せたわよ!!この女の実力を、
・・・少しくらい、試そうかなぁ、なんて思ってたことは認めるけどさ―――。」
「・・・そろそろ、行くぞ。マーシャのところに―――」
「―――あいつらの所に、突き出す気?」
アーシェルは足を止めた。
「その前に、あんた・・・、マーシャが何処にいるか、知ってるの?」
「・・・ああ。」
そう答えて、すぐにアーシェルは元来た道に戻り始めた。私とその高飛車女も、
その後を追いかけていった。
アーシェルは、そのまま真っ直ぐ洞窟の中を進んでいきましたわ。
「・・・この洞窟にいらっしゃるの?」
「―――恐らく、間違いないだろう・・・。」
「何を根拠に言ってるのよ?」
「―――ラストルの四使徒としての本能・・・か。」
「・・・答えなさいよ、そろそろ。―――あんた、ラストルの四使徒って、いったい?」
「裁神、ラストル・・・。スフィーガルの土地に棲む、風雷を司るの神・・・。
その力の恵みを与る者が、この世に4人現れるという・・・。」
「その1人が、アーシェルですのね?」
「でも、それと、マーシャが、・・・一体どう関係あるっていうのよ?」
「・・・それは、これから確かめに行く。なぜ、―――裁神、ラストルが、
―――悲劇の少女を、呼び出したのかをな・・・。」
その場所まできて、アーシェルは足を止めた・・・。
「前から気になってたのよ、・・・この場所のこと。魔の口―――、
たしか、そういう名前だったわね。・・・ここに、ラストルって奴が居るの?」
「封印の類ですわね。――― つい、最近、解かれた跡が見えますわ・・・。」
「じゃあ、やっぱり、・・・ここに・・・。」
「―――俺を導く声は、ここから聴こえる。」
アーシェルは、ゆっくり、その封印が施されていた壁へと近づき、手を当てた・・。
その途端、封印が呼応して、アーシェルが、壁の中へと吸い込まれていった・・。
「ちょ、ちょっと、待ちなさい!!私も!!!」
あたしと一緒に入ろうとした、その女と一緒に、突然浮かび上がった別の
結界によって、弾き出されたわ・・・。
「どうなってるのよ!?・・・は、入れないじゃない!!」
「結界ですわね。・・・ここは、アーシェルにしか入れない―――。」
「ちょっと、アーシェル!!・・・中には、一体何があるのよっ?!」
歩くうちに、シーナたちの声は聴こえてこなくなった。
しばらくはこれまでと変わらない通路だったが、しばらく歩いた所で、
俺は、壁にもたれかかり、眠りに落ちていたマーシャを見つけた・・・。
「マーシャ・・・?何をしているんだ?起きるんだ!!」
「―――え、アーシェルさん?」
すぐにマーシャは目を覚ましたが、いくぶん疲れたように見える・・・。
「どうして、こんなところに?」
「アーシェルさんにも、聴こえたんですね?」
確かに、俺はその声に導かれてきた。何と言っているかは、理解出来なかった。
「・・・まるで、助けを呼ぶような声に聴こえました。
聴こえてくると同時に、私の体が、勝手に動き始めて・・・。
―――この場所に入ってから、しばらくして、出られなくなったんです。
ぐるぐると、回ってるうちに、きっと、疲れて―――。」
「・・・とにかく、会えてよかった。だが、この声の主は、恐らく―――」
とても広い場所でした・・・。とても高い壁に囲われていて、
天井はどれぐらい高いのか、全くわかりませんでした・・・。
その広い部屋の真ん中に、1人の人がいました。
「お前は、何をしにここへ来た―――。」
「俺の名は、アーシェル。モンスターズハンターだ・・・。」
良く見ると、その人は目をつむっていました。そして、体中が傷だらけでしたが、
それでも、まるで押しつぶされてしまいそうな、威圧感のある人でした。
「ラストル。―――裁神、ラストルだな、お前は・・・。」
「どうして、お前などに、俺が名乗る必要がある?
―――それに、何故、悲劇の少女がそこにいる?!」
「―――風雷の守護神、・・・裁きの神、ラストル―――。そんなあなたが、
どうして、・・・闇の住人の気配をまとうのですか・・・?」
私は、そう口にしていました。でも、きっとそんなことは、知らないはずでした。
「どっちとも、どうやら、俺のことは知ってるらしいな・・・。
―――そうだろうとも、・・・ここの結界を抜けられる者は、
俺に近しい力を持つ者だけだ。もしそうでないなら、―――神の力を行使する者。
だが、いくら他の神であろうとも、俺の領域に足を踏み入れることは許されない。
―――俺は、弱い奴には決して従わない。俺に近しい者の中で最も強い者にのみ
俺の力は与えられる―――。」
アーシェルさんが少し前へと出て行かれました。
「・・・その傷は、誰にやられたんだ?・・・闇の住人に関わっているのか?!」
「黙れ・・・。お前のようなか弱き人間に、答える事など、何もない!!
俺の質問に答えるのはお前だ。―――なぜここに悲劇の少女を引き入れた?!」
「・・・マーシャは、・・・仲間だ。」
その人は、アーシェルさんを嘲るように笑いました・・・。
「か弱き人間が、―――何を血迷ったことを言っているんだ?
・・・お前達と、悲劇の少女―――、決して相容れることのない、矛盾する存在。
それも分からず、俺の名を語り、俺に口答えするのか?!愚かなる人間よ・・・。」
「―――正使徒と名乗る者も、同じ事を主張していた・・。だから、お前は、
それに従うというのか?」
全身が震えるような、恐怖と憎しみが入り混じったような殺気が流れました・・・。
「それが、この俺に力を認められた、正使徒の考えであるのならば、
あとは、その人間がどんな者であろうが、俺にはどうでもよいことだ!!」
(114日目夜)
ラストルは、魔力で弓矢を創り出し、弓を引き絞り、俺に向けた!!
「・・・俺の名を持つ、か弱き者よ―――。お前自身で、悲劇の少女を排除するか、
俺自身に封殺させるか、選ぶことを許してやろう・・・。さぁ、どうする?」
俺は、アーチェリーを構え、まっすぐラストルに向けた。
「お前ごときに何が出来るという?それは俺に対する冒涜、侮辱というものだ!!」
手加減もなにもしてくれるようには見えなかった。真っ直ぐ魔力の矢が俺に向かう。
だが、それは、俺の目の前でかき消された・・・。
「邪魔立てする気か、貴様は・・・。」
「あなたの心に巣くう闇の住人よ、・・・元のあるべき場所へ還りなさい!!」
「悲劇の少女の分際で、この俺に勝てるとでも思っているのか?!」
「なら、・・・仕方がありません・・・。ゴッド、トライフォア!!」
「俺には、無駄だということが、・・・理解出来ないようだな!!」
目の前に居ながら止められなかった。マーシャは、ラストルの矢に射抜かれた・・・。
「マーシャ!!!」
「・・・お前は決めようとしなかった・・。だから、俺が、直に手を下した・・・。」
「か弱きだなんて口が、もう利けないように、―――俺と勝負するんだ!!」
「もはや、お前を守る、悲劇の少女はいない。お前は、何も出来ない!!」
ラストルの放つハリケーンスラッシュを、俺は左手で受け払った・・・。
「今の攻撃で、お前の左手はもはやズタズタだろう・・・。」
「関係ない!!」
アーチェリーを構える。左手から血が滴り落ちる・・・。
「強がるのも今のうちだ。もはや、まともに力を込められないだろう?!」
俺は目を見開き、魔力を込めた!!
「―――怒らせるんじゃない!!くらえ!!
バーニングスラッシュ、アイシクルスラッシュ!!―――トルネードスラッシュ!!」
怒りに任せて、アローを連発した。
「どうだ、やったか?!」
「・・・まだ、聞き流してやっても、俺は構わないぜ―――。」
ラストルは、俺の全ての攻撃を振り払っていた・・・。
「最後の攻撃は、なかなかだった、褒めてやろう・・。だが、所詮ここまでだ。」
「グ、グラシアルレイン!!」
「これが、本当のトルネードスラッシュだ、食らうがいい!!」
アーシェルさんの放ったトルネードスラッシュの、何倍もの威力のある攻撃を受け、
突然のダメージに、痛みも感じずに、ショック状態のまま倒れてしまいました・・・。
「・・・痛みももはや感じまい―――。」
それでも、少しだけ、アーシェルさんの体が動きました。
「意識は残るか・・・。楽に死ねぬことを、後悔しながら苦しむがいい。」
「―――この程度・・、ぐ、ぐあぁぁっ、し、死んで・・、たまる、・・かぁっ―――」
「インパクトサイクロン!!」
アーシェルさんにとどめの一撃を与えようとしていました。
「スクエア、ミラー!!」
どうにか私の魔導法が間に合って、アーシェルさんへの直撃を防ぐ事ができました。
けれど、インパクトサイクロンを弾いた直後に、私は、思いきり攻撃を受け、
壁に叩きつけられたまま、動けなくなってしまいました・・・。
「マーシャに・・・、手を・・、出すんじゃない!!」
「ならば何故、何度も同じ質問を繰り返させる?!―――俺に答えろ!!
何故、悲劇の少女がここにいる?!!」
「マーシャに・・・、―――手を・・」
アーシェルさんを、ハリケーンアタックが襲い掛かりました・・・。
「・・・手、・・・出すんじゃ、・・・な・・・。」
「お前ら、・・・人間の、敵なんだぜ―――。悲劇の少女ってのはよ・・・。」
「―――分からないなら、何度でも言ってやる。お前等と、悲劇の少女は所詮、
異なり矛盾する存在・・。・・・同じ次元界の上で共に行動することが、
どれだけ、愚かなことだか、・・・分かろうとしていないんだろ?」
「・・・。」
「お前達は、敵同士となる。―――認めたくないと騒いだところで、
いずれ、お前も、悲劇の少女を敵にする運命にあるってことよ・・・。
―――お前達の世界を、ぶち壊す力を持っているんだからなぁ。」
黙っている俺に、語気を荒げて続けた・・・。
「・・・そうよ、今も、お前のような虫ケラを助けてる、この悲劇の少女ってのは、
お前ら、人間にとっての敵―――、もちろん、そいつと共に行動するお前もまた、
人間どもの標的だ。・・・これまで多くの人間を見てきた、俺が言うんだ・・・。
―――人間って生き物は、裏切ることだけは得意なようだからなぁ―――。」
「―――マーシャは、・・・俺と、・・・人間と違おうとなんだろうと、
・・・敵だろうと、味方だろうと・・・、マーシャに変わりはない―――。
目の前にいる人間が、お前に理解出来ないというなら、今すぐ、俺を殺せ・・・。」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「何をわけのわからぬ事を抜かすんだ?誰が、誰を理解するだと?」
「力づくにでも理解させてやる。弱い存在の言うことが聞けないと言うなら、
まず、目の前の俺を殺してから言え!!」
俺は、体中に宿る全魔力と生命力を一点に集中させる・・・。
「ふん、お望み通りにしてやろう!!」
放った魔法は、アーシェルさんの命をかけた魔力の前で、かき消されました。
「ならば、直接切り刻んでくれる!!」
「―――私は、アーシェルさんを信じてる。アーシェルさんは、私を信じてくれる。
・・・もう、何も迷うことなんか、ない・・・。」
私は、杖を思いっきり振りかざしました!!
「・・・消え去れ!!」
素早く背後へ回った私への攻撃は外れました。
「ぐあはぁっっ!!」
背後から魔力を込めた杖を、もう一度振り落としました・・・。
「貴様などの相手を、・・・している暇など、ない!!」
「・・・じゃあ、俺の相手でも、してもらおうか―――。」
アーシェルさんは、目を閉じてゆっくりと左手を真っ直ぐ下ろされました。
今まで見た事もないほど、燃えるような強い命の輝きを放つアーチェリーが現れました。
「・・・それが、お前の―――、魔力の弓・・・?!」
右手をそのアーチェリーに添え、ゆっくりと、アローを浮かび上がらせました・・。
「―――くらえ!!これが、俺の・・・トルネードスラッシュだ!!!」
「この俺を超えられるものか?!!」
全力を両腕に集中させ、アーシェルさんの攻撃を受け止めました!!
「・・・これだけ、力を出してるのに、・・・威力が、・・・弱まらない?!
―――いや、・・・ますます、力を・・増してるだと・・・?!
・・・た、たえら・・・、れ・・ぬ・・・。・・・俺が・・、この俺が、
・・・負けるというのかあぁ?!!」
(114日目夜)
飛行艇は、闇に染まりゆく上空を真っ直ぐ貫き進んでいた。
窓から除く景色は、やがて、少しずつ遠くの星の光を奪う霧で包み込まれ始めた。
「・・・エリースタシア帝国。話には聞いていたが、本当に、霧の国のようだな。」
「―――これまでは、国交を断っていた国だ。近年になり、こうして、
ディシューマ国との交流が起こり、入る事が出来るようになったようだな。」
「やはり、そうか。私達と一緒にここへ来たのは、あの身のこなしを見る限り、
元殺し屋の類だろうとは考えていた。」
「・・・あちらに着いてからの事を、先に話しておこう・・・。」
そこには、私とドルカ、そして、ラストルの四使徒の1人、シオンと、
これから話を始めようとするゾークスの4人がいた。
「―――奴が、復活を遂げようとしているという話を聞いた。」
「・・・奴、―――闇の住人ですか?」
「マルスディーノ・・・。」
右手を強く握った。―――10年前に守れなかったもの、全てを奪った憎き相手・・・。
「・・・本当は私達、四使徒全員が揃って、あの人のところにいくつもりだったわ。」
シオンは、私とドルカの顔を見ていた。
「集まり、そして、何をしようと考えているんだ?」
「―――復活を阻止する。そして、・・・二度と復活せぬよう、滅する。」
「あなたたちに、・・・その助けを頼んだりはしない。これは、私達の使命―――。」
「どうしてそんな事を・・・。私達もお手伝いします!!そうですよね、セニフさん?
私達に出来ることをするため、ここに来たんです!!」
「・・・私の考えが正しければ、―――シオンや、・・・ゾークスの思う通り、
私は、・・・それに、ドルカも、その戦いには参加出来ない・・・。」
ゾークスの方へと改めて向き直った。それは、あの光景で見た顔に違いなかった。
「この紋章に見覚えがあり・・、そして、ラルプノートという地名を知っている。
―――ならば、必ずこの名を知るはず。セレナ=アド=エルネスという者を。」
「・・・いかにも。ここに来た目的も知っておるし、お前に告げなくてはならないことが
あることも分かっておる・・・。」
「セニフさん?・・・セレナさんは、確か―――、マーシャお姉ちゃんの前に、
悲劇の少女をされていた人―――、その人が、どうして・・・?」
「―――あの時の少年、・・・それが、お前なんだな。」
「・・・本当ならば、お前達は招かれざる客になるはず。・・・今、この帝国で、
許される行動は限られる。・・・心配はしておらんが、慎重に行動してくれ・・・。」
「これからすぐに、会いに行くのか?」
「何を言ってるの?今はもう夜・・・。会えるとは思えないわ。」
「―――話がすぐに訊けないか・・・。どうだろうか、宿に向かった後で、
例の場所に行きたいのだが。―――復活の兆候を自分の目で確かめたい。」
「・・・先代、四使徒の没した場所―――か。考えてみよう・・・。」
それから、私達は宿に入りました。中にも、怖い顔の兵士の方々ばかりでした。
「見てきたらどう?・・・きっと、今はもう何もないし、近づけないでしょうけど。」
「分かっている。確か、名を、・・・ヘルクス、・・・ラグナと言ったな。」
「―――どうして、・・・あなたが、・・・そんな名前まで―――。」
「信用しなくとも構わない。だが無意味にここにいるわけではないと思って欲しい。」
「・・・シオン。その娘を、連れて先に休んでいるといい。」
私は、セニフさんの顔を見ましたが、すぐ、諦めました。
「案内して欲しい。その場所へ・・・。」
その場所は、エリースタシアから離れた丘の上に、あの時と変わらずあった。
「―――ここにヘルクスとラグナの幽体が現れ、その事実を告げたと訊いている。」
「やはり、もう、何の気配も残ってはいないか・・・。」
何も見つけられず、何も現れぬことに、苛立ちを覚えた。
「―――悲劇の少女と、・・・ともに歩いていたのか。」
その男の声の調子が変わった・・・。
「・・・あなたに出会う、その日までの間、―――共に歩こうと考えていた。」
「お前の望む品は、確かに、この国にある。・・・告げるべき言葉も覚えておる。
―――導かれし少女の、光に満ちたその御手に天秤を掲げ、
泉に向かい祈れよ―――。」
「―――言葉自体は、人伝に聞いていた。その言葉の意味するところも、
想像することは難くない・・・。」
少しの間、沈黙が流れた。
「もう少しだけ、・・・もう少しだけ、早ければ、―――私に迷いはなかっただろう。
だが、・・・私は、余りにも長い間、・・・悲劇の少女という者に関わり過ぎた。
―――今、マーシャの近くではなく、ここに居ることを選んだのは、恐らく、
私の心を偽る、最後の抗いだろう・・・。」
「―――苦しい旅だったろう・・・。ただの詫びでは、それに応えることは出来まい。」
にわかに街からの兵の声が上がるのが聴こえた。
「何かがあったらしいな?!」
「ちくしょう、放しやがれぇっ!!」
俺をつかみかかってきやがった奴をスピアでぶっ倒した!!
「お前、・・・どこかで見た顔だと思えば、ザヌレコフ様と居た奴だな?!」
そいつらと一緒に、俺達は兵に囲まれていた。
「ちっ、ディシューマの飛行艇に、何でお前らザヌレコフ盗賊団が居やがるかは
知らねぇけど、―――どうして、俺らが、こうして捕まっちまうんだ?!」
「私達が招かれざる者だからよ。運が悪かったわね。どうするの、ディアロス?」
「・・・仕方がねぇだろう?!体が勝手に動いちまったんだ!!」
「バカ野郎が。・・・俺は、ディシューマの連中には嫌われてんだよ。」
飛行艇から下りようとした時に、ディシューマの性質の悪い野郎共に見つかって、
俺に絡んできやがった。そこに出てきたのが、こいつら、ザヌレコフ盗賊団の連中で、
騒ぎがでかくなってきた所に、ここの国の兵隊連中まで集まってきやがった―――
状況を簡単に言っちまえば、そういうことだった。
「こうなっちまった以上、悩んでる場合じゃあねぇな!!力貸しやがれ!!」
「何よこの騒ぎは?!こんな緊迫した国だっていうのにどうして騒ぎなんか?!」
「止めに行きませんか?・・・このままだと、きっと―――」
「―――ゾークスの姿が見えないようだな。この騒ぎは、そのせいなのか?」
「誰ですか?あなたは!!」
突然、気配もなく現れたその男の人に、私は、とっさにワンドを構えていました。
「―――あなたは、・・・ネーペンティ・・・。」
シオンさんの言葉が本当ならば、目の前に居るその男の人が、アーシェルさんと同じ、
ラストルの四使徒という、会いにいくはずの人でした。それでも、私は、どこか、
目の前に居る人の顔に浮かぶ表情や、その雰囲気に、不安な気持ちを感じていました。
「・・・一つの世代で、四使徒の中に俺を倒したのが、2人もいる・・・。
―――正使徒の証を受け継ぐに値する人間が、・・・2人同時に存在するのか?」
「2人・・・存在する?」
「・・・お前の右手に創り出されたその弓により倒された。それが何よりの証拠・・・。
お前は、俺の力を呼び起こし、行使することを許される、正使徒・・・。
―――だが、既に、・・・その証は、その男が持っている。一体、どういう―――」
それは、突然起こった・・・。俺の攻撃の傷ではなく、明らかに全く別のものが、
ラストルの力を縛りつけ、苦痛を与え始めた―――。
「どうしたんだ?!一体、何が!!」
「―――俺の、力を行使し始めた・・・。奴の力が、・・・俺を―――」
次の瞬間、ラストルの体がその空間の中に溶けていった―――。
(115日目朝)
「―――戻ってきたようね。」
アーシェルが事務所に戻ってきた。アーシェルの右手には、
私がこれまで見た事のないようなアーチェリーがあったわ。
「・・・大分、暴れたらしいな―――。」
「何よ、私が荒らしたって言うの?!」
「・・・この事務所ごと、モンスターに襲わせるなんて、どういう
おつもりだったのかしらね。―――もう、あなたは、大丈夫ですわ。」
「感謝いたします、女王様。」
気付かないうちに、いつのまにか、あの女がこの事務所を掌握しちゃってたわ。
あらかたケガしてる連中は、あの女が治療し終わってたし、他の無事な連中は、
事務所の後片付けを始めてたわ。
「・・・別に見殺しにしたってよかったの。マーシャだけじゃなく、
この私まで狙ってただなんてね、あきれ果てたわ。・・・けど、あの女が―――」
「だが、一体、どうしてこの事務所まで・・・?」
「聞きましたわ。こんなことを命じたのが、―――ネーペンティだったんですってね。」
「知っているのか、その男を?」
「ええ、よく知っていますわ。ガルド王国の兵や民に飽き足らず、
この街の人たちにまでこんな所業を―――。マーシャ、あなたもご存知でしょう?」
そういえば、私は、もうひとりいるはずの声をまだ聞いてなかった。
「ねぇ、アーシェル?マーシャは・・・どうしたのよ?」
「―――眠っている。」
それは、普通の眠りとは違う、とても深い眠りのようでしたわ。
「ねぇ、あの後、何があったってのよ?」
「―――そのアーチェリー・・・、あの男の持つ者に刻まれていたものと、
同じ刻印がされているんだな。―――お前も、ラストル様に・・・?」
「・・・ラストルも言っていた。何故、正使徒が2人もいるのか・・・と。」
「伝説では確か、正使徒という存在は、同時に1人しか選ばれないはずだったな。」
「その1人が、ネーペンティって奴だったとして、どうして、そのもう1人に、
あんたが選ばれたっていうのよ?」
「―――分からない。」
「分からないって・・・。じゃあ、なんで、あの場所に行ったのよ?
私達は、あの結界のせいで、中に入れなかったのよ?!
―――そういえば、マーシャも、中に居たのよね?」
「ああ、・・・考えてみれば、最初にマーシャに会ったとき、既にマーシャは
眠りについていた。あの後、無理矢理俺が起こし、ラストルとの戦いに
巻き込んだのが原因なのかもしれない・・・。」
「確かに考えられますわね。もし、あの強力な結界を無理に開いて入ったのなら、
それだけで十分、力を消耗したでしょうし―――。それでも、あたしの力では、
どんな回復術も施せそうにはありませんでしたわ・・・。」
「ティスターニア。詳しく教えてくれ・・・。ネーペンティという男について―――。
それにもう1つだけ訊きたい。―――その男に闇の住人が関わっていないか?」
闇の住人・・・。それは、今も眠っているマーシャが、あの氷河牢獄の戦いで、
ネーペンティに向かって言った言葉・・・。
「ネーペンティ―――。あなた達が私の国に訪れたあの時、
・・・あたしの国―――ガルド王国を、混乱と恐怖に陥れた張本人・・・。」
「・・・あの騒ぎをそいつ1人で起こしたって言うの?!」
「恐らく、革命を先導したのは、―――ヴィスティスという男・・・。
―――ネーペンティは、今もきっと、悲劇の少女という存在を葬ることだけを、
考えているわ。そうしなければ、この世を滅ぼすことになると言って―――。
こんなこと、アーシェルの目の前で言いたくはありませんけど、
・・・あたしだって、ネーペンティの気持ちは分かるし、ガルド王国の民として、
もし、皆を守らなければならない立場になってしまったなら、きっと―――。」
「何度も同じ事を聞いてきた・・・。俺自身も、・・・最終的にはマーシャの味方で
居続けることなど到底出来ないと、ラストルにも告げられた・・・。」
「・・・けれど、ネーペンティの行動で、・・・実際に、あたし達の国や、
この街の方々のように、・・・新たな争いや悲しみの連鎖が起こっている・・・。
―――その全てを、この娘のせいにするなんて、あんまりにも身勝手でしょう―――?」
あたしは、ゆっくりとアーシェルの方を向いたわ。
「―――ネーペンティが実現しようとする事を、今のまま続けていれば、きっと、
今に取り返しのつかないことが起こるわ。・・・アーシェルやマーシャの言うように、
闇の住人が関わるようなことになっているのなら、あたしは、止めて差し上げたい。」
「・・・ゾークス隊長と、・・・4人目の使徒、ネーペンティの下へ行こう―――。」
「あっという間に、行っちまうんだな・・・、アーシェルよぉ。」
「この街がモンスターに襲撃されたのも、恐らく、悲劇の少女に関わる
俺達が居たからだ・・・。しばらくは、もう戻って来れないだろうな・・・。」
「あんた達も、これで安心して眠れるってわけね。よかったじゃない。」
「・・・こんなこと言う義理はねぇが、・・・そんなこと言っていたら、
この世に居場所、どこにもなくなるぞ?―――ここが、お前の帰る場所・・・。
俺達には、お前に、・・・そう思わせることは、できねぇってのか?」
「―――無理言っちゃって・・・。あんた達こそ、居場所がなくなるわよ。」
「なくなりはしない。そのために、俺達は・・・、マーシャと共に歩くんだからな。」
「ネーペンティ皇子は、エリースタシア帝国にいるはず。
・・・とにかく、今は、会いに行きましょう。ネーペンティに―――。」
「シーナ、ティスターニア・・・、それに、マーシャもだ。―――行くぞ。」
俺達は、こうして故郷を後にすることにした。
セニフやドルカの姿を、最後まで見つけることは出来なかった・・・。
もちろん、飛行艇に既に戻ってるのではとも考えてはいた。
「ザヌレコフ?!一体、何があった!!」
決して荒らされてはいないものの、明らかにザヌレコフは傷を負っていた・・・。
「ヒメさんよ・・・。次の行き先、もう決めてたんなら、悪ぃんだが、
―――こっから真っ直ぐ東に飛んじゃあくれねぇだろうか・・・。」
「真っ直ぐ東・・・。ええ、その方角に行きますわ―――。」
「答えなさいよ!!それに、・・・ディッシュの奴はどこにいるのよ?!
なんで、あんた1人でここに残ってるのよ?!!それに、セニフやドルカは見た?」
「そんな野郎のことも他の奴も、知ったことじゃあねぇが・・・、間違いねぇ、
ありゃあ、ディシューマの殺し屋だ。―――なら、行く先は、同じだろうよ・・・。」
「ディシューマの、殺し屋ですって?!」
「詳しい話は後で聞く。・・・だから、ティスターニア、・・・飛行艇を。」
「セニフやドルカはどうするの・・・?」
「―――いずれにせよ、もう、この地に長く留まる理由はない。」
「分かりましたわ、アーシェル!!」
ティスターニアとシーナは、マーシャを連れて先に奥へと向かった。
「・・・おい、・・・アーシェル。」
「いいから、とにかく、今は、まず、体を休めるんだ。」
「ヒメさんを呼び捨てにすんじゃねぇよ―――。何、仲良くなってんだ、おめぇは・・。」
俺達は、こうして、未だ目覚めぬままのマーシャと共に、新たなる地へと旅立った。
2008/12/05 edited(2008/08/07 written) by yukki-ts To Be Continued.