[stage] 長編小説・書き物系

eine Erinnerung aus fernen Tagen ~遠き日の記憶~

悲劇の少女―第2幕― 第15章

 (49日目 夕方)
 私は、結局、1人で行く事に決めた。
わざわざ2日も待ってたのは、別に、あいつらを待ってたわけじゃない。
あいつらに会ったって、気持ちを変えるつもりなんてなかったし、
なんて言われたって、私の気持ちを変えられるなんて思ってなかった。
 ただ、生きる意味を失ってた私に、生きて欲しいと思ってくれたアーシェルが、
・・・私なんかの代わりに生きるのをやめるところなんか、見たくなかったから。
でも、見ないままで、離れたって、きっと私はあいつのことを考え続ける。
 でも、あいつは、やっぱり、生きてた。どこかで安心してる私がいた。
もう、心配なんかしなくたっていい。あいつらのことを、考えなくたっていい・・・。

―――私は、後悔なんかしてない。

 私は、セーシャルポートを北に抜けて、橋を渡ったわ。
私の記憶に残ってる、あの場所は、この先にあるの。
 私は、ゆっくりと湖畔を歩いてたわ。
夕焼けにそまって、レナ湖がとてもきれいだった。
「変わんないわね、ここも。」
 私は、その懐かしい仕事場の中に入っていった。
「だれかいる・・・?―――私、シーナよ。・・・ねぇ、みんな?!」
 中から返事は返ってこなかったわ・・・。
「・・・いないんなら、鍵くらい閉めればいいのに・・・。」
 私は、この仕事場をなんとなく、ただ歩いてたわ。
いろんなことが、私の頭のなかを駆け巡ってた。
「この、ナイフ・・・。どうしよっか・・・。」
 私は、長く使い古されてるその木のテーブルに、粉々に砕け散った、
ナイフを置いて、ただ、見つめていた。
「・・・・・・。」





「―――ここは・・?・・・どこだ・・。」
 誰かが、そうやって話してた・・・。
「・・・みんな?―――シーナ!?・・・大丈夫なのか?」
 私の名前が呼ばれた。・・・でも、その時、私は、死んだように眠ってたわ。
「おい、みんな、・・・大丈夫かぁ?!」
 その声の呼びかけに、私の周りの何人かが反応したみたいだったわ・・・。
「―――リズノ・・・、お前も生きてたのか・・・。」
「ああ・・・。でも・・・、・・・なんで僕ら・・・、こんな、所に・・・。」
「―――そういえば・・・、なんでだ・・・?」
 私は、まだ目を覚ますことができなかった。でも、周りのみんなは、ゆっくりと、
起き上がって、それから、周りのようすばっかり、うかがってた。
「・・・みんな・・・、よくわからないが・・・、
 ―――とにかく俺の話しを聞いてくれるか?・・・これから町を探そう。
 まず全員が、これから先・・・生活するための場所を見つけないと、ならない・・・。」

「―――でも・・・クダール、いったい・・・ここは・・・?」
 私達がいた場所は、・・・見渡した限り、灰色の地面が
どこまでも、どこまでも続いている場所だったわ・・・。
「行こう・・・、とにかく・・・。」
 私は、リズノに抱きかかえられていた。
 それから、私達は、ただ北の方角に向かって、歩き続けていた。
どこまでも、・・・どこまでも続いている、灰色の大地を、歩き続けてた。
 そこには、まるで人の住んでいる様子がなかったわ・・・。
吹きぬける風は瓦礫になったビルや建物をぼろぼろにして、
かつてあった町の面影は、もう、どこにも残っていなかった・・。
「・・・ここには・・、この町には・・・人は住んでいないのか・・・?」
「人どころか・・・、動く物がなにも見当たらない・・・。」
「何があったんだ・・・?」



 それから、3日間・・・私達は歩き続けてた。
休む事も、食べる事も、何も・・・何もできなかった・・・。
 私は、まだ・・・目を覚ましてなかった。
「クダールさん!!」
 とうとう、限界になって倒れたみたいだった。
「クダール?!」
「すまない・・・、もう、俺は・・・ダメらしい。」
「な、何を言ってるんだよ、クダール?・・しっかりしてくれよ!!」
「お前はなんとしても生き残れ・・・。―――シーナといっしょに・・・。」
「・・・シーナ・・・。」
 それでも、私は、ただ眠り続けていたわ。
「早く行け。シーナの事はお前が一番わかるはずだろう?!行け!!」
「必ず、またここにきます・・・。」
 私達は、ただ歩き続けていたわ。リズノらは、途中で残していった他の奴を、
気にしながら進んでいってた。
 それから、少しずつだったけど、私達は、人の姿を見るようになってた。
でも、それが、私達にとって、うれしいことじゃないことは、すぐにわかった。
 動いていない人は、もう、死んでいる人。
動いている人は、―――生きていくために、犯罪を犯している奴。
 もう、誰も、明日の希望なんて持ってる奴は、そこにはいなかったわ。



 私達は、眠ってた。もう、リズノもみんなも、限界だった。
「親分、・・・テリトリーに侵入してる奴がいますぜ!!」
「死人が10か。ついてるぜ。テメェら、そいつらのもんを根こそぎかっぱらえ!!」
 そうやって、私達に近づいてきた中には、私より年下の子供もいたわ。
「な、なにも持ってねぇ・・・。こいつら、何も持っちゃいませんぜ!!」
「こっちもだ。・・・ちくしょう、なんだよ、こいつら。」
「お、親分!!こ、こいつ、なんかいいもん持ってますぜ!!」
 そいつは、私のそばに近づいていたわ。
「こいつは、金になるぜ。・・・いっただきぃ―――」
 そいつは、急に大声をあげたわ。右手には大やけどを覆ってた。
「―――だ、だれだ?」
「しまった!!気付かれちまった!!」
「逃げろ!!とにかく、逃げれ!!!ちくしょう!!!」
 リズノが、声に気付いて起きたみたいだった。
「あいつら、何しやがった―――、シーナ?!」
 私は、何があったかも知らないみたいに、静かに眠り続けていたわ。
「よかっ・・た・・・無事・・か・・・。」
 リズノはまた、倒れそうになってた。



 周りはやっぱり、ただ灰色一色だったわ。今の騒ぎで誰もいなくなってた。
分厚い灰色の雲のせいで、もう朝になろうとしていたのに、とても暗かった。

 そんな灰色のビルの中に、たった1つ。・・・明かりが灯っているところがあったわ。
中から人の温かみを感じた。そして、何よりも、食べ物の香りがほのかに漂ってきた。
 リズノは、最後の力を振り絞って、私をおんぶして、そこへと歩いていったわ。

「・・・どちら様ですか?」
「・・シーナを・・・シーナを、頼む―――。」
「わ、分かったわ・・・。急いで中に・・・。」






 太陽が真上に上がって、ほんの少しだけど、だんだん明るくなってきた頃に、
私は、ゆっくりと目を覚ましたわ。
「―――ここは・・・?」
「・・・あら、起きたの?・・・おはよう。」
 私が聞いた事のない声―――女の人の声だったわ。
「・・だれ・・?あなたは・・・?」
「私はリサよ。・・・リサ=ゾシュードゥ・・・。よろしくね。」
 私は、周りをゆっくりと見回した。とても明るくて暖かい部屋だったわ。
それに、とてもいいにおいがした・・・。
「わたしは・・・、なにをしてるの?」
「―――ここは孤児院・・・。・・・あなたたちのように
 この『悲劇』に巻き込まれた子供達を、少しでも助けるための・・・
 といっても、私には寝る場所と、食べ物しか与える事が出来ないのだけれど・・・。」





 その時、外から1人の人が入ってきたわ。私はすぐにそれが誰かわかった。
「・・・シーナ・・。起きたのか?」
「―――リズノ?」
 そういった時、歩いていたリズノは急に立ち止まったわ。
「そうか。・・思い出してくれたか・・・。よかった・・・。」
「わ、わたしが、リズノを忘れるわけなんか・・・ない。」
 その時の私には、なんでそんなことをリズノが言ったのか、分からなかった。
「あなたを、リズノさんがここまで運んでくださったのよ。」
「あ、ありがと。・・・リズノ。」
「どうってことはないさ・・・。
 ・・リサさん・・・悪いけど、僕は、ここにはとどまれない・・・。
 ―――仲間がまだ何人か生き残ってる・・・。様子を見てこなければならない・・・。
 食事のお陰でなんとかこうして元気になった・・。感謝してる・・・。」

「・・・みなさんも、ここにお連れしてください・・・。そしてあなたも・・・。」
「・・・その、シーナだけで・・・。これ以上迷惑はかけられないし、
 いつここを離れられるかもわからない・・・。」

「でも・・・、それならどうして?」
「・・・食事だけ・・・、分けてください・・・。
 ・・・金も何も持ってないけど・・・、寝床はどこか適当な所に作ります・・・。
 ―――シーナをよろしくお願いします・・・。」





 リズノが、そう行って出て行こうとした時だったわ。
「リサ・・?・・・このこが、あたらしく入ってきた・・・?」
 奥の部屋から―――そいつは出てきたの。私よりも見た目は年下だった。
でも、そいつは、自分の背よりも長いスピアをもっていたわ・・・。
「呼び捨てはやめなさい!!ディッシュ!!」
「ディッシュなんてよぶなよ、リサ!!・・・ど、どうなんだ?」
「ったく・・もう・・・、そうよ。―――シーナよ。」
「シーナ?・・・そうか、いったい、どんなやつ――― !!!」
「どうしたの?」
「こ、こいつ?!お、女じゃねぇかよ!!」
「いい加減、言葉遣いを直しなさい!!何度教えたと思ってるの?!」
「つまんねぇの。いいや。おーいドミー!!あそびに行くぜ!!」
 そいつは、そう言って、奥に引っ込んでったわ。
「ごめんなさいね。あの子、ちょっとひねくれた性格してるから。
 ・・・私もちょっと困ってるの・・・。気にしないでくださいね・・・。」

「ああ・・・、それじゃ、シーナ・・・。僕はもう行くからな・・・。」
 リズノは孤児院から出ていったわ・・・。




「そうね、まずは、あなたのことを、教えてくれるかしら?」
 私は、そういわれて、とにかく、私の知ってることを全部話したわ。
「わたしのなまえは、シーナ。8さい。・・・それで、えっと・・・。」
 私は、必死に考えた。でも、それ以上、何も思い出せなかった。
「シーナっていい名前ね。誰が、つけてくれたの?」
「・・・だれだろ。」
 名前は覚えてた。年も覚えてた。それに、私をここに連れてきてくれた人、
リズノもやっぱり覚えてた。・・・それでも、他には何も思い出せなかった。
「いいわ、あなたがシーナっていう名前があるだけでも、十分よ。
 ここにいる子供達には、名前も分からなかった子だっていたんだから。」

 リサお姉ちゃんは、立ち上がって明るく私に話しかけてくれた。
「まずは、他の子と仲良くなってもらわなくちゃね。みんなにも紹介しなくちゃ!!」
「・・・わ、わたし、みんなと、なかよくなれるかな?」
 そういった私に、リサお姉ちゃんは、私の顔の位置までかがんでにっこりと笑ったわ。
「いい?いつでも、こんな風ににっこり笑ってごらん。そうしたら、みんなも、
 『ああ、シーナってこんな子なんだぁ』ってすぐに仲良くなれるんだから。
 今のあなたみたいにくらーい顔してちゃ、誰も話しかけてなんかくれないよ。」

「そんな・・。」
「いい?何があっても笑顔。怒ったり泣いたりしたって、仕方がないの。
 でもね、誰かが笑っていれば、それだけで、嬉しくなれるのよ。」





 最初、私はとても緊張してた。知らないところで、知らない人と話してて、
ずっと縮こまってた。でも、お姉ちゃんの優しい声を聞きながら、
だんだん、私は、お姉ちゃんに心を開いてた。
 隣の部屋からは、他の子達の楽しそうな笑い声が聞こえてきたわ。
それから、私は―――ほんの少しだったけど、リサお姉ちゃんににっこりと笑ってた。
「そう、出来るじゃない。あなた、笑顔がとってもかわいいわよ。」
「ほんと?」
「もちろんよ。さぁ、みんなのところに、行く?」
 私は、そう言われて立ち上がったわ。
そんな私の目から、急に一筋の涙が流れてた・・・。
「あれ、なんでだろう・・・なみだがでてきちゃった・・・。」
 顔はお姉ちゃんのおかげで笑ってた。でも、どうしても、涙が止められなくなってた。
「なみだが・・・とまらないよぉ・・・。」
 お姉ちゃんは、私をやさしく抱きしめてくれた・・・。
「・・・仕方がないわね。・・・今だけ、だからね。
 涙が止まったら、もう、泣いちゃあダメ。
 いつも、笑顔でいなくちゃ・・・ダメだからね。」

 私は、きっと、その時、初めてこんな気持ちになったんだと思う。
どうして、涙が出てくるのか。こんなに嬉しいのに、なんで涙が出てくるのか
分からなかった。私は、お姉ちゃんに抱きしめられたまま、ずっと、泣いていた。






 その日から、私はその孤児院で暮らすようになったわ。
お姉ちゃんの言った通りにしたら、すぐにみんなとも仲良くなれた。
 そんなみんなの中で、それからいつまでたっても、1人だけ、
どうしても、仲良くなれない奴がいたわ・・・。






「待ちなさい!!シーナ、ディッシュ!!」
「ディッシュ、あんた・・・私をなぐったわね!!
 ・・・あんた、もう絶対斬ってやる!!」

「・・・へん、できるもんなら、やってみやがれ!!
 おまえのナイフ、このまえ、リサに取り上げられてんだろうが?!」

「うるさいわね。あんたこそ、スピア取られたんでしょうよ!!」
「へへへ、甘いぜ。」
 ディッシュは、突然、さびた鉄パイプの先にとんがった枝を付けた
変な武器を取り出したわ。
「俺のかちだぜ。・・・武器もないのに、ムリだもんなぁ。」

「あんた、せっかく私が、―――包丁一本でかんべんしてあげようと思ってたのに。」

「え?い、いつの間に?!あんなに、見ていたはずなのに!!」
「ディッシュ!!バカにすんじゃないわよ!!」
 私は、包丁でディッシュに切りかかったわ!!
「甘いぜ・・・俺にかてるなんて、思ってるなんてよ。」
 ディッシュは鉄パイプで、包丁をすばやく払いのけたわ。
「私の方がねぇ、年上なのよ!!・・・あんた、それわかってんの?!」
 私は、包丁を鋭くつきつけてやったわ。
ディッシュは、それを寸前のところで、避けた。
「お、おまえなんか、女だろ?!・・・俺のなぁオヤジは、
 ・・・とってもえらい人なんだからな!!おまえやリサより、ずっとずっとだぜ!!」

 ディッシュの突きつけてきた鉄パイプを、私はなんとかかわした。
「へーんだ。自分が弱いからって、すぐオヤジとか持ってこないでよね。
 やだやだ、はずかしいわね。」

「オヤジをバカにすんのか?!」
「うるさいわよ!!あんたみたいに弱いのが子どもだなんて、
 ディッシュのえらーいオヤジさんもかわいそーね!!」

「じゃあ、今から俺がつよいってとこ、見せようじゃねぇか!!」
「かかってきなさいよ!!」



 包丁と鉄パイプがぶつかって、すごい音を上げたわ。
それから、しばらく押し合ってたけど、あきらめて、同時に後ろに下がった。
「けっ、包丁一本じゃ、いつものちょうしが出ないかよ?」
「あんたこそ、そんなおもちゃじゃ、力がはいらないんじゃないの?!」
「うるせぇ!!ぶっとばしてやらぁ!!」
 私は、ディッシュの上の方を指差した。
「あ、あんたの、うしろ。カレーライスが飛んでる・・・。」
「な、ど、どこだよ?!」
「すきあり。」
 私は、包丁をディッシュの目の前で寸止めしてやった。
「バカね、あんた・・ホントに。カレーライスが飛んでるわけがないじゃない。」
「・・なんだよ。こ、こうでもしねぇとよ。お、おまえが、バカなことして、
 わ、笑いものになっちまうだろ?だれも、ひっかかりゃしないって。
 せ、せせ、せっかく、わざわざひっかかってやったのによ。
 あぁぁ、そんなこともわかんないのかねぇ、この人はよ!!」

「バ、バカにしてんじゃないわよ!!結局は、だまされたほうがバカなのよ!!」
「なんだよ、やんのか?!」
「やってんじゃないのよ!!このままあんたの頭、ぶった斬ってあげようか!!」
「いい加減、やめなさい!!2人とも!!!」
 リサお姉ちゃんが横から止めてきたわ。
「止めんな!!リサ!!・・・こいつだけは、絶対ゆるさねぇ!!」
「リサお姉ちゃん、止めないで・・・。こいつから、
 『ごめんなさい。シーナ様』って言わさないと気がすまないわ!!」

「・・・やめないか!!シーナ!!」
 リズノが話しかけてきたわ!!
「なによ、女の私に勝てないくせに。弱い奴は嫌いなのよ!!どっかいって!!」
「なっ・・・お、お前・・・、まったく・・・。」

 私は、この時にはまだ知らなかった。どれだけ、このリズノって人が、
すごい人だったのか。だけど、ただ知らなかっただけじゃないのかもしれない。
その時には思いもしなかったけど、―――忘れていただけだったのかもしれない。



 そんな時に、とうとう、恐ろしく低い声が部屋の中に響いたわ・・・。

「・・あんたたち、・・・そんなに、お仕置きされたいの・・・?」

 私もディッシュもその声で凍りついたわ。気のせいかもしれないけど、
たしか、その時、リズノもビビってたわ。
「・・・わ、わるかったよ・・・、リサ・・・さん。
 だ、だからさ・・・お、オシオキだけは、かんべんしてくれよ・・。」

「リサお姉さま!!・・・お願い、許して!!」
「―――仕方が、ないわね・・・。」
「ほ、ホントか?・・・リサ!!」
「今日一日・・・あんたらは―――」

「シーナ、どうしたんだ?その格好・・・。」
 私達は、お姉ちゃんに、ほとんど無理矢理、白い羽衣を着せられていた・・・。
「なんだよ、これじゃ、動けないじゃねぇかよ・・。」
「何よ、・・・あんたのせいでしょ・・・。もう、何回これ着れば、
 いいって思ってんのよ。・・・なんでもいいわ、はやくあやまって!!」

「やだね・・・ぜってぇ、それだきゃあ、やだね!!」
「はぁ、あきれたわ。・・あんた達!!・・行くわよ。」
 私とそのディッシュって奴は、よくあの場所に連れてかれたわ。
思い出すだけでも、あの場所だけは、背筋が凍るわ・・・。



 他にも孤児院にはいろんな知り合いがいたと思うわ。だけど、覚えてるのは、
ほとんど、ディッシュとのこぜりあいばっかり・・・。
 そんなことばっかりしてた毎日をずっと続けてた。
 あれは、孤児院に来て、2年半くらいのことだったわ。
そんなディッシュが、たまに、孤児院をよく抜けてたことがあったの。
「シーナ?・・・ディッシュ、あの子、どこにいったかわかる?」
「なんで、私が、ディッシュなんかのこと知らないといけないの?」
「いっつも一緒じゃない・・・。あなたたちホントに仲がいいものね。」
「じょ、冗談じゃないわ!!あんな奴、私は・・・。」
「今度ね、・・・あの子が出て行ったら、追いかけようかなって思ってるの。」
「え?・・・リ、リサお姉ちゃんが?」
「私は、心配なのよ。・・・あの子が。」
「大丈夫よ。あのバカが大ケガして帰ってくるなんて、いつものことじゃない!!」
「リサ・・・腹へった・・・今日のメシは?!」
「ほら、大丈夫じゃない。」
「心配しすぎ・・・なのかしらね。」
 でも、それから先も、しょっちゅう、ディッシュはこそこそと出て行ってた。

 それからしばらくのことだったわ。あのディッシュが、
この孤児院を、出て行ったのは・・・。






「リズノ・・・、いるか・・?」
「クダール・・・み、みんな!!」
 そんなある日、あいつらは、孤児院にやってきたの・・・。
「・・・シーナは、いるのか・・?」
「ああ、中にいるが・・・、どうしたんだ・・・急に・・・。」
「あ、はじめまして・・・、リズノさんのお知り合いの方ですか?」
「・・・あ、まぁ、そうだけど・・。」
「どうぞ、中に入ってください。」
 私が、孤児院に来てから、もう3年になろうとしてたわ。
 この頃には、ずっと灰色一色だったここも、だんだん復興してきてた。
でも、相変わらず、盗みをするような連中も多くて、
そいつらが、廃墟とかに住み着いて出来たスラムとかが、たくさんあった。
「悪いが、その必要はない・・・。」
「クダール、・・・今日は何をしに?」
「だれ?・・・あ、み、みんな?!」



 私は、その人らには初めて会ったはずだった。
でも、どういうわけか、頭の中に、その一人一人の顔が記憶されてた・・・。
「あの、小さかったシーナが、・・・こんなべっぴんさんになってるとはなぁ・・。」
「な、俺の言った通りだったろう?それをおまえらは・・・」
「こんなことなら、リズノ1人に任すんじゃなかったぜ。」
「何、あんたらぐだぐだ言ってんのよ?何か、用があって来たんじゃないわけ?!」
「・・・シーナって、こんな娘だったっけ?もっと物静かな娘だと思ってたんだが。」
「ああ、いつのまにか、こんな風になってた・・・。」
「どういう意味よ?それ!!あんたたちも!!斬るわよ!!」
「わ、わかったわかった。勘弁してくれや・・。」
「まぁともかくだ、・・・ええと―――」
「リサです。」
「そうか、リサさんか。・・・今までの事、ホントに感謝してます。
 こいつらや、リズノ、シーナの分まで、この俺、クダールから言わさせてもらう・・・
 どうも、今まですんませんでした・・・。」

「・・・クダール、話を、聞かせてくれるか?・・・何かを決心したんだろ?」
「ああ、・・・そうだ。」
 クダールは、一呼吸置いてから話し始めたわ・・・。
「この3年・・・いろんなもんが、変わっちまった。
 あんな状態だったってのに、いつのまにか、ここまで戻っちまってた。
 やっぱり、すげぇって思ってた。
 ―――変わってねぇのは、俺らだけだ・・・。ムダに年取っただけよ―――。」

「・・・。」



「・・・もっと世界を見てみたいんだ・・・。
 ・・・俺達は今まで小さな視野でしか世の中を見てなかった・・・。
 それで、何もかも自分で出来る思ってた、
 だけどよ、・・・人の助けがなきゃ俺達、生きてこれなかった・・・。
 こんどは、俺達がなにかしなくちゃならねぇ、・・いや、
 これ以上助けになっていたりしたら、俺達は変われない・・・。
 ―――そう思ったんだ・・・。」

 私は、しばらく黙ってたわ。でも、考えても答えは決まってた。
「世界が見てみたい・・・?それって、どういうことよ?
 ・・・私はいやよ。―――なんで、孤児院のみんなと別れなくちゃならないのよ?」

「シーナ・・・。」
「だいたい、私が・・・あんたたちと一緒にいる理由なんて、
 何もないじゃない!!・・・あんたたちが、私に何をしたってのよ?!」

「シーナ!!」

 突然、リズノが私の前に立ちふさがったわ。
何をするのかと思った時、リズノの奴は急に私のほおを平手打ちしてきた!!

「なによ・・・。」
「リズノ?!何もそこまで―――」
「おまえは、もう、何もわからない、子供じゃないんだ。」
「・・・あんた、私に・・・なんてこと、すんのよ!!」
 私は、リズノに2本のブロンズナイフを突き出していた。
「シーナ・・・おまえは―――」
「私が何をしようといいじゃない!!押し付けられるなんて、ゴメンだからね!!」
「お前は、戦わなくてはならない者だ・・・。誰も変える事はできない。」
「何と?・・・あんたたちと?!」
「僕に向けている、そのナイフが、全てを知っている・・・。」
「答えてよ!!・・・一体、何が言いたいのよ?
 ・・・私って、一体、何者なのよ?あんたは、・・・リズノは知ってるっていうの?!
 何なのよ?・・・思い出せない。何も、何も分からないよ!!」




「・・・僕達がこれまで生きてきた理由。―――お前だ。」
「私の・・・ため?―――何言ってるのよ?私には、全く、覚えなんかないわよ!!」

「―――ならば、僕を・・・刺せ。」

「おい、リズノ?・・・お前。」
「クダール。・・・いいから、見ていてくれ。」
「いいわよ。―――さっきのお返しよ。覚悟しなさいよ!!」
「シーナ!!やめなさい!!なんてことをするつもりなの?!」
「お姉ちゃんは黙って!!私は、ここを離れるなんて絶対、・・・嫌よ!!!」
 私は、リズノの方に一歩踏み込んだ・・・。

 その瞬間だったわ。急に背筋に冷たい風がふきこんだみたいだった。
リズノの顔が見れなくなってた。・・・怖くて怖くて、たまらなかった・・・。
 私は、ナイフを地面に落としていたわ・・・。

「このナイフは・・・お前が持たなきゃならない。
 お前が失ったモノ―――血に汚れた過去を・・・、
 全てを見てきた、このナイフを・・・。」

「私に、そんな・・・過去なんて―――。」
「そのナイフは、・・・僕の背負うべき、そして、お前の生きる理由を教えてくれた。
 ・・・ナイフが、砕け散る時―――、もはや、そのナイフの役目は、その時終わる。
 その時・・・、お前は、お前自身の生きる理由を・・・見つけなけりゃあならない。
 お前自身の力だけでだ・・・。僕は手伝えない・・・誰にも代わりは出来ない。」

「私の・・・生きる理由・・・。」
「それが、僕達に科せられた・・・運命―――。」

 私の持ってるナイフに、そんなことがあったなんて、今まで全然知らなかった・・・。
「リズノは、ああ言っている。・・・俺達に、今、生きる目的なんてもんはねぇんだ。
 みんな、みんな、壊れちまったんだ・・・。
 最後に、守れるもん・・・。お前くらいしか、俺達にはない。
 ―――もう、お前は大人なんだな。俺達の知ってる、シーナとは、
 変わっちまってる。そりゃ、そうだろうなぁ・・・。3年も経ったんだからよ。
 ・・・いいんだぜ、・・・どうしてもダメってんなら、それでもよ。
 俺達にはもうお前に関わってやれる事なんか、残ってないのかもしれないしよ。」


「・・・なんで、生きる事に・・・理由なんて必要なのよ?
 いいじゃない!!普通に、生きていけば!!!それで、何がいけないのよ?!」







「ナイフを持て。・・・お前の持たなくてはならない物なんだ。」
 私は、黙って、ブロンズナイフを拾い上げたわ・・・。
「・・・リズノは、どうして、そんなことを、・・・知ってるの?」
「―――お前自身で・・・気付いてくれ。僕には、そうとしか言えない。
 僕に科せられた運命は・・・お前が、そのことに気付いてくれない限り―――。」

 リズノはそこまで言って、急に黙り込んだわ。

「ここにいても、いいのよ。」
 リサお姉ちゃんが、静かに私にそう言ってくれた。
「あなたは、ここでも年上だし、みんなの面倒見だっていいから。
 ―――でもね、あなた、いやがってたじゃない・・・。
 グロシェに行く事を。・・・あなたと、ディッシュくらいなのよ。」

「ディッシュの奴・・・、あいつは、なんで、ここ、やめてったの?
 私、・・・結局、あいつが出てくとこ、見てないのよ・・・。」

「あなたと同じよ。―――グロシェに行くのが、嫌になった。
 そして、―――やらなくちゃならないことがあった・・・。」


「・・・ふん。」

 私は、ゆっくりと歩き始めたわ。
「お、おい、・・・シーナ?ど、どこに?」
「行くんでしょ?・・・おいてくわよ。」
「シーナ・・・お前。」
「何よ!!・・・悪いけどね、私・・・。
 これ以上、ここに留まってるなんて、ごめんよ!!
 ―――リサお姉ちゃん・・・。私、・・・この人達と行くわ。」

 私は、リサお姉ちゃんの方も振り返らずに、明るい大きな声でそういったわ。
「・・・いいわよ。・・・また、いつでも、ここに来て・・・。」
「出来れば・・・もう来たくない・・・」
「何か今言った?」
「なんてね!!だから、もう私・・・行くよ!!」
 私は、もう絶対に振り向かないって決めた。もう、私はこらえきれなかった・・・。
「いい、忘れないのよ!!!怒ったり、泣いたりしたって、何も解決なんかしないの。
 いつでも、にこにこ笑ってるのよ!!―――そうすれば、強くなれるから。」

 私は、そう言われて、もう絶対に、振り向けなくなってた。
笑顔になろうと、どんなにがんばっても、・・・涙が止まらなくなってた。
「あなたのおかげで・・・シーナは、とても強くなった。
 本当に・・・感謝してる。―――あいつを連れ出す勝手を、許してください。」

「いいの。・・・あの子が、結局、自分で決めたんだから。
 さぁ、行ってあげてください。・・・あの子は、1人になることを怖がってるから。」




 私達は、それから港の方に向かって行ったわ。
「もう、ここを離れよう。この海の向こうの、新しい大陸へ・・・。」
「シーナ・・・いいんだよな?」
「何度も聞かないで。・・・私だって、ホントの事を知らなきゃなんないんだから。」
 荒れ狂ってる海の中を船は進んでったわ。だんだんと、離れていく
今まで私がいた大陸を、いつまでも、見ていた。
 太陽が昇ってきた頃に、私達は、ロッジディーノのセーシャルポートに着いたわ。
「ここも・・・寂れてるな。」
「もっと、明るいとこだと、聞いてたんだがなぁ・・・。どうしちまったんだ?」

 街からしばらく歩いて、湖のそばに来たとき、リズノが急に立ち止まったわ。
「どうした?」
「・・何か、・・・聞こえないか?」
「―――なにも。」
「ちょっと・・、―――あれ!!」
 私は、湖を指差したわ。その湖にいる、何かを見つけて・・・。
「湖・・・?」
「来た。」
「リズノ、何が・・・?」
 突然、穏やかだった湖面がゆらいで、渦潮がうねりを上げたわ。
今まで、見た事もないような、とても大きな生き物が姿を現したわ!!
「な、なんだ?!こいつ!!」
「行くわよ!!」
 私は、2本のブロンズナイフを構えて、走り出してた!!
「僕は・・・追いかける。」



 空には分厚い雲がたちこめてて、時々、すごい雷がなってた・・・。
「これは・・・。」
「ちょ、ちょっと?!何しに来たのよ、リズノ!!」
「―――ラミアか・・・まさか、実在したなんて。」
 ラミアっていうそのとてつもなく大きい奴は、ゆっくりこっちの方を向いてきたわ。
「ラミア?いったい、どんな奴なのよ?!」
 私はそう言ってリズノに振り返った。
その時、私は、リズノがずっと目をつむっていることに気付いたわ。
 背後から音がしたわ。ラミアが急に私達の方に、突っ込んできた!!
「く、来るわ!!・・・リズノ!!いつまで、目をつむってるつもりよ!!」
 私は、よけようとした。でも、リズノはラミアの方にまっすぐ歩いていったわ。
「なんでよ?!どうして、目を開けないのよ?!」
 ラミアの攻撃がヒットする直前、ラミアの顔面でものすごい爆発が起こったわ!!
リズノは、そのタイミングをカンペキに分かっていた・・・。
「ラミアは・・・この地に住む守護神。―――ラミアは、今、怒り狂っている。
 ・・・それを沈める役は、―――シーナ、お前じゃない。」

「アンタは?!・・・どうするって言うのよ!!」

「僕の目は・・・もう、完全に役に立たなくなっちまった。
 もう、美しい風景も、大人になってくシーナも・・・見れなくなっちまったんだな。」


 そういって、リズノはラミアの方に走ってったわ!!
追いかけようとした私を、うしろからクダールたちが止めたわ・・・。
「シーナ、奴の・・目はな。3年前にはもう・・・ダメだったのよ。
 奴は、この3年間、ずっと、血を吐くような鍛錬で、音と気配だけで、
 相手の位置がわかる能力を高め続けていやがったんだ・・・。
 俺達がずっとそんな、奴を手助けしてたんだ。全く力は及ばねぇけどよ。
 ・・・なんで、奴が、ここまでしたのか?お前に分かるか?
 ―――奴はいつもこう言ってたんだ。『戦いなどに、目は必要じゃない。
 この目は、―――シーナが幸せに生きてるとこを見るためだけに使うんだ。』って。
 あいつは、・・・そういう奴なんだ。」

 私は、そこまで聞いて、すぐに肩を持ってるクダールの手を振り払ったわ!!
ナイフを思いっきり握って、ラミアの方に走っていったわ!!
「リズノ!!・・・あんたにはもう、どんな光も届かないかもしんない!!
 でもね。・・・もし、もし私が、出来るのなら、―――リズノ・・・あんたに!!
 ・・・あんたに見せてあげる!!・・・私が、あんたの目に届く強い光を!!
 このナイフが、血塗られたナイフでも、私は、光り輝かせてみせるわ!!!
 ―――バーニング・・・スラッシュ!!!!」







 (49日目 夜)
「シーナか・・・?」
 下の階から私の名前が呼ばれたわ。
「・・・誰?・・だれよ、私を呼ぶのは?」
「何言ってんだよ?・・お前。―――ずいぶん久しぶりだな・・。」
 私の目の前にいる奴は、私の記憶の中にいた・・・。
「クダール・・・。」
「・・・ここに、戻ってきたんだな。・・・5年ぶりか。」
「あんたは、全然、変わってないみたいね。」
「声で分からなかったくせに、よく言うぜ・・・。」
「他の連中、どうしてんの?」
「仕事仕事。・・・昼も夜も関係ねぇからな。結構、大変なんだぜ。」
「・・・リズノの奴、・・・まだいるんでしょ?」
 クダールは、ゆっくり首を横に振ってたわ・・・。
「いいや、奴は、もう、ここにはいない。」
 私は、そう聞いて戸惑ってた。そんなはずないって思ってたから・・・
「・・・ど、どこに行ったのよ?いつ、帰って来るのよ?!」
「・・ま、まぁ・・・せっかく来たんだ・・・。ゆっくりしていけ・・・。」
「待って・・、答えないつもり!?」
 私は、クダールを追いかけて階下へと降りていった・・・。



 階段の一番下の出口でクダールは私の方に振り返っていたわ。
「・・・なんで戻ってきたんだ・・・?・・・理由があるんだろ・・・。」
 そういわれて、しばらく私はうつむいてた・・・。
「ったく、なんでもいいから話してみろよ。相談にのってやっから・・・。」
 私は、粉々になったブロンズナイフを、机の上においたわ。
「―――こいつの役目・・ってのが、・・・終わったのか。」
 私は、ずっと黙ってた。
「お前、孤児院の事、覚えているか?」
 ちょっと考えて、私はこう答えた。
「それより前の記憶はないけどね・・・。」
「・・・やっぱり、まだ思い出せないか・・・。」
 私達は、しばらく黙りこんでたわ。



「・・・こう思い出してみると、いろいろあったんだよなぁ。
 こっちに来たときにだって、ごたごたがあったしよ。」

「湖からとんでもない怪物がでてきたときの話?」
「おお、それだそれ!!まぁ、忘れろっつう方が無理な話だよな。」
 初めて、リズノの目にはもう光が届かないことを知った時を忘れるわけなんてない。
「あのあと、町の人間が戻ってきたんだよな・・。
 あの怪物―――守護神って奴を傷つけちまったってのに、街の人らは
 何を誤解したのか、俺達をこんなところに住まわせた・・・。
 ・・・それで、その後・・・ずっとこんなところにいつづけてるんだがな・・。」

「5年前、私は約束してここを出てったわよね・・・。」
「・・・ああ。リズノの言っていた、『この世で生きていく理由』を見つける・・。」
「―――難しい問題だったわ・・・。私がスフィーガルへ旅立って、
 いろんな人と出会ったけど、・・・今でもまだわからないわ・・・。
 ・・・ホントは、分かってから戻りたかったの。―――だから、もう、私、行くわ。」

「行くわ・・・ってどこに?今来たばかりじゃないか?」
「もう一度、探しに行くの。今度は・・もっと別の場所・・・。
 でも、できれば、リズノの奴に逢いたい・・・。仲間だった奴が、言ってたから。」

「仲間?」
「・・・マーシャって奴だったけど、・・・もうディシューマに行っちゃったわ。
 でも、もう、ディシューマに追いかけていくつもりもないし・・・。」

 そんな時だったわ。クダールは突然笑い始めたのよ!!



「・・・なんてこった、・・・こうも偶然がおこるとはな・・・。」
「な、何よ?!人が過去を捨ててこれからガンバロウって時に!!」
「リズノの奴はなぁ、今、ディシューマにいるんだ。」
「なんですって?!!」
「今なら間に合うんじゃないのか?リズノのとこに行きたかったんだろ?
 そんなら、追いかけてでも・・・仲間のとこに、行ってやれ。」

「い、今さら―――」
「生きてく理由を探す?!・・・デケぇこと考えるときゃあよ、
 細かいこと気にしてんじゃねぇよ!!お前にとって大切な野郎を
 追いかけるためだろ?それが、生きてく理由に及ばねぇって言うのか?」

「・・・リズノを、追いかける・・・。そっか・・・。」
「あいつはなぁ、・・・俺らとは、違う生き方を、・・・背負わされちまったんだよ。」
 クダールは、机の鍵をあけて、奥からシルバーナイフ2本を取り出したわ。
「それは・・・?」
「お前、ここに何しに戻ったんだ?・・・いいから、こいつは、お前が持ってけ。
 もう、・・・砕けちまったんだろ?!」

「くれるの?」
「この際だ、ホントの事教えてやらぁ。お前、孤児院より前の記憶が
 ねぇって言ってたな。・・・お前だけじゃ、ネェんだよ。この俺、それに、
 ここの仕事場にいる奴―――全員がなんで、あんなとこにいたのか、
 これっぽっちも、覚えてねぇんだ。」

「そんなこと・・・今まで、一度も言ったことなかったじゃない!!」
「・・・このナイフは、お前の先祖の力が吹き込まれてるってナイフらしいんだ。
 俺らとリズノ、長いこと一緒にやってきてた・・・。
 なのに、奴は、俺達の誰も知らねぇ、そんなナイフのことを知ってた。
 もちろん、その砕けちまったナイフのこともよ・・・。
 ―――奴が、ここを出てくって言った時よ・・・。俺は、こう思ったのよ。
 リズノの野郎―――たった1人だけ、
 俺達に何があったか、覚えてんじゃねぇのかって。
「もし、もしそうなら・・・あいつが、私に言ってたことは―――。」
「俺達―――いや、お前がなくした過去ってのを、見つけさせようって
 思ってるのかもな。・・・そうさせるのが、あいつの生きてる理由だから。」




 そこまで話して、私は、吹き出してた。
「はは、クダールにしちゃあ、よく出来た話じゃないのよ。
 よく、そんなこと、考えたわね・・・。」

「お、おい、笑うこたぁねぇだろう。・・・そりゃ、俺だけがそう考えてんだけどよ。」
「いいの。知ってたって知ってなかったって。私は、ただあいつに会いたい、
 そんだけなんだから。―――ナイフ、ありがとね。」

「そうだそうだ。・・・やっぱ、お前は、笑っててくれねぇとな。」
「誰も、クダールに笑ってんじゃないのよ。勝手に喜んでんじゃないわよ!!」
「―――クダールさん?!・・・どこにいるんですかーい?!」
「おう、奴らが帰ってきた!!・・・久しぶりに、奴らにも顔見せてやれよ。」
「・・・まぁ、1日くらい、ゆっくりしてこっか!!」
 久しぶりに、昔のみんなと一緒にいろんなことを話したりして、
結局、私達は、だいぶ遅くまで盛り上がってたわ。






 (50日目 朝)
 まぶしい朝日が窓から中に入ってきてた。
私は、ベッドに寝てた。正直、いつ寝たか、記憶にもなかった。
 もう、他のみんなは仕事に出てたらしくて、誰もいなかったわ。
「なによ、・・・もう、だれもいないわけ?」
 私は、身支度をすませて、仕事場を出る事にした。
外にでて、誰もいなかったけど、私は仕事場の方に向かって、
すこし頭をさげてから、仕事場を離れたわ・・・。



 太陽がだいぶ高く昇ってきたころに、私はセーシャルポートに戻ったわ。
あの騒ぎがまるでウソみたいに、普段どおりのにぎやかな街に戻ってた。
「ディシューマか。・・・これから、あいつらのいるとこに戻るなんて・・・。
 ―――なんて顔すれば、いいのよ・・・。」

 買い物をしてる人とか、のんきに観光に来てる人とかもいた。
でも、そんな中に、私は、4,5人で動いてる奴等がいることにも気付いてた。
「ちくしょう・・・だから、あん時、アサラさんについてけばよかったんだろうが?」
「うるせぇ・・・。あぁは言ったって、見捨てていくわけにゃいかねぇんだよ!!」
「兄貴のそういう、中途半端なとこ、よくねぇっすよ。」
「結局、他の奴、みんな見失っちまっちまったし・・・。」
「ちょ、ちょっと黙って。―――聞こえた!!」
「な、何?!ホントか!!」
 大声あげてるのに気付いてないのか、どうなのかわかんないけど、
どう見ても怪しい格好のそいつらは、狭い路地の中に入ってった。
「―――アサラ?・・・どっかで、聞いた名前・・・なんだケド。誰だっけ?」



「・・・な、ディシューマ?!・・・そんな遠くまで―――?」
「もう、アサラさんについて行った奴らは、ディシューマにいるって・・・。」
「でも、急にディシューマなんかに全員集めて、何するってんだ?」
「―――どうなんだよ?」
「ちょっと黙ってて!!今、聞いてみるから。」
「ったく、中途半端なリーダーと、自分じゃなんにもしねぇ、他人に頼ってばっかの
 情報収集役に・・・、こんな奴等といっしょで、俺、いいのかよ。」

「うるさいって言ってんじゃないのよ!!」
「めずらしく、アサラさんについていくって決めた兄貴に、ザヌレコフさんを
 待たないのかなんていった方がいけねぇんじゃないっすか?」

「そうそう、そうやってザヌレコフさんを待って、ディシューマの方まで、
 まだ、半分くらい集まってないって言ってる。」

「・・・だけど、ザヌレコフさん・・・今、どうされて―――」
「私が、ぶった斬ってやったわよ。」



「だ、誰だ?!」
「あ、そうだ。あと、ザヌレコフなら、どっかに逃げてったわよ。」
「そんなバカな?!」
「今回の騒ぎのせいで、まだ伝わってないらしいわね。まぁ、別にいいんだけど。
 そんなことよりも、今、思い出したわ。アサラって奴・・・ザヌレコフの
 手下だったわね、そういえば・・・。―――ディシューマで、何しようってんの?」

「・・・それを知られないように、この騒ぎの中、ザヌレコフ盗賊団が
 ディシューマに集合したんだ。・・・教えられるかよ!!」

「あんたたちになら聞き出せそうだけど、まぁ、いいわ。
 あんたたちがザヌレコフ盗賊団の一味だってんなら・・・やることは1つ。
 ―――ぶった斬ってやるまでよ!!」

「ちょ、ちょっと待て。待てったら待て!!」
「な、何よ?まだ、何かいい足りないことでもあんの?」
「・・・に、逃げるぞ!!」
「向こうはナイフ持って追いかけてくんだぞ?!殺らねぇでいいのか?」
「そ、それなら・・・ど、どうする!!」
「もう、兄貴がそう決めたんすから、横から迷わすようなこと言わないでくださいよ。」
「いいから、逃げるのよ!!!」
「逃がすとでも思ってんの?!」



 そいつらは、まっすぐ港の方まで走って逃げてったわ。
「おらおらぁ、邪魔だ!!ザヌレコフ盗賊団のお通りよぉ!!」
「目立ったってしょうがねぇだろ?!いらんことをいうんじゃねぇや!!」
「そ、そうか・・・、じゃ、やめよう。」
「だから、中途半端はやめろって!!」
「いい加減に、観念することね!!あんたらもここまでよ!!」
「1人で、この人数に勝てるかよ?!」
「そ、そうよ!!」
「・・・やってやろうじゃないのよ!!私1人でだって―――」
「フラッシュ・・・リング!!」
 どこかで見た事ある魔法だった。私は、その声の方を振り返ったわ。



「・・・シーナ、戻ってきてくれたんだな。」
「あ、・・・あんたたち―――。」
 アーシェルとマーシャが、そこにいたわ。5人は道の真ん中でのびてた・・・。
「い、いらないことしてくれるんじゃないわよ!!」
「そうか?俺には、ピンチに見えたけどな・・・。」
「どこが?!どこをどうみたら、これがピンチなのよ?!」
「シーナさん・・・。新しいナイフですね・・・。」
「そ、そうよ。・・・何よ、ナイフが・・・壊れちゃったから、買ってたのよ。
 ・・・な、何よ!!ウソなんかじゃないわ!!
 そうよ!!それで、切れ味を・・せっかく試そうとしたら、
 マーシャ、あんたが邪魔したんじゃない!!
 って、そういうあんたたちこそ、なんでまだこんなとこにいんのよ?
 ・・・あんたたちこそ、なんか忘れ物でもあったの?」

「ああ・・・。」
「へぇ、そうなんだ。アーシェルらしいわ。・・・で、何を忘れたっての?」

「―――大事な仲間・・・を、1人な・・・。」

「・・・あんた・・・。」
「お帰りなさい、シーナさん・・・。」
「何も・・ま、待ってなくたって良かったのに・・・。
 ・・・ちょ、ちょうど・・・私にも、ディシューマにいく理由が・・・、
 出来たから・・・、そ、その、それで・・・あ、あの―――。」

「・・・どうせ、船賃がなかったんだろ?心配しなくてもいい。金ならあるからな。」

「な、なにを?!」
「くすっ・・・。」
「マーシャ!!あんた・・・今、笑ったわね!!」
「きゃあ!!」
「待ちなさいよ!!さっきの分のお返しも入れて、ぶった斬ってやるわ!!」
 私達は、こんな感じで、また3人でディシューマに旅立った。


2003/10/31 edited by yukki-ts To Be Continued.